そして、それから。
後日談にして、余談を少し。
ユーステス争奪戦イベントから、丁度、二日後の話である。
これは、昼間、グランサイファーの食堂での出来事だった。
「カシウス、これどうぞ」
「何だこれは」
どん、と。
昼の食堂でが私に出したのは、私の好物のラーメンだった。
「何だこれはって。カシウス、ラーメン好きじゃなかった?」
「うむ。私がラーメン好きなのは間違いないが、しかし、が私にラーメンを出す意味が分からないのだが」
「それね。この間、私もユーステスを取られたくない思いだけでカシウスに色々言い過ぎたかもしれないって後で反省して、それのお詫び。それから……」
「それから?」
「それから、あの後、ユーステスも自分もあの時に私を一番に選ばなかったのは悪かったってそれ反省したって言ってくれて、おまけに私がカシウスの対決で優勝したのは間違いないからって、それで一日好きに使っていいって言われて十分、ユーステスを堪能できたんだよ。そうなったの全部、私と対決してくれたカシウスのおかげって思ったから、それのお礼」
えへへ。はユーステスを優勝賞品として一日堪能できた時を思い出したのか、照れくさそうに髪をいじる。
それを見た私といえば。
「……ふむ。このラーメンがそれの詫びというのであれば、私の方もに謝らなければいけない。私もこの間は、色々に言い過ぎたように思う。悪かった、すまない」
「あれ、月の民の末裔で実力主義者のカシウスでも、私に色々言い過ぎて悪いと思ってくれて、おまけにそれ謝ってくれるとは思わなかった。意外~、どういう風の吹き回し?」
「あの対決の後、団長や組織のイルザ達から散々色々言われてな。私の方もいくら月の民の末裔で実力主義者とはいえ、に色々言い過ぎ、そこ、反省した方がいいと。そこを改善しなければ、ユーステスも私から離れてしまうとまで」
「ああ、なるほど、それで。カシウスの方も団長さんやイルザさん達に色々言われて反省してるっていうなら、私もそれ受け入れなくちゃいけないね。そうならお互い、悪かったで、ここは終わりでいいかな?」
「そうだな。お互い、悪かったという話で決着で構わないがしかし――」
「しかし、何よ」
「しかし、を気にせずにユーステスと飲みに歩きたいという私の思いは変わりないのだがね。私に反省点はあれど、そこはに遠慮しない方がいいと判断した」
「むむ、私の方もカシウスにユーステスを取られたくない思いは変わりないからね。私の方がユーステスと先約があった場合、そこは、私もカシウスに遠慮しないよ」
ばちばち、と。
再び、私との間に火花が散り、対決するかと思われたが――。
ずずず。
「しかし、これはこれで、のラーメンも美味いな。この食堂でこのラーメンが食べられるなら、お前に私のユーステスを譲ってやってもいい」
「いや、もとから私のユーステスなんですけど! でも、ラーメン通のカシウスに私のラーメンも美味しいって言ってくれるのは悪い気しないね。あ、このチャーシュー、出来、どうかな?」
「うむ。このチャーシューは、もう少し味を濃くつけたらどうか」
「ふむ。スープはあっさりめ、それとも、濃いめ?」
「私的には濃いめが良いが、ユーステスは、あっさり派だった」
「ふむふむ。有益な情報、ありがとう。で、麺のゆで具合はどう?」
「そうだな。麺のゆで具合はなるべくこうした方が――」
ユーステスも私と同じく、ラーメン好きで有名である。彼が酒を飲んだ後によくラーメンを注文しているのを見ている。
それのせいか、私からラーメンについて情報を得られたは上機嫌だった。
ラーメンについてメモを取ると、それを味わう私で、今回は対立せずに平和的解決したのだった。
「……なあ、とカシウスって組織でも団でも、ユーステスの兄ちゃんをめぐって色々対立してるけどさ、実は意外と相性良いんじゃね?」
「はは、そうみたいだね。とカシウスはユーステスをめぐって対立もすれば、ユーステスで意見があう事もある。そこはユーステス次第、ってわけだな」
そばで団長とビィは、私とのやり取りを見て遠慮なく笑っていた。
余談その2。
これは、私と、ユーステスが不在の時、それはグランサイファーの艇ではなく、組織の拠点にての話である。
