昼過ぎ。組織の拠点はローナンの秘密の隠し部屋にて。
ローナンは普段は組織の兵士達と同じ造りの部屋に居るが、今回だけは組織の兵士達もその場所を知らない秘密の隠し部屋に潜んでいた。
「ローナン、居るか!」
「イルザは、例の件でお前に話があるんだと。へえ、こんな場所にローナンの秘密の隠し部屋があったのか。この場所は確かに、ユーステスも分からんよな」
ノックもせずにその秘密の隠し部屋に無遠慮に入ってきたのは、イルザとバザラガであった。
イルザは組織内で、ローナンの秘密の隠し部屋の存在を知る唯一の人間である。
イルザはローナンが組織内で隠し部屋に居る時はユーステスの追求から逃れるためであるのを知っていて彼の気持ちも分からないのではないので、それに関しては黙認していたのだった。
バザラガは今回、イルザに連れられて初めてローナンの秘密の隠し部屋に来て、確かにこの場所はユーステスも知らないだろうし、組織内でユーステスから逃げるにはうってつけだと思った。
因みにバザラガは今回の話についてはどちらでも良いという中立的立場であったが、イルザとローナンの間で何かあれば面倒であるため、彼女についてきた次第である。
イルザはいらだちながら、優雅に紅茶とケーキを食していたローナンに詰め寄る。
「ローナン、お前、秩序の騎空団がを使うのにモニカ達にお前のサインをやったと聞いたが、本当か」
「ああ、その件についてか。それについては間違いない話だ」
ローナンはいらだつイルザと違い、冷静に彼女に応じる。
ダンッ。イルザは怒りに任せ、ローナンの机を叩く。
「お前、を半年以上もの間、グランサイファーから秩序の騎空団にやっていいと、モニカ達に許可したのか。どういうわけだ」
イルザの迫力にこの場に新人のグウィン、そして、ファラとユーリが居れば震え上がっていただろうが、ローナンはもちろん、後方についているバザラガは動じずにいつも通りだった。
すっ、と。
「これを」
ローナンはある書類の束をイルザに差し出した。
「何だこれは」
「なになに、タイトルにグランサイファーにおけるに関する報告書、とあるな」
イルザは怪訝な顔で書類を受け取り、背後からその内容を確認するのはバザラガである。
ローナンは優雅に紅茶を飲みながら、イルザに説明する。
「秩序の騎空団に私のサインを使わせる代わり、彼女達にグランサイファーでのに関する報告書をまとめるように依頼した結果がそれだ」
「は? 何でローナンはモニカ達に、グランサイファーでのに関する報告書を依頼したんだ?」
イルザはローナンの話を聞いても、さっぱり分からなかった。
ローナンは淡々と言う。
「何。秩序の騎空団のリーシャとモニカがを獲得するのに、揃って私の前まで来て私のサインをどうにか使えないかと懇願してきてね。しかし、のために私相手でも構わず圧倒的な力の差を見せつけてくれたグランサイファーの団長達ならまだしも、現在の彼女達の実力では私のサインを使うにはまだ不十分であると話して最初は追い返したが、組織のためになるなら何でもするからサインお願いしますと、何日も通ってしつこく食い下がってきたんだ。彼女達のあまりにしつこさにイルザを呼ぼうかと思ったが、ここで良い事を思いついてしまったのだよ」
「……それがこのに関する報告書か?」
「ああ。前からユーステスについているの団での生活実態に興味があったのは事実で、半ば面白半分で依頼したのだが、彼女達は私の予想を超えた成果を持ってきてくれてね。この内容であれば、私のサインを使っていいと、彼女達にそれの許可を出してしまった。そういうイルザも彼女達に自分のサインを貸したと聞いているが?」
「私もモニカ達のあまりのしつこさに観念して、貸してやっただけだ。私はまだいいが、ローナンまでサインを貸すとは思わないだろ普通。ローナンのサインのせいで本当にがグランサイファーから秩序の騎空団に行ったらどうするつもりだ」
ジロリ。イルザは、ローナンがモニカ達にサインを貸したせいで本当にがグランサイファーから秩序の騎空団に行ってしまうのではないかと、それを危惧し、彼を睨みつける。
ローナンはしかし、イルザにものともせず淡々と話しを続ける。
「私もただで彼女達に自分のサインを使わせたわけじゃない。モニカの契約書の書類にちょっとした保険をかけてあるので、がそれに気が付けば彼女が秩序の騎空団に行く必要はないと分かる」
「本当か。それ、信用していいんだろうな?」
「まあ、ついでに言わせてもらえればの隠れた才能――周囲の人間関係の観察力と洞察力を伸ばすには、グランサイファーより、秩序の騎空団の捜査員がうってつけ――そう、私に話してくれたモニカ達の言い分も理解できる事だ。も彼女達の話を聞けばグランサイファーでぬくぬくしているよりは、秩序の騎空団でしごかれた方が良いと思うかもしれない。イルザも頭ではそれ分かってるんじゃないのか?」
