は落ち着きを取り戻したのか席に座って、続ける。
「私ね、そのユーステスが活躍する所をもっと見たいと思って、それでまだイルザさんの組織に関わりたいと思ったんだよ。でも、武器も魔法も扱えない私はイルザさんの兵士として活動できるの無理で、どうしようかと思ったら、ユーステスとマキラちゃんに教わった月の民の末裔達が残した機械技術のパソコンを思い出して、これ使いこなせればマキラちゃんみたいにまたイルザさんの組織に関われると思ってそれでシロウさんの研究艇まで行ったんだよ」
「……お前がグランサイファーを頼らずにシロウの所に行ってそのデータシステムを作ってイルザの所に戻ってきたのは全部、俺のためだってのか」
「うん。全部、ユーステスのためだよ。それ以外に何があるの?」
「……お前のそれは分かったがしかし、これ以上に俺達に関わればお前も似たような奴らに狙われ、それ見て震えていたお前の家族もただではすまんぞ」
「そこも抜かりなく。これをどうぞ」
「何だこれは」
「グランサイファーの団長さんとの契約書と、うちの家族の同意書」
「グランサイファーの団長の契約書と、の家族の同意書?」
がさっと、一枚の紙の束をユーステスに差し出した。に書類について説明されるも、ユーステスはわけが分からなかった。
「単純な話、孤児院に残ってるうちの親と兄弟達は月の襲撃者と機神が何か分からず正体不明でそれに震えてただけだったの。私がイルザさんとバザラガと一緒になって自分の家族に組織の敵である幽世の住人とか月の民の末裔達や機神が何か、それの説明すれば納得してくれてね。イルザさん達の説明でそれの正体が分かって納得したうえでうちの家族、私が組織に関わっても良いって認めてくれた。それの同意書」
「何だって? ……それよりもイルザとバザラガは、に頼まれての親兄弟を説得するためにの村まで行ったのか?」
「ふふ。がそのデータシステムをひっさげたうえで私とバザラガにそう懇願してきてね、これでは断るに断れんだろう」
「うむ。が組織に入るためにここまでやったというなら俺もイルザも、それに応えるべきだと思ったんでね」
ユーステスがイルザとバザラガの方を振り返れば、二人はその時のの様子を思い出したのか愉快そうに笑っていた。
「ひひ、この中じゃイルザ教官がに一番甘いよなぁ?」
「おまけにバザラガもね」
この中で一番に甘かったイルザとバザラガに笑うは、ベアトリクスとゼタだった。
「しかしな、イルザとバザラガの説明で敵の正体が分かっても、幽世の住人や月の襲撃者からどう逃げるつもりだ。たとえお前の父親が騎空団の団長でも、お前の家族の所に行くまでに間に合わないかもしれない」
「それも解決済み」
「何?」
「イルザさんとバザラガのほかに、グランサイファーの団長さん達も私の依頼に応じて村まで来てくれたの。グランサイファーの団長さん、そこでうちのお父さんの騎空団と協定結んでくれてね。団長さん、うちの孤児院に何かあれば近くの団員呼んですぐに駆け付けてくれるって約束してくれたんだよ」
「な――」
「うちのお父さんもそれで、団長さんのグランサイファーに何かあればすぐに手助けするって約束してくれたんだ。まあ、うちのお父さんが団長さんにしてあげられる事ってあまり無いと思うけど、協定結ばないよりは結んだ方が良いんじゃないかと思って」
「……何で急に父親の騎空団とグランサイファーで協定結ぼうと思い立った。誰かの――団長から指示を受けてか?」
「違うよ。団長さんからじゃなくて、実家に帰った時にお母さんに言われたんだよ」
「母親に何を言われたんだ」
「私に何か困った事があれば、親兄弟に頼りなさいって。私が武器も魔法も扱えないぶん、皆、無条件で私に手を貸してくれるように事前に話してあるからって」
「ああ、そういうわけが……」
「私ね、お母さんの私に何か困った事があればうちのお父さんか兄弟達に頼ればいいっていう話で、これ思いついた。私もその代わり、お父さん達にグランサイファーの団長さん達を紹介出来て良かったと思ってる。お父さんとその騎空団の仲間達も、私でグランサイファーと縁を結べたのは大きいって喜んでくれた」
「……、ほかの――すでに孤児院を出て行った兄弟達は納得してるのかそれで」
「それも解決。そこの同意書に外に出ているお兄ちゃんとお姉ちゃん達、それから結婚して出て行った妹のサインもある、確認して」
ユーステスはから渡された同意書を声に出して読み上げる。
