空の歩きかた(05)

 一時間後。

 第一回、ユーステス争奪戦は、グランサイファーの甲板にて開かれる事になった。

「ささ、賞品のユーステスさんは、こちらへどうぞ~。今回の争奪戦のイベントに相応しく、レプリカですけど玉座を用意してみました~」

「……」

 話を聞きつけた商売人のシェロカルテによってイベント用の備品を色々用意してくれて、甲板にあっという間にイベントの空間が出来上がったのである。

 シェロカルテが用意したレプリカの玉座に座るのはユーステスで、彼の目の前に同じくシェロカルテが用意したテーブルが置かれ、そこに私とが向かい合って座る。

「観戦用のドリンクはいかがですかー、ポテト追加ですね、どうぞ。片手で食べられるチキンもありますよ。あ、お酒類はファスティバの屋台か、ジャミルまでどうぞー。サンダルフォンの屋台ではコーヒーだけじゃなく、サンドイッチやケーキもありますよ!」

 周囲には観戦用の椅子が並べられ、その席は船内に居る団員達はもちろん、話を聞きつけて外から急遽駆け付けたという団員達で全て埋まっていた。目視だけで二百人以上は集まったようだ。
 
 観戦席のそばではローアインの屋台とファスティバの屋台、サンダルフォンの喫茶店も出され、それらの運び役としてエルセム、トモイ、ジャミルのいつもの面々が忙しそうに駆け回っている。

 観客席では。

「ね、とカシウス、どっちが勝つと思う?」

でしょ?」
「ここはやっぱり、さんに勝って欲しいですよね」

 コルワ、メーテラ、スーテラ。

とカシウスさんの間でいつか、ユーステスさんをめぐって奪い合いイベントが発生すると思ってたけど、まさかこんな早くきて、それがこの目で拝めるとは。おこたにこもってる場合じゃないわ、このイベントをスケッチして更にそれを作品のネタにするのが絵物語作家の義務ってもんでしょ!」

とカシウスの対決でルナールの創作意欲のエネルギー、満タンになってるわね……。まあでも、ルナールじゃなくても同じ『おこたみ』として、を応援してるわよ。、頑張れー」

「はは。ここまでのイベント、そうないですからねえ。そういう私もさんに頑張って欲しいですね」

はもちろんだけど、カシウスもそこそこやりそうだね。どっちも頑張ってー」

 ルナール、ミラオル、ザーリリャオー、メリッサベル。

「さて、どうなるか。がオレの錬金術でカシウスをどうにかしたいというなら、惜しみなく手を貸すが」

「ししょー、それ、不正扱いになるんじゃないの? それには多分、ししょーの手は必要ないでしょ」

 カリオストロとクラリス。

「全く。男女のもつれでこの団の秩序を乱すなんて、私の前でよくやりますね! 秩序を乱したさんとカシウスさんは後で、二人揃って、お説教と反省室行きですよ!」

「そういうお前が手にしてるサンドイッチとコーヒーは何だよ。まあ、こういうイベントで飲むコーヒーやサンドは最高だよな」

 秩序の騎空団のリーシャとモニカまで手にサンダルフォンのサンドイッチとコーヒーを手にして、観客席に居座る始末だった。

 いつもの周囲に居る面々が観戦席に座り、ほかにも十天衆や十二神将、十賢者、ほか、白竜騎士団やレヴィオン騎士団、帝国軍といった各国の騎士達も集まっている。

 そのほか。

お姉ちゃん、頑張れー」

「ふふ、テツロウはすっかりのファンね。今回の争奪戦イベント、私達は別に見にいく予定なかったんだけど、テツロウがが出るなら行きたいって言って聞かなくて、駄々こねたせいだし」
は、うちの研究所でパソコン作ってる間、テツロウの面倒も見てもらってたからな、それでテツロウが贔屓になるのも無理もない。まあ、うちの研究所で粘り強くデータシステム作ってただからな、カシウス相手にいいとこまでいくんじゃないか」

