守りたいもの(03)

 ラインハルトは、ハルカを求めて貧民街まで来た理由をスバル達に明かした。

「騎士団の仕事が終わって屋敷に帰ればハルカの姿が見当たらないので、街に買い物にでも出かけたかと思って普通に待っていれば、フェルト様から『今日のハルカのおやつ、今までにないものが出てくるから楽しみだ』という話を聞いて、嫌な予感がしたんだ。その予感通り、フェルト様を問い詰めれば彼女の情報でハルカが貧民街のブラックマーケットに一人で向かったと分かって、それで慌てて此処まで駆けつけてきたんだ」

 ラインハルトは一息ついて、スバル、レム、エミリアの順でその顔を見回す。

「ハルカの説明でエミリア様とレム、スバルの三人にまた助けられたと分かって、安心したよ。中でもエミリア様、貧民街の入り口でうちのメイドに声をかけてくれて、ありがとうございます」

「……、アストレア家のメイドが一人で入るような場所じゃなかったから、声をかけただけよ」

 ふん。エミリアは髪を払いながら、ラインハルトにぶっきらぼうに応じる。

 それからラインハルトは、スバルと向き合う。

「先日の火事のフェルト様といい、今回のハルカといい。スバルにまた借りができてしまったな。スバル、君に色々礼をしたいのだが、何か必要なものはあるかい? 僕に騎士の修行をつけて欲しいとか、あるものが不足してるとかあればアストレア家のコネを使えばなんとかなると思うが」
「修行もコネも今のとこ、別に何も必要ねえよ。修行はお前のとこのヴィル爺さんによくしてもらってるし、コネもロズワール邸に居れば何とかなってるしな」
「そうか……。僕にもスバルに何かできる事があれば良かったんだが。残念だな……」

「ラインハルト、お前、何でも出来るように見えて案外と不器用なんだな」

 ラインハルトはスバルに礼の一つもできない事に落ち込み、スバルはそのラインハルトの不器用さに苦笑するしかなく。

 と。

「あ、あの、ラインハルト様! ラインハルト様でもスバルにできる事があります!」

 はいっ。ここでラインハルトを思ってか勢いよく手をあげたのは、ハルカである。

「私、とても良い事を思いつきました。この思い付きは多分、スバルだけじゃなくて、エミリア様とレムにもお礼ができるので、一石二鳥、いえ、一石三鳥の名案です!!」

 ハルカがラインハルトに張り切って伝えたその名案とは――。



「――僕でスバルに付き合ってこの店でエミリア様に似合うリボンを物色して欲しい、ときたか。確かにこれは、この店のお得意様の僕にしか出来ない礼だなぁ」
「それでその間、ハルカを中心とした女性陣は、ロズワール邸でブラックマーケットで調達した食材でご馳走の用意だと。その仲間にフェルトはもちろん、この間の火事で世話になったフェリスの二人も入れるとはな。確かにこの案は、ハルカにしか思いつかないよな」

 はは。ラインハルトとスバルの二人はハルカの出してきた名案に、苦笑するしかない。

「しかし何で宴会の場所、ロズワール邸になったんだ? フェルトやフェリスを入れてご馳走を用意するなら、お前のアストレア家でも良さそうな気がするが。ハルカも最初、お前にアストレア家の食堂でやろうとしてたのそれ断ったの、ランハルトだってのも驚いた」
「……、それは、エミリア様に配慮しての事だ」
「エミリアに配慮? どういうわけだ?」
「この国の人間達から魔女の写しと恐れられるエミリア様は騎士団の施設内はもちろん、貴族の家に出入り禁止になってるんだ。僕の信頼があってもエミリア様が僕の家に出入りしているのが分かれば、僕の家も何を言われるか分からない恐れがあってね。それだから、今回、僕の家にエミリア様の出入りを遠慮させてもらった次第だ」

「あー。そういうわけね。それじゃ、ロズワール邸でやった方が良いな、うん」

 ラインハルトは自分の話を聞いても大人しくうなずくだけのスバルに、目を見張る。

「おや、やけに大人しいな。スバルは僕相手でも、エミリア様をそんな扱いするなんて許せないとか、食って掛かるかと思ったが」
「俺もあの時より成長したというか、大人になったんだよ。それこそ、騎士のユリウスとの付き合いやヴィル爺さんの修行で、エミリアの強さが分かったせいというのもある。騎士の連中でもエミリアには誰も敵わないし、それで彼女を恐れるのも理解できるというか」

