は食事する手を止め、席に座ったまま、私を不思議そうに見上げる。
「ユーステスの何、って。それ、どういう意味?」
「そのままの意味だが。、お前は、なんの意味があってユーステスにくっついている?」
……。
数秒の沈黙。
その間、団長とビィ、食堂を出て行こうとしたルリアとイオ、ゼタ、ベアトリクス、グウィンは立ち止まり、イルザとバザラガ、マリーやレ・フィーエ、食堂に集まるほかの団員達からも注目をあびるが、無視しての返事を待つ。
はその中でも動じずに少し考え、言った。
「私がユーステスとくっついてるの、私とユーステスが恋人関係にあるからでしょ」
「その恋人関係とは何だ」
「ええと、男女の付き合いがあるから――って話しても、月の民の末裔のカシウスにはそれ、分かんない?」
「ああ。月の民の末裔の私では、その男女付き合いの意味が分からん」
「そうかー。それじゃ、夫婦関係は分かる?」
「夫婦関係? 何だそれは」
「この団では、そうだね、シロウさんとマリエさんとか、あそこに居るジュリエットとロミオさんの夫婦が有名かな。男女の付き合いがあるっていうのはそれを経て夫婦と同じ意味があって、それひっくるめて家族になるんだよ。彼女達を見ていればそれ何となく分かるんじゃない?」
「ふむ。男女付き合いで夫婦とは、シロウやマリエ、ロミオとジュリエットのような付き合いがあって、それは家族と同じ意味を持つのか」
「そうそう。あ、そうだ、星晶獣さん達とか天司さん達とかの間では恋人や夫婦の事は番(ツガイ)っていうんだって。カシウス的には、こっちの方が分かりやすいかも?」
「なるほど。彼らのいう番も、なんとなく理解はできる。それではは、ユーステスと番関係にあるのか」
「そうだよ。私とユーステスは、番関係!」
むふん。は胸を張って、カシウスに自慢するように言い切ったのである。
「お、カシウス相手にユーステスとは番関係だってハッキリ言い切ったな。さすがだ」
「うんうん。そこがの気持ち良いところだよな」
「ですね。はユーステスさんとの関係がハッキリしてるから、そこが良いんだよな」
今までのやり取りを聞いていたゼタとベアトリクス、グウィンの三人は手を叩いてそのを称える。
がユーステスと番であり、それでくっついている。
そこまでは納得するも、それでも私にはまだ分からない事があった。
「それではは、何かユーステスが納得するような力を持って彼と番関係にあるのか?」
「はい? 私がユーステスが納得するような力を持ってって、それ、どういう意味?」
「は、組織でも団でも、武器も魔法も扱えない無力な女であると認識している。これに間違いはないか」
「うん、それ間違いないけど。でも、今更、私のそれ聞いて何が言いたいの?」
「ユーステスはイルザの組織でもこの団でも、トップクラスの実力者だ。ユーステスの実力は私も認めている。しかし、それならどうして彼は、無力なを番として選んだ?」
「――」
しん、と。
私の質問に、だけではなく、食堂でざわついていた団員達も騒ぐのを止めて静まり返る。
はそれをものともせず、今まで黙ってこちらの話を聞いていたユーステスの方を振り返り彼にそれを問い質す。
「そうだ。私もそれ、前からユーステスに聞いてみたかった。どうしてユーステスは、無力な私を選んでくれたの?」
「……、それ、今更、俺に聞くな。どうしてもというなら、お前が組織まで俺を追いかけて来たせいだ、とだけ」
ユーステスの方はそれに返事をするのも面倒臭そうだったが冷静に、にそう返した。
「あ、そうか。私がユーステス追いかけて組織まで来たんだった。それ、すっかり忘れてた」
はは。は自分の髪をいじりながら、照れ臭そうに笑う。
それでもしかし、私では納得がいなかい部分が多かった。
「が組織まで追いかけて来たせいで、ユーステスと番関係になった? 無力でも組織まで追いかければユーステスと番関係になれるものなのか?」
「カシウス、今日はやけに私につっかかってくるね。なんかあったの?」
今度は反対にの方から私にそれを聞いてきた。
私は先日に遭遇したマリーとレ・フィーエの視線を浴びている事に気が付いていたが、それを気にせずに向けて言った。言ってやったのだ。
「いや。この団でも、無力のがどうしてユーステスと付き合っているのか理解できないし、その無力のが団で注目されるのも納得いかないと、それを疑問視している人間の噂話を聞いた」
「――」
私の話で、再び、食堂が静まり返った。
噂の主のマリーとレ・フィーエも私がここで暴露するとは思わず、呆気に取られている。
話を聞いたは私の話に驚いた風に目を見開き、私を凝視してきた。
同じくユーステスの表情も変化あったがしかしそれはいつもの無表情と変わらず、この場で彼の微妙な変化が分かったのは私と、彼と長い付き合いのあるイルザとバザラガだけだったように思う。
それが分かったのはユーステスの腕をイルザが掴んでいるせいと、バザラガが席を立ちユーステスの動きを塞いでいるのを見たせい。
