1センチの夜明け(02)

「全く。夜に敵の中、しかも女の部屋にのこのこ来るなんて、どういう神経をしているんですか。あなたのお仲間だって、心配していますよ」
「俺はジャキーニ一家を敵だとは思っていないし、俺の仲間達もの所なら問題無いってさ」

 は思い切り嫌な顔をさらけ出すも、レックスはいつもの笑みを浮かべてそれに応じる。
「オウキーニどころか、ジャキーニも俺だと知っていながら、この船に快く入れてくれたよ」
「……本当ですか?」
「いやあ、ウチのあんさんもレックス先生はんには弱いんや。堪忍な」
 あはは。に睨まれるも、オウキーニは笑って誤魔化した。
「では、ごゆっくり」
 オウキーニはそそくさと、とレックスの前から立ち去った。
 はレックスと二人、残される。
 此処でレックスがを誘う。
、外に出ない? 此処じゃちょっと、話しづらい事だ」
「……どういう話ですか。内容を先に言ってください。もしかして、召喚術を使えない私を襲う気でそれを持ちかけてるんですか」
 レックスは軽い調子でを誘うも、は警戒心をゆるめずレックスに応じる。
 レックスは頭をかきながら、に言った。
「無色についてだよ。昼間、畑でがヤードに無色がどういう組織かを聞いて、また夜に出直してきてくれと言ってたじゃないか」
「ああ、確かに言いましたね。って、先生は本当にヤードさんに無色の事を聞いて、それでわざわざ夜に来たんですか」
 まさか、此処まで本気にされるとはも思わず、これには驚いた。
「だって、無色について何も分からないんじゃ、こんな夜にと話が出来ないだろう? まあ、が夜に俺と外で話すのが嫌だっていうならまた昼間に来るよ」
「いえ。先生に夜に出直して来いと言ったのは、私ですからね。良いでしょう。誘いに乗ってあげます」
 昼間は生徒達も居る中で、無色の話は余りしたくない。それもあってはレックスの誘いに乗り、一応、形だけ杖を持ってレックスと共に船を出た。



「この辺で良いかな」
「……」

 レックスがを連れてきたのは、森の中にある、青空学校だった。
 昼間は学校だけではなく遊び場としての機能を果たしており、子供達で騒々しいのに、夜は人気が無く不気味なくらい静かだ。
 も、レックスの誘いがなければこんな所まで来なかった。
 はレックスを睨みつけて、その真意を問い質す。
「何でこんな所まで連れて来たんです。人に聞かれたくない話でも、船の周辺で事足りるでしょう」
「ああ、には無色の話以外にも、魔剣について話しておきたくてさ。船の周辺だったらジャキーニの海賊達にそれを目撃されるかもしれないから面倒で、此処を選んだ」
「魔剣の話?」
 今回は無色に限っての事で、魔剣の話は別にしなくても良いのに? それからジャキーニの船員達に目撃されるとはどういう訳だろう? は、それこそ訳が分からないという風に、首を傾げる。
 レックスが青空学校に設置されている切り株の椅子に腰掛ける。
も、そこの向かいの椅子に座ったら」
「……」
 もレックスにならって、しかし彼の向かい側ではなく、斜め向かいの切り株に座った。単純な嫌がらせである。
 レックスはのそれを見ても非難せず、むしろ笑みを浮かべて言った。
らしいね」
「……」
 嫌がらせのつもりだったのにそう言われて、何かこの男に負けた気しかないのはどういう訳だ。はレックスにやられっぱなしなのが悔しく、顔を引きつらせる。
「それで、俺はの言う通り、ヤードに無色が何たるかを聞いてきたんだけど」
 レックスの方から話を切り出した。
「ヤードの話を聞く限りでは、無色は召喚師の総本山である聖王国でも嫌われているようだね。まあ、召喚獣を実験の物扱いとしか見ていなくて、召喚師の道徳に反する事ばかりをやってきたんじゃあ、その扱いも仕方無いか」
「……」
 この男は本当に、ヤードに無色の召喚師が何たるかを聞いて来たようだ。はこの時、自分の発言に気をつけなければいけないと実感した。
 はそれでもレックスがヤードに話を聞いてきたというなら、自分の立場も分かるだろうと思った。
「そうです。無色は、召喚獣を自分達の良いように扱ってきたんですよ。私もそういう実験に加担した時もありました。この島も、無色の実験場だったというじゃありませんか。……これでは、この島の住人も、護人四人も、無色の仲間である私を恨んで当然でしょう」
「……、そうでもはただ無色の召喚師というだけで、その島の実験に直接手を貸していた訳でもないし、今だってジャキーニ一家と一緒になって畑仕事を手伝っているじゃないか。それでどうして、護人や島の住人達に恨まれるというんだ? は、ヤードと同じで、島の皆に受け入れられるよ」
 レックスはにいつもの笑みを浮かべて、模範的な回答をした。
 はそれに苛立ちを覚えつつも、レックスを諭すように放した。
「先生。昼間、私が言いましたよね。私は、無色の応援が来たら無色に寝返ると。私は無色が来れば、召喚石も手に入り、無色の召喚師として復活出来ますからね。もちろん、ヤードさんはそんな真似はしないでしょう。彼はもう、無色を抜けているんですから。でも私は、まだ無色にしがみついているんです。ヤードさんから話を聞いているなら、これが何を意味するか分かりますよね。先生は、ヤードさんを信頼するというならヤードさんだけを信頼していればいい、他の無色をそこまで信頼しないで欲しいんですけど。他の無色までヤードさんと同じように扱えば、先生の方が痛い目を見るんですよ?」
「うん、分かってるよ」
 レックスはうなずき、その後ではっきりと言った。
「でもは、ヤードと同じで、その時になったら無色に寝返らないと思う」
「は?」
 この男は何を言っている? 今までの自分の話を聞いていなかったのか。は呆然とレックスを見詰める。するとレックスもをまっすぐに見詰め返してきた。
 そして。

