夜。
ロズワール邸にて。
「ふおおお、餅とポテチだけじゃなくて、からあげにハンバーグ、ラーメン、ナポリタン、オムライスまである! ハルカ、よく分かってるじゃん、お前、サイコーだぜ!!」
「ふふふ。スバルの好きそうなもの、今回、いっぱい作ってみたの。やっぱり、喜んでくれて良かった」
スバルが屋敷に戻ればご馳走は出来上がっていて、テーブルにはスバルが大好物の日本の料理――からあげにハンバーグ、ラーメン、ナポリタン、オムライスが並んでいる。
「でもこれだけの量、よく作れたな。ハルカでも大変だっただろ」
「そうね。私一人では大変だったけれど、レム、それから、ラムが手伝ってくれたの。あの二人、凄いわね。私のレシピを見ただけで瞬時に理解して魔法で手際良く調理してくれるし、おまけに並の料理人じゃできない技持ってるなんて、同じメイドとして、悔しいというか」
「はは。レムもラムも、メイドスキルが凄いからな。メイドになりたてのハルカじゃあの二人に適わねえよ」
スバルがハルカのさした方を見れば、レムの隣でラムが澄ました顔で立っているのが分かった。
と。
「兄ちゃん、兄ちゃん。アタシ、ハルカが小豆から作ったっていうあんこいりの餅初めて食べたけど、あんこっていうの、めちゃくちゃ美味いのな! いつものクリームとチーズ入りより倍美味かった!」
「おう。フェルトか。フェルトにそう言われると、お前のおかげで、貧民街のブラックマーケットであんこの材料の小豆を手に入れたかいがあったぜ」
先に、あんこ入りの餅を食べてその味に興奮気味のフェルトがやって来てその評価を聞いたスバルは、何故か、それを作ったハルカよりも鼻が高かった。
そして。
「スバル、席に座ったらどう? 招待されたお客さん、スバルで最後よ」
「エミリア、ありがとう」
スバルはエミリアにそううながされ、席につく。
テーブルにはすでに屋敷の主人であるロズワール伯爵を中心に、エミリア、招待客のフェルトとラインハルトもすでに席についていた。
招待客はフェルトとラインハルトだけではなく、先日、ボヤ騒ぎで世話になったフェリスと、それから――。
「あれ。フェリスだけじゃなくて、ユリウスも来てくれたのか?」
「……、私は騎士団の仕事終わりにフェリスに良いパーティーがあるからと、半ば強引に此処まで連れて来られたんだ。まさかその場所が君とエミリア様のロズワール邸だとは思わなかった。最初は帰ろうかと思ったが、目の前の見た事ないご馳走がスバルとハルカの国のものだと聞いてそれに興味持ってね。スバルとラインハルトが帰ってくる前にハルカに少し味見をさせてもらったが、どれも美味かった。このご馳走なら、此処まで来て良かったと思って、改めてこの席についた次第だ」
「こんな豪勢なパーティー、フェリちゃんだけ楽しむのもなんだかなと思ってね。騎士団でも暇そうな――スバルを理解しているユリウスを誘ったんだよ。最初はボクもエミリア様の屋敷に行くのはどうかと迷ったけど、ユリウスの話しているようにここまで見た事のないご馳走が出てくるとは思わなかったし、ボクもスバルが帰ってくるまでに味わった事のない料理を味見させてもらったけどどれも美味しかった。これなら、此処まで来て良かったと思ったよ」
フェリスの隣には、スバルの友人になってくれたユリウスも渋々という顔で席に座っているが目の前のご馳走に関しては高評価で、フェリスも同じよう目の前のご馳走に歓喜している様子だった。
「そうか、ハルカの誘いでフェリスだけではなくてユリウスも来てくれるとは思わなかった。二人とも、来てくれてありがとな。歓迎するよ」
スバルはハルカの呼びかけでフェリスだけではなくユリウスも来てくれた事に関して、とても嬉しかった。フェリスもユリウスもスバルのそれが伝わったのかお互いに顔を見合わせた後、お互いに顔を逸らしたのだった。
そして――。
「さあさあ、役者も揃ったなら、ハルカとレム、ラムが作ってくれたスバルとハルカの故郷の料理を私達で味わおうではないか。乾杯!」