「色々、ごめんね~」
「後で、よろしくお願いしますね。それでは――あ」
ばたばた。
トレジャーハンターのマリーと、宝石商のレ・フィーエは、出て行った先の廊下でバザラガと遭遇した。
マリーとレ・フィーエが組織の拠点で訪ねた先は、イルザが居座る彼女の部屋だった。
バザラガはイルザの部屋とマリー達を見比べ、怪訝な顔をする。
「お前達が直にイルザに用事とは、珍しいな。団長から何かあったのか?」
「ええと、団長からの用事じゃなくて、イルザに個人的な話があっただけだよ。その話は、イルザから聞いて!」
「はい。詳細は、イルザさんから聞いてください。それでは、失礼します」
バザラガとの遭遇にマリーは慌てた様子で、レ・フィーエは落ち着き払った様子でそれぞれ、彼の横を通り過ぎて行った。
バザラガはマリーとレ・フィーエが行った後、イルザの部屋のドアを開けた。
「イルザ」
「バザラガ、そこでマリーとレ・フィーエに会ったか?」
「ああ。ついさっき、そこで二人と会った。あの二人が団長の艇ではなく、拠点まで直にお前に会いに来るとは珍しいな。マリーとレ・フィーエがお前に宝石を売りつけに来るとは思えんが。何かあったのか」
「とカシウスの対決の件で、ちょっとな」
「とカシウスの対決の件? ……まさか、カシウスのに関する嫌な噂を聞いたってのは」
「そのまさかだ。カシウスのに関する嫌な噂の出所は、マリーとレ・フィーエだったようだ。マリーとレ・フィーエは自分達の嫌な噂話のせいでとカシウスの対決させてしまった、そのお詫びがしたいと、それで直に私の所に来てくれたんだ」
「なるほど。それでか」
「マリーとレ・フィーエによれば、彼女達は私より前に団長にはすでに事の経緯を話して同じように謝罪し、それの許しを得たとか。そのさいに団長に直に私の所に行って謝罪した方が良いと言われて、それで次に私の所に来たんだとさ」
「ふむ。団長はマリーとレ・フィーエに、良い判断を下したわけか。さすが団長だな」
バザラガは一息ついて椅子に座り、イルザと向き合う。
イルザはバザラガにうなずくと、それからマリーとレ・フィーエが拠点まで訪ねた経緯を話した。
「マリーは最初は同年代で自分の愚痴を聞いてくれるレ・フィーエ相手に軽い調子でその話をしていただけだったが、運悪くカシウスにそれが聞かれてしまった。そして、更に運の悪い事にカシウスがの前でその話を暴露した。マリーとレ・フィーエは、カシウスが本人に向けてそこまでするとは夢にも思わなかった、そしてそれが原因で、ユーステスの争奪戦イベントに発展するとも思わなかった、ごめんなさい、と、二人揃って謝罪してくれたんだ」
「そういうわけか。月の民の末裔のカシウスは実力主義者なうえ、空の民の人間の感情が読めないからなあ。それにしたってカシウス、あの場でに関する嫌な噂を本人に言うか、普通。俺は今回は、マリーとレ・フィーエ側に同情するよ」
「そうだな。カシウスはしかし、対決の後で私と団長で揃ってあれはに言い過ぎだ、反省しろとうながしてもまだそれに納得いかない風だったからなぁ。月の民の末裔に限らず、星晶獣や天司でもそうで、力を持つ人間の間では、団長みたいな強い人間達はまだいいが、どうして弱い人間につかなければいけないのかと、それを疑問に思うようだ。実力主義者のカシウスについては、アイザックと協力して、時間かけてじっくり説得していくしかないか……」
イルザは腕を組み考え、それから。
「まあ、私もバザラガの言う通り、マリー達の言い分も分からんわけではない。力を持たないがどうして私達や団の実力者達から可愛がられて注目されるのか、それ納得いかない――そのドロドロした感情は、マリーのような年頃の女達の間ではよくある話だからな」
「そうだな。マリー達のに対する嫉妬は、俺も分かるなぁ。組織のゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人は、無力でも俺達についてくるの壮絶な努力を知っていてそれでに好意的ではあるが、マリー達はそうじゃないからな。もそれを分かっているのか、マリーを中心に、自分と同年代とあまりつるんでないよな」
