翌日。
はマキラの艇で月に行くというグランとしばらく別れなくてはいけないので、荷物の整理をしていた。ほかの仲間達も同様である。
荷物整理以外に、マキラの艇で月に行くというグランを見送るため、各地からけっこうな人数の仲間達が集まっていた。
その中にはと一番親しいジュリエットとデボラ、ロミオの姿もあった。
ジュリエットは荷物を片付けているを見つけて、声をかける。
「、ユーステスさんと別れたって本当なの? 大丈夫?」
「大丈夫。心配しないで」
「でも」
「――ジュリエット、それ以上は酷だ」
「私もロミオ様の意見に賛成です。それ以上はどうか……」
「……」
ジュリエットはを心配して何か励まそうと口を開くも、ロミオとデボラに止められてしまって渋々そこから引き下がった。
ユーステスと別れたと聞いたのもとに、次々とやってくる。
「ボレミア、はユーステスさんと別れる必要あったの? 子供の私では二人が何で別れたのかよく分からないんだけど。それから私かボレミアが一人になったに手を貸してやれる事はあると思う?」
「男女関係は、大人の私でもよく分からんよ。がユーステスの言い分に納得している風なら、私達が一人になったに手を貸してやれる事は少ないかな……」
サラとボレミアはを心配するも、それ以上何も言えなかった。
「何も別れなくて良いじゃん! しかも、組織での契約を破棄されたって? ユーステスがここまで酷い男とは思わなかった!」
ハッピーエンド主義者のコルワはの話を聞いて、ユーステスに憤慨する。
「、こうなればユーステス以上の男を見つけて、それをユーステスに見せつけてやりな!」
「は、はい、私も姉さんの意見に賛成です」
をけしかけるメーテラの意見に賛同するのは、彼女の妹のスーテラである。しかしは「今の所、ユーステス以上の男は見付かってない」と答えるのが精いっぱいで、メーテラとスーテラもこれには何と返して良いのか分からなかった。
「、はユーステスと別れても、私の妹で変わりないからね?」
「ああ。は今まで通り、僕の姉さんの妹で居てくれよ」
エッセルとカトルもを心配してそう言ってくれて、は「ありがとう」とだけ返事をした。
「うちらの舞いの中にを励ます舞いって、あったかな?」
「ああ、うちらの舞い、こういう時は役に立たないんやなぁ……」
「コウ兄、とユーステスの関係、どうすれば元に戻るのかな?」
「……ボクでも分からないよ。月での問題が落ち着くまで見守るしかないんじゃないかな」
ユエルとソシエはを励ます舞いを披露しようにも思いつかずに結局踊れず、ヨウに問われたコウはそれしか言えなかった。
「、本当にユーステスさんと別れたの? はそれで良いの?」
メグもを心配して声をかけるも、は「心配しないで」と気丈に振る舞うだけだった。
「……うちのマナリア学園は魔法使いがたくさん居るけど、それでどうして人の心を変えるような魔法は扱ってないのかな? それ、どっかの魔法書にのってないかなぁ」
「アン、人の心を変えるような魔法が使えたとしても今はそれ、使っちゃいけない気がするよ……」
「……」
アンとグレア、オーウェンもに何を言って良いか分からず、落ち込んでいる。
「、またうちらの錬金術の道具を貸してやろうか。それでユーステスの心も変わるかもしれんぞ」
「そうだよ。またうちらの錬金術でユーステスの心を変えるってのどうかな! ねえ?」
カリオストロとクラリスはそう励ますも、は「それはやっちゃいけないでしょ」と笑って断った。
その中。
「……」
「スツルムさん?」
「……」
「ええと……、何ですか?」
「……」
「……」
はスツルムがほかの皆と違って何も言わずに自分をジッと見詰めているのに気が付いて、しかし、何も言って来ないので戸惑うばかりだった。
「ドランクさん」
助けて! は、スツルムのそばについていたドランクに助けを求める。
