一息ついて、ユーステスと離れたは気が付いた事がある。それは。
「というかランスロットさんも人が悪いですね。ユーステスが此処まで来てるの分かってて、私をこの国で暮らしたらどうかなんて誘うなんて」
「いや、俺はがこの国で暮らしてくれたらどんなに良いかとは、本気で考えていたんだよ」
「そう、ランスロットのその思いは嘘はない。俺もランスロットからそれ聞いて、がこの国で暮らしたいと思うなら暮らした方が良いとは思っていた」
に睨まれて苦笑するランスロットと、ランスロットをかばうように補足するヴェインと。
「ねえ、ユーステスはこの話、どう思う?」
次には、期待を込めた目でユーステスを見詰める。
ユーステスはが何を期待しているのか分かっていて、溜息を一つ吐いた後、彼女に聞いた。
「、お前、この国で暮らしたいと思うのか?」
「ユーステスはこの国で暮らしたいと思う?」
「いや? 全然」
「そう、そうだよね。ユーステスがこの国で暮らす必要が無いと言えば、私も此処で暮らす必要無いかな」
「それなら、さっさと荷物をまとめてこい。夜までにグランサイファーに戻るぞ」
「うん、さっさと荷物をまとめてくるから待ってて!」
はユーステスから期待通りの返事がもらえて嬉しそうに部屋まで荷物を取りにいった。
が荷物を取りに行っている間、ユーステス、ランスロット、ヴェインの三人が残る。
ヴェインは最初、半分は冗談、半分は本気でユーステスに向けて言った。
「おいユーステス、お前、何処であんな良い女、見付けたんだ。イルザの組織にあんな良い女が居るとは思わなかった。もし、まだお前の組織にみたいな女が居るなら、俺にも紹介してくれよ」
「……ヴェイン、お前、俺のに余計な手を出してないだろうな? 俺のに不用意に触れたのが分かれば、お前でも容赦せんぞ」
「がお前の女だって分かれば、誰もに手え出す気ないわ! その物騒なもん、俺に向けるなって!」
ヴェインに言われて彼に容赦無く銃口を向けるユーステスと、ユーステスが本気で自分を銃で狙っているのが分かって両手をあげて無害を訴えるヴェインと。
ユーステスは溜息を一つ吐いた後にヴェインに向けていた銃をしまうと、ヴェインではなく、ランスロットの方を向いて言った。
「がお前達に世話になったな。それに関しては礼を言う。組織としても、お前達――フェードラッヘに何かあれば惜しみなく協力する、とも」
「……へえ、意外とちゃんとしてるんだな」
ランスロットはユーステスに直に礼を言われるとは思わず、その態度に感心した。
ユーステスは静かに言う。
「の頑張った成果を、俺の態度で台無しにしたくはないだけだ」
「ユーステス、お前――」
それは。
その、熱は。
「何だ」
「いや、何でも? 気にするな」
「そうか」
ここでランスロットとユーステスの短いやり取りは終わり、そして。
「――お待たせ!」
が荷物を抱えて戻ってきた。荷物といっても最初に持ってきたカバン一つだけ。
「荷物、それで全部か?」
「うん、これで全部」
「忘れ物はないか」
「大丈夫!」
「それじゃあ、一緒に帰るか」
「うん、一緒に帰ろう!」
はユーステスが差し出した手を嬉しそうに受け取って、彼と一緒に寄宿舎から外に出た時、だった。
「さん! もう帰るんですか?!」
「あ」
外ではアーサーとモルドレッドだけではなくて、二十四名の訓練生全員がとユーステスの前に勢ぞろいしていた。
「ごめんね。約束の期日は過ぎていたし、それでユーステスが迎えに来てくれたからもう帰るよ」
はユーステスの手を握ったまま、訓練生の子達と向き合う。
訓練生達を代表してとユーステスの前に立つのは、アーサーとモルドレッドである。
「さん、次はいつ来てくれるんですか?」
「次に此処に来るのは、ユーステスの仕事と団長さん達次第になると思うけど……」
はアーサーに申し訳なさそうに答え、
