会いたい。
会いたいよ。
何処に居る?
此処まで来て会えないままなんて、嫌だ。
会いたい。
会って、その顔を見て、抱き締めたい。
レックスはその一心で、ユクレスまで駆ける。
「あ、レックス」
「お。ようやく、おでましか」
レックスがユクレスの広場まで行くと、そこには。
「あれ、皆、揃ってどうしたの」
「ええと……」
そこには目的のナップとウィルの二人どころか、アティとアリーゼとベルフラウ、スバルとパナシェとマルルゥ、ミスミ、カイルとソノラとスカーレルとヤードのカイル一家の面々、それから、ヤッファとキュウマ、ファリエルにアルディラと、四人の護人も集まっていた。
「皆が居るなら丁度良かった。誰か、を見なかった?」
レックスがという名前を出したのを聞いて、全員がそれぞれの顔を見合わせる。
そして皆を代表するよう、一歩前に出たのはスカーレルだった。
「暗くなってきて危ないから、そろそろ、センセを呼びに行こうと思ってたのよ。これ、に関係する事だから」
「……何があった?」
これは、ただ事ではない。レックスもそれを察知し、スカーレルを見据える。
此処でスカーレルではなくウィルが言い難そうに、レックスにそれを打ち明ける。
「……さんが、森の中に入ったまま出て来ないんです」
「え」
ウィルに続いてパナシェがおずおずと、レックスに補足するように話した。
「僕達、さんが薬草を探しているっていうから、その薬草がある場所を教えたんだ。でもその場所は、せめて誰かと一緒に組んで入らないと危ない場所だったんだよ。……そのへん、よくない獣がうろついているから」
「……何でがそこに一人で入るのを止めなかった」
パナシェの話を聞いたレックスの顔が、険しくなる。
「オレ達、がそこに入るならオレ達と一緒に行こうって、一応、誘ったんだぜ」
「そうそう。でもは一人で大丈夫だからついて来ないでって、おいら達を無視して行ったんだ」
「マルルゥ達がついていれば、ツンツンさんもこんな目にあわなかったですよ」
オレ達は悪くない。ナップとスバルはその正当性を主張し、マルルゥは彼女の行いを非難する。因みにマルルゥは以前からを「ツンツンさん」と呼んでいる。
「子供達の言う事は本当じゃ。あの小娘、スバル達の力を全面的に否定しおって」
ミスミはレックスに、が子供達を――スバルを否定した件を忌々しげに言って、舌打ちする。
「それで、が森に入ったきり中々帰って来ないからって、子供達がアティとアタシ達を呼んだのよ。アタシ達もなんだかんだで、を心配しているから」
「うん。が帰って来ないの、心配だよね」
「そうですね。いくら無色の召喚師のさんでも、召喚石を持っていない状態で一人で獣を相手にするのは厄介でしょう」
スカーレル、ソノラ、ヤードもを心配しているようだ。
は、ジャキーニ一家の野菜泥棒で連帯責任を取らされ、護人達に召喚石を取り上げられている。
しかし、レックスはある不審を抱く。
「……君達がを心配してくれるのは良いけど、何で皆でそこに留まっているんだ」
心配ならさっさと森に入って、を助けてくれれば良いではないか。自分が居なくても、アティやカイル達ならあっさりとを助けられるのでは? レックスのその疑問に答えるのはカイルだった。
「――オレ達がイスラと同じ無色の派閥のを、助ける必要があるのか? は薬草集めというが、実は無色の派閥と連絡を取り合っているかもしれない。最悪、無色に寝返った可能性も捨てきれない」
「そんな事は」
「お前がそんな事は無いと言い切れても、オレ達はイスラの件もあって、お前のようにを見れないんだ」
「……」
カイルの言葉は、レックスに突き刺さるには十分だった。
「オレ達もカイルと同意見だ。は薬草探しにかこつけて、実際は、無色にオレ達の情報を流しているかもしれんという疑惑は拭えんからな」
「そうね。その疑惑が晴れない限り、私達はに手を貸せないのよ」
ヤッファに続いてアルディラが厳しい顔つきで、レックスに未だにの捜索に出ない理由を話した。
それを聞いたレックスは。
「どうすればいい」
