空はどこまでも果てしなく続いて、の物語もまだ続いている。
はユーステスと組織を出てから、ユーステスが外で拠点としている小さな家に住み着いて一緒に暮らし始めた。
は「ユーステスさんの見習いとしてユーステスさんの仕事に同行したい」と懇願するも、ユーステスからは「武器も魔法も使えないお前が俺に同行するのは危険だ。大人しくそこに居ろ」と言って、を家に置いてさっさと一人で仕事に出かける始末だった。
一人家に残されたは面白くなく、しかもユーステスが組織の仕事から帰ってくるのは気まぐれで、一日二日空けるのは良い方で、長引くと一週間以上は家を空ける事があって、その間、彼女は退屈で彼と一緒になれたはいいがこれで良いのかと、ウツ的な日々を過ごしていた。
そんなに転機が訪れたのはつい数日前で、それをゼタ達に報告するべきかどうか迷っていた矢先の出来事だった。
「、居る?」
「元気にしてたかー?」
「お邪魔します!」
「ゼタ、ベアトリクス、グウィン!」
がユーステスも不在で退屈していると訪問者があり、現れたのはゼタとベアトリクスとグウィンのお馴染みの三人だった。
「どうしたの?」
「いや、近くまで来たからどうしてるのかと思って」
「がユーステスと組織を出て行って、あれから一月以上は経ったからな。イルザ教官からもがどうしているか様子を見て来てくれって言われて、それで」
「ユーステスさんは? あー、やっぱり仕事で留守か……。ゼタ先輩達の予想通りだったな」
ゼタとベアトリクスとグウィンの三人はに構わず、ずかずかとユーステスが不在の家に上がり込む。
それから三人は、戸惑うに構わず家の様子を見て回る。
「へえ、意外と物あるんだね。ユーステスって組織の部屋では何も無くてがそれについていけるかどうかってイルザさんが心配してたけど、この部屋見ればその心配もなさそうだな」
「あ、このカップとかの趣味じゃないか? このお皿もそうだね。このへんの小物もユーステスだったらこんなの持たないって思ったんだけど。何、あいつ、意外との趣味通してくれてんだね」
「私もゼタ先輩達もがユーステスさんにまた冷たくされてるんじゃないかとかそれ心配してたんだけど、家の様子見ればけっこう上手くやってるみたいだね?」
組織の拠点でのユーステスの部屋は自分の必要なもの以外は何も置いていないと聞いていたゼタは、部屋の中には意外と物が多くて女向けの小物も揃っていて驚いている。
家の中に置かれているお皿やカップ、小物類は全部の趣味で統一されてこの家についた時に買い足したものであると聞いてベアトリクスはそれに感心を寄せ、グウィンもの意見が採用されていると分かり安心した様子だった。
「まあ、実を言えばイルザさんの言う通りでユーステスは物に無頓着だったみたいで、此処に来た当初は自分のもの以外何も無くてさ。私が言わなければお客さん用のカップもお皿も全然無かったんだよねー。それ私がユーステスに指摘したら彼に好きに買って良いって言われて、それで色々揃えた結果がこれだよ」
ははは。は当時の家に何も無かった状態の様子を指で髪をいじりながら笑って話すが、ゼタ達は「ある事」に気が付いて三人顔を見合わせる。
そして。
「ねえ、とユーステスってさ」「あ、やっぱベアもそう思った?」「……私でもそれ分かりますよ。それでどうするんッスか?」「ここはゼタがそれ聞くべきじゃない?」「え、あ、あたしがそれ聞くのかよ。ここは一番下のグウィンの出番だろ」「えええ、こういう時に先輩風吹かせないでくださいよ。ここはゼタ先輩の出番でしょう」。
ひそひそ。ベアトリクスとゼタとグウィンの三人は小声で話し合った結果、ゼタが代表で出るという事で落ち着いた。
「何、どうしたの?」
「あー、皆を代表してあたしがに聞くけど。でもこれに聞いていいかわかんないけど、聞いた方がスッキリするよな」
「?」