「ユーステスさん、次の仕事、いつですか?」
「知らん。俺の仕事は、俺の組織に聞いてくれ」
ユーステスはモルドレッドに素っ気なく答えるだけだった。
それからアーサーとモルドレッドは、自分達の前でも手を繋いだままのとユーステスを見て思うのは。
「というかさん、本当にユーステスさんと恋人として付き合ってたんですね……」
「オレ達としてはそっちの方が驚きましたよ」
アーサーとモルドレッドだけではなく、ほかの訓練生達もそれに同意するよう、うなずいている。
と。
「おい、アーサー、さんにさっさとあれ渡せよ」
「あ、そうだった」
アーサーはモルドレッドではなく、後ろに居たヘンリーに肩を叩かれて、慌ててあるものをに差し出した。
それは。
「わあ、可愛いブレスレット。どうしたの、これ」
がアーサーから受け取ったのは、いくつもの小さな花でできたブレスレットだった。
アーサーは後ろに居るヘンリーを指さし、に説明する。
「それ、俺達が――ヘンリーが中心になって、さんのために作ったんです。さん、俺達のためによく働いてくれていたの、さんの隣に陣取っていたヘンリーがよく知っていましたから」
「そう。ヘンリー君、ありがとう」
「い、いや、これ、オレだけじゃなくて、パーツとか花選びとかは此処に居る奴ら全員に手伝ってもらって、それで」
に直接礼を言われて照れ臭そうに頭をかくのは、ヘンリー本人だった。
はさっそく自分の手首にブレスレットを身に着け、それをユーステスに見せる。
「ユーステス、どう?」
「……悪くない」
「えへへ。ヘンリー君達のおかげでユーステスに褒められたよ」
「ええ、それでユーステスさんに褒められたんですか?」
「うん、褒められたんだよ。ありがとね、大事にするわ」
「さん……」
アーサー達は自分達の前でもあまり感情を出さないユーステスの事はまだよく分からなかったけれども、ユーステスに褒められただけで嬉しそうなを見ていると花のブレスレットを作ったかいがあったとは思った。
そして。
「皆、今までありがとう。また来れたら、また来るからね!」
はアーサー達に手を振ったあとにユーステスと腕を組んで騎士団を後にして、アーサー達もとの別れを惜しむように手を振り返し、彼女のフェードラッヘの滞在は成功に終わり、後で彼らからに関する報告を聞いたグラン達だけではなく、組織のイルザ達も安心した様子だった。
それから、のフェードラッヘでの仕事振りがそこの騎士達によって広まりそれが評判となり、グランサイファーでグラン達が留守にしている間、を呼んでも良いと手をあげてくれる島と国は自然と多くなっていった次第である。
その後のフェードラッヘの騎士達の話を少し。
「ああ、俺もみたいな彼女が欲しいわ。ユーステスの奴、上手くやったもんだな」
「……そうだな。俺も心底、ユーステスが羨ましいと思ったよ」
がユーステスと去った後、彼女が居ないだけで急に静かになった騎士団の詰所にてヴェインがぼやき、ランスロットもそれに同意する。
と。
「――おい、あの女は何処行った!」
「パーシヴァル? どうした」
「パーさん、お前、うちの騎士団に自分の女を連れ込むなよ。それ、うちの騎士団では規則違反だぜ」
パーシヴァルがずかずかと入ってきたので、ランスロットは驚き、彼から「女」と聞いたヴェインは呆れた様子で応じる。
パーシヴァルはヴェインに向かって叫ぶ。
「俺の女じゃない、ユーステスの女だ! いつもの寄宿舎に小娘の姿が見えんので、訓練生の奴らに聞けばもう帰ったと聞いたが」
「ああ、か。あいつらの言う通りで、は今しがた、ユーステスと帰ったぜ」
ヴェインの話を聞いてパーシヴァルはその不満を彼にぶつける。
「何だと。思ったより早くないか。団長達は、うちがあの小娘を預かるのに信用ならなかったのか」
