君と空に花束を(03)

「――全治三週間? そこまでかかるか?」

の場合、普通の回復魔法はもちろん、ルリアの強力な回復魔法でも効きづらいのが仇になったし。痛みは私が処方した薬でなんとかなるものの、足の骨がくっつくのはそれくらいかかるし」

 夜になってユーステスが仕事から帰宅し倉庫でが倒れているのを発見、慌てて家に運ぶも体中が痛いと悲鳴を上げるので、朝になって回復魔法が使えるルリア、そして、医者として活動するティコに来てもらって鎮痛剤を処方してもらい、落ち着いた次第である。

、大丈夫ですか?」

「何とか……。ルリアちゃんの回復魔法とティコの薬のおかげで少し痛みは引いたけど、足の捻挫で動けないってのは致命傷かも~」

 くすん。ティコによって頭や腕、足に包帯を巻かれて寝たきりのを見て心配するルリアと、ルリアの優しさに泣きたくなると。

「ユーステスの次は、か。が足の捻挫で三週間も動けないのは、こちらとしても痛手だな……」

「そうね。で艇の掃除が行き届いていたし、で食堂も上手くいってたからね……」

 団長のグラン、イオもが三週間も動けない事を知って、落胆する。

「ごめんなさい。私がちゃんにユグドラシルのお花の世話を頼んだばっかりに……」

「あわわ、ロゼッタさんとユグドラシルのせいじゃないです。不注意の私が悪かったんですから、そこまで気にしないでください」

 ロゼッタはが怪我をした原因が自分が与えた花の種のせいであると知って、相当に落ち込む。はそのロゼッタに慌てて、そこまで気にしなくていいと懇願する。

「けどよ、ユーステスの兄ちゃんの発見が早かったおかげで、その程度の怪我ですんで良かったんじゃないか?」

「そうだな。ビィ君の言うよう、ユーステスの発見が早くてその程度ですんだと、前向きに考えた方がいい。が一人きりじゃなくて良かった」

 ビィの前向きな考えに賛同するのは、カタリナである。

「しかし、ユーステスはまた寝たきりのを置いて仕事に出かけるんだろ? その間、うちの団で寝たきりのを見てるのか?」

「それだけじゃなく、団長が依頼で艇に不在の間もをどうするか問題が出てくるぞ。今までのよう、預かり先の人間に寝たきりのを預かってもらうわけにはいかんだろ。そのへん、話し合わないといけない」

 うーん。ラカムとオイゲンは、ユーステスとグランが不在の間、身動き取れないを誰が見ているかで考える。

 それに手をあげて言うは、本人である。

「あ、そこ、安心してください。ユーステスと団長さん達に迷惑かけるわけにはいかないの分かってるんで、その間、実家に帰らせて頂きます」

「実家っていうと、孤児院か。ああ、あの孤児院なら、の母親と残っている兄弟達、おまけに星晶獣のアニーも居るから何とかなるか」

「だな。はしばらくの間、実家の孤児院に預かってもらった方がいい。そこなら、も気兼ねなく暮らせるだろ」

 うん。オイゲンとラカムは、の提案をあっさりと受け入れる。ほかの仲間達も実家の孤児院なら安心だと、その意見に落ち着く。

 ここでイオが思いついたよう、言った。

「ねえ、ねえ。がユーステスのためにシロウの研究艇で作った倒れない杖と、電動車椅子。あれ、さっそくの役に立つんじゃないの?」

「おお。イオちゃん、ナイス。自分で作ったものを自分で試せるチャンス!」

 イオの思い付きに、も乗り気だった。

 はグランの方を振り返り、頼み込む。

「団長さん、シェロさんに頼んで、組織の拠点に保管してある私が作った倒れない杖と電動車椅子、うちの孤児院に持ってきてもらえるよう、頼めませんか」

「分かった。シェロカルテにそれ頼んで、組織のイルザ達にも連絡入れておこう」

 グランもの頼みを快く引き受ける。

 そして。

「そうだ、僕達も暇な時はの孤児院に寄っての様子を見に来るよ。も孤児院に居る間、僕達を忘れないでくれよ?」

「ありがとう。私が孤児院に居る間、団長さん達を忘れるわけないじゃないですか~。団長さん達がたまに様子見に来てくれるなら、また元の孤児院生活に戻るのも悪くないですね」

