守りたいもの(02)

 貧民街はその名の通り、表の街から堕落した荒くれ者達や犯罪者が集い、夜になれば薄暗い森の中では危険な魔物も出現すると聞いている。善良な一般王国民は、よほどの事がなければ近付かないと言われる所である。

 実際、スバルも貧民街でフェルトがほかの悪い人間に狙われて襲われて死んでいるのを何度か目撃しているし、エミリアもその近辺で夜に魔物やよくないものに襲われて死亡する場面を何度か目にしている。

 レムは慎重な態度で、スバルに言う。

「エミリア様単独であるなら彼女の強力な魔法でよくない人間達を蹴散らすのはわけないですが、スバル様と同じ国出身でそれで無力のハルカさんまで一緒となればどうか……」
「……そうだな。エミリアであれば、俺と同じで何も戦う力がないハルカを守る側に徹するだろうな」

 エミリアは、この国では異端児扱いで煙たがられているが実際は、心優しい女の子であると、スバルもレムも知っている。

 エミリアであれば不愛想ではあるがハルカを守る方に回り、自分を守るのは疎かになってしまう。最悪、エミリアがハルカを守るのに手いっぱいで、その隙を狙ってエミリアが悪い人間達にやられてしまえば――どうなる。

「くそ、強い魔法が扱えるエミリアはまだいいが、何で無力のハルカまで貧民街に行く必要がある! エミリアもそうだが、ハルカに何かあればその一部始終を見ていた俺が何で彼女を助けなかったと、ラインハルトに恨まれるぞ!」

 うわー。スバルは、ラインハルトはハルカをただのメイドとしてではなく、それ以外の感情を持って彼女に接していると、彼と親しいフェリスから聞いていたのだった。

「レム、レムの魔法で二人の居場所が追跡できるなら、俺にもその場所を教えてくれ!」
「分かりました。スバル様、手を」
「手? はいよ」
「では、いざ――」
「!」

 レムはスバルにうなずくと彼の手を取り、ある魔法を詠唱したのち、人間では出せない速度を出してスバルをその目的地まで引っ張って行ったのだった。


「スバル様、大丈夫ですか」
「な、なんとか……。レム、お前、魔法で速度出すなら出すって言ってからにしろよ。魔法に耐性が無い俺ではこれ、けっこうきついわ」

 レムの爆速のせいでそれに慣れていないスバルは震えが止まらず、自身の心臓を抑え、動悸を鎮めるのに時間を要した。

「でも、おかげでエミリア様の戦いには間に合いましたよ」
「え」

 エミリアの戦い?