「いや、本来の予定日より過ぎていたんだが……。というかパーさんもが気に入ったのか?」
「別に気に入ったわけじゃない。あの小娘に、フェードラッヘの一流の料理人の味を教えてやろうと思ってな。今夜、行きつけのビストロ・ドラゴンに小娘のぶんも予約していたんだが……、クソ、台無しじゃないか」
「はは、パーさんがをあのビストロに招待するなんざ、気に入ったも同然じゃないか」
をビストロに誘えずに悔しそうに地団駄を踏むパーシヴァルと、それを見て苦笑するヴェインと。
「あ!」
「どうした、ランちゃん」
「何だ、何か事件でも思い出したか?」
突然に声を上げたランスロットに、ヴェインもパーシヴァルも素早く応じる。
「いや、俺もこの夜に、寄宿舎でよく働いてくれているを労わるために俺との二人ぶん、ビストロに予約してたの、忘れてた……」
「マジか。パーさんだけではなくてランちゃんまで同時に誘われるって、すげえな」
うわー。こんなに情けなくて恥ずかしい話はない。今になってそれが恥ずかしくなって顔を覆うランスロットで、パーシヴァルとランスロットから同時に誘われるに感心するのはヴェインだった。
パーシヴァルは言う。
「俺の場合は俺の家臣を誘えば何とかなるが、ランスロット、お前はどうする気だ。今からキャンセルとなれば、キャンセル料を払わねばならんぞ」
「それは仕方ない。情けないが店主に説明して、キャンセルしてもらうよ……」
「待て、ランちゃんがのぶんをキャンセルする必要はないぜ」
ランスロットは肩を落として店にキャンセルの手続きを行うために詰所を出て行こうとした、それを止めたのは。
「なあ、ランスロット、パーシヴァル。お前達の予約が無駄にならない良い方法思いついたんだが、俺のそれに乗る気はないか」
ヴェインの思いついた良い方法、それは。
「さあさあ、ジークフリートさん、遠慮せず、一杯どうぞ!」
「すまんな、俺までおごってもらって」
「いえいえ、ジークフリートさんが俺の誘いに応じてくれた事で、ランスロットのぶんの予約が無駄にならなかったんですよ。ランスロットからすれば、ジークフリートさんほどの恩人は居ないですよ!」
「そうか、それなら遠慮なく、そこのワインをもらおうかな」
「どうぞ、どうぞ」
ヴェインは喜んで、ジークフリートにワインを注ぐ。
ヴェインが思いついた良い方法、それは、ランスロットののぶんはジークフリートを招待すれば無駄にならないというものだった。
それは良い手だなと、ランスロットがそれに乗ったはいいが、パーシヴァルはヴェインに自分の不満をぶつける。
「ランスロットの小娘の予約分はジークフリートで補うのは分かるが、俺の小娘の予約分を何故、駄犬で補わねばならんのだ」
「そりゃ、ジークフリートさんがこれに参加するならこの俺も必要だろう。ランちゃん、ジークフリートさんを前にすれば緊張してせっかくの料理を味わえないだろうし、何より、ジークフリートさんと二人きりにさせるの、色々まずくないかな、と」
「……、確かにランスロットとジークフリートを二人きりにするのは色々まずいのは分かる気がするが。それでは、俺とジークフリートの組み合わせで良かったのでは?」
「それじゃあ、ランちゃんの予約キャンセルになるじゃん。やっぱ、俺が居る方が良いって」
「ふん、駄犬にしては、頭を働かせたか……」
パーシヴァルは今回に限っては、ヴェインの策の方が上であると認めるしかなく。
ジークフリートはヴェインに注がれたワインを味わいながら、二人がこうなった原因であるについて彼に聞いた。
「ところで、パーシヴァルだけではなくランスロットの誘いまであっさりと断ったというその噂の嬢というのはヴェインから見て、どういう娘だったのかい?」
「は俺の予想に反して、見た目よりも良い女だった、ですかね。彼女がユーステスの女になったというのもうなずけるというか」
