空と海の間で(01)

 ――今度の休み、アウギュステの温泉に行かない? アウギュステ通のメグに良い場所があるって教えてもらってたんだよ。

 そうドキドキしてユーステスを誘えば彼から「了解」と、嬉しい返事をもらった。

 これは月での事件後の話で、預かり先以外での二人きりのデートは久し振りだった。

 月での事件が落ち着いた後になって、メグから彼女の友達がアウギュステの観光協会の新理事長になったという話を聞いたせいもある。

「私の友達のまりっぺがアウギュステの観光協会の新理事長になったんだ。そのまりっぺが初めてカップルイベント企画して、それのテストしてくれるカップル募集してるんだけど、、ユーステスさんと一緒にそれに参加してみない?」

 はメグからそう誘われてアウギュステのカップルイベントの招待状を受け取ったのだった。

 というか、「普通仲間」と思っていたメグの友達がアウギュステの観光協会の理事長になってるとはも夢にも思わなかった。

 メグのこれはがシロウの研究艇で修業している間の話だという。

 は後からメグにその事実を聞いて、更にはそこにまたグラン達が関わっていたと聞いて、「さすがグランサイファーだなぁ」と思った次第である。

 メグからも「私もがシロウさんの所で修行してそのデータなんとか作ってたの知らなかったし、それでユーステスさんとヨリ戻したのも知らなかったよ」と笑っていた。


 それからがメグに招待状をもらったのでそれでユーステスと二人でアウギュステの温泉行く、と、グラン達に報告すれば、グラン達は当然のように二人についてきた。

とユーステスの二人は僕達は気にせず、二人で楽しんでくれ」
「そうそう。オイラ達は自由にやってるぜ」
「はい。私達は好きに遊んでますから、はユーステスさんとアウギュステを満喫してくださいね」
「二人とも、あたし達を気にしないでね!」
「アウギュステの海は訓練場としては丁度良い。あとでファラとユーリ、ヴィーラ達も誘うか。その前にルリアとビィ君と一緒に泳ぐかー」
「この解放感、たまらないわねー。でも、日焼けは天敵、日焼け止めクリームは念入りに塗っておかなくちゃ」

 グラン、ビィ、ルリア、イオ、カタリナ、ロゼッタは海で遊んでくると言ってさっそく、海に入ってはしゃいでいる。

「アウギュステはまりっぺが新理事長になってから、少し変わったんかな。観光協会の運営とかどうなってるか、まりっぺとメグに聞いてくるわ。今後の参考になるかもしれんし、向こうも俺達の助けが必要かもしれないからな」
「俺はジンやソリッズ達と一緒に地元の連中に狩りに誘われてるから、そっち行ってくるわ。夜はそれで皆でバーベキューやろうぜ」

 ラカムはアウギュステの観光課の理事長になったというまりっぺを尋ねにメグのもとへ、オイゲンはジンとソリッズ達と地元の人間達に狩りに誘われていると言って、海ではなく山の方へ向かった。

 そして。

「いやー、アウギュステのリゾートも久し振りだな! バザラガ、ラムレッダ達が来るのは夜からだったか」
「そう聞いている。今夜の宴会で此処でしか飲めない酒が飲めるのは楽しみだな」
「ふふふ。この水着で美しい私を見て声をかけてくれる男は、どれだけ居るかな。今から楽しみだ」
「……イルザ教官に声をかけてくる男の人、居るんっスかね」
「カシウス、あっちの屋台のラーメン、美味いらしいぞ。私は、あそこの屋台攻めていくわ、かき氷とパフェがいけるってさ」
「うむ。この日のために、腹は空かせてきた。準備万端だ」
「……日陰ある所、知らない? ああそう、それならボクはホテルのロビーで休んでるよ」

 ゼタ、バザラガ、イルザ、グウィン、ベアトリクス、カシウス、アイザック――いつもの組織のメンバーも当然のよう、ついてきたのである。

 彼らのはしゃぐ様子を遠巻きに眺める人物二人。

「……ほら見ろ、団長達だけじゃなくてイルザ達も当然のように俺達についてきたじゃないか。だから団長達に二人でアウギュステに行くのを報告するのは止めた方がいいと言った」
「あはは、そうだね。でも、私が団長さん達に黙ってるの出来ると思う?」
「……思わない」
「でしょ。私はでも、こうやって今まで忙しかったユーステスと一緒に遊べるだけでも嬉しい」
……」