「正体不明の幽世の住人、月に住まう月の民の末裔達と機神、それに伴う機械兵の軍団という月からの襲撃者による危険性の話は、、そして、グランサイファーの団長、が入りたいという組織のイルザとバザラガの説明により理解した。
理解したうえでカタリナ殿と違って一般兵ではあるが帝国軍の兵士なめんな、うちの騎空団も父さんやグランサイファーに負けてないはず、その時はシロウさん達とロボミとそれの量産型が街を守ってくれるし自分は研究所の地下室にこもってるので心配なく、私の塾があるバルツ国はザカ大公が居るうちは安心安全で私の弟子も多いので心配いらない、踊り子のあたしを守ってくれる男は多いから心配しなさんな、あ、組織の中でいい男居れば紹介よろしく、私の旦那様は騎士団持ってるからそれくらい大丈夫だって。
兄弟一同、を組織に入れるのに同意する、をよろしく。以上……」
「外に出ている兄弟達は、それで大丈夫だって分かるでしょ」
は胸を張って応じる。
「……施設に残るお前の母親と、幼い兄弟達はどうする。お前の父親と団長が協定を結んだところで、駆け付けるまでに月の襲撃者にやられる可能性はあるが」
「いや、村に来てくれたルリアちゃんで分かったんだけど、うちのお手伝いさんのアニーさん、星晶獣だった」
「は?」
の衝撃的な告白を聞いて、ユーステスの動きが止まる。
「うちのお母さんについてるお手伝いのアニーさんが星晶獣で、その力で孤児院守れるって言ってたから月の襲撃者が来てもうちは大丈夫!」
「いやいや、俺はお前の母親にお手伝いがついているのは聞いていたが、それが星晶獣だったって? 嘘だろ、はそれ知ってたのか」
「知らないよ。私もアニーさんの事を知ってたらとっくにユーステスに話してるし、それで孤児院守れるって分かったらユーステスと別れる必要、なかったよね」
「……」
「私、お母さんについてるお手伝いのアニーさんが星晶獣だって今まで分かってなかった。でも、組織の説明とうちのお父さんと協定結ぶのにイルザさん達だけじゃなくて団長さんとルリアちゃんも村まで来てくれて、ルリアちゃんでアニーさんがそうだって発覚したわけ。ルリアちゃんだけじゃなくてロゼッタさんもアニーさんがそうだって証言してくれてね。いやー、これには私も驚いたわ」
「……」
「私と違ってお母さんと外に出ていった兄弟達はアニーさんはお父さんが連れてきた星晶獣だって気が付いてて、お父さんの騎空団にも数人星晶獣が紛れてたみたいなんだけど、星晶獣が何かはよく分からないって話してて、団長さんとルリアちゃんから星晶獣の説明聞いて納得した風だった。お母さんもアニーさんの星晶獣の力があれば、うちはお父さんか団長さん達が駆けつけるまで大丈夫そうだって言ってくれた」
「お手伝いのアニーだけではなく、父親の騎空団にも何人か星晶獣が紛れてただって? 待て、そんな事、あり得るのか。そんな、事が――」
動揺するユーステスの肩を叩いたのは、バザラガである。
バザラガは言う。
「ユーステス、お前、と最初に出会った遺跡での話、覚えてるか?」
「と最初に出会った遺跡での話? ……ああ、ローナンから最初にあの遺跡で星晶獣の気配がするがしかし遺跡には魔物が多いと聞いているのでバザラガとゼタの二人と行けと依頼され、そこでと――まさか?」
「そう、そのまさかだ。の父親、が村を出る時になってアニーという星晶獣の力をこっそりにまとわせていたんだとよ。が父親の見付けた遺跡でお宝目当てに入るはいいが、そこで魔物に襲われたら武器も魔法も扱えないでは逃げられんからな。その時のはアニーの力で魔物除けしていたそうだ」
「アニーの力で魔物除け……。そういえば、あの遺跡で何での周りだけ魔物が発生しないのが不思議だったが……」
「うむ。俺もが迷った末でも魔物の巣窟の遺跡によく入れたなとそれが今まで疑問だったが。の父親からそれ聞いて、があの遺跡に簡単に入れたのも、後で調査しても俺達の目的だった星晶獣が現れなかったのも、以外の部屋で魔物が大量発生していたのも、それで全部納得いった」
「……」
ユーステスは納得しているバザラガと違って納得していない様子で放心状態だった。
「ってか、星晶獣を仲間にしたうえで母親の手伝いさせてるの親父さん、何者だよ。星晶獣は相手が自分の力を上回っていると認めなければ、人間に手を貸さないんだろ。それ以外にも自分の騎空団で何人かの星晶獣を仲間にしてるらしいじゃん。あたしはそこが謎で、あたしもその星晶獣のアニーさんとの父親に会いにの村に行きたかったなー。イルザさんはまだ分かるけど、バザラガだけずるくないか」