 その中で自分の子供であるテツロウを連れたシロウとマリエ、それから。

「あらあら。ユーステスさん、賭けの賞品になって、すっかり困ってるわね……。ユーステスさんはカシウスさんより、さっさとを選べばこんな事にならなかったのに、どうして男の人って、いざという時に本命を一番に選ばないのかしらね?」
「いや、まあ、ユーステスからすればを一番に選んだら選んだで、この先、に強く出られないと思ったのと、それのせいでカシウスに不満を持たれてそっぽを向かれたら仕事に影響出ると思ったんじゃないかな。ユーステスも立場的に、色々複雑だよなあ」

 ロミオとジュリエットの夫婦の姿もあって、ジュリエットはユーステスの優柔不断な態度に不満そうだったが、ロミオはまだそのユーステスに理解ある風だった。

 会場では大半がに向けての声援だったが、その中で――。

「個人的にはだと思うが、勝てば面白い方に賭けるならカシウスか」
「うむ。カシウスがユーステスを獲得すれば、それはそれで面白いな」

「カシウス、に強者の力を見せつけてやりなさいよ!」
「メドゥちゃん、ここは、を応援した方が良いんじゃないかなー」

 シヴァ、ナタク、メドゥーサ、サテュロス。

 主に星晶獣や天司から、私に向けての声援が飛んできたのだった。


 そしてと私の背後には、それぞれを応援してくれる助手が立つ。

 それぞれの内訳を、イベント主催者の団長が紹介する。

「審査員長イルザ、側の助手、ルリア、イオ、グウィン。カシウス側の助手、ゼタ、ベアトリクス、アイザック。以上で問題ないか」

「意義無し」

 それぞれの助手達から何の反論もなく、落ち着いた。

 賞品として玉座に座るユーステスはうんざりした様子で、そばに突っ立っている審査員長のイルザに向けて愚痴をこぼす。

「何で俺がこんな目に……」

「お前がかカシウス、どちらがいいか、その態度をハッキリしないからだろうが。今回ばかりは、自分の優柔不断さを恨めよ」

「……」

 それからイルザはまだ何か言いたそうなユーステスを無視するかのよう、アイザックが用意した記録装置――カメラを抱えてうろつくバザラガとマキラに向けて言った。

「バザラガ、マキラ。今回の争奪戦イベント、ちゃんとその記録装置で記録しとけよ。それ、後でローナンに送るからな」

「任せろ」
「お任せください」

 因みにバザラガは私の助手候補だったが「面倒はごめんだ」とそれを拒否し、十二神将のマキラを伴い、このイベントを記録する装置――カメラを構え、記録係になった。

 そして――。

「それじゃ、この団の団長でありユーステス争奪戦イベントの主催者であるこの僕、グランが、第一回、ユーステス争奪戦イベント開始をここに宣言する。始め!」

 団長の声で拍手と歓声が上がり、会場が一気に盛り上がる。

 かくして、団長の宣言によって私とのユーステスを賭けた勝負が始まったのである。

「第一回戦、ユーステスが好きなもの対決! お互い、事前に決めていたユーステスの好きなものを用意せよ」

 イルザから勝負内容を聞いて、私とが席を立ち、さっそく、食堂へ向かってユーステスの好きなものを用意する。

 食堂には、ファスティバとローアイン達が事前に作っていた料理がずらりと並べられてあった。私とはそこから厳選して、ユーステスに彼の好きそうな料理を持っていく。

、これでいい?」
「お皿にこれだけあれば、十分ですよね?」

「うん、それでいいと思う」

「ドリンクはこれとこれで、あってるか?」
「問題無し」

 は助手のルリアとイオ、グウィンを引き連れて、てきぱきと指示を出し、さっさとユーステスに持っていく料理を決めている。

「お。の方は、さっさと決めて持っていったぞ」
「さすがだな。で、カシウス、お前は何を持っていく気だ?」

「甘いものなら、私に任せろ」

 私の側の助手――ゼタ、アイザックはがすでに料理を持って行ったのを確認して焦りを隠せず、ベアトリクスは生クリームたっぷりのケーキに注目し自分もそれに手を伸ばそうとしていた。

 因みに勝負内容は武器や魔法を使った戦闘ではなく、ユーステスに関する情報戦だった。

 イルザいわく。

「通常であれば団長と星晶獣の力を借りて特殊空間で戦闘で勝ち負けを決められばあっさりして良いんだが、戦う力を持たない相手だと戦闘による勝敗は難しい。ここは、お互い、ユーステスに関する情報をどれだけ持っているか、それで勝ち負けを決めた方がいいだろう」