 へらりと笑って見せればユーステスもそれに参ったよう、彼女の頭を撫でる。

 ところで。

「ところで、水着、それしかなかったのか」
「あ、やっぱこれ子供っぽい?」

 が着ている水着はゼタ達が着こなしているようなビキニタイプではなく、ルリアが着ているものと同じワンピースタイプ、色はピンク系、腰にフリルをつけたもので女の子らしいといえば女の子らしい水着ではあるが。

「イルザさんやカタリナさんのような色気あふれる大人系水着は論外、ゼタとベアトリクスのような派手な露出系は着れる自信なし、グウィンの本格的な競泳水着はなんか違う、イオちゃんも意外と大胆な水着、消去法でルリアちゃんの参考にしてみました。どう?」

 はユーステスの前で水着を披露するよう、くるくる回って見せる。

 ユーステスはしかし、どこか不満そうな顔をしている。

「似合ってるといえば似合ってるが、子供っぽさが抜けんな……」
「そりゃあね、イルザさんやゼタ達で色気あふれる大人の体を見慣れてるユーステスからすれば物足りないの、分かるよ。でも今の私はこれが限界なの、分かってよ」
「……のそれは分かるが、しかしなぁ」
「何よ?」
「俺とが並ぶと、俺が子供に手を出してるように見えないか、と……」
「……あー、確かに。秩序の騎空団のリーシャさんが私達を見たら、飛んできそう」

 あはは。は、ユーステスが子供に手を出しているとその通報を受けて飛んでくるリーシャを想像して、くすくす笑う。

 それより。

「というかユーステスは、脱がないの? 下、水着はいてるのに」

 ユーステスも下半身は水着を着ていたが、上半身はシャツを着たままの姿でいる。

「人前で脱ぐのは苦手だ」
「そう。ユーステスってば、脱いだらその肉体美が凄いもんね。それ見せつける事になるから、明るいうちは脱がない方がいいかもね」
「そうか?」
「そうだって。それで女達の視線、ユーステスに釘付けになってるの分かってる? さっきから私達の横を通り過ぎる女達がユーステスだけに熱い視線送ってるんだけど!」

 はユーステス「だけ」を強調して、地団駄を踏む。

 ユーステスもさっきから通り過ぎる女達が自分を見てくる視線には気が付いていたけれど。

「女達は俺にはがついてるの、分かってるだろ」
「そうだけど。でも、ユーステスに目をつけた彼女達は私なんか目に入ってない風だった。ユーステス、組織とグランサイファーだけじゃなくてこのアウギュステでも私がついてるの忘れないでよ」
「お前も俺がついているのに、あちこちフラフラするなよ」
「私の場合、子供っぽい私に声をかけてくれる男の人は全然居ないからそこ安心して」

 は何故か胸を張ってユーステスに答える。

 ――……その子供っぽさがたまらないという一定数の男達も居るし、グランサイファーの中だけではなくて組織内でもに目を付けてる男達が多いのに気が付いてないぶん、タチ悪いな。
 ユーステスはの自信たっぷりな態度を見て、彼女もまた、グランサイファーの白竜騎士団をはじめとする男達だけではなくて組織内のイルザの兵士達の間で人気がある事実を思い出し、顔を引きつらせる。

「ユーステス?」

 はユーステスが何も言ってこない事に心配になる。

 はぁ。ユーステスは溜息を一つ吐いた後、を安心させるように言った。

「まあいい、お互い、気を付ければいい話だ」
「ユーステスは特にね」
「……の目的の温泉は夜からだったか?」
「そうだね。メグに教わった温泉は洞窟内にあるんだけど、明るいうちはそうでもないけど夜だと幻想的になるらしいよ。今から楽しみ」
「それじゃあそれまでどうする? 海に入れば団長達が居るし、砂浜はゼタ達が陣取っている」