「いや、スツルム殿もほかの子達と同じようにユーステスと別れたっていうちゃんを心配してるだけだから。ちゃんはスツルム殿の事は、あまり気にしなくていいよ」
「そうですか、それなら気にしませんけど……」
ははは。は笑ってそう言うドランクを信用して、自分の持ち場に戻った。
ドランクはが行ったのを確認して、スツルムの方を振り返って聞いた。
「スツルム殿、スツルム殿もほかの子達と同じようにユーステスと別れたちゃんを心配してるけど、彼女を励ます言葉が見付からなかっただけでしょ?」
「違う、アタシはそこまでに優しくない」
「え?」
「一方的に別れを告げられたユーステス相手に何もしなくて未だに未練タラタラなを見ていたらイライラして、それにキレそうになってたのを抑えてただけだ」
「……」
「アタシなら、ユーステスを気のすむまでボコボコにして沈めてからキレイさっぱり後腐れない別れ方をするさ」
「……、穏便にいこうよ穏便にさ」
ははは。ドランクは、そう言ってボキボキと腕を鳴らすスツルムを見て、顔を引きつらせるだけだった。
「ルナール、何やってんの?」
「」
荷物整理を終えたは、甲板にテーブルを持ち込んでスケッチをするルナールを発見した。
ルナールはため息を吐いて、スケッチしている理由を明かした。
「団長さんに、グランサイファーとそこから見える風景を描いてそれを宇宙船に乗せる約束してたから、それで」
そういうルナールのスケッチブックを覗けば確かに、グランサイファーの絵が描かれてあった。
それだけではなく。
「それだけじゃなくて、空に残るイオちゃん達の姿も描いてるんだ?」
ルナールの描くグランサイファーには、ビィ、ルリア、イオ、カタリナ、オイゲン、ラカム、ロゼッタのいつもの仲間達の人物も描かれてあった。
「ええ。宇宙では何が起きるか分からないでしょう。こういうのは皆から離れて宇宙で孤独になる団長さんの安定のためにも必要だって、マキラにも言われてたの」
「なるほど。宇宙で孤独になる団長さんのために、空に残る仲間達の絵は必要なの分かるよ」
うん。は、ルナールの言う事には納得して、そして。
グランサイファーの絵の下にもう一枚、イラストが描かれているのに気が付いた。
「あれ、グランサイファー以外の絵も描いてるの?」
「!」
ルナールはしまったとそれを隠すも、遅かった。
は隠れた一枚を手に取り、驚いた。
「これ、組織の皆の絵じゃない。どうしたのこれ」
もう一枚の絵は、イルザを中心にユーステス、バザラガ、ゼタ、ベアトリクス、グウィンのいつもの組織の仲間達が集合したものだった。
ルナールは慌てて、に言い訳する。
「こ、これはその、団長さんと一緒に月に行くバザラガさんと、グウィンっていう子に頼まれただけだから!」
「……そう。バザラガとグウィンの頼みなら、分かる気がする」
でもは多分、ルナールにこの絵を依頼したのはバザラガとグウィン、この二人ではないと分かっていた。
それというのも。
「私が組織の一員でこの仲間に入ってないのは、少し悔しいかも」
「あっ……」
に言われたルナールも、それにはっと気が付いた。
ルナールに依頼したのはバザラガでもグウィンでもなく、グランと同じく宇宙で孤独に過ごすだろうバザラガのために用意したイルザの優しさだろうと。
「……」
「……」
は組織の仲間の絵の中で、ユーステスだけをなぞる。ルナールはそのに何も言えなかった。
そして。
「ねえ、ルナールに描いて欲しい絵があるんだけど、良い?」
「……良いわよ。今なら、に何でも描いてあげるわ」
ルナールはの頼みを、快く引き受けたのだった。
数日後。
「、あんた、いつまでそうしてるつもり?」
「……」
はシェロカルテの艇で実家の孤児院に戻るも何もする事がなく、だらけていた。
「暇なら、弟や妹達の勉強でも見てやってちょうだい」
施設長であり、の実の母親にそうけしかけられるも、は中々動かなかった。
母親は言う。