と、ここで声を上げるはイルザではなく、団長の相棒のビィだった。
「おいカシウス、そのに関する嫌な噂話、誰から聞いたよ。場合によっちゃ、そいつ、反省室行きだぜ!」
「ビィ、ちょっと落ち着いて。カシウスはまだ何か言いたい風だ。カシウスの話を全部聞いてからそれ判断しよう」
団長の相棒のビィは私の話を聞いてその噂の出の団員に憤るが、それをたしなめるのは団長である。
私は団長にうなずき、そして。
「――私もと同じようにユーステスと番関係になりたい、無力のより私の方がユーステスと番関係になれる条件を満たしていると思うのだが、どうだろうか」
「はあ? カシウスは私と同じよう、ユーステスと番関係になりたかったの?!」
「!!!」
私のこの告白にははもちろん、ユーステス本人も飲んでいたコーヒーを吹き出すほどの衝撃を与え、食堂内も主に女性陣から「きゃーっ」と耳をふさぎたくなるほどの悲鳴が上がり、艇もその振動で揺れた。
はたまらず席を立ち、私に近付いてそれを追求してきた。
「ち、ちょっと待って、カシウスがユーステスと番関係になりたいって本当にそれの意味分かって言ってるの?」
「うむ。番関係とは、シロウとマリエ、ロミオとジュリエットといった夫婦関係と同じ意味を持つ――そう、お前がさっき説明したじゃないか。それの通りなら、私もユーステスとそうなりたいと思う」
「そ、そうだけど、カシウスって一応、見た目だけで判断すれば男性だよね。私がさっきから言ってるのは男女の付き合いを経てから夫婦になるっていう意味なんだけど、カシウスはユーステスと男同士で夫婦関係になれるって思うわけ?」
「空の民の一部の人間の間では男同士で夫婦関係にあるのも珍しくないと、組織の兵士やここの団員達から聞いている。それで私でもユーステスと番関係で夫婦になるには、そう難しい話ではないと理解した」
「ええ、確かに空の民の間で男同士で夫婦関係になってる人も居て、そう珍しい話じゃないけど、カシウスに余計な事を教えたの、誰よ?!」
は私の前でも構わず、子供のように地団駄を踏む。
私はそのに向けて、その情報源を明かした。
「因みにそれの情報源は組織ではアイザック、この団ではマキラとルナールからだ」
「ルナールとマキラちゃんは簡単に予想ついたけど、アイザックさんっ?!」
「い、いや、僕は、ある時に飲み屋で、ある常連客が男同士で夫婦関係にあるという話を聞いて、そこでカシウスに男同士でも夫婦とはどういうわけだと聞かれ、一部では男同士でも夫婦として家族になってる人間も居るって軽い調子で答えただけで。いやまさか、こんな話になるとは思わず、はは、いや、参ったねこれは」
ジロリ。情報源がアイザックであると分かったは、その場に居合わせたアイザックを睨みつける。アイザックは弱った様子で頭をかき、に必死に弁解を試みる。
アイザックの言い訳を聞いても意味が無いと思ったのかは再び私と向き合い、肝心の話を聞いてきた。
「ねえ、カシウスは何で、ユーステスと番関係になりたいと思ったの?」
「そうだな。私が仕事終わりの夜にユーステスと飲みに行きたいと彼を誘うも周りの人間達から彼にはがついているので遠慮した方がいいと言われ、ほかの場面で誘っても彼にはが待ってるから遠慮しなよと、周りから言われる事が何度かあった。
それだけではなく、ユーステス本人に直に飲みに誘うも、が待っているので今回は無しだと断られる事も多かった。
私がユーステスを誘おうとすれば、いつもが邪魔をする。私はそれが、わずらわしいと思った。
それでもまだ、イルザや団長のように私以上の力を持つ人間か、ここの団員達のように私と同じような力を持つ人間であるならば少しは納得がいくが、のよう、何の力も持たない人間を理由にそれらの誘いを断られるというのは、どうも、納得がいかなかった」
だから――。
「それだから私も、ユーステスとと同じような番関係になれば彼から誘いを断られる事もないと思った次第だ」
「カシウス……」
私の話には誰も――団長とビィすら、反論する人間は現れなかった。
私は今まで黙って話を聞いているだけのユーステスの前に来て、言った。
「ユーステス。お前、力を持つ私と、力を持たない、どちらを番として選ぶ?」
「いや、待て、何で俺が今それを選ぶ必要がある。それより以前に、俺がお前を番として選ぶわけないだろうが」
「何故」
「何故って。の話している通りで、男女の付き合いがあってこその夫婦――番関係だろう。ああ、確かにアイザックの言うように空の民の一部の人間の中には男同士で番関係になっているのもいるが、あいにくと俺はその趣味は持っていない。男のお前と俺では番関係としては、あわないだろう」
「何故そう言い切れる。確かにアイザックのいう空の民の間で男同士の番関係が認められるのであれば、私とお前でも番関係になれるし、私と番関係になってはじめてわかる事もあるんじゃないのか」
「それはそうだが……」
ユーステスは私の今の問いかけには否定できず、それ以上の事が言えなかった。
お。もう少し押せば、いけるか?