「お、バザラガにもそれ分かってたか。それの通りで、はルリアやイオ、シルヴァ達を見て分かるよう、自分より年下か年上の人間達に好かれるが、同年代からはそうでもないんだよなこれが。バザラガの言う通りで本人もそれ分かってるのか、マリー達のような同年代とは距離を置いてるからな。無力でも私達に食らいつくの努力が彼女達にも伝われば良いんだが、これも中々難しい問題だよなぁ」
はぁ。イルザは肘をついて、大きな溜息を一つ。
カシウスと。二人の面倒を見て大変なイルザを思ってか、バザラガは言う。
「それなら、この間のとカシウスの対決はやって良かったんじゃないか。あれで同年代のマリー達にも、の努力が少しでも分かってもらえたかもしれんよ」
「そうだと良いんだがね。そうそう、お前とマキラで記録していたそのとカシウスの対決の映像、ついさっきローナンにも見せたんだが」
「お。あいつの反応、どうだったんだ」
「これの第二回目があるなら、組織の拠点でもそれ開いたらどうかと提案があった。おまけに、とカシウスの対立をあおるのに、に内緒でカシウスの同行者に毎回ユーステスをつけるのは効果的である、とも」
「……、ローナン、あいつ、一回殴っていいか」
「はは。ローナンは私とバザラガでやる以前に、ユーステスに思い切り殴られるのが先だろうさ」
ローナンに向けて両手をあわせてボキボキ鳴らすバザラガと、それを見てようやく笑みがこぼれたイルザと。
そして。
「ああ、そうだ。マリーとレ・フィーエはこれから、とユーステス本人にも直接謝罪に行くと話していた」
「は? はともかく、ユーステスに謝罪に行く? マリーとレ・フィーエは思い切ったな、大丈夫かそれ。というか、に謝罪は必要ではあると思うが、ユーステス相手にそこまでしなくて良いんじゃないか」
「それな。私もユーステス相手に謝罪は必要ないと思うし、団長もマリーもあいつにそこまでしなくて良いと思っていたようだが、レ・フィーエの正義感があいつにも謝罪するべきだと判断したとか」
「レ・フィーエの正義感? 何だそれは」
「彼女、現在は宝石商として修業中の身として団員になっているが、その実態は将来的に一国を背負う女王になる王族の一人だっただろう」
「ああ、そういえばそうだったな。レ・フィーエは正統な王族だったわ。あの団に居ると、団員の背景を忘れそうになる」
「レ・フィーエは今回の件でだけではなく、ユーステスにも謝罪してその許しを得なければ、一国を任せられる女王の器ではない、そう思ったんだとよ」
「うは。これまた、実に面倒だな」
「マリーからレ・フィーエは自分以上に言い出したら聞かない性分で、彼女は本当にユーステスに謝罪しなければ気がすまないだろうと話していた。それで、その時にはいいが、ユーステスを宥めるに私が必要である、協力してくれと、そう訴えがあってね」
ひといき。
「私もマリーの言う通り、レ・フィーエのユーステスの謝罪へは私が必要であると思った。それで私はこれからグランサイファーに向かうが、バザラガ、お前はどうする?」
「ふむ。そういうわけなら俺もイルザについていくよ。それというのもユーステスの奴、食堂でカシウスからの嫌な噂を聞いた時、お前があの場で止めなければ、それを暴露したカシウスに向かっていってただろ。あいつ、が関わると表では冷静に構えているが影でマリーとレ・フィーエに何するか分からん怖さがあるからな」
「そうそう。私もそれを危惧しているからこそ、マリーとレ・フィーエについていこうと思ったんだ。それだから今回の件で私にバザラガがついてくれると、助かる。それじゃ今から、マリーとレ・フィーエ、のためにグランサイファーまで行くか」
「やれやれ。ゼタの話している通りで、無力のがついてると色々あって、確かに退屈せんな。カシウスもそれが分かれば、を見直してくれるかもしれんなぁ」
イルザとバザラガは体をほぐしながら、マリーとレ・フィーエのために組織の拠点を出てグランサイファーへ向かったという。
後で彼らの話を聞いた私は、月の民の末裔である私が空を優雅に歩くにはまだ修行が必要である、と、思い知ったのだった――。