君と空に花束を(01)

 ――夢。

 夢を見ていた。

 さわやかな風が吹く小高い丘の上、草むらの上に寝転んで、そこから見える赤い屋根の建物を見ながら『彼女』と二人、穏やかで平穏な暮らしをしている夢、だった。


 目を開ける。
 そこは薄暗い部屋の中。
 閉じたままのカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
 時計を見れば午前六時をさしていた。
 いつもは日の出前の午前四時過ぎか五時に起きるのだが、今回は寝過ぎたと思った。
 しかし、いつもより遅く起きたといっても今から出かけても約束の時間には十分間に合うし、そこまで慌てる必要もない。

 彼――ユーステスは、自分がどうして寝過ぎたのか、その原因は、よく分かっていた。

「……シャツ、どこやったか」

 上半身裸で寝ていたので、カーテンは開けずに暗い状態で手探りでベッドのすぐ下の床に脱ぎ散らかしていた衣服の一つ、シャツを探す。

 その間、夢の内容を思い出す。

 さわやかな風が吹く小高い丘の上、のんびり草むらに寝転がって赤い屋根の建物を見下ろしている。

 穏やかでとても良い風景だな、と、夢の中でも、夢から覚めても思った。

「丘から見下ろせる赤い屋根の建物……、そこは、組織の仕事先で行った場所か? いや、違う、団長の依頼で行った場所か……、それも違う気がする。ほかに覚えは……」

 夢の中のその風景を思い出すも、その場所が現実で何処であるのか思い出せなかった。

 と。

 暗がりでシャツを探している最中、むにゃ、と、やわらかいものに手があたった。

 反応したのか、『それ』は目をこすりながら甘ったるい声を発した。

「ふみゅ? も、朝?」

 彼女――は、目をこすりながらこちらを見るも、起きる気配はなかった。

 ユーステスは、が起きない原因もよく知っているのでそこまで注意する必要はないし、カーテンを開けなかったのも彼女のためだった。

「朝は朝だが、お前はまだ寝ていていい」

「朝ご飯……」

「それくらい、自分で作れる。食べたら畑の世話、それから、新聞読んでコーヒー飲んでから仕事に出かける」

「昨夜に作ったパン、保管庫にあるから……」

「了解」

 ユーステスは落ち着いた調子でそう言うと床に落ちていたシャツを手に取り、それをの前で身に着ける。

 は体を起こさないまま、ぼんやりとユーステスのその姿を見詰めている。

 彫刻のような美しい裸体、その裏にある傷だらけの体。

 はユーステスがシャツでそれを隠すのはもったいないと思うのと同時に、それの肉体美が見られるのは今のところ自分だけだという優越感もあった。

 は昨夜、ユーステスに誘われるままに彼と抱き合い、その熱を分け合ったのだった。

 それからは彼と抱き合った翌日は身動きが取れず、完全復活には一日を要する。

 別にがユーステスに抱かれるのはこれが初めてではないし、お互いにその行為は慣れたものだったが、からすれば抱かれた翌日は身動きが取れないのは致命的だと思った。

 それはがヒューマンの中で特別な訓練を受けていない身で、更に、エルーンで身体能力に優れたユーステスの激しい揺さぶりに耐えられないせいだった。

 ユーステスはに配慮して彼女を抱く前に一応、防御魔法はかけてあるが、それでも体力作りをしていないではすぐに限界がくる。

 はこれのせいで呆れられて別の女にいったらどうしようと何回か絶望的な考えを持ったが、しかし、ユーステスは翌日に身動き取れなくなる自分に対して無茶はさせずいつも「休め」と優しい言葉をかけてくれる。

 それはからすればとてもありがたい話で、その優しさに更に惚れ直すも、その優しさが時に「つらい」事もある。

 むくり。彼女――はユーステスはその負の感情を見せないよう毛布を体に巻き付けた状態で、上半身だけを起こした。

「私ももう少しすればシャワー浴びて、畑仕事くらい手伝う……」

「お前、俺とヤった後は昼まで動けんだろ。無理せず、回復するまで寝てろ。張り切り過ぎて倒れでもすれば、反対に迷惑だ」

「むぅ……」

 ユーステスの言う通りで、無理に起きて張り切り過ぎて倒れてしまえば元も子もないというのは、も理解しているのでそれについては何も言い返せなかった。
 それでも毛布を巻き付けてあるので今のところ服は必要ないし、彼と違って出かける用事もないのでのんびり休んで良い日だった、けれども。

