闇。
目の前に広がるのは、闇だった。目を閉じている訳でもなく、目が見えない訳でもない。見える範囲にあるのは闇だけである。
どうしてこうなってしまったのか。その理由を私は知っている。
あれはいつだったか。正確な年数を覚えていない。家族が、恋人が殺されたのだ。彼等が殺された理由は単純なものだった。財産目当てのゴロツキが家に侵入して、居合わせた家族を殺し、そして私の恋人を陵辱して道端へ捨てたのだ。まるで使い古された人形のように。それは、私が留守の間に起こった事だった。その事が引き金となり、私は人間を恨んだ。
最初は、力を求めた。どんな人間にも屈しないような、強大な力を。私は魔術の心得があったので、それ関連の書物を読み漁り、研究に徹した。
私の研究は、多くの犠牲者を生み出す事となった。私が力を得るには、人間の魂が必要だったからだ。私は金に物を言わせ、ゴロツキ達を雇い、村を襲わせた。百人にも満たない、小さな村だった。
私の研究は成功する。村人達の魂を食らえばその分、力が増す。研究が現実のものとなった私は、喜びに打ち震えた。
もっと、力を。
それから私は、契約したゴロツキ集団に一万人単位の街を襲わせた。ゴロツキ集団も金の為ならと知恵を絞り、町長の娘を人質に取った上で、容赦無く街を破壊していった。街は焼かれ、娘もまた私の恋人と同じ目に遭ったのは明白だった。しかし私は、何食わぬ顔で破壊を繰り返していった。
いつしか私に二つ名が付けられた。「闇の魔王」「闇の帝王」「闇の魔術師」等等、どの二つ名にも「闇」が冠されている。当然の結果だ、と私はその話を部下から聞いた時、微笑んだくらいだ。
そして。
悪行を繰り返していた私の前に、男の勇者が現れる。十代でまだ若い男の勇者は、自分よりも他に四人の仲間を連れていた。攻撃を得意とする男の黒魔術師に、回復担当の女白魔術師、装飾品が施された豪華な剣を持った男の戦士、そして勇者の幼馴染だという女の銃撃士である。
ゴロツキの集団は――この頃、彼等は自分達を「闇の騎士団」と名乗った。闇の騎士団と称しても良いくらいゴロツキ達は、知恵と力を得ていた。闇の騎士団は、私を守る為に階下に配置していたのだが。それを問えば勇者は、一人残らず片付けたと私に何の気遣いもなく言った。
勇者は剣を、幼馴染の銃撃士は銃を私に向ける。
「村のみんなの仇を取る為に、お前を倒す!」
村。そうか。勇者は、私が最初に襲った村の人間だったのか。最初に雇ったゴロツキ達の一人がミスをしたせいで、勇者が生まれるきっかけとなったようだ。そしてようやく私は、本来の目的を思い出す。
人間以上の力を手に入れたのは、失ったものを取り戻す為、だった事を。しかし今となっては私の目的はそれから大きく外れていた。
私は勇者やその他の仲間達の攻撃を交わしながら、考える。手に入れた闇の力を――人間の限界をとっくの昔に超えた私が持つ強大な力をこの場で解放すれば、どうなるのか。
幾ら、光の力を手に入れた勇者とて、私の闇の力には及ばない。力の差は歴然としている。そう、勇者は私の前に来るのが早過ぎたのだ。
全部のイベントをこなして私の所へ辿り着いたとしても、伝説の武器を手に入れたりして装備が完璧だとしても、私に見合ったレベルでなければ、意味が無い。
今なら、闇の力を解放しても勇者に勝てるという、自信があった。
さあ、それを実行してやろうじゃないか。プログラム通りなら、次の私の順番で闇の力を解放するチャンスだ。
私は笑みを浮かべて勇者に向かって、闇の力を解放した。
そして、私が闇に覆われる。
勇者の姿も、幼馴染の銃撃士の姿も、白魔術師も黒魔術師も、戦士の姿も何もかも、見えなかった。光さえも無い。完全なる闇。自分の体も認識出来ない。闇の中にあるのは私の意識だけだった。
こんなものか、と私は思う。
闇を手に入れた所で私一人ならば、意味が無い。私は体も意識も失ってこそ、本当の闇が手に入ったと考えたからだ。
正直、拍子抜けした。
意識がまだ残っている状態なら、闇を手に入れたとはいえない。
完全な闇を手に入れるまで私は、同じ事を繰り返す。
だから。
直ぐ目の前に電子文字が浮かび上がった。
私はこれを待ち望んでいた。
『リセットしますか? →はい/いいえ』
私は迷わず、『はい』を選んだ。
次こそは、勇者達が私を倒せるレベルで挑んで来る事を願いながら。