「……なるほど。スバルもあの時より、いくぶんか成長してるのか」

 ふむ。ラインハルトはスバルの成長を知って、何やら考える。

「しかし、この店、こんなに色々リボンあるのか。俺はエミリアにはレースの白色のリボンが似合うと思ってそれ一点買いしようと思ったが、レースの白色リボンだけでも水玉とか縞模様の柄物入りとかで何十種類かあるぞ。どうすりゃいいんだこれ」

 うわー。スバルは、エミリアにはいつものレースで白いリボンが似合うと思って意気込んで店に入ったものの、店ではレースの白色リボンでも柄入りとかで色々な種類が取り揃えてあり、頭を抱える始末である。

 そのスバルにアドバイスするには、モテ男、ラインハルトである。

「エミリア様には、ごちゃごちゃ柄が入っているものより、シンプルなものがあうんじゃないかな。そこのレース付の白いリボンに青いラインが入ってるのとか」
「お。確かにエミリアには柄物より、そっちのシンプルな青いライン入りの方が良さそうだな。値段も手ごろだし。さすが色男。これにするか」

 うん。スバルはラインハルトのアドバイスで、エミリアに贈るリボンを決めた。

「ありがとうございましたー」

 スバルはラインハルトと無事に店を出て、そして。

「ラインハルトのおかげで、エミリアにいいリボンが買えた。ありがとうな!」
「いや。これは僕ではなく、この店にスバルを誘ったハルカの功績だ。礼は僕ではなく、ハルカに」

 スバルはエミリアの贈り物を買えて満足で上機嫌で、ラインハルトもそのスバルを見て微笑ましく思う。

 そして。

「そういや、ラインハルトは、ハルカとはどこまでいってるんだ?」
「どこまで、とは?」

「ラインハルト、お前、ハルカと恋人同士なんだろ。ヒヒ、今は男の俺しか居ないから、俺にもハルカにどこまで手を出してるのか今後の参考に教えてくれないかな、なんてなー」

 スバルはここで、ラインハルトと二人きりになれるのはいい機会だと思って、彼にハルカについて聞いてみる事にした。

 スバルは最初はからかい調子に、軽い感じでその話を切り出したつもりだった。

 しかし。

「――スバルは何を勘違いしているか知らないが、僕はハルカと恋人関係ではないよ」
「え」

 ラインハルトの返事を聞いてスバルは。

「お前、何言ってんだ。お前、さっき、貧民街の出入口の所でハルカに抱き着いて彼女の事をとても心配してただろ。あれで、ハルカと恋人関係じゃないっていうのかよ?」

「ハルカには貧民街は、この国でも堕落した荒くれ者たちが集う危険な場所だと教えていた。貧民街は武器も魔法も扱えないハルカが一人で行っていい場所じゃないし、それでアストレア家のメイドに何かあれば主人の僕の責任になるからね、彼女を心配するのは当然だ」

「先日のフェルトのボヤ騒ぎでも、フェルトよりハルカの方を真っ先に心配してたじゃないか。あれは他人の俺から見てもほかのメイドと扱い違ってたし、恋人関係じゃないと出来ない心配の仕方に見えたが?」

「ハルカはどうも、世間離れした感じというか、浮世離れした感じがあってね。そのハルカを僕の屋敷のほかのメイド達と同じようには扱えるわけないだろう」

「ハルカが浮世離れしていて、ほかのメイドと同じように扱えない? どういうわけだ」

「スバルは、ハルカと僕が出会った話を彼女から聞いてるかい?」

「……、ハルカは、この国であてもなくさまよっていて、お腹が空いて市場の食材を取ろうとした所を騎士のラインハルトに止められたと聞いてるが」

「そう。ハルカのその話に偽りはない。それで僕がハルカを保護した後も、自分が何処から来たのか、親兄弟は居るのかとか聞いても、口をぱくぱくするだけで何も答えられなかった。彼女はどうも、自分について何も話せない――話そうとすると声が出ないというのは、僕でも分かった。最初は喉の病気かと思ったが、自分の事以外の話はちゃんと通じし、僕と会話も可能だった。
 そして、最初はそこまで嘘を吐いて僕の気を引こうとしているのかとも疑ったが、喉を抑えて苦しそうにもがくハルカを見ていると、それが僕の気を引くための演技ではないという事はすぐに理解した。それでアストレア家の主治医にハルカを診察してもらって、その主治医が言うにはハルカは病気ではなく、何か魔術的なもの――呪いにかけられた可能性が高いようだと話した」