「え」
「どうすれば、のその疑惑が晴れる?」
「レックス……」
レックスも笑みを消して、真剣な顔で護人達と向き合う。
ふ、と、キュウマが笑みを浮かべる。
「殿の疑惑を晴らすのは、レックス殿にかかっているんですよ」
「ええ。それで私達も、レックスさんの帰りを待っていたんです」
キュウマに続いてファリエルもレックスに微笑む。
アティが何かを決意したよう、一歩前に出る。
「私達にレックスのに対する正直な気持ちを、聞かせてください」
「アティ」
「そうすれば――レックスの態度次第で、の今後も決まるんですよ」
さあ。
アティ以外――ウィルとナップ、アリーゼとベルフラウ、スバルとパナシェ、ミスミ、カイルとソノラ、ヤードとスカーレル、ヤッファ、アルディラ、キュウマ、ファリエル。全員が、レックスの答えを待っている。
レックスは目を伏せた後、決心したように目を開いた。
そして。
「俺とは、付き合ってるんだ。それだからは、俺達を裏切る必要が無い」
「それは、どういう意味での付き合いですか」
「俺はを好きで、も俺を好きだって言ってくれている。要するに、男女の関係だ」
「そうですか。それならも、私達を裏切る必要がありませんね」
アティはレックスの解答を聞いて、満足そうに微笑む。
「ようやく、認めたわね」
「ですね」
レックスの答えを聞いてベルフラウとアリーゼも嬉しそうだった。
「何だ。ベルフラウとアリーゼは、ウィルとナップみたいにについては否定的じゃないのか」
「ええ。あの方、さすが無色というか、その知識の凄さはアティと近いものを感じますから。そこはわたくし達、認めてるんですのよ」
「そうですね。さんのそれが分かったのは一度、アティ先生の提案でさんにも私達の授業に参加してもらった時があるんです。それで」
「え、そんな事があったのか?」
それは初耳だ。レックスはアリーゼから意外な情報を聞いて、素直に驚く。
「はい。でもこれ、私とベルとアティ先生の三人しか知らない事です。それというのもさんと私達は、偶然、そこで会ったんです。その時、アティ先生が強引にさんを私とベルの講師にどうかと、誘ったんですよ。あれは確か、イスラの裏切りの事件の前でしたね」
「そうそう。その時のは、アティの強引さに辟易していましたけど。でも、わたくし達からすれば、そこでの知識量に驚かされたし、先生としても凄く良かったので、それ以来、の見る目が変わったんですの。多分、それにナップとウィルも参加していれば、わたくし達と同じくの見る目も変わっていたと思いますわ」
「そうか……」
レックスはアティの機転によりアリーゼとベルフラウのに対する評価を聞いて、嬉しくなる。
「それだから私達は、さんとレックス先生が結ばれるのは良い事だと思ってるんです」
「ええ。わたくしもアリーゼと同じ意見ですわ。も、レックスを選ぶなんて、良い目をしていると思っているくらいに」
「……」
イスラの裏切り事件で皆がを否定する中で、きちんとを認めてくれる人間も居る。レックスはそれが分かり、分かった途端に、ますます、に会いたいという気持ちが強くなった。
「……俺、を探しに行って来るよ」
「待って。その必要は無いわ」
「何だ。まだ、を疑うのか」
暗い森の中で泣いているだろうを心配して森に向かおうとするレックスを止めたのは、スカーレルだった。レックスはまだを疑うスカーレルを睨みつける。
スカーレルは溜息を吐いて、レックスにそれを明かした。
「ジャキーニ一家の連中が、の捜索に入ってるから大丈夫よ」
「はい?」
スカーレルの情報を聞いてレックスは、間抜けな顔をさらけだす。
そんなレックスを見て、ソノラがくすくす笑う。
「あたし達から連絡を受けたジャキーニ達が、血相を変えて森の中に入っていったんだよ。! って叫びながらね。その時のジャキーニの顔ったら!」
「そうそう。あの時のジャキーニさん達の顔を、レックスさんにも見て欲しかったですね」
ソノラに続いてヤードもその時の状況を思い出したのか、笑っている。