「ほう。俺は今回は調査に出かけていて嬢が居る間は此処を留守にして目にかかれなかったが、あいつだけではなく、他人に厳しいヴェインからもその評価を得られるとはなぁ。嬢は武器も魔法も使わないでも、あのイルザも認めるほどユーステスの女になっただけはある、か。今までの情報を集めるに、面白そうな娘だ。俺も一度、嬢に会ってみたいものだな」
「あれ、ジークフリートさん、その口ぶり、何処かでに関する情報聞いてたんですか? ジークフリートさんのいうあいつというのは、グランサイファーの団長達ですか?」
「いや、俺の嬢に関する情報源は団長達ではなくてイルザの組織――、バザラガによるものだ」
「え、組織のバザラガからですか?」
「何? ジークフリート、お前、バザラガに会ってたのか?」
「ええ、それ、俺も初耳です。本当ですか?」
ジークフリートの話はヴェインだけではなく、パーシヴァルとランスロットも興味深そうに耳を傾ける。
「ヴェインが嬢をうちで預かると決まった翌日だったか。バザラガは、俺が調査している所まで遠慮なくやって来てな」
ジークフリートはその時のバザラガとのやり取りを、彼らに話した。
バザラガはジークフリートの前まで来ると、淡々と言った。
『――今回、うちの人間――が、グランサイファーの団長達が留守にしている間、貴殿の国――フェードラッヘに世話になる事になった。組織を代表して俺が事前にお前に礼を言っておこうと思ってな、これほどありがたいと思った事はない』
『……ほう。一人の女のために、お前がわざわざ俺の前まで直に頭を下げに来るとは珍しい事もあるな。それも組織とやらの命令のうちか?』
『それは否定せんが、俺もが気がかりでな』
『というと?』
『がフェードラッヘの国に居る間、ジークフリート、お前に彼女に目をかけてやって欲しいと、それの要求をするために、直接此処まで来た次第だ』
『ふむ。それは構わんが、団長達が留守の間に嬢を預かる、それの決断したのはヴェインであって俺ではない。礼と目をかけてやって欲しいと頼むのは、俺ではなくてヴェインじゃないのか?』
『もし、彼らの中でをめぐって何かもめ事が起きた時、単独行動のお前の方が動きやすいと見込んでの事だ』
『……なるほど。ヴェインではなく俺の所に直にお前が来たのは、ただの根回しってわけかい』
『うむ、理解が早くて助かる。さすがジークフリートだな』
『……、しかし、噂の嬢だったか、彼女はお前達が重宝しているユーステスの女だというが、それだけでお前達がここまで動くとは思わなかったよ。お前達の中で彼女は、ユーステスと同じよう、大事な娘なのか?』
『……そうだな。俺達の中ではユーステスと同じようには大事な娘には違いないが――、それよりも前にを引き受けた騎士団のヴェイン達の身を案じての、必要な根回しである、とだけ』
『何だって? どういうわけだ。俺も彼女はユーステスの女であっても、武器も魔法も扱えない、何も出来ない女だという話は聞いている。それでヴェインも彼女を扱いやすいと見込んで誰も引き取り手の無かった彼女を引き受けると、手をあげたらしいが。実はそれは俺達をあざむくための、嘘だったのか?』
『それは嘘ではない。真実である。しかし、ヴェインにはを見た目通りに甘く見ない方がいいと、お前からそれ伝えておいてくれないか』
『では彼女は、お前達の組織ではイルザと同じよう上に立つ立場の人間か、あるいは、幹部の大事な一人娘とかかい?』
『いや。彼女はイルザと同じ上に立つ立場の人間ではないし、幹部の娘でもない。とある島の小さな村出身の、ただの普通の娘に過ぎん』
『それなら、何故そこまで?』
『――は武器も魔法も扱えずともあのユーステスを射止めた女でありイルザもそのユーステスと彼女の関係を認めるほどだ、それ忘れてなめてかかると、反対にそちらが噛みつかれる、と、忠告を』