 けれども――。

「グランサイファーに乗る予定がない日は、勉強以外にする事ないから退屈……」

 ふあ、と、あくびを一つ。

 ユーステスは少し考えて、に言った。

「それじゃ、起き上がれるようになったら畑の世話でもやっておいてくれるか。もうすぐ、収穫できるのがあったはずだ」

「りょーかいです」

 はユーステスから畑の世話を頼まれ、嬉しそうに返事をする。

 ユーステスは基本、自給自足の生活をしている。野菜や果物は自然になっているものか畑で育てているものを収穫し、肉が欲しいと思えば手持ちの銃で山に入って狩に出かける。

 がユーステスに畑の世話を任されるようになったのは、ユーステスと暮らし始めてすぐの事だった。

『これくらいできなければ、俺についてこれんぞ』

 そう言われて、いくつかの野菜を植えた箇所と、果物がなっている樹木がある場所を覚え、それらの世話の方法を一か月ほどかけて、みっちり教わったのである。

 ユーステスはその時に「多分、何の訓練も受けてない身で畑仕事はきつくて、一日も持たないだろ」と、がすぐ音を上げて自分から離れてくれるだろうと思っていた。

 それが。

 はユーステスの思惑と違って、畑の世話を完璧にこなしたのである。

 ユーステスはが畑の世話で音をあげなかった理由を聞いて、「は? お前のとこ、母親が孤児院の施設長で父親が騎空団の団長、そこでは俺と同じように自給自足の生活で、自分も小さい頃から野菜を育ててたので畑の世話くらい簡単? マジか……」と、彼にしてはとても驚いた様子だった。

 はその時にユーステスは多分、何も訓練を受けてない身の自分は畑仕事も何もできないだろうと思っていたのが分かっていたので、「してやったり」と得意な顔になって、ユーステスの驚く顔を見ていたのだった。

 今ではユーステスはに畑仕事を自分の好きにしていいと言って、彼女に任せている。

 そうだ、畑といえば――。

 は上半身だけ体を起こして、ユーステスに向けて言った。

「あ、動けるようになったら畑に新しい花の種、植えてもいい? グランサイファーのロゼッタさんからもらった種なんだけど」

「何の種だ。あの団のロゼッタといえば魔術に精通してるうえ、星晶獣だからな、へんな種じゃないだろうな。成長すれば魔物になるとか、へんなもの巻き散らすとか、勘弁してくれよ」

「多分、大丈夫だと思う。ロゼッタさんがいうには、本来はユグドラシルが持ってた種で、植えれば可愛い花が咲くだけだって。ロゼッタさんがそれ私にくれたの、私であれば花が咲くまでちゃんと面倒見てもらえると思ったのと、それが私の息抜きになるかもって」

「なるほど。その種の主がロゼッタじゃなくユグドラシルというのであれば、一応、信頼できるし、お前であればちゃんと最後まで育てられるというのも分かる。その種、作物に影響しない程度であれば畑に植えたければ植えていい」

「ありがとう。花が咲いたら、ロゼッタさんとユグドラシルに報告しようっと」

 はユーステスからその了解を得られて、嬉しそうだった。

 ユーステスも自分の許可が下りただけで普通に嬉しそうに笑うを見て、今日も穏やかな気分で過ごせそうだと思った。

 それから、もう一つ肝心な事を聞いておかなくてはいけない。

「仕事、今日は夜までだっけ?」

「その予定だ。何も無ければ夜には帰れると思う」

「そう。それじゃ、ユーステスのぶんのご飯も作っておくよ」

「了解」

 ユーステス以外の予定だけではなく。

は明日は、グランサイファーだったか」

「その予定。動けるようになったら、畑の世話やって、星晶獣の勉強、それから、団長さんとルリアちゃん達に配るパンでも作るよ。明日、グランサイファーに乗るの楽しみ」

「そうか。それは良かった。俺も明日、仕事が早めに終われば、グランサイファーに直行する」

「うん、分かった。艇で待ってる」

「それじゃ、シャワー行ってくる」

「行ってらっしゃーい。私、もう少し寝てるね……」

 シャワーに行って身支度を整えてくるというユーステスに向けて手を振ると、に背を向けて部屋を出ていくユーステスと。

 一日の始めにお互いの予定を聞いておくというのは、今では、すっかり定着した。もし不測の事態が起きて予定変更となれば、のパソコンのメールで連絡するようにも話してあった。

