空の歩きかた(02)

 これは、今より数日前の話である。

 その日の私は組織のイルザの言いつけで、アイザックが住処とする技術部の倉庫を訪ねた。

 アイザックの技術部は、組織の拠点ではなく、彼の実家のレストランの隣にある倉庫を利用している。倉庫には月から持ち帰った多くの機械類が保管され、通信が整えば組織の拠点やグランサイファーの団とも繋がるので、アイザックは組織の拠点や団の艇より実家の倉庫に引きこもっている事が多かった。

 おまけにすぐそばにアイザックの親が経営するレストランがあって、そのレストランの料理は月から帰還した後に空の世界を食べ歩きしてきた私からすれば三本指に入るほどで、腹を満たすにも丁度良い場所だ。組織の仕事がなくとも、個人的に、この場所は重宝している。

 イルザの使いもあるので昼と夜の食事はアイザックの親のレストランですますかとその予定を立て、少し浮かれ気分で技術部に向かった。

 ところが。

「……アイザック、そこで何をしている?」

「やあ、兄弟。何してるっていつものよう、月から持ち帰った機械の部品を使って、また月で停止したままのレイベリィの通信を試みて、再びレイベリィみたいなロボットが作れないかなって試行錯誤中だ」

 そう話したアイザックは倉庫の前――外でパソコンと月から持ち帰った機械の部品を並べて、それらと格闘している最中だった。

 因みにレイベリィとは、アイザックが地中から掘り当てた月の民の末裔達が空の民に残したロボットで、私とアイザックを月まで導いてくれた、とても優秀なロボットだった。レイベリィはしかし、月で襲撃者から私とアイザックを助けるために犠牲になり、今は月の彼方で停止状態、彼との通信も途絶えたままだ。

 グランサイファーの団長達のおかげで月から空の世界へと帰還を果たした私とアイザックの現在のテーマは、再び、月で停止しているレイベリィを復活させそれと通信ができるかどうか、それから、同じようなロボットが作れないかどうか、だった。

 私もアイザックのそれには感銘を受け、彼に協力を惜しまなかったがしかし――。

 しかし。

「アイザック、何故、外でそれをやっている? お前、いつもは日の光が眩しくて苦手だから倉庫でやるのが丁度良いと話してなかったか」

 いつものアイザックであれば、目の前の倉庫にこもってそれの研究をやっている。

 アイザックは無事に月から空に戻ってきたはいいが太陽の光が眩しくて苦手、あんな事がなければまだ月に残っていたと日頃から愚痴っていて、更に機械類は日の光にさらすと駄目になるのが分かっているので倉庫の中が丁度良いと話していたのに。

 アイザックはネジを回す手を止め、倉庫の方を見詰めて言った。

「……あー、倉庫に『彼女』が来ていてね」

「彼女? 彼女というのは、空の民の女性型か。お前の知り合いでこの倉庫まで来る女性型というとゼタかベアトリクスか、お前の妹だというグウィンでも来ているのか?」

 『彼女』と聞いて最初は、同じ組織の女性型のゼタかベアトリクス、それか、実の妹であるものの、組織や月での一件があって妹とどう接して良いかいまだに正解が見つからないと、ぼやいていたグウィンかと思った。

「いや、ゼタとベアトリクス、グウィンは此処まで来ていない。そういうカシウスは、何の用があって僕の所に来たんだ。腹を満たすためにうちのレストランに来たっていうなら、もう食事にするかー」

