空のパレード(04)

「それで」

 それで。

 グランは、がユーステスの所へ行ったのを確認してからシエテの方を振り返った。

「それでシエテ、を使ってみての評価はどうだった? 前に君が力を持たないがユーステスの彼女でもどうしてこの艇に乗っているのか分からないからいつかを使ってみたいと話していたから、今回、を君の前に派遣したけれど」

 グランはユーステスと居て嬉しそうなから目を逸らすよう、十天衆のシエテに聞いた。

 実はグランは、以前にシエテから「何で力を持たないを君達が置いてやっているのか分からない。がいくらユーステスの女でも、彼女はこの艇ではなくて外の街に置いていた方が安全じゃないか」と力を持たないを艇に置いているのを不満そうに言われたので、「それならいい時にを君達に派遣する、君がそこでの評価をしてくれればいい。を使えばの良さが分かる」と返答した事があった。

 グランは今回はエルーンの耳の品評会でに好意的なエッセル、カトル、シスの三人が揃っていて、いざという時はこの三人がに手を貸してくれると見込んで、シエテにを預けるのは今が丁度良いと思った次第である。

 しかし。

「シエテ?」

 グランがシエテにの評価を聞いても、シエテは固まったままで何も返答がない。

「十天衆の頭目としてこの空域最強だと謡われるシエテからすればやっぱり、力を持たないの良さが分からなかったのかな?」

「――いや、シエテはに見事にすっかり骨抜きにされたようだ。団長が心配するような事はない」

 力を持つシエテからみれば、力を持たないの評価は悪かったのか? グランはそう心配するも、くつくつと笑いながら彼にそう返事をしたのは、シスだった。

 そして。

「全く。それだから僕が最初にシエテにを甘く見れば返り討ちにあうと、忠告したんですよ。シエテのよう、力を持たないを甘く見てに返り討ちにあう――これすっかり、この団で定着してますね」
「そうだね。力を持たないを甘く見てに返り討ちにあうのを見るの、これで何度目かな?」

 テーブルに肘をついて呆れる様子で言うのはカトルで、カトルに同意するよううなずくのはエッセルである。

 と。

「ええ、イルザさんがエルーンの耳の品評会でシルヴァさん達と残ってくれてるから、夜もユーステスと一緒に居られるの? イルザさんにシルヴァさん、ありがとう!」

 わあ。普段は仕事で出かけているユーステスであるが、今回はイルザがシルヴァ達と残る影響で夜も一緒に居られるという。それをユーステスから聞いたの嬉しそうな声が、十天衆のテーブルにまで聞こえてきた。

 のその嬉しそうな声に反応したのかサラーサは、イルザとシルヴァのおかげでユーステスが夜に残ってくれると分かってイルザとシルヴァの前でも浮かれて跳ねると、そのの頭を撫でて満足そうなイルザとシルヴァを見て言った。

「ひひ、が属してる組織の連中もヤバいよね。に何かあればユーステスだけじゃなくて、組織のイルザ達がすぐに駆け付けるからな。更にイルザだけじゃなくてうちらのエッセル、シルヴァ、ナルメア、ヘルエスにスカーサハ、おまけに十二神将のクビラとアニラ達も力を持たないを妹として気に入ってて、可愛がっている。それだけで力を持たずとも彼女達を取り込む力を持つの凄さが分かるってもんよ。実は、ってこの艇で最弱に見えて最強じゃないの?」
「そうね。サラーサの言う通りで、組織のイルザだけじゃなくて、うちのエッセルやシルヴァ、ナルメア達もただ弱いというだけではを妹にしないでしょう。シエテはのそこも気が付かなかったみたいね」
「うん。私も、皆が力を持たずとも皆に追いつこうと頑張るを妹として可愛がる気持ち、分かるよ」

 サラーサに続いてソーン、ニオの三人は、がどうして皆から妹として可愛がられているのか、それを分かっている。

「あちし、みたいな何も力持たない子と遊ぶのも、中々新鮮で楽しかったな。が居なければあちしは、力を持たない子達と遊ぶ機会が無かったからね。あ、でも前にあちしの魔法でそれの力加減が分からなくて、に怪我させてが動かなくなった時はヒヤッとしたけど」
「……、それのせいで我とフュンフがの組織の人間達から恨まれる羽目になったのよな。あの時のイルザとバザラガの殺気と気迫は今でも忘れんよ。肝心のユーステスだけが我々に何もせずに冷静だったのが意外だったがしかし、後でゼタ達に聞けばルリアの素早い回復と団長達の説得が無ければ色々危なかったらしい。まあ、力を持たないのおかげでフュンフが自分の力加減を抑えるようになったのは、良い傾向だとは思った」