「今まで一緒に暮らしてたお手伝いさんが人間と思ってたのが星晶獣だったなんてこんな面白い話、あるかよ。それだけじゃなくて聞けばの父親も兄弟達も面白そうな奴らばかりじゃないか、私もの村まで行きたかったわ。イルザ教官もバザラガも、の家族の説得が全部終わるまで私達にの件を内緒にしてたんだもんなー、全く、この時ほどと別れたユーステスを恨んだ事はないっての」
ゼタはの父親に興味を抱き、ベアトリクスは自分もユーステスの件が無ければの村に行きたかったと悔しそうに地団駄を踏む。
「……というか、ユーステス殿、大丈夫か」
「との家族を心配してと別れたっていうのにこれじゃあ、ユーステスさんの立場ないっスよね……」
ひそひそ。ユーリとファラは、いまだに動かないユーステスを心配する。
その間にも、はイルザと話しをすすめる。
「イルザさん、私はこれで武器も魔法も扱えないけど技術者として組織に正式加入するの、認めてくれますよね」
「うむ。データシステムだけではなく、家族の同意書まで用意したであるなら、我々の組織に入る資格は十分に得ている。しかし、まだ不十分なものがあってね。に最後の試練を与えなければいけない」
「え、最後の試練ですか? 何ですかそれ。最後の試練があるなんて、聞いてませんけど……」
「この書類にサインを。これがの最後の試練だ」
言ってイルザは、一枚の書類をに差し出した。
「何ですかこれ」
は、イルザと書類を見比べる。
イルザはニヤリと笑って、その書類について説明する。
「はユーステスの見習いの契約をユーステスに破棄されてしまったからなあ、それでがうちの組織で活動するにはユーステス以外、誰かと契約しなおさなければいけない決まりがあってね」
「ユーステス以外の誰かと契約しなおす……」
「これは、がそこのアイザックの見習いとしてうちの技術者になるという契約書だ。アイザックの了解は得ていて、アイザックの名前はすでにそこにサインされている」
イルザはアイザックを見る。もつられてアイザックの方を見る。
アイザックは軽い調子でに言う。
「ああ。ボクの名前はそこにすでにサインしてあるよ。ボクはこれのデータシステムを構築したであるなら、ボクの見習いとして契約していいと思っている。それでマキラだけじゃなくてグウィンも時々、を見てくれると話してくれてね。ボクと、二人で気楽にやっていこうじゃないか」
「……」
アイザックの気持ちは本物だと、もぼんやりと思った。
イルザはもその書類にサインするよう、うながす。
「がそれにサインすればはアイザックの見習いとして、うちの組織の一員として認められる」
「アイザックさんの見習いとして契約を……」
「さあ、これにサインを。はここに名前を書くだけでいい」
「……」
契約書に名前を書けばアイザックの見習いとして晴れて、組織の一員として活動できる。
イルザの言う事はきちんと理解できるものだ。
理解しているがは、中々名前が書けなかった。
「」
「……」
はぁ。溜息が聞こえた。イルザのものだ。
「何だ、ここまできて組織の一員になるのに怖気づいたか? まあ、まだ時間はある、ゆっくり考えて――」
と。
「――イルザ、まだ誰のサインも書いてない新しい契約書持ってるだろ、出せ」
イルザにそう要求したのは今まで動かなかったユーステスだった。
イルザは、席を立って自分に契約書を出すよう要求するユーステスを面白そうに見る。
「誰のサインもない新しい契約書はあるが、どうする気だ」
「分かってるくせに。さっさと出せ」
「はいはい」
イルザは笑って、ユーステスに誰の名前のサインがない契約書を渡した。
契約書を受け取ったユーステスは、そこに自分の名前を書いた。
そして。
「」
「……何?」
ユーステスはアイザックの契約書のほか、ユーステスと自分の名前を書いた契約書、二枚の契約書をの前に差し出して言った。
「俺とアイザック、どちらの見習いが良いか自分で選べ」
「はい?」
は最初、ユーステスが何を言っているのか分からず、呆然と彼を見詰める。
「だから、はイルザの組織の一員になりたいなら俺と再契約するか、アイザックと新しく契約を結ぶか。どうする」
「どうするって。あれ、ユーステスと再契約できたの?」
はユーステスの名前が書かれた契約書と、ユーステス本人を見比べる。
ユーステスは言う。
