さかさまの空(01)

 ある昼の出来事。

 その日のグウィンは暇だったので、の居るグランサイファーまで遊びに来ていた。

 その当時のグウィンは、自分の兄であるアイザックの関わる月の事件からしばらく経った後で、団長のグランに「イルザにその力が認められたなら、正式にうちの団に登録しないか」と誘われ、イルザからも「グランサイファーの団長に誘われたのであれば、団員として登録しておいて損はない」と言われので、正式にグランサイファーの団員として登録された時期でもあった。

 ――グランサイファーの団では新入りだから、団の先輩達に自分の顔と名前を覚えてもらおう。グウィンは暇でに会いに来たといっても今回は、新入りの自分が団の先輩達に顔を覚えてもらおうという、明確な目的があってこの艇にやって来たのだった。

 どうすれば団の先輩達に自分の顔と名前を覚えてもらえるか? それを団長のグランに相談すれば彼は考えるまでもなく「団の皆に顔と名前を覚えてもらうためなら、の所が丁度良い。目当てに食堂に通う団員は多いし、彼女ほど、うちの団の人間関係についての情報を持ってる人間、いないから」と、笑って、言い切ったのだった。

 なるほど。確かに、の人間関係に関する情報は、自分が属する組織でも重宝されるようになってきたからな。この団でものそれが発揮されているのはグウィンでも分かるので、さっそく、が城にしている食堂へ向かった。


 グランサイファーの食堂にて。

「コルワ、ありがとう!」

「ふふ、楽しみにしてて」

「頑張ってねー」
「あとで報告聞かせてくださいね」

 グウィンは、食堂でコルワに礼を言うと、に手を振るデザイナーのコルワ、メーテラ、スーテラのいつもの三人組とすれ違った。

 グウィンは組織でもグランサイファーでもコルワ達とはあまり接点がなく、新入りの自分から大物クラスの彼女達に話しかけてもなあ、と、余計な事を考えて彼女達の横を挨拶だけで通り過ぎようと思ったが、コルワの方から話しかけられた。

「あら、グウィン、あなたもに会いに来たの?」

「あ、ど、どうもです。今回は自分、この団では新入りなんで先輩達への挨拶に来まして、団長さんから新入りが先輩達に挨拶するにはの所が丁度良いと言われまして……。コルワさん達は、とはもういいんっスか?」

「ええ。から栄養もらったから、もう十分かな。なるほど、団長さんの言うよう、新入りの挨拶なら確かにの所が丁度良いわ」

「はい。ところでコルワさん、から栄養もらったとは、どういう意味ですか?」

「ふふ。のその話は、年齢制限あるから、グウィンには少し早いかもしれないわねえ」
「はい?」

 にっこり。コルワはいつにないキラキラ笑顔でグウィンにそう言うも、グウィンは年齢制限というコルワの言っている意味のわけが分からず戸惑うばかりだった。

 コルワはその話題を切り替えるよう一歩前に出て、グウィンに向けて言った。

「そうだ。グウィン、あなたが新入りの挨拶に来たというならこの私が、この団に登録された記念に、何か服を作ってあげるわ。お楽しみにね」
「ええ、有名デザイナーのコルワさんに服を作ってもらえるなんてそんな夢みたいな話、自分で良いんッスか?」

「私は、この団に何があっても団の皆にハッピーになってもらいたいから、新入りさんにもお近づきの印で服を作る事にしてるのよ。それ以外でもあなたがイルザの組織の人間で、の友達っていうだけで、私があなたに服を作る条件はもう満たしてるわ」

