空と月と彼女の話(05)

 それから更に日が経った数日後の夜。

 が孤児院を出て、二か月。

 ユーステスは、イルザとバザラガの指定通りの場所に姿を見せた。

「よう、久し振りだな。元気にしてたか」
「……」

 バザラガはユーステスに気さくに声をかけるも、ユーステスは何も答えない。

 バザラガは構わず、続ける。

「この数日、お前が何かのうっぷんを晴らすように古戦場で魔物狩りをやっているのを聞いていたが、酷い顔だな」
「……、そこでフラメクとそれ以外、お前達と別れて遺跡であさっていた銃の試し撃ちをしていて、あまり寝てない。お前とイルザの呼び出しでなければ、此処まで来なかった」

「何故、此処にお前が呼び出されたか分かってるか」

「イルザとお前が作ったという新しく編成した部隊の顔見せ、だったか」

 ユーステスにバザラガはうなずく。

「その通り。イルザは幽世の住人、及び、月の民の末裔達の襲撃者と機神の暴走によって、何人か自分の兵士を失ったからな。イルザと俺は、この数日、それの補充と訓練に明け暮れていた」

「イルザと共にそれに関わったお前は分かるが、俺が必要か? 俺はもう、あの組織から――ローナンから手を引いた身だが」
「イルザは、ローナンから離れたとしてもお前にはまだ協力して欲しいと話していた。俺達は同じ封印武器の持ち主で、同じ敵から狙われてる身で情報の共有化は必要、ローナン抜きにしても組織化はしておいた方がいいともね」
「今度は、イルザが俺の上官になるのか」
「悪くないだろ?」
「……検討する」

 次にユーステスは、待ち合わせ場所の店の看板を怪訝な顔で見て、バザラガに聞いた。

「しかし、イルザとお前の成果物のお披露目に何故、グウィンの親の店が選ばれたんだ」

 ユーステスがバザラガと約束した場所は、グウィンの親が経営するレストランだった。レストランの入り口には「本日貸切」と張り紙があった。

 しかも。

「しかも、けっこうな人数が集まってるな。目視で二十人以上か。イルザ達だけならまだいいが、あいつの兵士は戦闘用のスーツで武装しているぶん、グウィンの親も迷惑してるんじゃないか」
「グウィンの親はドラフで腕っぷしも強いと聞いているし、アイザックとグウィンで俺達の事情を聞いたうえで、イルザの武装した兵士達を見せても動じなかった。第二の拠点としては、悪くない。料理も美味いしな」

