更にこの話以外、に関して、ほかにもこんな事があった。
「……ね、だけずるいよね?」
「ええ、そういう見方もありますわね」
ひそひそ。
団の艇の中を歩いていると、何やら小部屋にて小声で言い合う女達と遭遇した。
彼女達の会話の中に「」と名前が聞こえたので、小部屋の扉の前で耳を澄ませる。
部屋の中に居る彼女達は会話に夢中で、私の存在に気が付いてないようだった。
「は力を持たないぶん、頼み事を聞いてくれる人間がこの団に多いんだよね。のそれ見てるとなんか、モヤモヤしない?」
「そうですわねえ、でも、カタリナさんやオイゲンさんの言うように今更になって彼女に力をつけろというのも酷ですわよ」
片方は宝石目当ての洞窟探索が得意のトレジャーハンターのマリー、片方は宝石を商売道具や魔術の道具として扱う魔術師のレ・フィーエだったように記憶している。
トレジャーハンターとして宝石を追いかけるマリーと、宝石を商売道具として扱うレ・フィーエの組み合わせは、この団内で時々目にするので特に珍しい事ではない。
マリーとレ・フィーエは珍しい組み合わせでもないし、遭遇しても普通は軽い挨拶だけで終わるが、二人の会話に「」と聞こえれば話は別である。
私は小部屋のドアに体と耳をくっつけて、中の会話を盗み聞きする。
「あたしだって団長や騎士団の男達にチヤホヤされたい願望あるのに、団長も騎士の男達もばっかり注目して、あたしにはと違って素っ気無いんだよねー。何でだろ」
「団長さんも騎士の殿方達も、マリーはと違って、一人でも上手くやっていけると思ってくれてるからじゃないかしらね。マリーは実際、団長さんから信頼されて色々な場面で呼び出されてますし、騎士の皆さんとも対等に戦闘をこなしています。それ、マリーも分かってますわよね」
「うん、団長からの依頼が多いのも、騎士の男達とも並んで戦えるのはそういう事だって分かってるんだけどね。でも、その中で、お宝追いかける過程で良い男もゲットしたいと思ってるんだよ。あー、あたしにもユーステスみたいなイイ男、見付からないかなー。それでいえばユーステスもあの組織の中で実力者でイイ男だから、外でも良い女選びたい放題なのに、よく無力の選んだっていうかさ」
「彼は元々、同じ組織のイルザさんやゼタさん達のような強い女性達を見ているせいか、付き合うならのような普通の女性で良かったんじゃないかしら」
「うん、それは分かってるんだけどさー。分かってるんだけど、あたしとしてはユーステスは、普通の女が趣味でも以上にもっと良い女が狙えたんじゃないかなーって」
「そうですわね。それはを見た誰もが思う事ですけれど――ちょっとお待ちを、外で誰か盗み聞きしてますわ。に関するお話は、これ以上は止めた方がよろしくてよ」
「え」
最初にレ・フェーエが私の存在に気が付いたのか席を立ち、小部屋の扉を開けた。
「あら、私とマリーの話を盗み聞きしてたの、カシウスさんでしたの?」
「!」
私が盗み聞きしているのを知って、乱暴に椅子から立ち上がる音が聞こえたかと思えば、マリーが慌てた様子で飛び出してきた。
「カ、カシウス、今の話、どこまで聞いてッ」
「――ユーステスなら普通の女でも以上の女を狙えるのでは、というところまで」
私はマリーとレ・フィーエ相手に、正直に話した。
「うわ、殆ど全部じゃん! と同じ組織のカシウスに聞かれたら、マジヤバイって!」
「あらあら、相手が悪かったですわね……」
マリーは頭を抱えてのけ反り、レ・フィーエは口元に手をあて苦笑するだけ。
そのあとでマリーは両手をあわせ、私に懇願してきたのである。
「カシウス、今のに関する話、同じ組織のイルザ達、それから、団長達にも言わないで、お願いだから!」
「何故、今のに関する話をイルザ達と団長達に言わない方がいいのか?」
「何故って。あたしの話がイルザや団長からに伝われば、が気を悪くするでしょ。イルザはまだいいとして、団長にもそれ伝われば、あたしの立場も悪くなるしさ。これのせいで、あたしがこの団に呼ばれなくなったらどうするのさ」
「に関しては私もマリーと同じ考えだが、それでもそれをイルザ達と団長達にそれは言わない方がいいのか?」
「え、カシウスもあたしと同じ考えっていうのは……」
「私もに関して、マリーと同じ考えを持っている。私は常々、力を持たないがどうして組織や団の人間達から注目されるのか、そして、その中でどうしてユーステスとくっついているのか、前から疑問だった」
「へえ、そうだったんだ。あの組織でカシウスもあたしと同じ考え持ってたのは意外だったわ。あの組織の人間、イルザを中心に、ゼタやベアトリクスもにべったりだったからさ」
一息ついて、そして。
「カシウスはのその件について、組織の誰かに話した事あるの?」
「うむ。それをユーステス本人に聞いてみるも、無視されるばかりだった」
「うわ、それユーステス本人に聞いちゃったんだ。そりゃ、無視されるに決まってるわ。ユーステスは一応、を自分のカノジョだって認めてるんだから」
「ユーステスがをカノジョだと認めている……。さっきからお前達のいう、カノジョとは何だ?」
「は? いやだから、ユーステスはと男女の付き合いがあって、を自分のカノジョだというのは認めてるんだよ。それでカシウスのその話はユーステスに無視されたんじゃないの」
「月の民の末裔の私では、お前達のいう男女の付き合いがどういうものか、理解不能である」