 アイザックは立ち上がるとわざとらしく背伸びをして、今まで手をつけていた工具を片付け始めた。

 私は。

「私はイルザの使いで、彼らがアイザックに注文していたという、封印武器に取り付ける部品の回収を頼まれていた」

「ああ、それでカシウスが此処まで来たのか。イルザの注文の品はちゃんと出来てるには出来てそれは倉庫にあるんだけど、ちょっと今、倉庫が使えなくてね」

「何故、倉庫が使えない?」

「ええと、その、ちょっとした実験に使ってるんだ。食事を終える頃にはその実験も終わって結果が出るだろう。さっさとうちのレストランに行こうか」

 はは。アイザックはわざとらしい笑顔を浮かべて、私の背中を押してレストランの方へと向かおうとする。

 私は。

「開けるぞ」

「わー、今、開けるのまずいって!!」

 私はアイザックの静止を無視して、強引に倉庫の扉を開けた。

 そこにあったのは――。

「あれ、外が騒がしいと思ったらアイザックさんとカシウス、来てたの?」

「何やってんだ、お前ら」

 倉庫で椅子に座って机で手持ちのパソコンを操作している彼女――と、そののそばで地べたで銃の手入れをしているユーステスの姿があった。


 私はアイザック、それから、とユーステスの四人で、アイザックの実家のレストランにて、同じテーブルについて食事をする事になった。

 その席で。

「あはは、アイザックさん、先に来てた私とユーステスに遠慮して倉庫使わなかったんですか? それは、悪かったですね」

 は今までアイザックがユーステスと一緒のに遠慮して、倉庫に行けなかった件を聞いて、遠慮なく笑う。

「俺が倉庫とはいえ、他人の家でとあれこれするわけないだろ。俺でもそこは弁えている」

 ユーステスも不服そうに、アイザックにそう反論する。

 アイザックは自分の親に作ってもらったトーストをかじりながら、バツの悪そうに頭をかいて言い訳を試みる。

「いやー、グウィンだけじゃなくて、ゼタやベアトリクスからもはユーステスとグランサイファーの艇内ではほかの団員達に構わず遠慮なくイチャついてるって聞いてて、その中で僕が来る前に先にが来ていて、そこでがユーステスと倉庫で二人きりと分かれば、色々察しなくちゃいけないと思ってさ」

「そうでも私がユーステスと色々やってるのは組織の拠点でも団の艇内でも、自分の部屋か、人気の無い所限定ですよー。あ、でも、あの団に限ってはアルルメイヤとかマギサさんとかレイさんとか、サンダルフォンを中心とした天司さん達とか部屋の内部まで覗き見できる能力持ってる子が多いからそれで誰に覗かれてるか分からない、かも? うわ、急に不安になってきた。ユーステス、どうしよう?」

「……、あの団の中で俺達の行為を覗く方が悪い、とだけしか言いようがない」

 はわわ。は最初は楽観的に笑っていたものの、最後でその危険性に気が付いて青ざめ、ユーステスに助けを求める。

 ユーステスはに冷静にそう返して、静かにコーヒーを飲んでいるだけ。

 というか。

「というかユーステス、お前、定期的にアイザックの倉庫に通ってたのか?」

「そうだな。組織でも団でも用事がなく暇な時は、アイザックの技術部の倉庫で武器の手入れをしている。アイザックの倉庫に来ればイルザ達が定期的に注文している武器の部品が自分の都合で簡単に手に入るし、フラメクの調子も見られる。カシウス、それ、イルザから聞いてなかったのか」

