それからマリエは周囲に自分達以外に誰も居ない事を確認して、に聞いた。
「ねえ。それ以前にユーステスの関係者は――イルザはもちろん、彼の後見人で保護者であるローナンはが相手になるそれについて、何て言ってるの?」
「イルザさんは、そうなれば組織として歓迎するって言ってくれてます。ローナンさんは、私とユーステスで二人で良い時期を考えろって」
「あら、それは良かったじゃない。私はイルザより、ローナンに反対されてるんじゃないかってそれ心配してたけど、その言い方だと彼、そこまでに反対してないのね」
「ローナンさん、ユーステス相手に二年も持った女は私が初めてだから、それだけで彼の相手の資格あるって話してくれたんですよー」
「なるほど。それはとても説得力あるわね」
うんうん。マリエはローナンの話を聞いて、深くうなずいている。
それからシロウは、テツロウに手持ちのオモチャを与えながらに言った。
「多分、ローナンがユーステス相手にを許したの、それだけじゃなくて、例の事件も関係してるんじゃないのか」
「あ、シロウさんもそう思います?」
「そりゃ、あれだけの事があって更にが組織に貢献したんだ、ローナンもについて改めるさ」
「ふふ。おまけにそれ、シロウさん達の協力もありましたからね。ローナンさん、その件で、シロウさん達に改めてお礼がしたいって言ってましたよぉ。シロウさん、いい時に組織の皆とで食事会、やりませんか?」
「そうだなぁ。一応、研究艇の今後のためにその誘い受けとくか。日取りとか場所とか、そっちで決めてくれるか」
「了解です、お任せください」
はシロウに頼まれ、誇らしそうに胸を張る。
マリエはそのを見て、感慨深げに言った。
「ユーステスが組織の仕事で大怪我負って運ばれて身動き取れない状態が続いて、それのせいでが酷く落ち込んで、それから三か月あまり経ったなんて、今でも信じられないわねえ」
「そうそう。ユーステスが組織の仕事で大怪我して昏睡状態で運ばれてきて、それでが錯乱状態になって、組織でも団でも手がつけられなくなったんだよな。あれから三か月かー、もユーステスもよく頑張ったなあ」
マリエだけではなくシロウも今ではすっかり元のとユーステスに戻っているのを見て、感心したように言った。
そう。
ユーステスは団の依頼ではなく、組織の仕事で敵にやられそうになった同じ組織の兵士をかばって、大怪我を負って昏睡状態で組織の拠点まで運ばれてきたのである。
動かないうえに目を閉じたままのユーステスを見たは泣きじゃくり、それはもうイルザとバザラガも手をつけられないほどで、その話を聞きつけた団長のグランとルリア達が組織の拠点までやって来て、ルリアの回復魔法で彼の命だけは保障されたと聞いてやっと落ち着いたのだった。
「動かなくなったユーステス、団長さんとルリアちゃんのおかげで命まで取られないですんだのは良かったですけど、そこからちゃんと動けるようになるまでけっこうかかりましたからねー。それで、私、このままユーステスが動けないままだったらどうしようって思ったら、以前にお世話になったシロウさん達の研究艇に自然と向かってたんですよね」
もその時を思い出したのか、照れ臭そうに笑う。
マリエもその当時の酷い状態のの様子を思い出し、言う。
「私も朝がたにが泣き腫らした顔で研究艇の門の前に突っ立ってたのは驚いたわよぉ。あの時は夜中から来ていて、私が朝に研究艇を開けるの待ってたっていうじゃない。何事かと聞けば、目が覚めても身動き取れないユーステスのためになる補助機能開発したいって、それで私達の所まで来たのよね」
「確かにその手の補助目的の機械類は組織より俺達向きだと思うが、イルザ達より先にが俺達に頭を下げに来るとは夢にも思わなかったぜ。でもおかげで、ユーステスのリハビリが思った以上に上手くいったんだよなー」
それからシロウは、落ち着いて本を読んでいるユーステスに向けて聞いた。
「ユーステスの方は、あれから、体の調子どうだ?」
「……、シロウ達のおかげで、前のように調子は良くなっている。ギルドでギルド長のドナに頼んで、傭兵稼業も少しずつだが再開した」