こほん。ゼタは咳払いを一つして、に聞いた。それは。
「、ユーステスとその、シたのか?」
「え、シたって、何を?」
「皆まで言わせるなよ! ええとその、ほら、男女が一つの軒下に一緒に居るとその、ええと、ほらあれだよあれ、何だっけかな、ええと」
「いやだからゼタが何を言いたいのかよく分からないんだけど……」
顔を真っ赤にしてに聞きたい事が言えないゼタと、ゼタが何を言いたいのか分からないと。
「ああもう、じれったいっスね! こういう時、ゼタ先輩が使えないとは思わなかったですよ!」
「グウィン」
ゼタがしどろもどろで何を言っているのか分からない中、とうとう、それにしびれをきらしたグウィンが立ち上がり、そして。
「ゼタ先輩達はは、ユーステスさんとエッチしたのかどうかって、聞きたかったんだよ!」
「!!!」
大きな声でそれを言っておいてゼタと同じように顔が真っ赤になるグウィンと、皆が何を聞きたかったのか分かって顔を真っ赤にすると。
「え、え、な、何で私がユーステスと、その、え、エッチな事したって」
「がユーステスについて話してる時に今までにない甘ったるい雰囲気だったし、それに、今までユーステスさんだったのに、ユーステスになってるじゃんか!」
ユーステスとの事を聞かれて慌てるにそうズバリと指摘するのは、ベアトリクスだった。
それからベアトリクスはに近付き、追求する。
「で、どうなの? は実際、あいつとどこまでいったの? この雰囲気だとちゅーの一つはすませてるんだよね、まさか、最後までいってるわけ? うわー、に先を越されるとは思わなかったわ。イルザ教官ものこれ聞けばショックで寝込みそうだし、バザラガもあたりかまわず大鎌振り回しそう、危険!」
「いやいや、私はユーステスとその、エッチな事は多分、してない。キスだってまだしてないし……」
「えー、それ本当? 私達に遠慮して嘘吐くなよー」
「嘘じゃないって。私とユーステスはまだ『契約上』の関係でしかないし……」
「契約上だけの関係? それってイルザ教官のはユーステスの見習いとしてついていけってやつ?」
「そうそれ。私はあくまでもユーステスの見習いで、ユーステスは私の指導者ってだけの関係で、今もそれは変わらない」
「何それ。まだそんなの気にしてるわけ? はこうやってあのユーステスの家に上がり込めてるんだから、それで男女の関係になっておかしくないじゃんか。もユーステスとそうなるの、夢見てたんじゃなかったのかよ」
「そうなんだけど。私が勇気出して誘ってもユーステスに言わせれば見習いのうちはまだ早い、まだゼタ達と同じようにしか見れないって言われちゃって……」
「何だそれ。はそれで納得してるんかよ?」
「納得するしかないっていうか、こればかりは時間が解決するとしか……。まあ、組織を出てからも余所余所しかった時と違ってゼタ達と同じように見られるようになったぶんは進歩してるんじゃないかな」
ふぅ。は一息ついて、ソファにもたれる。
ゼタ達はそのに何と声をかけて良いのか分からなかった。
そして。
「あ、そうだ、今までユーステスとあった事をベアトリクス達に話そうかどうか、迷ってたんだ」
「何? 何で私達にそれ話すの迷ってたの?」
「いや、皆は暇してる私と違って仕事で忙しそうだと思って……。でも、今日、此処に来てくれて良かった。やっとユーステスの事、話せるわ。けっこう時間かかるから、お茶とお菓子の追加持ってくるよ」
は一息ついて席を立つと、隣のキッチンに向かって慣れた手つきで新しいお茶とお菓子を用意して、それを皆の前に持ってきた。
それからはゼタ達に、ユーステスと一緒に暮らし始めても自分を置いて仕事で家を空ける事が多く、一日二日家を空けるのはまだいい方で、酷い時は半月以上も家を空ける事があって、更には出ていく時間も帰ってくる時間も分からない不安な状態が続いてさすがにそれには切れそうになった事を打ち明けた。