 ユーステスの言うよう、海ではグラン達がはしゃぐ声が聞こえ、砂浜ではゼタが中心となって組織の仲間達がバレーを楽しむ声が聞こえる。

 木陰ではイルザ、ロゼッタがシートの上に寝そべり、イルザの兵士の男達にオイルを塗ってもらっている姿も見られた。

 それ以外にも。

「よくよく見れば、ゼタ達だけじゃなくて、グランサイファーの団員さん達、このアウギュステのリゾート地にけっこう来てるよね。さっき、ユエル達がゼタ達のバレーに参加してるの見たし、逆ナンパ目的に来てるっていうコルワ、メーテラ、スーテラのいつもの三人組とすれ違ったし、シルヴァさんとソーン、ククルちゃんにクムユちゃんも来ていたし、ホテルのロビーではマキラちゃんだけじゃなくてアンチラちゃんとかアニラとか、十二神将の子達も見かけたよ。あ、珍しい組み合わせでいえば、サンダルフォンがナタクさん、おまけにサテュロス、メドゥーサの四人で組んでコーヒー専門の屋台やってるって、団長さんからの情報」
「……、ほかの仲間達は分かるが、天司や星晶獣でも此処で商売できるのか?」
「団長さんが言うには、彼らは上手く人間に化けてるから大丈夫だとか」
「……」

 人間に化ければ良い問題だろうか。ユーステスは考えようとして、考えるのを止めた。

「団長達で分かったが、意外と星晶獣は人間に紛れて溶け込んでるんだな……」
「そうみたいね。うちのお手伝いさんのアニーさんもそうだったし、あのへんに居るサーファーさんも星晶獣だったりしてね」

 ははは。がいうサーファーはまさしく人間に化けた星晶獣のポセイドンであったが、とユーステスは全然気が付いていない。

 ユーステスは言う。

「星晶獣だけじゃなくても団長達が言うには、アウギュステのリゾート地は誘わなくても勝手についてくる仲間達は多いようだな。この調子だと、夜になればもっと増えるぞ」
「それじゃ、私が団長さん達に報告しなくてもアウギュステのリゾート地でユーステスと二人きりっていうの、最初から無理だったんじゃないの?」
「そうだな。メグもそれ分かって、お前を誘ったんじゃないのか?」
「どうだろう。アウギュステ通のメグとその友達のまりっぺなら団長さんの仲間達が押し掛けてくるの分かってそうだけど、でも、それはあまり追及する話でもないよね」
「ああ。メグとまりっぺという友達だけでは、アウギュステに団長の仲間達が押しかけてくるのは止められないだろうな……」
「同感」

 もユーステスも、メグとまりっぺはグラン達だけならまだいいが、彼らの周囲に集う仲間達までは押し返す力はないとみて、遠慮なく笑った。

 そして。

「まあ、俺はあいつらを気にせずにとゆっくりできればそれでいい」
「うん、私もユーステスとゆっくりできればそれで十分」

 は、ユーステスから彼のいうゆっくりの時間の中に自分も含んでいると言われて、嬉しそうに彼に寄り添う。

「さて、これから夜の温泉までどうする? そのへん、散歩でもするか?」
「良いね。預かり先以外でユーステスと久し振りのデート、嬉しい」

 ユーステスもそのの腰に手を添え、微笑んだ。

 それからとユーステスはゼタ達が陣取っている砂浜を離れて、人気の少ない海岸沿いを歩く事にした。

 そして。

「あ、綺麗な貝殻発見。あ、あの石も綺麗。集めて首飾りにすればイオちゃんとルリアちゃんのお土産に丁度良いかも。うわ、布かと思ったら虫だった!」
「……」

 海岸沿いの岩場にてはしゃぐと、その様子を岩場に座って見ているだけのユーステスと。

 ――太陽の下ではしゃぐ彼女を見ながらのんびりするのも、悪くない時間だ。ユーステスは、のそういう普通の部分を見ているだけで自分も穏やかに過ごせるのが分かっていた。

 が居るだけで、殺伐とした戦場や組織から抜けて、普通の空間を作る事ができる。

 月の一件でと別れた後でも未練がましく彼女の事ばかり考えて過ごしていたのは滑稽だ。
 自分はもうあんなつらい思いはしたくないし、彼女にも自分の勝手だけでつらい思いをさせたくないとも思った。
 今回のアウギュステの温泉の誘いも、彼女がメグの誘いはなくても本当にそこに行きたいというならそれを断る選択肢はなかった。