私は更にユーステスに詰め寄る。
「ユーステスは無力のより、私と番関係として付き合う方が賢い選択だと思うが」
「……その理由は?」
「それも一応、考えていた。ユーステスが私と番として付き合えば毎晩、飲み屋に歩ける。ユーステスはの時は留守番しているを気にして飲みの誘いに乗らなかったが、私の時はそういうのを気にせず誘いに乗れるぞ」
「む……」
「更に、私はのよう、お前達から力を借りる必要も無い。荷運びでも、お前の手を借りず、一人でやってのける」
「……」
私の条件がきいたのかどうか。
ユーステスは腕を組み、考え込む姿勢に入った。
ところ、で。
「ち、ちょっと、何でそこで考え込むの?! ここはハッキリ、カシウスとは無理だって断ってよ!」
が慌ててユーステスの肩を揺さぶってきた。
に揺さぶられたユーステスはを見るも、私を気にしている風なのは変わりない。
私はユーステスの気が変わらないうち、私と番関係になればどうなるかを説いた。
「お前が私と番関係になれば、無力のと違って私から直接フラメクの調整が可能であり、月の民の末裔や幽世の住人達からの襲撃者に備える事も可能だ。私であればに出来ない事が出来るぞ。どうだ」
「……」
ユーステスは天井を見つめ、更に考えている。
「うええ、ちょっと、月の民の末裔の力の一つである封印武器の話と、幽世の住人の襲撃者からの話を持ち出すのずるくない?! それに私は仕事でも一人で何でもやり遂げるユーステスが好きであって、カシウスの力に頼りきるユーステスなんて、こっちも見たくないんですけどぉ!」
ばんっ。は机を叩き、ユーステスを離すまいと彼の腕を掴んできた。
私はと反対側に立ち冷静に、ユーステスを挟んで、と対峙する。
「私の方が無力のより、ユーステスの番の相手に相応しいと思うが」
「ぐ、ぐ、無力でも私の方がユーステスに相応しいって! ユーステスはね、無力だからこそ、仕事終わりに私と一緒に居る方が落ち着くって言ってくれたんだから!」
「酒飲みとして、仕事終わりに一緒に酒が飲める私の方が一緒に居て落ち着くと思う。お前は、酒が飲めないんじゃなかったか」
「ぐぐぐ、お酒飲めなくても、ファスティバさんの所で修行してるからそれでユーステスにあうおつまみくらい色々作れるようになったし、ユーステスは家でもお酒用のおつまみ出てくると嬉しいって言ってくれるし!」
「お前と一緒であれば魔物や暴漢を気にして夜に共に出歩けないだろう。私であれば、簡単に夜に出歩ける」
「そ、それだって、ユーステスと二人一緒なら怖くないもん! 夜でもユーステスはちゃんと、私を守ってくれるし、この艇か隠れ家であるなら夜でも一人で待ってられるし!」
「組織内では、月の民の末裔である私が重要人物として認識されているらしい。それで組織のトップのローナンは、私と対等に力を持つユーステスが私の相手に相応しいと判断してくれている。実際、組織の仕事でユーステスが常に私について回っているのをも知らないわけではないだろう。それであるならば、私がユーステスと番関係として行動を共にした方がよくないか?」
「ぐ、ぐぐ、そ、それは仕事のうちの話で、私生活までカシウスと一緒に居る必要無いと思うんだけど!」
ばちばち。私との間で、ユーステスをめぐり、火花を散らす。
と。
「――はいはい、そこまで、そこまで」
どう、どう。私との言い合いに見かねて入ってきたのは、イルザだった。
「しかし――」
「――私もまだ言いたい事が、った、イルザさん、何で私まで?!」
ぱちんっ、ぱちんっ。イルザはここで遠慮なく、まだ言い合いが足りない私との頭を小突いた。
私はそれがなんともないが、は相当に痛かったのか涙目で頭をさすっている。
イルザはまだ言い合いを続けようとする私と相手を睨みつけ、容赦しなかった。
「お前ら、いい加減にしろや。とカシウス、お前達の言い合いのせいで食堂で食べれる雰囲気じゃなくなった。それから見ろ、お前達の言い合いのせいでほかの子供らが震えて泣きそうで、その子供達をルリアやイオが慰めているのが目に入らんのか。お前ら、それ、どう責任を取るつもりだ」