「……」

 ラインハルトは自分にハルカの事情を何の感情も無く、淡々と話している、というのは、スバルでも分かった。

「主治医の話しているようにそれが魔術的な呪いならハルカにそれをかけた術者を突き止めるとか、同じような術者に解除を頼むとか、何かしらの解決策はあるだろうが、今の僕ではその術者に関して心当たりがない。唯一あるとすれば、この国の脅威の存在とみなされる魔女達か、あるいは――」

 あるいは――。
 ラインハルトはスバルに鋭い視線を向け、スバルはラインハルトの鋭い視線に震える。

「スバル。君は、ハルカの呪いをかけた術者に心当たりは?」
「……申し訳ないが、俺もその術者に心当たりはねえな」

「そうか。ハルカと同郷のスバルならハルカに呪いをかけた術者が何であるか、分かると思ったんだが。残念だな」
「……」

 ラインハルトはスバルを前にして本当に残念そうだった。

 続ける。

「それで僕は何らかの呪いがかかっているハルカを外に――世間に出すには早いと思って、屋敷で保護したんだ。僕の父にもハルカの事をそう説明して、一応、納得してもらえた。
 聞けばハルカは年下の女の子の扱いは上手いと言うので、その暴れぶりから専用のメイドが中々付かなかったフェルト様のメイドにした。ハルカの言う通りでフェルト様はそのハルカにとても懐いてくれたので、僕としてもハルカの登場は丁度良かった、くらいの認識しかない。それから……」

「それから?」

「それから、ハルカの黒い髪と黒い目のその見た目、訳の分からない言動、浮世離れした雰囲気から、スバル、君と同じ国出身ではないかと思った。それだから君に、ハルカを紹介した。今では、僕の予想が当たってほっとしている」

「ハルカが俺と同じ国出身だと分かって、ほっとしている? ……お前、それ、どういう意味で言ってるんだ?」

 スバルは、嫌な予感がした。それでもその回答をラインハルトの口から聞かなくてはいけないと思った。

 ラインハルトはやけに落ち着いた様子で、スバルに言った。

「――僕はハルカをもとの国に返せる時がくれば、返したいと思っている。そこでハルカに呪いをかけた術者が見付かれば、幸いだ」
「――」

 その回答は。

「スバル、君の国は、このルグニカ王国から見てどのあたりにあるか分かるか? もし分かるなら、僕に教えて欲しいんだ。いつになるか分からないけど、多分、フェルト様の王選が終わった頃になると思うが、僕の身辺が落ち着けばハルカを元の国に――」

 限界だった。

 限界だと思った時、手を出していた。

 ラインハルトの方はスバルのそれを予測していたのか、していなかったのか。スバルの拳をマトモに受けて、その場に尻餅をついた。

 スバルはしかし、そのラインハルトに手を差し伸べなかった。

「立てよ。この国の一番の騎士と言われる騎士様がそれくらいで倒れるかよ。お前、わざと俺の拳受けただろ」
「……」

 スバルの言う通りで、ラインハルトはすぐに立ち上がる。

 スバルはラインハルトと向き合い、彼を問い詰める。

「ラインハルトは、ハルカのお前に対する気持ちを知ってるだろ。ハルカの気持ちを知ったうえでそれを言うのか? ハルカは、自分の国に帰らずとも、お前のそばに居られるならその呪いすら解かなくてもいいとも思ってるんだぜ。お前もハルカのそれ、知ってるんじゃなかったのかよ」

「……」

「もし、お前がハルカにその気が無いとあればそれはそれでいいと思うが、ハルカにそこまで期待を――気を持たせるなよ。ハルカに期待させずにあっさり断ってやった方が彼女のためだと思うし、俺と同じ風に浮世離れして外に出したくないっていう彼女を気にするならそれこそ、エミリアだけではなく俺を拾ってくれたロズワールの奴が引き取ってくれるかと――」