「どうして自分が、の友達というだけでその条件を満たしてるんですか?」

「あなた、と同じ時期にイルザの組織に入ってきたんでしょ、あの組織でイルザが認めた子であるというのと、それよりも何より――」

「何より?」

「――何より、この団でも外でもと同じように色々頑張ってる子は無条件で助けたいと思ってるの。それだから、私が作った服を受け取るの、遠慮しないでね」

「そうですか……。それなら、よろしくお願いします」

 グウィンからすれば力を持たないと同じ風に――頑張っているように見られるのは少し複雑であったが、ここは反論せずに素直に返事をするだけにしておいた。

「グウィン、この団に挨拶に来たなら、コルワだけではなく、私とスーテラの事も忘れないでよね」
「メーテラさん」

 コルワに続いて出てきたのはメーテラで、メーテラはグウィンに向けて自己紹介をする。

「グウィン、アタシと、アタシの妹のスーテラも、よろしくね。この団ではアタシは、妹のスーテラ、デザイナーのコルワの三人とよく一緒に居るの。それから団でもめ事でもあれば、お姉さんに任せてちょうだいな。アタシもスーテラもコルワの言うよう、アンタがこの団だけではなくてイルザの組織でもの友達で色々頑張ってるというだけで、何でもしてあげたくなっちゃうからさ」

 続いて、スーテラも前に出る。

「私は、メーテラ姉さんの妹のスーテラです。グウィンさんはこの団では、私の後輩になるんですよね。よろしくお願いしますね。私もグウィンさんがイルザさんの組織でさんと仲良いというだけで、応援したくなります。グウィンさんもさんと同じく、何か困った事があれば、私や姉さん達に遠慮なく相談に来てくださいね」

「ど、どうも、よろしくッス」

 ――さすがにコルワさん、メーテラさんの二人は団の先輩としての貫禄あるけど、同年代のスーテラは先輩の気がしないなぁ。

 はは。グウィンは、コルワとメーテラは団の先輩としてもどっしり構えているが、先輩風を吹かしているものの全くそう見えないスーテラに苦笑するしかなく。

 それからグウィンは何を思ったか、少し緊張した態度でメーテラに聞いた。

「あの、自分、コルワさん達の言うよう、『力を持たない無力の』と同じように色々頑張ってる風に見えます?」

 グウィンの声を聞いてメーテラは、コルワ、スーテラの二人と顔を見合わせた後。

「いやだ、それ気にしちゃった? まあ、お姉さんがずばり言ってあげるけどアンタと、力のアリナシ関係なく、同じ所で同じ風に色々頑張ってる、似た者同士じゃない」
「ですね。グウィンさんとさんて、目的が違っても同じ所を目指して色々頑張ってるの私でも分かりますし、グウィンさんがさんのそこを気にしてたのは意外でしたね。力の有無を気にしないで私達に普通に接してくれるさんの方が、肝据わってます」

「あらあら、メーテラよりスーテラの方が辛辣だわね。でもグウィン、二人の言う通りで、あなたも力を持たないと同じよう――違うわね、あなたに無駄に力があるゆえか、イルザの組織だけじゃなく、色々な所で頑張ってるのが分かるわよ。でもそれはとても良い事だと思うし、力を持ってるあなたが力を持たないと同じ風に見られるのが複雑なのは分かるけど、今はそれを別に気にしなくて良いと思うわ」

「ですよね。力を持たないと同じ風に見られるの、今は別に気にする必要、ないッスよね……」

 グウィンの声にメーテラはけらけら笑いながら、スーテラはメーテラより辛辣に、コルワも困った風にグウィンのそれを指摘したのだった。

 グウィンは自分が同じイルザの組織で同時期に加入してきたというだけで無力のと同じように見られて少しモヤモヤした気分だったが、それ以上の反論はできず、素直に応じるしかない。

 そのグウィンにメーテラは微笑み、彼女に向けて言った。

「ね、グウィン、今度、時間あるときでいいから、あたしとスーテラ、コルワの三人でおしゃべり――お茶会しない? その席にも入れていいからさ」

「は、はい、が一緒でいいなら自分でよければぜひ……」

「その時が楽しみね。それじゃあ」
「失礼します」

「……」

 メーテラとスーテラの姉妹は入り口で待っていたコルワと合流を果たした後、三人でどこかへ行ってしまった。

 グウィンはさっきからこちらの様子を心配そうに見ていたの方へ近づくため、いつものカウンターの席に落ち着いた。

 因みにファスティバは団の外で自分の店を持っているので団に特に用事が無い場合は食堂に入るのは夜からで、ローアイン達も特に用事がなく呼ばれていない不在の時、昼は一人が食堂を任せられている。