「そっか、それは良かった。様様だな」
「……」
シロウは笑うが、ユーステスは笑えずに自分の手のひらをジッと見詰めるだけ。
その間、に遠慮がちに聞くのは、マリエだった。
「が私達の研究艇に来たの、ローナンの助言もあるんですって?」
「はい。ルリアちゃんの回復魔法でも目が覚めなくてそれ心配してユーステスにつきっきりだった私の所に突然、ローナンさんが入ってきたんですよ」
あれにはとても、驚いた。
普段のローナンであれば組織の拠点で遭遇してもユーステスがついていなければすれ違っても自分に見向きもしないし、挨拶をしても手をあげるだけという軽い反応だけで返事はなく、から見ればまだ冷たい印象のままだった。
はローナンがユーステスの眠る病室に入ってきたのは「あ、あの、イルザさんに言われて来たんですか」と、イルザの差し金かと思って身構えるも、彼は「イルザの仕業ではない」とハッキリ否定したのである。
そして。
ローナンはいまだに目を覚まさないユーステスを冷めた目で見下ろしながら、言った。
『私は、こいつをそんなヤワな子に育てた覚えはないのだがね』
『……』
『この子がこのまま目が覚めなければそれは、私の育て方が悪かったとしかいいようがない』
『そ、そんな事はありません。ユーステスは、ローナンさんが思うより強い人です』
『そうかい。そう思うなら、君もいつまでもそこでぐずってないで、君の仕事をやり遂げなさい』
『あ……』
『我々の組織では、現場で使える個々の能力を重要視している。現場で使えない人間はその場で去るか、その場でやられるかのどちらかだ。それの覚悟を持たなければ、我々の組織に入るべきではない。君もそれを理解して、我々についてきたのではないのかね』
『それは……』
『ユーステスだけではない、イルザもバザラガも、ゼタもベアトリクスもグウィンも、それぞれ覚悟とその責任を持って、我々組織の任務を請け負っている。彼らもいつか、自分が未知の敵にやられると予想して、それに見合った行動をしている』
『……』
『それから、ユーステスが敵にやられるのは、これが初めてではない。自分の未熟さで敵にやられて酷い怪我を負って運ばれてきた事は、何度かある。それを目にしてきた我々にしてみれば、団長達のおかげでここまでの怪我ですんで良かったと思うほどだ。今までの怪我を考えればコイツは、目が覚めても何事も無かったようケロッとしているだろうさ』
『でも、私は彼がここまでの怪我を負うのを見るのが今回が初めてで、このまま目を覚まさなかったらと思うと心配で、心配で……』
『それで君がユーステスの目が覚めるまでそこに居たいと思うなら居ればいいがしかし、自分の仕事を放り投げてまで此処に居るのはどうかと思うし、ユーステスの目が覚めた時に君がつきっきりでそこに居ると分かれば、彼はどう思うかね?』
『……ッ』
はローナンに痛い所をつかれた、と、思った。
そうだ。ユーステスは自分が自分の仕事を放り投げてまで、つきっきりで世話をしていたと分かれば、仕事人間の彼はそれに呆れて口も利いてくれないというのは簡単に想像できた。
最悪、「これくらいで何もできないお前は俺にとっても組織にとっても不要な人間だ、別れよう」とまで言われるかもしれない。
はそう考えたら震えて、泣きそうだった。
ローナンはの震えを知ってか知らずか、続ける。
『君は、此処に居るべきではない。君は今は、ユーステスの見習いとして、君のやるべき事をやった方がいい。それが目を覚ました時のユーステスのためにもなる』
『ローナンさん……』
は、ローナンの顔を改めて見詰める。
組織のローナンといえばユーステスの保護者で後見人であり、イルザをはじめとする組織の兵士達をまとめるまとめ役の幹部であった。
ローナンはイルザ相手でも厳しく接しているようで、そのせいかゼタ達から恐れられていて、ユーステスからは「近付きたくもない」と吐き捨てるような人物で、から見ても『冷たい人』という印象はあったが、今のは彼はそんな人には思えなかった。
今のローナンの顔を見ればとても優しい人だ、と、思うほど。