「それは……」
ローナンの言う事は事実で、イルザも頭では分かっていた。の隠れた才能である周囲の人間関係の観察力と洞察力を伸ばすにはグランサイファーでぬくぬくしているより、秩序の騎空団の方がうってつけであるのも理解している。
「私のサインがあってもなくてもモニカ達の勧誘が成功してグランサイファーから秩序の騎空団に行くかどうか、こればかりは次第としか、言いようがない。ユーステスもの成長を思えばグランサイファーに引き止める事はせず、彼女の判断に任せるのではないかね」
「待て。そういうローナンは、のその隠れた才能――周囲の人間関係の観察力と洞察力の鋭さに関しては認めてくれているのか?」
「そうだな。武器も魔法も使えず何の力も持たず、組織内ではお荷物扱いのではあるが、彼女のその隠れた才能に関しては私も認めている。そうでなければ、いくらお前の頼みであっても、をユーステスの見習いとしてつけなかったよ」
「そうか……。もローナンのその評価を聞けば、喜ぶだろうな」
イルザは、ローナンものその隠れた才能――洞察力の鋭さを認めていると分かって、それこそ姉のよう、嬉しかった。
「それより」
ローナンはそこから話を切り替えるよう、言う。
「それより、イルザもモニカ達が調査してきた報告書に目を通すといい、団でとユーステスに関する面白い話がいくつかあって、その内容を見れば私が彼女達にサインを貸した理由も分かるだろう」
「ぐぐ、を思えばこんなのはお前の目の前で破り捨てた方がいいが、しかし……、何、モニカ達はいつものメーテラ達だけじゃなくて、エッセルとカトルの証言も取ってきたのか? これはまた……」
……。
……。
……。
「バザラガ、このお菓子、どうかな。帝国から取り寄せた一級品だ」
「うむ。さすが帝国、これは美味いな」
「こっちのケーキは、香りづけに酒が入っている。お前好みの味だと思うよ」
「ほう、これも中々……」
むしゃむしゃ。イルザがに関する報告書に没頭している間、ローナンは暇そうなバザラガに茶とケーキを出して彼をもてなしているのだった。
と。
「そうそう、最後の証言者による情報は、イルザ、お前でも知らないネタだと思う」
「最後の証言者による情報? こ、これは!」
「おい、さっきからイルザだけずるいぞ。俺にも読ませろ」
に関する報告書について今まで素知らぬ振りを決めていたバザラガはとうとうそれに耐え切れず、イルザの背後からその報告書を盗み見る。
その最後の証言者の内容は、イルザだけではなく、バザラガも衝撃を受けたのだった。
最後の証言者による情報――それは。
「俺は、がどうしてユーステスと恋人関係までになったかそれの情報、知ってるんだ」
――何であなたがそこまで知ってるんですか。
「いや。俺、素直で明るいがいいなと思って、食堂に通い詰めて本気で彼女に何度かアタックしてた時期があったんだよな」
――マジか。
――これもまさかの伏兵じゃあないですか。あなたほどの人がさんに本気で気があるなんて、誰が思います? この話、団長さん達も知らないですよね、多分。
「ああ、多分、俺のその話は団長達も知らないと思う。俺は自分のせいで団長に余計な心配の種を増やしたくないと思って話していないし、も団長というか、ユーステスを思って誰にも話してないと思うぜ。因みに俺以外でもユーステスに構わずに何回かアタックしてた野郎が居るのを何人か知ってるが、はそいつらの誘いを断って全部、追い返してるってのも聞いてる」
――へえ。、団で意外とモテてるんだな。
――さんてフェードラッヘの白竜騎士団の皆さんを筆頭に、リュミエール騎士団とかレヴィオン騎士団とか、帝国軍とかの騎士の皆さんの間で人気あるのは知ってましたけど、それ以外の男性からも誘いがきてるなんて知りませんでしたね。これも新しい情報で間違いないです。
「俺と同じで、そいつらもの素直で明るい部分が良いって思ったんだろうな。で、俺もそいつらと同じように何度かしつこく彼女を誘っても応じてくれず、そんなにユーステスがいいのかって詰め寄れば、彼女、どうして自分がユーステスと恋人関係になったか、俺に話してくれたんだ」
――それ、組織の試験に受かった後にイルザの計らいでユーステスの見習いとして組織を出て行って彼の家まで上がり込む事に成功してしばらくした後、いつ帰ってくるか分からない不規則な生活が続いたユーステスと喧嘩になって家出して、翌日に恐る恐る家に帰ってくればユーステスがちゃんと家で待っててくれて、それからユーステスと話し合って帰る時は必ず報告するという事で落ち着いて、そこで過ごしていくうち自然と恋人関係になったんだろ?
