「ねえねえ、さっき、がユーステスにお姫様抱っこで運ばれるの見たんだけど!」
「何あれ、めちゃくちゃよくない?!」
「わたしも王子様にあんな風に抱っこされたい~! あ、でも、わたしの場合、反対にわたしが王子様を抱っこするのもアリかも!」
十二神将のクビラ、ビカラ、シャトラの三人が。
「なあ、今さっき、とユーステスのアレ見たんだけどさ。さすがにリーシャもあの二人に声かけて二人を引き離せなかったみたいだぜ」
「私でも空気くらい読みます! 全く、この団ではあの二人だけは特別ですからね、皆さん、あの二人以外で男女関係でこの団の秩序を乱さないでくださいよ!」
秩序の騎空団のモニカとリーシャが。
「あの、とユーステスのアレについて話せるの、この部屋であってるか? とユーステスのアレ見て鼻血出して倒れて医務室に運ばれたアルベール団長だけ置いてきたのは心苦しいが、この団であの二人について話りあうには多少の犠牲が必要だというのは分かるな……」
「マイムお姉ちゃん、メンバー見ればこの部屋で、あってるみたいだね。とユーステスの無自覚イチャイチャ、アタシ達は今回見るの初めてだったんだけど、何あれ、話に聞いてた以上に破壊力抜群なんですけどぉ! それの影響か、アタシのビリビリも、絶好調!」
「ミイム姉、とユーステスのアレ見て所構わず電撃打ちたくなる気持ち分かりますけど、今は抑えてください、お願いですから! ミイム姉のビリビリ、何故か全部、あたしに向かってきてるんですけどぉ?!」
マイム、ミイム、メイムのレヴィオン騎士団三姉妹が。
「なんじゃあれえ、とユーステスは、何でああいう事ができるんじゃ! め、わらわの妹として、生意気ぞ! 妹が姉より先に進んでどうするのじゃ。まあ、その生意気さがの良いとこなんじゃけどな」
「ふふ、スカーサハ様、とユーステスのようになりたければもう少しの勇気を出してみればいいのではないですか。しかし、スカーサハ様よりもノイシュの方が時間かかりそうですけどね」
イルザと同じようにを妹扱いしているスカーサハは悔しそうに地団駄を踏みながら現れ、それをたしなめるのは同じくを妹扱いしているヘルエスの役目だった。因みにヘルエスの実の弟のセルエルとスカーサハと契約をしているノイシュの男達は、女達が集まる部屋に行ける勇気が無いと愚痴るように離れて、同行していない。
「うわー、ししょー、団長さんからは何も依頼出されてなかったけど、夜までこの団に居座ってて良かったですね!」
「ふはは、何か予感持って夜まで残ってたかいがあったぜ。あれ見ればカワイイ同盟のカワイイもの探しだけじゃなく、対ユーステス用の惚れ薬・改を作る腕が鳴るってもんよ」
クラリスとカリオストロが。
「ああ、マナリアにもユーステスみたいな男の子、居ないかな? もしマナリアにユーステスと同じような男の子が居ればアタックしたいかも!」
「アン、私達に遠慮して外で待機してくれているオーウェンさんがそれ聞いてたら泣くと思うよ……」
マナリアのアンとグレアは、オーウェンを外に待機させてやってきたという。
そして最終的には。
「しまった、出遅れた! 皆、とユーステスのあれ見て語りあうのに、あたしとルリアを仲間外れにしないで!!」
「とユーステスさんのあれについては、私とイオちゃんも語れますからね!」
最後の最後でイオとルリアも『おこた部屋』に現れ、とユーステスの話題に参戦してきて、その頃にはもう『こたつ』に入りきらないくらいの女子達が集まっていた。
「ええと……」
ルナール達を中心に、とユーステスについて語り合い、盛り上がる、その彼女達の勢いに圧倒されるグウィンを気の毒そうに見るのは、マキラとメリッサベルである。
「グウィン君、見ての通りで、とユーステス君の無自覚イチャイチャを目撃した女の子達がそれについて語るため、この部屋にぞくぞくと集まってくるんですよ」
「うん、今からこの部屋はしばらくの間、『おこた部屋』から、『とユーステスの無自覚イチャイチャを語る女子会』に変わったわけだよ。グウィンもとユーステスについて何か語りたければ此処に残って女子会に参加すればいいし、そうでなければ部屋を出ていくのもアリだよ」
「はあ、そういうわけだったんですか。それなら自分、普段から一緒に居るとユーステスさんについて語る事ないんで、もうこの部屋から退散するッスよ……」
『おこた』部屋で癒されるはずがとユーステスの話で花を咲かせる女子の集まりで何故かぐったりと疲れがたまったグウィンは、早々に部屋から出る事にした、ところで。
「あ、グウィン、この部屋を出るならファスティバからの代わり出来るようなら、の代わりに手伝いに入ってくれってあったけど、どうする?」
「分かった。自分、暇なんで、ファスティバさんのとこでの代わりの手伝いやらせてもらうよ」
