以下の内容は、イルザを中心とした組織の一員であり、グランサイファーの団員でもある、に関する報告書である。
。彼女はヒューマンで武器も魔法も扱えないただの一般人であったが、組織の一員であるユーステスの紹介でグランサイファーの団員になり、今ではかかせない団員の一人としてその名を連ねている。
は団内で唯一、武器も魔法もいっさい扱えない無力な人間ではあるが、無力な人間であっても、団員のファスティバやローアインを料理の師匠とし、掃除に関してはメイド稼業のクラウディアに師事し、彼らの手ほどきもあって団では家事全般を任されるようになるまでに成長している。
組織はどうか分からないが、の団での朝は早い。朝早くに起きるとまずは廊下から始まり、甲板、自分が城にしている食堂、各自の部屋はクラウディアの指示のもと、一日かけて掃除をやっている。因みに団の創立者で一番早起きはカタリナで、カタリナの次にオイゲンとラカムが起き、イオ、ビィ、ルリア、団長、ロゼッタの順に顔を出してくる。
は掃除の合間に朝、昼、晩の三回の食事の時間には食堂に居座り、ファスティバが居る間はファスティバの弟子に、ローアイン、トモイ、エルセムの三人が揃っている時はその三人の弟子となって忙しく働いている。因みにファスティバとローアイン達が不在で一人きりの時は、ほかの団員が彼女の手伝いに入ってくれていて、中でも手伝いの回数で多いのはサラとボレミア、アンチラとビカラ、シャトラを中心とした十二神将の面々である。
更には空いた時間を利用して、ルリアを教師に、星晶獣の勉強も続けているようだ。
ルリアが今まで自身に取り込んできた星晶獣のデータは、我々も喉から手が出るほど欲しいものであるには間違いない。
以前、我々の中でも星晶獣の講師をやる気はないか、以外の弟子は欲しくないかとルリアにかけあうも、ルリアは我々を前にして「私はもう、以外の先生になる気はないし、以上の弟子を取る気はありませんから!」と、それはもう、はっきりとした声で気持ちの良いくらいに断られてしまった。
に最初にルリアを紹介したイオが恨めしく、同時に、そのを好きにできる君達が羨ましいとも思った。
脱線した。報告を続ける。
は力を持たずともその愛嬌の良さで組織ではイルザに妹として可愛がられ、組織の実力者であるバザラガ、ゼタ、ベアトリクスにも可愛がられ、中でもグウィンは親友であると豪語する。
ユーステスとは彼目当てで組織に押しかけ、イルザに気に入られた末に試験を受けて合格し、彼を指導者に見習いとして組織に加入する事に成功、その後は本物の恋人として付き合うようになるが、しかし、今の時点では力を持たないただのヒューマンであるはどうして、組織ではイルザに次ぐナンバー2の実力者と言われるユーステスと本格的に恋人として付き合うようになったのか、その詳細は分からない。それはとある団員の証言によって後で判明するが、その話は最後の方に記しておく(多分、これが貴殿の知りたい内容だろうと思う)。
組織だけではなく、団の中でも力を持たずともを妹として可愛がっている、あるいは、本当の友人になってくれている団員は多い。
メーテラとスーテラの姉妹を中心に、デザイナーのコルワ、錬金術師のカリオストロとその弟子のクラリス、ヴェローナのジュリエット姫にロミオ王子、お嬢様のアリーザに彼女に仕えるスタン、シルヴァ、ククル、クムユの銃工房の三姉妹、傭兵のボレミアと彼女が命をかけて守る少女サラ、アウギュステを守るメグとまりっぺ、妖術使いの一族のユエル、ソシエ、コウ、ヨウの四人、アルスター島のヘルエス、セルエス、スカーサハ、ノイシュの四人といった団の中でも一級クラスの実力者達もと親しい間柄であるのは団の中でも有名で、更にフェードラッヘの白竜騎士団をはじめとするシャルロッテのリュミエール騎士団やアルベールのレヴィオン騎士団のマイム、ミイム、メイムの三姉妹といった、各国の騎士団との付き合いは深いという。