「ああ、まあ、あいつは組織の中でも一番の売れっ子だからなぁ。あいつも組織から命令が入ればそれに反発する事がなくて従うだけだろうしな、それにを気にする余裕はないか」
「でも、もそれ分かっててユーステスについていったんだろ。それくらいで切れてたら、ユーステスの相手は務まらないぞー」
「ベア先輩って意外と、ゼタ先輩より厳しいっスよね……」
の話を聞いてゼタは彼女に同情するも、ベアトリクスはそれについては同情せずに厳しい方で、グウィンは見た目だけで判断すればゼタよりもベアトリクスの方が厳しいと分かって苦笑する。
「うん、まあ、ベアトリクスの言う通りで、それくらいで切れてたらユーステスの相手は務まらない。私もそれ頭では分かってたんだけど、現実はそう上手くいかなくて、私が我慢の限界がきてとうとうこの家を飛び出した事があってね」
「おー。もやるじゃん。それで、あいつどうしたんだよ。を追いかけてきてくれたんか?」
の思ってもない行動にベアトリクスも食いつき、ゼタとグウィンも息を飲んでの次の話を待っている。
は悲しそうな顔をして、ベアトリクスに結論だけを先に言った。
「いや。ユーステスは私を追いかけてきてはくれなかったよ。私は家を出ても行くあてなくてその日は一日、野宿しただけで終わった」
「うへ、マジかよ。あいつ、そこまで駄目な奴だったんか」
「……イルザさんがそれ知ったら、ユーステスはイルザさんの部下達にボコボコにされるなきっと」
の結論を聞いたベアはそうくるとは思わずにを追いかけなかったユーステスに不快感を抱き、ゼタは苦笑するだけで終わる。
「それでは、どうしたんだ? それでどうしてまだこの家に居るんだよ」
グウィンは身を乗り出して、にそれを問い質す。
はその時の様子を思い出したのか、くすくす笑ってグウィンに話している。
「それね。ユーステスってば、私が家を出てから一日ずっと家に居てくれたってのが分かったから」
「は? ユーステスさん、を追いかけないで一日ずっと家に居たのか?」
「そうそう。ユーステスは私が家を出たきり帰らないのが分かってからは仕事にも行く気なくて、家で一日呆然としてたって。私の方は一日野宿してる間にベアトリクスみたいに、これじゃあユーステスの相手に務まらないよなって思い直して冷静になれたからそれはそれで良かったのかもしれない。それで私が野宿からこの家に戻ってきたらユーステスは、何も言わずに私を抱き締めてくれた。私はそれだけでこの家に戻ってきて良かったと思ったし、怒らないで何も言わずに私を抱き締めてくれたユーステス格好良いって改めて彼に惚れ直しちゃった」
「……」
グウィンはの話を静かに聞いてくれている。それはゼタとベアトリクスも同じだった。
続ける。
「それから私とユーステスの間で色々話し合って、ユーステスの方はこれからはもう黙って仕事に出ていかない、帰る時も連絡するって約束してくれてね。私の方もユーステスに我慢してないで言いたい事があったら言うってそういう事で落ち着いた」
「……へえ。普通は出て行った彼女を追いかけるもんだけど、ユーステスさんみたいに彼女が冷静になって戻ってくるのを待ってた方が良かった時もあるんだね」
の話を聞いたグウィンは、ユーステスのやり方に感心を寄せる。
そのあとはゼタの方を向いて言った。
「ゼタ、イルザさんはこの件、知ってると思う」
「え、何で?」
「ユーステスが私を追いかけなかったのは、通信機でイルザさんとバザラガにそれ相談したからだって、そのあと、打ち明けてくれたの。ユーステスはその時、イルザさんにこってりしぼられたみたいで、しばらくの間、私がイルザさんの名前出すだけで怯えてたなあ。バザラガは私が居ない間、落ち着かないユーステスの相手してくれてたんだって」