部屋を出る間際、イオからファスティバの伝言を受け取ったグウィンは、さっさとファスティバの手伝いに向かったのだった。
余談。
「グウィンちゃん、ちゃんの代わりのお手伝い、ありがとう。とても助かるわぁ、この話は、グウィンちゃんの組織のイルザにも伝えておくからね~」
「いえ、暇だったのと、団の皆さんに顔と名前を覚えてもらうにはこの食堂が良いって団長さんから聞いてたんで、自分としてはファスティバさんの手伝いは丁度良かったです」
「うふふ、グウィンちゃんも、ちゃんと同じで優しくていい子ね。二人を拾い上げたイルザが羨ましいわぁ」
「……、自分はのように優しくていい子ではないですよ。自分が無力のと同じ風に見られるのは、苦手です」
「そう?」
「はい。それより……」
グウィンはそれより、の代わりに食堂に来て気が付いた事があった。
それは。
「それより、お昼にの手伝いやってた時よりも男のお客さん、多いッスね。昼間と夜では食堂の客層、変わるんですか?」
「ふふ、グウィンちゃん、それに気が付いた? いつもであれば、ちゃんが不在でもジャミル君一人で足りるし、お客さんも男女半々なんだけど。グウィンちゃんにお手伝いに入ってもらったのは、今夜に限っては、いつも以上に男の客が多くなるからよ」
「どうして、今夜に限って男のお客さんが多くなるんですか?」
「グウィンちゃん、今までちゃんとルナール達の『おこた部屋』で一緒だったんですってね~」
「ああ、はい。今までと、おこたでのんびりできてたのに、ユーステスさんがを迎えにきてからはその『おこた部屋』、とユーステスさんの事を語る女子会に変わったんですけど……はっ、ま、まさか?」
「ふふ、そのまさかよ~。この食堂はしばらく前から『ちゃんとユーステスの無自覚イチャイチャを語る女子会の女の子達からはぶられた男達を慰める会、そして、ちゃんのようなカノジョが欲しいと思ってるけどそれが叶わない男達を慰める会』に変わったのよ!」
「とユーステスさんの無自覚イチャイチャを語る女子会の女の子達からはぶられた男達を慰める会、更に、のようなカノジョが欲しいけどそれが叶わない男達を慰める会……。あ、確かにとユーステスさんを語る女子会では見かけなかったアルスター島のセルエルさんとノイシュさん、マナリアのオーウェンさん、医務室から戻ってきたレヴィオン騎士団のアルベールさんの姿がありますね。そして、のようなカノジョが欲しい会ではランスロットさんとヴェインさん、ジークフリートさんの白竜騎士団の皆さんと、ジンさんとソリッズさん、ラカムさんとオイゲンさんのいつもの人達が……。彼らが泣きながら肩を叩きあう姿は何だと思えば、そういうわけでしたか……」
「そういう事。それで、ちゃんとユーステスの無自覚イチャイチャを語る女子会からはぶられた男達はまだいいけど、ちゃんのようなカノジョが欲しい男達を慰める会の中心人物というか主催者は、ユーステスとちゃんのアレ目撃した影響か、そこで泣きながら飲んでるジンとソリッズ、オイゲンとラカムのいつもの独身貴族の四人よ!」
「うわー……。おこた部屋の女子会より悲壮感あるッスね……」
はは。ファスティバに言われたグウィンは、中央のテーブルで同じように慰めあいながら飲んでいるジンとソリッズ、オイゲンとラカムの四人の姿も認め、引き気味だった。
「まあ、ちゃんとユーステスの無自覚イチャイチャ見て興奮する女の子達と違って、ちゃんのようなカノジョを持ってるユーステスが羨ましくてそれで男達が自棄になるのも分かる気がするから、あまり彼らの傷口を広げるような事は言わないであげてね~」
「はい。それは自分も分かるので、此処に集まる彼らにそこまで言う事ないです。というか、ジンさんとソリッズさん、ラカムさんとオイゲンさんの独身貴族とランスロットさん達以外にも、その席にいつの間にかリュミエール騎士団のコーデリアとブリジール、それ以外ではアンジェの姿があって、中でもコーデリアとアンジェは見た目は男でも身体的には女の子であると、から聞いてますけど。あ、また追加で、次はラムレッダさん、ジャンヌも加わって彼らと飲みながら一緒に慰めあってるのはどういうわけですか……」
「ふふ、イルザやシルヴァ達みたいにちゃんを妹扱いするのと別に、ちゃんみたいなカノジョが欲しいっていうの、何も男の子だけじゃないみたいよ~。この団でちゃんの妹枠だけじゃなくて、ちゃんを理想のカノジョとして扱う枠もあるの、グウィンちゃん、知ってる?」
「は? の妹枠だけじゃなくて理想のカノジョ枠、ですか? イルザ教官達の妹枠以外は聞いた事ないです、カノジョ枠って何ですかそれ」
グウィンは、ファスティバの言葉の意味が分からず、唖然とする。
ファスティバは面白そうにグウィンに、カノジョ枠について説明する。