更には魔法が扱えないにもかかわらずマナリア魔法学院のアンとグレアとオーウェンの三人、おまけにジル教授とミランダ、エルモートといった講師陣からの評判は良く、ツバサやショウを中心とする不良組とも普通に親しく接しているようだ。因みに、ツバサを中心とする不良組はとはグランサイファーの艇に居る間だけの仲であるらしいので、貴殿が彼らとの関係を心配するような話ではないと、ここに記しておく。
更に更に、十二神将や十天衆も彼女を一目置いていて、最近では、謎の多い十賢者も彼女に注目し始めているとか。
おまけに空を監視するユグドラシルを中心とした星晶獣はもちろん、サンダルフォンを中心とする天司達もを気に入っている様子だった。
補足事項。は、ルナール、ミラオル、ザーリリャオー、メリッサベル、マキラ、シェロカルテの六人から構成され、それは冬の寒い時期に現れる『こたつ部屋』に集う『おこたみ』メンバーの一員である。団の創立者の一人であるイオもその『おこたみ』仲間に登録しているが、彼女は時々しか顔を出さないようだ。
ルナール達の『おこたみ』以外――、グランサイファー内ではシエテの『二十七歳の集い』や、カタリナの『ビィ君同好会』、隠れて妹を可愛がる『兄達の集い』、その反対で『妹達が兄について愚痴る会』など、隠れた部会が数多く存在する中、に関していえばイルザを中心とした『皆の妹枠』、白竜騎士団のランスロットとヴェインを中心とした騎士達の間で広まっている『皆のカノジョ枠』、女子達の間で作られた『とユーステスの無自覚イチャイヤを語る女子会』といった、彼女に関する隠れたファンクラブは色々で多数あると報告があったが、こちらではその正確な数は調査日数だけでは把握できていない。残念。また後日、再調査を希望する。
武器も魔法も扱えないがどうして、ユーステスの紹介というだけで、様々な種族、星晶獣、天司達が集い、今では全空でその名前を知らない人間はいないと言われる大規模な騎空団に成長したグランサイファーの中で注目されるようになったのか。
以下は、彼女と初めて接触した頃の団員達の証言を集めたものである。参考にされたし。
の評判について何件か話を聞いて回ったが、ファスティバやジャミル、ローアイン達はさほど大した話はなくいつも通りに仲良い部分を聞かされただけ、ヴェローナのジュリエットとロミオ、アリーザとスタン、サラとボレミア、メグとまりっぺ、カリオストロにクラリス、シルヴァ、ククル、クムユの三姉妹、アルスター島のヘルエス達といったいつもの団員やランスロットの白竜騎士団を中心とした各国の騎士団など――、そのほかの団員達や十二神将の面々も相変わらずの評価であったので、ほかの団員達から聞き出せた重要な話だけを抜粋しておく。
証言1:メーテラ、スーテラ、コルワ。
「え? 力を持たないをどうして、あたし達の仲間に入れたのかですって? へえ。あんた達、に関する調査してて、最初にと一番親しい、あたし達の所にきたんだ?」
「さんに関する調査やってるんですか。それ、さん本人と団長さん達は知ってるんですか?」
「でも、改めて思えば、って色々不思議な子よね。今更だけどについて、まとめると面白いかもしれないわね」
最初、メーテラとスーテラは不審そうな目でこちらを見てきたが、コルワだけは面白そうと言って協力的だった。
以下は、メーテラとスーテラ談によるものである。
「最初、最初はそうね、あたし達、が本当にユーステスの恋人かどうか、それ、疑いの目で見てたのよ。だって、あのユーステスが何も力を持たない普通の女を相手にするなんて、誰も――この団の団長でさえ、夢にも思わなかった話でしょ?」
「そうです、そうです。メーテラ姉さんてば最初、さんは何か怪しい術を使ってユーステスさんを落としたんじゃないかって疑ってて、もしそうならその術を自分も獲得したいって話してて、それにはまずをつける必要があるわねって、さんをつけてたんですよ。私もさんは団長さんの紹介の時に武器だけじゃなくて魔法も使えないと話してましたが本当は怪しい術が使えるんじゃないか、メーテラ姉さんと同じくそれ怪しいと思って、あなた達のよう、さんをつけてた事があったんですよー」
その疑いはどうやって晴れたのか?