カイルがレックスの肩を叩いて、ニヤリと笑う。
「あいつら、一人一人は大した事ないが、団結力はオレ達よりも上回るんじゃないか。あいつらがを見付けるのに、そう時間はかからんだろ」
「……何でそれ、俺に黙ってた」
「お前だって今まで、オレ達にとの関係を黙ってただろう。オレ達はお前からそれを引き出す為に敢えて、ジャキーニ達の事を黙ってたんだ。これで、おあいこじゃないか。なあ?」
「……ぐっ」
カイルに言われては、レックスも反論出来ない。
「レックス先生はどうして、僕達にさんとの関係を黙っていたんですか? 僕達がそれを聞いても、いつもその関係を否定していましたよね」
「だなあ。それが分かっていればオレ達だってをそう否定的に見なかったし、もそんなに苦労する事もなかったのにさ」
ウィルとナップが興味深そうな目で、レックスを見上げる。
「それは」
「それは、本人に聞いた方が早いかもしれないわね」
レックスが答えようとしたのを遮ったのは、アルディラだった。
「本人?」
「良かったわね。彼女がジャキーニ一家を従えて、森から出て来たわ」
「あ」
レックスがアルディラが示した方をつられて見れば、両脇にジャキーニとオウキーニに、後方でジャキーニ一家の海賊達に支えられるも、疲れた表情で出てきたの姿があった。
「!」
「きゃあっ!?」
「うおっ」
レックスはジャキーニとオウキーニをはねのけて、に抱き付いた。
「、会いたかった!」
「な、何、何するんですか、いきなり! 離して! 離さないと、訴えますよ!」
「ああ、その反応は俺のそのものだ」
「は、はあ、何言ってるんですか! だから、離してくださいってば!」
がレックスの腕の中で暴れるたび、レックスのを抱き締める力が強くなる。
その間、オウキーニがスカーレルに近付き、彼に聞いた。
「レックス先生はんは、とうとう、はんとの関係を認めたんでっか」
「ええ。を助ける為に、全部、白状したわ」
スカーレルもくすくす笑いながら、オウキーニに答える。
「レックス、そろそろ、を離してあげたらどうですか。どうしてこうなったかの、説明も出来ませんよ」
「ああ、そうだった」
レックスはアティにたしなめられて、ようやく、を解放した。
レックスに解放されたは冷静さを取り戻し、周囲の状況を確認する。
そして。
「……私を探しに来てくれたジャキーニ一家の皆さんが、カイル一家の人達や集落の人達が私を心配していると聞いてましたけど、此処まで騒ぎになっていたとは知りませんでしたよ」
「皆、を心配して集まってくれてたんだよ」
状況を確認した後に此処まで大ごとになっていたとは思わず肩を落とすと、そんな彼女を笑顔で出迎えるレックスと。
そして。
「……先生は、私との関係を皆にばらしたんですか」
は、レックスを恨みがましく見上げる。
レックスはそんなに苦笑しつつ、答える。
「こうなったら、仕方無いだろう。皆もを心配していたけど、イスラの件もあってか中々手を貸せないって言ってたんだ。それで俺との関係を知った途端に、協力してくれた」
「……そうですか。それならもう、隠す必要もなくなりましたね」
ふぅ。はこれ以上、皆にレックスとの関係を隠す事に関して諦めるよう、溜息を吐いた。
パナシェが遠慮がちにに近付いて、それを訊ねる。
「ねえ。さんはどうして、森から出て来なかったの? 僕が心配した通り、よくない獣とあってたのかな」
「……君が心配するような獣とは遭遇していないわ。私、ガケの上で珍しい薬草を見付けたのでそれを取ろうとしたら、そこから足を踏み外して落ちて、それで足が痛くて動けなくなってたのよ。そこへ、ジャキーニ一家の皆が来てくれて、私を助けてくれたのよ」
パナシェに続いてスバルが腕を組んで、マルルゥもの周りを飛びながらそれを聞き出した。
「ジャキーニ一家が来てから、また、随分と時間がかかってたな?」
「マルルゥも、ヒゲヒゲさん達が森に入ってから時間が経っているので心配したですよ」
「それは、ガケから落ちた拍子に今まで集めた薬草を周りに散らばったせいよ。それをジャキーニ一家の皆と拾ってたら、こんなに遅くなった」