 はユーステスが部屋を出て行ったのを確認してから、カーテンの隙間から日が差し込む窓を見詰める。

「今日も良い天気だなぁ。団長さんもイオちゃんやルリアちゃん達と、どこかの空飛んでるのかな~」

 は今でも空を飛んでいるだろうグランサイファーを思いながら、もう一度目を閉じた。


 とユーステス、二人の穏やかな日常はそうして、ゆるく過ぎていく。

 その間、がユーステスと初めて迷子の遺跡で会ってから、二年以上が経過した。

 その間に色々――本当に色々あったが、はユーステスと二年も付き合いが続くとは思わなかったし、ユーステスの方もと二年も持つとは思わなかったと感慨深げに話した。

 組織でも団でも、ユーステスは何もしなくても睨みつけてくるその顔が怖いとかで、新入りや子供達から逃げられる事が多い。自分が好きな犬でさえ、この顔のせいで、あまり近付いてこないと悲しそうな顔をする。

 も最初に遺跡でユーステスの鋭い目つきで自分を見定めてくる顔を見た時に「怖い」と思ったが、自分が武器も魔法も扱えないただの一般人であると分かった時でも根気良く面倒を見てくれたし、同行していたゼタとバザラガが自分をいったん置いて外で待機中の兵士達に助けを呼ぶかと相談している間も自分を気にしてくれていたあたりは、見た目と違ってとても優しい人だと思った。

 おまけに、無理して病気で倒れた時にヒューマン用の薬と野菜スープの作り置きでユーステスの優しさを知った後にそれについて面倒かけてしまったと感謝したさい、「お前に感謝される筋合いはない。お前が倒れたら余計に面倒なだけだ」と言い放ち、しかし、言葉と顔はぶっきらぼうで冷たくても、エルーンの耳は素直にそれに嬉しそうに反応しているのが分かった時は「可愛い」とさえ思った。

 更に、付き合いが半年くらい経ったあるとき、自分とユーステスの関係を認めてくれたのか、とても良い話を組織の仕事でユーステスと組んでいるベアトリクスから聞いた。

「ユーステス、実は、イルザ教官と同じで可愛いものに目がないんだよ。実際、星晶獣でも魔物でもさ、妖精とか精霊とか、小動物系の小さいものとか可愛い系には手加減してるの、何度か見てる。ほら、組織でローナン達と色々因縁あっても突き放さなかったスカルも見方を変えれば、そっち系だろ。もあいつと何かあれば可愛いもの――くまか犬のぬいぐるみでも差し出せば、一発であいつを懐柔できると思うぜ、ひひ」

 ベアトリクスの言う通りで、組織と因縁があっても突き放さなかったというスカルについてはとても説得力があり、些細な事でユーステスを怒らせて彼を不機嫌にさせてしまった時、「私のこれで勘弁してください」と言って手持ちのくまのぬいぐるみを差し出せば「……まあいい、今回はそのくまに免じて許してやろう」と、エルーンの耳がぴくぴく動いて、すぐに機嫌が良くなったのを見た時は、密かに笑ってしまった。

 因みに仕事でいつもユーステスに怒られてばかりのベアトリクスは何でその手を使わないのかと聞けば「私、そこまで可愛いものに興味無いし、そういうの持ってると周りの人間達から病気かって思われるほどだからなあ。それだから、その手が自然に使えるが羨ましい。今度、の方で私がそういうの持ってても違和感無いような可愛いもの見付けたらそれ、私にも貸してくれよ」と、反対に可愛いもの探しを頼まれてしまったという。

「ベアの言う通りで、ユーステスはがついてれば可愛いものが自然と手に入るから、同じ可愛いものに目がないを重宝してんじゃないの。実際、は犬猫はもちろん、子供にも好かれるからな。そのせいかあいつ、と暮らし始めてからやけに機嫌良いっていうか、丸くなったっていうか。反対にこっちが調子狂うわ。
 あ、そうだ、ベアは一応、身に着けているものとか普段着もお洒落で、年相応に可愛いもの好きなのは好きなんだけどさ、そういうの手にしてると周りの人間が面白がってからかってくるんだよ。まあ、日頃の行いのせいってのもあるけど。そのへん気にせず、の方でベアにあう可愛いものあったら見つけておいてくれるか」

 これは、同じくユーステスの付き合いを認めてくれたゼタからの証言である。

 ゼタの言うようにベアトリクスは身に着けているもの――普段着やアクセサリー系はお洒落なものが多く、反対に参考にしたいくらいだった。多分、自分やユーステスが思う「可愛いもの」とベアトリクスのいう「可愛いもの」の趣味は違ってるのだろうと思うし、彼女にあう可愛いものを探すのは難しそうで、今度、そのへんは同じく可愛いもの好きでカワイイ同盟の設立者であるカリオストロ、クラリスの二人に聞いてみようと思った。