 あははー。はグランなりの軽い冗談をそう返して、その場をやり過ごした。

 はい、はい。グランとのやり取りを聞いていたルリアが手をあげ、張り切って言う。

「その時は私、のお世話やりますよ。困った事があれば、私に何でも言ってくださいね。あ、そうだ、私、の車椅子押してあげます。一度、車椅子を押すのやってみたかったんですよね~」

「あ、ルリアだけずるい。あたしもの車椅子、押してみたかったんだよね。ルリアの次、あたしね!」

「オイラもの車椅子、押してやるぜ。オイラに任せな!」

「待て、ビィ君のその小さな可愛い手で、の車椅子を押せるだろうか。ハッ、私とビィ君が一緒になっての車椅子を押すのも悪くないな!」

 きゃあきゃあ。ルリアとイオ、ビィとカタリナの間での電動車椅子について、盛り上がる。

ちゃんが怪我して動けなくても、私も暇な時は孤児院でお世話できるから、そう心配なさそうで良かったわ~」

 ロゼッタもが動けずともいつもの調子であるのが分かって、安心したように微笑む。

 その中で。

「……」

 ユーステスだけはがはしゃぐ彼らをいつもの笑顔で見詰めているものの、その裏で負の感情を持っている事に気が付いていたが、その場では何も言わなかった。


 それから。

 が足を怪我して動けなくなって孤児院に引きこもっているという話は、団員達の間ですぐに広まった。

 その間、多くの団員達がの様子を見に孤児院までやって来てくれたのだった。

 コルワとメーテラとスーテラ、アリーザとスタン、カリオストロとクラリス、ルナールの『おこたみ』メンバーを中心とするいつもの団の仲間達が入れ替わりでやって来ては、動けないの世話をして帰っていった。

 その間にファスティバとジャミル、ローアイン、エルセム、トモイのいつもの厨房の仲間達も「これ、しばらく動けないちゃんのためにアタシ達の料理を作り置きして袋に詰めてあって、その料理が詰まった袋、氷魔法が得意な子達に冷凍してもらったのよ。食べたい時にそれ解凍して食べてちょうだいね」、「食材さえ用意できれば作れるパフェやケーキのキットもあるッスよ」と、孤児院まで団の料理を袋詰めで冷凍された状態で持ってきてくれたのは、とてもありがたかった。

 の怪我を心配してぞくぞくと団員達が孤児院まで来てくれる中で驚いたのは、サンダルフォンとナタク、メドゥーサとサテュロスが来てくれた事だった。

 サンダルフォンは「最初は自分一人がのために孤児院で出張コーヒー喫茶店をやろうと思ったら、いつの間にかメドゥーサ達がついてきた」と、笑いながら話した。

 メドゥーサによれば「ふ、ふん、ヘマして足挫いて動けないアンタの世話、サンダルフォン一人じゃできないでしょ」と顔を真っ赤にして言うも、ナタクに「孤児院に残っている兄弟達と星晶獣のアニーを見ればそこはサンダルフォン一人で何とかなったんじゃないか?」と、言われる始末であった。

 その中でサテュロスは「へえ。君達、無力のと違って魔法が得意なんだー。それならお姉ちゃんがお歌、歌ってあげよっかー。あたしとメドゥちゃんの歌で君達の魔法のレベル、上がるかもよ」と、魔法が得意の幼い兄弟達を気に入り、彼らのためにメドゥーサとナタクを引き連れて、簡易的なライブを孤児院で開催してくれた事に、感動してしまった。

 更にサンダルフォンの出張コーヒー喫茶店はだけではなく孤児院の母親とアニー、兄弟達にも好評で、また来て欲しいという約束を取り付けて、彼らは満足そうに帰っていった。

 そして団長のグラン達も約束通りに「調子どう?」と、暇な合間に様子を見に何回か通ってくれて、彼らが居る間は、孤児院での引きこもり生活も怪我を忘れるくらい楽しかった。