「――俺がを好きになってるんだ、君も俺を好きになる。はそうなれば、無色に寝返る理由が見付からない」
「――」

 は余りの事に、何も言い返せなかった。
 しばらくしての方から口を開いた。
「……本気で言ってるんですか、それ」
「本気で言ってる」
「ああ、カイル一家の誰かと賭け事でもしてるんですか? 無色の私が先生で落ちたら、先生の勝ちで何か見返りがあるとか。私はそんなのに引っかかりませんよ」
「違う、そんな賭け事にを使っていない」
「どうして、先生ほどの人が私なんかを……。そう、召喚師の私が召喚石を取り上げられて役立たずに成り下がったのに同情しての事でしょう?」
 そうだ。これしか、この男が自分を好きになる理由が見付からない。この男は、私が可哀相で、そんな事を言う。は、レックスが自分の意見に同意するのを待った。
「うん、最初はそれに同情して、を見てたんだ」
「やっぱり」
 やっぱり、同情的な感情からの好意だという事が、これではっきりした。はそれならそれで良い、この男に好きだと言われて本気になって舞い上がり、後から「同情で言ってただけで、本気にされるとは思わなかった」と告白されるよりはマシだと思った。
 しかしレックスは首を横に振って、にその思いを吐き出した。

「そうでも俺は、が護人達から召喚石を取り上げられてもジャキーニ一家の中で頑張ってたのを、ちゃんと見てたんだ。普通なら召喚師が召喚石を取り上げられれば何も出来ない役立たずとみなされて、船を追い出されるか、こき使われるかどちらかだ。今回は特殊な事情で、こき使われるしかなかった。
 俺はがそうなった時、君は俺達に助けを求めて来るだろうと、思っていた。自分は野菜泥棒に加担していないから無罪だと、訴えるかと思った。それで俺達もの訴えを聞いていればの訴えを聞き入れて、護人達と交渉しての召喚石だけは取り返してあげるつもりだったんだ。そしてその後、君がここぞとばかりにジャキーニ達を非難するだろうと思っていたら、違ってた。 
 君は、俺の予想に反してジャキーニ達を裏切らず、召喚術が使えなくなった後でも、こき使われても彼等についている。
 俺はそんなが、面白いと思った。そこからを監察するようになった。
 俺はを観察していくうち、が結構根性のある子で、更に言えば畑仕事も召喚術の勉強も、その他の事も、何事にも真面目で取り組むその姿が良いなって、思い始めた。俺はそういう風に、頑張ってる子が好きなんだ。だからを追いかけているうち、自然とを好きになってた」

