手紙

 休憩時間、女子の大半が携帯電話と睨み合ってメールを打っている中で、私は手紙を書いていた。

 私が書いている手紙の宛先は、私とは違う学校だけど、放課後は野球の練習に励んでいるであろう、高瀬準太である。
 手紙の内容は学校であった事、家での出来事、友達の話等、他愛のないものだ。文面は、用紙一枚に収まる範囲で。極端だけど、一枚の便箋に一言だけの日もある。私の気持ちを彼に伝えるには、それくらいで十分だった。

 今日も私は、高瀬君へあてた手紙を書いている。

「芽衣、まだ手紙、書いてるの」
「ごめんね、もう少しで書き終わるから」

 私の為に居残ってくれている友人が、早く教室を出ようと催促している。教室には私と友人の彼女しか残っていなかった。

「良し、終わり」

 高瀬君への手紙を書き上げた私は、それを封筒に入れてきちんと封をする。手紙に使う封筒は、普通の茶封筒だったり、キャラクターものだとか、和風なデザインだとか色々。今日の封筒は、青と赤のストライプ模様だった。
 手紙に使うペンは、黒のボールペンの時もあれば、カラーペンを使う事もある。手紙のデザインによって臨機応変に。今回は封筒と同じ、便箋も赤と青のストライプ模様なので、それに合わせてカラーペンを使用している。
 封をするのは、ノリを使うだけ。手紙のセットにシールがあれば使うけど、赤と青のストライプの手紙のセットには、シールが付いていなかった。残念。

「お待たせ」
「それじゃ、帰ろうか」

 待たせていた友人と一緒に、私は教室を出た。

「しかし、良く続くよね」

 友人のそれは、私の手紙と文通相手を知っての発言である。

「高瀬君だっけ。あの桐青の二年生ピッチャーでしょ。エースじゃん。何でそんな人とあんたが文通しているのか、なれそめの話を聞いても未だに信じられない」
「そうかな。私も彼が快く文通をOKしてくれるとは、思わなかったけど。ああ、そういえば文通しよう、って私から持ちかけた時、高瀬君、何故か笑いを堪えてたわ」
「やっぱり。今は文通じゃなくてメールでしょ。パソコンがなくても携帯電話くらい誰でも持ってる時代なんだから。あんたくらいよ、休憩時間、教室で手紙を書いているのは。高瀬君に話して、あんたもメールに移行したら。高瀬君もきっと、メールの方が良いって言うよ」
「うーん。私は手紙を書くのが楽しいから」

 友人の話を聞いて、私は曖昧に答える。
 私としては今更メールに移行する気は無いし、高瀬君も文通だから付き合ってくれているんだと思う。


 私と高瀬君が出会ったのは、去年の夏。
 夏休み、暇を持て余していた私が野球好きの叔父さんに連れられて、高校生の野球試合の観戦に行った事があった。多分、地区予選だったと思う。
 高瀬君が通う桐青高校は去年、甲子園で優勝したほどの強豪校である。叔父さんも、今年は桐青が来るかもしれん、と話していた。結果は、叔父さんの予想通りで、私も甲子園のグラウンドに立って、泣いている彼らに感動すら、覚えた。
 今まで、野球のやの字も知らなかった私は、叔父さんと桐青高校のお陰で、野球にのめり込んだ。
 といってもまだまだ野球の知識は乏しく、一年生で今年、新設された野球部のマネージャーをしているという篠岡さんの足元にも及ばないだろう。
 野球に興味を持った私は、桐青高校が意外と近場にあると知った。それを知った私は興味本位で、残り少ない夏休みを利用して、桐青高校まで行ってみようと思い立った。
 思い立ったら吉日、私は、電車を乗り継いで桐青高校を目指した。
 勿論、何の理由も無く他校の生徒を正面から入れてくれるはずが無いので、裏道を使って侵入成功。侵入先が目指している野球部だった。
 初めて見る桐青の野球部は、叔父さんに聞いていた通り、活気に満ち溢れていた。五十人以上は居る野球部員達が、それぞれ声を上げて練習に励んでいる様は、嫌でも圧倒される。
 隅で隠れて呆然と野球部の練習風景を見ていると、肩に手を置かれた。私は教師に見付かった、と思ってびくついていた。