「それは……」
「……」
私もも、自分達の言い合いのせいで子供達が泣きそうになって震えていて、それをルリアやイオが背中をさすったりして落ち着かせているのに気が付き、それのせいで周囲のいつにない雰囲気にようやく気が付いて、押し黙るしかなく。
イルザはそれから何を思ったのか、私に聞いてきた。
「カシウス、お前、本当にユーステスと番関係になりたいと思ってるのか」
「ああ。ユーステスと付き合いを続けるには、その方が私にとって最善であると判断した。そして、私がユーステスを獲得するには無力のが邪魔であるとも判断した」
「それは、あいつと毎晩、飲みに歩きたいというだけか?」
「そうだな。仕事終わりにユーステスを誘うもいつも、が邪魔をしてくる。それさえなければ、別に彼と番関係でなくてもいいが」
「ふむ……」
私はイルザに自分の気持ちを正直に伝え、イルザは私の話を聞いて考える。
次にイルザは、に狙いを定める。
「はカシウスに一日でもユーステスを譲る気はないか」
「はは、カシウスに一日でもユーステスを譲る気なんてないです」
「カシウスが組織の仕事以外、私生活でユーステスを飲みに誘う件はどう思うのか?」
「そうですね。カシウスとの付き合い、組織の仕事ならまだ我慢できますけど、私生活まで踏み込んでくるのはちょっと。私も常々、私生活で私の方が先約なのにそれを考えずにユーステスを誘って来るカシウスがわずらわしいと思ってました」
「ふむ……」
もイルザに自分の気持ちをハッキリと伝え、イルザもの話を聞いて考えている。
そして、ついに。
「そうだな、この手が一番いいか……」
イルザは目を閉じ、しばらくして何かを決断した様子で目を開け、手持ちの通信機を取り出した。
「あー、ローナン。今、ちょっといいか。現在、ユーステスとグランサイファーに居るんだが、グランサイファー内でとカシウスの間でユーステスの奪い合いイベントが発生した」
「おい、イルザ」
イルザは通信機を使って、組織のトップであるローナンと通話を始めた。イルザの通信相手がローナンであると知ったユーステスが慌てて止めようとするも、イルザは彼に手持ちの銃を向けてそれを制する。
「何、そんな面白い事になってるなら自分も今すぐグランサイファーに行きたい? いや、お前が来ると更にややこしくなるから止めとけ。私がお前に連絡したのは、かカシウス、どちらかのためにユーステスを一日だけ自由に使わせてやりたいと思ったからなんだが。ああ、そういうわけだ。いいのか。分かった。了解。それじゃ、結果は後で報告する」
ピッ。ここで通話は途切れた。
それからイルザはローナンの会話を聞いていただろうと私の顔を見て、改めて聞いた。
「、カシウス。聞いての通り、ローナンの許可が取れた。これから一日だけユーステスを自由に使える権利が得られる争奪戦イベントを始めるが、双方、それに参加する気はあるか」
「ふおお、一日だけユーステスを自由に使える権利! やります、やります!」
「ふむ。私もユーステスを自由に使える権利が得られるなら、それに参加したい」
は両手をあげ、私も静かに手をあげてそのイベントに参加する意思をイルザに示した。
そのあとイルザは、事態を見守っていた団長の方を振り返り言った。
「団長。これから、とカシウスでユーステスを賭けた争奪戦イベントを始めようかと思う。いいか」
「ああ、いいんじゃないか。現在のとカシウスのユーステスの奪い合いを止めるには、それが一番の最善策だと思うよ」
団長の許可が得られた途端、だった。
今まで団長と同じく事態を見守っていたゼタ、バザラガ、ベアトリクス、グウィンだけではなく、ビィ、ルリアとイオ、食堂に集まるほかの団員達から拍手と歓声がわき、私とのユーステス争奪戦イベントの話はたった数分で艇の中だけではなく、艇の外で活動していたほかの団員内の間で瞬く間に話題になった。