 との事だった。

 私の方も無力の相手に戦闘を仕掛けるほどバカではないし、それで勝っても空しいだけであるのは理解している。

 イルザの意見にユーステス、そして、団長達も同意して、私とのユーステスに関する情報戦が始まったのだった。

「ユーステスの好きなものは、私も把握している。これとこれを持っていけばいい」

 私はゼタとアイザックに指示を出し、「甘いものは持っていかなくていいのか」と不満そうなベアトリクスを置いて、さっさと会場に戻った。

「負ける気がしない!」
「これで、どうだ」

とカシウス、それぞれ、ユーステスの好きなものを持ってきたか。ユーステス、判定を」

「……」

 ユーステスは無表情で、しかし、イルザに従うよう、〇×の札を持ってそれを提示する。

「第一回、好きなもの対決、勝敗は――引き分け? とカシウス、どちらもお前の好きなものを持ってきてる?」

「引き分け? この場合、どうなるんだ?」
「どっちが勝ち?」

 イルザはユーステスの引き分けという判定に戸惑い、会場内も戸惑いを隠せずにざわつく。

「団長」
「うーん、ユーステスも出されたものが自分の好きなもので間違いないようだし、ここは、引き分けで良いんじゃないかな。後で合計点を加算するでどうか」

 イルザは団長に判断をゆだね、団長もそれにうなずき自分の意見を出した。

「第一回戦、好きなもの対決、引き分け。二回戦に続ける。いいか」

「構わない」
「了解です」

 団長とイルザの判定に私とは納得し、うなずく。

 二回戦。ユーステスの行きつけの居酒屋はどこか対決。

 お互いに紙にその店の名前を書いていく。

「簡単。このお店と、このお店でしょ!」
「ここと、ここだ」

「どちらも正解。引き分け」

 三回戦。では、そのお店で注文するメニュートップ3は。

「簡単。これと、これと、これ!」
「これと、これ、これでどうか」

「正解。引き分け」

 四回戦。その中で、ユーステスの嫌いなものは。

「これ!」
「これだな」

「正解。引き分け」

 五回戦。ユーステスは犬好きで有名であるが、その中で好きな犬はどれか。

「ふふ、このお店のワンちゃん、気に入ってた。この子で決まり!」
「同じく、この店の犬が好きだったはずだ」

「……正解。引き分け」

 六回戦。ユーステスの好きな音楽は。

「えっと、これかなー」
「これか」

「正解」

「ちょっと待って。何でカシウス、ユーステスの好きな音楽まで知ってるの?」

 ここでから物言いが入った。

「ユーステスが寝る前にリラックスするために音楽かけてるの、この団では私しか知らないと思ってたのに!」

「それは、組織での野営訓練のさい、夜にユーステスが兵士達を落ち着かせるために彼らの前で手持ちのレコードを持ってきてそこで自分の好きな曲だという音楽を披露したのを聴いているせいだ。反対にお前はそれ、知らなかったのか」