 彼らが来てくれる間は足の怪我を忘れるほど楽しかった、けれどもその中で――。

「……(ユーステス、いつ、来てくれるのかなぁ)」

 その中で肝心のユーステスだけは、一週間が過ぎても、二週間が過ぎても、いつまで経っても孤児院に来てくれなかった。

 それから、彼らが帰って夜になって一人になると、力を持つ人間達の中で力を持たない自分が嫌になって、「団の皆は自分が居ないのをせいせいして、のびのびしてるかも」、「組織のイルザさん達だって無力な私の面倒見る必要ないから、拠点でも団でも自由にやってるよね」と、嫌な事ばかりを考えて、伏せてしまう。

 こんな根暗な自分、組織の仲間達や団の仲間達は見た事ないだろうとは思う。

 唯一、自分の根暗な性格を分かっているのは、一緒に暮らしているユーステスくらいか。

 確かあれはユーステスの見習いとして彼の家に世話になった当初の話で、こんな昼間にユーステスが仕事から帰って来ないと思ってカーテンを閉め切って部屋を真っ暗にして、毛布をかぶり、余計な事を考えて時間を過ごしていた時だった。

『何やってんだ、お前』
『!』

 突然にユーステスが現れて、呆れた声で毛布をはがされてしまった。

『カーテン、開けるぞ』

 ユーステスはカーテンを開け、部屋に明るさが戻った。

 それからユーステスはいまだにベッドから離れないを見て、呆れた様子で言った。

『お前、俺が居ない間、いつもそんな調子だったのか?』

『ひ、一人で居ると武器も魔法も使えない無力な自分がこの世界に居ていいのかとか、余計な事を考えちゃってそれで……』

 ユーステスに睨まれたは、自分の根暗な部分を打ち明けるしかなかった。

 そのを見てユーステスは目を見開き、一瞬驚いたような顔をしたが――。

『コーヒー、飲むか』

『飲む、けど……』

『そうか。それじゃ、お前の分も用意しよう』

『……』

 ユーステスは言った通りにのぶんのコーヒーを注ぎ、彼女のもとへ持っていく。

 それを見たは。

『……ねえ、昼間に部屋真っ暗にしてぶつぶつ言ってた私の事、嫌にならない?』

『お前、俺が居る間は普通に出来るか』

『う、うん。ユーステスが居る間は余計な事を考える暇ないから、大丈夫だと思う』

『そうか。それなら、お前が俺の前で負の感情を見せなければ、別に今まで通りでいい。お前が俺の前でも普通に出来なくなったら、危ない。それが分かった時はお前を見放すかもしれんが、そうならない以上は組織の契約上、俺がお前を見放す事はない』

『え、組織の契約上? 私との関係、組織との契約があるから見放さないってだけ?』

『ああ。お前は俺と組織で俺の見習いとして契約している間柄だからな、それ以上の関係はない。俺は、組織が俺にお前を連れていけといえばその判断に従って連れていくし、組織がお前を切れと判断すれば俺はそれに従ってお前を切り離す。それだけだ』

『そ、そう、組織の契約上の関係で私を切れないってだけかー……』

『何だ? 何か不満でも? それに関して何か不満あるなら組織の幹部――イルザかハイゼンベルクに物申したらどうだ。お前にそれができるかどうか、分からんが』

『意地悪~、私がそれできないの分かって言ってるよね。でも、コーヒー、ありがとう。飲んだら少し落ち着いたよ』

『そうか、それなら良かった』

『……うん。ありがとう』

 はその時、何も言わずにコーヒーをくれたユーステスにどれだけ救われたか、彼は知らないだろうと思った。

 それからユーステスは見た目と違って優しい人であるというのも、この時、分かった気がした。

 その後にユーステスは落ち着いた様子でコーヒー片手に本を読み、も自分でやるべき事――星晶獣の勉強を続けた。

 ユーステスと二人、静かで落ち着いた空間は、も居心地が良かった。

 それからはユーステスの暮らしの中、そして、グランサイファーを紹介されてからは、そういう余計な事はあまり考えないようになった。

 でも。

 孤児院で一人で居ると、つい、昔のよう、余計な事を考えて落ち込んでしまう。

 その中で、ユーステスに会いたいと思った。

 中々来てくれないユーステスに近況を手持ちのパソコンのメールで聞けば『仕事で忙しい』と、素っ気ない返事がくるだけ。

 孤児院に来てくれる団の団員達にもユーステスはどうしているか聞けば、彼らは少し遠慮がちに『組織やギルドの傭兵で忙しくやってるみたい』と、無難な返事がくるだけだった。