「俺がの見習いを破棄したのは、ローナンの時の契約だ。ローナンがその管理から降りた現在、イルザの認可があれば俺と再契約可能だ。問題無い」
「……でも良いの?」
「何が」
「その、ユーステスは私が武器も魔法も扱えず何も出来ないせいで私との契約破棄したんでしょ? ユーステスはもう一度、その私と契約して良かった?」
「お前ね、何も出来ないというわりに、あのデータシステム作ったじゃないか。あれ見れば俺の見習いとしても十分過ぎる成果だ」
「……」
「それから」
「それから?」
ユーステスはと向き合い、言った。
「それから、、お前が俺に気遣って仕事場をグランサイファーやアイザックの倉庫に限定しなくていい。お前もイルザの認可が下りて俺との再契約が完了して組織の一員になるなら、拠点に出入り自由だ」
「で、でも、ユーステスと別れを告げられて契約も破棄された私が拠点に出入りすれば、ユーステスもそこに居づらいんじゃあ……」
「お前、俺がお前と別れた理由、もう一度言ってみろ」
「え、ええと、月の襲撃者から私と私の家族を守るため……あ」
「気が付いたか、そういうわけだ。俺はお前が嫌になってお前と別れたわけじゃない」
「ええ、そんな単純な話だったの?」
「そう、ただそれだけの単純な話だったんだ。それがお前の力で解消されたというなら、俺もお前と関係を修復したいと思っている」
「それじゃあ……」
「お前がアイザックの見習いを選んだとしても、俺との関係は今まで通りだ。それだからがそこを気にする必要は無いし、それに……」
「それに?」
「……」
「ユーステス?」
「……」
「?」
は心配そうに顔を覗き込むも、ユーステスは中々答えない。
ところで。
「――おい、ユーステス、にちゃんと自分の気持ちをはっきり伝えたらどうだ。はちゃんと君に自分の気持ちを伝えてるだろ、それに、ボクもとやりづらいだろうが」
中々気持ちを吐き出さないユーステスに向けてはっきりとした声でそう言ったのは、アイザックだった。
アイザックに言われたのがきいたのかどうか。ユーステスは決心したよう、にその気持ちを吐き出した。
「俺はお前が倉庫でアイザックと二人きりで居る方が気分悪いと思った」
「!」
ユーステスのその言葉は、その気持ちは。
「それからが俺と一緒に暮らしてた家も、なら出入り自由だ。俺が組織の仕事を休んでいる間は、はアイザックの倉庫より、そこ使え。俺もお前と離れている間、お前がそばに居ないとどうも落ち着かなかったし、あの家にもお前が居なければ俺がそこに居る意味が無いとも思った」
「ユーステス……」
「お前がしかし、俺と再契約をしたくないしそういう関係ももう嫌だ、アイザックのもとで勉強したいというなら、アイザックと契約すればいい。選ぶのはだ。俺かアイザック、好きな方を選べ」
「私は……」
選ぶ以前に、もう決まっている。
ここまできた理由を。
ゼタ達もの動向を静かに見守る。
そして。
「私、ユーステスと今までの関係に戻りたいし、それでユーステスの方選ぶ!」
決まれば早い。
「イルザさん、これどうぞ!」
は悩んでいたアイザックの時と違ってユーステスの名前の隣に素早く自分の名前を書いて、それをイルザに提出した。
「ユーステスはを自分の見習いとして契約する――」
イルザはそれを確認したのち。
「この私――イルザがはユーステスの見習いとして、組織の一員として活動するのを許可する。以上、契約完了。これでは晴れて我々の組織の一員として認められた。ようこそ、歓迎する」
「――」
一瞬、場が静まり返ったかと思えば――。
ぱちぱち。一人が拍手をしたと思えば、その拍手の音は次第に大きくなって、最後は全員でを称えるように拍手が鳴りやまず、「おめでとう!」と、ほかの兵士達から歓声が上がった。
「、よくやったな! が正式にうちらの仲間になったんだ、こんな嬉しい話があるか!」
「ああ、私もが正式な仲間になってくれて嬉しいぞ、これからもよろしくな! おまけにユーステスとの関係も修復させるなんて、やるな!」
拍手が鳴りやまない中でゼタとベアトリクスは遠慮なく、の背中をバシバシ叩く。
「やれやれ、やっととユーステス殿の関係も元通りか、これで団長殿もゆっくり寝れるな」
「カタリナ先輩もが組織に入れるかどうかより、とユーステスさんとの関係を心配してたっスからねー。良かったっスよ、本当に」
ユーリとファラも兵士達と同じようにに拍手を送りながら、笑いあう。
「……と関係を修復したユーステス、お前に話がある」
