犬と猫

 事の発端は、どうでもいい事だったように思う。

 僕は、些細な事で彼女と喧嘩をした。
 彼女は涙ぐんで、僕の部屋を出て行く。
 僕は、長い付き合いだ、彼女が行きそうな場所を知っていたので然程、慌てる事は無く余裕を持って部屋を出た。
 僕は彼女を捜す前にコンビニへ行き、彼女の好物のプリン(普通のプリンじゃなく、カルメラの代わりに生クリームが乗った、少し値が張るやつ)を買った。僕は僕が好物のカップアイスを買って、コンビニを出る。
 僕に課せられた任務は、アイスが溶ける前に、プリンが柔らかくなる前に彼女を見付ける事。
 空は目が痛くなるくらいの青空が広がり、歩くと汗をかくくらいの気温だった。
 気まぐれの彼女は猫のようで、それに従っている僕は犬のようだと、周りから良く評されるけど、僕からすれば彼女の方が犬のように思えた。

「やっぱり此処に居た」

 彼女は、僕の思った通りの場所で一人、うずくまっていた。公園の二人がけのベンチを、彼女が一人で占領している。
 彼女は僕を認めると黙って、席を譲ってくれた。僕は遠慮無く、彼女の隣に腰かける。

「一緒に食べよう」

 僕が差し出した袋にプリンがあるでしょ、と犬並の嗅覚で彼女が指摘する。僕は頷いて、袋からプリンを出すと彼女へ差し出した。
 プリンを見ただけで彼女は笑顔になり、僕へすがりつく。その彼女の様はまさしく、耳が垂れ下がり、尻尾を振ってエサをねだる犬のようだった。僕はそれだけで満足して、彼女へプリンを手渡した。
 僕は、彼女の反応が手に取るように分かっていた。

 だから、プリン一つで尻尾を振る彼女は犬のようで、ずる賢い僕は猫のよう。

 暖かい日差しを受けて、僕等は公園で二人揃って暇な時間を潰している。こんな気持ちの良い日は、犬も猫もたまらず寝ている事だろう。
 僕達も、プリンとアイスを食べ終えると、喧嘩をしていた事も忘れて肩を寄せ合い、公園のベンチで眠っていた。

 ただ、それだけで僕も彼女も、幸せだった。

2007年11月18日(了)