 更に、それから一年あまり経った頃の話である。

「……そうだな。ゼタの言うようにと暮らし始めて、ユーステスが落ち着いて少し丸くなったっていうのは分かる。あいつは、ドロドロした戦場から帰った時に無力のと居るのが落ち着いて、で自然と趣味の可愛いものが増えていくのも丁度良かったんだろうなあ。
 それから、あいつが今まで付き合ってきた過去の女達は組織でなくても戦闘の訓練を受けた身が大半で、あいつと同じように戦えたがしかし、家に帰ってきてからも女が戦闘態勢を崩さないせいで落ち着かず、それですぐに別れたと聞いていた。女の方もユーステス相手に辛抱強く家で待ってられないタイプが多かったように思う。あいつと一年以上、男女の付き合いが続いたのは、が初めてじゃないのか」

 これは、バザラガの話。バザラガは一年経過してもう大丈夫だろうと思ったのか、にユーステスの過去の女達について話してくれるようになったのである。

 続いて、もう一年経った頃。

「そうそう。バザラガの言う通りでユーステスと付き合ってきた過去の女達は、何も力を持たないとは正反対で戦闘能力が高い女達ばかりで、仕事が終わっても戦闘態勢から抜け出せなくて、女と一緒に家に居ても反対に疲れるって愚痴ってたな。それであいつと二日、三日、いや、一週間くらい持てばいい方で、仕事関係の付き合いから発展したのだけは一か月くらい持ったが、それでも一年以上持ったのはが初だな。
 まあ、夜中でも朝でも仕事の依頼があれば女を気にせず出かけていくような奴だからな、あいつの仕事人間に付き合える女の方が稀か。その中で本当、気難しいあいつ相手にはよくやってると思う。それから今では身の回りの世話だけじゃなく、畑の世話も任されるようになったうえに、組織外の仕事のうちの傭兵の依頼を請け負うギルドとそのギルド長のドナも紹介してもらったんだろ、それはもう、との結婚を意識しての事じゃないのかね?」

 イルザも自分とユーステスの付き合いが二年以上続いている事に、とても感心した様子で過去の女達について語り、最後、何かを期待したような目でそう話した。

 ……。

 イルザの話の中で「仕事関係の付き合いから発展したのは、一か月持った」という女の情報は少し気がかりだった。

 それを抜きにしても確かに身の回りの世話と畑の世話だけではなく、組織外の仕事の一つである傭兵の依頼を請け負うギルドとギルド長のドナを紹介してもらえたのは更にその関係を加速させたのは間違いないがしかし、二年の付き合いの中でも結婚の話はまだ出ていなくて気は早いなと思うが、の方は彼からその手の話が出れば考えるし、それを受け入れる準備を始めなくてはいけないと思っていた。

 まあ、最初の頃はもその過去の女達と一緒で、ユーステスが朝でも夜でも構わず自分を気にせず仕事に出かけていく姿を見た時は強い不満を持って家出までしたが、家出した後に根気よく話し合いを続けて「いつ出かけるか、いつ帰るか、仕事の予定だけは話しておく」という意見に落ち着き、更に留守の間に全空一安全な場所であり、そこに集う愉快な団員達と過ごしていれば気が紛れるだろうというわけでグランサイファーを紹介されてからは、その不満は少しずつ解消されていったのである。

がグランサイファーの団長さんやルリア達と相性良かったのも、ユーステスさんと二年も付き合いを続けられた一つの理由になったかもね。おまけに、グランサイファーの団員の一人である十二神将のマキラさんと、ロボミを復活させた研究艇のシロウさんで、の秘めた能力伸ばせたのも良かったんじゃない?」

「そうだな。は、うちの組織と協力的だった十天衆のマキラと付き合いあって良くて、更に、の独断で研究艇のシロウ達に協力を頼みに行けたのも良かったんじゃないかな。組織にとってもマキラだけではなくシロウ達の手を借りれるのは、大きかった。部外者の僕が同じロボット研究であの研究艇に出入りできるようになったのも、のおかげだ」

 グウィンだけではなく、アイザックも組織とマキラの力だけではなく、シロウ達の力を借りられたのはのおかげだとそれを称える。

 アイザックは月から空に戻ってきた二年あまりの間、月に残しているレイベリィ復活、あるいは、同じロボットが作れないかと試行錯誤中で、のおかげで同じくロボット研究が盛んなシロウの研究艇に出入りするようになったようだ。