 フュンフは以前に自分の魔法の力加減が分からずに遊び相手のに怪我を負わせた事があって、オクトーはそれでの組織の人間達に酷い目にあったのを忘れてはいなかった。おかげでフュンフは自分の力を少しだけ抑える事を覚え、それがあったせいでオクトーは力を持たないには何かあれば力を貸そうと思った次第である。

 それぞれのに関する意見を聞いて不満を持つのは、最後に来たウーノである。

「何だい、僕とシエテの知らないうちに君達はこの艇で、すでにと交流を持ってたのか。まあ、僕は商売で出かける事が多くて滅多にこの団に力を貸さないし、シエテも気まぐれだからなそれは仕方ないがしかし――」

 しかしそれにしても、と、ウーノはいまだに固まったままのシエテを見る。

 ――残る一人でウーノさんがこの艇に来ていなければシエテさんが十天衆の頭目をやっている意味、ないですよねえ。

 それはシエテの実力をよく分かったうえでの発言か、それとも、何も考えずに思ってる事を口にしただけか。ウーノは力を持たないがたった一言でシエテさえも取り込んだ事に、感心を寄せる。

 その肝心のシエテといえば。

「シエテ、シエテ」
「はっ」

 グランが固まったままのシエテを心配して彼の肩を揺さぶれば、シエテはハッと我に返り、そして。

「団長さん、をうちの――」
「――それは無理だ、諦めてくれ」
「まだ最後まで話してないのに即答?!」
「どうせ、をどうにかして十天衆の一人で加えたいって誘いだろ? それはシエテでも無理だ、諦めてくれ」
「何で。をどうにかして十天衆に加える事くらい、此処に集まってる皆も納得してくれると思うけど」
を自分の仲間に誘いたいなら、僕よりイルザ達の許可を取ってくれとしか」
「ああ、そういうわけか……」

 グランは、ユーステスと同じテーブルについたを見詰める。シエテもグランにつられるよう、ユーステスと同じテーブルにつくを見詰める。

「やっぱりユーステスのエルーンの耳、触り心地が良いよね~」

 その間にユーステスは椅子に座って新聞を読んでいて、はその隣で嬉しそうに彼のエルーンの耳をいじっている。

 イオとルリア、イルザ達さえも二人の間に入れずに遠巻きに微笑ましく見詰めているだけで。

 シエテは少しの希望を持って、グランに聞いた。

「団長さん、とユーステスの二人、本当に恋人として付き合ってるのかい? 力を持たないを助けるためにユーステスがその関係を偽ってるとかは……」
「それは有り得ない」
「どうして団長さんがそれ断言できるんだ。ユーステスはあの組織の中では最強と評価される実力者ではあるけれど、冷酷非情な一匹狼で組織以外の人間では彼は扱いづらいと聞いているが。もいくら組織の中で顔は良くて最強だろうがよくあの冷たそうなユーステスに向かっていけるよなと、前から不思議だった」
「確かにユーステスは最強と評価されるも一匹狼で組織の人間以外は扱いづらいけど、それこそ彼を見ていれば意外と単純で分かりやすい。だけではなくてユーステスを見ていれば、二人の関係がよく分かるよ」
だけではなくて、ユーステスを見ていれば二人の関係がよく分かる? ……今の俺には二人の関係がまだよく分からないなぁ」

 シエテはグランに言われるも、とユーステスの関係はよく分からなかった。

 グランはため息を一つ吐いて、シエテに向けて言った。

「シエテのよう、最初は力を持たないが何でこの団の仲間になっているのか分からないからって言うんで、の良さを分かってもらうためにをそこに派遣するんだけど、皆、最終的にを気に入って自分達の仲間に招き入れたいって誘いが来るんだよ。でもは全部、その誘いを断ってる。それというのもイルザ達というよりは、ユーステスに阻止されるからさ。ユーステスがそれにうなずかなければ、は何処も行く気がない。それだからシエテがを十天衆の仲間に誘うのは無理だ、諦めてくれ」

「そうか、それは残念だ。でも、また十天衆会議を開く時、十天衆を集めるのを団長さんではなくてに頼むか……」

 ふむ、こっちの方がを使える良い手かもしれない。シエテは自分の思い付きに手応えを感じたが、しかし――。

「そうそう、シエテに一つ言い忘れてた事があった」
「何だ?」

 にっこり。グランはこの時、いつものお人好しの笑みを浮かべてシエテに話している。

「――今後、この団でを使いたい時は、団長である僕の許可を取ってからにしてくれないか。もし君が勝手にを連れ出したのが分かればその時は、僕が容赦しないからそのつもりで」
「……ッ」