 スバルはレムの発言で周囲を見回し、此処が森の開けた広場と分かり、そしてその広場の中央に居るのは――。

「――あら、スバル。今頃来たの? 遅かったわね」

 凛と澄んだ声が聞こえたかと思えば――。

「スバル様、よけてください!」
「うわっ」

 レムの鉄球が飛んできて、それを避けた先には魔物――、十匹以上は集うゴブリンの群れがあって、そこに直撃、ゴブリン一匹を鎮める事に成功。

 ゴブリンの群れに囲まれるエミリアの隣に来るのは、スバルではなく、レムだった。

「レム」
「エミリア様、レムが助太刀に来ました。どうぞ、レムをお使いください」

「ありがとう。正直、この数は一人では大変だったの。レムが来てくれると、助かるわ」

 言ってエミリアはレムに微笑むと、その先に待ち構えるゴブリンに向けて冷静に氷の刃を放つ。

 一匹、二匹、三匹……。ゴブリンの群れはエミリアの氷の魔法とレムの鉄球によって、順調に退治されていく。

 その間のスバルといえば。

「……、武器持ってくるの忘れて木陰に隠れるだけとは、男としてこんな情けない話、あるか」

 はぁー。スバルは木陰に隠れて、ゴブリンの襲撃から身を潜めてエミリアとレムの戦いの邪魔をしないに徹していたのである。その男として情けない姿に溜息しか吐けない。

 ところで。

「ところで、ハルカはどこ行った? 此処でゴブリンの戦いに参加してるの、エミリアだけか?」

 ハルカは自分と同じように木陰に潜んでいるのではないかと思ったが、彼女の姿は木陰にも、エミリアとレムの広場にもその姿はなく。

「これで、最後!」

 その間にエミリアの氷の刃がゴブリンの体を貫き、最後の一匹を消滅させる事に成功した。

 そして。

「――」

 エミリアは何かの呪文を口にして、光を帯びた手先を地面にあてる。

 レムは、エミリアが何をしたのか理解する。

「エミリア様、今の、結界ですか」
「ええ。これでしばらくの間、この周辺はゴブリンの出現は無いわね。ようやく、子供達も安心して遊べるわ」

 言ってエミリアは辺りを見回し、そして。

「スバル、もう出て来て大丈夫よ」
「あ、そうですか……」

 エミリアに言われて木陰から情けなくコソコソ出て来るのは、スバルだった。

 それからスバルはエミリアと向き合うと、かねてからの疑問を彼女に問い質した。

「エミリアは、どうして此処まで来たんだ? 此処、貧民街のエリアで、夜になれば薄暗い森の中は危険な魔物も出現するらしいってレムから聞いているし、実際、俺も此処で何度か危険な目にあってるんだけど」

「……知り合いに此処まで来るよう、誘われたのよ」

 エミリアはスバルに小さくか細い声で答え、エミリアのその内容にスバルは憤る。

「誘われた? 誰に? まさか、エミリアをよく思わない悪い連中に此処まで誘い出されたのか? エミリア、そいつらの顔覚えてるか、俺がとっちめてやる!」
「落ち着いて。私が誘われたのは、スバル、あなたもよく知ってる子よ」

「え」

 エミリアは興奮気味のスバルと違って、やけに落ち着いた様子で言った。

「私をこの薄暗い森に誘い出したのは、スバルと同じ国出身だっていうハルカという名前の女の子よ。彼女、ラインハルトのフェルト付きのメイドだっていう紹介を受けたんだけど、スバルはそれの証明できる?」



「ハルカ!」

「あれ、スバルじゃない。どうして此処に――ああ、エミリア様目当て?」

 ハルカが居るのは貧民街の一角にある、とある小屋の中だった。

 小屋の中は酒場らしく、客は全員、何か抱えていそうな屈強な男達である。

 そして酒場のカウンターの中に居座っている主人は男ではなく、大柄の中年女性であった。

 スバルは構わず、カウンター席に座るハルカに近付く。

「ハルカ、お前、エミリアと知り合いだったのか?」
「いえ。エミリア様とは、今日になって初めて顔をあわせたのよね」
「ええ? それで何で、エミリアと一緒に此処まで来たんだ?」
「エミリア様は私のメイド衣装で私がラインハルト様の所のメイドだって一目で分かってくれて、おまけにスバルと知り合いだと言えば私の事をあっさり信用してくれて、此処までついてきてくれたのよ。スバル、あなた、エミリア様によほど信頼されてるのね」

「俺は、エミリアの騎士だからな。当然だ」

 スバルは胸を張って、その肩書を自慢そうに話した。

「ハルカは何で、この貧民街に来る必要があった。お前、ラインハルトはもちろん、この街の出身のフェルトで此処が危険な場所だって分かってるんじゃないのか」
「ちょっと待って。エミリア様を待たせるわけないはいかない。説明はあとで」

 言ってハルカは席を立つと、スバルから離れてエミリアの方に近付き、彼女に聞いた。

「エミリア様、依頼の魔物退治、どうでしたか?」
「ふん。私の実力であれば、こんなのわけないわ。明日から子供達、あの広場で遊べるわよ。もしそれが駄目だった場合、私を保護しているロズワール邸か、ハルカのアストレア家にどうぞ?」

 エミリアは最後、カウンターに居る酒場の女主人に向けて挑戦的に言った。

 女主人はエミリアの挑発的な態度に苦笑しつつ、冷静に応じる。

「ふむ、これがあの噂のエミリア様の実力か。しかも、あんたのアストレア家のメイドというのも、どうやら本物みたいね?」

「それだから最初からそう説明したし、それの証であるアストレア家の家紋も見せたのに、信用できない、それの証明するならエミリア様の実力が見たいって言ったのはそちらですよね」