「グウィン、メーテラ達に何言われたの?」
「今度、を入れてもいいから、メーテラさんとスーテラ、コルワさんの三人と一緒にお茶会しましょうって誘われた」
「そう。それならその誘い、受けた方が良いんじゃない?」
「自分、メーテラさん達、苦手なんだけど……」
「はは、グウィンはメーテラ達が苦手そうだと思った。でもメーテラはあっさりしていて話しやすいし、その妹のスーテラは色々可愛いし、デザイナーのコルワと親しくなれば色々作ってくれるから一回、彼女達とお茶会やってみるといいよ。その席にグウィン一人参加じゃなくて、私も入ってあげるからさ」

「考えておくよ」

 今のグウィンはにそう返事をするのでせいいっぱいだった。

 そして。

「今日は、団の先輩達に新入りの自分の顔と名前を覚えてもらうために、この艇に来たんだ。団長さんにそれ相談すれば、の所が丁度良いって言われて、それで」
「そう。団長さんの言う通りで、私の所なら皆に顔と名前を覚えてもらうの、早いと思うよ。さっそく、メーテラとスーテラ、コルワの三人に顔を覚えられたじゃない」

 グウィンはに此処に来た目的を話し、もそれに納得したよううなずいてる。

 は言う。

「グウィン、お腹が空いてるなら今なら何か作れるけど。どうする? 食べている間にまた、団のお客さん来るかもしれないよ」

「そうだな。丁度、お腹減ってたわ。それじゃミートソースのスパゲティ、トッピングにハンバーグにトロトロチーズ、目玉焼きのせ、お任せサラダのセット、注文するけどいい?」
「お任せを!」

 はグウィンの注文を受け付けるとさっそく、大きな鍋でパスタを茹で始めた。

 食堂には何人かの団員も食事をとっていたがグウィンは気にせず、に話しかける。

「ねえ、さっきの……」
「何?」
「さっき、コルワさんに何頼んでたんだ? コルワさんだけじゃなくて、メーテラさんも頑張ってってを励ましてたけど、グランサイファーでまた何かイベントあるのか?」

 グウィンは最初、はグランサイファーのイベントでコルワに何か作ってもらう約束をしたのだと思った。

 しかしグウィンの予想はあっさりと外れた。

「ああ。グランサイファーのイベントごとじゃなくて、数日後にイルザさんの組織の集まりあるでしょ、コルワにそれ用に可愛いドレス作ってくれるって約束取り付けたんだよ」
「組織の集まり? ああ、月イチの会合か」

 イルザの組織では月に一回、顔見せ程度の会合が開かれる。

 その内容は難しい会議というわけではなく、単純に皆で集まって飲み食いするだけである。しかもその会場というのは。

「月イチの組織の会合といっても、ただ組織の皆で集まって飲み食いするだけの食事会、しかもその会場がうちのレストランって……」
「はは。グウィンのお母さんとお父さんがやってるレストラン、どの料理も美味しくて、あのカシウスも通ってるほどだからね。組織の皆も、何かと理由つけてグウィンのレストランを貸し切りにして独占したい気持ちは分かる」

「……ありがと。って力を持たずとも本当、人を乗せるの上手いよね」
「そう?」

 はスパゲティを茹でている間、ハンバーグの肉をこねている。

 その間には、グウィンと話を続ける。

「それで、その会合、いつもの戦闘用のスーツじゃなくて私服での集まりで、今回は更にユーステスの保護者のローナンさんもそれに久し振りに参加するっていうから気合入れないと。でも私では何着ればいいか分からなくてデザイナーのコルワに相談すれば、期日までにそれ用のドレス作ってくれるって言ってくれたんだー」

「へえ。月イチの会合でもいつもの戦闘用スーツじゃなくて私服って言われると、確かに何着て良いか迷うよな。しかもそれに現在付き合ってる人の保護者まで参戦するとなれば色々気ィ使うわな」
「うん。デザイナーのコルワに頼めばそういうの解決してくれるからね。こういう時、グランサイファーの一員で良かったって思う」

「そっか。からすればそれは良かったんじゃない?」

 グウィンにグランサイファーの一員であるのを誇らしげに語ると、そのを見て微笑むグウィンと。

 すぐ前のは『力を持たない自分はグランサイファーの一員には相応しくない』と残念そうに呟いていたが、先日の騒動――ダイエットの時に団長のグランからはっきりと「力を持たずともはうちの団員で間違いない、組織ではなく個人的でも何かあれば団員専用の掲示板に報告を」と言われてからはどこか吹っ切れた様子で、グランサイファーの一員であるのを自覚したようだった。