ロズワール伯爵の宣言により、スバル達はハルカとスバルの故郷の料理を食べ始め、その間にそれぞれの話で盛り上がり、スバルもハルカも、久し振りに楽しいひと時を過ごしたのだった。
楽しかった宴会は、すぐに終わりを迎える。
ハルカ、レム、ラムの用意したご馳走は完食され、テーブルに残るはまっさらな皿だけであった。
男性陣からは「ラーメンというのが美味かった。また作って欲しい」と言われ、女性陣からは「オムライスというのが美味しかったわ。何、あの卵の使い方。面白いわね」と、オムライスが好評だった。
「あたしは、餅とポテチ一択かな!」
「おい、それじゃ二択じゃねえか。お前ばっかりそれ食べてないで、ちょっとは俺にもよこせ」
フェルトはやはり餅とポテチがお気に入りで、そればかり食べて、スバルと取り合いになるほどだった。
そして、それから。
楽しいと思う宴会は、終わりが来るのも早い。
「今夜はお招きありがとう、色々楽しかったし、ハルカちゃんとスバルきゅんの国のご馳走も美味しかったなぁ。今回の話は、クルシュ様にも報告しておくよー、それじゃあね」
「私も今回の宴会ほど、楽しいと思った事はないよ。出されたご馳走も文句無い、ご馳走様。後日、礼は必ず」
ご馳走を食べ終わったフェリスとユリウスは腹を抱え、満足そうに帰っていった。
二人を見送った後、スバルはフェルトの方を振り返る。
「フェルト、寝ちゃったかー」
「フェルト様、よく食べたうえにスバルと一緒にお餅の取り合いで暴れてたからね、こうなるのは目に見えてたわ」
フェルトは宴会でよく食べて暴れて満足そうに帰る頃には眠りにつき、ラインハルトに背負われた状態で、それを見たスバルはハルカと笑う。
「それじゃ、僕とフェルト様、ハルカもこれで失礼するよ。今日は楽しかった、色々ありがとう」
「いや、俺もハルカで色々見られたから良かったよ。ありがとなー。気を付けて」
スバルは、寝ているフェルトを背負いハルカと一緒に出ていくラインハルトを見送ったのだった。
ハルカはロズワール邸からラインハルトと屋敷に帰る道中、フェルトの寝顔に注目する。
「ふふ。フェルト様の寝顔、可愛いですね」
「そうだな。彼女もこうやって大人しければ、それなりに可愛い所があるんだけどね」
ラインハルトもハルカに言われ、肩を竦めて苦笑する。
そして。
『――私にも××が居るんです』
「ハルカ」
ラインハルトは、ハルカ喉を抑えて口をぱくぱくさせて何かを訴えているのが分かった。
分かってはいるが、彼女が何を話そうとしているのか分からない。
『私にも、可愛い妹が居るんです。ほかにも年下のカワイイ子達と知り合いで、いつか、ラインハルト様とフェルト様にも会わせたいですね』
ラインハルトは立ち止まり、ハルカを見据える。
「……僕にはハルカが何を言ってるのか分からない、けど」
「……」
「でも、話の流れの雰囲気からして、ハルカにもフェルト様と同じような妹が居るって、それ、僕に教えたいのかな?」
『正解!』
ハルカはラインハルトに向けて手で大きな丸を作って、はしゃぐ。
「なるほど。どうやら、僕の言う事は正解みたいだな。僕もハルカにはフェルト様と同じ年ごろの妹が居るのではないかと前から思ってたんだ。今回、それがはっきり分かって良かった」
ラインハルトもハルカの家族が伝わり、ほっとした様子だった。
ラインハルトは言う。
「ああ、そうだ、ハルカが僕に何か伝えたい事があるのに伝えられない時はそうやって手で正解か不正解か教えるっての、ありじゃないかな?」
「おお、その手がありましたか。それは名案ですね。さすがラインハルト様! あ、声出ましたね。これくらいなら声に出しても良いってわけか……」
うん。ハルカは自分の声がちゃんと出た事に気が付いて、自分で納得する。
「私の事で何か伝えたい話があれば、ラインハルト様に手で伝えられるよう、練習しておきます」
「うん。そうしてくれると、助かる。それだけじゃなくてね」
「何です?」
それだけではなくて。