「こうなるの分かってたから、ルナールに描いてもらったユーステスの肖像画、持ってきて良かったー」

 は月での一件のさい、ユーステスと離れている間でも寂しくないよう、ルナールに頼んでユーステスの肖像画を描いてもらった。

 離れている間でもユーステスの肖像画を見るだけでも落ち着いて、余計な事を考えずにすんで、気持ちも楽になる。何も詮索せずに、ユーステスの肖像画を描いてくれたルナールに感謝。

 ユーステスの肖像画で落ち着いてから、窓辺に視線を送る。

「そうだ、花に水やらなくちゃ」

 窓辺に置いてあるのはユーステスの畑から移植した、ロゼッタにもらった花を植えてある、植木鉢だった。

 はロゼッタの花の世話のおかげで、自分が動けない事と、ユーステスに対する不満は少し解消されたような気がした。

 「お花のお世話やってれば、ちゃんの気が紛れるかも~」、そう言ってロゼッタから花の種を受け取ったのは、ユーステスが大怪我で昏睡状態で目が覚めない間、心配して何も手がつけられない頃の話だった。

 実際はユーステスが完全に回復してから花の種を植えたが、ここにきて、花の世話が役立つとは思わなかった。

 水やりを終えてから、植木鉢を見詰める。

「頑張ったかいあって、明日にでも花が咲きそう。足の怪我が治る頃には花が満開になって、ロゼッタさんとユグドラシルに披露できるかも」

 は、ユーステスの畑で植えた時は芽が出ただけだったが、足の怪我で孤児院に引きこもって二週間過ぎた頃、ようやく蕾(ツボミ)が膨らんだ状態になって、これはもう、明日にでも花が咲きそうな予感がした。

「しかも、花の色、私の予想通りに赤い色だったとは。赤い花が咲くの、楽しみだな~」

 蕾の中身は見事なまでに赤色で、赤い色が好きなは花が咲くのが楽しみだった。

「……この花、ユーステスにも見てもらいたいなぁ」

 はぁ。花を見ても思うのは、ユーステスの事ばかりだった。

 は中々孤児院に来てくれないユーステスを恨めしく思うと同時に、絵のユーステスを見詰める。

 ユーステスに会いたいと思うも、足が痛くて思うように動けない。

 一人きりの時は母親かお手伝いのアニーに自分の世話を頼まなければいけないが、何も出来ない自分は二人に頼むのは気が引けた。

「やっぱり、駄目だなぁ……。ユーステスが居ないと何もできないし、つまんない……。あと、ユーステスのエルーンの耳、当分触ってないなあ。あのモフモフ感、アンナに作ってもらった犬のぬいぐるみだけじゃ満足できないよー」

 うう。はルナールの肖像画だけではなく、クリスマスの時に団員でぬいぐるみ作りが得意のアンナに作ってもらったユーステスに似た犬のぬいぐるみも持ってきていてそれを抱き締めるも、やはり、その感触は本物に敵わないと思った。

 せめて、夢の中でユーステスに会いたい。

 はぁー。はティコの薬を飲んだ後にルナールに描いてもらったユーステスの絵を胸にしまって、アンナの犬のぬいぐるみを抱き締めて、眠りについた。


「――

「……」

、起きろ」

「……は、え、ユーステス?」

 目を開ければそこには待望のユーステスの姿が!

