仙舟は羅浮、持明族の聖地である鱗淵境にて。
空の色はオレンジで変わりないが、システム時間的には夜、深夜帯の話だった。
仙舟の将軍、景元は、護衛の彦卿をつけず、一人でそこまで訪れた。
景元が護衛の彦卿をつけず、一人で鱗淵境まで来た理由、それは――。
開いた蓮の上にある人物が座っているのを見て、更には『その姿』でいるのを見て、溜息を一つ吐いて、そこへ駆けつけた。
「おお。本当にその姿でいたのか、丹恒殿――じゃない、丹楓殿?」
「……、例のブツ、持ってきてくれたか」
ん。蓮の上に座っている男――飲月の姿でありながら、それは丹恒ではなく、前世の丹楓が表に出て、景元に向けて手を差し出してきたのである。
景元はその丹楓に呆れた調子で言った。
「まったく。仙舟の人間達が寝静まった夜中に将軍の私に向けて『鱗淵境まで幻の百年物の酒持ってこい』と、使い出せるなんざ、丹楓殿くらいですよ」
景元は丹楓の仕業に呆れながらも、彼に、言われた通りの酒を持ってきたと、酒が入った瓢箪(ひょうたん)を手渡した。
「おお、これだこれ。仙舟でも幻の百年物。やはり、お前が持っていたか、景元」
丹楓は嬉しそうに、景元からその酒が入った瓢箪を受け取り、頬ずりする。
景元は辺りの鱗淵境の神秘的な風景を見回し、丹楓に狙いを定めて言った。
「あなたが丹恒殿を押しのけて表に出られたのは、この聖地――鱗淵境の力、ですか」
「否定せん。この鱗淵境でなければ、叶わなかった話ではある」
言って丹楓は、景元から受け取った瓢箪の栓を抜き、白いお猪口に注ぎ、一口。
「クク、余が浴びるほどに飲んでいた百年物の幻の酒の味は、今も変わらんか」
「その百年物の酒は、仙舟の宝ですからね。いつの時代でもその酒は仙舟でも限られた人間しか手に入らない高級品だったと思いましたが、あなたはそれを、浴びるように飲んでたんですか……」
「ふん。龍尊として仙舟を守ってきたんだ、それくらい、いいじゃないか。それに、この酒なら、この女も喜ぶだろう」
「この女……、ああ、丹鼎司でレギオンの毒で倒れたと聞いた時は私でも焦りましたが、丹恒殿は、嬢と上手くいったんですね」
景元はその丹楓を見た後、彼の足元――同じく蓮の上で、ドレスを脱いで素肌の上に丹恒のコートをかぶって寝ているを見詰め、丹恒との話し合いが上手くいった結果がこれかと思い、微笑む。
同時に。
「丹楓殿は、丹恒殿の後ですか」
「うるさい。この女、龍尊の余が誘っているのに、こんな光栄な話はないというのに、あいつの後じゃないと駄目、余はあいつの二番手、と、抜かしおった」
「ははは。それは当然でしょう。嬢は私相手でもそういう、ハッキリしたとこが、気持ちいい。それで、丹恒殿がカンパニーに睨まれても嬢を手放したくないのが分かりますよ」
「ふん。そこまでの女じゃなければ、あいつだけじゃなく、余の相手も務まらん」
言って丹楓は、目を細め、のおろした髪に自分の手を絡ませる。
景元はその丹楓を意外そうに見詰め、少し遠慮がちに聞いた。
「……、肝心の丹恒殿はこれからの事、了解しているのですか?」
「知らん」
「知らん、て、それ、まずくないですか。面倒な話は止めてくださいよ」
「余のものはあいつのもの、あいつのものは余のものであるとは、双方に伝えている。問題なかろう」
「そうですか……(いつの時代も私が、彼の面倒ごとを処理していたなあ。この龍尊、立場逆転で、いつか、殴れる日が来るか……)」
自信たっぷりに言う丹楓を見た景元は、いつの時代も自分が丹楓の面倒ごとの処理をしていた時を思い出し、顔を引きつらせる。
丹楓は景元のそれを分かっているのかいないのか、の髪から手に移動してそれを持ち上げながら、言った。
「……、鱗淵境の力でこの姿で表に出られたのはいいが、余が女を抱けたとて、女にとってはそれは夢、幻で終わる。終わった後は女は、あいつに抱かれたと認識されて、終わりだ。問題ない」
「丹楓殿……」
そういう丹楓の目がどこか切なそうに見えたのは、気のせいかどうか――。景元は、自身の胸に手をあてその痛みを感じる。
そうだ、いつの時代も丹楓の面倒ごとを処理していたが、同時に、丹楓の感情を理解できる人間は彼のそばについている自分だけだとも、思っている。
それだけではなく。
「……(国王と丹恒殿だけではなく、丹楓殿までそこまでさせる嬢は、さすが、第二王妃まで上り詰めた娘だけあるか。いやはや。この時代でもここまで面白い女、ほかに居ないぞ)」