 との関係が落ち着いた今は、彼女との時間を大事にした方がいい――そう、思った矢先の事だった。

「ユーステス発見! うりゃあっ!」
「!」

 ビシャッ、と、顔に何かかかったかと思えば、水だった。

「命中したけどやっぱ威力小さくなってるな」
「スカル?」

 うーん。ユーステスは自分に水をふっかけてきたのは水鉄砲を持ったスカルだと分かり、怪訝な顔をする。

「スカル、お前も此処に来ていたのか」
「おう。この時期はオレ達からすれば稼ぎ時だからな。海の家に住み込んでのバイト三昧だぜ」
「海の家で住み込みのバイトか。それじゃ、バルルガンも一緒か」
「ああ。あいつも一緒だ。あいつだけじゃなくて、ほかの団の奴らもバイトで来てたな」
「……そうか。それはいいが、何で俺の所に来た?」
「それが海の家で子供達に配ってる水鉄砲の調子が悪くてよぉ、武器の修理に詳しいお前なら何か分かるんじゃないかと思ってそれで」
「……それ貸せ、見せてみろ」

 ユーステスはスカルから水鉄砲を受け取ったところ、で。

「ひゃああっ」
?!」

 の小さい悲鳴が聞こえ、この時ばかりはスカルを放って慌てて彼女の方へ駆けつける。

「うわ、くすぐったい、あはは、止めて、止めてってば」

 に突撃して尻もちをついた彼女をペロペロ舐めるのは、スカルの飼い犬、スカルジュニアだった。

、大丈夫か」
「大丈夫。あれ、スカル君も来てたの?」

 ユーステスの手でスカルジュニアから解放されたは、ようやくスカルの存在を認めたのだった。

 スカルによれば水鉄砲だけではなく、住み込みで世話になっている海の家の調理器具の調子も悪いので、それらを機械類に強いユーステスに見てもらいたいと話した。

「お前ら、いつものようにグランサイファーの団長達か組織の連中の奴らと来てるんだろ、それなら少しの間、オレ達の海の家で働かないか」
「俺は今回は、個人的にと来ているんだが……」
「え、そうだったのか?」
「ああ。俺は個人的にとアウギュステの温泉に行く予定があって、あいつらとは関係無い」
「でも、海でいつもの団長達と組織の連中が遊んでるの見かけたぜ」
「あいつらは、俺とに勝手に付いてきただけだ」
「何だ。それじゃ、バルルガンの言う通りだったか」
「バルルガンの言う通り?」
「ユーステスはとデート? してるから、オレ達がユーステスを誘うのは遠慮した方がいいって。水鉄砲の修理はユーステス以外の誰かに頼むか……」
「……」
「ユーステス、お前がと遊んでるなら、この話は聞かなかった事にしてくれ。じゃあな」

 そう言うもユーステスが誘えず残念そうに肩を落とすのはスカルで、それを見たは。

「ユーステス、スカル君の手伝いに行きたいなら行っていいよ」

「子供達のために配ってる水鉄砲が調子悪いならユーステスの手で直してあげた方が良いし、何より」
「何より?」
「スカル君だけじゃなくてスカルジュニアがユーステスに懐いてるの見たら、私だけがユーステスを独占できないよ」
……」