「何だ。何も知らなかったのは、あたし達だけってか。イルザさんはまだしも、バザラガもそれ黙ってたなんてタチ悪くないか?」
「多分、バザラガはゼタに余計な心配をかけたくなかったんじゃないかな。あ、そうか、今回、ゼタ達を此処に向かわせたのもイルザさんとバザラガの仕業なら、ゼタ達も私からその話を聞いてこいって意味もあったんじゃない?」
「……なるほど。そういう意味なら納得だし、これには参ったね」
ははは。ゼタはイルザとバザラガの仕業を知って、笑うしかない。
それからゼタは改めてと向き合う。
「は、なんだかんだでユーステスと上手くやってるみたいだね?」
「うん。ゼタ達が心配するような目にはあってないから、安心して」
「それでは、この家で何やってんの? 話し合いでそう決めてるとはいえユーステスが居ない間、退屈じゃないのか?」
「それもユーステスと話し合いで決めた事なんだけどね。ユーステスの見習いでも何もする事がなくて暇だって愚痴ったら、ユーステスから提案があって。ユーステスが仕事で出かけている間、彼が調査で持ち帰ったわけの分からない機械を洗浄したり、欠損部分があったらそれの報告、それから、武器庫の在庫の管理もしてくれって言われてるから、意外とやる事が多いんだよね」
「へえ。あいつ、を見習いとしてちゃんと使ってやってるのか」
「うん。私がユーステスと『契約』している間は、ユーステスは私を見習いとして使ってくれると思うよ」
はそれから、棚にある教科書を指さし言った。
「それから、それ以外の時間は組織に認められるよう、前に試験の時にグウィンに習った星晶獣や事務員に関する勉強も続けてるの。ユーステスによればそれも頑張ればイルザさんの下で正式に働けるかもしれないって言われたから」
「ひひ、の事だ、それ以外の目的もあるんだろ?」
「うん。イルザさんの所で正式に採用されれば、ユーステスの保護者だっていうローナンさんにも会えると思ったから、それまで頑張るつもり」
「おー、ローナンに会えるまで頑張れよ。あたしも影ながらを応援してるからな」
「私もゼタと同じく、だからな」
「私も暇な時はまたの勉強見てあげるよ」
「ありがとう」
は、ゼタだけではなくベアトリクスとグゥインにも応援されているのが分かって、嬉しそうだった。
そして。
「それからね。今日はユーステス、この夜に帰ってくるってあったよ。それでこれから夕飯作るんだけど、皆も一緒にどう?」
に言われてゼタはベアトリクスとグウィンの二人と顔を見合わせ、そして。
「「「ご馳走になります」」」
満場一致でそれが可決されたのだった。
それからゼタ達はの夕飯作りを手伝い、ユーステスが帰ってくるまでの間、ソファでと色んな話をして、久し振りに楽しいひとときを過ごした。
そしてついに。
「帰ってきた!」
夜になって約束通り、ユーステスがどこからか帰ってきた。
は音だけでユーステスが帰ってきたと分かればゼタ達が止める間もなくソファから立ち上がると、玄関まで彼を出迎えに行った。ゼタ達も慌ててそこから立ち上がり、を追いかける。
そして――。
「ただいま」
「お帰り!」
「いい子にしてたか?」
「してた、してた。だから、いつもの!」
「はいはい」
ユーステスはの要求に応じるよう、自然と手を伸ばしてそれを彼女の腰に回し、軽く抱き締める。
自然としばらく抱き合う。
そしてを追いかけたはいいがその先で見たもののせいで固まるのは、ゼタとベアトリクスとグウィンの三人である。
ユーステスはを抱いたままの状態で、固まったままの三人を見据える。
「何だ、家の中が騒がしいと思えばゼタ達だったか」
「ゼタ達は、イルザさんに私の様子を見て来てくれって言われて来たんだって」
「そうか。俺はイルザからそんな話は聞いていなかった。あいつも人が悪い」
「あれ、今回の仕事、イルザさんと一緒だったの?」
「ああ。おかげで早いうちに制圧できて、任務を終わらせる事ができた」