「簡単な話よ。ユーステスが仕事から団に帰って来て、本当にを迎えにきたのよ。その時にユーステスは疑いを持つあたし達に向けて『は俺の恋人で間違いない』と言い切った。それ聞いたは嬉しそうで、あたし達と同じように恋人かどうか疑いを持ってた大半の団員達はそれで納得したけど、疑いの強い団員達の間ではそれだけではまだ疑いは晴れなかったわねえ」
「はい。ほかの団員さん達はユーステスさんのそれで納得してその場から大人しく引き下がったんですけど、私とメーテラ姉さま、コルワさん、ほかの数人の団員達はまだ納得していない様子でしたね」
それがどうしてくつがえったのか?
「それも単純な話になるかしらね。はそれ以降もユーステスが不在で居ない所でも何度もユーステスは自分の恋人だって疑う皆に必死で訴えてたんだけど、誰も力を持たない彼女の話は聞いてくれなかった。も半ば諦めてた所、また、ユーステスが仕事から団に帰ってきてね。も、やっとユーステスと一緒に帰れると嬉しそうだったわね。艇を出る時までとユーステスは普通だったんだけど――」
「――あれは本当、衝撃的でしたね……」
――あれ、あれ、そこでどうして黙るんですか?
――とユーステスの二人の間で何があって、どうしてメーテラ達はの話を聞くようになったか、肝心な部分を教えて欲しいんだが。
「ちょっと待って。あたし達の話聞いてあなた達、に何もしないわよね」
「それだけ約束してください!」
――何で、我々がに何かすると思う? この団では、いくら強い人間であっても団長が居るうちはに何もできないの、お前達も分かってるんじゃないか。
――です、です。私達であっても、この団に居るうちは、さんに何も手出しできません。そこは、安心してください。
「……そう、そうよね。この団に居る間はは、安全でいられる。ユーステスもそれが分かるから、この団に力を持たないを預けてるのよね」
「ですね。ここは、あなた達ではなく、団長さんを信用しましょう」
メーテラとスーテラはそれから声を潜めて、とユーステスの間に何があったかを話した。
「ユーステスは帰る間際になって、皆の前でを抱き寄せたかと思えば、あたし達の前でも構わず、その、ええと、あの、ほら、あれよ、あれ!」
――あれって何ですか、あれって。
「あんた達、あたしが何言いたいか分かってるくせに、言わせる気?」
――はは。メーテラ、団で一番の男好きで有名だが、実は意外と乙女だよな。
「ユーステスさんてば、皆さんの前でさんを抱きしめて彼女に接吻したんですよ!」
――うわあ。スーテラさんの方がハッキリ言いましたね。
――それ、こっちも予想してたし、私達もその時の話をほかの団員から聞かされていたが、ユーステスの奴、本当に皆の前でやったのかよ。二人のそれ見た団長とルリア、イオ達の反応が気になるが……。
「言っとくけどそれ、団長やルリア、イオ、サラといった子供達が居ない時の話だから」
――そうなの?