 の言うよう、スカルに従うスカルジュニアはどういうわけかユーステスの足元に陣取り彼に懐いてそこから離れなかった。

「……はそれで良いのか」
「うん。ユーステスとは、今回の目的の夜の温泉で一緒になれれば良いよ」
「そうか……」

 ユーステスはしばらく考えた後、スカルに向けて言った。

「分かった。の目的の温泉までは、スカルの手伝いに行っていい」
「良いのか」
「ああ。の了解を得られたからな」
「悪い、助かる」

 スカルはユーステスの手を借りられると分かって、ほっとした様子だった。

 そして。

 自分を思ってユーステスを手放してくれたの思いを聞いたスカルは、自然と彼女を誘う。

もユーステスと一緒に、オレ達の海の家に来れば良いんじゃね?」
「良いの?」
「ああ。オレ達は学が無い連中の集まりだからなあ。ユーステスだけじゃなくてみたいな計算に強い奴が居ると助かる」
「私、計算にはそこまで強くないよ」
「でも、ファスティバの所の会計、お前が任されてるんじゃなかったか。それだけじゃなくて、組織内でも技術部任されてるんだろ?」
「そうだけど。あれ、スカル君、ファスティバさんだけじゃなくて組織内での私の技術部の話知ってるの?」
「ああ、ユーステスが自慢そうに、お前が組織の技術部に入ったって事を話してたのは聞いてるぜ」

「え、そうだったの?」
「……それは否定しない」

 期待を込めた目でユーステスを見詰めると、から視線を逸らすもそれを認めるユーステスと。

 はユーステスの本心を知って、嬉しそうに言った。

「ふふ。私も、スカル君の所の会計手伝うよ」
「よっしゃ、ユーステスだけじゃなくてもついてくれれば百人力だ。オレ達の海の家はあっちだ、行こうぜ」

 スカルは先頭に立って、ユーステスとをバイトしているという海の家まで導く。

 しかし。

「ありゃ、うちの会計はスカルがユーステスを呼びに行っている間、マナリア学園の先生やってるエルモートが引き受けてくれて、それに応じちまった。多分、の出番ないぞ」
「ええー、そうなの?」

 スカルがバイトしているという海の家につけば同じくバイトしているバルルガンからそう断りが入った。

「よう、
「エルモートさん」

 の前にエルモートが現れ、彼は「ユーステスはがついてるのでそれでスカルに応じないと思ってオレがこいつらの会計を引き受けたんだ」と、に申し訳なさそうに話した。

よ、お前、簡単にスカルに応じて良かったのか。今日は、ユーステスとの貴重なデートなんだろ?」
「ユーステスとは夜になれば一緒になる約束してるんで、当分は大丈夫です。それに」
「それに?」

 の視線は、スカルから何本かの水鉄砲を受け取り中身を分解してその調子を確認しているユーステスに移る。エルモートもにつられるよう、ユーステスを見る。

「それに私は、ユーステスが自分のしたい事で活躍するのを見るのが好きなんです。それだから私は、子供達のために水鉄砲を直している今のユーステスは一番格好良いと思ってるんですよ」
「……それはそれは」

 ――ここまで達観してるたとは。さすが、武器も魔法も扱えずともユーステスの相手になれるだけはあるな。

 にこにこ笑ってエルモートにそう言ってのけたと、そのに感心を寄せるエルモートと。

「まあ、がスカルに応じてユーステスを手放した事に納得してるなら、オレも言う事はないな」

 うん。エルモートはの話には一応納得した様子で、次に彼女に言った。

、ユーステスと離れて暇ならサンダルフォンの手伝いに行ったらどうだ?」
「サンダルフォンのですか?」
「ああ。あいつ、コーヒーの屋台を出したはいいが、肝心のナタク達が使い物にならんって、腹立ててた。それで、うちにも人間の手伝いあまってるなら貸してくれって頼みに来ててさ。、ユーステスと別行動出来るなら、サンダルフォンの手伝いに行ってやってくれねーかな?」
「それじゃ、サンダルフォンの所に行ってみます」
「もし、サンダルフォンがの手伝いは必要無いって言われたら、その代わりにオレがそっち引き受けるとも伝えておいてくれ」
「分かりました」

 ひらひら。はエルモートに手を振って、ユーステスにも「サンダルフォンの所に行ってみる」と伝えてから、スカル達の海の家を出て行った。


「え、が俺の手伝いに来てくれたのか? ならいつもファスティバの所での手伝い見てるから追い返す必要ないし即戦力で期待できるが、お前、ユーステスとデートなんじゃなかったのか?」