の説明を聞いたレックスは屈んで、彼女の足を見る。確かに彼女の足は泥だらけで、ジャキーニ一家の誰がやったのか分からないが、簡単に包帯が巻かれていた。
「足をやられたって、大丈夫か」
「大丈夫ですよ。オウキーニさんのストラのおかげで、歩けるまでには回復していますから」
「そうか……」
オウキーニは確かに、ストラが使える。ストラであれば、の足も大丈夫だろう。レックスは一応、安心する。
今まで遅れた事情説明が終わった所で、ミスミが目を細めて、を見据える。
「小娘。おぬしが、スバル達の実力を認めて子供達を一緒に連れて行けば、こんな大そうな事にもならんかったんじゃがの」
「……」
「」
「先生?」
はミスミを前にして怯んでしまい、それについて口を閉ざしてしまった。そんなを支えるのは、レックスだった。レックスがの手を握ってきたので、は何だとレックスを見上げる。
「俺がついているから、大丈夫だよ」
「……ッ」
にっこり。はレックスの微笑みを間近で見て柄にもなく顔を赤くし、それを隠す為にそこから顔を逸らした。
ミスミはそんな二人に呆れつつも、それを追及する手はゆるめない。
「それで、どうなのじゃ?」
はレックスの温もりを感じて彼がついているから大丈夫と心の中で言い聞かせ、息を吐くと同時にその理由をミスミに打ち明けた。
「そ、それは、私が子供が苦手だからです」
「何じゃと?」
「私はその、子供が苦手なもので、子供達がついて来た所でどう接して良いか分からなかったんです。先生達みたいに子供の扱いに慣れていなくて……。それに、私が薬草を集めているうちに、子供達がはぐれると、その対応の仕方が分からなったし……」
「……そうか。それは、難儀じゃのう」
ミスミは、の言葉を信じるように彼女に同情を寄せる。
はそんなミスミに、目を見張って訊ねる。
「あ、あの、私の言葉を信じてくれるんですか」
「うむ? おぬしが自分の言葉できちんと説明しているなら、それを信じるのが常識じゃろうて」
「……そうですか」
は自分が無色の派閥に属しているというだけで、今まで自分の言葉を聞いてくれる者達が少なかった中で、ミスミのその結論は十分満足いくものだった。
アティもレックスと同じように、にこにこ笑いながら、に言った。
「もあの時みたいに、私達と一緒になって青空学校の講師をすれば、子供達の扱いも次第に分かってくると思いますよ」
「それが効果的かもしれないけど、あなた達と一緒の講師は勘弁して」
「効果的なのが分かってるのに、どうして勘弁して欲しいのですか?」
「……アティだけならまだ良いけど、レックスが居るとあまり集中出来ない」
「そうですか、そうですか。レックスのせいで集中出来ないなんて、も可愛い所がありますね」
「……」
顔を真っ赤にしてアティにそう断ると、の断り方が可愛いと思って納得して微笑むアティと。
「そうだ。はどうして今まで、オレ達にレックスとの関係を秘密にしていたんだよ」
「そうですよ。さんがさっさとレックス先生との関係を明らかにしてしまえば、僕達もさんをイスラと同じ扱いをしなかったのに」
アティとのやり取りを聞いていたナップとウィルが、その疑問をぶつけてきた。
「それは……」
「それは?」
の言葉を、全員が固唾を飲んで待つ。
「……」
「」
の隣に居るレックスが、の手を強く握ってきた。
それだけで。
「……私、まだジャキーニ一家に居るのよ」
「それが、どうした」
「ジャキーニ船長とジャキーニ一家の皆は、カイル一家の仲間の先生との付き合いをよく思わないと思って……」
「あ、そうか。ジャキーニさんは、カイルさんの所に居る先生とさんの仲を反対して、それを認めないかもしれないですね」
ナップとウィルだけではなく、その場に居る全員がジャキーニとその船員達に注目する。
「あんさん」
「……、なんじゃい、は、わしらを気にして先生との付き合いを公表せんかったんかい」
ジャキーニはオウキーニにつつかれ、に呆れた調子で話した。
「船長?」