「そう。それじゃあイルザさんにも感謝しないといけないね。あ、ご飯できてるよ。食べるでしょ?」
「食べる。だがその前にシャワー浴びてくる」
ここでようやくユーステスは、を解放した。
と。
「お前ら、いつまでそこに突っ立ってるんだ」
ゼタとベアトリクスとグウィンの三人は、ユーステスとの行動を目にして固まりしばらく身動きが取れなかったが、しかし。
「ちょっと! 何これ、の言ってる事とその行動がかみ合ってないんだけど! どういう事か説明してもらいましょうか!」
「これには私も一言言いたい気分だわ。え、何、それでアンタ達、ちゅーの一つもしてないわけ? 嘘でしょ?」
「これは私も予想外だったなぁ」
に詰め寄るのはゼタとベアトリクスで、グウィンだけは呆れて突っ立っているだけだった。
それから。
ユーステスがシャワーを浴びて戻ってきてから、五人はようやく少し遅い食事を始めた。
夕飯はカレーとそれにあうパン、サラダ、という簡単な内容だった。
ユーステスの前にだけは彼の好きなお酒が注がれ、それにあうようなおつまみも用意してあった。
食卓にて、いわく。
「いやー。家出した時にユーステスに抱き締められてから、抱き癖がついちゃって。ユーステスに抱き着かれると安心するっていうか、落ち着くっていうか、今までの不安が取り除かれるからそれで、ねえ?」
ユーステスいわく。
「俺も最初は断ったが、がしてくれないとまた家出するとか駄々をこねるし、それでイルザ達の所に逃げられたら色々面倒臭いから、仕方なく、だ」
は照れ臭そうに、ユーステスは仕方なさそうに、それぞれ帰ってきた時に抱き着いている理由をゼタ達に説明した。
ところで。
「って何でゼタ達、そんなにガツガツと早く食べてるの? もう少しゆっくり落ち着いて食べたら? ……もしかして私の味、口にあわなかったとか?」
「いや、の味付けは悪くない。むしろこれで組織の料理人として採用できるんじゃないかってレベルだと思う」
「私もゼタと同じ意見での味付けは、美味しいと思う」
「私も同じく、これには何も文句ない」
そう言いながらもゼタとベアトリクスとグウィンの三人の食べる手は早く、メインのカレーとサラダの皿はすっかりカラになり、後はパンだけが残った状態である。
因みにはまだカレーとパンの半分を食べ終わった所で、ユーステスは酒を味わっている最中で料理には手をつけていなかった。
「それならどうして皆はそこまで早く食べてるの? もしかしてよっぽどお腹空いてた? カレーかパンのおかわりできるけどどう?」
「いや、おかわりは必要ない。ご馳走様! 食べ終わったからあたし、もう帰るわ。お邪魔しました!」
「私もご馳走様! とユーステスが上手くいってるの見て満足したから、私も帰るよ、じゃあな!」
「私ももういいかな、ご馳走様。、何か困った事があればまた組織を頼っていいから。それじゃあね!」
ゼタとベアトリクスとグウィンの三人はそう言い残して、さっさととユーステスの家を出て行ってしまった。
見送る間も与えずに三人が急に出て行ったのを見ては、呆然となる。
「食べ終わったら三人の見送りしたかったのに。いったい、何だったんだろう」
「さあな。俺が帰るまでに三人と何かあったのか?」
「別に何も? 今まで仲良く話してただけ。夕飯のカレーも手伝ってもらったし」
「そうか。がそう言うなら、あいつらは気にする必要はないと思うが」
「まあ、ゼタ達は残さず綺麗に食べてくれてるからね。ユーステスの言うよう、それについては別に気にする必要ないか」
ゼタ達は早く食べて早く出て行ったが、作ったぶんは残さず綺麗に食べてくれていたのでそこは気にする必要はないかと、もそれで落ち着いた。
そして。
「ねえ、ゼタ達が居る間は我慢してたけど、今なら良いよね。ユーステス、エルーンの耳、触らせてよ」
「ん。俺もまた抱きたい」