「何だ」
ゆらり、と。
ユーステスの背後に立って彼の肩を叩くは、バザラガである。
バザラガは笑いを堪えながら、ユーステスに向けて言った。
「俺がイルザと団長達とでの村に行った時、の父親からお前にと伝言を預かったんだが」
「何だって?」
「の父親、に激甘でなあ。そのが戦場で死なせるのが嫌だからそれに興味持たないよう、武器も魔法も扱えないように育てたんだと」
「ああ、それで……。しかし、俺は戦場でしか生きられない人間で、団長も同じだ。それで良くを俺達の所に預けたな」
「それも聞いた。お前との付き合いは反対していたがと戦場に生きるお前がそこまで持たない、いつかお前が嫌になって別れるだろうと思って静観していたとか」
「……」
「しかしそれに反するかのようにお前がにグランサイファーの団長を紹介したと知った時は、をそこから無理やりにでも連れ戻そうとも思ったらしい」
「……」
「だが、お前と別れもしないで団長達とも楽しそうなを見ていると、自分の家族達だけではなく騎空団の仲間達からもを彼らと突き放すのは止めた方がいい、それやればの方から嫌われると言われ、父親はをそこから連れ戻すのを諦めたらしい」
「そういうわけがあったのか……」
「それでもの父親は俺達にも最初はと戦場に生きるお前との交際を反対して渋っていたが、イルザと団長の説得でお前がとの家族を心配したうえでと別れたという話を聞いて、最後はそれに納得して観念した風にお前と一度会って話がしたいと言っていた」
「……俺がの父親に会うくらいなら構わんが、それでお前は何故、笑っている?」
「いや。の父親、団長達でお前のその心配が解消されて再びと交際を続けたいなら、俺に一度勝負を挑んでこい、俺に一度でも勝てばとの交際を認めてやる、だと」
「……の父親、アニー以外、自分の騎空団でも星晶獣を何人か仲間にしていると聞いているが?」
「うむ。ゼタが話していたよう、人間が星晶獣を仲間にするには団長のように彼ら以上の力を上回っているか、それ以外では彼らの納得する素材を渡さないと星晶獣を仲間にするのは難しいと聞いている。俺とイルザだけではなく、ルリアとロゼッタもの父親の騎空団にも何人か星晶獣の仲間が居るのを確認済みだ。まあ、頑張れ」
「……」
ふふふ。ユーステスを心配しているのかしていないのか笑うバザラガと、バザラガの話を聞いて頭痛がして頭を押さえるユーステスと。
そして。
「、お前の父親の話だが――」
ユーステスはバザラガから聞いた話の確認を取るため、に近付いた時に彼女の様子が分かった。
「う、うう」
「お、おい、こんな所で泣くな!」
拍手の中でも泣き出したと、それに慌てるユーステスと。
が泣く様子を見た兵士達も拍手を送るのを止め、店内は再び静かになる。
ぽろぽろ大粒の涙を流しながら、は。
「だ、だって、私のやってきた事が無駄じゃなかった、またもう一度ユーステスの所に戻れただけでも嬉しいのにそれだけじゃなくてユーステスの彼女に戻れたのが一番嬉しい、これ夢? 夢じゃないよね、夢だったらもっと泣きそう」
「……」
ユーステスは最初、泣き止まないをどうしようかと思ったけれど。
「――これ、食べろ」
「ふぇ?」
の前に美味しそうなスパゲティが差し出される。
何かと思えば今まで黙々と料理を食べていたカシウスだった。
「これ食べれば夢じゃないって分かるし、元気にもなれるそうだ。食べろ」
「……美味しそう。良いの?」
「うむ。アイザックの親がお前に持っていけと」
「あ……」
カシウスの示した方には、料理を持ってきたアイザックとグウィンの親が手を振っているのがも分かった。
はカシウスの持ってきたスパゲティを一口。
「美味しい。こんな美味しいの、食べた事ない」
「色々食べ歩いたが結局、此処の料理が一番美味い。、お前も組織の一員だというなら、此処の料理を覚えて損はない」
「ありがとう……」
食べているうちに涙も止まって、カシウスのおかげでいつものに戻った。
ユーステスはカシウスの仕業に参ったよう溜息を吐いた後、イルザの隣からの隣に移動してスパゲティを食べるを優しく見守る。
「まさか、カシウスに全部持っていかれるなんてね」
「まあいいじゃないか。これでカシウスもを組織の一員として認めたって事だよ」
カシウスの仕業に呆れるのはグウィンで、アイザックも肩を竦めて苦笑するだけで。
そして。
「今夜はこのまま、この店で新入り達との歓迎会を続ける。全員、大いに飲んで楽しめ!」