――さんがどうしてユーステスさんと恋人関係になったかというその家出の話は、この団では有名ですよぉ。今更、そのネタですか?
「いや。その家出の話には続きがある。お前らそれ、知らないだろ」
彼の話によれば、家出の話の続きがあったのだ。これは多分、グランサイファーの団長達、そして、イルザ達も知らない話だろう。
「実は、その家出の後は特別進展はなく、普通だったようだ。それから前に進めたのは、家出した時の影響か風邪を引いて熱を出して、それで何日か寝込んだせいだったらしい」
――お。確かにその病気の部分は、私達も知らない話だな。がユーステスと恋人関係になれたのは、そこでユーステスが親身になってを看病した成果か?
――でもでも、仕事人間のユーステスさんが自分の仕事を休んでまで、何日もさんの看病します? その時に恋人関係じゃないならユーステスさん、病人でもさんをほったらかしにして仕事に出かけると思いましたけど。
「普通はそう、彼女のためにつきっきりで看病するか、彼女をそこまで思わないなら彼女をほったらかしにするかのどちらかだろう。しかしユーステスは、そのどちらも違ってたんだ。
は、武器も魔法も扱えないうえに、何の魔法も効果が無い特殊な体質だってのは、お前らも知ってるだろ。そう、ユーステスはそこでが病人でも何の回復魔法も効かないと分かって、更には彼女にはヒューマン用のちゃんとした薬を与えないとそれの効果も無いとそこで初めて知ったようだ」
――普通であれば風邪くらいは回復魔法で少しは楽になれるが、はそれすら外れてたのか。そうなら、やっぱり一日くらいは休んで彼女について看病しないとまずいんじゃないか?
「ああ。ユーステスはしかし、いつものように仕事があって、家を出なければいけなかった。その時のユーステスは、には足手まといは必要ないと冷たく言って、仕事に出かけた」
――うわ。ユーステスさん、病人のさんに対して、足手まといは必要ないなんて言いながら仕事に出かけたなんて、やっぱり冷たい人ですね。さんもよくそんな彼についていこうと思いましたねえ。
「そう思うだろ? 実は、この話には隠された部分があってね。その続きだ、ユーステスはしかし、仕事に出かける前、のために何日かぶんのヒューマン用の薬を買ってきて、更には作り置きのスープも作って家を出て行ったんだとよ」
――は?
「ユーステスの奴、に足手まといは必要ないって言いながら、家で休んでおけ、自分が仕事から帰るまでの日数分のヒューマン向けの薬はそこの棚にある、それから、風邪に効き目ありそうな栄養素が入った野菜スープを作っておいたので食べれるようになったらそれ飲んどけって言い残して、仕事に出かけたんだってさ」
――それはまた……。
――さっきとは印象、変わってきますね。
「からすれば、仕事を休んでまでつきっきりで面倒見てもらうより、そっちの方があっさりして丁度良かったらしいぜ。おまけにその時に作ってくれた野菜スープが絶品で、それ飲んで休んでいたらあっさり風邪が治って、ユーステスが仕事から帰ってきた時にその礼を言って野菜スープの作り方教えて欲しいと言っても教えてくれず、残念と思えば、また調子悪い時があってその時にまた同じ野菜スープ作ってくれたんだってさ。
ユーステスはその時、野菜スープはに教えるより自分が作った方が早いとかぶっきらぼうに言って作ってたが実は、調子の悪い自分にそれ以上の負担をかけないようにしてくれてたって分かってその隠れた優しさに更に惚れ直したとか」
はそれから、病気でも特に騒がず甘やかさず、適度に接してくれるユーステスの隣は居心地が良いと思うようになって、更には野菜スープだけではなくて、自分のもしもの時のために自分用の――ヒューマン向けの薬を持ち歩くようになってくれて、その隠れた優しさが分かった時にもう彼無しではいられなくなったと。
「それでは、ユーステスが表面はぶっきらぼうだが裏ではとても優しい人だって分かってからはユーステスを手放したくない思いが日に日に増していって、とうとう彼に思い切って『もしよければ私と恋人として付き合って!』と迫ってみれば、『お前が俺についてこれそうなら、お前と恋人として付き合ってもいい』って良い返事をもらって、そこから本格的にユーステスと恋人として付き合い始めたんだってさ」
ひといきついて、続ける。
「で、のそれ聞いてから何日か経って俺は、ユーステスに無力ののどこが良かったってそれとなく聞いてみれば、あいつ、組織の大変な任務――戦場から帰った時、帰ればから『お帰り!』って騒がず普通に出迎えてくれるのが丁度良かったし、それ以外でも魔法も剣の音も聞こえない静かな空間が作れる彼女の隣が落ち着くと分かったのが良かったって表向きはなんか不服そうに答えてたが、あいつ、裏ではそのにぞっこんだってのが俺でも分かったぜ」