 レックスの思いは本物だろうなと、は彼の話を聞いていて思う。
 それでも。
「……それでも私は、無色の派閥の召喚師なんです。それだから先生が私を好きでも、私が先生を好きになる事はまず無いでしょう」
「どうかな。が無色の派閥の召喚師でも、俺を好きになる可能性があると思うよ」
「……、大した自信ですねえ、私が無色の召喚師ではなくても、先生を好きになるっていうそれなりの理由が見当たりませんけどね」
 ははは。はそう言い切ったレックスを前にして、笑ってやった。
 レックスは、に淡々と言う。
は、俺の魔剣を追いかけているだろう?」
「はあ、それはそうですけど」
が俺の魔剣を追いかけているうち、ある時から魔剣じゃなくて俺に目を奪われるかと期待してるんだけどね。俺がに同情からそれに変わったみたいにさ」
「ああ……」
 は本音を明かせば少し、この男を好きになりかけていた。理由はレックスと同じだ。魔剣を追いかけて行くうち、レックスについて考えるようになり、自然と彼を目で追うようになった。でも、自分は無色の召喚師であって、彼を相手にすればどうしたって別れる道しかない。自分が無色の召喚師でなければ、今の告白に応じていたかもしれないと思うくらいには、レックスに目を奪われている。
 の思いを知ってか知らずか、レックスは笑みを貼り付けて言う。
「もしも、無色の軍が島に攻めて来た時に、が俺を好きになっていたらは俺達を裏切らず、それで無色について行く理由が無いよね」
「……さあ、それはどうですかね。いくら好きな男の為でも、無色の召喚師の私は、結局は先生達を裏切っているかもしれませんよ?」
 それが無色たる人間の性質かもしれない。レックスもがそう答えるのを分かっていたのかどうか、今のには分からないのでレックスを冷たく突き放した。
 それでもレックスはめげずに、に迫る。
「賭けをしないか?」
「え?」
「俺とで、賭けをしないかと聞いている。因みにこれはカイル達が考案した賭け事ではないよ。俺個人が考案した賭けだ」
「……何の賭けですか」
 は、レックスと賭け事をすれば何の条件でもレックスの勝ちになる気がして、余り乗り気ではなかったけれど。
の言う通り、無色の軍勢がこの島に攻め込んできたとする。そしてその時、が俺を好きになっているかどうかの賭けだ。その時にが俺を好きになった場合は俺の勝ちで、が今のまま俺に何の感情も無かったらの勝ちにしよう」
「なるほど。面白そうな賭けですね。それで、先生が勝った場合はどうなるんですか?」
が俺の事を好きになって俺が勝った場合、は俺達の――カイルの船で保護して、護人や俺達を裏切らないようにする。どうかな」
「……私が勝った場合は?」
が勝った時は……、そうだな、俺の魔剣でどうだ?」
「え、本当に私に魔剣をくれるんですか?!」
 これにはも驚きを隠せず、レックスに詰め寄った。
「あの、これ、勝っても負けても私だけ得をする賭けじゃないですか。先生は勝たないと何の得も得られません。先生は、それで良いんですか?」
 自分は賭けに負けても手厚く保護されるというのに、彼の場合は島の運命さえも決める魔剣を手放すという。この賭けはの場合、勝っても負けても得になる。では、レックスは? は余りの事に、レックスの出してきた条件に戸惑う。
 それに。
「それに、先生は魔剣を手放す方法を知ってるんですか」
 これが一番の疑問だった。
 レックスは、あっさりとした調子でに話した。
「魔剣を手放す方法は今の俺には分からないけれど、護人達なら何か知っているかもしれないよ。それが分かったあかつきには魔剣を手放して、この魔剣をに渡そう。それでは無色に堂々と帰れるだろう? 何の手柄も無く手ぶらで帰るのと、魔剣を持ち帰るのとでは、無色でも待遇が違うんじゃないか?」
「それは、そうですけどでも……」
はこの賭けに乗るかい? 此処で断る事も出来るけど」
「……」
 どうする? レックスは笑みを浮かべて、に返事を促す。
 本当に、この賭けに乗って良いのか。この男の事だ、何かまだ裏があるのでは? はレックスにこの賭けに乗って良いかどうか、迷いを見せる。