「イルザからは、全然聞いてなかった。何だ。お前が定期的に此処に来ていると分かっていれば、私も定期的に此処に来ていたのだが……」

 自分の食事のついで、ユーステスと飲み食いするのも悪くない。そう単純に考えていたが。

 と、ここで、アイザックが肘をつつき小声で私に耳打ちしてきた。

「おいカシウス、この場合、に遠慮した方が良いんじゃないかな。ユーステスの目的は表向きは封印武器の部品だが、裏では恋人のに会いに来てるんだから」

「は? 何故、私がに遠慮しなくてはいけない?」

「いやだから、ユーステスは目当てに此処に来てるんだからそこは遠慮した方が良いってのは、そういうのに疎い僕でも分かるぞ」

「私はユーステスが組織や団の仕事もなく暇な時であれば、彼と一緒に飲み食いしたいとは思う。はどうでもいい」

はどうでもいいって、彼女を前に、その言い方はないと思うが」

「そもそも何故、組織でも団でも何も力を持たないというは、ユーステスにくっついている?」

「え、お前、とユーステスの男女関係、分かってなかったのか?」

とユーステスの男女関係とは何だ。月の民の末裔の私には理解不能である」

「うわ、そこから説明が必要になるのか……」

「そもそも、ユーステスの方でも何も力を持たないくらい放っておいていいと思うんだが。ユーステスの方も何故、無力のを気にするのか分からん」

「カシウス、お前――」

 アイザックは私の素直な疑問を聞いて、目を瞬きして、驚いた風に凝視してきた。

 私は何かおかしい話をしているのだろうか。

 分からない。何も。

 アイザックは慌てた様子で、ユーステスに向けて彼にそれを問い質す。

「おいユーステス、カシウスにとの男女関係を説明していなかったのか」

「何で俺がカシウスにとの男女関係を説明する必要がある」

 ユーステスは冷静に返事をするだけ。

 アイザックはそのユーステスに焦りを隠せず、話を続ける。

「いやだから、月の民の末裔であるカシウスは、空の民のユーステスとの男女関係を分かっていないというか理解してないみたいだ。お前、それでいいのか」

「別に構わないと思うが。カシウスにそれについて説明する方が骨が折れる。それから」

「それから?」

「それから、カシウスがに興味を持ったらこっちが困る。カシウスのせいでいつ、月の民の末裔達や幽世の住人達がとその家族に狙いを定めてくるか分からんからな。それだから、カシウスとは突き放していた方がいい」

「……、ユーステス、お前、以上に色々面倒臭いよな」

「どういう意味だ」

「いや。まあ、ユーステスがとその家族を思ってカシウスを放っていいというなら、僕もそうするべきか……。これのせいで後々面倒な話になるのは避けたいんだけど。しかし、それよりも――」

 それより。

 話が一段落ついたところでアイザックは、肝心のがどうしているのか気になって彼女の方を振り返る。

 そのときのといえば男達を気にせず、料理を運んできたアイザックの母親と会話を繰り広げていた。

「このサラダのドレッシング美味しいですねー。これ、どうやって作ってるんですか?」

「それ、あまった野菜を刻んで、ミキサーかけただけだよ」

「メインは人参やトマトですか。ちょっと酸味のある果実酒も入れてますよね」

「よく分かったね、その通り。さすがあのグランサイファーの料理番を任されるだけはあるか。それ以外に、少しカレー粉も入ってるかな」

「へえ。カレ-粉入りなんて、面白いですね。ファスティバさんかローアインさんはこれの作り方、知ってるかな」

ちゃん、食べ終わって時間あればそれの作り方教えるよ」

「わあ、良いんですか? 楽しみです。この味が再現できれば、イルザさん達や団長さん達もきっと喜びますよー」

「そうだ、そのついでに新鮮な野菜や果物、またダンボール箱に詰めてるからそれも持ってってくれないかい」

「ええ、そこまでしてもらって良いんですか。いつも色々差し入れしてくれてるのに」

「構わんさ。それ、組織の子達と団の子達に持っていってくれ。今日は男手があるから、余分に持っていけるだろ。あんた達、ちゃんの荷物運び担当なー」

 アイザックの母親はアイザック、ユーステス、私の順でそれぞれの顔を見回し、豪快に笑う。

「いつも、ありがとうございます!」

「はは。ちゃんと居ると本当、楽しいねえ。ちゃん、裏手においで」

「了解です」

 思い切り頭を下げるにアイザックの母親はそこまでしなくていいと手をあげた後に彼女を手招きし、「ちょっと行ってくるねー」とユーステスに伝えた後には嬉しそうにそれについて行った。

 アイザックはそばで自分の母親とのやり取りを聞いて、笑うしかない。

「……は本当、力を持たなくても凄いよな。僕とグウィンの親と初めて顔あわせた日にたった数時間で打ち解けて、今では僕やグウィンが不在の間でも技術部の倉庫に顔を出せばうちの親から色々差し入れもらってて、帰り際に仲良くお茶飲んでるんだからさ。グウィンも久し振りに実家に帰った時に、レストランではなくて母屋の方でが母さんとだけじゃなくて、父さんとも茶飲んでたのを見た時は驚きを通り超えて爆笑したって話してたぜ」

「それと似たような話だがは、俺が組織外の傭兵の仕事の依頼を請け負ってくれてるギルド長のドナを紹介すれば、数時間で彼女に気に入られて仲良くなって、帰り際に最終的にはイルザと同じように妹扱いされてたぞ。あれには同じくドナと親しいスツルムに呆れられ、ドランクには羨ましそうに見詰められてたな……」