ジークフリートはこの時、兜のバザラガの表情は見えなかったが、その奥にある口元はは笑っているような気がした。
『……ふむ、彼女は武器も魔法も扱えずともあのユーステスを射止めてそれをイルザにも認められているほどか、それは確かにヴェインのよう、見た目通りに扱わない方が良いかもしれんな。分かった、あいつらと嬢との間に何かあれば俺が間に入ってみるよ』
『助かる。後は任せた、それじゃあ』
バザラガはジークフリートにそれだけ言い残して、さっさとその場から離脱した。
「……と、まあ、バザラガとそんなやり取りが裏であったわけだが。そのバザラガの心配は杞憂に終わったようだがしかし、嬢は確かに、お前達の話を聞いていれば武器も魔法も扱えずともあのユーステスの女になっただけはあるようだし、バザラガの言うように彼女を見た目通りに扱えば痛い目を見るようだな」
「そのバザラガとの話、が帰る前に教えてもらいたかったですね……」
で予約をキャンセルする寸前までいったランスロットに同情の眼差しを向けるのはジークフリートで、ランスロットはジークフリートのバザラガとの話はビストロを予約する前に聞いておきたかったと心の底から実感したのだった。
そして、話は現在、ヴェローナはモンターギュで魔物退治を行っているグラン達へと切り替わる。
「最後の一撃、っと!」
「これで、モンターギュでの依頼は終わりか?」
「ああ、これでモンタギューでの一連の魔物退治は終了だ。皆、お疲れ様!」
「お疲れ~」
グランの終了宣言で、周りから歓声が上がる。
「オレはやっとオレの艇に戻れると思うのが最高に嬉しいぜ。オレは先に艇に戻るが、お前達はどうする」
依頼が終わって肩をならしながら、それぞれの予定を聞くのはラカムである。
グランはラカムで空を見て太陽の位置で時間を確認した後、呟く。
「ああ、そろそろ、のお迎えがジュリエット達の所まで来ている頃かな……」
「うむ。彼は――ユーステスはイルザの組織だけではなくうちでも単独行動は多いが意外と、約束事はきちんと守ってくれる奴だからな。ジュリエット達の前でも構わず、時間通りに迎えに来てくれたユーステスを前にはしゃいでるの姿が目に浮かぶよ」
グランの呟きにそう苦笑しながら応じるのは、カタリナだった。
ユーステスは白竜騎士団までを迎えに来て以降、必ず、グラン達が艇を留守にしてをあらゆる所に預けている間、彼女を自分の足で迎えにいくようになった。グランが「君がそこまで行くのが面倒というなら、僕達がを迎えに行くけど」と話しても彼は、「は俺が必ず迎えに行くのでそこはそう心配しなくていい」とそれを断り、はで滞在先で何があってもユーステスが必ず迎えに来てくれるのを信じて待っているという。
因みにユーステスがにそこまでするのは、白竜騎士団に預けたはいいが最終的にランスロットだけではなくヴェインにも目をつけられたと分かってからで、彼女が預かり先でへんな男に目をつけられないか心配だったせい。
ユーステスはその胸の内はグランにもイルザにも誰にも明かしていないが、グラン達だけではなくてイルザの組織の人間達もユーステスの心配事は伝わっていて、それはとても理解できると周知されていた。
「そうそう、カタリナのその話で思い出したんだけどさ、ユーステスの兄ちゃんが仕事が終わればが何処に居てもすぐに迎えに来てくれるのもポイント高いって、誰か話してなかったか?」
「はい、それ、私も聞いてますよ。あれはとユーステスさん、お二人の関係が分かって良いものだって団の女の子達だけではなくてジンさんとソリッズさんが話していましたし、それから、天司のサンダルフォンさんとほかの天司さん達、ナタクさんやメドゥーサさんをはじめとする星晶獣の皆さんも、人間の恋愛感情はよく分からないけどあの二人は見ていて興味深いって話していましたね」