景元は、国王と丹恒だけではなく、丹楓さえもたぶらかすを面白そうに見詰める。
丹楓はここで、いつまでもを見詰めてそこから動かない景元を睨みつけ、呆れた様子で言った。
「景元、お前、余の女をいつまで覗いているつもりだ。人の物を奪う気か。たとえお前でも、余の女に指一本でも触れたのが分かれば容赦せんが」
「いやいや、仙舟でも宇宙でも丹恒殿が――いえ、裏で丹楓殿がついている嬢に手を出せる男がいると思いますか」
「ふん。景元、余の待望の酒を持ってきたなら、さっさと引け。余と女の逢瀬を、邪魔するなよ」
「……、丹楓殿も良い夢を見られるように。それじゃあ」
景元はこれ以上に丹楓に蹴られたくないので、さっさとそこから退散したのだった。
そして、思うのは。
「……鱗淵境の力を借りて丹恒殿の前世である丹楓殿が表に現れたと分かった時は驚いたが、酒の力を借りないと好いた女に手を出せないとは、そこは変わってないな」
景元は、そこは彦卿の指摘通り、その顔で女にはモテるが女の扱いが下手な丹楓と変わりないと分かって、くつくつ笑い、忘れないうちに今日の日記に今回の話を記しておこうと思った。
――それは、夢か、幻か。
は甘い臭いをかいで、薄っすら目を覚ました。
のまだ覚めない目には、足元に瓢箪を置き、お猪口で酒を飲んでいる『丹恒』の姿が見えた。
「……丹恒、それ、お酒?」
「さすが。酒の臭いにつられて目を覚ましたか」
くつくつ。丹恒ではなく丹楓は、酒の臭いで目を覚まして起き上がるを見て、愉快そうに笑う。
「そういえば、丹鼎司で倒れたせいでそこで仙舟のお酒、飲み損ねたの思い出した。ねえ、一口ちょうだい」
は目の前の男が丹恒であると信じて疑わず、甘えた声を出して彼にすり寄る。
「飲みたければ、飲めばいい。自分の口でな」
「!」
丹楓はの頭を強引に掴むと自分の方へ引き寄せ、強引に彼女の唇を奪った。
「ん、んむっ……」
同時に、の口に丹楓が飲んでいた酒が流し込まれる。
ごくん。
「……どうだ?」
「……何これ、美味しい。丹鼎司のお酒より、極上じゃない。どうしたの、このお酒」
「これは、仙舟の中でも手に入りにくい、幻の百年物だ」
「せ、仙舟でも手に入りにくい、幻の百年物?! す、凄い、よく手に入ったわね、そんなもの。それから、その年代のお酒なら、お高いんじゃないの?」
「これくらい、雲騎軍の将軍の景元に頼めばわけない。おまけに龍尊の余であるならこんなもの、献上品の一部で簡単に手に入る代物だ、金は気にするな」
「……ねえ、私を強引に扱うとことか、将軍様を呼び捨て、おまけに、献上品て、丹恒らしくない。どうしたの――て、ああっ、それもったいない!」
「お前も酒、浴びろ」
「ふぇ、きゃああっ」
ぼたぼた。丹楓はが自分が丹楓であると気付く前に、瓢箪から百年物の酒を自分の体に振りかけたのである。それを見たは慌てて丹楓から瓢箪を取り上げようとするが、丹楓はその瓢箪に残った酒をの裸体に振りかけた。
はいつも優しかった丹恒がそうくるとは思わず、驚き、そして。
「な、なにするの、いつもの丹恒じゃあ――、……、……」
「何だ。どうした?」
黒い長い美しい髪、青白い輝きを放つ瞳、龍の角に龍の尾――飲月化した丹恒と同じものを持っているが目の前の男は、丹恒の顔と違っていた。
「あ、あなた、丹恒じゃない、映像で見た飲月の前世の方の、ええと、名前、なんだっけ?」
「丹楓、だ。余の名前くらい覚えておけ、ただの人間の女――、女狐」
「め、女狐って、あなたに言われたくないんですけど! それより、丹恒はどうしたの? あなたが表に出てきたということは、丹恒に何かあった――んっ」
丹楓は再び簡単にの唇を奪うと、彼女をそのまま押し倒した。
はここで自分が全裸のままである事と、丹楓もまた全裸である事に気が付いて、さらにはその丹楓が自分の上に乗ってくるのを見て、青ざめる。
「ち、ちょっと待って、何するの、何する気、私はもう、丹恒以外の男とする気ないんだから! あなたがその状態で私に触れれば、丹恒だけじゃなくて、将軍様や御空、ほかの偉い人達に訴えるわよ!」
「景元に――将軍に訴えられるものなら、訴えればいい。龍尊である余ならば、あいつは何もしてこんさ。御空や符玄、ほかの役人達も同じだ」
「し、職権乱用もいいとこじゃない、丹恒はどこ、どこいった――んっ、ひあっ」
「さすが百年物の幻の酒だ、女体にかけると更に甘くなるのは本当だったか」
「サ、サイテー! 素の丹恒はもちろん、あなたと同じ飲月化した丹恒は私にそこまでしな、あ、あ、だめ、だめだって、そこ舐めないで、ひあんっ」