――なるほど。ユーステスの仕事先は戦場だからな、戦場から帰ってきたときにのその普通さ、それから、魔法も剣の音も聞こえない静かな空間が作れる彼女の隣が癒しになっていったというのはよく分かるな。
――はい。さんがこの団で人気なのも、その普通さが良いからですもんね。
「まあ、お互い、求めるものが一致して、恋人関係になれたって感じだな。
そしては、実家の孤児院でも武器も魔法も扱えず魔法の効き目も無い特殊な体質のせいで父親にお前は外に出るな、大人しく守られとけと言われて家にこもりがちの日々だったが、それから自分を外の世界に連れ出してくれたのはユーステスだけだったって、俺に自慢そうに話してたよ。
自分の特殊な体質を聞けば孤児院の家族はもちろん、ほかの知人も自分は家から出ない方がいい、大人しく守られとけ、そればかりだったが、ユーステスだけはグランサイファーを紹介してくれて、更にそこだけじゃなくて、組織内の仕事でも自分を積極的に外の世界へ導いてくれた凄い人だってさ。
ユーステスが無力でお荷物状態のを外に連れ出せたのは、ユーステス本人が言うには力を持たないまでも彼女が頑張っている様子をちゃんと見ていたのでそれで外に出してやってもいいと判断して、しかしそこで何かあれば自分の手でを守ればいいだけだってそれに気が付いたせいだってよ」
――へえ。ユーステスの奴、武器も魔法も扱えず魔法の効き目の無い特殊な体質な彼女を閉じ込める事はせず、積極的に外の世界へ連れ出してやったのか。それ、の特殊な体質が分かっている孤児院の家族や知人達のお荷物なは家にこもって大人しく守られとけっていうその気持ちも分からんでもないが、彼女の努力を見てそれをはねのけて外に連れ出せて、その時に何かあれば自分がを守ればいいという結論に達したのは確かにユーステスらしいといえば、らしいな。
――さんのユーステスさんに対しての感情は表裏なくて分かりやすいですけど、ユーステスさんのさんに対する感情は表を見るだけでは分かりにくいですからねえ。ユーステスさんてさんに接する時でも表向きは冷たくて素っ気無いですけど、裏ではさんにはめちゃくちゃ甘いですよね。それも多分、ユーステスさんから見て、さんが一番努力家だって分かってるせいでしょうけどね。
「そうだな。で、その話が終わった後に、に言われたよ。俺はユーステスのよう、ヒューマン用の薬を持ち歩いてくれて、その野菜スープも作ってくれるのか、更に、戦う力が無いお荷物状態の自分を外に出せる勇気はあるのかってね」
ひといき。
「俺はからその話を聞かされて、俺ではのためにスープを作れず彼女のために毎回ヒューマン用の薬を持ち歩けないし、武器も魔法も扱えない彼女を守るためなら自分の家に置いてやった方が安全でいいと思っていたが、その反対でそこから飛び出して外の世界を見せてやる方が彼女のためになるなんて思わなかったし、そこで彼女だけを守るなんてできないと思ったんだ。
これでは最初から、俺でもとユーステスの間に割り込む隙なんて無かったと思い知らされたよ。それが分かった時に俺は、をすっかり諦める事ができたってわけだ。ほかにに言い寄ってた連中もその話を聞いたようで、自分ではとユーステスの間には入れる隙が無いって諦めていったようだ」
我々にその全てを話してくれた『彼』の顔は、本当にすっきりしたよう、笑っていた。
――のその病気と薬に関する話と野菜スープの話、それから、無力でお荷物状態の自分を構わずユーステスの手で外に連れ出してくれた話は、今回が初だったな。とユーステスは彼の話している通りでなんだかんだ、お互い、適度な距離感で丁度良かったのか。
――あなたのさんに関するそのお話は確かに、この団では誰も持っていない、とびきりのネタでしたね。ありがとうございます。このお話も、報告書にまとめておきますか。これで、あのお方も納得して我々にサインを使わせてくれますよね。
それから我々は新しい情報を与えてくれた彼に礼を言って、彼から「これ頼んだ」と例のチケットを渡されそれを受け取り、お互い笑顔でその場を後にしたのだった。
それ以降のに関する話はあまりなかったので、ここで団でのに関する報告はいったん終了する。
結論:団でのは評判はよく、彼の話以外で彼女に関して貴殿が心配するような話はいっさいなかったので、そこは安心して欲しい。ユーステスとの関係も団全員が認めるほどだ、貴殿の気持ちは分からんでもないが、彼女に関してこれ以上の詮索は控えた方がよろしいかと。以上。
私――秩序の騎空団のモニカ、そして、相棒のリーシャは団でに関する聞き取り調査を終えるとグランサイファーを出て秩序の騎空団に戻り、それから、この報告書を仕上げたのだった。
ここで、彼女達の――モニカとリーシャのに関する報告書は終わっている。