「そうでなければ、さっき、あたしがユーステスがと帰る間際になって、とは言わないでしょ」
――ああ、なるほど、そういうわけか。
「後から聞けばユーステスも団長やルリア、子供達が居ない夜の時間を見計らってに手を出したんですってよ。おまけに、彼女が何度も自分と恋人関係であると必死に訴えようが信じてくれない奴らに一泡吹かせたかった、なんて、いつもの冷めた顔で言い切ったのよ。あたし、ユーステスのその話で、彼は本当にを思っているのが分かったし本当に彼女とと恋人同士なんだって、それで理解したわけ」
「あれには、さんとの関係を疑ってた大人達も参った様子で『を疑ってすみませんでした』って、ユーステスさんの前で謝ってましたね。突然にユーステスさんにやられたさんは最初は呆然としてましたけど、しばらくして冷静さを戻したのか疑い持ってた子の前で『見て、私、いい男捕まえたでしょ』って胸張って言い切ったんですよね。私、それまで団で本物の恋人さんを目にした事がないと打ち明ければさん、私にもユーステスさんとの関係を包み隠さずそれ見せてくれるようになって、私はそれからさんの事をメーテラ姉さまと同じく、恋愛の師匠として尊敬するようになったんですよー。
え、団で恋人関係として有名なアリーザさんとスタンさんについては、なんとも思わなかったのか、ですか? ああ、私達にユーステスさんとの関係をおおっぴらに見せてくれるさんと違って、アリーザさんて、スタンさんとの関係を皆さんに隠してますからね、そこはつつかない方が良いと思いますよ。あ、でも、スタンさんとの関係を団の皆さんに隠し通せてると思ってるの、アリーザさん本人だけっていうの、別の意味で可愛いと思いません?」
――……スーテラ、意外と、男好きを豪語するメーテラより手厳しいな。
――まあ、ユーステスさんとの関係を団の皆さんにおおっぴらにしてるさんと、スタンさんとの関係を団の皆さんに隠し通してる気のアリーザさんを別扱いしたい気持ちは分かりますけどね。
と、ここで今まで黙って話を聞いていたコルワに切り替わる。
「私も最初はとユーステスとの恋人関係は、ユーステスが力を持たないを助けるための詐欺なんじゃないかってメーテラと同じように疑ってたんだけど、スーテラの言う通り、ユーステスに本気でキスされたはそこで胸張って皆の前で『私、いい男捕まえたでしょ』って言い切ってね。普通、ここで顔赤らめて恥じらうか、ユーステスに向かって何するのって文句言いそうだけど、はその普通から外れてたんだよね。私、のそれ聞いて、さすがユーステスの女になるだけの度胸あるわ、あんな面白い子中々居ないと思ったら、その日のうちにに似合うドレス作ってたのよ。そしてあとで疑ってたのを謝ってその作ったドレス持っていけば突き返さず、素直に喜んでくれてね、私もとはそれからかな。
ほかの疑ってた皆もその頃から、に注目するようになった感じかしら」
コルワはその時のの様子を思い出しているのか、くすくす笑う。
それからコルワ、メーテラ、スーテラの三人は、の関係をまとめる。
「私は、この団では、メーテラとスーテラ姉妹とよく一緒に居るから、とも自然と四人で集うようになったのよ。私はそこでのユーステスとの幸せそうな話聞いて栄養もらってるの」
「そうそう。今ではすっかり団でと仲良くさせてもらってるわ。この団では入れて四人で定期的にお茶会もやってるから、あんた達もそれに参加してみる?」
「はい。そのお茶会でさんとは、ユーステスさんとの恋愛のお話で盛り上がってます。さんはそこでメーテラ姉さんの男性への扱いのアドバイスと、コルワさん考案のデートコーデが参考になるって話していますよ」
――なるほど。これで、コルワ、メーテラ、スーテラの三人がいつもと集まって何話してるのか、判明した。それから、メーテラ達ののなれそめ話はとても参考になった、ありがとう。
――これで『あの方』も一応、安心できますね。
「え? あの方って、誰? その言い方だと、この団の団長さん……っぽくないわね?」
「もしかして、その人、あんた達にの調査を依頼した人?」
「その方、この団の関係者ですか? それとも、さんの孤児院の家族の誰かでしょうか?」
――あー、そこ、気にしないでくれると、こちらも助かる。
――すみません、すみません、そこは依頼主の関係で何も明かせないんですよー。それでは!