「……先生は、魔剣を軽く見過ぎです。魔剣をそう軽々しく、賭けの対象にして良いものじゃありません」
 ようやくしぼりだした回答がこれか。は魔剣入手を前にして、怯んでしまう。
、俺は魔剣を軽くは見ていない。そう言うは、魔剣がどういうものか分かったうえで、俺の魔剣を追いかけていたのか?」
「それは……」
 実を言えばただ単にセルボルト家に「盗まれた物を取り返せ」という任務を受けただけで、魔剣がどういうものかは港町でヤードが解放するまで分からなかったし、魔剣を宿すとどうなるかもレックスが現れるまで分からなかった。はレックスに反対に問い質され、返答に窮する。
 の事実を知ってか知らずか、レックスが彼女に持ちかける。
「そうだ。、魔剣の力を見てみる?」
「え? 何を――きゃあっ」
 がレックスに何を言っているのかと言い終わらないうちに、辺りをまばゆい光が包み込んだ。
 突然に昼のように明るくなって、は自分の目を守る為に咄嗟に目を閉じた。
、もう目を開けて良いよ」
「……あ」
 はレックスの合図で、恐る恐る目を開ける。すると目の前に、魔剣の力を解放して赤から白へと変化を遂げたレックスが佇んでいた。
「綺麗……」
 はレックスの白い姿を見て思わず、そう呟いた。
 が魔剣を解放したレックスのこの姿を見るのは、今回が初めてではない。帝国軍がこの島に入り込んで島の住人達を攻めてきた時、ジャキーニ一家の皆とこっそりレックス達の戦いを見学していて、そこで何回か彼が抜剣した姿を目撃した。ジャキーニ達には「あんな恐ろしいものを背負う先生は大変だ」という印象を与えたようだが、は違った。
「これが、魔剣の真なる力だ。は、これを奪いに来た。これが恐いと思うなら、もう、追いかけない方が良い」
 レックスは、に諭すように話している。
 しかしはおもむろに、レックスに手を伸ばしてきた。
「そうだわ、今の私は魔剣ではなくて、魔剣で美しく変化した先生に切られたいと思ったのよ……。他の男に切られるより、魔剣で美しい先生に切られる方が良いもの」
……」
「私は先生のその姿が恐いとは思えません。むしろ、羨ましいくらいです。それでこれを無色が狙っているのも、ヤードさんがこれを危険物だと思って無色から持ち出したのも分かりますよ」
「……そうか」
 魔剣の恐ろしさを分からせる為に抜剣をしたのに、これでは逆効果だったか。レックスはに参った風に笑う。
 それでもこのチャンスを逃すほど、バカではない。レックスはすかさずの手を取り、強引に自分の方へと引き寄せた。
「せ、先生?」
 は余りの事に、この時ばかりはレックスに避けられなかった。
 はレックスに訴える。
「は、離してくださいよ」
「嫌だ」
「嫌だって……、離さないと、無色仕込の召喚術をぶっ放しますよ!」
「忘れたのか、今の君は召喚術は使えない」
「うっ」
「しかも、が召喚術を使えた所で、抜剣状態の俺と、ただの召喚師のではどちらが格上だと思う?」
「……、魔剣をそういう、ずるい手に使わないでくださいよ」
 はレックスの暴挙に呆れ返り、それに関して訴える事も、もがく事も止めて大人しくなる。
 レックスが大人しくなったの耳元でささやく。
「もしもが俺の賭けに勝って魔剣を手に入れて無色の召喚師として俺達を裏切り、その結果、俺以外の誰かに切られそうになった時は、俺が真っ先にの元に駆けつける。そして、そこからを守ってみせるよ」
「……、先生の裏切り者の私を守れば、先生の方が酷い目にあいますよ」
「構うものか。俺は魔剣で、守りたいものを守ると決めている。それについて誰も文句は言わせない」
 言ってレックスは、を強く抱き締める。
 はレックスの腕の中で、もがく。
「離して」
「嫌だ」
 レックスはを腕の中に閉じ込めて、そこから逃げ出さないようにした。は召喚石も持っていない召喚師である為に抵抗出来ずに逃げ出せず、レックスの成すがままである。
「俺は、どんな理由でも、自分の好きな子を手にかけたくないんだよ。勿論、好きな子が敵にやられるのを見るのも嫌だ」
「……」
「ヤードに、無色では何の成果もあげられずに手柄も無くのこのこ帰れば、召喚獣と同じく、実験の道具として酷い扱いを受けると聞いた。だから俺の魔剣がの手柄となって、が無色に帰っても無事でいられるなら、魔剣を手放す事に何のためらいもないよ」
「先生……」
 彼の思いは本物だ。はそれを知った途端、体中が熱くなった。
「それからね。が俺の賭けに乗るまで、離さないから」
「……あ」
 レックスの賭けに乗れば、勝っても負けても自分が得をするようになっている。自分は多分その時になれば、この賭けに負けているだろう。何故なら今のレックスの言葉で、この男に自分のプライドも何もかもを奪われたのだから。これは今、レックスに告白しないつもりだった。この男に負けっぱなしなのが悔しいからだ。
 それでもレックスに気の無い振りをしてその時に賭け事に勝ったと言って彼の魔剣を手に入れたら、胸を張って堂々と無色に帰る事が出来るだろう。憧れのツェリーヌにも目をかけてもらえるかもしれない。
 はこの賭けに乗った方が良いと、決心がついた。
「……分かりました。先生の賭けに乗ってあげます」