丹楓はの抗議など耳を貸さず、欲望のまま、彼女の裸体をめぐる酒に自身の舌を這わせて吸い付く。は抵抗するものの、龍の力を持つ彼に敵うはずもなく、すぐに抑えられてしまう。
「やわらかいな……、ここの味はどうか?」
丹楓はの乳房を揉みながらその感触を楽しみ、更に、酒をかけた乳首に吸った。
「だめ、だめ、おっぱいしゃぶらないで、そこは丹恒だけ、あ、あ、いやあっ」
「……、あいつだけと言いながら、余の舌だけで体がビクビクしてるではないか。おまけに、乳房も余が揉めば揉むほど、甘えた猫の声を出す。どういうわけだ?」
「ばか、ばか! そんなの、そこやられたら誰だってそうなるだけ、あなたのせいじゃない――ふあ、あ、あんっ、あぁっ」
じゅるじゅると、いやらしい音が響く。は丹楓の舌が吸い付くたび、震わせ、まさしく猫のような高い声が漏れる。
ある程度、の味を味わった後に丹楓は顔を上げ、彼女の足に指を這わせた。指にさきほどかけた酒がまとわりつく。
「……酒で濡らしているぶん、すんなり、いけるか?」
「――!」
丹楓の手はの乳房にあり、彼の顔は彼女の足の方へと降りていく。それを見たは青ざめ、思わず、彼の頭にある龍の角を握った。
「だめ、だめ、そこだめ、絶対にだめ!」
「おい、余の角を握って暴れるな!」
丹楓は頭にある龍の角を握って足をばたつかせるにたまらず顔を上げ、怒りの声を上げる。
は涙目になってそれでもそこを離さないで、丹楓に訴える。
「そこは丹恒だけってもう決めてるの! ほかの男は無理! それでも私のそこするなら、舌噛みちぎって死ぬか、この龍の角折ってやるから!」
「――」
はあ。丹楓は大きな溜息を吐いた後、体を起こして、涙目のの顔を覗き込み、言った。
「お前の男は、余の中にいる。裏側で、余とお前の行為を覗いておるわ」
「ふぇ? ……丹恒、そこに居るの?」
「ああ。余は、お前とあいつがコトをすませた後、鱗淵境の力を借りて表に出て来られただけだ」
「私と丹恒の行為の後に鱗淵境の力を借りて表に出られたって……、丹恒もまた裏で私とあなたの行為覗いてるって、それ、あなた、以前から私と丹恒の行為、丹恒の中で覗き見してたの?!」
その事実に気が付いたは顔を真っ赤にして、涙目になって、更には彼の角を強く握って睨みつける。
「……そういえば、仙舟の開拓の旅が終わった後くらい、丹恒に抱かれてる時に時々目が青く輝いてる時あったけど、あれ、あなたの仕業だったの?」
見れば丹楓も丹恒と同じ青い目を持っていたが、丹恒と違って青い色が濃く、怪しく輝いている。
丹楓は自身の発光する青い目をさし、の話にうなずく。
「ああ。あれも余の仕業といえば、余の仕業か。あいつが制御利かなくなった所を狙って、時々、その目を通じてその感触だけを共有していた」
「感触だけ共有って……」
ぞくり、と。はその事実を知って、身を震わせる。
丹楓は構わず続ける。
「余は、お前とあいつの行為を裏で眺めているだけでつまらなかった、今回、鱗淵境の力ではじめて表に出て来られたというわけだ。この機を逃すバカはいない」
「そ、それなら、私以外の女とよろしくやればいいじゃないの! それこそ、雲騎軍の景元将軍様に頼めば、あなた相手にしてもいいっていう都合の良い女くらい調達できるでしょ! 何で私相手?!」
「余は、鱗淵境以外では表に出られんのだ」
「え、鱗淵境以外で表に出られないって、どういう意味?」
「鱗淵境は、余の産まれ故郷であり、我ら、持明族の聖地でもある。今回、鱗淵境に潜む龍神の力を借りて、表に出られただけに過ぎん。余が此処を離れれば、元のあいつに戻るだけだ」
「この場所にそんな力が……」
はあー。は改めて、鱗淵境の周囲を見回し、その力に感心を寄せる。
ふと。
「あ、そうだ、あなたが此処から出られないでこの場所しか表に出られないというのであれば、景元将軍様に頼んで私以外の別の女をこの鱗淵境まで調達してもらえばいいんじゃない?」
「……、ほう、それはいい思い付きだ。確かにそれなら、この場所を出られない余でも、お前以外の女を相手にできるな」
「でしょ」
はこれで丹恒の前世とはいえ丹楓を相手をせずにすむ、丹恒との誓いは守られたとほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、だった。
丹楓はそのを目を細めて見詰め、面白そうに言った。