 グウィンからすれば、組織の仲間達の中であってもユーステスが不在である時は力を持たないせいでどこか居心地悪そうにしているは、組織だけではなくグランサイファーでも居場所があるのは良いよな、と、思っている。

 そして。

「それでさ、さっき、コルワさんにから栄養もらったからもう十分だって話してて、実際、コルワさんの肌ツヤ良かったんだけど、はコルワさんにそのドレス作ってくれる代わりに何をあげてるんだ? は自分達と違って魔力や戦う力が無いから、この団だけではなくてどこいってもその名前が知れ渡ってる有名デザイナーのコルワさんはいつもの何に納得してドレス作ってくれてるのか、前から気になってたんだけどさ」

 グウィンは今回がそれを聞くいい機会と思って、に聞いた。
 
 そう。グウィンはかねてから、魔力も戦う力も何も持っていないがどうしてこの全空でその名前が知れ渡っている有名デザイナーのコルワに団の仲間達より優先的に衣装を作ってもらえるのか、疑問だった。

 力を持たないが団の力を利用する代わりに提供できるのは、料理を含めた家事全般であるとは、団長のグランやイルザから聞いている。

 財力も知名度もあるコルワであればしかし、の作る料理だけでは満足しないのではないか?

 グウィンはの前で遠慮なくその疑問をぶつけ、更に、遠慮なく言った。

「コルワさんがに衣装作ってくれるの、団長さんの指示もあったりするのか?」

 グウィンは最初はコルワは、力を持たないを仲間外れにしないようにと団長のグランに言われて、彼女の衣装作りを手伝っているものかと思っていた。

 それが。

「ああ。コルワが何も力が無い私に衣装作ってくれるの、団のイベントごとでは団長さんの指示もあったりするけど、それ以外ではユーステスとのイチャイチャ話を提供してるんだよ」
「は?」

 ――団長さんの指示以外では、ユーステスさんとのイチャイチャ話を提供だって? グウィンはが何を言っているか分からず、呆気に取られる。

 はその間に茹で上がったスパゲティを皿に盛り付け、ハンバーグが焼けるのを待っている状態だった。

 その中ではグウィンに改めてコルワの能力について、解説する。

「コルワはこの団に何があっても最終的には皆が幸せになって欲しいハッピーエンド主義者で、それだから団の皆の幸せな話で衣装のデザインの創作意欲がわくっていうの、団の誰かから聞いた事ない?」

「ああ。それ、団の誰かから聞いた事があるし、さっき、コルワさん本人が言ってたような気もする。確か、コルワさんの能力は、他人の幸せな話で衣装の創作意欲がわいて、更に、その衣服に依頼主の感情の幅によって力をつける事ができるとか……」

「そうそう。グウィンの言う通りで、コルワの衣装はコルワの魔力が込められた糸で作られてて、その影響か依頼主の感情によっ衣装にその力を与える事ができるんだよ。それ踏まえてコルワは私とユーステスのイチャイチャ話で創作意欲わくっていうから、その話提供して、それに納得してくれば色んな場面で衣装作ってくれる事になったわけ」

「へえ。それでコルワさん、に栄養もらったからもう十分って話してたのか……」

「因みに私の場合、コルワから衣装もらってそれ着て何やっても感情の力つかないから安全に衣装が制作できるので実験台に打ってつけ、おまけにこの団で夫婦以外で男女関係をおおっぴらに公表してるの私とユーステスくらいだからっていうので、それでほかの団員より優先的に作ってもらってるんだー」

「なるほど。力を持たない代わりにその力も付与できないは、コルワさんの実験台として使えるのも利点で、確かに、この団で夫婦以外で男女関係をおおっぴらに公表してるのはとユーステスさんくらいしか居ないな……」

 グウィンはは、コルワのいう栄養がとユーステスの幸せな話を提供、更に安全な衣装制作の実験台に使われ、更には、団の中で異性の男女関係を公表しているのはとユーステスくらいだという話を聞いて、妙に納得している。