 グウィンとアイザックの言うよう、グランサイファーの団長のグランとビィ、ルリアだけではなく、眠っていたロボミを復活させた研究艇のシロウと、十二神将の中でも機械に精通しているマキラのおかげで、月の民の末裔達が残したパソコンを完成させたのは自分でも良かったと思ったし、それでユーステスとの付き合いも続いているのだという自覚はあった。

 そうそう、シロウといえば――。

お姉ちゃん!!」

「きゃー。テツロウ君、いらっしゃい!!」

 ある日、シロウとマリエの夫婦がグランサイファーにやってきて、しかも、子供のテツロウまで一緒だった。

 その中でテツロウはグランサイファーに来ると団長のグランやルリアではなく、を探し、真っ先に彼女に抱き着くのであった。

 そうなった原因といえば。

「テツは、が例の月での一件のさいにユーステスのためにうちの研究艇で頑張ってた間、彼女に面倒見てもらってたからなあ。それの影響かテツ、団長から俺とロボミが使いたいという依頼があってグランサイファーに行くっていえば『自分もお姉ちゃんに会いたいから団に行きたい』って駄々こねるようになってさ」

「私達もが孤児院出身でそれで子供の世話が得意と聞いて、それをいいことにテツロウをに任せきりにしていたのがいけなかったわね……。の保護能力、甘く見てたわ」

 は月での一件のさい、ユーステスと別れたくない一心だけでマキラと一緒に作ったパソコンをシロウの研究艇で改良していてその時、が孤児院の出身でそれで子供の世話も得意であると聞いたマリエは、にテツロウの面倒を見させて彼女に任せきりにしていたという。

 それのせいでにべったりのテツロウを見て苦笑するのは、親であるシロウとマリエだった。

 は艇に来ればシロウ達より自分にべったりのテツロウにメロメロで、テツロウを抱っこしながら言った。

「テツロウ君、めっちゃカワイイので、いつでも面倒見ますよ、遠慮しないでください! あー、私もテツロウ君みたいな子供欲しいな~」

「ぶはっ」

 チラッ、チラッ。はそばで自分とテツロウのやり取りを見守るユーステスを見ながら、そう呟いた。

 呟いた途端にユーステスは飲んでいたコーヒーを噴き出し、それを慌ててテーブルに添えられている布巾で拭く始末だったという。

「お前、そういう事はこの団では……」

「えー。良いじゃん、別にー。団の皆も組織の皆も、私とユーステスがそこまで関係進んでるのすでに知ってるじゃない」

「……」

「ユーステスの子供だったら、産まれた時からめっちゃカワイイの決まってるよね。テツロウ君みたいに!!」

 言っては、テツロウを頬ずりする。テツロウはに頬ずりされても嫌がる素振りは見せず、むしろ嬉しそうだというのは、親のシロウとマリエが見ても分かった。

 ユーステスはテツロウを抱っこしているを見て、呆れるように言った。

「……、子供が子供を産めるか」

「何よぅ。その子供相手に色々やってるの、誰だっけ?」

「……」

「ねえ、そろそろ考えてくれても良いんじゃない?」

「……」

 に催促されるも、ユーステスは答えない。

「はは、お前ら、そういうの話すようになったか」
「そりゃあねえ、二年以上も付き合い続いたらそろそろ、そういう話が出てくるわよ」

 シロウとマリエはとユーステスのやり取りを聞いて、苦笑するも、その内容は側の方に理解あった。

 そして。

 は中々返事を出さないユーステスにしびれをきらしたのか、テツロウを見て言った。

「テツロウ君、私とユーステスのうちの子になる気ない?」

「うわ、がそれ言うと冗談に聞こえないから! テツ、こっちおいで!」

 シロウは慌ててからテツロウを引き離し、自分の子供を自分の手元に戻した。

 それからシロウはに中々返事をしないユーステスに向けて、抗議する。

「ユーステス、にさっさと返事しろよ。、お前が中々返事しないから団の子供狙ってるぞ」

「知らん。俺は今のところ、その気ない」

 シロウに言われてユーステスはようやく、に返事をした。

 ユーステスの素っ気無い返事に、は。

「えー。私はいつでも受け入れる準備はできてるよ」

「……、今は仕事が第一だ。その中で子供まで考えられん」

「だよね。これぞユーステスっていう返事だわ」

 はユーステスの素っ気ない返事に不満を持つも、彼らしい分かりきった返事に納得し、笑うしかなかったのだった。