 酒場の女主人は参った様子でエミリアを評価し、ハルカもエミリアに負けずと女主人に応戦する。

「分かった、分かった。女だけじゃ目的地まで連れて行けないと思ったが、エミリア様の実力とアストレア家の盾があれば大丈夫だろう。あんた達の要求通り、貧民街のブラックマーケットに案内するよ」
「やった、ありがとうございます!」

「いったい、どういうわけだ。全然、話が見えないんだが……」

 女主人に得意げのエミリアと、彼女に頭を下げるハルカを見て、蚊帳の外で呆然とつぶやくのはスバルだった。



 スバル達は女主人の案内で、ブラックマーケットへ向かう。

 ブラックマーケットは、貧民街の奥――街の外れにあって、貧民街の人間が行ってもいつ市場が現れるか分からないが、女主人であればそれを仕切る人間に連絡が取れるので今からでも市場を開いてくれると話した。
 
 スバルはその道中、ハルカから事の経緯を聞いていた。

 因みに女主人の横には何かあった時の対応でレムが張り付き、その後ろをエミリア、そして、エミリアを守るようにスバル、ハルカと続く。

「はぁ、ハルカは、得意のおやつの材料を求めて貧民街のブラックマーケットに行きたかったってのか?」
「ええ。フェルト様におやつを作ろうと思っても、表の市場ではその材料が中々手に入らなかったのよ。そのフェルト様の情報で色んな違法なものの裏取引が行われている貧民街のブラックマーケットならそれ扱ってるかもしれないって教わって、それで」
「ハルカ、お前一人で貧民街のブラックマーケットに向かったのか。肝心のフェルトやラインハルトはそこまで、付いて来なかったのかよ」
「ラインハルト様は騎士団のお仕事で、フェルト様は王選のマナー教室で忙しいのよ。二人とも私に付いて来る暇、ないわ」

「はぁ? あのじゃじゃ馬、素直にマナー教室通ってるのかよ?!」

 スバルは最初、あのフェルトが素直にマナー教室に通っているのはとても信じられなかった。

 ハルカはくすくす笑い、スバルにそのわけを明かした。

「それね、私のおやつで釣ってるの。マナー教室頑張ったら、私のおやつ、全部、フェルト様のものだって約束してるから」
「なるほど。フェルトの奴、ハルカの餌に釣られたってわけかい。ハルカもフェルト相手に上手くやったもんだな」

 スバルはハルカのやり方に感心を持つが、ハルカは。

「……、フェルト様がマナー教室に素直に応じるの、それだけじゃないんだけどね」

「え、フェルトがマナー教室に応じるの、ハルカのおやつ以外で何かあるのか?」
「いえ。今は、スバルが気にする必要はないわ」

「……そう言われるとそこ、気になるんだが」

 スバルはハルカの小さな呟きを聞き逃さなかったが、それ以上を聞ける雰囲気ではなく。

「それより今は、エミリア様に感謝しなくてはいけない」

 ハルカは、前を歩くエミリアに注目する。スバルもつられてエミリアを見詰める。

「実を言えば私はフェルト様のためといっても、屋敷を出て一人で貧民街のブラックマーケットに行くの怖かった。そこは危険な場所で女一人で近付かない方がいいというのは、フェルト様だけじゃなく、ラインハルト様から散々聞いてたからね。でも、フェルト様のためなら仕方ないと思って一人で貧民街に行こうとしたら、声をかけられたの。それが、エミリア様だった。エミリア様はアストレア家のメイドが一人でそんな所に入ったら危険、ラインハルト様は何をやってるのかって、私を貧民街に一人で向かわせた主人のラインハルト様にも怒ってくれたんだよね。それだけでエミリア様は皆が思うほど酷い女の子じゃないし、優しい子だって分かった」