「月の事件とやらが終われば、グランサイファーの団長さんがを迎えに来てくれるんでしょ? それまで何かやってた方が良いんじゃないの?」
「何かって、何?」
「自分のやれる事くらい、分かってるでしょうに」
「……」
さすが、母親は鋭い。
は重たい体を何とか起こして、とりあえず、今の自分のやれる事といえば勉強だけで、今後は組織だけじゃなくてグランサイファーの役に立つ事も始めなければいけない、それにはまず星晶獣に関する勉強が良いかと思い立ち、以前にルリアに貸してもらった星晶獣に関する本を読み始めた。
勉強している間は、マキラと共に作ったパソコンが役に立った。星晶獣とグランサイファーの団員達のデータを入力するだけで、気が紛れた。
パソコンを持って学習室に行けば、まだ幼い子供達が絵本を読んだり絵を描いたりしていた。
パソコンを持ってデータ入力をしていると下の弟や妹達が「その箱何?」と、物珍しそうに近付いてきた。
施設長の母親、それから、母親についているお手伝いのアニーも、このパソコンは自分と十二神将のマキラの二人で作ったものだと答えれば、「グランサイファーだけじゃなくて十二神将の子達とも親しくなったのは凄い」と、感心した様子だった。
そして。
母親とお手伝いのアニー、残っている兄弟達にグランサイファーの一員になれたのも、十二神将の子達と親しくなったのも、これも皆、組織のユーステスのおかげだ、という話も聞かせた。自分が武器も魔法も扱えないせいで、今から命をかけた戦いに出かける彼と別れたという話も。
「彼が、そのユーステスさん?」
「そう。この人が私に付き合ってくれたユーステスだよ」
言っては、母親とアニー、兄弟達にルナールに描いてもらったユーステスを見せる。
村に戻ってもユーステスの絵を見ていると、とても落ち着いた。ルナールにユーステスの絵を頼んで良かったと思う。
「格好良い人ね」
「うん。ユーステスは組織でもグランサイファーでも、一番格好良くて一番強い人なんだよ」
えへへ。母にそう評価されたは嬉しそうに、ユーステスの絵を見詰める。
そのあとでは、それを聞いてくれた母親に訴える。
「お母さん、何で私に武器も魔法も何一つ使えないように育てたの? 何か一つでも扱えればまだ、ユーステスのそばに居られたのに」
母は少し考えて、にそのわけを話した。
「私とお父さんの間に、長い事、子供が出来なかったのよ。この施設に五人目になるお兄ちゃんが来た時にようやく、が産まれてきてくれた。お父さんは、そのをとても可愛がって可愛がって、自分の子には戦いには無縁の世界で生きるようにしたいと話してくれて、それで」
「そんなの、身勝手過ぎない?」
「そう、今思えば身勝手だったわね。私達もまさか、そのが戦場で生きるような人を相手にするとは思わなかったから。だけど……」
「だけど?」
「だけどその代わりに、此処を出て行ったお兄ちゃんやお姉ちゃんには、そのを助けるように話してあるのよ。お父さんも、自分の騎空団の仲間達にが困っていれば手を貸して欲しいとも頼んであるって話してたわね」
「……」
「に何かあれば無条件で手伝うように、が困らないように。外に出た兄弟達も、お父さんの騎空団の仲間達も、それを快く引き受けてくれた。それの反対でもほかの兄弟達や騎空団の団員達が困っているとあれば、無条件で助けなさい、分かってるわね?」
「……うん、分かってる」
「が此処を出てグランサイファーに戻ってまた何か困った事があれば、私達、それから兄弟達、お父さんの騎空団の仲間達を頼りなさい。それでもまた駄目だと思えば、いつでも此処に戻ってきていい。それから」
「それから?」
「それから、今、が抱えている問題は、うちの兄弟達やお父さんの仲間に相談すれば、解決するかもしれないわよ? 一人で抱えているよりは、そうした方がいいわ」
「……そうだね。私が抱えている問題は、兄弟達やお父さんの仲間達に頼めば、何とかなるかもしれない」
うん。は母親に言われて、少しの希望が見えた気がした。