わあ。イルザの号令を聞いて、兵士達から再び拍手と歓声が上がり、新入り達との歓迎会は夜遅くまで続いたのだった。
そして、それから。
「、お帰り!」
「お帰りなさい!」
「ただいま!」
は組織の一員になってそれから二日後にユーステスと揃ってグランサイファーに帰れば、イオとルリアに抱き着かれ、グランとビィもの手を取って喜び、カタリナ、ロゼッタ、ラカム、オイゲン、ファスティバとジャミル、ローアイン、トモイ、エルセムからそれぞれ歓迎を受けたのだった。
がユーステスと団に帰ってきたという知らせを聞いて、ほかの団員達も続々と集まってきて、夜はすっかり宴会と化した。
コルワ、メーテラ、スーテラの三人はさっそくを囲んでユーステスとの関係がどうなってるのか聞いてが照れ臭そうに彼と関係を答えるたびに「おおー」と拍手と歓声が上がっていた。
メグはアウギュステの町長になったばかりのまりっぺを連れて現れて「今度、まりっぺがアウギュステでカップル向けのイベントやりたいっていうから、もユーステスさんと一緒にそれの会議に参加しなよ。それにタヴィーナさんも来てくれるって」と、まりっぺと嬉しそうに彼女を誘っていた。
ユエルはソシエ、コウ、ヨウの四人で「これぞうちらの真骨頂やで!」と歓迎の舞いを披露、「皆さんでどうぞ!」とジュリエットはデボラ、ロミオの三人と一緒になって嬉しそうに最高級のチョコレートを全員にふるまい、「こっちも焼きたてです、どうぞ!」サラもそれに便乗してボレミアと一緒に手作りのお菓子を配って歩いた。
「覚悟!」
シルヴァとナルメア達はユーステス相手に手合わせを挑むもあっさりと彼に負けて、それでもすっきりした様子で笑いあい、カリオストロとクラリスはユーステスに薬を飲ませようとするも失敗して反対にグラン達に返り討ちにあうもファスティバとローアインから自分の好きなオムレツとデザートを用意されて最後はご機嫌な様子だった。
「は私の一番の妹!」
「……姉さん、が困ってる」
「……(シエテは、あそこまでテンション高いエッセル見たら卒倒するかもなぁ)」
が戻ってきたと分かって彼女に抱きついて嬉しそうにほおずりするのはエッセルで、それに呆れて引いてるのはカトルとシスだった。
「、の兄弟の中で魔法使いとして見込みありそうな妹が居るんだって? 今度、その子、連れておいでよー。あたし達と一緒にマナリア学園、見学しよ!」
「の妹が私達の後輩になるのは、私も嬉しいかも」
「……(アン様とグレア君の間にさんの妹が入るのは微笑ましいですね!)」
アンとグレアはの兄弟の中に魔法使いの素質がある妹が居ると聞いて嬉しそうににマナリア学園のパンフレットを手渡し、将来、マナリア学園でアンとグレアとの妹の三人が揃う場面を妄想して笑顔になるのはオーウェンだった。
白竜騎士団もランスロットとヴェインだけではなくてパーシヴァルにジークフリートも来ていて「ラカムが居ないときの預かり先でうちに来ないか」とさっそくを誘うも、「俺のに何やってる」と、ユーステスに睨まれてそこからすごすごと退散する羽目になった。
に声をかけただけでユーステスに睨まれるというのは白竜騎士団ではなく、ほかの男の団員も同じ目にあっていた。
「前までは気軽にを誘えたのに、これからはユーステスの許可を取らなくちゃいけないのか……」
というのが、男達の間で震える要素になってしまったという。
そして、彼らの中で一番変化があったのは。
「」
「やあ」
「あ、スツルムさんにドランクさん、いらっしゃい」
スツルムはドランクを伴い、の前に姿を見せる――が。
「……」
「……」
「……」
「スツルムさん?」
「……」
「……ええと」
スツルムはジッとを見詰めるだけで、何も答えない。
「ドランクさん! て、ひっ?!」
スツルムはいつかの時と同じくドランクに助けを求めるの手を取り、彼女に何か手渡した。
「スツルムさん?」
それは一枚のメモだと気が付いて、はそれとスツルムを見比べる。
スツルムはに顔を近付け、言った。
「、これ、アタシの個人的な連絡先だ」
「え」
スツルムは戸惑うに構わず、続ける。
「、それから、の家族に何かあれば、遠慮なくこのアタシを呼べ。の家族にもその連絡先を伝えておいてくれるか」
「……良いんですか?」
「ああ。とその家族が守れなくて、なんのための傭兵だ。何かあればアタシを大いに利用しろ、いいな」
「スツルムさん……、ありがとう」