「……なるほど、は家出の後でもユーステスが病人の自分を甘やかさず、適度に接してくれるのが丁度良かったのか。おまけに、病人の自分に負担をかけないようそのレシピを教えず野菜スープを作ったり、回復魔法も効かない体質であるのを考慮して彼女のために毎回ヒューマン向けの薬を持ち歩いているとは、この話は、私も初耳だったな。それ以外、私や十二神将のアンチラとマキラ達を介さずを妹扱いしているエッセルの話は、個人的に気になっていた所だった。モニカとリーシャは団員からよくここまでに関する話を聞き出せたものだ」
「うむ。俺も家出の後のその病気の話は知らなかったし、更に武器も魔法も扱えずお荷物状態で引きこもりだったがそのを外に出してやった時にの頑張る姿をちゃんと見ていて、それで自分が彼女を守ればいいだけの話だと結論づけて外の世界に導いたのも、ユーステスの仕業ときたか。ここまでに関する話を引き出せたモニカとリーシャはよくやったな」
報告書を読み終えたイルザとバザラガは、とユーステスに関する今まで聞いた事のなかった情報を得て、モニカとリーシャのやり方に感心を寄せる。
ローナンは言う。
「私がモニカ達にサインをやった理由、これで分かっただろ?」
「そうだな。これほどの内容であるなら、ローナンがモニカ達にサインを与えたのは分かる」
「うむ。この内容であれば、ローナンのサインをやってもいい気分にはなるな」
モニカ達の報告書を読んだイルザとバザラガは、自分達の知らない情報も充実していて、同じようにその報告書を読んだであろうローナンが、彼女達にサインを与えたのも理解したのだった。
しかし――。
「しかしローナン、これでお前が秩序の騎空団のモニカ達にサインを与えたのは分かったが、これがユーステスに分かるとまた、お前とあいつとの間でわだかまりができて面倒な話になるんじゃないのか」
「そうだな。ローナンはカシウスとアイザックの月の民の末裔達の事件でユーステスの村を襲った事件の組織の一員であるとその隠蔽が明るみに出てそれの責任を取るように組織を追い出されて一時的にユーステスと決別していたが、のためにまだこの組織に残った方がいいという団長達の説得があったおかげで、再びその席に戻って来られたんじゃなかったか。更にユーステスの奴、団長達だけではなくてのためなら仕方ないとに折れる形でお前と和解してその関係は良好だったのに、これのせいでまたユーステスとこじれて面倒な話になるぞ」
イルザとバザラガは、ローナンはカシウスとアイザックの月の民の末裔達の事件のさい、ユーステスの村を襲った原因がローナン側にあって組織ぐるみの隠蔽が明らかになり、それの責任を取る形で組織のトップから退いたものの、のためにまだイルザの組織に戻った方がいいというグラン達の説得で再び組織のトップに返り咲け、おまけにの「私もユーステスには、ローナンさんがついてる方が安心できるよ」という、彼女の頼みを聞く形でユーステスとローナンが和解したという経緯があったのを知っている。
そしてイルザとバザラガは、グランとで今まで良好だったユーステスとローナンの関係にまたヒビが入って面倒な話になるのではないかと、それを危惧していた。
「そこも抜かりない。これを」
すっと。ローナンは一通の封筒をイルザに差し出した。
イルザはその封筒を受け取ると、バザラガと共に中身を確認する。
「む。これは、報告書にあったミュオンのスカイレースの招待チケットか?」
「一枚、二枚、三枚……、数十枚はあるな。多分、俺達のぶんだけではなくて、団長達のぶんも揃ってるか?」
「そうだな。バザラガの指摘通り、それのチケットの枚数はイルザの組織の人間のぶんと、団長達のぶんだ」
茶封筒の中身にあったのは、スカイレースの招待チケットで、それは、とユーステスだけではなく、イルザ、バザラガ、ゼタ、ベアトリクス、グウィンのぶん、そして、グランとビィ、ルリア達のぶんまで揃っている。
「そのチケット代は報告書にあった通り、最後の情報提供者――スカイレーサーのミュオンからの招待チケットであるため、お前達がその代金を気にする必要は無い」
最後のに関する情報提供者は、スカイレースで活躍するスカイレーサー、ミュオンだった。
「しかも、その日は、スカイレーサーで一番人気のミュオンだけではなく、フェール、マッディーといった人気役者が揃って参加する回で、更にプール付きの豪華なホテルで一流シェフが作る食事を味わいながら見物できる特等席がもうけられた艇が会場のプラチナチケットである」
「マジか。スカイレースでそこまで人気役者が揃った回で、更にプール付きで一流シェフが作る食事を味わいながら見物できる豪華なホテル付の艇が会場のプラチナチケットは普通のチケットの倍以上の値段がするうえ、それでも中々手に入らなくて、持ってるだけで悪い連中に狙われる率が高いし、会場で揉める事が多いと聞いているが――ああ、それで彼――最後の情報提供者のミュオンは、秩序の騎空団のモニカ達に警備を頼んだと?」