「……」

 バザラガは最後に愉快そうに笑うも、ユーステスは笑えなかった。

「入るぞ」
「……」
 
 ユーステスはバザラガを先頭に、グウィンの店に入った。

 店にはイルザの部下である武装した兵士達が数十人所狭しと集まっていて、席につけない兵士達は立ったまま飲み物を手にして思い思い談笑していた。

 しかし。

「……」

 ユーステスが店に姿を見せた途端、場が静まり返り、妙な緊張感に包まれる。

 ……居心地が悪い。ユーステスは気にせず前を歩くバザラガについていくしかない。

 と。

「あ。バザラガ、ユーステス、こっち、こっち!」
「ユーステスは、イルザ教官とバザラガの言う事はちゃんと聞くんだよな」

 中央付近の席で席を立ってこちらに来るように手を振るのはゼタで、そちらに近付けばゼタの横でベアトリクスはそれが面白くなさそうに言った。

 しかも。

「今回はイルザの新部隊のお披露目だと聞いたが、何で関係の無いお前達まで同席している?」

「やだなー。私とユーリは、立派な組織の関係者じゃないっスか!」
「ああ。俺とファラはもう、この組織と切っても切れない縁を結んでしまったからな」

 ゼタ達と同じテーブルに座るのは、カタリナの後輩のファラとユーリだった。

「それからグランサイファーの団長殿とカタリナ殿から『彼女』の勇士を見届けて来いと言われてるんでね、それでイルザ殿からも同席を許されたわけだ」

 ユーリの話を聞いたユーステスは、怪訝な顔を見る。

「彼女? ……誰の事を言っている? 此処に団長とカタリナの関係者――帝国軍の兵士でも紛れているのか?」

「うひひ、これは最後までお楽しみっスよー」
「だな」

「?」

 ファラとユーリにニヤニヤ笑われるも、ユーステスは二人のいう「彼女」が誰をさしているのかはこの時はまだ分かっていない。

 そして一番驚いたのは。

「アイザックは分かるが、カシウスも来ていたとは」

「うむ。今まで色々食べ歩いたが、此処の料理が一番美味い」
「はは、うちの店の味がカシウスの一番に選ばれるのは光栄だね」

 カシウスの前にはすでにスパゲティが置かれ、それを黙々と食していた。カシウスの隣でアイザックは笑い、そこで彼はパソコンで何か操作している。

「イルザ」
「来たか。これで全員揃ったな」

 ユーステスはイルザの隣に座り、イルザもそれに関しては何も言わずに受け入れて此処で店に集まった人間達の顔を見回し、そして。

「全員揃った所で、新しく加わった兵士達の紹介を――」

 と。

 がしゃんっ。

 店内に何か落とした音が響いた。

 店内に居る全員がいっせいにそちらの方を振り返る。

「ちょっと、何やってんの!」
「ご、ごめん、久し振りに実物見たらドキドキしちゃって手が震えて、それで……」

 あわわ。グウィンが慌てて席を立って布巾を持ってくる姿と、彼女の隣に座っていた兵士の慌てた声がユーステスの耳にも聞こえた。

 どうやらグウィンの隣に座っていた兵士がテーブルにグラスの水をこぼしたようだ。

 月での功績を認められて封印武器とそれに耐えられる特別な青い鎧を与えられて見事に昇進したというグウィンとは違い、ほかの兵士と同じデザインの鎧を身に包み、顔も兜で分からなかったが、その声と体つきから女性であるというのはユーステスでも分かった。

 グウィンはテーブルにこぼした水を拭きながら、女兵士に向けて言った。

「もう。これくらいで動揺してたら、アンタが此処まで来た意味がないでしょうに」
「そうなんだけど。でもこの戦闘用のスーツ、意外と重たくて、もう脱ぎたい気分なんだけど。皆、よくこれで戦えるね」

 ははは。女兵士の感想を聞いて、周りの兵士達から笑い声が漏れる。どうやら彼女で場の緊張感がほぐれたようだ。

 グウィンは女兵士に向けて続ける。

「全く。分かるけどこれくらいで音をあげてちゃ、それこそ、彼のそばに行けないよ。もう少し我慢しなさい。彼のために頑張って此処まで来たアンタなら、それくらいこなせるでしょ」
「……」

 女兵士はグウィンに言われてようやく、大人しくなった。

 店内の雰囲気も、すぐに元に戻った。

 ユーステスはグウィンと女兵士とのやり取りを聞いていて不安になって、隣のイルザに聞いた。

「あいつ、新入りか?」
「ああ。彼女は、我々の組織に正式加入した新入りの一人だ」
「あの戦闘用のスーツが重たいって今更言う事か。大丈夫かあれ」
「問題ない。お前はしかし今ので、気が付かないか?」
「何を?」
「まあいい、あとのお楽しみだ。それでは、今回、私とバザラガの厳しい入隊試験を突破した新入りの紹介を再開する。まずは――」

 そうしてイルザの新しく入ってきた新入りの紹介は、何事もなく進んでいった。

 新入りの兵士達はイルザの合図で兜を取って顔をさらしたうえで、自己紹介をしていった。兜を脱いで顔をさらせば何人かの女性の姿もあったがしかし、ユーステスにとってはあまり興味はなかった。

 この中でユーステスが唯一興味を持ったのは、グウィンの隣に座る女兵士だった。

 イルザで新入りの紹介が進む中でグウィンの隣でも彼女は、緊張しているのか落ち着かない様子だというのが分かった。

「……」

 ユーステスが彼女を見ていると彼女の方もこちらを見ているのに気が付いて、兜でも目があったと分かれば、彼女の方から慌てて逸らされてしまった。

 そのあとも見られてる? と思ってユーステスが彼女の方を見れば目があって、しかしまた逸らされる始末で、それが何回か続いた。

 ……グウィンの隣の女兵士は自分を気に入ったのだろうか。この顔で女の方から声をかけられるのは、よくある話だ。それを利用して女と関係を持つ事もあったがしかし、『彼女』が家に来てからは女関係は控えていた。ユーステスはその女兵士に自分を見られるのはどういうわけか悪くない気分だったが、この一件がイルザ達から『彼女』に伝われば実に面倒臭いと思った。