 いやしかし、それ以前に。

「ていうかさその前に、コルワさんも満足するとユーステスさんとのイチャイチャ話って何なんだ? いつものよう、ユーステスさんに頭撫でてもらったとか、抱きついてとかそんなの?」
「うん、まあ、そういう単純なものから、ちょっと大人向けの……、うーん、コルワとメーテラは年齢満たしてるけど、年齢満たしてないグウィンじゃ刺激強過ぎるかも? グウィンと同じ年齢満たしてないスーテラは、メーテラか自分で耳塞いで防衛してるからいいけど……」

 実はグウィンは現在十五歳、より年下だった。はグウィンの年齢を考慮して、それ以上の内容は控える。

「え、頭撫でるとか抱きつく以外の刺激で大人向けって、何よ?」
「あ、ハンバーグできたー。あとは目玉焼き焼いて、チーズが溶ければミートスパゲティは出来上がり!」

「……」

 はあからさまに話題反らしでもうすぐ出来上がる料理に専念する。グウィンはのあからさまな話題反らしに顔を引きつらせるも、が本当に忙しそうに動いているので、今の自分ではそれ以上の内容を引き出せずに終わる。

 は二つのフライパンを使って片方は目玉焼きを作り、片方はチーズを溶かしている間、グウィンに聞いた。

「ねえ、そういうグウィンは組織の会合に何着てくか決めてる?」
「どうしようかなぁ。自分の場合、みたいに気使う必要ないからいつもの普段着で行くかな……」
「グウィンの私服、カワイイから羨ましい~。あの服、どこのお店で見つけたのか今度、教えてよ」
「そう?」
「そうだって。グウィンってそれだけじゃなくて、戦闘用のスーツ着てても頭のカワイイ髪飾り外さないとこ、カワイイじゃない」
「……本当、人をよく見てるね」

 グウィンは、にそれを指摘されて、今も身に着けているお気に入りの髪飾りをいじりながら照れ臭そうに笑う。

 と。

「グウィンってゼタ達のような派手さはないけど、と同じで、実は隠れたカワイイの持ってるよね~」
「うむ。戦闘用スーツ着ていても髪飾りを外さない、そういう細かいカワイイのは、オレ様と張り合える素質は持ってるぜ」

「うわ、カリオストロにクラリス、いつの間に隣に来てたんだ」

 グウィンはいつの間にかカリオストロとクラリスが自分の隣に来ていて、それに素直に驚く。

 はサラダの野菜を刻みながら身を乗り出して、カリオストロとクラリスに向けて聞いた。

「ね、カリオストロにクラリス、グウィンの私服姿、見た事ある?」

「噂にはガーリー系で抜群にカワイイとは聞いてるが、まだ見た事ねえな」
「グウィンは、この艇に来る時は組織の戦闘用スーツだもんね。一回、私服でこの艇に乗ってきなよ。ししょーとうちでカワイイ評価つけてあげるよー」

「い、いや、カワイイなんて自分の柄じゃないし、そういう評価いらないから」

 カリオストロとクラリスに迫られ、そこからのけ反る。

「クク、そういうのは柄じゃねえしそういう評価いらない、か。グウィンみたいに無自覚にカワイイを振りまくタイプほど、面倒だ。今のうちにその芽を摘んだ方がいいな」
「ヒヒ、ししょーの言うよう、グウィンみたいに無自覚にカワイイを振りまいてるタイプってこの団では多いからね。やりがいがあるわー」