「うむ。当日のイベント会場の警備は、彼女達が――秩序の騎空団が仕切るというので、会場でそう危険な目にはあうまいよ。まあ、秩序の騎空団の警備がなくても団長達が揃っていれば、会場での安全は保障されるだろう。その豪華で特別なプラチナチケットを見せればユーステスは分からないが、は手放しで喜ぶのではないかね」
「確かにお前の言うように、この豪華で特別なプラチナチケットを見せればが喜ぶのは分かるがしかし、ミュオンはを諦めきれず、彼女目当てでこのプラチナチケットを私達に配ったのか? ミュオンのせいでとユーステスの関係をこれ以上にこじらせたくないと思えば、これはお前に突き返した方が良いと思うが……」
イルザは、報告書の情報でミュオンはに本気で気があると分かったので、彼がその目当てでチケットを配ったというならこれまた面倒な話になると思い、最初はローナンにそのチケットを突き返すべきではないかと、慎重な態度だった。
ローナンはそのイルザに、冷静に応じる。
「いや。ミュオンはその報告書にあったよう、に関してはもうすっかり諦めがついている、それだから、ユーステスだけではなくお前達も招待していると話している。そのミュオンが今回、お前達にチケットを配ったのは、お前達にもう一度自分が出場するスカイレースに招待したからだったようだ。モニカ達も情報提供者のミュオンにそう言われて私の前に招待チケットを持って来たと、話していたよ」
「ミュオンはどうして、私達を招待するために本人ではなく、モニカ達を利用したんだ? そしてモニカ達はまだいいが、団長達ではなく、モニカ経由でお前にチケットを渡した意味が分からん」
「それは以前に、ミュオンの出場するスカイレースで八百長や、スカイレースで使われる走艇の違法改造があって、それに星晶獣も関わっているようなのでその調査をして欲しいという依頼が我々の組織にあっただろう。それでゼタとベアトリクスはスカイレースのレーサーとしてレーサー達への聞き取りを行う潜入捜査を開始、ユーステスとバザラガでスカイレースで使われる走艇の違法改造が行われていたという地下施設の調査をしてもらっていた。イルザはその時、彼らの総指揮をしていたじゃないか」
「ああ、そういえばそんな事もあったな。あの時はスカイレースの会場で偶然に団長とルリア達と遭遇し、彼らにもその捜査の手助けをしてもらったんだった。団長とルリア達のおかげでスカイレースを妨害してきた星晶獣を大人しくできて、団長達で最後のミュオンとマッディーの対決レースが凄く盛り上がって、その間にユーステスとバザラガは不正が行われていた地下施設を潰せたんだよな」
「そう、その経緯を知っているミュオンはお前達と団長達に改めてもう一度その礼がしたかった、しかし、グランサイファーでもお前達と遭遇する機会が中々無く、それを同じ組織のに頼もうかと思ったが彼女の周囲には常に人が集まるのでチケットを彼女に配っているのを見られたらあらゆる所から余計な誤解をされそうだったし、団長達に渡すもその事件とは全く関係無い余計な連中までついてきそうなのが嫌だったので、今回、モニカ達に頼んで私にそのチケットを持っていくのが丁度良かったと話していた。ミュオンは、私であれば確実にそのチケットがイルザ達の手に渡ると思ってくれたんだろう」
「……なるほど。と団長達では余計な誤解を生み、おまけに例の事件に関わりの無い余計な団員がついてきては、ミュオンにとっては迷惑なだけというのは分かる。ミュオンがモニカ達とお前を使って私達をスカイレースに招待したいのがそれが理由なら、納得した。分かった、そのスカイレースのプラチナチケット、私達と、そして、団長達とで遠慮なく使わせてもらうよ」
イルザは、ローナンから遠慮なくプラチナチケットが同封された茶封筒を受け取った。
ローナンは紅茶を一口飲んだ後、落ち着いた様子で話を続ける。
「は、ユーステスと一緒にその豪華なホテルでスカイレースが見物できるデートができるとあれば、この報告書については忘れてくれるだろうし、それ以上の苦情は出ないとみているのだがね」
「確かにお前の言うように、ユーステスと一緒に豪華なホテルの艇で見物できるスカイレースのプラチナチケットを見せればは喜んで参加するだろうし、これでもうその報告書についてはとやかく言わないだろうな。私もここまでのイベントは滅多に無いので遠慮無く彼女達や団長達と行かせてもらうが――、いやしかし、チケットの日付を見ればそのイベントの日はユーステスは仕事が入っているのではなかったか? あいつ、多分、いくら豪華なホテル付のスカイレースのプラチナチケットでも、彼女とスカイレースに行くより、仕事を優先すると思うが……」
