煙草

 屋上へ行けば、彼に会える事を知っている生徒は少ないだろう。

 私は彼を目当てに、放課後、屋上へと向かうのが日課になっていた。

「発見」
「おー」

 屋上の給水塔を背にして、しゃがんで煙草を吸っている彼を発見する。
 私が指差すと彼は、煙草の煙を吹かしてみせた。
 そう、彼はいつも、煙草を吸う為に屋上に居るのだ。彼が屋上で煙草を吸う原因は、禁煙ブームで職員室も禁煙対象となったせいだから、と話している。
 しかし、それ以外で彼が屋上に居る理由を、私は知っている。

「煙草吸うの止めたら?」
「何でよ。俺が煙草止めたら、此処に来るのが不自然になるじゃん」

 煙草の煙を煙たそうに手で払う私を見て、彼が意地悪な笑みを浮かべる。
 それから彼は私の腕を取り、そのまま口付ける。
 私の口の中に煙草の味が広がる。恐らく、私の体にも彼から移された煙草の煙が染み付いているだろう。これでは、他の教師に見付かれば言い逃れができない。彼もそれを分かってやっているのだから、タチが悪い。

「これで、同罪だ」
「……、教師の癖にやる事があくどいわね」

 彼のしてやったりという顔を見て、私は呆れる。

「煙草が嫌いなら、俺に近付くなよ」
「……」

 私は彼の言葉とは反対で、彼と密着するように寄り添う。
 彼もそんな私を突き放す事はせず、煙草を吸い続ける。

「あくどいのは、どちらだろうなあ?」
「お互い様でしょ」

 くつくつと笑う彼を見て、私は言ってやった。

 生徒と教師の密会は、まだ始まったばかり。

2008年07月12日(了)