「ただの人間の女、それで余がお前から離れて別の女にいくのはいいが、お前の男――余の裏に居るあいつも、その女とヤるコトになるぞ、それでいいのか?」
「は?」
丹楓からの思ってもみない言葉に、は戸惑う。
「それ、あなたが表に出て私以外の女を相手にしている間、裏にいる丹恒も私以外の女を相手してるってコト?」
「その通り。あいつが表の時は余が裏側、余が表に出ている時はあいつが裏側、今回は鱗淵境の力でそれが正反対になってるだけだからな。余が鱗淵境でお前以外の女を相手にするのはいいが、裏にいるあいつもお前以外の女を共有、相手にする事になる」
「!!!」
は思わず、握っていた丹楓の龍の角を離した。
丹楓は丹恒の端末を持って、がそれを呆気に取られて口を開けて見ているのを知りながら、意地悪く言った。
「さて、ただの人間の娘、お前が余の相手が無理というなら、お前の言う通り、景元にお前以外の都合の良い女を鱗淵境まで調達してもらうか」
「だ、だめに決まってるでしょ! 丹恒は宇宙でも私以外の女ともうする気ないって言ってくれたんだから!」
「あー、景元、女狐が余の相手は無理というので、お前の力で女狐以外、余に相応しい女を鱗淵境まで――」
「……ッ!」
丹楓は端末を耳にあて、それはオフライン状態で振りだったが、それを聞いていたはたまらず、再び、丹楓の角を掴むと無理矢理に自分の方へと持っていき、そして。
「ん」
は、丹楓の唇を強引に奪ってやった。
丹楓の手から、丹恒の端末が落ちる。
は丹楓にキスしたあと、屈んで、彼の下半身を簡単にその手でさすってきたのである。
丹楓は目を見開き、そうくるとは思わなかった、の気迫に息を飲む。
「お前――」
「――裏で丹恒も私を共有してる、それ早く言って。それなら、私があなたの相手してあげられる、女呼ぶ必要ない。ここ、龍でも感じるの?」
言っては、なんのためらいもなく、丹楓のものを口に含んだ。
「――」
それを見た丹楓は目を見開き、そして。
「は、ははは、仙舟で余の時代でも、ここまでする女、いなかったぞ! さすが国王だけではなく、あいつをたぶらかしたほどの女狐か、お前、最高だな!」
「うるさい。丹恒が裏にいなかったら、あなたなんか相手にしないわ。そこ、勘違いしないで」
「上等。では女狐、そこ、しゃぶれるか」
「……はむ、ん」
丹楓はの頭を掴みそこへと誘導し、は丹楓相手にそこまであまりしたくなかったけれど丹恒と共有しているなら仕方ないと、その指示に従ってそこを舌を使って舐める。
「そうだ、そこ……」
「……(ここ好きなの、丹恒と変わらないのか)」
は丹楓もまた、丹恒と同じところを攻めるのが好きと分かって、内心、笑う。
「……何がおかしい?」
「別に、何でも?」
「……」
「……ん、ん」
「……は、ぁ」
はこの時、丹楓のものを手にして舌で舐めるだけだったが、丹楓はそのには自分に何の感情もなく義務的にやっているだけ、更には丹恒への想いを隠さずにいるので、それが分かって面白くなかった。
だからというわけではないが――。
「……女狐、そこまでできるなら、それも使え」
「何――にゃうっ」
丹楓は強引にの乳房を掴むと、自分のものと挟んだ。
「ふ、に、にゃあっ」
丹楓が強く乳首を掴めばは本当に猫と同じ鳴き声を上げ、涙目になって丹楓を睨みつけながらも、おっぱいを使ってその先端を舐めてやった。
その間に丹楓は片手での後頭部を掴み、そこから動けないようにする。
「……っく、いいぞ、その調子を維持しろ、ん、もっと吸い付け、奥まで来い、できるであろ?」
「ん、んむっ、頭、掴まないで、そんな風にしなくてもちゃんと、ん、あうっ」
は丹楓が強引に自分の後頭部を抑えつけてまで要求する事に不快感を抱いて睨みつけるが、彼女の口を更に奥へといくよう誘導する。
の乳房はそれから外れるも、はそれを早く終わらたい一心で彼の指示通り、奥にそれを持っていく。
そして――。
「……ッ、出すぞ、飲め!」
「んぐっ」
ドクン、と。丹楓のものが吐き出されるとそれを飲むよう強制し、後頭部を抑えつける。
ごくん。
「うあっ」
は強制的に飲まされるも、途中で吐き出し、丹楓のものが漏れる。
「な、何、丹恒はここまで強引じゃない、龍尊だからってやっていい事と悪い事が――ん、んぅっ」
丹楓はの睨みをものともせず、更に強引に彼女の唇を奪う。
丹楓の口には仙舟の百年物の酒が含まれていて、それもの口に無理矢理持っていき、強引に飲ませた。
「ん……」
酒の力か長めのキスが続いて、息が苦しくなって、は丹楓の胸に倒れる。丹楓はそのの頭を撫でながら言った。