イルザはここでその日にユーステスの仕事が入っている事を思い出し、汗を流す、が。
ローナンは不敵な笑みを浮かべ、イルザに言う。
「そこも抜かりない」
「というと?」
「私の権力を使ってこっそり、ユーステスの仕事の予定を変更させてもらった。あいつもそれで仕事が休みとなれば、その予定外の休みを彼女のために使ってくれるだろう」
「……うわー、お前、悪い奴だな。いや、もとから悪い奴だったか」
「はは。ユーステスはここまで揃えてそれで喜んでいる彼女を見れば私にとやかく言う気は失せるだろうし、あいつもたまには仕事を忘れて彼女とこんな豪華な休日デートも悪くないと思ってくれるんじゃないか」
「ローナン、お前……」
イルザは、ここで気が付いた。気づいてしまったのだ。
ローナンがどうしてモニカ達に団でのに関する報告書を依頼したのか、その表情で。
と。
ばたばた。
廊下を走る騒々しい足音が聞こえてきた。
一つだけではなく、二つの足音、そして。
「ローナン、ローナンはどこだ!」
「私の報告書の件で、お話があるんですけど! ローナンさん、出てきてくれませんか!」
遠くで、怒りに満ちた声、それから、必死にそれを訴える声が聞こえた。
その二つの声の主は、イルザ、バザラガ、ローナンの三人は分かっていた。
ローナンは席を立つと、呟くように話した。
「バレるのが意外と早かったな。まあ、ハナから秩序の騎空団のモニカ達の堅実さは期待していなかったので、この秘密の隠し部屋に潜んでいて正解だったか」
それからローナンはとびきり笑顔で、イルザに向けて言い放った。
「イルザ、後は任せた。それじゃ」
「おい、ローナン、待て――、チ、あいつ、相変わらず逃げ足だけは早いな」
バザラガが逃げるローナンを追いかけようとしたが、部屋の奥にある隠し扉から逃げて行ったローナンの姿はすでになく。
ローナンを追いかけるのを諦めたバザラガは、イルザの方を振り返る。
「イルザ、どうする? 俺達もあいつら――ユーステスとが来る前に、さっさと逃げるか? この秘密の隠し部屋であるなら、あと数分は時間稼ぎできると思うが」
「どうもしない。ローナンの奴、私にユーステスとの説得を期待するよう、ミュオンのスカイレースのプラチナチケットだけではなく、に関する報告書もそのまま置いていったからな。それを持って、ありのままを此処まで来たとユーステスに話すだけだ」
ひといき。
「この材料でローナンの期待通りになるのは癪だが、を思うならば、私はその期待に応じるしかないだろうな」
そういうイルザの顔は落ち着いていて、ローナンが残していったお菓子まで口にする余裕はあった。
バザラガは怪訝な顔でそのイルザを見詰める。
「イルザ、お前、それのせいでまたローナンとユーステスがこじれたら、どうする気だ? ローナンとユーステスの関係だけではなく、それでお前がから恨まれるかもしれんというのを分かってるのか?」
「多分、その心配はないと思うよ」
「ほう。その根拠はどこから?」
「ローナンは力を持たないまでもの隠れた才能――彼女の周囲の人間関係の観察力と洞察力がほかより優れているのは分かってたんだよな。それが分かるのはグランサイファーでぬくぬくしているよりは秩序の騎空団でしごかれた方が良いと思ったという話で、これだけでローナンが彼女を評価してくれているのが分かるし、モニカの契約書のサインに保険をかけていてくれたのもそれのせいだろう。ローナンはなんだかんだ、武器も魔法も扱えずともユーステスについてきたを良い風に評価してくれていたんだよ。もローナンのそれが分かれば、ローナンをそこまで非難する事はない」
「なるほど。で、肝心のユーステス対策は?」
イルザは残された報告書を手に取り、ローナンの仕業を見抜いたうえで呆れた様子で言った。
「ローナンは実は、団でのとユーステスの関係を心配していたのも、この報告書で分かる事だな。ローナンは面白半分でモニカ達にの団での生活実態の調査を依頼したというが、実際は、この組織内で自分とユーステスを繋いでくれているが団でも本当にユーステスについてるかどうか、それが気がかりで、モニカ達にの団での生活実態の調査を依頼したんだよ。が団でユーステス以外のほかの男に気があるかどうか、それを調べるためにな」
「それが分からん。ローナンは何故、がユーステスから別の男へ心変わりしないかどうかそれ、心配してたんだ? 組織内はともかく、団でのの男関係はそこまで心配する必要は無いと思うし、の方も団ではユーステス以外の男を好きに選んでいい立場だと思うが……。それにローナンの奴、今までのユーステスの女関係、そこまで気にしてたか? あいつ、過去にユーステスが仕事や私生活で関係を持った女と別れ話で揉めようが、我関せずの素知らぬ振りだったじゃないか」
