朝、携帯にセットしておいた目覚ましの音で目を覚まして起き上がる。それから高校の制服に着替えて、朝食をすまして顔を洗って歯を磨いて家を出る。学校で友達と話して、授業を受けて部活には入っていないから、放課後は寄り道もせずに家に真っ直ぐ帰る。チェックしておいたテレビを見ながら時々勉強をしながら、携帯でメールを打っていた。時には本を読みながら、時にはゲームをしながら。夜になって映し出されるニュースに目をやれば何処かの国で戦争が起きていた。戦争の映像が終わったかと思えば、日本に外国の有名人が来て局が独占インタビュー、と題して嬉々としてアイドル化している女子アナがその有名人と対談している映像に切り替わった。どうでもいいよと思いながら、その映像を見ている自分に何の感情も抱かずにいる。その間、夕飯があったり家族と話したり。因みに両親は居るが兄弟は居ない。夕食が終われば部屋に篭る。風呂までまだ間があった。何も考えない時間。寝ている事が多いけれど。それでも携帯が鳴れば出て行くし、友達と話をして楽しんでいる。風呂はかかさず毎日入っている。それが楽しみの一つと言っていいかもしれない。そして夜十一時過ぎ、約束していた電話が鳴った。待ち侘びていた電話。
「もしもし?」
「もしもし、俺だけど」
彼は何かの意思でもあるのか、先に名前を言わない。もし、オレオレ詐欺とかだったらどうするんだと危惧するが、私が彼の声を聞き間違える筈は無い。例え電話越しであっても。その自信はあった。もし、声当てクイズとかあって彼が登場すれば間違い無く言い当ててやる。もし、間違えたら……、何も起こらないだろう、きっと。
「おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
学校でも、家に帰ってからでも彼とは電話で散々話しているけど、寝る前には必ず一言言うのが私達の習慣になっている。幸せな時間。一日の終わりを告げる言葉。それでも物足りない時があった。何か、彼を引き止めたい気分。特に今日みたいな日は。他人では私の感情の起伏等、分かる筈も無いけれど。それは短過ぎて何の意味も持たない言葉では駄目だ。かと言ってこれ以上、話し込んでいる暇は無い。それならば。
「あ、ちょっと待って」
「何?」
とっておきの一言を。
「好き」
「俺も好きだよ」
うん。
これで大丈夫。今日の不安は全部、綺麗さっぱり掻き消された。単純と言われてもいい。これが私達の幸せなのだから。
惜しみつつも、携帯電話の電源を切る。これで今日一日が終わった。私は部屋の電気を消して布団を被る。
明日もまた今日と同じ一日が続くのだろう。そして私はそんな毎日に嫌気が差し、不満を抱くかもしれない。けれど、そんな日は長くは続かないし、いずれ来る終焉に向けて、目に見えない速さで動いている。それでも分かり切っている事は一つだけあった。
私があなたを好きだという事実。
それだけは変わらない。変わらない感情だと、思いたい。それだけで幸せな気分になれる。不安や悲しみさえも吹き飛ばしてくれる、暖かな存在に感謝を込めて私は目を閉じた。
目を開ければまた何気無く無常に過ぎる一日が始まる。
目を開けるのは怖く無かった。むしろ、楽しみにしている。明日が始まるのを。
明日もまた彼の「おやすみ」を聞く為に、また私は退屈な一日を乗り切れるのだから。