「えー。そこから説明が必要なわけ? カシウス、月の民の末裔でも、いい大人でしょ、それでその説明が必要ってどういうわけよ」
最初、マリーは私のそれに戸惑っていたが。
「マリー。カシウスさんは空の民の私達と違って、月の民の末裔ですわよ。月の民の末裔の皆さんは私達の空の民の常識が通じない部分が多いと、同じ組織のイルザさんと、ここの団長さんが話してましたわ」
こっそり。戸惑うマリーにそう耳打ちするのは、レ・フィーエだった。
マリーもレ・フィーエでそれを思い出したのか、頭をかいて言う。
「あ、そっか。あんたの月の民の末裔って、あたし達の空の民のそういうのが分からないんだっけ。これまた色々面倒臭いなあ」
「カシウスさんのこれには、イルザさん達だけではなく団長さん達も手を焼いてる風でしたわね。それこそカシウスさんにユーステスさんかイルザさん達がついてればいいですけど、そうでなければ、私とマリーだけではカシウスさん相手にこれ以上のお話は、難しいですわ」
「そうみたいだね。カシウスにイルザ達がついてないのであれば、あたしもレ・フィーエも、カシウスのその問題はあまり深く踏み込まない方がいいかも」
うん。マリーはレ・フィーエの話に納得したよう、うなずく。
それからマリーは私を見上げて、手をあわせて言った。
「あ、でも、本当に、あたしのに関する話は、同じ組織のイルザ達と団長達には言わないでよね! あたし、そこまで真剣にを嫌ってるわけじゃないし、さっきの話もただの軽い愚痴なだけだからさ」
「そうですわ。マリーのそれは、ちょっと相手に話すだけでも気が軽くなるってだけの単純な愚痴というだけですから。そう難しく考えないで欲しいですわね」
「……そうなのか?」
マリーとレ・フィーエのそれは月の民の末裔である私からは、理解不能であったが。
「でもね」
マリーはかかとをあげて私と同じ目線になり、そして。
「でも、カシウスもあたしと同じよう、力を持たないが皆に注目されるのはずるいって思ってくれてるのは少し嬉しかった、かな」
私は。
「そうだ、カシウス、暇ならこれから、あたし達と一緒に洞窟探索に行ってみない? そこであたしが珍しい宝石や財宝の入った宝箱見つけてきて、レ・フィーエがそれを鑑定してこの団の人間に売りさばくっていう簡単なお仕事なんだけどさ」
「いや。マリーのいう洞窟探索は私には多分、不向きだ。その仕事は、ゼタかベアトリクスが向いていると思う。次は、彼女達を誘ったらどうか」
「そっか。そうだね、今度、ゼタかベアトリクスを誘ってみるよ。レ・フィーエ、もう行こうか」
「はい。それでは、また後ほど……」
マリーは今から宝石目当てに洞窟探索に出かけると言ってそれにレ・フィーエを誘い、二人揃ってその場から立ち去った。
一人残された私は結局、マリーからユーステスとの男女の付き合いに関する説明が無かったので、それについては色々思うところがあり、団長から「そこで突っ立って何やってるんだ?」と、声をかけられるまでその場から動けずにいたのだった。
そして話は現在の夜の食堂へと戻る。
現在の夜の食堂には先日に遭遇したマリーとレ・フィーエの姿もあったが、彼女達の周囲にはマリーが見つけてきたらしい宝石目当てにレ・フィーエと同じく商売人のシェロカルテを中心に、アルスター島のヘルエスとスカーサハ、キャピュレットのジュリエット、ダルモア王国のフロレンス、レヴィオン騎士団のマイム、ミイム、メイムの三姉妹といった貴族や王族達が集まって何やら商談をしていたので、私と彼女達の間には微妙な距離感があった。
ここで食事を終わらせたルリアとイオが席を立ち、団長に向けて言った。
「グラン、ビィさん。食べ終わったので私とイオちゃん、その他の女の子達とでルナールさん達の『おこた部屋』に行ってきますね!」
「団長とビィもルナール達の『おこた部屋』に来てあの二人について語りたいなら、来ても良いよー」
「いや、僕はそんなに語る事はないから遠慮するかな。二人で行っておいで」
「オイラも遠慮しとくぜ。あの女子だけの甘ったるい空間は、ちょっとヤバイからなー」
団長とその相棒のビィは手を振って、食堂を出て行くルリアとイオを見送る。ルリアとイオに続いてほかの女子供の団員も、彼女達についていくようにぞくぞくと食堂を出ていく。
「なあベア、食べ終わったら訓練場で訓練して色々発散していかないか」
「いいね。腹を満たした後に何か発散するなら、訓練がうってつけだ。グウィンはどうする?」
「はい、自分もお供します。自分も先輩達と一緒で武器振り回して色々発散させたい気分なんで、よろしくお願いします!」
ゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人は訓練場で訓練をしてくると言って、同じく席を離れる。
「……」
ゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人が席を立った時、今までユーステスに固定されていたの視線は天井や床、レ・フィーエと商談中のジュリエットの方、色々な場面に飛んで狙いが定まらず何か不安定のように思った。
肝心のユーステスは食後の酒を味わっている最中で、の方には見向きもしない。
そうだ。
今が丁度良いのではないか。
私は思い切って席を立つと、の方へ近付き、そして――。
「――、お前はユーステスの何だ?」
「は?」
冒頭の質問を本人に投げかけたのだった。