は目を瞬きして、ジャキーニを見上げる。
「わしはがカイル一家のカイルか、ヤード、スカーレルの三人のうちの一人と付き合う言うたらそりゃ文句の一つも言ってやりたいところじゃが、先生が相手なら文句無いわい」
「せや。先生の実力は、うちも、あんさんも、うちらの部下達も認めとるさかい。先生がはんの相手というなら、何の文句も無いわ。なあ、皆もそうやろ?」
「おう! の相手が先生なら、オレ達も文句無いぜ! むしろ、よくやったって言ってやりたいぜ!」
ジャキーニとオウキーニに続いて周りの船員達も、にかっと笑う。
ジャキーニ達の本心を聞いたレックスは、に笑いかける。
「、良かったな」
「うん」
も心配していたジャキーニ達にレックスとの仲を認められて、ようやく笑う事が出来た。
「……ジャキーニ達がとレックスを認めるなら、私達も認めるしかないわね」
「そうですね」
「だな」
アルディラにキュウマ、ヤッファもうなずくも、それは渋々了解するしかないという感じだった。
そんな中、ファリエルが前に出てレックスとを見比べながら言った。
「でもさんが心配していたのは、ジャキーニさん達だけではありませんよね?」
「え?」
「さん。もう、洗いざらい話したらどうです? そうすれば私達も、さんに協力できますから」
「……、ファリエルもマネマネ師匠と同じだったな」
「先生?」
ファリエルの話にレックスは納得しているが、はファリエルが割って入ってきた意味が分からず怪訝な顔になる。
レックスはに、ファリエルについて説明する。
「霊界の住人は、一部を除いて人間の心が読めるんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そうだ。霊界の悪魔達は人間の醜い心を読んでそこに取り付くし、天使もそうやって良い人間か悪い人間かを判断しているらしいとは聞いている。それ以外――ファリエルはどうか分からないけど、マネマネ師匠は人の心を読めるようだよ」
「……なるほど。ファリエルは、マネマネ師匠から私達の事情を聞いたんですか」
レックスの説明を聞いたも、それに納得する。
「。ファリエルの言うようにまだ何か事情があるなら、さっさと話しなさい」
「……そうですね。もう、さっさと話した方がすっきりするかもしれません」
アルディラに促され、は決心する。
「私が先生との付き合いを皆に隠していたのはジャキーニ船長を気にした以外に、無色の派閥も気にしていたんですよ」
「無色の派閥? 何で、無色の派閥を気にする?」
「……私はまだ、無色の派閥の召喚師です。私が先生との関係を持っているという情報を何処からか得た無色の派閥が、先生を引っ張り出す為に、私を利用しようなんて考えたら……」
「なるほど。無色の派閥にさんとレックスさんとの関係がバレてそれを利用されれば、確かに面倒ですね」
「レックス殿は殿を守る為なら、自分を犠牲にするのは何て事はないでしょうしね……」
の説明を聞いてファリエルとキュウマはそれに感心したよう、納得している。
「そう、私達にも二人の関係を知られないよう素知らぬ振りを続けていれば、無色の派閥に目をつけられないと考えたのね。でも、そもそも、あなたがヤードのように無色の派閥を抜けていれば、そんな問題も起きないんじゃないかしら?」
「そうだな。お前が未だに無色にしがみついているから、ややこしくなるんじゃないか」
アルディラに続いてヤッファも、の痛い所をついてくる。
そんなを庇うように発言したのは、ヤードだった。
「無色の派閥はそう簡単に抜けられませんよ」
「そうなのか? でもヤードは、簡単に抜けてるじゃないか」
「私の場合、無色の派閥の秘宝であった魔剣を持ち出したので、そのせいであっさりと除名処分を受けただけですからね。さんの場合は、私と同じような罪を背負わない限りは、簡単に無色を抜けられないんですよ」
「それじゃあもヤードと同じ罪を背負わせてみるか?」
「それも逆効果ですよ。無色は、赤き手袋を使って標的を執拗に追いかけてきます。そうなればさんの命の保証はありませんし、レックスさんもさんを守る限界が来るでしょう」