『彼女』のせいで、コルワ、メーテラ、スーテラの三人に『貴殿』の事がばれそうになったが、そこからさっさと逃げたので多分、ばれてない。多分。
調査を続ける。
証言その2、十天衆、エッセルとカトル。
十天衆のエッセルは、イルザと同じよう、団でを妹扱いして可愛がっている一人として有名である。
ほかにもを妹として可愛がっている姉キャラは多いが、その大半は誰かを介して――シルヴァであればイルザ、アルスター島のヘルエスとスカーサハもイルザを介してで、ほかは十二神将のマキラとアンチラを通じてだったりと、第三者からを紹介された事がきっかけで姉候補になったのが大半であるが、エッセルだけはイルザや十二神将の誰とも関わりなくを妹として可愛がっていたのだった。
そのかねてからの疑問を、エッセル本人に聞いてきた。
「え? 私がどうして十天衆でも力を持たないを妹扱いして彼女を可愛がってるのか、それ知りたくて、私の所まで来たの?」
――エッセルは、この団で誰もが認めるを妹扱いする姉キャラの一人だが、エッセルだけイルザや十二神将達の輪から外れてるだろ。
――私もどうして全空一、最強と謡われる十天衆の一員であるエッセルさんが、イルザさんや十二神将の皆さんを介してではなく、個人的に何も力を持たないさんに目をつけたのか、前から不思議だったんですよね。いい機会です、ここで教えてくれませんか?
「……」
エッセルは最初、自分達にそのなれそめを話すのを渋っていた。
しかし。
「姉さん。ここはのためにも彼女達の話に応じた方が、後々、面倒がなくていいですよ」
「……そう、そうだね。のためにも、私達の関係をここで話した方が良いかもしれない」
「それでこそ姉さんですね」
エッセルは、常に彼女にくっついている弟のカトルの助言でそれについて話す決心したようだ。
ありがとう、カトル。
エッセルはぽつぽつと、との最初の出会いを話し始めた。
「最初、最初はそう、が私のカトルに目をつけたのが始まりだった。私の知らない所でカトルってば、廊下で、と親しそうに話してるんだもの。私はそれに嫉妬して、をどうにかしてやろうかと、陰でこっそりと薬の調合をはじめた」
――おいおい、いきなりホラーか。
――エッセルさんの自作のお薬、団でも取り扱い注意ですもんね……。
「私は出来上がった毒――もとい、薬を隠し持って、のあとをつけてたの。がまたカトルに近付こうものなら、容赦しない。でも……」
――でも?
――そこでさんと、何があったんです?
「でもはそこで、『カトル君、ありがとう!』ってカトルに向けて嬉しそうに手を振っていて、カトルもまた優しい顔でに手を振り返してたの。のカトルで嬉しそうな顔、それから、で優しい顔を見せるカトルを見たら、なんだかどうでもよくなって、持ってた薬をその場で捨てちゃった」
――最初の疑問だが、は何で、カトルの所に来てたんだ?
――まさかさん、ユーステスさんからカトルさんへ鞍替えですか?
「いやいや、それは誤解です。姉さんだけじゃなく、あなた達も、短絡的ですね。あの誰が見てもユーステス一筋のが、ユーステスからほかの男に鞍替えするわけないじゃないですか」
それを完全否定するのは、カトル本人だった。
――それじゃ、カトルの方がに目をつけたとか?
――それ、いいですね。カトルさん、さんに気があったりします? そうなら、陰ながら応援しますよ! まあ、無理でしょうけど!
「それもないですよ! 僕の理想的な女性は、姉さんだけです! 今の時点で姉さん以上の女性は、十天衆でも、この団でも現れていません!」
「カトル……」
――……それを声高に力説するのもどうかと思うが。
――エッセルさんもカトルさんにデレデレですね。
脱線した。
こほん。カトルは咳払いを一つして、が来ていた理由を話してくれた。
「実は、が僕の所に来ていたのは、エルーンの男性服の構造を調べるためですよ」
――エルーンの男性服の構造を調べるため?