「……、そうだな。エミリアは皆が思うほど酷い女じゃない。エミリアは、心優しい普通の女の子だよ」

 ハルカにエミリアをそう評価されたスバルは、誇らしそうに胸を張る。

「そのエミリアは、ハルカを助けてくれたのか」
「そう。そこの酒場の女主人は私がアストレア家のメイドだと家紋を見せて説明しても、それはニセモノじゃないのかって疑ってばかりで全然話を聞いてくれなかった。ほかの客も同じでね。唯一、彼女が話を聞いたのがエミリア様だったってわけ」

「仕方ないだろう。あの、アストレア家のメイドがこの貧民街まで来ると誰が思うか。この国の人間であれば誰でもそのエミリア様の顔を知ってるからな、このあたしがエミリア様の話を聞くのは当然だよ」

 スバルとハルカの話に入ってきたのは、スバル達を案内する酒場の女主人だった。

「そういうおばさ――、いや、お姉さんは、エミリアは分かるけど、ハルカの主人であるラインハルトのアストレア家を知ってるのか?」

 ギロリ。スバルは女主人を「おばさん」と言いかけて、女主人に鋭い目で睨まれてしまったので、慌てて「お姉さん」と表現を変えて、話を続ける。

「ラインハルトのアストレア家は、貧民街でも有名だ。なんせ、この国一番の騎士様だからね。おまけにあの色男は、貧民街から近い色街の女達にも人気あってさ。ラインハルトが此処まで来れば騎士団に捕まってもいいっていう女達も多いんだよ。それだから女達の相手の男達は、その騎士様の目に触れないよう、彼女達を貧民街の奥に隠してるってわけさ」
「騎士のラインハルトなら捕まってもいいって……。おば、いや、お姉さんも何か悪さして表の街からこの貧民街に?」

「まあ、此処に居る連中は男も女も、皆、何か抱えてる連中ばかりだ。あんた達のよう、まだ将来性が残ってる人間は――アストレア家のメイドであっても一目で実戦経験が浅いと分かる女は、あまり近付いて良い場所じゃない」
「あ……」

 スバルはここで、酒場の女主人は本当に戦いに素人のハルカを心配して彼女をそこから遠ざけようとしていたのが分かって、目を見張る。

 女主人は何か察したスバルから視線を逸らし、続ける。

「あたしはそれを知ってるからそこのメイドの嬢ちゃんを此処から遠ざけようとしていたのに、どうしてもそこに行きたいと聞かなくてね。それだからエミリア様に魔物退治を依頼したんだよ。それだけじゃなくて単純に、王の候補者であられるエミリア様の実力を知りたかったってのもある」
「それじゃあ、お姉さん、エミリアとハルカがこの先の荒くれ者達に敵うかどうかそれ見極めるため、エミリアにゴブリン退治の依頼を出したってのか」
「そうだね。ついでに、その広場で遊んでた貧民街の子達がまた遊べるようになるのに、ゴブリン退治は必要だった。そこにエミリア様が丁度良く現れたってわけ」
「そうだったのか……」
「まあ、エミリア様の実力であれば、この先の荒くれ者達を相手にするには十分だろうさ。この先、気を付けて」

「分かった。お姉さん、色々、ありがとう」

 スバルは最後は女主人とも打ち解けた様子で、ハルカとエミリア、レムの三人と一緒に貧民街の奥にあるというブラックマーケットに向かったのだった。


 貧民街のブラックマーケットは、スバル達の想像以上の場所であった。

 裏のブラックマーケットは食材を扱う屋台が出され表の市場と変わらないくらい賑わっていて、そこでは女子供も一緒になって買い物を楽しむ様子は、エミリアやレムも困惑するほどだった。

 それからスバルはハルカ達と無事にブラックマーケットを出て、貧民街の出入り口まで戻ってきた。

「ハルカ、貧民街のブラックマーケットで目的の『あんこ』の原材料の小豆と、それ以外で使う小麦が手に入って良かったな」
「ええ。小麦はパンの材料で表の市場でも比較的簡単に手に入るけど、あんこの原材料の小豆だけは中々手に入れられなかった。おまけに、小麦が表の市場よりこんなに安いなんて思わなくて普段より多めに買っちゃった。これも、エミリア様、それから、レムのおかげだわ」