「ユーステスなら、私の事はいつでも好きにして良いよ。やっぱユーステスのエルーンの耳、触り心地良いね」
「俺もゼタ達の手前、お前を抱くのを我慢してたからな……」
はユーステスのエルーンの耳を触って、ユーステスはもう一度の腰に手を回すとそのまま彼女を抱き締めて、お互い、そのぬくもりを堪能した。
一方、とユーステスの家を早々に出て行ったゼタとベアトリクスとグウィンの三人は、やっと一息ついていた。
「うわー、何あれ。まさか、あのユーステスがあそこまでにベタベタしてるとは思わないだろ普通!」
「あいつら、私達の前でも私達を気にせず熱く見詰めあってたからなー、目のやり場に困るってかさー、こっちが気ぃ使うわ!」
「早めに出て行って正解でしたね……。多分、私達が出て行った途端、二人でまた抱き合ってるんじゃないですかねー」
ゼタ達が早めにの家を出たのは、とユーステスがゼタ達も気にせずイチャ
イチャし始めたせいだった。
「あー、あの二人見てたらなんか、あたしもどっかであったまりたくなったなぁ」
「お、ゼタも人が恋しくなったか。実は、私もなんだ」
「今夜は、冷えますからねえ」
ゼタの話を聞いてうなずくのはベアトリクスで、グウィンは肩を震わせながら白い息を吐きだす。
ここでベアトリクスが手をあげ、提案する。
「なあ、今から拠点に戻ってイルザ教官の所でも突撃しにいくか?」
「え、イルザさん、今日はユーステスと組んで仕事だったんだろ。そうなら仕事終わりにどこかで飲んでるんじゃないのか」
ベアトリクスの提案を聞いてゼタは、不思議そうに首を傾げる。
ベアトリクスは肩を竦めてゼタに言う。
「イルザ教官、最近、ユーステスの付き合いが悪いらしくて拠点で一人で寂しく飲んでるらしいぞ。それに付き合わされた被害者が何人か居るとか……」
「あ、それ、私も聞いてますね。イルザ教官が飲みにいってると思ってほかの兵士が拠点で伸び伸びしてる所にイルザ教官が不機嫌な顔で帰ってきて、それの愚痴に一晩付き合う羽目になって、自分にも良い男紹介しろって面倒くさい絡み方されて、普段の訓練以上に疲れたとか何とか……」
「あー。多分、ユーステスが付き合い悪いの、の所に真っ直ぐ帰ってるせいだろうな。は今夜の夕食の時、ユーステスのためだけに酒の用意してたからな」
ベアトリクスとグウィンからそれぞれイルザの被害を聞いたゼタは、が「ふんふん~♪」と鼻歌を歌いながら浮かれ気分でユーステスのためにお酒とそれにあうツマミの用意をしていた光景を思い出し、苦笑する。
ゼタは決断する。
「拠点にイルザさん居るなら、イルザさんに会いにいくかー」
「良いんっスか? イルザ教官の所に戻ればユーステスさんに対する愚痴聞く羽目になりますけど」
グウィンは最初、ゼタに心配そうにそう聞いた。
ゼタはニヤリと笑って、グウィンに言う。
「何、あたし達もユーステス、それから、ユーステス以上にに色々言いたい事があるからな。イルザさんもあたし達でそれの発散ができるし、丁度良いんじゃないか」
「うん。私もゼタに賛成だな。特にについて話すのに、イルザ教官以上の相手は居ないさ。グウィンはどうする?」
「もちろん、私も先輩達に同席しますよ。私もに言いたい事がたくさんありますからね」
ゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人は顔を見合わせた後に笑って、イルザに会うために拠点に急いだ。
ゼタ達がイルザが居るだろう組織の拠点まで向かった頃、はユーステスと夕飯を食べ終わってひといきついた頃だった。
夜、と二人で過ごしている静かな時間が一番落ち着く。ユーステスは本でも読むかと、そばにある本に手を伸ばした時。
「くしゅんっ」
がくしゃみを一つ。
「どうした、寒いのか? 毛布いるか?」
「大丈夫」