「……さっきの褒美だ。どうだ、仙舟の百年物の味は」
「……こんな飲み方は、美味しくない。それにその百年物の幻のお酒、こういう使い方されるのよくないと思うけど」
「はは、いいぞ。そう返す女は、嫌いじゃない」
丹楓は本当に愉快そうに笑い、を押し倒した。
は簡単に上にくる丹楓を睨みつけ、改めて聞いた。
「……ねえ、本当に、丹恒と私を共有してるんでしょうね」
「後であいつに聞けばいい。余が女狐で気持ち良ければ、あいつもそれを感じているだろうさ」
「……」
「いれるぞ」
「……う」
の足を持ち上げただけで強張り、その震えが、丹楓にも伝わる。
丹楓は呆れながら、言った。
「女狐、お前、故郷でも色々な男相手にしてきて国王も手玉に取ったほどでそこまでの生娘じゃなかろうに、今更、処女の振りするな」
「う、うるさい、故郷を出て宇宙に来てから丹恒だけだったの! 丹恒以外の男相手にするの久し振り過ぎて処女みたいになっただけ! そういうそっちこそ、龍尊という立場柄、あまり、女の経験ないんじゃないのぉ? 前世の時代でも今でも、雲騎軍の景元将軍様の方が経験豊富そう~」
は、ここまで女を強引に雑に扱う丹楓は女の経験は少ないのではないかと思い、更には彼と違って女の扱いに長けてそうな景元を例に出し、くすくす笑う。
丹楓はそのに対して胸を張って、自慢そうに語る。
「ハ、ばか言うな。余の時代では、龍尊の余の相手をしたいと、仙舟の美女達の間で――それこそ、狐族の美女達の間で宮殿前に順番待ちができるほどだったわ。余で、夜の相手が出来れば狐族の美女達の間で自慢ができるとな。
そうそう、それ以外でも、戦の勝利の記念に余の方からその手の店に現れれば、その店の美女達の間で取り合いが起きるほどだ」
「へ、へえ、そうなの。そんなの、自慢するほどの話かしらね。それこそ、龍尊目当てに寄って来てるだけじゃないの」
むぅ。自分から煽っておいてその事実が分かれば不満そうに顔を背けるを見て、丹楓は。
「……、あいつだけ、お前を独占できるのが気に食わなかった」
「は、何言って――っあっ! ひ、あ、だめだめ、いやあっ」
じたばた。丹楓が自分のモノをの足元にあてがえば、再び暴れて、それを拒否する。
「ッ、暴れるな、第二王妃としてこれくらいわけなかろうに、故郷でもあいつ以外の男を相手にしてきただろうに、何故、余だけ、相手にできんのだ。そんなに、あいつがいいのか」
「……その通りよ。本来であれば、丹恒以外の男はもう、相手にしたくない。裏で丹恒が私とあなたの行為を覗いてるっていうから、それに応じただけ――」
「――この鱗淵境でやっと表に出られて、ずっと焦がれてた女を前にして、この仕打ちか?」
「……あ」
は、丹楓に強く抱き締められると同時に、丹恒と同じその美しい顔を間近で見て、息を飲んだ。
は丹楓の美しい顔を覗き込み、改めて聞いた。
「……ねえ、私をずっと焦がれてた女って、本当?」
「……そうでなければ、ただの人間の女相手に、龍尊の余が表に出てここまでせんだろ、それくらい、察しろ」
「し、知らないわよそんなの、ただの人間の私では、言葉で伝えてくれないと理解できない。私に向けてちゃんと、言って」
「欲張りな女だ、だが、それがいい。お前は、龍尊である余を相手にできる女だ。……これでいいか」
「……キスして、キスできたら受け入れられるかも」
「お前、本当にただの人間の女か? 狐族の女達より、女狐じゃないか……」
「ん、んぅ……」
丹楓はの仕業に参ったように笑った後、彼女の要求通り、何回か、舌を絡ませるキスを繰り返してやった。
「……ん」
キスだけで次第にの顔がとろけたようになったのを知った丹楓は、彼女の足元に自身をあてがう。
「これでいけそうか?」
「……だめ」
「おい、何がだめなんだ。まだキスが足りないのか?」
「……きい」
「何?」
「あなたのもの、た、丹恒より大きい、そんなサイズの故郷でも経験ないから、怖くてそれで……、そのぉ……」
「――」
もじもじと。それこそ処女のように顔を真っ赤にして、そこから顔を逸らすを見て丹楓は。
「……これも龍の影響だ、余の裏でお前の行為を覗いているあいつも、飲月化すればこれくらいのサイズになるぞ?」
「そ、それ本当? で、でも、あなたとする前に飲月化の丹恒とした時はそこまでのものじゃなかったけど……」
ジロリ。は丹楓とする前、飲月と化した丹恒とコトをすませていたが、彼のサイズはそこまで大きくはなかったと思い、ここで下手な嘘吐くなと、丹楓を睨みつける。