 ……いや、『彼女』とはとっくに別れているのに何を気にする必要がある? 『彼女』も自分を忘れて、別の男と付き合っているかもしれない。
 ……。
 じきに気になる女兵士の紹介の番もくる。女兵士の素顔を見て判断するのも悪くないなと、ユーステスがそう決めた時。

「――以上で、私とバザラガの厳しい訓練と試験を乗り越え、晴れて我が戦闘員として入隊した新入りの紹介は終わりだ。例の月の事件で兵の管理をしていたハイゼンベルクとローナンがこぞって抜け組織そのものが解体されたおかげで、今の私の力量では、これが限界である。新入りの中でも何か分からない事があれば、此処に集うユーステス、ゼタ、バザラガ、ベアトリクス、グウィン、それ以外の先輩兵士に聞くように。ゼタ達も、新入り達から何かあれば応じてやって欲しい。以上」

 ぱちぱち。

 どうやらイルザの新入りの紹介が終わったようで、ゼタ達から新入りに向けて拍手が送られる。新入り達も照れ臭そうに頭を下げながら、各々、席につく。

 しかし。

 ユーステスはたまらず、隣のイルザに声をかけた。

「イルザ、これで新入りの紹介は終わりか?」
「ああ。これで全員だ。何か問題でも?」
「グウィンの隣に座る彼女の紹介がまだじゃないか?」
「何だお前、グウィンの隣の彼女が気に入ったのか? 抜け目ないな」
「そういうわけじゃないが……」

 ニヤニヤ笑うイルザと、余計な詮索はされたくなくそこから視線を逸らすユーステスと。

 イルザは溜息を吐いた後、ユーステスに言う。

「グウィンの隣に座る彼女は戦闘員ではなく、裏方扱いだ。彼女を省いたわけじゃなく、今から新設する部署と一緒に紹介しようと思っていた」
「彼女が裏方扱い? しかも部署を新設? 全然話が見えて来ないが」
「月の一件でハイゼンベルクが去ったはいいが、同時に我々の持つ封印武器や月の民の末裔達が残した機械に精通したエンジニア達も彼に数人持っていかれてしまったのでね、私とバザラガで新しい部署を設立した」
「何の部署だ?」

 ユーステスは、イルザの話を聞いても自分の知らない情報ばかりで戸惑う。

「アイザック、出番だ」
「やれやれ、やっとか」

 イルザの合図で、アイザックが席を立ち、ユーステスの前まで来る。

 そしてアイザックは、戸惑うユーステスに向けてその手を差し出した。

「イルザとバザラガが立ち上げた新しい部署――技術部初代部長に就任したアイザックだ、よろしく」
「技術部初代部長、だって?」

 アイザックはユーステスに気さくに応じたつもりだったが、ユーステスは怪訝な顔をしてアイザックを見ている。

 アイザックはユーステスに構わず、自分の仕事内容を説明する。

「組織の技術部の仕事は月の民の末裔達が残した技術を活用した管理システムの構築、あるいは、君達の持つ封印武器のメンテナンスや強化を行う部署だ。まあ、今のところ、ボクと彼女の二名だけなんだけど、時々、十二神将のマキラも様子を見に来てくれるのを約束していて、カシウスさえ良ければ、カシウスも入ってもらうつもりだ」

「アイザック、お前、月から空に戻っても俺達の組織に関わるのか」

「ああ。イルザとバザラガから、戦闘員はまだなんとかなるが、月の民の末裔達が残した機械技術や封印武器のメンテナンスに関して人手不足だと泣きつかれてね。ボクも君達にはとても世話になった、それの恩返しをするのにこれが丁度良かったんだ。それに……」

「それに?」

 アイザックはグウィンの隣に座る女兵士を眩しそうに見詰める。ユーステスもつられて女兵士を見る。

「それに、イルザから彼女の教育と育成を任されてね。彼女はボクの見習いとして、ボクと同じ技術部に入った次第だ」
「何だって? 彼女がお前の見習いという事は、彼女も月の民の末裔が残した機械を操作出来るってのか?」
「ああ。彼女の機械を操作する腕は、このボクもうなるほどだった」
「それでは彼女も、お前と同じく月の民の末裔の一人か?」
「いや。彼女はれっきとした空の民の一人だよ」
「それでどうして機械操作が出来る。もう一つの可能性はハイゼンベルクかローナンの置き土産だが……、彼女は信用できるのか?」
「彼女の経歴は異色ではあるが、彼らとの関係は無いに等しい。それの疑いを持つ方がバカげている」
「どうしてそう言い切れる。月の民の末裔が残した機械技術は、以前の組織ではローナンとハイゼンベルク達がまだ何か隠し持っている様子だった。月の民の末裔ではなく空の民がそれを操れるというのは、色々な可能性を疑った方が良いと思うが……」