「ち、ちょっと待って、何すんだよ。場合によっちゃ、やるか?」

 ガタンッ。カリオストロとクラリスに迫られたグウィンは、席から離れ、一応に害は及ばないように気をつけて戦闘態勢に入るが、しかし。

「こんな場所で――が居るとこでやりあうバカが居るかよ」
「そうそう。この団でに何かあれば、うちらも危ないっての分かってるからね」

 カリオストロは鼻で笑い、クラリスも遠慮なく笑って、二人はグウィンと戦う気はないと話した。

「それじゃ何で、自分に迫ってきたんだ」

「ほい。新入りのお前にこれやろうと思って、近付いたんだ」
「え。何これ、スカーフ?」

 グウィンはカリオストロから一枚のスカーフを受け取り、拍子抜けする。

「うちは、これ。お近づきの印で、グウィンにあげるよー」
「今度は、リボン?」

 クラリスは笑いながら、グウィンに赤いリボンを手渡してきた。

 グウィンはカリオストロにもらったスカーフ、クラリスの赤いリボンを不思議そうに見詰める。

「スカーフにリボンってもらっても自分の武器に使えないじゃん、何に使うのさ?」

「はは、グウィン、それ、用途以外に使い道ないでしょ」

 グウィンに見かねて間に入るのは、だった。

 は言う。

「カリオストロにクラリス。グウィンがそれつけたらカワイイから、つけてみなって話でしょ?」

「うむ。いつもの戦闘用スーツでも、そのスカーフ首に巻いとけば、イルザの組織の男どもから注目されるぞ」
「うちのリボンもその髪飾りと一緒につけてみればかわいくなれるから、それでイルザの組織の男の視線独り占めできるよ!」

「い、いや、自分は全然男から視線浴びたいなんて思わないし、それでイルザ教官の組織の男達から注目浴びるなんてそんな余計なものはいらないって」

 から説明を聞いてカリオストロとクラリスからもその使い道を聞いたグウィンは、自分はそんな柄ではないと、顔を真っ赤にしてどういうわけかそのアイテムをに突き返した。

「えー、スカーフとリボン、カリオストロとクラリスがグウィンに選んだだけあってカワイイのに、もったいない」
「……それじゃそれ、にあげるよ。自分には必要ないから」

「いや、これはグウィンに選んだものだから私にはあわないと思うよ。これ、カリオストロとクラリスに返すね」

 はそう言ってグウィンではなく、カリオストロとクラリスにスカーフとリボンを返した。

 ところで。

「あ、グウィンが注文してたミートスパゲティセット、できたよー」
「ありがとう」

 ここでは、グウィンが注文していたミートスパゲティ、ハンバーグと目玉焼きとチーズのトッピング、更にサラダとスープを添えたセットを運んできた。

 グウィンはカリオストロとクラリスに構わず、スパゲティを頬張る。

の作るものは相変わらず、美味しい」
「ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しい」

 はグウィンにそう感想を言われ、本当に嬉しそうだった。

 それからは、カリオストロとクラリスの方を見て二人に聞いた。

「カリオストロにクラリスも何か食べたいものある? 今なら作れるよー」

「いや。オレは今は必要無いな。クラリスはどうか知らんが」
「うちも今は必要無いよ。あ、夜にまた来るかもしれないからその時に何か作ってよ」

「了解、了解。それじゃまた夜にね」

 はこれでカリオストロとクラリスの相手は終わったと思って、次の準備に入った、ところで。

、ちょっといいか」

「ん、何?」

 カリオストロは席を立って腰を浮かせた状態で、に聞いた。

「なあ、の話にあったイルザの組織の会合、いつだ?」
「ええと、二日後かな」
「コルワにはもう、その時に着ていく服、注文したのか?」
「うん。ついさっき、コルワに注文できたよ。期日までに届けてくれるって」

「それじゃオレは、その服にあいそうなバックか小物を選んでおいてやるよ」

「え、良いの?」

「ああ。は、オレとクラリスで立ち上げたカワイイ同盟の一員だからな、こういう時にそれを利用しないでどうするよ」
「うんうん。うちもそれまでににあいそうなカワイイリボン、見つけておいてあげるよー。カワイイ同盟の本領発揮だ!」

 カリオストロとクラリスはのため、張り切る。

「ありがとう。どんなカワイイもの持ってきてくれるか、カワイイ同盟の一員として期待してる」

 も嬉しそうに、カリオストロとクラリスに応じる。

 カリオストロは胸を張って、に向けて言った。

「ああ、大いに期待してくれ。この全空一最強で最高に可愛い錬金術師のオレ様がコルワに負けないもん、持ってきてやるぜ」
「うちも、コルワに負けてらんないねー。のため、いいもの見つけるぞ!」