は泣き腫らした目をこすった後、ローナンを見返して言った。
『……分かりました。私、此処でぐずってる場合じゃないです。此処を出て、自分の仕事をやり遂げます。ローナンさん、わざわざ、ありがとうございます。おかげで、目が覚めました』
『うん。君が私の言う事を理解してくれて、何より。……さすが、イルザが妬くはずだ』
は最後、ローナンが小さな声でイルザの名前を出したのを聞き逃さなかった。
『え、何でそこでイルザさんが出てくるんですか? やっぱりローナンさん、中々此処から動かない私にしびれをきらしたイルザさんに言われて、私の所まで来たんですか?』
『いや? 私が此処に来たのは、私の独断だ。いやはや、私もイルザもユーステスによくついてくれているの扱いを改めないとなと思っただけだよ。そこまで気にしなくていい』
『はあ、そうならそこまで気にしませんけど……。でも本当、此処まで来てくれて、ありがとうございます。おかげで、一歩踏み出す決心がつきました』
はローナンのおかげで、ユーステスの眠る部屋からようやく一歩を踏み出せたのだった。
ここから先は、の知らない話。
ローナンはが出て行ったのを確認してから、いまだに目を覚まさない状態のユーステスに向けて、呟くように言った。
『――ここまでお前を心配して、お前のために泣いてくれるような女は、今まで居なかったな。彼女のためにもいいかげん目を覚ませよ、ユーステス』
それからユーステスが眠る部屋を出たが向かった先はグランサイファーではなく、シロウ達の研究艇だった。
そして場面は現在のグランサイファーに戻る。
「あの時にローナンさんが来てくれなかったら、私はいつまでもユーステスの眠る部屋でぐずって身動き取れませんでしたからね。私を動かしてくれたローナンさんに感謝、ですよ」
「へえ。ローナン、やっぱユーステスの親なんだなぁ。おまけに、ユーステスだけじゃなく、ユーステスについてるの扱い、よく分かってるじゃないか」
「……」
のローナンに関する話を聞いて面白そうにユーステスを見るのはシロウで、シロウから視線を外して不服そうな顔をするのはユーステスだった。
ここでマリエはが研究艇まで来て何を開発していたのか知っていて、彼女が開発したものを指折り数える。
「がうちに来たの、ユーステスの目が覚めた時に使えそうなリハビリ器具を開発するためで、そこでのパソコンから敵の情報が送られるゴーグルと、倒れない杖、色んな機能がついた電動車椅子、作ったのよね」
「はい。私、団長さんやイルザさんからユーステスの目が覚めてもしばらく動けないと聞いて、目が覚めた後に役立ちそうなもの、シロウさん達の研究室で開発してたんですよね。私のパソコンから敵の情報を送れる視力代わりになるゴーグルと、持っていても倒れない安全な杖と、その杖を収納できたりリモコンで指示が出せる色んな機能がついた電動車椅子……」
のパソコンから敵の情報を送れるゴーグル、持っていても倒れない安全な杖、色んな機能がついた電動車椅子――その中で一番役に立ったのは。
「その中でユーステスの一番役立ったの、一番簡単に作れた倒れない杖とか……」
はは。は、その中でユーステスの一番役に立ったのが簡単に作れた倒れない杖で、がくりと肩を落とした。
ユーステスはため息を吐いて、にそのわけを明かした。
「敵の情報が送れるゴーグルはゴツくて邪魔臭かったし、俺の場合、足の調子が悪くても車椅子に乗ってるより杖で立ってた方が楽だったからな」
「うう。団長さんやイルザさんから目が覚めてもしばらく寝たきりで身動き取れないからっていうから、電動車椅子の開発、頑張ったのに~」
「お前、エルーンの俺がもとから持ってる回復力とルリアの回復の力、甘く見てただろ。それがあわせればすぐに立てるようになって、電動車椅子は不要だった」
「そうだよね~。ユーステスのエルーンはもとからヒューマンより身体能力高くて私のヒューマンと回復力が違うの計算に入れてなくて、おまけにルリアちゃんにあそこまでの回復の力があるなんて思わなくて、そりゃその力、帝国軍やほかの各国の軍隊も欲しがるわなって、今更になって思い知ったわ……」