「ユーステスの兄ちゃん、意外と行動力高くて、オイラ達が何処に居てもあっさりとを見付けてを迎えに来てくれるんだから凄いよな!」
「ふふ。これもへの愛の力ですよね!」
ビィとルリアは、が何処に居てもを迎えに来るユーステスの様子を思い出して、はしゃぐ。
はぁ。イオは溜息を吐いた後に腰に手をあて、グランに詰め寄る。
「団長、あたし達も早く艇に帰った方が良いんじゃないの? 多分、艇にはもう、明日にはユーステスと家に帰っちゃう目当てにほかの仲間達がけっこう集まってるんじゃないかな?」
「そうそう、は、預かり先からユーステスの迎えが来れば、その翌日にはもうユーステスの家に帰るからな。オレ達が少しは艇でのんびりしたらどうかって言ってもは、ユーステスとの二人きりの時間の方が大事って言って聞かんからな。本当、最初の頃、オレに話しかけるだけでもビクビクと怯えていたはどこいったんだって感じだぜ、ははは」
ラカムはイオの話でが艇に来た初めの頃を懐かしそうに思い出し、今の遠慮のなくなったと比べて笑うしかない。
「うむ。今夜は恐らく、明日には家に帰る目当てにうちのアポロとオーキス、ジンとソリッズの奴らも来るだろうから、確かに早いうちに艇に戻った方が良いとオレも思うぜ」
「ふふ、ラカムの言う通りで、私達がいくら引き留めても無理で明日にはもうちゃんがユーステスと家に帰ちゃうから、その時の夜は皆が集まって必ず宴会になるのよね。私もちゃんで皆が集まる宴会、楽しみにしてるのよ」
続いてオイゲン、ロゼッタの二人も何かを期待するような目でグランを見詰める。
「今夜は、明日にはもうユーステスと家に帰るという目当てに皆が――白竜騎士団のランスロット達も何かと理由をつけて顔を出してくるだろうから、とユーステスが艇に戻ってくる前に、彼らを出迎える準備もしないといけない。急ごう!」
グランはを思い、その一歩を踏み出す。グランの号令で、ビィとルリア、イオ、カタリナ、ロゼッタ、ラカム、オイゲンも、グランの後に続く。
そして、それから。
夜。
「イオちゃん、ルリアちゃん!」
「あ、、お帰りー」
「お帰りなさい!」
イオとルリアは艇に帰って皆と宴会の手伝いをしていれば、夜になってとユーステスが艇に戻ってきた。
艇には初日に来てくれたコルワとメーテラとスーテラの三人をはじめ、目当てにヴェローナはキャピュレットまで来てくれた多くの仲間達も集まっている。
それ以外ではグラン達が予想した通りにアポロとオーキス、ジンとソリッズ、ヴィーラとファラとユーリの三人、白竜騎士団のランスロット、ヴェイン、パーシヴァル、おまけにジークフリートの四人も揃っていて、そして、今回、を預かってくれたヴェローナのジュリエットとロミオの二人も宴会に顔を出していた。
イオは、から離れて今回世話になったジュリエットとロミオの二人に何か話しているユーステスを見ながら、言った。
「はユーステスと帰ってくるの遅かったけど、今回も預かり先のキャピュレットでユーステスとデートしたの?」
「うん。今回もユーステスとキャピュレットで、ジュリエットに紹介されたデートコースでデートしてきたよ」
イオに言われたは、嬉しそうに報告する。
「ユーステスとのデートは、預かり先で仕事を頑張った後のご褒美だからね。ジュリエットに紹介されたお店、劇場だけじゃなくて、さすが、ジュリエットが選んでくれただけの事はあるというかとても良かったよ」
は預かり先の最終日、仕事を頑張ったご褒美としてユーステスとそこで紹介された場所でデートをするというのも習慣の一つとなっていた。
イオはしかし、からその報告を聞かされても面白くなかった。
「さすが、ジュリエット、ねえ。ふうん、それは良かったわね。はもう、あたしの手は必要なくなったか……」
「ええ、何でそんな事言うの? 私にはまだイオちゃんが必要だよ」