 ぞくり、と。シエテだけではなく、その場でその話を聞いていた十天衆の人間達もグランのそれには背筋が凍った。

「シエテ」
「あ、ああ、この団でを使う時は団長さんに報告してから使うよ、そこは安心してくれ」
「そう、それなら良かった」
「……」

 ――ユーステスもユーステスだが、団長も団長だな。シエテは、を使うにはユーステスだけではなくグランもに甘いというのが分かって、苦笑するしかなく。

 と。

「おーい、グラン」
「ビィ」

 グランの所に飛んできたのは、今までエルーンに配られるお菓子をつまみ食いしていたビィだった。

「どうした?」
「いや、が今夜はエルーンの耳の品評会でエルーンとその付き添いの皆が来てくれているし、それでユーステスの兄ちゃん達も残ってくれるっていうんでこの夜にファスティバ達とご馳走作る事になった、エルーンの仲間だけじゃなくて十天衆の皆にもご馳走作るから彼らの好きな食べ物とか、苦手な食べ物とかあれば聞いてきてくれってさ」
はそれ、ルリアとかじゃなくてビィに頼んだのかい?」
「ああ。丁度、グランが十天衆の奴らと話してただろ、それではオイラが適任だと思ったんじゃないか」
「全く。の洞察力は、僕も舌を巻くほどだ」

 十天衆の人間達の味の好みを聞くのにビィを寄越したに、グランも笑うしかない。

「そういうわけだ。皆、夜のご馳走で何か注文あれば僕かビィに言ってくれ。それ、に伝えておくよ」

 グランが十天衆の方を振り返ってそう言えば歓声が上がり、十天衆の人間達から次々と手があがってそれぞれの好みを伝えていった。


「それじゃ、皆の注文をに伝えにいくか。ビィ、行くぞ」
「ご馳走、楽しみだなー」

 十天衆の人間達の注文を聞き終えたグランは、ビィを連れての元へ急ぐ。

「シエテ、シエテ」
「何だ」

 グランとビィが行ったのを確認してからシエテの袖をつつくのは、エッセルである。

 エッセルは声を潜めてシエテに言う。

「さっき、団長さんがユーステスを見ていれば、とユーステスの二人の関係がよく分かるって言ったでしょう」
「ああ、団長さんにそう言われても俺はまだ、とユーステスの関係がピンとこないが……」

 シエテは、グランに言われてとユーステスの方を見るも、二人の関係はいまだに分かっていない様子で腕を組み、その様子を見たエッセルは言う。

の腰辺り、それから、ユーステスの視線を追いかければ、分かりやすいんじゃない?」
「え?」

 の腰とユーステスの視線? シエテはエッセルの指摘通り、の腰あたりを見てそしてユーステスの視線を追いかける。

 シエテがの腰を見ればユーステスは片方の手は新聞を持っているが、もう片方の腕はの腰に回して彼女を守るように支えている。で、ユーステスの腰に回された腕を振り払う事はなくそのままにしてあった。

「あ、団長さん、十天衆の皆さんの注文取ってきてくれたんですね。それじゃ私、ファスティバさんの所に行ってきます」

 そして団長のグランがに十天衆の注文を伝えにいけば彼女はあっさりとユーステスから離れてファスティバの待つ調理場へ向かった。その間、ユーステスの視線はがファスティバの所へ向かうのを見ていて、彼女がきちんとファスティバの所へ行ったのを確認してからユーステスはようやく読みかけの新聞に目を向けたのだった。

 が行ってしまえばグランとビィも何処かへ行ってしまってそこに姿はなく、ユーステスも落ち着いた様子で新聞を読んでいる。

「……なるほど。ユーステスがの腰に腕を回すのは恋人関係でなければできないし、ユーステスはを追いかけていないように見えて、ちゃんと追いかけているのか。確かにとユーステスの二人を見ていれば分かる関係だな」

「でしょ? それからね、シエテの言うように確かにユーステスは冷たくて近寄り難い人間だと思われがちだけど彼は、の前はもちろん、私達にも優しい所はあるんだよ。力を持たないがどうしてそのユーステスに惚れて彼に向って行ったのか分かるほどにね」

「うん、私もユーステスが優しいとこ、分かるよ。私がの指定した部屋に引きこもってるのに、外で騒がしくしていた人達が居たの。部屋の中まで聞こえてくるそのうるさい声に私は耳を塞いで耐えていたけどその時にユーステスが現れて彼の『うるさい、黙れ』の一言で外が大人しくなった。あとでにそれ伝えたら私がそこの部屋に居るのをから聞いてて、ユーステスが私を気遣って外のうるさい声を黙らせてくれたんだって嬉しそうに話してた」