「――僕だって家の事が無ければ、ハルカを自分の手元に置いておきたいと思ってるさ!」

 ガンッ。スバルの耳に大きな音が聞こえ、思わず背筋が震えた。

 それは、ラインハルトが自分の拳を壁に打ち付けた音だと、スバルでも分かった。

「僕の家――アストレア家は、この国の要だ。アストレア家が終われば、この国も終わると同じ事だ。それは僕が『彼女』から聖剣を受け継いだ時から――それを与えられた時から、理解している。スバルも僕のお爺さんや、ユリウスから、アストレア家が何かくらい聞いてるだろう」

「あ、ああ、俺も、お婆さんから聖剣を受け継いだラインハルト、それから、お前のアストレア家が何を背負ってるかくらい、ヴィル爺さんやユリウスから聞いてるが……」

 ラインハルトは壁にもたれて、自分の家の事情をスバルに打ち明ける。

「スバルは、その僕がハルカをいつまでも自分の手元に置いておけると思うか? ハルカは今はまだフェルト様の付きのメイドとして名目は保っていられるが、王選が終われば――、この国の人間であるのが分かっているフェルト様はまだいいが、出自が不明の彼女は僕の屋敷を去らなければいけない立場に追い詰められるんだよ。武器も魔法も扱えず、浮世離れしたハルカは屋敷を出るも行くあてなく、最悪、野垂れ死ぬしかなくなるだろう」

「おいおい、何で、王選が終わればハルカがお前の屋敷を追い出されて野垂れ死ぬ前提で話してるんだ。もし、ハルカがお前の屋敷に居られなくなるようだったら、さっきも話したがエミリアと俺を拾ってくれたロズワール邸に引っ越せばいいだけじゃあ――」

「――僕の家は、僕ではなく、僕の父のものだ。僕の父が認める人間でなければ、屋敷の出入りはできない。僕のお爺さんが父に追い出されたようにね。その父は、僕の知らない間にハルカを追い出すのを簡単にやってのけてしまうんだよ。僕がハルカを君のロズワール邸に預ける前に父がハルカを追い出したとあれば、僕でも手の打ちようがない」

「……そういえば、ヴィル爺さんはお前のアストレア家ではなくクルシュ側で、お前がフェルトを拾った後でもお前のとこには用事がある時以外は屋敷に近付きもしなかったな。ああ、そうか、それでハルカも自分はこの先、どうなるか分からないって話してたのか……」

 そして、スバルは思い出す。

 ――フェルト様がマナー教室に応じるの、私のおやつだけじゃないんだけどね。

 火事騒動の時に悲しい顔でそう話したハルカの姿を。
 
 ハルカだけではなくフェルトもラインハルトの家の事情を知って、彼に仕方なく付き従っているのだと。

 ラインハルトは淡々と続ける。

「僕の父は、自分を飛び越えて聖剣を受け継いだ僕を良く思ってないらしい。その父が僕の意に反してハルカを認めなければ、王選が終わればハルカは僕の知らない間に屋敷を追い出されるだろう。それだけではなくて、その頃になれば僕もスバルもフェルト様やエミリア様をあらゆる敵から守る騎士として活動しなくてはいけなくなって、そのハルカを構ってる暇はないと思う」

「……」

「ハルカは僕の父の手で屋敷を追い出される前に、自分の国に帰れるなら帰った方がいいと、僕個人は思ってる」

「……それが、ハルカに対する、ラインハルトの出した答えか」

「そうだね。僕は王選はもとより家の問題もあって、僕の手で最後までハルカを守れる自信はない。そうなる前に彼女はこの国より、自分の国に帰った方が安全だと思う」

 スバルは一応、ラインハルトのその気持ちも理解していた。理解していたつもり、だった。

 だから。

「そうだ。ラインハルトが自分の父親のせいでハルカが屋敷を追い出されて野垂れ死ぬのを心配するなら、俺がそうなる前にハルカをそこから連れ出してやるよ。ハルカ、さっきの貧民街のブラックマーケットで打ち解けたのか、エミリアやレムともう親しそうにしてたからな。お前の父親も、エミリアかロズワールの誘いがあれば、ハルカをそこに預けるの断れないだろ。何だ、意外と単純な話だったな」