はグランの団に世話になって二年あまりの年月が経ったが、ここでようやく、ルリアが色々な所から狙われる理由が分かった気がした。
それでも――。
「でも、敵の情報が送れるゴーグルはイルザについてる兵士達の訓練に使われるようになって、電動車椅子も組織内でルリアの回復の力が使えない怪我した兵士達のために使われるようになったんだろ。それはもう、の手柄じゃないか」
「シロウさん、気遣い、ありがとう。それでイルザさんにめっちゃ褒められたのだけは、今でも自慢できます」
イルザはが開発したもの――、敵の情報が送れるゴツいゴーグルは改良すれば新入りの訓練に役立つし、電動車椅子もユーステスと違ってルリアの回復に頼れない組織の兵士達に使える、いいものを作ったなと、凄く褒めてくれたのだった。
マリエはの話を聞いて、改めてイルザを評価する。
「ふふ、イルザって外部の人間から見れば誰にでも厳しくていつも怒ってるから近付きたくないって思われがちだけど、実際はその実力があればちゃんとそれを認めてくれる良い上司に違いないわね。その証拠にゼタもベアトリクスも、グウィンだってイルザの下について厳しい訓練受けてるけど、そこから離れたくないって思うくらいでしょ?」
「はい。あの組織でイルザさんに厳しい訓練受けてるのはそのイルザさんに認められたいからで、それでそこから離れたくないと思うの分かりますね~。ゼタ達だけじゃなくて、イルザさんについてる兵士さん達もイルザさんに認められたくてついてきてるの、とてもよく分かります」
うんうん。は、マリエのイルザに対する評価に、深くうなずいてみせる。
そしては、テツロウをあやすシロウの方を振り返って、言う。
「私の方も戦う力はなくても、技術部のもの作りで組織に――イルザさんに貢献したいと思うようになってきました。これもみんな、何も力持たない私でも気軽に研究艇の技術を貸してくれた大門博士、それから、シロウさんとマリエさん達のおかげですよ~」
「いや、大門博士はもちろん、俺もマリエさんも、何があってもめげないの明るさと前向きな姿勢に惚れ込んで研究室を貸しているだけだよ。それに、そこまで作り上げたのはもうの能力のうちだし、それで何も力持ってないなんてもう誰も思わないだろ」
「そうですかね。あと、私の場合、孤児院の二番目のお兄ちゃんが研究艇の研究員であったのも良かったと思いますね。二番目のお兄ちゃんと同じ研究室に入って、二番目のお兄ちゃんのアドバイスあって色々作れましたから」
「そうだな。俺もマリエさんも、うちの研究員の一人がの孤児院の二番目の兄貴だとは思わなかったからなあ。人の縁ってのは不思議だよな」
「ですよね」
の孤児院出身の二番目の兄は、シロウの研究艇の研究員の一人であった。
は月での一件でも今回の件でもその二番目の兄を頼って、シロウの研究艇に世話になった次第である。
シロウは身を乗り出し、ニヤニヤして、ユーステスに向けて言った。
「おまけに、その縁があってうちの研究艇のトレーニング施設がユーステスのリハビリに役立ったんだ。ユーステスがうちのトレーニング施設使って短期間で復活したの、のおかげだよな、な?」
「……、まあ、それだけは否定できんな。との二番目の兄のおかげで俺も研究艇に出入りできるようになって、そこのトレーニング施設がリハビリに役立って、三か月あまりで体の調子が戻って来たのは、の功績の一つであるのは認めよう」
ユーステスは、との二番目の兄のおかげでシロウの研究艇にあるトレーニング施設を使う事を許され、それのおかげで回復も早まったのは理解している。
「うちの組織にもトレーニング施設があるにはあるが、シロウ達のような個々の能力を数値化したうえで、それをもとに自分にあったトレーニング法を自動的に考えてくれるシステム、そんなものはなかったからな。機械で自動化された訓練の方が、自主練するより効率は良かった」
「うむ。俺達は人間がもとから持つ力を重視していて、それを数値化して機械で自動管理させて、訓練内容を決めている。それがお前とイルザを中心とした組織の連中と相性良かったんだよな」