 エッセルに続いてユーステスをそう評価するのは、ニオだった。

「あ、私もユーステスの話を思い出した」

 エッセル、ニオの次に手をあげたのは、イルザと親しいソーンである。

「これはイルザから聞いた話だけど、イルザによればは多分、力を持たないからこそ、ユーステスに向かっていけたんじゃないかって話してたわよ」

は力を持たないからこそ、ユーステスに向かっていけた? どういう意味だ?」

 ソーンは肘をついて、面白そうにシエテを見詰めて話した。

「イルザが言うにはが私達と同じように力を持っていたら、あの組織で最強と言われるユーステスの実力も分かってそのレベルの違いに震えて、それこそ声すらかけられなかったんじゃないかって話してたんだよね。力を持たないだからこそ、ユーステスの力の差が分からず、彼に自然と向かっていけた。それからイルザは、がほかより洞察力が高いのも力が無いせいだって言ってたわよ。組織としても良い拾い物したって」

「……なるほど。力を持たないだからこそ、組織で最強と言われるユーステスの力の差が分からずに自然と向かっていけて、ほかより洞察力が高いのもそれのせいか。それは確かにあるかもしれない」

 生半可な力の持ち主であればは、その力の差に震え、冷たいユーステスに声すらかけられなかっただろうし、洞察力が高いのもそれのせい。シエテは、ソーンから聞いたイルザのその話は納得いくものだと思った。

 そして。

「あたしはこの団では団長に呼ばれた時以外はのケーキ目当てに来てるけど、今回みたいにユーステスが夜もこの艇に残ってる間はにそれを頼むのは遠慮してるんだよな。それというのもあの二人、夜になれば人目も気にせずイチャイチャしてるからな、あれだけはうっとうしくない?」

「それは僕もサラーサに同感ですね。前からユーステス一筋で分かりやすいはともかく、ユーステスの奴、普段はに素っ気ないくせに夜に残る時はここぞとばかりに僕達に見せつけるよう、を独占してますからね。さっき、自分のエルーンの耳を触らせる時も、これ以上に近付くなって周りの男達を威嚇していましたよ……」

 サラーサに同意するように強くうなずいてそのユーステスの仕業に呆れるのは、カトルだった。

「団長のユーステスは扱いが難しいようで意外と単純で分かりやすいというのは、俺も納得するものだな。ユーステスは、に関しては誰よりも分かりやすいからな。ユーステスのそれに気が付かないのは本人だけか……」

 シスはユーステスの仕業に呆れるサラーサとカトルと違い、彼を面白そうに見ている。

「あちし、とユーステスが仲良いのを見るのは好き! でも、あちしがあの二人の仲良いとこ見てると誰かがあちしを目隠しして引き離されるんだよね。あちし、あの二人が仲良いとこもっと見たいのにさー。じっちゃ、何であちしがユーステスとを見ていると目隠しされて、二人から引き離されるのかな?」
「さあ、何でだろうな……」

 オクトーは、フュンフのその不満を聞くも彼女から視線を逸らして濁すだけで終わった。

 そして。

 ウーノは仲間達からとユーステスを取り巻く人間関係を聞いて、自身のヒゲを触りながら言った。

「ふむ。とユーステス、そして、団長、か。は、この団を取り巻く人間関係が面白くて観察していると話していたが、君達の話を聞いている限りではあるが、とユーステスを取り巻く人間関係の方がよほど面白いと思うのは僕だけかな」

「いや、ウーノのそれは間違っていないと思う。俺も、とユーステス、それから団長を取り巻く人間関係の方が面白いと思うし、何より――」

 シエテはで集まってくれた十天衆の全員の顔を見回し、そして。

「――何より俺の知らない所で目当てに、お前達がこの艇に入り浸っているのがこれでよく分かった。俺は今までは団長の依頼に応じるか、十天衆会議の時だけ気まぐれでこの団に来ていたが、俺もお前達と同じようにでこの団に来る理由が増えた。で、次にこの艇に来るのが楽しみになったよ」

 シエテは本当に幼い子供が新しいオモチャを手に入れた時のように、楽しそうだった。

 それはまるで、魔法を扱えないに魔法をかけられたように――。

グラブルの空シリーズ第六段は、エルーンの耳品評会と、十天衆のシエテ中心の話になりました。
シエテとエッセルだけではなくて、十天衆全員何かしらしゃべるようにはしてありますが、それが一番大変でした。誰か漏れてないか数えるのが。
力を持たない人間でも情報を制するようになればそこそこ強くなれる、というのが今回の話ですかね。その情報を得るにも色々力技が必要になってきますが。

更新履歴:2022年05月06日