「それから、もう一つ」
「何?」
「が選んだそのユーステスという人は、優しくて強い人ね。ユーステスさんは、と、私達の家族を守るためにと別れてくれたんだから、私達もそこは感謝しなくてはいけない」
「……そうだね、ユーステスが私と、私の家族を守ってくれたのは感謝しなくてはいけなくて、そのユーステスは出会った時と変わらず優しい人には変わりない」
母親の優しさを知ったは、母親に甘えるように寄り添う。母親もそのに微笑み、久し振りに親子の時間を過ごしたのだった。
それから、また何日か経過したある日。
がグランサイファーを出て行って一週間ほど経った頃かと思う。
無事にアイザックさんとカシウスさんは月から救出されたのかな? それで団長さん、いつ、私を迎えに来てくれるのかなぁ。はグランが自分を迎えに来てくれるのを待っていたが、一週間経っても彼らから何も音沙汰はなかった。
あの団長さんに限って自分を見放すなんてのは――、……、……。は、団長のグランとビィ、ルリア、イオの四人は自分を迎えに来てくれそうだが、オイゲン、ラカム、カタリナ、ロゼッタの四人に説得されて自分を迎えにいくのはやっぱり止めよう、と、説得された可能性はなくもないと思った。
……。
……。
時間だけが過ぎていく。
……月に行ったグラン達が無事かどうかだけ知りたい。定期的に隣街に物を売りに来るシェロカルテに聞いた方が早いか――そう思い立ち席を立った時。
「きゃああっ!」
「!」
孤児院が揺れるほどの振動と、兄弟達の悲鳴が聞こえた。
「地震?!」
「!」
「お母さん、アニーさん!」
「も来なさい!」
母親とアニーもこれはただ事ではないと察知して、幼い兄弟達を広間に集める。もその作業を手伝った。
その間にも地響きは何回か続いて、それの影響か施設の明かりが落ちてふっと暗くなった。
「見て、今は昼間で明るいはずなのに空が真っ暗になってる!」
「ねえ、空に浮いてるあの大きな赤いの、何? 赤い物体の周りに竜まで居るよ!」
「まさか、あの大きなのこっちに落ちてくるの? 竜の周りに赤とか青とか光ってるけど何かなあれ」
「怖いよぉ!」
幼い兄弟達は急に空が暗くなって、その暗闇に赤い巨大なものが浮いているのに気が付き、震え上がる。
「旦那様に連絡を入れました。旦那様の騎空団も全空域で空での異変を把握、あの赤い物体が落ちてくるまでにこちらに到着するそうです」
「大丈夫、落ち着いて。お父さんの艇が来れば、此処から逃げられるわ」
お手伝いのアニーの連絡を聞いた母親はうなずき、幼い兄弟達を安心させるようにそう言った。
しかしはほかの震える兄弟達と違って、空の異変と空に浮かぶ赤い巨大なものの正体が分かっていた。
「あれこそが組織の敵、機神――」
「?」
は窓を開けて、空に浮かぶ機神を目を凝らして見詰める。
「あの竜はルリアちゃんが呼び出したバハムート、あの青い光はベアトリクスのエムブラスク、赤い光はゼタのアルベス、黒い光はバザラガのグロウノス!」
は空に浮かぶ赤い物体は組織の敵と認識されている機神と呼ばれるものであり、それに群がるは月から来た機械でできた兵器軍、そして、その周囲で咆哮をあげる竜はルリアが呼び出したバハムート、色がついた光の波はそれぞれベアトリクス、ゼタ、バザラガの持つ封印武器の軌跡であると分かって、興奮した。
そして――。
「!」
強烈な光が暗い空を貫くのが、の孤児院の窓から見えた。
同時に雷鳴も聞こえた。
暗い空を引き裂く一閃は、赤い物体――機神を消滅させたのだった。
空の異変は、それからすぐに収まった。
暗闇は青い空に戻り、地響きも終わった。
そしては決意する。
今まで自分は何をやっていたのだろう、と。
あの一閃はユーステスの持つフラメクの力だと、すぐに分かった。
フラメクの力で空が青に戻ったと分かって、はとてもドキドキした。
胸の動悸がいつまでも収まらないのは、誰のせい?