 自分の母親と親しそうに笑いあうを見て感心するのはアイザックで、ユーステスも組織外の仕事の一つである傭兵斡旋所のギルドとギルド長のドナをに紹介すれば数時間で彼女と親しくなり「なー、あたしもの姉候補になりたい、いや、ならせてくれよ。それ、イルザに伝えておいて。、イルザの組織やユーステスで困った事があれば、お姉さんのあたしに何でも頼ってくれよー」とさっそく妹扱いされるを見て、顔を引きつらせるしかなく。

 その場に居合わせていたギルド長のドナと親しい間柄のスツルムも「おいドナ、ギルド初心者でなんの実績も無い新入りのにそこまで手厚くするのはどうかと思うが」と苦言を呈するも、

「あれー、スツルムがそこまで他人を気にするの珍しいじゃん。その様子だと、アンタもが気に入ってるんじゃないの。へえ、スツルムとは孤児院の家族のためにすでに連絡先交換した仲? やっぱ、スツルムものたとえ無力でもユーステスのためなら何でも食らいついて離さないその力、認めてるんだね。それなら、あたしの連絡先も教えてあげるよ。ユーステスと組織の連中のせいで、と孤児院の家族に何かあれば遠慮しないで、ギルド長のあたし頼ってね!」

 そう言って各地の傭兵をまとめるギルド長のドナは、に個人的な連絡先を喜々として渡していた。

 更に後でドナの個人的な連絡先のメモを確認しそれが本物であると分かったドランクは驚いた様子で、

「えー、ギルドの新入りでドナさんから直に連絡先もらったの、スツルム殿以外ではちゃんが初じゃない? 普通、新入りは、ギルドで三、四年の実績を重ねたうえでギルド長のドナさんに目をかけられるようになって、ユーステスもギルドの傭兵のランクでトップになるまでドナさんとあまり話した事なかったって聞いてたけど。スツルム殿だって新入りの頃にドナさんに目をかけられたのもその実力あってこそだし。何で? 何で?」

 と、ドランクにしては珍しく戸惑い混乱した様子だったという――。


 アイザックは参ったよう、言った。

はなんの力を持ってなくても、その代わり、周囲の人間関係を観察する能力に長けていて、それを見極めたうえで相手にどこまで踏み込めばいいかも弁えている。これも多種多様な人間が集まる孤児院で鍛えられたせいかな」

「いや、のその能力は、孤児院だけじゃ伸ばせなかっただろう。多分、孤児院より、イルザ達と団長達の影響の方が強いんじゃないか」

「それもそうだな。中でもユーステスがのそれに一番影響を与えてるんじゃないのかい?」

「俺はの事は、そこまで知らん。組織でも団でも、あいつが色々勝手にやってるだけだ」

「はは、素直じゃないねえ」

「……」

 アイザックは愉快そうに笑うも、ユーステスはそれが不服そうに押し黙るだけで。

 と。

「ユーステス、アイザックさん、カシウス。アイザックさんのおばさんにもらった食材を組織と団まで運ぶの、手伝ってくれない? 後でお礼するから」

「了解」

「全く。無力のにそう頼まれたら断れないよな。これもの能力のうちか……」

 裏手から戻って来たはアイザックの母から受け取った野菜や果物が入ったいくつかのダンボール箱、合計で十箱分を指さし、手をあわせ、そう頼んできた。

 ユーステスとアイザックはの頼みを何の疑問もなく引き受けるが、私は――。

 アイザックは、台車を用意して荷運びをする段階になっても動かない私に向けて、言ってきた。

「カシウス、なに、ぼさっと突っ立ってるんだ。台車にダンボール箱積み込むから手伝ってくれよ」

 私は。

「何故、私がそれを手伝わなければいけない?」

「何故、って。僕達が手伝わなければ、が困るからだろ」

「どうしてが困る」

「いやだから、は力を持たない人間だからだよ。力を持たない人間がこれだけの量を一人で運ぶのは難しいだろう」

「そうならは何故、それを引き受けた。が持てないようなら、最初から引き受けない方が良かったのではないのか?」

「それはその、うちの新鮮な野菜や果物を持っていけばイルザをはじめとする組織の人間達やグランサイファーの団長達に喜ばれるから、がそれを引き受けたんじゃないか」

「それなら、団長達かイルザ達が揃っている時に彼らに頼めばいい。私は無力のの頼みを聞く必要はないと考える」

「……、それは月の民の末裔としての考えか、それとも、お前個人の考えか?」

「両方だ。月の民の末裔としても個人的にしても、イルザや団長のように私の力と同等かそれ以上の力を持つ人間であるなら無条件に手を貸すが、のような力を持たない人間に手を貸すという考えは持っておらず、理解不能である」