「しかし、俺だけじゃなくて、イルザとその兵士達、バザラガもすっかり研究艇のトレーニング施設が気に入って、こもるようになった。あれ、ほっといていいのか」
「まあ、そのトレーニング施設、有料だからな。イルザ達がちゃんと金払ってくれてるぶんは、外部の人間でも自由に使って構わない」
「なるほど。そこはちゃっかりしてるな……」
「うちとしては有料会員が増えるだけ、ありがたい。おまけにが架け橋になって、トレーニング施設だけじゃなく、お互いの技術のノウハウの貸し借りでローナンの組織とも連携するように大型契約もできたからなー。組織のローナンもうちの技術が使えるのはありがたい、これも研究艇との架け橋になってくれたのおかげだって、を称賛してたぜ。良かったなー」
シロウは、が架け橋となってローナンの組織と研究艇の一部の技術の貸し借りで連携できるよう契約できたのは大きいと、それに尽力したを称える。
そして。
「マリエさん、組織の人間がうちのトレーニング施設や技術を利用するようになってから、うちの研究艇、黒字になってるんだろ? いいことづくしじゃないか」
シロウは組織の人間の利用で研究艇が黒字で機嫌が良いだろうと、研究艇の会計を担当しているマリエの方を振り返る。
しかし。
「……そうね。あのトレーニング施設だけではなくて技術料でも、組織のイルザ達が使ってくれて黒字続きで、こちらとしても、ありがたい話だわね」
「だよな!」
「でも、黒字になったぶんだけ博士とシロウさんの無駄な研究費がかさんでいってるのは、どういうわけかしら? 今月、博士とシロウさん関連の請求額だけやたらに増額してるんだけど、どういう事?」
「藪蛇!!」
「鬼ごっこ!」
にっこり。
とても良い笑顔でマリエにそれを指摘されたシロウは、テツロウを連れてそこから逃げる。テツロウの方は「鬼ごっこだー」と、シロウと一緒に部屋を駆け回る。
「全く。でも、で組織と契約できたおかげでうちの研究艇が黒字続きってのは普通にありがたいから、今日はそのお礼も持ってきてたの。はいこれ」
「こ、これは……!」
マリエはに、持ってきた紙袋を差し出した。
はマリエから紙袋を受け取り、その中身を確認し、衝撃を受ける。
マリエはに近付き、ユーステスに聞こえないよう、彼女に小声で耳打ちする。
「どう? 役立ちそう?」
「は、はい。多分、役立つと思います。ありがとうございます」
「それは良かった。私も此処でとユーステスの近況が知れて良かったわ」
マリエはに微笑んだ後。
「シロウさん、テツロウ。そろそろ帰るわよー」
「了解。テツ、帰るって。それじゃあ」
「お姉ちゃん、またねー」
マリエの合図でテツロウと鬼ごっこをしていたシロウは彼女と合流し、研究艇の一家はとユーステスに手を振ってから艇から去っていった。
ユーステスは、がマリエにもらったという紙袋が気になった。
「マリエに何もらったんだ?」
「い、いつものだよ。化粧品とか香水とか!」
「そうか、それは良かったな」
「……(おまけでスケスケのエロい下着とか、その気にさせる大人向けのアイテムとかもらったの、ここでは言わないでおこう)」
はマリエに化粧品と香水だけではなく、エロい下着や大人向けのアイテムをもらった事はこの艇ではなく、ユーステスの家に帰ってから報告しようと思ったのだった――。
それから数日後。
「ふんふんふん~。お、そろそろ芽が出てきたな」
その日のは、ユーステスの畑でロゼッタにもらった花の世話で水やりをしていた。昼に畑を覗いて見れば芽が出ていたので、それだけで心が弾む。
「ロゼッタさんに聞けば、ユグドラシルの種からどんな色の花が咲くかは咲いてのお楽しみって言ってたけど。私は、赤い花が良いかなー」
芽が出ただけでは、色まではまだ分からなかった。
「花が咲いたら植木鉢に移しても良いって聞いてたから、今のうち、倉庫からどんな鉢があうか今から選んでおくかー」
は上機嫌で、植木鉢がある倉庫に向かった。
それがいけなかったのか――。
「きゃあああっ」
高い棚の上にある植木鉢を取ろうとして、脚立から足を踏み外してしまったという。