 はは。スバルは笑ってラインハルトに負担をかけないよう、いつもの優しさでそう話したつもりだった。

 しかし、ラインハルトは――。

「そうそう、僕と同じよう、王候補のエミリア様の騎士であるスバルに忠告を」

「何――」

 ラインハルトはそうくるとは思わず油断して構えるのを忘れていたスバルの胸倉を掴み、顔を近付け、そして。

「――この国、ルグニカ王国の暗部は、君が思うほど単純ではない。エミリア様が王になっても王にならずとも、『魔女』よりも『人間』の仕業に気をつけろ」
「――」

 そのラインハルトの言葉は。

 そしてラインハルトはそこからあっさりスバルを解放すると、彼に向けて言う。

「もし、スバルが行くあてもないハルカを預かるのはいいが、スバルの不手際で魔女以外――人間の手でハルカを傷つけられたら、スバルも容赦しないからそのつもりで」

「俺の不手際で魔女以外、人間の手でハルカが傷つけられたら容赦しないって……、ハルカはお前の父親から逃げられても、魔女以外の何か――人間の手で傷つけられる可能性が高いってわけか」

「そうだな。王選に関わる人間は、魔女だけではなく、この国の利権に群がる裏で暗躍する人間達にも狙われやすい。それは、僕でフェルト様に付いてるのが認知され始めたハルカも例外ではない。スバル、それはエミリア様の騎士である君が身を持ってよく知ってるんじゃないのかい」
「……そうだな。俺は、エミリアの騎士になってから、色々なものに狙われるようになった。それは否定しないさ」

 そう、スバルは知っている。

 エミリアについているだけで――王選に関わっただけで、魔女だけではなく、その利権に群がる裏で暗躍する人間達にも狙われている事を。

「……、それでハルカが俺につくのはいいが、もしそこでハルカの身に何かあった場合、俺も連帯責任でお前の聖剣でやられるってわけか?」

「ああ。そうなった時はハルカを傷つけた犯人も、スバルも、僕の聖剣で斬る、とだけ」

「それさらっと言うラインハルトの方が一番怖いんだが……」

 スバルは、それをさわやかな笑顔で言い切るラインハルトに身震いする。

 スバルはここで、ボヤ騒ぎでハルカがラインハルトと立ち去った後、居残っていたフェリスに言われた言葉を思い出した。

『――ラインハルトは、気に入ったものがあればそれを自分の手の中に入れていないと気がすまない男だからにゃ~、ハルカちゃんが自分の知らない所で別の男の所にいったのが分かればあの聖剣を使って問答無用で斬りかかってくるにゃよ』

 おまけに。

『――でも本当、ハルカちゃんが絡むと、ラインハルトはスバルきゅんでも容赦しないからね~。気を付けて~』

 スバルはフェリスの話を思い出し、ハルカが絡むと本当に自分に容赦しないラインハルトの仕業に苦笑する。

「スバル。僕の話を聞いているか」

「あ、ああ、ちゃんと聞いてるさ。俺がラインハルトの父親から追い出されるハルカを預かるのはいいが、魔女以外で――人間の手でハルカを酷い目にあわせたら聖剣持ったラインハルトが俺の所に駆けつけるんだったよな。そうなった時に俺はラインハルトの聖剣に斬られたくないからな、エミリアだけではなく、ハルカも守る事に専念するよ」

「そう。スバルにもそれが分かればいい。十分だ」

「……本当、この国に居ると魔女と人間、どっちが怖いんだか分からなくなるな」

 はは。スバルはこの時、それを身を持って実感したという。

「そうだな。この国で自由にやってるスバルとエミリア様を見ていると時々、何で自分が騎士をやっているのか分からなくなる時がある」

「ラインハルト……」

 スバルは、このルグニカ王国最強の騎士で一番の色男であると謡われるラインハルトではあるが、ラインハルトはラインハルトなりの苦労はあるのかと、スバルはここで初めて彼について興味を持った。

 ラインハルトはしかし、その話題はもう終わりだと言いたいのか、すっかり暗くなった夜空を見上げて、いつもの調子でスバルに言った。

「そろそろ、ハルカ達のご馳走が出来る時間じゃないかな。僕達もロズワール邸に急ごう。ハルカ達を待たせて怒らせるわけにはいかない」
「……そうだな。リボン選びにけっこう時間使ったからな、エミリアとハルカの機嫌を取るには急いだ方がいい」

 スバルもいつもの調子でラインハルトに応じる。

「今回は、スバルとハルカの国のご馳走がメインだったか」
「ああ。ハルカの手で、俺とハルカの国のご馳走を色々作ってくれるらしい。フェルトじゃないが、めちゃくちゃ楽しみだな!」

 スバルとラインハルトは、駆け足でロズワール邸に向かった。