「なるほど。それはまた難しい話だ。どうしよう?」

 アイザックは最後、私ではなく、今までのやり取りを聞いていただろうとユーステスに向けて困った風に聞いた。

「ほっとけ。台車があればこれくらい、俺とアイザックで運べるだろ」

「うん。私もカシウスに無理に手伝ってもらわなくてもいいよ」

 ユーステスとは私のそれが何でも無い風に――というか、そうなる事が分かっていた風に、アイザックに応じる。

「まあ、がカシウスのそれに納得してる風ならそれ以上の追求はしなくていいか。よし、それじゃ僕とユーステスで食材を運ぶのを手伝おう」

 アイザックは腕を鳴らして、ユーステスと一緒に台車に野菜や果物が詰まったダンボール箱を二台の台車にそれぞれ積み上げていく。

 ユーステスは普段から鍛えているせいか野菜や果物が詰まったダンボール箱を何個か積み上げるのをものともしなかったが、普段から鍛えていないうえに万年引きこもりのアイザックはダンボール箱一つを運ぶだけでも苦しそうだった。

 食材が詰まった重たいダンボール箱を組織の拠点に運んだ後、残りをグランサイファーの艇まで運んだ。

 アイザックはグランサイファーで荷を全て下ろした所で、床に倒れ込んでしまった。

「疲れたー! さすがに万年引きこもりの僕が荷運びを手伝うのは、無理あったかー。途中で組織の兵士達や団長達が手伝ってくれなかったら、腰やられてたわ。カシウスが片方持ってくれれば少しは楽出来たのに、お前、本当に見てるだけで何もしなかったもんなあ!」

 アイザックは恨みがましく、立っているだけの私を睨んできた。

 私はそのアイザックを冷めた目で見下ろし、言った。

「私は最初から言っただろう、力を持たない人間を手伝う意味はないと考えると」

「それはそうだが、僕がヒィヒィ言ってるそばで少しは手伝う気はなかったのか」

「それならではなく、アイザックが直接、私に手伝ってくれと頼んだらどうか」

「あ」

 アイザックは私の話を聞いて、間の抜けた顔をさらした。

「そうかー、その手があったか。僕はと違って力を持っているせいか、他人に頼るっていう選択肢が抜けてた。そこ、盲点だったわ。これに関してはの方が一枚上だったか」

 はぁー。アイザックは立ち上がると腰に手をあて溜息を吐き、参ったよう、青い空を見上げる。

 と。

「アイザックさん、お疲れ様です」

 
 そこへ、が現れた。

「これ、どうぞ!」

「何これ?」

 がアイザックに手渡したのは、赤い液体が入ったグラスだった。

 は言う。

「それ、此処まで荷物運んでくれたお礼です。そのドリンク、アイザックさんのおばさんにもらった新鮮な野菜と果実で作ったオリジナルのミックスドリンクなんですよ。これは疲れた体に効き目あるってそれ作ったローアインさんが言ってました。良かったら、どうぞ!」

「ありがとう。ありがたく、頂くよ。うん、ローアインの言う通り、冷たいミックスドリンクは疲れた体に丁度良いな」

「良かったです。この後の食事も何が食べたいものがあれば遠慮なく言ってくださいねー。それじゃ」

 は持ってきたドリンクを飲んでそう感想を話したアイザックには嬉しそうだったが、荷運びを手伝わなかった私の方は見向きもせず、さっさと厨房の方へ引っ込んでいった。

 同じく荷運びで疲れた体を休ませているユーステスの方を見れば彼の手元にも同じミックスドリンクがあって、アイザックはそれを見て感心したように言った。

「これが力を持たないのやり方か。これがあるから皆、力を持たなくてもに協力したいって思うんだよなー。カシウスもに協力していれば、このミックスドリンク、もらえたかもよ。残念だったな」

「……」

 はは。アイザックは何の気もなく軽い調子で笑うも、私はどこかでのやり方は認められない、認めたくない思いの方が強かったのであった。