「ぐ、ぐぐ、組織の野営訓練中の出来事なんて私は参加してないんだから、知るわけないでしょ!」

 はカシウスからその事実を知って、悔しそうに唇を噛む。

「……今回は、カシウスに一票入れる?」
「……いや。今回も引き分けにした方がいい」

 ひそひそ。団長とイルザの間で小声でそう話し合う声が私の耳に入って来た。

 私の方もそれについては別に何とも思わなかったので、との情報戦は引き分けのまま続いた。

「しかし、引き分けばかりじゃ埒があかん。これから難易度を上げる。いいか」

「了解です」
「了解」

 引き分けが続き、イルザによってここから難易度が上がるようだ。


 第七回戦。フラメク以外でユーステスの愛用の武器は。

「簡単。これと、これ!」
「これとこれか」

「正解。引き分け。これはでも分かるな」

 第八回戦。ユーステスが得意とする戦術は。

「えっと、これかな?」
「戦場でこのやり方をよく使っているのを見ている」

「正解。引き分け」

 会場から、おお、と、声が上がった。

 第九回戦。ユーステスが得意とする星晶獣のタイプはどれか。

「これでしょ!」
「これか」

「む。どっちかつまずくと思ったが、正解、引き分け」

 第十回戦。反対にユーステスが苦手とする星晶獣のタイプはどれか。

「これ!」
「これだ」

「正解。引き分け……、マジか」

 十回戦まで引き分けが続いた時、審査員長のイルザだけではなく、会場内がざわついてきた。

「どうなってんだ。普段、ユーステスと一緒に暮らしているはともかく、カシウスまで連続正解なんてあり得るのか」

の方も組織内での訓練での話を知ってるの、さすがにおかしくない? どっかでに情報流してる組織の兵士が居るんじゃないの?」

 どうやら、引き分け続きで、私と、どちらかが不正をしているのではないかという疑いをかけられたようだ。

 と。

「あー、ちょっといいかい」
「アイザック」

 ここでアイザックが手をあげ、そして。

「イルザと団長、、それから、会場内で不正を疑う人間達に報告がある。カシウスの月の民の末裔は、今までの記憶を全て記録する能力を持っている」

「は? カシウスの月の民の末裔は、今までの記憶を全て脳内に記録する能力を持っている? 何だそれは」

 アイザックのその情報を聞いて団長はイルザと顔を見合わせ、も彼に注目する。観戦者達もアイザックの発言に興味を持つ。

 アイザックは決心した様子で、私のそれを明かしたのである。

「月の民の末裔のカシウスは実は、月での出来事はもちろん、ユーステスと一緒に見てきたものを全て脳内に記憶していて、手持ちのパソコンを使ってそれを記録として引き出せる能力を持ってるんだ。ユーステスが今まで組織内やこの団で戦ってきた星晶獣はもちろん、そこでの戦い方全てを脳内に記憶している。
 私生活でも、彼と一緒に飲み歩きしたぶんは全部、脳内に完全記憶しているだろう。
 それだから多分、これ以上のユーステスに関する情報戦は無意味だと思う」

「はあ? 月の民の末裔のカシウスはユーステスと今まで見てきたもの全部を脳内に完全記憶して、手持ちのパソコンでそれ引き出せる? 何それ、ずるくない?! それじゃ最初から私の勝ち目ないじゃん!!」

 アイザックの情報はも憤慨し、再び、子供のように地団駄を踏む。

 ここでイルザは冷静に、の方を見て彼女に聞いた。

の方は何でそこまでユーステスについて知ってるんだ?」

「それは、マキラちゃんと一緒に作ったこのパソコンで、ルリアちゃんから得た星晶獣の情報だけではなくて、密かにユーステスに関する情報を記録してたんですよぉ。ユーステスと一緒に見たもの、彼から聞いたもの、全部これに入ってるんです。おまけに、組織内で私の知らない情報も、後で組織の兵士さん達から聞いたものをこれで記録してたんですよ。これ、本当に便利な機械ですね」

「なるほど。そのパソコンにユーステスに関する情報も入ってたのか。さすがだな」

「えへへ」

 はそう言って得意そうにイルザに手持ちのパソコンを見せ、得意になる。

 一方のイルザはの情報源が分かり、ほっとした様子だった。

「なんだ、お互い、理由が分かれば単純だったな」
「二人とも、ユーステスに関する知識を手持ちのパソコンに記録しているだけか。それはそれで凄い話に変わりないが」

 会場内も私の記憶に関する能力を知り、のパソコンを見て、それぞれに関する疑いは晴れたようだ。

 しかし。

「でも、カシウスの完全記憶能力の前では、私に全然勝ち目ないのは変わりない……」

 しゅん。はその事実に気が付いて、相当に落ち込む。

 その間、アイザックの妹のグウィンが彼に近付いて「なんとかしろ!」と言って、アイザックに思いきり蹴りを入れたのを目撃した。

「ちょ、武装してない僕にそれはない、はい、すみませんでした! ちょっと、にアドバイスしてくるよ……」

 アイザックはグウィンに蹴られた足をさすりながら、慌ててに近付いて言った。

「ええと、まだに秘策あって、完全記憶能力を持つカシウスに勝ち目はあると思うよ。だから諦めるな」

「へえ。その秘策、あるなら教えてくださいよ」

「そうだな。は一応、僕とカシウスが月に行ってる間にユーステスと出会ってるんだよな」

「はい、そうですね。私がアイザックさんとカシウスとはじめて会ったのは、二人が月から帰って来たその後です。……あ」

「お、気が付いたか。さすが。そう、が僕とカシウスが月に行っている間――僕達と会う前のユーステスの情報を持って来れば、まだカシウスに勝ち目あると思うよ。頑張れ」

 アイザックは、の肩を叩いて彼女を励ますように言って、元の場所に落ち着いた。

 アイザック。お前、私側の助手では……。まあいい、から私とアイザックが月に行ってる間のユーステスに関する情報がどれだけ出てくるかは楽しみであるので、アイザックに関しては今は追及しない方がいいだろう。