はあ。丹楓は額に手をあてたあと、それを白状した。
「種を明かせば、お前がさっきから握っているそこ――、余についている龍の角と尾は、龍にとってはある種の弱点なんだが」
「!」
は、龍にとって頭の角としっぽが弱点と聞いて、驚きを隠せなかった。
「わ、私のせいで、そこ触られるの嫌だったの? ご、ごめんなさい」
あわわ。は丹楓が自分がその角を握っている間、そこが弱点であるなら触られるのが嫌だっただろうと今になって悪い事をしたと思い、震えながらも、素直に謝った。
丹楓は目を細めて、の指に自分の指を絡めて言う。
「いや、お前がそこまで気にする必要はない。そこは弱点といっても、性感帯と同じというだけだ」
「は? そこ、性感帯だったの?」
「うむ。龍の角と尾、そこ触っていれば、嫌でも膨張する」
「ええ。どっちにしろ私のせいで、そこまでなったっていうの?」
「お前、飲月のあいつを相手にする時、頭の角と尾には気をつけろよ。余以上のサイズになるかもしれんぞ?」
「……」
くつくつ笑う丹楓と、笑えずに息を飲むと。
丹楓は片方はの手を握り、片方は自身のものを手に持ちながら、に詰め寄る。
「さて、こうなった原因は女狐、お前にある。どうしてくれる?」
「し、仕方ないわね、私のせいなら治まるまで私のここ、使っていい……」
は丹楓にそう迫られたら何も反論できず、自らの手で自分の足を持ち上げ、彼の前でその部分を披露する。
丹楓はの仕業に呆れるも、自身のものを手で持って彼女の中へあてがい、思うのは。
「この手の女、何で今まで余の前に現れなかったのか……。あいつがお前をあの星から連れ出した時はどうかと思ったが、今となっては、あいつの選択は正しかったか」
「ん、んん……、あ、や、んぅっ」
「……っく、先だけが限界か……」
「だから言ったでしょ、普通の人間の女の私ではそれ、無理だって……」
「いや、余はどうしても、お前の中にいれたい。お前と、繋がりたい」
「……」
「くそ、どうすれば……、ああそうだ、これ、使ってみるか?」
「あ、それ、そういう使い方するのよくないって――きゃあっ」
丹楓はそばにあった百年物の酒が入った瓢箪を手にし、それに残っていた酒を自身のものとの中にめがけて、どぼどぼとかけていく。
「ああ~、仙舟の百年物のお酒、それに全部使うなんてもったいない――ひあっ?!」
「クク、酒のおかげで、すんなり入ったな? これで奥まで……」
ぐっ、と。丹楓は酒の力でほぐれたそこに、自身のものをゆっくりとの中に持っていく。
「いや、あ、んん……」
「……」
その間、それでも苦しそうなを見た丹楓は、自分の酒が手についたものを彼女の口へ持っていった。
「……そこまでもったいないというなら、余の手についたの、舐めるか?」
「……」
はそれにつられるよう、丹楓の指にまとわりついた酒を欲望のまましゃぶる。
「ん、んむぅ……、やっぱり百年物だけあって、今まで飲んだお酒より極上だわ……」
酒のおかげでのその苦しみが少し和らいだのを知った丹楓は、呆れながらも、彼女の頭を優しく撫でながら言った。
「……本当、欲望には忠実な女狐だな」
「欲望の固まりのあなたに言われたくない」
「ハ、確かにこんないい女、宇宙でも百年先、現れんか」
「――」
の返しにくつくつ笑う丹楓と、ここではじめて丹楓と丹恒が重なって見えて息を飲むと。
それから。
「女狐――、。いいとこまで入ったぞ、これから、余を受け入れてくれるか」
「……あ」
初めて、だった。
、と、彼に名前で呼ばれたのも、丹恒と変わらない優しい笑みを浮かべているのを見るのも。
「、余に捕まれ」
「……ん」
は素直に言われた通り、丹楓の首に自分の腕を巻き付ける。
丹楓はそのに驚きつつ、彼女の頬に手をあてがう。
「なんだ、急に素直になったな」
「し、知らない、そんなの。するなら、あまり、激しく、しないで」
「もとより、そのつもりだ。龍と人間では差があり過ぎるからな、お前が余に耐えられずに壊れるのは、あいつも望まんだろう」
「は、壊れるって、どれほど――」
龍と人間ではそれほどの差があるのかと青ざめるだったが、丹楓は構わず、彼女に覆い被さる。
そして――。
「ッ」
「――ッ、あ、ああっ」
びくん、と。丹楓がの腰を掴み浮かせ、振っただけで、彼女の体が激しく跳ねる。
激しくしないと言いながらも激しく腰を振ってくる丹楓と、それに耐えられずに彼にしがみつくだけが精いっぱいのと。