「これは実に、単純な話だ。
ローナンはユーステスの中では過去に関係を持った女達と違って、彼女だけは大事に扱ってる特別な存在であると、それ見抜いてるんだよ。
そのがユーステスについているおかげで組織でも団でも自分とユーステスの間を取り持ってくれて、自分の所に繋ぎ止めてくれているのも分かっている。おまけには、組織とグランサイファーの団とも関係を繋いでくれている貴重な存在であるというのも理解していて、ローナンの中でもユーステスと同じくそのを特別扱いしてるってのが、私の目からも明らかだった。
そしてユーステスから大事にされて特別扱いされてるがあの団でユーステス以外の別の男にいけばローナンは、自分の立場がまた危なくなって、で手元にあったユーステスも再び自分から離れていくと、それを恐れていたのではないか」
「ふむ。ローナンは、ユーステスの中では今までの女達と違って大事に扱って特別視しているのを見抜いていて、それでローナン側もだけを特別視しているのは、俺でも分かる事だな。そしてそのローナンが団でのの男関係を心配していたのは全部、自分の保身のためと、でユーステスを自分の手元に置いたままにしておきたかったせいってわけかい」
「ああ。それも最後のモニカ達の結論の中にあった貴殿はこれ以上、彼女を詮索する必要は無いという一文で分かる。報告書の中で時々『貴殿』とあったのは、ローナンをさしての事だ。モニカ達も途中で、ローナンが団でのの男関係をそこまで心配するのは自分の保身のためと、ユーステスが次第でまた自分から離れていくのを恐れたせいだって感づいたんじゃないのかね」
「……なるほどなあ。それで、モニカ達の最後の『について貴殿の心配するような話はいっさいなく、これ以上の詮索は必要無い』という結論に繋がるわけか。無力のもローナンにユーステスを引き止めるためにそこまで特別扱いされているとは、夢にも思わないだろうな」
イルザからローナンの事の真相について聞いたバザラガは、彼の仕業に呆れるしかなく。
それからイルザは、ミュオンの豪華なプラチナチケットを感慨深げに見詰めて言った。
「ローナンは最後、この秘密の部屋から逃げるさい、私に親目線でユーステスに向けて、あいつもたまには仕事を忘れてと豪華なホテル付の艇で見物できるスカイレースで休日デートを楽しんで来ればいいと話したのも、このプラチナチケットで豪華なホテル付の艇でデートができると聞いて素直に喜ぶを前にすればユーステスが彼女に何も言えずその誘いに乗るしかないのが分かっているし、あいつのご機嫌を取るにはこの手が一番効果的だと分かってるからだよ。
ローナンの奴、組織内でまとめ役の幹部なだけあってうちの兵士達に限らず私にも手厳しく接していてそれでゼタ達からも恐れられる存在であるには間違いないが、なんだかんだでユーステスには超甘いんだよなぁ」
「そうだな……。ローナンは、ユーステスの仕事の日取りを自分の権力を使って変更してまでその豪華なホテル付の艇で見物できるスカイレースをと楽しんで来いと親の顔になって話しているのを見れば、に限らず過去の女関係もそうで、それ以外、仕事関係でもあいつをけっこう甘やかしてるってのは、俺から見ても分かっていたさ。肝心の子の方はそれに気が付かず、親に反発ばかりだ。親の心、子知らず、ってな」
「クク、ここまでの親バカ、そう居ないからな。
まあ、そのローナンが組織内でも無力のをユーステス関係で特別扱いしているうえに彼女の隠れた才能を認めている間は、はグランサイファーはもとより、うちの組織から出ていく必要は無い。ユーステスものそれが分かれば、今回のローナンの仕業については納得しないまでも彼にそれ以上の追及はしないだろうさ」
「ふむ。ユーステスもローナンが組織内で自分が居るうちはを特別扱いしているのが分かれば、ローナンの今回の報告書の件については黙認するか……」
「それでバザラガ、お前はどうする? お前がローナンと同じようにユーステスの追及から逃げたければ、今しかないぞ」
「いや。俺もイルザのその話で、此処まで来ているユーステスとから逃げる必要はなくなったと判断した。それが分かれば俺もお前について、ユーステスの説得に参加するわ」
「助かる。それじゃ、この報告書と豪華なホテル付の艇で見物できるミュオンのスカイレースのプラチナチケットを持って、此処まで来ているとユーステスの二人を出迎えに行くか」
イルザは肩をならしながら、バザラガと共にローナンの隠し部屋から表に出て行った。
その時のイルザは、とても優しい――それこそ、自分に頼ってくる妹に接する時の姉のような優しい顔をしていた。
自分の報告書の件でユーステスについてきているだろうに、特別でとびきりの話を教えてやるために――。