「こんな所で何、やってんの? 桐青では見ない顔だけど」

 そう、私に話し掛けてくれたのは当時、ベンチで先輩達の雑用係りをしていた高瀬準太であった。
 私が桐青に来た理由を話せば、高瀬君は優しい顔と声で監督に掛け合って来るから待っててと、何処かへ行ってしまった。私が大人しく待っていれば高瀬君は本当に監督と掛け合ったらしく、私をベンチまで案内してくれた。
 今まで、野球部のベンチに縁が無かった私は、高瀬君の優しさに感銘を受け、ついでに彼に魅了されてしまった。

「隅で隠れて見るよりは、ベンチの中でじっくり見た方がいいよ」

 高瀬君は笑って私に色々、野球の話をしてくれた。
 そして、別れる時になって、私が西浦高校の生徒だと分かると、高瀬君はどうやって連絡を取り合おうか、と言ってくれた。これは脈有りか。この機会を逃す訳にはいかない。私が思い切って、高瀬君に言ったのは。

「て、手紙で文通しない?」

 私の提案を受けて高瀬君は一瞬、目を丸くして驚いていたけど、しばらくして笑いを堪えたような顔で彼は、私と文通する事を快く承諾してくれたのだった。
 それからだ。
 私が高瀬君に手紙を書くようになったのは。


 私と高瀬君の文通は、この夏でもうすぐ一年が経とうとしている。
 私は高瀬君からの手紙は、捨てる事もなく、大事にしまってある。
 野球部の練習が休みの日は、高瀬君と私は一緒に出かけたりしているけど、最近の彼は、桐青のエースにも選ばれて地区予選も迫っているので、忙しそうだった。手紙の内容で高瀬君の心境も分かる。でも、高瀬君はどんなに忙しくても、私への手紙を切らした事は一度も無かった。
 私も高瀬君と同じように手紙を出し続けている。本当に手紙を書くのが楽しいし、高瀬君から返事を貰えるのが、嬉しかった。
 今では、家に帰ったあと、ポストを覗くのが楽しみになった。二日に一度は、高瀬君からの手紙が届いている。
 この楽しみは、携帯電話やパソコンのメールでは味わえないものだ、と私は確信する。
 高瀬君の手紙は決まって茶封筒で、レポート用紙一枚、ボールペンの黒一色、というシンプルなものだった。
 だけど私はそれでも高瀬君から返事が貰えるだけで幸せで、十分、満足していた。

「あ。野球部の練習、まだやってるよ。マネジの篠岡の話だと、学校が閉鎖してからも近場でライトがある所探して、野球の練習続けてるらしいよ」
「もうすぐ地区大会だからね。桐青みたいに設備が整ってないから、大変だわ」

 友人の話を受けて、私も廊下にある窓から野球部の練習を眺めていた。
 私の通う西浦高校では、今年、野球部が新設されたばかりだ。軟式から硬式に変わったお陰で、部員は一年生ばかり。彼等も高瀬君と同じように日々、地区予選に向けて練習に励んでいる。
 高瀬君も今ごろ、マウンドに立って、球を投げているんだろうなあ。マウンドに立つ高瀬君は、異常なまで格好良い。私はそう想像しては、にやけている。

「芽衣も、そんなに野球が好きなら、篠岡に頼んで、マネジにしてもらえば良かったのに」
「あー。それも考えたけどね、私は篠岡さんみたいに根性が無いから駄目だわ。それに、今年はウチと桐青が初戦で当たるってあったから、マネジにならなくて正解だったよ」
「マジで? 芽衣は桐青とうち、どっち応援するの?」
「うーん。どうしようかな」

 友人が目を輝かせて身を乗り出して訪ねるのを見た私は、苦笑するだけで言葉を濁した。
 本当は、高瀬君が所属している桐青を応援したいけどやっぱり、母校の西浦高校は初戦で勝って欲しいとも願っている。矛盾した心のままで、西浦のマネージャーをやる訳にもいかないだろう。野球を愛する彼等にも失礼な話だ。
 高瀬君からの手紙も、「芽衣はどっちを応援するの?」と書かれてあった。私は自分の思いを正直に手紙に書いて高瀬君まで、出した。高瀬君からの返信は、「芽衣らしい」の一言だけだった。私は、笑いを堪えて次の高瀬君への手紙を書いた。