あんな凄いの見たら、こんな狭い所でぐずぐずしている場合じゃないって。うん。
「お母さん、アニーさん、兄弟達。私、もう行くよ」
「気を付けて」
はその日のうちに荷物をまとめて、孤児院を出ていく決心を固める。
そのを母親とアニー、孤児院の兄弟達は引き止める事はせず、見送る。
「グランサイファーの団長さんが私を迎えに来たら、私の事は心配しないでって伝えておいて!」
はパソコンとユーステスの絵を持って、そのまま空を飛べそうな勢いで孤児院を出て行った。
そして、それから――。
「団長さん、まだ戻ってきてないのか?」
「ああ。は、まだ戻ってきてないね」
月の民の末裔達の襲撃、機神達の暴走、そして、アイザックとカシウスの帰還。イルザとユーステス達の組織が関わった月での全ての事件はグラン達の協力のもと、解決に導き、空に平和が戻ってしばらく経った頃――、が孤児院を出て行ってから丁度、一か月あまり。
月の事件でハイゼンベルクの陰謀が明るみになるもグランが彼を殺めてはいけないとして逃がしたおかげで彼は生きたまま組織を立ち去り、ローナンもそれの責任を取るかのように離職、組織を指揮する人間が不在となり、組織は自然に解体されてしまった。
残されたイルザはバザラガと共に組織を立て直すために各地で新しい戦闘員を募りその育成に励んでいるようで、ゼタは独自に遺跡を巡り、ベアトリクスはカシウスを連れて各地を案内しているという。
その中でユーステスだけが安否不明らしい。
兄のアイザックが帰ってきたはいいが組織は解体され、イルザから組織を立て直すまで待機しているようにと指示を出されるも暇なグウィンは、久し振りにグランサイファーを訪れていた。
グランはグウィンが艇に来るまで、組織の人間達と接触していなかった。
「団長さん達は彼女の――の居場所、知ってるんだろ?」
「ああ。の居場所は把握してるよ」
「、此処を離れて一人で何やってんの?」
「さあね。が一人で何をやってるのか、僕は分からないなぁ」
「……団長さん、演技下手だな」
「よく言われるよ」
「……」
ははは。グランは笑うも、グウィンは笑えなかった。
「……イルザ教官は」
「うん」
「イルザ教官は、が此処を――グランサイファーから離れるとは思わなかったって、愚痴ってた。イルザ教官は、はユーステスさんと別れてもグランサイファーに残るって思ってたらしいよ」
「そうだろうね。イルザ以外、僕もビィもルリアも、ほかの仲間達も同じ考えで、これは僕も予想してなかった。僕はルリア達ととの約束通り、アイザックとカシウスが無事にこの空に戻ってきて落ち着いた後にを孤児院まで迎えに行ったんだけど、の母親には数日前にもう孤児院を出て行ったと伝えられてね」
あの時は本当に、驚いたものだ。
との約束通りに月での一件が全て片付き落ち着いてから彼女を迎えに行けば、孤児院で彼女の姿はすでになく。
「のお母さんによれば、は僕達より、ほかの兄弟を頼って孤児院を出て行ったらしい。一人でやりたい事が出来て、それの成果が得られるまでは僕達の艇に戻らないってね」
再びを突き動かしたのは何か、グランもグウィンも分からない。
「……、イルザ教官だけじゃなくてゼタ先輩達も、グランサイファーを頼らず孤児院を出て行ったを心配してた、けど」
「けど?」
「ゼタ先輩達はを心配しての様子を見るためにこの団に来たいけど、この団に来ればを慕ってた女子達に睨まれるから肩身狭い、って」
「あはは、それでグウィンが此処に遣わされたのか。の影響でゼタ達がこの団に居づらいってのは分かるな。この団で意外と、のファンは多いんだよ」
グランの話を聞いたグウィンは参ったよう、言った。