「ぶはっ」

 ユーステスは腕を組み、彼女の素性について色々思考をめぐらす中で、堪えきれずに噴き出したのはベアトリクスだった。

「イルザ教官、ユーステスのバカにそろそろ種明かししてやったらどうです? あはは、こんな面白い事、滅多にないですけど、あいつがそろそろ可哀想になってきたわ、あはは!」

「ひひ、あたしもまさかユーステスがここまで間抜けとは思わなかったわ。どっかで気付くと思ったんだけどなー。最初に水こぼした時とか気付かれそうで、冷や冷やしたもんだ。ベア、まだユーステスで楽しめそうなら楽しんだ方が良いって。なあ、バザラガ」

「……、イルザ、種明かしの時間だ」

 ベアトリクスと一緒になって腹を抱えて笑うのはゼタで、ゼタに言われるもユーステスが気の毒になってイルザに種明かしするようにうながすのは、バザラガだった。

「うむ、そろそろ限界か。新入り、もうその重たい兜を取って良いぞ」

 イルザはバザラガにうながされ、新入りの女兵士にそう合図を出した。

 そして。

「グウィン、悪いけど兜取るの手伝ってー」
「はいはい。最後まで世話焼けるんだからもう。まあ、そういう所、アンタらしいけどさ」

 グウィンは笑って、女兵士の兜を取るのを手伝う。

「ふは、やっと取れたー。兜の中、ムシムシしてたから、生き返るー」

 兜を取って素顔を晒した彼女を見て、ユーステスは。

「――?」

「じゃじゃん、この兵士の正体は私でした! ユーステスはやっぱ絵より、実物の方が格好良いね!」

 女兵士――はへらりと笑って、驚くユーステスに向かってそう言い切ったのだった。

 ユーステスはそのを見て周囲を気にせずたまらず、声を張り上げる。

、何でお前が此処に居る。しかも何で兵士と同じ戦闘用のスーツを着ている!」

「イルザさんとゼタ達から、普通にユーステスの前に現れても面白くない、正体隠して兵士さん達に紛れてユーステスの様子を見たらいいって言われてそれで」
「お前、それに乗ったのか」
「ごめんなさい。イルザさんとゼタ達が私でどうやってユーステス驚かそうかって張り切っちゃって、それ断れなくてつい……」

 兵士姿のを不愉快に思うユーステスと、ユーステスに素直に謝ると。

「お前達もグウィンの隣の彼女がだと、知ってたのか」

「いやあ、此処で兵士として紛れてるを見たユーステスさん、カタリナ先輩もどういう反応するのか見たかったって言ってたッスよー。ひひ、これは予想以上の反応、カタリナ先輩への報告、楽しみッス!」
「はは、団長殿もでユーステス殿の驚く顔を見てみたかったって、悔しそうだった。俺も団長殿達にこの時のユーステス殿について話すの、楽しみだな」

 ファラとユーリもでユーステスの驚く顔を見て、遠慮なく笑う。

 ユーステスはこれには本当に参ったよう、と向き合う覚悟を決める。

、お前な、俺がお前と契約を破棄してまでお前と別れたの知ってるか」
「知ってるよ。月の襲撃者から私と、私の家族を守るためでしょ?」
「それでどうしてこの場に現れた。しかもアイザックの見習いだって? お前にはアイザックの助手は無理だ、諦めて実家の孤児院かグランサイファーに戻れ」
「何よ、私だってマキラちゃんの手伝いがあったとはいえ、自作のパソコン完成してるし、シロウさん達からもこれならアイザックさんの助手として活動できるってお墨付きもらったんだから」