 その間、団長とイルザの間で話し合いが行われ、そして。

「団長と協議した結果、このままでは埒が明かないのでアイザックの助言通り、ここは、従来のクイズ形式ではなく、お互いにユーステスに関する情報を自由に出題し、お互いがそれに答えるという形に変える事にした。双方、それに対しての意見はないか」

「異議無し」
「同じく」

 イルザの提案にも私も納得し、受け入れる。

「お。これでやっと決着つくか?」
「長くかかったわねえ、その間にテツロウ、寝ちゃったわよ」

 会場で観戦していたシロウとマリエは、自分の子供のテツロウが寝てしまったのを確認して、彼に毛布をかけている所だった。

 会場内も引き分けばかりで勝負がつかない事態に退屈していたのか、この提案を受け入れたようだ。

 しかし――。

「ユーステスの朝起きた時の習慣、寝る前の習慣、ユーステスの好きな本とその作家、組織内でユーステスの好きな場所――どれも月に行く前の話なのに、何でカシウス、それ知ってるわけ?」

「ユーステスの朝の習慣、夜の習慣、好きな本とその作家、組織内での好きな場所、どれも私が組織の訓練内で見て来たものばかりで、そう変わり映えがなかった。
 お前の方も私が出した出題――フラメクの部品の名称、その他の銃の部品の名称、グランサイファーでの戦績、グランサイファーでユーステスと組んだ事のある団員達の名前――何故、全て間違いなく答えられる?」

「私も常日頃から組織内はもちろん、グランサイファー内でもユーステスに関する情報を集めていて、フラメクやその他の銃に関してはシルヴァさんとククルちゃんとクムユちゃんの三姉妹の銃工房でその勉強を始めて、それが役立ったってだけだよ。それに加えて、ルリアちゃんと一緒に星晶獣の勉強も欠かさずやってるからね。こんなの、朝飯前だわ」

 ふん、と。は得意になって胸を張る。

 から名前が出たルリアはもちろん、観戦席でシルヴァ、ククル、クムユの三姉妹の方を見れば、彼女達もほかの団員達から注目され、それで得意になってに手を振り返しているのが分かった。

 無力のがルリアから星晶獣の勉強をしているのは元から聞いていたが、銃工房を構えているシルヴァ達から銃の勉強を始めていたとは、私もここで初めて知った情報で、私も彼女がそこまで勉強しているとは思わず、改めて彼女のユーステスに対する情熱を思い知って、目を見張るものがあった。

「お。、ルリアの星晶獣の勉強だけじゃなく、シルヴァ達で銃の勉強も始めてたのか」

「これは私も初耳だった。やるなー」

「確かに銃の知識を得るのに、シルヴァさん達なら間違いないですもんね。そのシルヴァさん達に頼れるのも、無力で妹として可愛がられてるならではか」

 ゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人ものこれには感心した様子で、拍手を送る。

「へえ。、それ以外でも料理も頑張ってるもんね。無力でものその勉強家で努力家な部分は、評価して良いんじゃない?」

「だね。あたしだって、メグが銃を扱い出したら銃の勉強を始めると思うし、それをシルヴァさん達のとこでやった方が効率良いと思うけど、グウィンの言うよう、それが出来るのはならではよね。あたしもがたとえ無力でも、勉強家で努力家な部分は、凄いって思うよ」

 メグとその友人のまりっぺは、の勉強家で努力家の部分を好意的に見ている。

「ふむ。の力を持たないまでも、それを補うために勉強しようとするその努力は、こちらも認めなくてはいけない」

「ああ。肉体的な力を持たないまでも、それ以外に力をつける方法はいくらでもあるからな。それでいえばルリアと星晶獣の勉強をしたり、マキラとシロウの所でパソコンを作ったり、シルヴァ達で銃の勉強をしたりと、はその目のつけどころがいい」