「、ああ、、、余はずっと裏でと繋がりたかった、あ、ああ、いい、ずるいぞ、あいつばっかり!」
「ば、ばか、いきなり、そんな激しいのだめ、いや、あ、イク、もうイッちゃうっ」
「手、離すな、しっかり掴め」
「ん、首噛まないで、痕ついちゃう、あ、あ、あんっ、そこはあ、ああ、んっ、だから見えるとこに痕つけないで、あ、んっ」
「、爪食い込ませ、そうだ、余にもの痕、残せ、は、ぁ……」
「あ、いや、だめ、そんなの、あ、あ、あっ、イク、イッちゃう、ああ」
「、」
「ひあっ、その体制だめ、奥まで、奥まで来てる、だめ、だめ、ん、んぅっ」
丹楓は起き上がりを持ち上げ、奥まで突き上げる。はそれを感じて抵抗するも、反対に強く突き上げられ、更に奥まできた感じがして、どうしようもない。
と――。
激しく動いていた丹楓の動きがピタリと止まり、そして。
「……。余は今回、劉淵経の力を借りて表に出られたが、多分、余がを表で抱けるのはこれが最初で最後だ」
「何、急に……」
「コトが終わり目が覚めた時にお前は、余との行為は夢、あるいは、幻で終わるだろう」
「……何が言いたいの。私は夢から覚めればあなたの事を覚えてないから今は、私を好きに抱きたいって?」
「ああ、その意味で取って構わん。余の言葉も、余との行為も、夢から覚めただけの話だろうから、最後、言いたい事は言わせてもらう」
「何……」
丹楓はの手を掴み、そして。
「×××、××××――」
「――」
の耳元でその言葉をささやいた。
「は、え、何、何て言ったの、それ、仙舟の言葉?」
しかしそれは仙舟の古い言葉か、共感性ビーコンでも訳しきれず、では理解できないものだった。
丹楓は面白そうに言う。
「今のは、仙舟の古い言葉だ。現在の若い連中は、理解できんだろう。これを理解できるのは未だにその時代から生きている景元か、狐族の御空、太卜の符玄、それから――」
「それから?」
「あいつくらいだろうが、あいつも理解できるとなれば、癪に障る」
「何それ。それなら後でそれ、丹恒に聞いてみるから、いいわよ」
「目が覚めた時に余の事を、覚えていればな」
「――」
ふ、と。丹楓はいつもの笑みを浮かべているが、はそれがいつもの笑みではない気がした。
「さて。言いたい事は言い終わったのでいくが、いいか」
「は、え、何――っひ!」
急に。急に激しく奥を突かれて、それに震えて思わず目の前の丹楓にしがみつく。
「待って、そんな、いきなり強いの、よくない、だめ、だめ、いやああっ」
「……っは、あいつばかりいい思いはさせん、余にもの分けろ、余のぶんもにやるわ」
「あ、あ、イク、も、だめ、イッてる、から、熱いの、ここまで熱いの初めて、頭、へんになる、あ、あ――」
「――」
「――」
――それは夢か、幻か。
果てる瞬間に『彼』が笑ったのは、丹楓か丹恒、どちらの顔だったのか――。
「お疲れ」
次にが目を覚ました時、素の丹恒がを抱えて微笑み、彼女の頭を優しく撫でていた。
ドオン、ドオン。どこかで、音が聞こえた。
は丹恒に抱えられた状態でその音を聞いて、彼にその正体をたずねた。
「なんの音?」
「天舶司の御空が星槎レース開始の花火鳴らしてる音だ。システム時間的にはもう朝だな」
「星槎レース……。ああそうだ、当日のお祭り、楽しみにしてたの。あ、でも、お祭り用に用意した私のドレスは丹鼎司の病院にあって、病院の浴衣も丹恒のせいで濡れて駄目になってる……」
うわあ。はせっかく祭り用に着たドレスは丹鼎司の病院に置いたままで、素裳と青雀で着替えさせられた浴衣も丹恒との逢瀬で駄目になったと分かって、悲しそうだった。
丹恒は溜息を吐いて、に近況を話した。
「が寝ている間、開拓者と三月に、鱗淵境までにあう新しい服持ってくるよう頼んだ」
「開拓者と『なのか』に? ちょっと待って、私、今、全裸なんだけど、この状態で二人に会えと?」
「は、あいつらが来る前に俺のコート着とけ」
言って丹恒は、に自分のコートを手渡した。因みに丹恒は自分のいつもの服をちゃんと着ている。
丹恒は言う。
「この状態の俺と理解してるの、開拓者と三月くらいしか居ないの、も分かってるだろ?」
「それはそうだけどぉ……」
そうでもちょっと複雑~。は丹恒からコートを借りてそれをはおるも、この状態で開拓者と『なのか』に会うのは気恥ずかしかった。
丹恒はそのの機嫌を取るため、話した。
「祭り当日は『俺と二人で』、の行きたいとこ、行く約束だったじゃないか。夜にある星槎レース本番も、のため、御空に頼んで特別席も予約している。そのためには、開拓者と三月が服持ってくる必要がある」