 は、足元に隠していたパソコンを机の上に置いた。

 ユーステスはそれよりも、からシロウの名前が出たのが気になった。

「シロウ? お前、孤児院を出た後は俺の予想に反してグランサイファーの団長の所に戻らなかったと聞いていたが、シロウとロボミの研究所に行ってたのか?」

「うん。私、実家の孤児院を出た後、二番目のお兄ちゃんを頼ってシロウさんの研究艇に向かったんだ。あそこなら、月の民の末裔達が残した機械技術と同じ事が学べると思って。シロウさん達は、突然の訪問に関わらず私を快く受け入れてくれて、二番目のお兄ちゃんと同じ研究室に入れてもらったの。あ、団長さん達にはちゃんと、シロウさんの所で修業してくるって伝えてあったんだけどね、聞いてなかった?」
「……俺はそんな話、団長からも、シロウ達からも何も聞いてなかった」
「何、ユーステスは実家を出てグランサイファーに戻らなかった私の事、心配してくれてたの?」
「別にそういうわけじゃないが……」
「そう。それで、そこで完成したのがこのデータシステムだよ」

 は自慢そうに自作のパソコンをユーステスに見せる。

「データシステム? それ、お前が作ったのか?」
「うん。シロウさんのところでこれ作るのに、私の頭では一か月くらいかかっちゃって。でも最後の方で団長さんの計らいでグウィンとアイザックさんが助けに来てくれて、なんとか完成した」

「グウィンとアイザック? アイザックだけではなくグウィンも、シロウの研究所でがこれ作ってるの知ってたのか? 何故、に手を貸した」

 ギロリ。ユーステスは、自分の知らない間にに協力していたというのが発覚したグウィンとアイザックを睨みつける。

 グウィンは居心地の悪そうに髪をいじりながら、そのわけをユーステスに明かした。

「いや、私も最初は孤児院を出たがシロウさんの研究艇で一人でそれ作ってたなんて知らなかったんですよ。でもある時、団長さんにマキラさんの暗号をアイザックの所に持っていけと言われてアイザックに持っていけばその暗号、が持ってるパソコンの識別番号でそれがシロウさんの研究艇まで通じていて、はそこでユーステスさんと別れて一人で頑張ってるのが分かって、私もそのの手助けしたいと思ってそれで……」

 グウィンの次に語るは、アイザックである。

「ボクも最初、グウィンがボクの所に団長さんからマキラの暗号渡されたって持ってきて、それがの持つパソコンの識別番号だったなんて分からなかった。団長さんの挑戦なら受けるかと軽い気持ちでその暗号を解読すれば、それがシロウの研究艇にあるのパソコンまで通じていたというわけだ。ボクは別にそこでデータシステムと格闘しているをどうこうするつもりはなかったけど、グウィンからはボクとカシウスのせいでユーステスと別れるもそれでも君のために一人で頑張ってると聞いてね、それが心苦しくてさ、それで最後の調整だけは手助けしてあげようと思ったわけだよ」

「そうか、お前達がを助けたのは全部、団長の仕業か……」

 ユーステスは、グウィンとアイザック、二人からそれぞれに手を貸したわけを聞いて、二人がの所へ行ったのは団長のグランの仕業だと分かり、それを強く非難できなかった。

「しかし、のそれ――団長さんと自分の兄を頼ってシロウ達の研究室に入れたとはいえ、シロウ達の手は借りず、独学で一人で作ったというデータシステムは凄いものだよ。これが君達の組織に役立つのは間違いない。、それ立ち上げてユーステスに見せてやれよ」
「はい」

 カタカタ。アイザックに背中を押されたはマキラと作り上げたパソコンを立ち上げて慣れた手つきでキーボードを叩き、あるシステムを起動させ、それをユーステスに披露する。

「このパソコンには多分、現在組織で見付かってる星晶獣、それから、ルリアちゃんの了解を取ったうえでルリアちゃんが取り込んだ星晶獣全種類データ化してる。このシステムで検索すればデータ化した星晶獣が一発で分かるようになってる」

 言っては、バハムートと検索すれば、バハムートの画像とデータを出現させた。

「それだけじゃなくて、この管理システムにはイルザさんやゼタ達はもちろん、イルザさんの所の兵士さん達の個人情報もデータ化して入ってるんだよ。星晶獣と同じように兵士さんの名前を検索すれば、兵士さんのデータが出てくるようになった。あ、これ、マキラちゃんと作った時は一部の星晶獣とグランサイファーの団員達のデータだけで検索も曖昧だったけど、今ではそれ以外の星晶獣も増えてこれには水とか火とか属性ごとにちゃんと分類されてて、人間の登録できて、それを分類ごとに整理して検索できるようになった。兵士さん達の個人情報も、種族や出身地で細かく検索できるよ」