「それだけじゃなくて今日みたいに、一人で黙って貧民街のブラックマーケットに行くの、止めて欲しいな。今回はエミリア様、それから、スバルとレムが助けてくれたから良かったけど。この国で貧民街は本当に、危険な場所で変わりないんだよ。エミリア様が出入口でハルカに声をかけてくれなかったら、そこで酷い目にあわせられたかもしれない」
「あ……」
「次からは、フェルト様に何か頼まれても、主人の僕にもそれ伝えるようにね」
「は、はい。フェルト様に何か頼まれたら主人のラインハルト様にも伝えるよう、心掛けます」
ハルカは今回ばかりはラインハルトの言う事は正論だと思い、ビシッと背筋を伸ばしてそれに応じる。
「はは。そういうとこ、やっぱ、ハルカと似てるね」
「似てる? 私と誰が似てるんですか?」
最初はハルカは、ラインハルトが何を言っているのか分からなかった。
「スバルとハルカだよ。スバルとハルカは同じ国出身だけというだけではなくて、言動、雰囲気がよく似ている。スバルとハルカが実は兄弟とか、そういう事はない?」
「そ、そんな、私はスバルと兄弟とかそんな事実はありません! 私の家族は――ッ、」
私の家族はスバルではなくて、妹一人、姉一人、それから、父親、母親――普通の一般家庭です。そう伝えようとしたハルカの声は、ラインハルトには届けられない。
「……多分、ハルカには妹以外の家族も居るって僕に伝えたいんだろうけど、僕にはそれが妹か弟か、姉か兄か、それすらも分からないのはもどかしいね」
ラインハルトは自分の苦しみを理解し、悲しんでくれる。ハルカはそのラインハルトはこの世界に来てから唯一の理解者として、そして、それ以上の感情も抱いている事に気が付くのにそう時間はかからなかった。
だから。
『あ、あの、私は屋敷を追い出されてもいつまでもラインハルト様をお慕いしていますから! ラインハルト様だけではなくてフェルト様ももう、私の可愛い妹の一人で変わりありません!』
「今度は、何? また家族の話かな? 僕にも手話で伝えられる手段があれば良いんだが……」
「……」
ラインハルトはハルカが何を訴えているのか分からず、苦笑するだけ。
ハルカは喉を抑えながら、屋敷でボヤ騒ぎがあった時に言われたスバルの話を思い出した。
『お前、自分の事が――ラインハルトやフェルトに日本の事や自分の家族について話せないの、苦しくないのか』
火事のあった日、スバルにそう言われた事を。
苦しい。
目の前の人に自分の事だけではなく、自分の思いも何も伝えられなくて苦しいのは、現在も変わらない。
家族以外でも自分の思い――フェルトやラインハルトへの思いも彼らに伝わらないと分かった時、絶望しかなく。
ボヤ騒ぎの時にスバルに『今は自分の呪いはどうでもいいと思ってる』と、強気な発言をしたがそれは、彼にそれ以上の負担をかけたくなかったせい。
そのあとに自分よりスバルの方が死に戻りの呪いで色々大変な目にあっているというのは、貧民街で彼と接しているうちによく分かった。貧民街のブラックマーケットでレムで荒くれの男達を撃退していたが、実は、スバルもエミリアに陰口を叩く女達を睨みつけて撃退していたのを知っている。貧民街でもエミリアに対する陰口を叩かれながらも平然と彼女についてるだけではなく、この世界のあらゆるものを達観した雰囲気は――あれは、数々の修羅場をくぐり抜けていないとできないものだと。
それでも。
「……ハルカ、今は自分の事が何も話せなくて苦しくても、いつか、その呪いが解けて僕にそれを話せる時がくるかもしれない。その時、僕に全てを話してその苦しみから解放されるといいな」
「ラインハルト様……」
ハルカはラインハルトの優しさに泣きたい気分だけど、ここで泣いては駄目だと思った。
代わりに。
「手紙を……」
「手紙?」
「実は、ラインハルト様がスバルと出かけている間にラインハルト様あてに、手紙を書いてたんです。……あ、これ、言えるんだ、良かった」
ハルカは最初、これもラインハルトに関する事なので話は出来ないと思ったが、きちんと声に出せたのでほっとしている。