「それじゃ、またね」
「バイバイ」

 野球部の練習を見た後、私と彼女は駅で別れた。
 私はそのまま電車に乗って、自分の家に帰っていく。その道中、高瀬君の手紙を出しにポストへ向かった。
 そうして、私の一日が終わっていく。


 それから日々が過ぎて、地区予選が始まった。
 西浦高校と、桐青高校の試合が開始される。
 私は叔父さんと一緒に、会場で観戦している。友人とも一緒だったので、一応、西浦高校の応援席に座っていた。何時の間にか応援団が出来ていたらしく、私達は彼等と共に声援を上げる。
 白熱した試合展開だった。叔父さんは、後半になって苦虫を潰したような顔で、桐青は駄目だな、と呟いていた。
 私は、叔父さんの声も聞こえないくらい、必死になって桐青の高瀬君を応援していた。西浦の応援席に居たので、勿論、心の中だけでだ。
 しかし――。
 結果は、信じられないものだった。
 去年は甲子園出場を果たした強豪の桐青高校が、一年生ばかりの新設された野球部、西浦高校に負けてしまった。
 私は周りが興奮して盛り上がる中、一人、愕然としていた。
 試合が終わった後、叔父さんは、拾い物だなと笑って、今期は西浦高校に注目してみるかと話している。
 私は、試合が終わっても、高瀬君に声がかけられなかった。

 それから、高瀬君からの手紙が途絶えた。

 何日も何日も、高瀬君からの手紙が来ない。私は高瀬君に向けて一方的に手紙を出しているけど、彼からの返事は全くない。今日もポストを覗いてみたけど、彼からの手紙らしきものは一通も入っていなかった。
 それでも私はめげずに、高瀬君への手紙を書き続けた。
 しつこい女だ、と高瀬君に飽きられるだろうか。高瀬君は、私に手紙を書くのが嫌になったのだろうか。それならそれで、私に言ってくれればいいのに。
 ああ、こういう時、携帯電話やパソコンのメールだったら、一発で返事が届くのだろう。それで、一発で私達の築き上げた関係が終わってしまうかもしれない。メールなら、始まりも終わりもあっさりしたものだ。
 私は、それが嫌だった。
 女子の間では、メールで告白するのが流行っている。手軽に言えて、相手も気軽に返事が書けるから。それはそれで本人達は良いかもしれない。けれど私は、その味気無さが嫌で手紙を書いていた。
 手紙なら、筆跡から気持ちが伝わる。優しく書かれた字。嫌な事があったのか、配列が乱れた字。初期の頃は漢字が苦手で苦戦したのか、間違いだらけの字だったけど、それでも彼の必死さが伝わって来た。手紙には、電子文字には無い味があった。
 でも今の私は、高瀬君の気持ちが分からなかった。彼からの手紙が来ないからだ。
 私はもどかしくなって、放課後になると桐青高校の近くまで行ってみた。
 だけど私は、桐青高校の中まで行く勇気が無かった。

「芽衣さん?」

 桐青高校の周りでうろついていると、声がかかった。

「ええと……、利央君?」
「お久し振りです」

 私を見付けたのは、高瀬君の後輩の、利央君だった。クォーターらしく、日本人離れした容姿は嫌でも注目される。私もそのお陰で、彼の顔を覚えていた。

「こんな所で何、やってるんですか。ああ、野球部に用事があるなら、監督に話してみますけど。芽衣さんなら、監督も嫌な顔はしないでしょう」

 利央君が笑う。
 私は、桐青高校に侵入した日をきっかけに、高瀬君の打診もあって、暇があれば彼等の練習試合を何度か観戦させて貰っていた。そのせいで監督や、ほかの部員からも名前と顔を覚えられている次第である。

「あの、高瀬君は」
「ああ……、準さんなら、練習には出て来てないですよ」

 少しためらいがちに利央君が、私に向けて、高瀬君の近況を話してくれた。
 高瀬君は西浦に負けた日から、練習をさぼりがちになっているらしい。野球外の所では、普段よりもぼうっとして、不気味なくらいだとか。