「……そうだね。開拓者と『なのか』が服持ってきてくれないと、丹恒とお祭りデートできないし、丹恒が御空に頼んで取ってくれた特別席で星槎レースも見られないとこだった。丹恒とやっと二人きりでデートできるの、嬉しい」
えへへ。は丹恒の単純な言葉だけで機嫌を持ち直し、嬉しそうに彼と腕を組む。
と。
丹恒の手持ちの端末にメッセージが来たと、着信音が鳴った。
「お。開拓者と三月、の服持って鱗淵境まで来たって。二人ともどこ居るのかって聞いて来たから、俺とで迎えにいくか」
「うん。……あ、そうだ、開拓者と『なのか』に会う前に、丹恒に聞きたい事あったんだけど」
「なんだ?」
「×××、××××って、どういう意味?」
「――」
それは。
「……、それは現在使われていない、仙舟の古い言葉だ。多分、その時代を生きてきた雲騎軍の景元将軍か、同じく狐族の御空、あるいは、太卜の符玄くらいしか理解できない」
「ねえ。その言い方だと丹恒もそれ、理解できてるんだ」
「一応……。しかし、お前、どこでそれ聞いた? お前が持ってた仙舟の本にもその言葉は、のってなかったはずだが」
「夢の中で、飲月君と化してた丹恒が私に話してた感じ?」
「なんだそれ。俺、夢の中で飲月君化してと会ってたのか?」
丹恒は最初はそれが信じられなかったが、は龍神が眠るという鱗淵境の奥の方を見詰めて言った。
「夢の中で飲月君の丹恒が私に向けてその言葉、言ってた気がする。外部の人間の私がその丹恒から仙舟の古い言葉が聞けたの、これ、鱗淵境の力かも? 多分だけど」
「……まあ、この鱗淵境は持明族じゃなくとも仙舟の人間から見ても不思議な場所だからな、外部の人間のでもそれを体験してもおかしくはないか」
丹恒は、の言い分を信じるよう、一応、納得している。
そして。
「で、どういう意味? 素の丹恒もその古い言葉が理解できるなら、私にも教えて」
「……」
「丹恒。教えてくれないとモヤモヤするんだけど~」
「それ、持明族の恋人達の間で使われていた、愛の言葉の一つだ」
「!」
丹恒の背中をつつくと、に参ったようにそれを打ち明ける丹恒と。
「持明族の恋人達の間で使われてた愛の言葉? ますます、その意味知りたい。内容分からないと意味ないよね」
「にそれ教えるの、なんか癪に障る」
「えー、何それ。今、教えてよ!」
「いや、それは……」
と――。
「あ。いたいた。丹恒、、おーい!」
「丹恒! ウチと開拓者で、にあう、いい服持ってきたよー!」
「!」
丹恒とで開拓者と『なのか』を迎えにいくはずが、開拓者と『なのか』が先に丹恒とを発見したようで、階段の上で紙袋を抱えてこちらに手を振っているのが、丹恒とでも分かった。
「、行くぞ」
「うん」
丹恒は自分のコートを着たの手を引いて、開拓者と『なのか』の方へ向かったので、この話は有耶無耶になってしまった。
と――。
「きゃあっ」
「」
ビュウ、と、一陣の風が吹いてそれはの髪をなびかせ、丹恒の方へとよろけさせる威力はあった。
風でよろけるを丹恒が支える。
「大丈夫か」
「丹恒のコートのおかげで、大丈夫。でもさっきの風、なんかいつもの風と違ってた気がする」
「そうか?」
「ねえ、丹恒の飲月君も、前世の丹恒も、現龍尊の白露様も、龍の力を借りて雨や風を操れるんだよね」
「そうだな。さっきの風、それの一部だって言いたいのか?」
「多分。龍神様が此処を去る丹恒に、何か言いたかったのかなー」
「それじゃさっきの風、じゃなくて、俺の方に来ないか?」
「それもそうか。私の気のせいかな?」
「さあ、どうだろうな?」
は、そういう丹恒の顔はいつもの冷淡さはなく、どこか穏やかだなと、思った。
丹恒はに手を差し出し、言った。
「階段の上で開拓者と三月が待ってる。さっさと行くぞ」
「うん。丹恒とお祭りデート、楽しみだな~」
は丹恒に手を引かれて、開拓者と『なのか』が待つ先へ向かう。
――それは夢か、幻か。
は丹恒と一緒に階段を登って開拓者と『なのか』の二人と会った時、開拓者から自分の服を受け取る丹恒と離れて、一人になった。
もう一度振り返り、鱗淵境の奥を見れば、自分の方へ向かって優しい風が通り過ぎたのを感じた。
その風を受けては。
「あの人に会わせてくれて、ありがとね、龍神様」
小さく呟いた後、
「!」
開拓者から着替えの入った紙袋を受け取った丹恒がを呼び、それから、も開拓者と『なのか』の二人とようやく合流を果たしたのだった。