「はでも、あたしが居なくてもこの艇でも預かり先でも、上手くやれてるんでしょ? それなら――て、何、これ」
はイオの手に、チョコレートの箱を渡した。
「これ、今回のお土産! ルリアちゃんもどうぞ!」
「わあ、これ、キャピュレットの劇場でしか売られてないチョコレートですね! ありがとうございます!」
ルリアもからキャピュレットの劇場でしか売られていないチョコレートを受け取り、嬉しそうだった。
「何これ、どういうつもり?」
イオはチョコレートを受け取るも、を睨みつけるが。
「この艇で一人で居た時の私にお菓子をあげればどんな子とも仲良くなれるって教えてくれたの、イオちゃんだったでしょう」
「……そうだけど。何、はまだあたしと仲良くしたいと思ってるの? 今でもこうやって、目当てに艇に集まってくれる子達は多いってのにさ」
「うん。私はまだイオちゃんと仲良くなりたいと思ってるよ。この艇の中でも外でもイオちゃんは、私の一番の友達だからね」
「……ッ」
にこにこ笑ってそう言い切ると、急に今までの自分が恥ずかしくなってそこから顔をそらすイオと。
そして。
「あ、ルリアちゃんも私の先生で変わらないからねー。私、この艇でルリアちゃん以外の先生つける気ないから」
「……」
ルリアものその気持ちを聞いて、胸がいっぱいになった。
は言う。
「預かり先からこの艇に帰って、団長さんだけではなくてイオちゃんとルリアちゃんの顔見ると安心するんだよ。ああ、この艇に無事に帰って来られたんだって。ユーステスが仕事で居なくて不安な時も、まだこの艇に居られるんだって」
「……そっか。うん、預かり先からが帰る場所はこの艇と、ユーステスの家だけだもんね。はこれからもユーステスが仕事で居ない間は、ずっとうちの艇に居るといいよ」
「はい! はユーステスさんが仕事の間は、ずっと私達の艇に居て構いませんからね!」
「……ありがとう。陸以外に空でも休める場所があるのは、良いもんだね。あ、このチョコレート一緒に食べようよ。これ、ジュリエットが厳選しただけあって、とても美味しいんだよ」
「そうだね。あのジュリエットが厳選したチョコレートなら、間違いないわ。それにあうお茶持ってこようか……て、ルリア、自分のぶん、もう全部食べたの!」
「我慢できずについ……、えへへ」
「全くもう、ルリアらしいなあ! 仕方ないからあたしの、分けてあげるよ」
「本当、ルリアちゃんらしいね。私も半分どうぞー」
「ありがとうございます! このチョコレート、ジュリエットさんが選んだだけあって、美味しいですね」
イオはルリアの暴挙にと顔を見合わせて笑いあい、それから手持ちのチョコレートを三人で分け合って食べた。
イオのに関する不満はあっさりと解消されたようだ。
カタリナをはじめ、ビィとラカムとオイゲン、ユーステス、そして、それ以外の仲間達もとイオとルリアの三人を遠くから微笑ましく見守るだけに徹する。
グランも彼らと同じよう、仲良くチョコレートを食べる三人の様子を見ながら、隣で同じくその様子を見ているロゼッタに向けて言った。
「イオは、まだ気が付かないようだね。団の仲間達がの預かり先までわざわざに会いに行くのは力を持たない彼女の仕事を手伝いたいと思うのはもちろん、が預かり先から帰った時にイオとルリアがを独占するせいだってさ」
「ふふ、団長さん、その事実はイオちゃんにはまだ明かさない方が良いと思うわよ。イオちゃんとルリアちゃんの間こそ、預かり先から帰ってきたちゃんの羽が休める場所なんだから」
ロゼッタは唇に指をあてて、悪戯っぽく微笑んだ。
――彼女はまるで、空を泳ぐ蝶のようだ。
そうやって艇の仲間達の間を渡り歩くようになったに向けてそう言ったのは、誰だったか。
グランはイオとルリアに挟まれて嬉しそうなを眩しそうに見詰めて、彼女をあらわすのにこれ以上のものはないよな、と、思った。