はスツルムの気持ちを受け取るよう、彼女の連絡先を受け取った。
が復帰してからはスツルムと同じよう、との家族に向けて個人的に自分の連絡先を渡してくる団員達はあとを絶たなかったという。
と。
「スツルム殿だけずるい、僕もちゃんとちゃんの家族に僕の連絡先を――ごふっ?」
「はドランクの連絡先は受け取らなくていい。自分の家族に余計なちょっかい出されたくなかったらな」
「あはは、スツルムさんの言う通り、家族にはドランクさんの連絡先だけは伝えないようにします」
は、スツルムの鉄拳であっさり沈むドランクを見て、久し振りに笑う事が出来たのだった。
「こんなのでどうかしら」
そのをルナールは嬉しそうにスケッチしていて、それをいつものおこたみメンバー、マキラ、メリッサベル、ミラオル、ザーリリャオーの四人に披露する。
「良いんじゃないですか」
「あれ、でも、今は不在のユーステスも付け足してる?」
イラストの中で笑うを見て微笑むのはマキラで、イラストのの隣に今は不在のユーステスを見付けて不思議そうに言うのはメリッサベルだった。
「良いじゃない、はユーステスと二人揃ってる方が、キラキラしてる」
「ですね」
ミラオルはそう言って微笑み、ザーリリャオーもそれに同意したように笑っていた。
オマケ。彼と『彼』の話を少しだけ。
夜。
とある家にて『彼』の姿はあった。
ユーステスはそこで彼の姿を認め、近付く。
彼の方もユーステスを認め、手をあげる。
「よく此処が分かったね?」
「……、俺のパソコンに前の連絡先をまだ残していたお前がそれ言うか、ローナン」
「『彼女』のためにお前と連絡先は残していた方が良い――そう、お前と別れた後の私の所にわざわざ来てくれた団長から、アドバイスをもらったのでね」
「何、団長は、俺の知らない間に俺と別れたお前の所までわざわざ来ていたのか?」
「そうなるね。団長によればそれが彼女のためになるから、と。団長が言うにはこれはあくまでも彼女のためであって、お前はそのついでだとさ。お前、団長にそこまで言われて私にまだ復讐心を燃やすか?」
「……」
あの団長はどこまでも人が良すぎる。ユーステスはグランに参ったよう、ローナンを前にするも復讐心はすでに消え、ソファに深く腰を落とした。
彼――ローナンは紅茶を片手に、グランの話で落ち着きを取り戻したユーステスを面白そうに見詰める。
「それで? お前が私の前にもう一度来た理由を聞こうか?」
「……団長から俺と彼女との話を聞いてるなら、分かってるだろう」
「何を?」
「ローナン」
「はは、彼女との話はお前の口から直接聞かなければいけないだろう。それが親の務めというものだ」
「……」
ユーステスは観念したよう、ローナンに彼女との話――がデータシステムを作ってイルザの組織の一員になったという話を聞かせた。
「ふむ。彼女のデータシステムは、私もイルザ経由で見せてもらったが、あれはとても完成度が高いもので組織にも役立つ代物には違いない。それで彼女が技術部で組織の一員として活動できると判断して、彼女を組織の一員と認めていいと了解したわけだ」
「待て、イルザ経由でというのは、お前、団長だけではなく、まだイルザと繋がってたのか?」
これにはユーステスは初耳で、焦った様子でローナンに詰め寄る。
ローナンはユーステスと違って涼しい顔で、あっさりとそれを打ち明ける。
「うむ。月の民の末裔達の技術だけではなくて封印武器や機神の事もあるからな、時を見計らって、イルザ隊と合流しようとは思っていた。それで私はイルザとも密かに繋がっていたわけだ」
「しかも、彼女はお前が組織の一員として活動できるのも了解したって、イルザの隊の新入りの審査もお前が関わってたってのか?」
「ああ。イルザ隊は彼女だけではなく、私の目を通してほかの新入りも密かに私が審査させてもらった。イルザの試験に受かった新入り達は、私の審査に受かった人間でもある」
「……それじゃあ、彼女がシロウの研究所で頑張っていた話も全部聞いていたと?」
「ああ。それは否定せん。彼女のそれは、イルザと共有させてもらっている。それで団長だけではなく、イルザからも組織に入るためにここまでやった彼女のためにも、ユーステス、お前と早いうちに和解してくれと懇願してきてね。私はイルザ達や団長達でお前の機嫌が収まるまでは静かにしていようと思っていたが――、まさか、彼女のおかげで早いうちにこうしてお前と話ができるとは思わなかった」
「……」