 会場のあちこちで、の勉強家で努力家に関して、好意的な意見が私の耳にも入ってきた。

 私もたとえ無力でも、のその勉強家で努力家な部分は認めるべきだろうとは思った。

 しかしその努力が仇となったのか、その後にお互いに何問か出題しあうも、どれも正解、引き分け続きだった。

「ねえ、まだ決着つかないのぉ~?」
「ふあ……、もう、寝る時間じゃないですかー?」

 自由出題でも引き分け続きで、更にもう夜遅く、子供のイオとルリアは何度かあくびを繰り返し、とうとうその場に座り込んでしまった。

 観客席を見れば寝ている子供を抱えて帰る準備を始める人間達もいれば、もうすでに帰っている人間も居て空席が目立つようになってきた。

 団長も会場の観客席の様子を見て、言った。

「イオとルリア、ほかの寝てしまった子供達の様子を見れば、あと一問くらいが限界か。これで勝負がつかなければ明日に持ち越しだな。イルザ、それでいいか」

「問題無い。、カシウス。あと一問で決着つけろ。先行、

「あと一問、あと一問……、うー」

 イルザにそううながされたは、頭を抱えて考える。

、早くしろ」
「む、む、はっ、そ、そうだ、これでどうだ!」

 イルザにせかされて出したの最後の出題は――。

「ユーステスは私とエッチする時、私の服をどこから脱がすでしょうか!」

「――」

 しん、と。

 ガンッ。

 の最後の出題に会場は静まり返り、それから、ユーステスが玉座に頭をぶつける音がやけに大きく聞こえた。

 私は。

「……、エッチとは何だ?」



「シャツ、スカート、下着、さあどれから脱がすでしょうか!」

 は私の疑問に構わず、途中でユーステスから声をかけられるも無視して、私に詰め寄る。

 シャツ、スカート、下着……。

 ユーステスがの服をどこから脱がすか、それになんの意味があるのか、私では分からなかったが。

「……シャツ?」

「残念、スカートからでした! はい、次、第二問、ユーステスは私とエッチする時、最初にどこから攻めるでしょうか。首、おっぱい、足、お尻、さあどれだ」

「は? どこから攻めるとは、どういう意味か?」

「首、おっぱい、足、お尻、さあどれだ!」

、止めろ!」

 は再び私の疑問を無視し、更には慌ててそれを止めようとするユーステスさえ無視し、出題を続ける。

「……首?」

「残念、おっぱいからでした。ユーステスは、おっぱい星人。第三問、ユーステスは私とエッチする時、どの体位が好きか――ふがっ、ふがふが?!」

 玉座から慌てて飛び出たユーステスが腕で言っても聞かないの口をふさぎ、彼女を抱え、そして――。

「ここはもう、の優勝でいい! イルザ、あと、任せた。アイザック、これの責任取れ。それじゃ!」

 言うだけ言ってユーステスは腕で口と体を塞がれてジタバタもがくを抱え、会場から立ち去ったのだった。

 後に残された私といえば。

「イルザ、のいうエッチとは何だ?」
「それ私に聞くなよ!!」

 ぎゃー。イルザは珍しく顔を真っ赤にして、私から背を向ける。

 そして。

「アイザック、カシウスの責任取れ!!」
「ええ、僕に責任取れって言われても」

 アイザックはイルザに涙目でそう訴えられるも、彼も戸惑うばかりだった。

 私はそのアイザックに近付き、そして。

「アイザック、のいうエッチとは何だ」
「うわああ、それ僕に聞かないでくれ! 何も聞こえないー」

 アイザックは耳を塞ぎ、私の質問に答えない。

「団長――」
「あー、明日、何の予定があったかなー」

 私は次に団長を見るも、団長から顔を背けられてしまった。

 更に今までのやり取りを聞いていただろうゼタ、ベアトリクス、グウィン、バザラガ、マキラに「エッチとは何か」と聞くも、誰もが顔を背けそれについては何も答えないという、同じ反応であった。