「、私達みたいに戦えなくてもこの団の皆から慕われてたんだな……」
「ああ。イオとルリアだけじゃなくてファスティバとジャミル、ローアイン達も、が居なくてつまらないって毎日愚痴ってる。この間は、シルヴァやナルメア達がユーステスがこの艇に来たら教えてくれ彼は手合わせに丁度良いって意気込んでたし、カリオストロとクラリスもユーステスを見かけたら教えてくれ、彼にとってとても良い薬を開発したからとか……」
「ユーステスさん、あれ以来この団に近寄らなくて正解だわ……」
グランにほかの女子達の動向を教えられたグウィンは、ユーステスに同情を寄せる。
次にグランは、グウィンにユーステスの近況を聞いた。
「グウィン、ユーステスはあれから、どうしてる?」
「ユーステスさんはあれから拠点にもと過ごしていた家にもたまにしか帰ってないようで、何やってるか分からない、でも好きにさせておけとイルザ教官が話してた。バザラガさんもあいつの事はほっとけばいいって言うだけ」
「ふむ。それならイルザとバザラガは、ユーステスの居場所くらいは把握してるか。そうなら僕達でも気がかりだったユーステスの安否まで気にする必要ないな、うん」
「そうなの?」
「ああ。イルザ達の言う事は、僕達がの居場所を把握しているのと同じだよ」
グランのそれは、とても説得力はあった。
「……は一人で頑張ってるというし、結局、私だけ置き去りにされてる感じかぁ」
はぁー。グウィンは参ったよう、溜息を一つ。
そのグウィンを見てグランは何を思ったか。
「グウィン、アイッザックとカシウスはあれからどうしてる?」
「カシウスは同じく暇になったベア先輩と各地で食べ歩きしてるって」
「カシウスらしい。それで、アイザックは?」
「アイザックは月から持ち帰った機械使って実家の倉庫にこもって色々やってるよ」
「それなら、丁度良かった。グウィン、アイザックにこれ、届けてくれないかな」
「何これ」
グウィンに渡されたのは、一枚のメモだった。メモには1と0だけの数字の羅列だけ書かれてあった。
グウィンは1と0だけの数字の羅列が書かれたメモとグランを見比べる。
「この1と0だけ書かれた数字の羅列、何かの暗号?」
「ああ。この暗号、アイザックなら解けると思ってね。マキラの置き土産だ」
「ふむ。マキラさんの暗号でもアイザックならこれくらい、簡単だと思う」
「もしこの暗号が解けたら、僕じゃなくて、その暗号の持ち主を助けて欲しいって、アイザックに伝えておいて」
「暗号が解けたら団長さんじゃなくて、暗号の持ち主を助けてくれ? この暗号の持ち主、マキラさんじゃないの?」
「その暗号を作ったのはマキラだけど、持ち主はマキラじゃない」
「……どういう意味?」
「それもアイザックなら理解できると思う。頼んだよ」
「?」
グウィンはグランの言う事はわけが分からなかったが、一応、そのメモに書かれた暗号をアイザックの元に届けるのを了解した。
グウィンがメモを持って艇を出て行ったのを見届けたグランは、空に向かって手を伸ばして一人、呟く。
「――シロウ達だけじゃなくてアイザックの協力が得られれば『彼女』の仕事は早いうち、片付くよな。それに期待して、僕も頑張るかー」
それから数週間後。
が孤児院を出て行って一か月と二週間が経っていた。
イルザは、この時が来るのを待ちわびていた。
約束の場所、約束の時間。
そして彼女は大きな荷物を抱えて、イルザの前に現れる。
「――イルザさん、お久し振りです」
イルザも彼女の成長した姿を見て微笑み、そして。
「――この時ほど、教官を続けていて良かったと思う事はない。それではさっそく、その成果物とやらを見せてもらおうか?」