「が無色の派閥に向かって、自分はもう関係無いから関わらないでくれって言ってやればいいんじゃね?」
ヤードとヤッファの話を聞いていたカイルはそれを簡単に受け止めるが、ヤードは首を振ってカイルを否定する。
「そうもいかないのです。無色の派閥は、自分達の財産――悪行を守る為にさんどころか、さんの家族も目をつけてきますから……」
「あ……」
「……私の家族は、まだ健在です。私の勝手で、無色の派閥を抜けられません」
「……悪い」
これは、個人の問題ではなくなってきている。それが分かったカイルは、素直にに謝る。
カイルの態度を見ても、素直にそれを打ち明ける。
「まあ、先生の力でこの魔剣の騒動が終われば、一度、家に帰って家族と縁を切る予定ではあるんですが」
「そんな簡単に家族と縁を切るってのは、どうかと思うが」
「私が本気で家族と縁を切ると思いますか」
「え」
「そんなの、偽装に決まってるじゃないですか。帝国に行けば無色をあざむく方法は、いくらでもありますからね。それか、聖王国に行ってほかの派閥に保護を求めるというのもあります。私の家は無色でもイスラのように名家でもないので、家族も私の事情を理解すればそれに応じてくれるでしょうし、そうでなければ」
「そうでなければ?」
は息を吐いて、決心したよう、カイルに向かって言い放つ。
「そうでなければ私は家族よりも多分、先生を選びます」
「……」
の想いを、その意志の強さを知って、カイルだけではなく、全員が押し黙る。
は全員を見回して言う。
「これで、私が先生との付き合いを隠しておきたかった理由が分かったでしょう」
「……そうだな。オレ達はどうやら、お前をみくびっていたようだ。これからは、態度を改めよう」
「ええ。これで私も、あなたを見る目が変わったわ」
「はい。殿は、レックス殿が隣に居る限りは我々を裏切らないという事も分かりましたからね」
「さんがもし、何か困った事があれば私達に言ってください。私達もさんに手を貸しますから」
から全てを聞かされたヤッファ、アルディラ、キュウマ、ファリエル――護人四人は、ようやく彼女を評価し、認める。
そして。
「ファリエル、もう良いんじゃない?」
「そうですね」
ファリエルとアルディラは、ひそひそと何か耳打ちをしている。
「さん、これを受け取ってください」
「え?」
ファリエルが前に出て、に小袋を差し出した。
小袋を受け取ったは、早速、その中身を確認する。
その中身は。
「……良いんですか?」
は、ファリエルとアルディラを見比べる。
ファリエルとアルディラが続けて言う。
「良いですよ。さんはレックスさんが隣に居る限り、イスラのように私達を裏切らないという事が分かりましたから。といっても、ピコリットとプラーマ、ロティエルの回復系に限らせてもらいますけど」
「であれば、これで十分よね。今回のように一人で何かあった時、これだけあればレックスの手も借りずに切り抜けられるでしょう?」
「ありがとう……」
も回復魔法系の召喚石があれば十分だと思って、二人に向かって素直に頭を下げる。
「さて。話もまとまった所で、はんとレックス先生はんの付き合いを記念して、宴会でも開きますかな。皆、はんの為に畑で宴会の食材を取ってきてくれるか」
「へい、副船長!」
オウキーニの命令を受けたジャキーニ一家の船員達は意気込んで、自分達が管理している畑へ向かっていった。
「あんさんも、ユクレスの広場で宴会の準備を手伝ってくれなはれ。これも、はんの為や」
「……、の為ならやってやるかの」
の為と言われるなら仕方ない。ジャキーニもオウキーニに促され、重い腰を上げる。
「お、久し振りの宴会か。いいねえ。オレ達も何か持ってくるか」
「とっておきのお酒も用意しましょう」
「私も、お酒にあうツマミを用意してきます」
オウキーニの提案を聞いて、カイルが口笛を吹き、スカーレルだけではなくヤードも浮かれている。