 会場の観戦席を見るも、誰も視線をあわせてくれなかった。

 誰も私の質問に答えてくれないのか……。これは、本人に聞くしかないのか。残念。

 それから団長は溜息を吐いた後、イルザに向けて言った。

「イルザ。ここはもう、の優勝でいいか」

「そうだな、ここは、の優勝で構わない。ローナンもこの結果には納得してくれるだろう」

 ぐったり。イルザにしては珍しく疲れた様子で、団長に応じる。

 次に団長は眠たそうにしているイオとルリアに近付いて、言った。

「イオ、ルリア。やっと決着がついた。の優勝だ。二人とももう休んだ方がいい」

「最後の方、眠たくて何やってるのか分かんなかったけど。の優勝が決まったというなら、安心した。団長の言うよう、もう休ませてもらうわ……」

「私も最後の方は何やってるのか眠たくて分かりませんでしたけど、の優勝で良かったです……。お休みなさい~」

 イオとルリアはあくびを何回か繰り返しながら、自分の部屋の方へ帰っていく。

 そして。

「皆も、今回のイベントに集まってくれてありがとう。見ての通り、の優勝でもう終了だ。後はそれぞれ、好きに楽しんでくれ」

 団長の閉会宣言で会場内から盛大な拍手が送られ、ユーステス争奪戦イベントはこれで、終了したのだった。

 「いやー、予想外の決着だったな」、「これはこれで見応えあった」、「ここまで面白いイベント、ほかになかった」、「ふはは、の奴、最後の最後でやってくれたぜ」、「無力でもここまでやってくれる子、この団に中々居ないよね~」、「そうそう。無力でもと居ると本当、退屈しない」、「明日、さんに会えますかね?」、「多分、ユーステスとイチャついてるから明日は無理じゃない?」、「次にユーステスとに会うのが楽しみね~」、

 と、会場内では今回のイベントは概ね好評で、無力のに関しても誰も悪くいう人間は居なかったのであった。

 更に。

 とある観戦席では。

「ルナール、ルナール、しっかりして!! 最後のの刺激的な質問で鼻血出してぶっ倒れるなんてルナールらしいというかなんというか。救護班、お願い!」、「え、ルナールさん以外にも最後の問答の刺激が強過ぎて倒れてる子が何人か居て、救護班はこっちまで手が回らない?」、「ああ、本当、に関わると最後の最後まで気が抜けないね。ルナールは、わたし達で運ぼうか」、

 そして。

「全くもう! さんとカシウスさん、二人揃って、お説教と反省室行きで決定です! ここまで秩序を乱した人は初めてです、二人とも、覚悟してくださいよ!!」
「それより、倒れた団員達を救護するのに尽力しろ。とカシウスのそれは、今は無理だ、諦めろ」

 あちこちで誰か倒れた、救護班、救護班、という声が聞こえ、秩序の騎空団のリーシャとモニカもそれにあわせるように動き回り、ちょっとした騒ぎになっていたらしい。

 おまけに。

「ユーステス殿は、おっぱい星人……。うむ、うむ。今後、ユーステス殿とは良い酒が飲めそうでござる」、「だな。ユーステスが復帰したら奴とその手のシモの話題で飲むのが楽しみだぜ、わはは」、「しかし、とユーステス、ヤるコト、ヤってたんだな……。その事実知って更に飲みたい気分だぜ」、「その手の下ネタが通じるの、いまのところ、ユーステスだけか。ほかの男達は団長と周囲に集う女達に遠慮してか、その手の下ネタを避けてるからなー」、「ユーステスはその手の下ネタが遠慮いらんのが分かっただけでも、今回のイベントやって良かったんじゃないのかね」、

 と、私には下ネタとやらが何の話か分からなかったが、どういうわけか一部の大人の男達の間でユーステスに関する評価が上がったようだった。

 更に。

「……ねえ、ロミオ。私とデートして帰らない? 私、あなたと二人きりでいたい気分なの」
「いいね。僕もその気分だったんだ。久し振りに、二人きりで帰ろうか」

 ジュリエットとロミオ。

「ね、寝ちゃったテツロウをロボミに預けて、二人きりでいたい気分なんだけど。どう?」
「賛成。俺も久し振りにマリエさんと二人きりでいたい気分なんだ。その気分を作ってくれたとユーステスに感謝、だな」

 マリエとシロウの夫婦は外で待機していたロボミにテツロウを預け、それぞれ、二人きりで夜のデートに繰り出したとか。