 次にはもうカリオストロとクラリスは上機嫌で、食堂を後にしたのだった。

 後腐れなく食堂を退散していったカリオストロとクラリスを見てグウィンは、に感心を寄せる。

「へえ。はカリオストロとクラリスの扱い方も熟知してんのか。自分だったらクラリスはまだいいけど、カリオストロのあの態度にイラついて、すぐ戦闘態勢に入ってたわ」
「あはは、あの二人は本当、カワイイものに目がないからね、話題逸らすにはこの手が有効だって覚えておくといいよ。それに本当、可愛くていいものも見つけてくれるから、二人にそれ頼める時は頼んだ方が良いよ」

 はグウィンを前に、笑う。

 ところで。

「ところで、カリオストロが立ち上げたカワイイ同盟って何よ? 、そんなへんな同盟に入って良かったのか? カリオストロに無理矢理入らされてるっていうなら、自分もカリオストロに言ってやるけど」

 グウィンは、カリオストロが立ち上げたというカワイイ同盟が気になった。もし、がカリオストロに強要されて入らされたというなら、そこから助けてやりたい気分にもなっている。

「それ、組織の会合みたいなもので、月イチで集まってそれまでに自分でカワイイもの見つけてそれ皆の前で披露するってだけの単純な同盟だよ。私もカリオストロに誘われて入ったけど、カリオストロに無理矢理とかじゃないからグウィンはそこ、気にしなくていいよー」

「それならいいけど。そういやこのグランサイファー、それ以外にも色々隠れた部活や同好会みたいなのがあるって、団長さんから聞いたんだけど」

「ああ。団長さんの言う事は本当だよ。有名なのはシエテさんの二十七歳だけが集まる二十七歳会議とか、カタリナさんのビィ君同好会とかかなー。それから、同じ組織のベアトリクスもスイーツ部立ち上げてるし、カシウスもイッパツさんが立ち上げた全空のラーメン食べ歩き同好会に入ってるよ」

「シエテさんの二十七歳会議は有名なの自分も知ってるけど、カタリナさんのビィ君同好会は初耳だな……。同じ組織でもベア先輩のスイーツ部とカシウスも入ってるイッパツさんのラーメン同好会には、自分はついていけそうにないわ……」

「うん。ベアトリクスのスイーツ部とかカシウスのラーメン同好会以外にも色々会はあるから、グウィンも自分にあった何かの会を見つけたら入ってみるといいよ。この団に集まった時、その会の皆からよくしてもらえるのはもちろん、戦闘の場面でも援護してもらえるって」

「へえ、そういう利点あるのか。それなら自分も何か良さそうな会があったら、入ってみようかな。の方でも、自分にあいそうな会が何かないか、探してくれるか?」

「うん。私もグウィンにあいそうな会があるか、得意のデータで探してみるよ!」

 グウィンに言われたは、張り切る。

 そしてそれから。 

「そうそう、組織の会合の時に何かお菓子――手作りのクッキー持ってきていい? それ、会合の場所貸してくれるグウィンに聞きたかったんだ」

「ああ。別にいいんじゃない? 会合が始まる前に自分の母さんにそれ渡してくれれば、いい時に組織の皆に配ってくれると思うよ」
「そっか。それじゃ、そのクッキーもどうするか考えないとな」
「……お菓子もパンも、自分に出されたこのスパゲティも、の作るものは美味しくて、組織の皆に――それこそ、組織の男達から評判いいからな。イルザ教官だけではなくて、ローナンさんものそれには良い評価つけてくれるんじゃない?」

「えへへ、そうかな。そうだと嬉しいなぁ」

 はグウィンに「ローナンから良い評価を得られる」と言われ、本当に、とても嬉しそうだった。

 ――今みたいにユーステスさんで頑張るを見ればコルワさんも衣装作りに勢を出せるし、カリオストロとクラリスも自分と違って素直に喜ぶを見れば彼女に可愛いもの与えたくなるよな……。

 グウィンは、コルワ達だけではなく、カリオストロとクラリスも、に張り切る理由が少し分かった気がした。

 同時に。

 ――コルワさん達は、力の有無関係なく、自分はと一緒で色々頑張ってる似た者同士って言われたけど、自分は力あってもみたいに色々頑張ってないし、素直に相手を持ち上げるのも出来てないよな。自分は会に入れたとして、みたいに皆と上手くやっていけるかな。……。

 少しモヤモヤした気分も連れてきてしまったが、今はそれを考えないよう、頭を振って振り払ったのだった。