この世界の住人に――ラインハルトに何が言えるのか、何が言えないのか。ハルカもそれは手探り状態である。スバルほど大変ではないが、中々キツイ、とは、思う。
ラインハルトはそのハルカを心配そうに見詰め、聞いた。
「僕あての手紙? それ、今、僕に渡せるものかい?」
「いえ。それは――その手紙は、今は渡せません。今、渡せたとしても自分の国の文字で書いているので、多分、ラインハルト様には読めません」
「それ、スバルは知ってるのか」
「知っています。その手紙は、スバルに託しましたから」
「何でスバルに僕あての手紙を?」
「それ、今のところ、スバルしか私の国の文字が読めないせいであるのと、私の中でもスバルほど信用できる人間は居ないと思ってるからです。私がラインハルト様のお父様の手で屋敷を追い出された時、スバルからそれ受け取ってください。多分、スバルがそれ読んでくれると思うので、それでラインハルト様にも私の気持ちが伝わると幸いです」
「僕の父に屋敷を追い出された時に私の気持ちが伝わると幸いって、何を言っている?」
目を見張るラインハルトを前に、ハルカは月を背にして、微笑む。
「――私がラインハルト様のお父様の手で屋敷を追い出されたと分かった時、スバルの所に行ってそれ受け取って、読んでくださいね。それ読めばラインハルト様は追い出された私の事など心配せず、フェルト様やお父様と向き合う時間が作れると思いますから」
「ハルカ、君は――」
月を背にして微笑みそう言うハルカに、ラインハルトは何を思ったか彼女に手を伸ばした――ところで。
「ん、んん……」
「フェルト様?」
そのラインハルトを止めたのは、背中で寝ているはずのフェルトで。
ハルカは寝ているフェルトを覗き込む。
と。
「もう食べられない……、うへへ……」
フェルトの寝言が聞こえた。
「なんだ。まだ寝ていて、ただの寝言みたいです」
「そ、そうか、それなら良かった」
ハルカの報告で、ラインハルトも安心したようにハルカに伸ばそうとしていた手を元に戻し、背中から落ちかけていたフェルトを背負いなおした。
「ラインハルト様、夜で外は冷えます。それでフェルト様の体を冷やしてはいけません。早めに屋敷に帰りましょう」
「そうだな、フェルト様のために早めに屋敷に帰るか……」
ハルカはその時には何も無かったように前を向いて、前に進む。
ラインハルトはフェルトを背負い直した後、そのハルカを目を細めて眩しそうに見詰める。
――もし、自分がフェルトを背負っていなかったら、彼女が居なければ、月を背にしたハルカに手を出していたかもしれない。
ラインハルトはハルカに手を出そうとした自分の腕をジッと見つめて、そして。
「……今はまだ、彼女に手を出すわけにはいかないか。僕が自分の屋敷のメイドに手を出したと世間に分かれば、父さんだけではなく、フェルト様の王選も危なくなるからな、ここは自重するべきだ」
自分に言い聞かせて自嘲気味に笑った後、先を行くハルカを追いかけたのだった。
同時刻。ロズワール邸にて。
招待客が全員帰ったのを確認した後にエミリアは、何かを手にしているスバルが気になって彼に近付いた。
「スバル。それ、ハルカから渡されたもの、よね?」
「ああ、これ?」
スバルは何の気もなしに、エミリアにハルカから渡されたものを見せる。
それは一通の手紙であると、エミリアにも分かった。
エミリアは怪訝な顔で、スバルと手紙を見比べ言った。
「ハルカ、あの子、ラインハルトだけではなくて、スバルにも手をつけてたの?」
「え、いや、それは誤解だ。俺はエミリアたん一筋だから! それにこれ、俺じゃなくて、ラインハルト宛てだし!」
エミリアにハルカとの関係を誤解されたスバルは慌ててそれを否定し、宛名が書かれた面をエミリアに見せる。
「あら、本当。これ、ラインハルト様へ、って、宛名に書いてあるわね」
エミリアもラインハルト宛てと分かり、納得する。因みにラインハルトの宛名だけはフェルトに文字の書き方を教わってなんとかなったという。