 ハルカの目的は『あんこ』の原材料の小豆と、色々使える小麦だった。

 ハルカは、自分と同じように買い物袋を抱えるエミリアとレムに向けて頭を下げる。

「エミリア様、レム、私についてきてくれて、ありがとう」

「いえ。私もハルカについて、貧民街の奥にあるブラックマーケットに入れて良かったと思ってる。貧民街はそれこそ堕落した男達の街かと思ってたけど、時々出てるっていう裏の市場では女性と子供達も表の市場と変わらず過ごしているのが分かったから」
「ですね。レムも貧民街の奥にあそこまで女性と子供達が居るとは思いませんでした。……ああ、それで、フェルト様もラインハルト様に拾われるまで貧民街で、今まで生き延びられてたんですね」

 ふむ。エミリアもレムも、貧民街の奥では表の街と変わらず女性達と子供達が居るのを知って、おまけにフェルトの背景も分かり、感心した様子だった。

 中でも。

「中でも、酒場のお姉さんが話していた通りで貧民街の女達の間でラインハルトがあそこまで人気なの、夢にも思わなかったぜ……」
「私もよ。私がラインハルト様のアストレア家のメイドだって分かると、ラインハルト様は一緒じゃないのかってそれ期待したよう、肌を露出したいかにも風俗的な女性達が群がってくるの、ちょっと怖かったわね……」

 はは。スバルは笑うも、ハルカは笑えなかった。

 そう。ハルカがアストレア家のメイドであると商人の男達に話せば、どこからか聞きつけたのか、わらわらと肌を露出したいかにもな女性達がハルカの周りを取り囲み、『ラインハルト様は一緒じゃないのぉ?』とか、『ラインハルト様が来てるなら、私を買わないかって紹介してねー』とか、『ラインハルト様なら、無料で相手してあげる』と、自分を売り込みに来たのである。

「今回は、エミリア様だけじゃなくて、スバルとレムが一緒で良かったわ。私とエミリア様だけじゃ、ああいう女達を相手にするのできないし、その女達についてるいかにもな男達も撃退するの無理だって思ったから……。スバル、レム、ありがとう」
「いや、俺は女達――というか、その女達についてるいかにも荒くれな男達相手に手持ちの武器の鉄球見せつけて撃退するレムの横であいつらを睨みつけるしかできなかった。ハルカに礼を言われる事はない」

「レムもスバル様と同じく、それくらい大した事ありません。お礼は不要です」

 森のゴブリン退治ではエミリアの影に、ブラックマーケットの女達とそれに付いてる荒くれの男達の間ではレムの影で、とにかく、男として戦う力が無いのが情けない。スバルはハルカに感謝される事はないと、バツの悪そうに頭をかく。

 レムもハルカに礼は必要ないと、微笑む。

「まあでも、私とレムもハルカのアストレア家の家紋のおかげで小麦だけじゃなく、卵とお肉が安く手に入ったから良かったわ」
「はい。レムもエミリア様も、ハルカさんのアストレア家の影響で卵とお肉が安く買えたので大満足です」

 にこにこ。エミリアとレムはスバルと違って、ハルカのおかげで卵とお肉がいつもより安く買えたと笑顔で話し、本当に満足そうだった。

 それ以外でスバルは、ハルカの手持ちの荷物で気になる事があった。

 それは。

「……あのさハルカ、お前が持ってるそれ」
「ん? 私が買った小豆、スバルも欲しいの? それなら、少しだけ分けてあげれるよ」

 ハルカは最初、スバルも自分の買った小豆が欲しいのかと思い、それが入った紙袋を彼に差し出した。

「いや、俺が言ってるのは、そっちの袋じゃない」
「そっちの袋じゃない? 何それ、どういうわけ?」
「あの、その、ええと」
「何よ。スバルにしては、歯切れ悪いわね。どうしたの――て、レム?」