「え、夢の中で私のユーステスに会いたいっていう夢が叶った? やったー、これ、ルナールの絵と、アンナのぬいぐるみ効果?」

 わあ。は両手をあげて、ユーステスに遠慮なく抱き着く。

 しかし。

「これは夢じゃない、現実だ」

「え」

「医者のティコから二週間過ぎたので、お前はもう鎮痛剤が効いていれば自力で立てるくらいまでには回復していると聞いた。昨夜、薬飲んで寝たか。それなら一回、立ってみろ」

「え、ええと、昨夜は確かに薬飲んで寝たけど、え、今、何時? 朝? 夜中?」

 は目の前にユーステスが突っ立っている現実がよく分からず、混乱状態だった。

「今は朝がたで、何回か言うがこれは現実だ。とりあえず、一回、ベッドから出て立ってみろ」

「わ、分かった。待って」

「手」

「え」

「手、貸せ。俺の補助があった方が、立てるだろ」

「う、うん、ありがとう」

 はユーステスの手を取り、恐る恐る、その一歩を踏み出す。

「……、あ、ほんとだ、ちゃんと自力で立てた」

 今まで母親かお手伝いのアニーの手を使わなければ起き上がれなかったが、今朝になってようやく自力で立てた。

「今まで起きるのにお母さんかアニーさんに手伝ってもらってたから、これだけでも嬉しい」

「ティコの見立てだとお前の足が完全完治するにはまだ一週間くらいかかるらしいが、自力で立てるようになったのは良かった」

「でも急にどうしたの。今まで、仕事とかって言って来てくれなかったのに」

「ああ、俺は、いつものよう、お前を迎えに来たんだ」

「え」

「お前の母親とお手伝いのアニーにはもう伝えてある。俺の家に帰るぞ。さっさと荷物まとめて、部屋から出る準備しろ」

「ええー」

 はユーステスの突然の行動に、再びベッドに転げ落ちたのだった。


「もー、私の足の怪我がある程度よくなったら迎えに来るつもりだったって、ちゃんとほかの団員達に伝えておいてよ!!」

「いや。俺としてはそれちゃんとほかの団員達に伝えていたし、にもそれ伝わってると思ったんだが。あいつら、アテにならんな……」

 はユーステスに言われるままに荷物をまとめて、身支度を整えて部屋を出た後、母親とお手伝いのアニー、幼い兄弟達に別れを告げてユーステスと一緒に孤児院を後にしたのだった。

「私、足の怪我で孤児院にこもっている間、ユーステスが中々来てくれないから、とうとう、見放されたと思っちゃった」

「俺がを見放すわけないだろ。俺がお前を見習いとして契約している間は、お前を切れないってだけだ」

「はいはい。私がユーステスの見習いとして契約している間は、ユーステスは私を見放さないよね。分かってるってー」

「……」

 ユーステスのいつもの言い分にくすくす笑うと、それに不服そうではあるが反論しないユーステスと。

 それからは後ろを振り返って、言う。

「私、色んな団員達に車椅子押してもらってたけど、その中でユーステスに車椅子押してもらうの、夢だったんだー。最後でそれ叶ったの嬉しいかも」

「……、俺がお前の車椅子を押すのは、お前が立てない間だけだからな。ちゃんと立てるようになったら、自分で歩けよ」

「うん。それも分かってるよ。それでも、足の怪我が完全に治ってないのに――、自力で立てるようになったっていうだけで迎えに来てくれたのは嬉しかった。ありがとう」

「……」

 自力で立てるようになったとはいえ、移動するにはまだ車椅子が必要だった。

 はユーステスに車椅子を押してもらえて上機嫌だったが、押す側のユーステスはそれを言うのを忘れなかったが今のの言葉で少し考える事があった。

 それからは、ロゼッタにもらった花をユーステスに見せた。

「あと、見てよこれ、ロゼッタさんにもらった花、ユーステスが来てくれた今日になって、花が咲いてたんだよ」

「お。あの花、咲いたのか。見事な赤色だ。よくやったな」

「えへへ。今日、艇に帰ったらこの赤い花、ロゼッタさんとユグドラシルに披露するよ。その時が楽しみだな~」

 は、ユーステスに自分の手で赤い花を咲かせたのを見てもらってそれを褒められたのが、一番嬉しかった。