 それの通りにゼタの名前を入力すればゼタの顔写真とゼタに関するデータを表示し、次に、ゼタ達だけではなくてこの店に集うイルザの兵士の名前も検索して表示させたのだった。

「これは……」

 ユーステスも自分でのパソコンを操作してゼタ達だけではなく、この店に来ているイルザの兵士の名前のデータもあると確認できた。兵士達のデータは名前はもちろん、出身地から種族、経歴、家族構成まで詳細に記されてあった。

 確認したうえでユーステスは怪訝な顔で、イルザの方を振り返る。

がルリアの協力で星晶獣を、それからこの組織でもイルザとゼタ達は分かるが、ほかのイルザの兵士達の個人情報はどうやってデータを集めた? まさか、イルザがに兵士の名簿を渡したのか?」

「まさか。ゼタ達だけではなく、私の兵士達であっても彼らの個人情報は敵に渡らぬようにそれらはハイゼンベルクとローナンのもとで徹底的に管理されてたからな。現場主義の私では彼らの身の上は酒の席で少し話をするくらいでそれ以外の場ではあまり興味なかった。彼らの出身地や経歴、家族構成は、のデータシステムで初めてきちんと知ったくらいだ。私はにそこまで協力していないさ」

 イルザはそれをやんわりと否定する。

 ユーステスはイルザの言う事に嘘はないと思った。

「それじゃあは、どうやってここまで兵士達のデータを集めたんだ? 彼らの種族は見た目で分かるが、出身地から年齢、経歴、家族構成まで揃えているとは……」
「それ普通に此処に集まってる兵士さん達に聞いただけだよ」
「は?」
「いやだから、私、ユーステスの見習いとして普通に拠点に出入りできた時にゼタ達とグウィン以外で、何人かのイルザさんの兵士さん達と友達になってたんだよね。それでユーステスと別れた後でも普通に此処に集まってる兵士さん達に自分の出身地だったり経歴とか家族構成やら聞けば、普通に教えてくれた。イルザさんの兵士さん達、良い人達だよね~」
「……」

 周りに集まる兵士達を見回してにこにこ笑ってそれが何でもない風に答えると、に応じるように「に聞かれたら答えるしかないだろ」と、笑う兵士達と。

「全く。うちのバカどもが私の知らない間にとすっかり打ち解けて彼女に甘くなってたというのが分かったのは、今回の一件があったせいで判明した。これには私もバザラガも予想外だった。の武器]も魔法も扱えずともその愛嬌だけで周りを取り込む力には、私も感心するばかりだ」

 ははは。イルザものこれには参ったよう、笑うだけで終わる。

「あ、因みにこのデータシステム、パスワードかけてあるから権限持たない人には閲覧不可能になってるから、そこ安心して」
「は? お前、そこまで出来るようになってたのか?」
「この組織の技術部入るには、これくらいできなくちゃね!」
「……」

 は自信持って胸を張って言うが、ユーステスは複雑だった。

「……このデータシステム、本当にお前一人で作ったのか?」
「基本的にはシロウさんの研究所で、でもシロウさん達の手は借りずに私一人で独学でデータシステムのプログラム作ったんだけど、システムのデザインとか、星晶獣と兵士さん達のデータはこうした方が見やすいって改良してくれたのは、うちの二番目のお兄ちゃんのおかげもあったりする」
「お前の二番目の兄貴、シロウのとこの技術者だったのか……」
「シロウさんとマリエさん、私が研究所に来るまでその人が私の二番目のお兄ちゃんだって分からなかったって笑ってたな。二番目のお兄ちゃんも私で憧れのシロウさんとマリエさんの二人、おまけでロボミと話せて感激したって言ってくれた」
「……」

 はその時のシロウ達と二番目の兄のやり取りを思い出して笑うも、ユーステスは笑えずに何かを考えるように腕を組むだけで。

 は期待を込めた目でユーステスを見詰める。

「ねえ、これで私がイルザさんの組織の技術部でアイザックさんの助手やれるって分かってくれたでしょ?」
「……」
「あ、それから、ユーステスが組織の拠点で別れた元カノの私と一緒ではやりづらいっていうなら、そこも心配しなくていいよ」
「何? それは、どういうわけだ」
「私のパソコンとアイザックさんのパソコンはもう通信で繋がってるから、私がそれで拠点に行かなくてもグランサイファーの艇か、此処――アイザックさんの倉庫でこの仕事出来る、それでユーステスの居る拠点までわざわざ行かなくて良いってアイザックさんが言ってくれてね」
「……、倉庫では、お前はアイザックと二人きりか?」
「うん。今のところ、技術部はアイザックさんと私の二人きりだよ。それがどうかした?」
「……」