ユーステスがを気遣い声をかけるも、はユーステスに心配いらないとティッシュを取って鼻をかむだけで終わった。
「誰か私について話してるとかかな?」
「誰がについて話すんだ?」
「ゼタ達とか、イルザさんとか?」
「ふむ。あいつらなら、の話をしてもおかしくはないな」
ユーステスはの出した名前にとても納得した様子で、読みかけの本をテーブルに置いた。
「そうだ、俺もに話したい事があったんだ」
「何?」
ユーステスはそう切り出して、と向き合う。
ユーステスは言う。
「次の組織の飲み会で、イルザとバザラガ達におごる事になった」
「え、何でユーステスが組織の飲み会でイルザさんとバザラガ達におごる必要があるの? 何かの罰ゲーム?」
は最初、それを聞いて、ユーステスは何かの罰ゲームでも受けているのではないかと心配したけれど。
「俺とが上手くいった件で、イルザとバザラガ達に何か礼をしなくてはいけないと思っていた所だった。組織の飲み会でイルザとバザラガ達におごるのが丁度良いと思わないか?」
「ああ、そういうわけね。確かに私達の事で、イルザさんとバザラガ達にお礼をするならそれが丁度良いかもね」
はユーステスからその説明を聞いてとても納得していて、そして。
「それでイルザさんとバザラガ達にちゃんとおごれるユーステス、格好良いね。それ聞いて惚れ直しちゃった」
「……ッ」
にこにこ笑ってそう言う通りにユーステスと腕を組むと、イルザに言われた通りの言葉をに言われて吹き出しそうになるのを口元を抑えて堪えるユーステスと。
「何?」
「別に何も?」
「そう? それなら良いけど」
「……」
は気が付いていない。ユーステスのエルーンの耳がピクピク揺れ動いているのを。
気を取り直してユーステスは、もう一つの話をするため、と向き合う。
「それからもう一つ、報告がある。大事な話だ」
「え、何? 大事な話?」
「近々、組織で大がかりな作戦が決行される。それは、イルザをはじめ、ゼタ達も総出で出撃する作戦だ」
「ええ、それ本当?」
「ああ。それのせいでしばらくの間、組織は機能しなくなる」
「うわ。それでゼタ達だけじゃなくてイルザさんも揃って出撃するなんて、確かに大がかりな作戦だね」
「ああ。しかもそれは一週間以上、長期間にわたっての潜入調査も必要ときた。俺もそれの潜入捜査員として活動する」
「えー。また一週間以上もユーステスと会えなくなるの? 寂しい……」
は頭では分かっているが、ユーステスが任務で長期間不在となれば、寂しい事には変わりなく。
ユーステスはがそうくるとは予想していたので、ついにこの話を持ち出す時ができて、内心、笑う。
「さえ良ければ、潜入捜査で俺が不在の間、この家ではなく、別の場所を提供できるがどうする。そこに行く気はあるか」
「え、別の場所? いいけどその間、組織に戻れとか? でも組織に戻っても皆はその作戦で出払ってるんでしょ、それなら家に一人で居るのと変わりないと思うけど……」
「いや。組織ではない。そこは俺の知り合いの騎空団でな。そこであるならの身の安全が保証されるし、騒々しい彼らの中では寂しい思いはしないだろう。もその騎空団、気に入ると思う」
「へえ、ユーステスがそこまで言い切るなんて珍しいね。しかも騎空団? 確かにユーステスの知り合いの騎空団なら信用できるし安全で寂しくないと思うけど、騎空団って、それこそ冒険者の集まりでしょ。そこで武器も魔法も扱えない私を受け入れてもらえるかな?」
は最初、ユーステスに知り合いの騎空団を紹介すると言われても、武器も魔法も使えない自分がそこに受け入れてもらえるかどうか不安だった。
ユーステスはニヤリと笑って、にその騎空団の名前を告げる。
「、お前、全空一お人好しな団長が居る騎空団、知ってるか? その名も――」
そうして彼女は、大きな希望と少しの不安を抱いて空へと飛び立つ。
彼女の空での物語は、始まったばかり。