「ハルカさん、お耳を……」

 すっ、と。ハルカに何かを言いたそうにしてるがエミリアの前で何も言えないスバルと、そのスバルにしびれを切らすハルカの横に立つのはレムであった。

 レムはスバルのその事情を知っているので、エミリアに聞こえないよう、ハルカの耳元で小声でその事情を説明する。

「ふむふむ。スバルは、あのお店の紙袋が気になってたの? 何で? ああ、それで。へえ」

 ハルカはレムからその事情を聞かされ、ニヤけた顔でスバルを見る。
 
 その間にレムは二人から離れ、「今晩、この材料で何を作りましょうか」と、エミリアの相手をしている。

「スバルってば、エミリア様に騎士以上の感情持ってたんだ?」
「う、うるさい、別にいいだろそれくらい。俺がエミリアにぞっこんじゃなければ、エミリアの騎士なんかやってないっての!」

 スバルのエミリアへの秘めた感情を知ってくすくす笑うハルカと、ハルカにその図星をつかれて真っ赤な顔を逸らすスバルと。

「私ね、スバルがこの国で魔女の写しだっていうだけで差別的な扱い受けてるエミリア様の騎士やってるの、疑問だったんだよね。騎士団の中でも、ラインハルト様でさえ、誰もエミリア様に近付かなかったから。でもこれでスバルがエミリア様の騎士やってるのとても納得したし、私もラインハルト様と同じく陰ながらだけど、スバルの応援するわ」
「ハルカ……」

 一息。

「確かにスバル一人じゃあのお店、入りづらいわね。いいわ、ブラックマーケットについてきてくれたお礼に、一緒に行ってあげる」
「いいのか」
「うん。あそこのお店、確かに可愛いリボンがいっぱいあるんだよね。私もあのお店でラインハルト様の言いつけで、フェルト様に似合いそうなリボンやアクセサリー、選んでたのよ。エミリア様への贈り物としては、あのお店のものが一番相応しいと思う」

「そうか、良かった。ありがとう」

 スバルはハルカの了解を得られて、ほっとした様子だった。

 話している間にスバル一行は貧民街から、表の市場へと戻ってきた。

 その頃、空はすっかり暗くなっていた。

「色々疲れたけどようやく、フェルト様に約束のお餅が作れる。良かった」
「餅か……。最近、そういうの口にしてないなぁ」

 ハルカの餅に、スバルが反応を示す。

 エミリアは、そのスバルの反応を逃さなかった。

「そういえば、スバルとハルカって同じ国出身なんですってね。スバル、故郷の味が恋しいなら、そのお餅っての、ハルカから教わったらどう? ハルカのお餅、レムなら作れるかもしれないわよ」
「はい。スバル様の故郷の食べ物は、レシピがあるなら、レムでも作れると思います。ハルカさん、レムにそのお餅のレシピ、教えてもらえませんか?」

「そうね。それ、今回のお礼で丁度良いかも。あ、でも、レムにレシピを譲るよりもっと素敵な事を思いついたわ」

 ハルカもエミリアとレムの提案に乗り気で、更にある事を思いついたと嬉しそうだった。

「素敵な事? 何だ?」

「ええとね、スバル達さえよければこれからアストレア家まで――」

 ハルカがそうスバル達を誘おうとした時、だった。

「――ハルカ!」

「!」

 ぐいっと。力強く何かに引っ張られたかと思えば。

「ラインハルト様」
「ああ、良かった、無事で!」

「あ、あの、私は見ての通り無事ですから、その、あの、そこまでは……」

「……」
「……」

 最初はハルカはラインハルトに人目も気にせず抱き締められて、ハルカの方が慌てるも、その腕から伝わる震えは本当に自分を心配しているのが分かって、最後は大人しく彼のなすがままである。

「……ねえ、スバル、ラインハルトとハルカって」
「レムもあれ、気になります」

「ああ、まあ、ハルカとラインハルトは、エミリアとレムの予想通りの関係だ」

 抱き合うラインハルトとハルカの様子を見ていたエミリアとレムは、スバルにその説明を求める。スバルは、肩を竦めて苦笑するだけだった。