「その理想のカノジョ枠ってのは、あの席に座ってるアンジェちゃんとコーデリアちゃんの騎士団の女の子達が中心になって、ちゃんを自分の理想のカノジョ扱いしてるのよ~。ランスロット達もコーデリアちゃん達に負けず、ちゃんを理想のカノジョ扱いしてるわ」
「いやだから、をその自分の理想のカノジョ扱いしてるってのがよく分からないんですけど……。にはもう、ユーステスさんがついてるの、この団の全員に認知されてると思ったんですけど、一部ではそうじゃないんですか?」
「ちゃんがユーステスのものであるのは、団の全員に認知されてるのは間違いないわよ」
「それでどうしてが女子達の間でも自分の理想のカノジョ扱いなんですか?」
「ちゃんて、グウィンちゃんの言うよう、力を持たない無力な女の子でしょ。それだから騎士の間ではちゃん、無条件に守ってあげたくなる理想の女の子なんですってよ」
「ああ、それで……」
「騎士団じゃなくても誰かの騎士になりたいアンジェちゃんにとっては、ちゃんが理想のお姫様だとか。男のランスロット達も同じく騎士として守りがいのある女の子という理由でちゃんが理想のカノジョになってるのよ。でも、ちゃんにはすでにユーステスがついてるからそれが叶わない、それならちゃんを皆の妹扱いしてるイルザ達みたいに皆の理想のカノジョ扱いすればよくない? って、ちゃんを理想のカノジョとして扱う会ができたのよ」
「はあ、そういうわけが……」
「騎士以外の子達――ラムレッダとジャンヌも、自分が男だったらちゃんみたいなカノジョが欲しい、でも、男になったところでユーステスに敵わないの分かるから、皆でああやって慰めあってるわけ」
「はあ、なるほど。そういうわけですか……。が皆の妹枠だけじゃなくて理想のカノジョ枠まであったとは」
「更に言えばちゃん、皆の妹枠と理想のカノジョ枠以外にも、マスコットとして可愛がる会とか、陰ながら見守る会とか、普通にファンクラブとか、ちゃんに関する隠れた会が色々あって、ちゃんがユーステスと何かあるたび、おこた部屋以外でも、この食堂に集まって皆で二人について色々語りあってるのよ」
「自分、この団に正式に加入するまでがそんな事になってるとは知りませんでしたよ……」
「それからちゃんがそこまで人気ある理由の一つとして、この団ではユーステス以外に強くてカッコイイ男が多いのに、そちらにはフラフラしないで、ユーステスしか目に入らない彼一筋ってとこもポイント高いんですって~。ちゃんを妹扱いしてるイルザ達も同じ事を言ってたわよ」
「……なるほど。は力を持たずとも優しくて素直でいい子なのが人気あるの分かるし、団でもほかの男にはフラフラしないで、ユーステスさん一筋、そこがいいのは、自分も分かります」
それからグウィンは一息ついて、何か吹っ切れたよう、ファスティバに向けて笑う。
「自分、今日一日に付き合って、は無力でも色々凄いうえにとても人気があるというのが分かったので、それはそれで良かったと思います」
と。
「グウィンさん、これ、ランスロットさんとラムレッダさん達の席までお願いします」
「了解ッス」
ふと。グウィンは、ジャミルからランスロット達が注文した料理を受け取るも、しかし、思う事があってそれをファスティバに伝える。
「あの、ファスティバさん。あの席がのようなカノジョが欲しい男と女達を慰める会とあるなら、その会に参加しているランスロットさん達とラムレッダさん達にサービスで、うちのレストランで出してるドリンク、作って出してもいいッスかね?」
「あら、あら。もちろん、いいわよ。グウィンちゃんのとこのレストランのドリンク、アタシも興味あるからあとで教えてくれると嬉しいわぁ」
「ッス。それじゃ、うちのレストランで出されてるドリンク、作ってくるっスよ」
言ってグウィンは、ドリンクの管理を任されているジャミルの方へ駆け寄り、彼と一緒にグラスに飲み物を注いでいる。
「今のグウィンちゃんは自分と同じ時期にイルザの組織に入ってきてでも自分と違って力を持たないちゃんと同じ風には見られたくないという複雑な心境らしいけど、グウィンちゃんもちゃんと同じ優しくていい子で変わりないわね~。グウィンちゃんてば無自覚に、ちゃんと同じ行動してるんだから。この団でグウィンちゃんのファンクラブができるのも早いかもしれないわね。二人を拾い上げたイルザが羨ましいわ、本当」
とグウィン。力を持たない人間と、力を持つ人間。鏡のように背中あわせに動いているように見えて実は、同じ方向を見ている。
グウィンもいつか、それに気が付くだろう。
ファスティバは、サービスドリンクを作ってランスロット達とラムレッダ達に持っていき、それを見たランスロット達とラムレッダ達からお礼を言われて恐縮そうに頭を下げるグウィンの様子を眩しそうに見詰めて、微笑んだのだった。