「でもそれ、何でスバルが持ってるの? ラインハルト宛てならそれ、ラインハルトに直接渡した方が良いんじゃない?」
「色々事情があってな、ハルカに王選が終わった頃にラインハルトに渡すように頼まれたんだ」
スバルは頭をかいて、ハルカからその事情を聞いた時を思い出した。
『これ。私がラインハルト様にあてたこの手紙、私が王選の後にラインハルト様のお父様からお屋敷を追い出された時、スバルからラインハルト様に渡してくれる?』
『王選の後にラインハルトの父親から屋敷を追い出された時って……、ハルカ、お前、まさか……』
スバルは気が付く。気が付かなくてもいい事を。
ハルカはやけに落ち着いた調子で、スバルに言う。
『そう、そのまさか。私は王選が終われば――エミリア様が選ばれようがフェルト様が選ばれようがその時は多分、ラインハルト様のお屋敷、それから、この国ではなくて、この世界そのものから追い出されると思ってる』
『そんな事は……』
『そう? スバルでもそんな事はないって、それ言い切れる?』
『……』
『私、予感持ってるの。私は多分、王選が終わって結果次第でフェルト様のお世話から外されれば、この世界に不要なものになる。そうなった時に日本に帰れると思うけど、私をこの世界に召喚したその力は、ラインハルト様やフェルト様のお別れの時間までくれないと思う』
『……』
スバルも思っていた。王選が終わり、エミリアがもうこの世界で一人でも大丈夫だと思えば――自分が必要無い、この世界に不要なものであると思えば、自分の世界――日本に帰れるのだと。
『スバルは多分、エミリア様についてるぶん、この世界にとって私よりも必要な人間だと思うからこの世界に残れる時間は王選が終わっても、私より長い時間残れるはず。それだから、私が日本に帰ったと分かればスバル、その手紙をラインハルト様に渡してちょうだい。お願いね』
ハルカは言うだけ言って、スバルに手紙を託した後、再び、フェルトとラインハルトのもとに戻ったのである。
スバルからハルカの事情を聴いたエミリアは、嫌そうな顔をする。
「ハルカは王選が終われば、結果次第でラインハルトやフェルトと別れると思ってるの?」
「……そうだな。ハルカは多分、王選が終わってその結果次第でフェルトの世話を外された時、ラインハルトやフェルトと別れると思う」
「何それ。ハルカはそうなれば私の所で――ロズワール伯爵の所で保護すればいいんじゃない?」
「エミリア、やっぱ優しいな」
「……別に、スバルと一緒で別の国から来たハルカに、この国で嫌な思いをさせたくないだけよ」
「はは。俺もハルカにはそうなった時、ロズワールの屋敷に来るように話してあるんだ。それだから、この手紙を俺に託したんじゃないかな」
「そう、それならいいけど。スバルの誘いなら誰も断らないと思う」
「エミリア……」
エミリアは納得しているのか納得していないのか分からないが、一応はスバルの話をちゃんと聞いてくれている。
スバルはそのエミリアを見て「やっぱりいいな」と思った。
だから。
「あのさ、エミリア。エミリアに渡したいものがあるんだけど」
「私に渡したいもの? 何?」
「実は――」
スバルはドキドキして、店で買った白いレースのリボンをエミリアに渡した。
そして、それから。
「エミリア様、おはようございます」
「おはよう、レム」
「あら。エミリア様、その青いラインが入った白いレースのリボン、新しいものですか?」
「さすがレムね、気が付いた? これ、おろしたてなの。どうかしら?」
「はい。その青いラインが入った白いレースのリボン、とてもよくお似合いですよ」
「ありがとう。ちょっと、これで出かけてくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
レムは、おろしたての青いラインが入った白いレースのリボンをなびかせ出ていくエミリアを見送り、微笑む。
エミリアの髪に新しい青いラインが入った白いレースのリボンが飾られているのがスバルにも分かるのは、それから少し後の話である。