「ふむ。宴会をするならゲンジや、わらわの風雷の郷の住人達も呼んでくるかの。こうなれば、わらわも宴会の料理を提供せねばな」
「やった! 久し振りに母上のご馳走だ! 母上はゲンジと料理作っててよ! おいらが、皆を呼んで来るよ!」
「私もスバル様の、お手伝いさせていただきます」
ミスミもやる気になって、スバルも両手をあげて喜び張り切り、キュウマと三人揃ってシルターンへ引き返していった。
「そうだな。オレも、ユクレスの住人達を呼んで来るぜ。獣肉ならオレ達に任せろ」
「マルルゥも、シマシマさんのお手伝いするです!」
「待って、マルルゥだけじゃ無理だって。僕も手伝うよ」
ヤッファもマルルゥとパナシェを連れて、何処かへ行ってしまった。
「そうね。私もラトリクスに残っているクノンとヴァルゼルド、アズリア、ギャレオを呼んで来るわ」
「私もフレイズとマネマネ師匠、ゲレゲレさん達を呼んできますね」
アルディラとファリエルも、それぞれの集落へ引き返した。
「ちょっと、私はそこまでは……」
「、此処まで来てそれはないでしょ。皆、せっかく盛り上がってるんだから」
レックスと自分の仲が公認された記念と称して宴会の準備を張り切る面々を見て、慌てて引き止めようとするを止めるのは、ソノラだった。
はソノラを振り返り、その不満を口にする。
「でも、こんな時に宴会なんて……」
「こんな時だからこそ、に決まってるじゃん」
「……どういう意味?」
「イスラの裏切りの件で、皆がお互いを疑って、それぞれ疑心暗鬼になってギスギスしてたんだよ。もそれ、知らないわけじゃないでしょ」
「あ……」
「とせんせの仲が、そんな皆をまとめたんだよ。これは、凄い事だよ」
そしてソノラは、に微笑む。
「それからオウキーニがとレックスせんせの付き合いを記念してなんて言うけど、本音はこれをきっかけにしてジャキーニ一家が島の皆と交流したいだけなんじゃないかなー。はそんなオウキーニ達の計画を、台無しにするんだ?」
「……」
ソノラの話は説得力があり、もそれには反論出来ずに押し黙る。
「それで、はどうするの」
「どうするって」
「あたし達に混じって、オウキーニの準備を手伝う? それとも、今まで通りにあたし達から外れて一人寂しく召喚術の勉強でもしてる?」
「……」
ソノラがを見て、ニヤリと笑う。
は今まで、カイル一家の中でもソノラは軽くてバカっぽい子だなと思っていたが、彼女の方が自分より一枚上手であるとこの時に、思い知らされた。
はソノラに参ったよう、それを告げる。
「……私も、ソノラ達と手伝う」
「よし、決まり! レックスせんせ、借りるよー」
「ああ、ソノラにを任せるよ」
今までソノラとのやり取りを聞いていたレックスは、自分達の仲を皆に打ち明けた事によって、どころか皆の変化に嬉しくなってそれに応じる。
そして、その夜、ユクレスの広場にて宴会が盛大に開かれた。
その時は、ユクレスも、風雷の郷も、ラトリクスも、狭間の領域も、帝国軍も、海賊も、何もかも関係無く、その境界線を取り払い、お酒とご馳走で腹を満たし、歌って踊って騒ぐ事が出来た。
「、隣良い?」
「……先生なら、了解を取らなくても良いですよ」
夜更け近く。四人の生徒とスバル達をはじめとする子供達は、それぞれの保護者に連れられて、それぞれの家に帰っている。広場に残るのは、酔っぱらいの大人達くらいだ。
今まで、四人の生徒と子供達、四人の護人、カイル一家、その他の集落の住人達の間を行ったり来たり、大忙しのレックスもそこから解放されて、ようやくの隣に座れた。
レックスはの隣に座って、落ち着く。
「やっと、静かに飲めるなあ」
は隣でグラスを持って酒を口にするレックスを横目で盗み見しながら、言う。
「オウキーニさんから聞きましたけど先生は、此処に来る前は、私を探してくれていたんですね」
「ああ。オウキーニが居る風雷の郷、狭間の領域、ラトリクスと回って、最終的に、ユクレスにたどり着いた」
「そうですか……。私もユクレスの森に入る直前まで、そこらへんを回っていたんです。すれ違っていたんですね。もし、先生とそこで出会っていればあんな騒ぎにならなかったと思うと……」