――あ、カトルさんとエッセルさん、ユーステスさんと同じエルーンですよね。
「そうそう。ヒューマンのでは、ユーステスの服のほつれた部分を手直ししようにもエルーンの男性服の構造がいまひとつ分からなかった、特に背中と下半身の部分――あ、そこも誤解なく話しておきますけど、下半身とはエルーンのしっぽの穴の部分で、そこがよく分からないから、僕の使っていない衣装を見せてくれって、それ頼みにきてたんですよ。僕も別にそれくらいならいいかと思って、使ってない衣装をに渡して、それ協力してたんです」
――それ、何でカトルに頼みにきたんだ? この団、カトル以外のエルーンの男、大勢居るだろうに。同じ食堂で働いてるローアイン、トモイ、エルセムの三人組はもちろん、十天衆でエルーンを選ぶならカトルよりはシスの方が接しやすいと思うし、よく一緒に居るデザイナーのコルワもエルーンの男性服の構造くらい分かってるんじゃないのか。
――確かにこの団では、ローアインさん達や同じ十天衆のシスさんだけではなく、白竜騎士団の訓練生のアーサー君達やアリーザさんのスタンさん、ユエルさんの中でもコウさんが居るし、エルーンの種族の男性多いですよね。それから、デザイナーのコルワさんに頼めば何もカトルさんの所までいかなくても、すぐ分かるでしょう。その中で十天衆のカトルさん、選びます?
「それも単純ですよ。によれば、いつものコルワとローアイン達では普段から頼りっぱなしであるためにこんな些細な用事を頼むのは気が引けたし、こういう時は視野を広げるために今まであまり話した事のないエルーンの男に頼むのが丁度良いと思って、僕に白羽の矢を立てたそうです」
――なるほど。普段から頼ってる人間に、些細な用事を頼むのは気が引けるってのは、分かる気がするな。
――力を持たないさん、ならではの気遣い、ですね。
しかしまだ疑問が残る。
普段から頼りっぱなしのコルワとローアイン達以外にもあまり話していないエルーンの種族の男は多く、その中で何故、十天衆のカトルを選んだのか?
それもカトルから聞けば単純だった。
「その中でが僕を選んだ理由ですか? それも単純ですよ。エルーンの中では僕が年が近くて一番親しみやすそうだと思ったし、何より――」
――何より?
「何より十天衆でも、優しいお姉さんがついてる僕なら、そう酷い目にあわないと思ったから、って」
――。
――……あはは、ここでも力を持たないさんの隠れた才能の本領発揮、ですか。
カトルの話を聞いたエッセルも、嬉しそうだった。
「うん。私もカトルからのその話聞いて、は力を持たないわりに、目のつけどころいいなって思ったんだよね。カトルはそのエルーンの男性用衣装以外でも、ほかの種族より気難しいと言われるエルーンの男性の扱い方法、から相談受けてたんだって」
「はい。エルーンの男の特性とか、エルーン特有の好きなものとか苦手なものはあるのかとか、色々相談受けてたんです。でも、日が経つにつれてのエルーン種族の相談というか、大半がユーステスに関する恋愛相談になってきて、そんなのは僕一人では背負いきれなくなったんで、同じエルーンの姉さんにも参加してもらうようになったんですよ。僕は単純に同性の姉さんなら相談しやすいかと思ってに姉さんを紹介したんですけど、今では、僕よりも姉さんに懐いてますよ」
ここで、カトルからエッセルに話が切り替わる。
「私、カトルの紹介でと会うようになって、そこでからエルーンの種族についての相談を受けていくうちに、エルーンの種族だけじゃなくて、カトルが背負いきれなくなったっていうユーステスに関する恋愛の相談も受け付けるようになったんだよね。の方もカトルに相談しづらい部分は、私でいい、それはとてもありがたいって、言ってくれてね、はそれの通りにユーステスの間で何かあれば私の所まで来てくれたんだ。その時に私、イルザがを自分の妹のように可愛がってるの思い出して、私もイルザのそれ、羨ましかったの。それでにイルザと同じよう、妹扱いしていいかって聞けば、もちろんいいよって、笑顔で応じてくれた。私がを妹扱いしてるのは、それから、かな」
――エッセル、イルザのの妹扱い、羨ましかったのか……。あれでも、エッセルには星屑の街で妹が何人か居るんじゃなかったか?
――私もそれ疑問だったんですよ。星屑の街に残している妹さん達は、さんと違うんですか?