「だから、離してください」
「……でも」
「私は、先生の賭けに乗ると言ったんです。離してください」
「……」
 そういう約束でしょう。に睨まれたレックスは渋々、彼女を解放した。
 がレックスに再確認の為、改めて賭けについて聞いた。
「賭けの内容は、無色が攻めて来た時に、私の先生に対する気持ちに変化があるかどうかですね。私が先生を好きになっていたら先生の勝ちで、先生に何の感情も無かったら私の勝ち。それで無色の私が先生を裏切らない事、先生は魔剣を私に譲ってくれるのがそれぞれの報酬という事で、良いんですよね」
「ああ、その通り、あってるよ」
「分かりました。その時になったら先生は、私を訪ねて来てください。その時に私も先生に返事をします」
「分かった。その時が楽しみだ」
 レックスはに微笑み、此処で抜剣状態を解除した。
 そして。
 レックスは心底安堵するよう、胸を撫で下ろした。
が俺の賭けに乗ってくれて良かったよ。これで、を守れる」
「……あ」
 はこの時、レックスの今の言葉で、もしかしたらこの男は最初から自分を保護する目的でこの賭けを持ち出したのではないかという事を、悟った。賭けに勝った場合はそれでよく、賭けに負けた場合も「護人達では魔剣を手放す方法が分からなかった」と言えば、それで終わりだ。そして自分が男を裏切り無色に寝返った結果、護人達か帝国軍の誰かに切られそうになった場合も、この男が駆けつけて自分を守ってくれるだろうと、先刻の会話で確信を得る。
 何もかも、計算づくの賭け。これも、自分を守るというだけの為に。は、レックスの思いを知って泣きそうになるのを堪える。
「先生は……」
「何?」
「……いえ、先生は凄く優しい人だと思いまして」
「そう? それで俺の好感度、上がった?」
「十点くらいは」
 十点か、もう少し頑張るかな。と、レックスはに呟くように言って、それから。

「さあ、もう夜も遅い。ジャキーニの船まで送っていくよ」
「……はい、お願いします」

 召喚術を使えない身としては、夜の森は恐ろしいものがあった。ケモノ以外にも何が潜んでいるか分からないせいだ。は素直にレックスの言う事を聞いて、彼の後ろをついて歩いた。


 はこの時にレックスの優しさほど残酷なものはないと、思い知らされた気がした。

三万打記念企画、リクエスト品として仕上げました。
リク内容が「レックスに余り興味が無い夢ヒロインと、そんな彼女にめげずに頑張って追いかけるレックス」でした。
冷たい女の子にするにはどうすれば良いか、カイル一家ではレックスに興味無くても自然に目がいってあっさりと彼に落ちそうだったので駄目で、帝国軍では余り接触する機会も無いだろうという事で、ジャキーニ一家に落ち着きました。
頭は良いけどちょっと抜けてる感じにしたかったので、無色の召喚師になりました。ヤードの一つ下くらいの実力者という感じで。召喚術が使えれば、ヤード並に力があります。
こういう、相手キャラを冷たく突き放すという夢ヒロインも、新鮮で良かったです。
因みにオウキーニの口調があれであってるかどうか、分かりません。関西弁(?)は難しいですね。

更新履歴:2013年03月01日