「ユーステス?」
「……」

 はユーステスが自分に何も言って来ないので心配になるも、そのユーステスに見かねてか、アイザックが口を挟んできた。

「いやはや、このボクも武器も魔法も扱えないただの空の民が月の民の末裔の技術を使ってここまでシステムを構築するとは思わなかったよ。十二神将のマキラやシロウの研究所の手伝いがあったとはいえ、このデータシステムの構築は彼女の独学であり、そして、彼女の持前の明るさと愛嬌でルリアから星晶獣はもちろん、兵士達の情報をあっさり手に入れてるからこれには恐れ入った。彼女は、この組織の技術部でボクの見習いとして十分、やっていけるよ。ユーステス、君が別れた彼女を心配する事は何もない」

 ははは。アイザックはユーステスを安心させるよう、話したつもりだった――が、ユーステスは違った。

 ユーステスは静かにに向けて言った。

「……、もう一度聞くがお前、俺がと別れた理由、分かってるのか」
「え?」

「え、ええと、月の襲撃者から私と私の家族を守るため、でしょ?」

「その通り。お前が技術者としてアイザックの助手として通用するのはこれで分かったが、武器も魔法も扱えないお前は月の襲撃者からどう対応するつもりだ。お前がアイザックと居れば、アイザックとカシウスをつけ狙う月の民の末裔達からいつ狙われるか分からんぞ。お前がそれでやられたら、次はお前の家族があいつらに狙われる。俺は、お前だけはまだ守れるが、お前の家族まで守れる自信はない。それだからお前と別れた。それでもまだ組織と関わり技術部に入りたいのか、お前は」

「……うん、それでも私は組織に関わって技術部に入りたいと思ってるよ。私、ユーステスと別れてもまだイルザさんの組織に関わりたいと思ったからね」

「何故、そう思った。武器も魔法も扱えないお前がこれ以上にイルザの組織に関わるのは危険だ、諦めた方がいいに決まっている」

「諦められないよ。私、凄いの見たから」

「え?」

 は興奮した様子で、身振り手振りをつけてユーステスにその時の様子を話した。

「私ね、孤児院の窓から、イルザさんとその兵士さん達、それから、ゼタ達が月の襲撃者と戦ってる所が見られたんだよ。急に空が暗くなって地響きも続いて何か起きてると思って空を見れば、空に機械の兵器軍とそれを取り囲む巨大な赤い機神が見えた。孤児院で母親とアニーさんと兄弟達は正体不明のそれが空から落ちてくるんじゃないかって震えてたけど、組織とグランサイファーに関わってた私だけ、その正体分かって、周りに団長さん達のグランサイファーも見えたから平気だった。
 そしてそこで団長さんとルリアちゃんがバハムートを呼び出してイルザさん達と一緒に機神と戦ってる所も見えてね、それがとても凄くて、でもイルザさん達や団長さん達よりも一番凄かったのはね」

 ここでは席を立ってつま先を立て、ユーステスと顔を近付けて言った。言ってやった。

「イルザさん達や団長さん達よりも一番凄かったのは、ユーステスがフラメクの力解放して、その光で暗かった空が青空に戻る所! あそこまで凄いの、見た事ない!」
「……ッ」

 に興奮した様子でそう言われたユーステスは椅子から転げそうになるのを、なんとか堪える。

「あの中で一番凄かったの、ユーステスのフラメクの力だよね!」
、お前……」
「あれ、あの光、フラメクの力と違うの?」
「あれは俺のフラメクの力で違わないが……」
「やっぱり、組織の中でユーステスが一番凄くて一番格好良いの変わらないよね!」
「……」

 その凄い光景を思い出して興奮冷めないと、周りのニヤニヤする視線を感じて参ったように天井をあおぐユーステスと。

「お。あいつのエルーンの耳、ぴくぴくしてるな。今ので完全ににやられただろ」
「うむ。あいつ、エルーンの耳だけは素直よな」

 ユーステスと長年の付き合いのイルザが彼のそれを見抜き、同じくそれを見抜いたバザラガも愉快そうに笑っていた。