「うん。星屑の街の妹達は、私の可愛い妹達で間違いないけど、彼女達はより小さいから、私にまだ恋愛相談なんてできないよね? まあ、あの子達の中にもと同じように恋愛してる子も居ると思うけど、恥ずかしがったり、生活面で私にそれ以上の負担をかけたくないと思ったのか、私に恋愛相談やほかの色々な相談するの遠慮してる風だったんだよね……」
――ああ、そういえばそうだった。星屑の街の妹達の中にはと同じように恋愛している子も居るだろうが、皆の世話役として色々負担かけてるエッセルにはそれ以上の相談しづらいよな……。
「でも、に刺激されて、星屑の街の妹達もと同じように私にも恋愛相談や、それ以外の色んな相談してくれるようになるんじゃないかって、それ期待してるの」
――そうですね。さんがそれの突破口になれば、星屑の街の妹さん達もエッセルさんに恋愛相談や色んな事を相談してくれるようになるかもですね。
エッセルの星屑の街の妹達に対する思いを聞いたカトルは、そのに呆れるもその顔は笑っていた。
「全く。イルザが話していた通りで、は武器も魔法も扱えない代わり、周囲の洞察力に長けているだけではなく、人間同士の関係性も見抜き理解し、それで周囲を取り込める力は、お見事としか言いようがないですね。そのイルザの話の通りには僕を使って、あっさりと姉さんを落としたのだから、大したものですよ。のその周囲を巻き込んで取り込む力は、僕だけではなく、十天衆でも注目しています」
――お。カトルものその部分は評価してたのか。
「はい。あなた達も、のそれ目当てで、自分達の団に勧誘してるんじゃなですか? でも、いまだに成功率ゼロって聞いてますけど」
「ふふ、あなた達でもユーステスしか目にないを落とすの、中々難しいと思うよ」
――今回は秘策を持ってきてるから、次に来るときは、うちの団員になってるかもよ?
「へえ? 秘策、ですか。もしかして、あなた達が色々な団員にの話を聞いて回ってるって聞いてましたけど、それも秘策のうちですか?」
――それは明かせませんけど、まあ、見ていてください。この秘策が成功すれば、さんの獲得に強力な助っ人を用意できますから。ふふふ。
カトルとエッセルは不審な目でこちらを見ているが、気にせず、次の証言者を探す。
色々あたってみるものの、メーテラやエッセル達と同じような証言が続いたので、省略。あと一つくらい、貴殿の顔色がよくなるような証言者が現れるといいが――そう思っていた時だった。
「へえ。あんた達、この団でについての調査していて、ユーステスが迎えにきた話かイルザ達の妹扱いの話以外で、今まで聞いた事のないに関する話が聞きたいのか? 俺であればそのネタ、持ってるぜ」
――はいはい、やっぱ、に関して今まで聞いた事のない話を聞けるのは、無理あったか――、て、今、なんて?
――だいたい、メーテラさん達のユーステスさんが団まで迎えに来てくれた話か、エッセルさんかイルザさん達の妹扱いの話ですもんね。……て、待ってください、あなた、それ以上のさんの話持ってるんですか?
「ああ。俺は、ユーステスが団まで迎えに来た話か、イルザ達の妹扱い以外の話で、に関するとっておきのネタは持ってる。お前達がそれ聞きたいなら、話してやってもいい」
――マジか。
――まさか、あなたからその話を持ち掛けられるなんて、誰が思います? こんな伏兵が潜んでいるなんて、誰も夢にも思いませんて。
に関するとっておきのネタを持っているという情報提供者に食いつく、が。
「俺がそのに関するネタを情報提供する代わり、あんた達に頼みたい事がある」
――何だ? 言ってみろ。
――内容によっては、我々の団から報酬も出せますよ!
情報提供者の『彼』は、不敵な笑みを浮かべてそこに食いつく自分達に向けて言った。
「報酬はいらねえよ。その代わりに俺が参加するスカイレースの招待チケット、ユーステスとにタダで配って良いのを許可して、おまけに、その時に周辺の警備員としてお前達を使いたいと思ってるんだが、どうだ?」