くつくつ笑うローナンと、グランだけではなくてイルザの仕業に参ったように天井を見詰めるユーステスと。
ローナンは面白そうにユーステスを見詰める。
「それで? お前は、お前のために組織の一員となった彼女と本気で交際を続ける気か?」
「……ああ。そのために一応、お前と話をつけにきたんだ。彼女からも、自分と交際を続ける気ならお前と話をした方が良いと言われてそれで」
「はは、お前もう彼女の尻に敷かれてるのか」
「うるさい、知るか」
笑うローナンと、それから視線を逸らすユーステスと。
ローナンは紅茶を一口飲み、ユーステスを振り向かせるためにとびきりの話を聞かせた。
「そうだ、お前はもう、彼女の父親と会ったのかい?」
「それは、まだ。しかし、彼女の父親と会う約束はしている」
「そうかい。それなら、彼女の父親と会った事のある団長かイルザと相談してそれの対策を練った方がいい。団長と同じく星晶獣を仲間にできるほどの腕を持つ父親と対峙するには、お前でも一筋縄ではいかんぞ」
「は? ローナン、お前、彼女の家と彼女の父親について知ってたのか」
思った通りで、ユーステスは自分の方を振り向いてそれに食いついてきた。ローナンはユーステスのその様子を見て内心では笑うも、表では冷静に話している。
「白状すると、彼女がお前に連れられてこの組織に来た時にはもう、彼女と彼女の家族については、個人的に調べがついていた」
「……、イルザは彼女のそこまで調べられていなかったようだが?」
「イルザは現場主義で戦場で使える人間しか興味はなく、兵士達の個人情報はあまり興味を示さなかった。お前もイルザのそれ、知ってたんじゃなかったのか」
「あ……」
ユーステスはイルザのそれをすっかり忘れていた。
「お前、イルザのそれ完全に忘れてたな。私の場合はそのイルザと違って、兵士の個人情報は重要視しているのでね。正体不明の幽世の住人や、月の襲撃者から戦うには彼らの家族関係も把握しておかなければいけない。そうしなければ後々、面倒が起きる」
「……」
「それで、彼女の家についてはすぐに分かり、彼女がそこで父親の影響で武器も魔法も扱えないような教育を受けているのも納得した次第である。そして、彼女の母親は孤児院の施設長兼村長でそのお手伝いが星晶獣、父親が騎空団の団長、更にそこにも星晶獣が何人か紛れているというのもね」
「……」
「彼女が武器も魔法も使えなくてもそこまでの家であるならお前の相手に申し分なし、更には彼女自身は使い物にならなくても彼女の家とそこに集う星晶獣達が組織の役に立ってくれると見込んで彼女をお前の見習いとしてつけたわけだ」
「ローナン、お前……」
ユーステスは、最初、ローナンがを自分の見習いとしてつけたのはではなく、の家目当てというのが分かって不愉快になるが。
「何、私も一応、お前の親だからねえ。彼女がたとえお前目当てに組織の試験に合格しても、お前におかしな女をつけるわけにはいかんだろう。彼女はお前を使って組織の情報を盗んだり、内部をかき乱していくスパイの可能性だってあったからな。彼女がそういう素性も知れない者であるならたとえイルザの頼みでも、お前につけるのは断っていたよ」
「……」
――あそこまでの親バカは居ないだろうさ。ユーステスは以前、居酒屋でイルザに言われた言葉を思い出し、再びソファに深く座り直した。
ローナンは改めて言う。
「いやしかし、親が凄い人間ではあってその親の意向で武器も魔法も扱えない彼女がお前のためだけにあのデータシステムを作り上げ正式に組織の一員となるとは、私も思わなかった。彼女の成長は、イルザだけではなく、私も注目している」
「あ……」
そしてユーステスは決心したよう、ローナンに向けて言った。
「……ローナン、イルザで組織の一員になったという彼女と――と、いい時に会ってくれないか。もようやく組織の一員になれたので、お前と会いたいと話していた」
「了解、了解。時間と場所はお前が決めてくれ。お前から私も彼女に会えるのを楽しみにしていると伝えてくれないか」
「……了解した。それじゃ、次の休みにでも」
言ってユーステスは、静かに部屋を出て行った。
「彼女のおかげで、あいつの成長も見られるとは。さて、あいつの彼女がこの私をどういう風に楽しませてくれるか、今から楽しみだな」
ユーステスが出て行ったのを見てからローナンはふと、目を細めて眩しそうに空を見上げた。
その日は、雲一つ無い澄んだ青い空が広がっていた――。