「いや、それは違うよ」
「え」
は目を瞬きして、レックスを見上げる。
レックスは真面目に言う。
「此処までの騒ぎにならなければ皆も俺とを認めてくれなかっただろうし、こんな風に宴会も出来なかった。ああそうだ。俺は皆から、今までの鬱憤をこの宴会で晴らす事が出来たから、に感謝の言葉を伝えてくれって言われてたんだ」
「……そうですか」
レックスの言葉は本当だろうなと、も思った。
だからも本当の事をレックスに話す決意をした。
「……ジャキーニ一家の皆も、先生に感謝をしていましたよ」
「え」
「畑泥棒のせいで居心地が悪かったジャキーニ一家と島の住人達を繋いだのも、こうやって交流も出来ているのも、何もかも先生のおかげで、感謝しても感謝しきれないそうです。先生が居なければ自分達も帝国軍みたいになっていたかもしれないからと……。ジャキーニ船長も、先生の注文は受け付けるし、それの協力は惜しまないと言っていました」
「そうか……。ジャキーニ達にそう言われると、今までの苦労が報われる気がするよ」
レックスはの話を聞いて、微笑む。
それから。
「それから俺は、がアティと一緒にアリーゼとベルの教師をやっていたなんて、知らなかったよ。何でそれ、俺に黙ってたんだ?」
「私は子供が苦手で上手く先生をやれないとアティに話したのに、アティが一度だけでも良いからやってみてくださいと、嫌がる私を強引に引っ張ってきたんです。そういう理由で一度きりの事なので、先生に話す必要も無いと思って。……本当、強引な所が、あなたと似ていますね」
「そんなに強引かな?」
「……そういう風にとぼける所も、そっくりですね」
はこれ以外でもアティが強引にカイルを引っ張っている所をたびたび、見かけた事がある。はそういう所は姉と弟がよく似ている所だなと思う。
「でも、の授業はアリーゼとベルに評判が良かったみたいじゃないか。それで、ベル達がを見る目が変わったってさ。俺も、一度で良いからの教師をやっている場面を見てみたいなあ。アティだけずるいな。が俺と一緒に教師やれば、ウィルとナップも、の実力を認めてくれるよ」
「……先生が居ると緊張して集中出来なくて、マトモに教師なんてやれないです。勘弁してください」
「アティの時は、上手くいったんだろう。何で俺の時だけ緊張するんだ」
「……分かってるくせに」
「うん。は、可愛いなあ」
「うわ、皆が居る前であまりくっつかないでください」
「俺との仲は皆に認められてるんだから、もうそんなの気にしなくて良いって」
「……というか、酔ってません? 酒臭いですよ。私は、酔っ払いは嫌いです」
皆が居る前でに迫るレックスと、そのレックスをかわそうとすると。
「俺、ヤッファとスカーレルに鍛えられてるから、そこまで酔ってないよ。ああ、でも、には酔ってるかも」
「……やっぱり、酔っ払ってる」
は、レックスの暴挙に呆れるけれど。
レックスは皆の前でも構わずとくっついて、彼女の耳元でささやく。
「俺はが、好きだよ」
「……ッ」
「は?」
「……ああもう」
はレックスに参ったように、同じように彼の耳元で「好き」とささやいた。
それを聞いたレックスはグラスに残っていた酒を一気に飲み干し、そして。
「今から、青空学校に行こうか」
「え?」
「俺、と口付けしたくなった」
「……私はそういう気分ではないんですけど。それに、今からそこに行くのも面倒です」
「俺は凄く、そういう気分なんだ。そこまで行くのが面倒なら、此処でしていい?」
「……何言ってるんですか、皆の前で出来るわけないでしょう。それなら青空学校まで行った方がマシです」
「それじゃあ、青空学校に行こう。ね?」
「……全く」
満面の笑みを浮かべてに手を差し出すレックスと、レックスの強引さに呆れながらもその手を受け取ると。
とレックスは好奇の目で見て来る皆の視線を気にせずにそこから抜け出して、青空学校へと向かう。
そしてはレックスとその夜が明けるまで、二人の世界を楽しんだ。