「ねえ、高瀬君、今、家に居るかな」
「多分、居ると思いますけど。準さんの家に行くなら、準さんにメール打っておきましょうか」
「ありがとう」

 私は利央君に礼を言って、そのまま高瀬君の家まで向かった。
 高瀬君の家は、何度も行っている。今更、迷う事はない。
 高瀬君の家まで到着した私の胸は、ドキドキしている。高瀬君と面と向かって話すのは、何日振りだろうか。
 緊張しつつ、高瀬君の家のチャイムを鳴らした。何度も鳴らしてみるけど、高瀬君の家からは誰も出て来なかった。
 私は諦め切れなくて、しばらく玄関先で待っていると、高瀬君が慌てた様子で帰って来た。

「利央からメールで、芽衣が家に来るってあったから」

 息を切らしながら、高瀬君が言った。
 そんな高瀬君を見て私は、やっぱり手紙より実物と話している方がいいな、と的外れな感想を抱く。

「うん。何か、色々ごめん。今の俺は、芽衣に手紙を書いてる気分じゃなくてさ」

 高瀬君はいつもの顔で、何でも無い風に私に話している。
 私は高瀬君の雰囲気を見て、意を決した。

「あのさ、提案があるんだけど」

 私が高瀬君を見上げる。高瀬君も、真剣な顔で私を見てくれている。

「手紙が重いなら、止めよう」
「え」

 驚く高瀬君を無視して、私は話を続ける。

「今は、メールもあるんだからそれで良いと思うんだ。私は、高瀬君と手紙をやり取りしていて楽しかったけど、これ以上、高瀬君の負担をかけたくないし、練習にも響くなら、メールでいい。それとも、私が嫌になったって言うなら、此処で別れる手もあるけど……、でも、私は高瀬君と別れる気は無いんだよ」

 ああ、自分で何を言っているのかすら、分からない。
 私は高瀬君を前にすると、駄目になる。
 それほどまでに高瀬君が好きで、彼に首っ丈な自分が笑える。

「それじゃあ」
「芽衣」

 私は自分の思いを高瀬君にぶつけた後、返事も聞かずに彼から逃げるように走った。
 走って走って、走ったら何だか急に笑いたくなった。
 私は笑いながら、心の中では泣いていた。


 その日は当然のように、高瀬君からメールが来る気配が無かった。
 次の日も次の日も、その次の日も、高瀬君からメールが来なかった。高瀬君と別れて一週間ばかりが経っている。
 これは、私とメールもする気も無いという高瀬君の意思表示か。いよいよ、高瀬君に飽きられたか。私はそれを思うだけで、ウツになって、何も出来なかった。
 私は、あの日以来、ポストを覗くのを止めていた。
 だから、その日のうちにそれに気付かなかった事を、悔やんだ。

「高瀬君からあんたに手紙が来てるよ。受け取らないの」

 もう夏休みで、部屋で一日中くすぶっていた私に、母親からそう、声がかけられた。
 私は慌てて部屋を出て、母親からその手紙を受け取る。
 茶封筒で黒のボールペンで書かれた住所と名前。
 これは間違いなく、高瀬君からの手紙だった。

「いつから、入ってた」
「ああ……、一昨日くらい。いつもならあんたがその場で受け取ってるのに、今回はポストに入ったままだったから」
「ありがとう」

 早速、手紙の封を開ける。
 私は手紙の内容を読んで、慌てて家を飛び出した。


「高瀬君」
 
 私は、夢中で走って、手紙に指定されていた公園まで来ていた。公園のベンチで、高瀬君が座って私を待っていた。

 ――会いたい。

 ただ、それだけの簡潔な文を読んで、私は家を飛び出さずにはいられなかった。

「良かった。ちゃんと、芽衣に手紙が届いて。あと何日、此処で待ってるんだって思ったけど。でも俺は、芽衣が来るまで何日も待ち続ける覚悟で居た。芽衣が、諦めずに俺に何度も手紙をくれたように」

 高瀬君が私の前で笑っている。
 高瀬君の足元には、紙袋が置いてあった。私はそれが気になりつつ、高瀬君の隣にためらいがちに座った。

「これ、見てよ。俺が返事を書かない間に、芽衣がくれた手紙。全部、取ってある」

 高瀬君が私に向けて差し出した紙袋の中には、私が高瀬君に送った手紙の数々が入っていた。
 高瀬君は何通かを取り出し、声に出して読み上げる。

「頑張れ。負けるな。また、来年がある。まだ、高瀬君の試合は終わっていない。……、一言だけの文が多いけど、俺は、芽衣の想いが伝わってた。芽衣の方が必死になって、俺を応援してくれてたって」

 高瀬君から息が吐き出される。
 私は。

「俺は、芽衣が必死で応援してくれているのに、結果が散々だったのが悔しかったんだ。それを芽衣にどう伝えればいいか分からなくて、それならしばらくの間、手紙を書くのを止めたらいいって思った。そうしたら、今までの自分を取り戻せるかもしれないと思った。でも、駄目だった」
「……どうして」

 私達の間に、静かな時間が流れている。
 高瀬君は話を続ける。

「俺はやっぱり、芽衣からの手紙を止められないと思ったから」

 高瀬君が私へ満面の笑みを浮かべてみせる。
 私は彼のその笑顔を見ただけで、今までの暗かった気分が吹き飛んだ気さえした。

「もし、芽衣が俺への手紙を書くのを止めたら、って思ったらぞっとしたんだ。今までの楽しみが、なくなってしまうって。野球の練習が終わって、家に帰って、一息吐いた時、芽衣の手紙が丁度良くて、気持ちが落ち着くんだ。メールよりも、芽衣の字を見れば芽衣のその時の想いが嫌なくらい、分かるから」
「……」
「だからあの日、芽衣から手紙を止めようと言われた時、全てが終わった気がした。野球以外、何も出来ない俺に何が残る? そう考えたら、芽衣へ手紙を書かずにはいられなかった。それから……、こればっかりは手紙じゃなくて、ちゃんと言葉で、此処ではっきりさせるけど」

 高瀬君がベンチから立ち上がる。私もつられて立ち上がった。

「俺は、芽衣が好きだ。芽衣も、芽衣の手紙も、全部」

 私は、泣きたくなるのを堪えた、その代わりに。

「私も、高瀬君が好き。高瀬君も、高瀬君の手紙も全部、好き」

 心地良い風が、私達の周りを通り過ぎる。
 それから最初に噴き出したのは、高瀬君だった。私も彼につられて笑い出す。
 そうして私達は久し振りに声を立てて、笑い合った。

「実はさ、芽衣から文通しよう、って言われた時から、芽衣が好きになってた。だって今時、文通なんて言葉を知って、それを実行しようとする子が居るとは思わなくて、珍しかったからさ。面白い奴だって思って、それで」

 笑い終わってしばらくして落ち着いた後で、高瀬君がそう、私に告白する。

「これからも、芽衣への手紙はかかさず書くよ。芽衣のお陰で大分、国語の成績も良くなったしさ」
「あはは。私も、高瀬君の手紙はこれからもずっと、書くよ。実は、メールでやろうって言いながら、本当は、高瀬君に手紙を書きたかったんだ」

 これは、私の本当の気持ち。
 高瀬君も私の気持ちが伝わったのか、自然と手を繋いで二人で公園の中を散歩していた。

 そして、私と高瀬君の手紙は、夏が終わって秋になった今でも続いている。

PCでのメールの遣り取りが蔓延している昨今、今時の子がどれだけ「文通」という言葉を知っているのでしょうか(女の子同士だったら、教室内でちょっとした手紙の遣り取りはあるかもしれませんが、切手貼ってまで本格的にやるのは少数派かと)。
私の学生時代は、かろうじてメールがありましたがそれはケータイについていた一部の機種だけで今みたいにそんなに頻繁にやってる人は居ませんでした。
それを思い出して書いたのが「手紙」でした。
高瀬君は他校キャラで一番好きです。彼なら「文通」もそうバカにすることなく自然と受け入れるのでは、と思い、彼を相手にした次第です。
しかし高瀬君の笑いのツボは何処から来るのか、まだ、掴め切れていないのが残念な所です。

更新履歴:2008年01月04日