 サンダルフォンの所に行けば彼からもユーステスの事を気遣われたが、夜に一緒になるので心配いらないとだけ伝えれば彼は納得したよう、うなずいた。

「それじゃ、会計だけじゃなくて売り子も手伝ってくれないか」
「売り子? いいけど、ナタクさん達はどうしたの?」
「あいつら、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。興味あるものがあると店番ほったらかしてどっか行くんだ。今もそのへん、さぼってウロついてるんじゃないか。星晶獣の奴ら、勝手気ままで使いづらいんだ」
「あはは、それで人間の手伝いが必要だったんだ」
「いつも、ファスティバについてる真面目なならそのへんの心配ない。頼めるか」
「こういうのは私の得意分野だからね。お任せを!」
「おう。頼もしいな」

 胸を張って応じると、笑うサンダルフォンと。

 それからは売り子として、サンダルフォンの屋台を手伝う事になった。


「あれ、サンダルフォンの手伝い、が引き受けたのかい?」
「ユーステスの兄ちゃんとのデート、どうしたんだ」
はそれで良かったんですか? もし、がユーステスさんの所に戻りたいなら、店番くらい私達が代わりますけど……」

 サンダルフォンの店で手伝いを引き受けるとしばらくしてその話を聞きつけたらしいグラン、ビィ、ルリアの三人が来てくれて、ユーステスとの関係を心配そうに言ってくれた。

「ユーステスとは夜に合流するから、心配いらないです。その間、自由行動になったというだけですから」

「そう。がそれに納得しているというなら僕達は何も言わない、けど」
「けど?」
「けど、サンダルフォンの屋台、けっこう人気あってね。昼ごはんが終わった昼過ぎくらいから行列ができて忙しくなるよ。それ、一人で裁けるかどうか」
「え、サンダルフォンの屋台、そこまで流行ってるんですか?」

 グランの心配を聞いたは、サンダルフォンの屋台がそこまで流行っているとは思わなかった。

 グランはに近付いて、小声でそのわけを明かした。

「……サンダルフォン目当ての女性客が多いってのもある。ついでにナタクも同じで、更にサテュロスとメドゥーサが揃っていれば男の客も来て、多分、が思ってるよりお客さんが来るよ」
「ああ、そういうわけですか」

 なるほど。納得。顔の良いサンダルフォン、ナタクは女の客が、サテュロスとメドゥーサは男の客が増えるというわけか。

「その頃になったら僕達もサンダルフォンとの助っ人に行くよ」
「分かりました」

 はグラン達と別れて、サンダルフォンの店に本格的に腰を据えたのだった。


「いらっしゃいませー。アイスコーヒーですね、お待たせしました! 新商品のケーキセット、トッピングにアイス乗せか、香り付けにハーブを浮かせるのはどうですかー? おすすめですか? どれもおすすめですけど、一番売れてるのはアイスコーヒーのアイス乗せですね! あ、お客さん、計算間違ってますよ、20ルピ余計です。その計算だと、100ルピ払う方が良いですよ!」

「……」

「サンダルフォン、それ、二番テーブルのお客さん用だよ! お皿とカップの組み合わせ、ケーキの色合い見るにそれじゃなくてこっちの方が良いかも。パフェの飾りつけはこうやると見栄えいいって、ベアトリクスとジュリエットに教わったんだけど、どう? 材料が切れた? 隣のお店に借りてくるよ! 隣のお店の奥さん、何人か子供が居て、子供達にお花もらっちゃったー。このお花、お店に飾ろう」

「……」

 昼過ぎ。

「サンダルフォーン、お店、どうなった?」
「そろそろお店が忙しくなる頃で、あたし達の手が必要でしょ?」
「うむ。オレ達もそろそろ本腰を入れて手伝いを――、て、何、椅子に座ってくつろいでるんだ。いよいよもって、廃業したのか?」

 さぼっていたメドゥーサ、サテュロス、ナタクの三人が店に戻ってきた。

 ナタクは、店が忙しいにもかかわらず椅子に座ってボウルを抱えて生クリームを泡立てているサンダルフォンを目撃し、心配そうに見る。

 サンダルフォンは力の無い笑顔で、ナタクに言った。

「……いや。お前らの代わりに借りた手伝いが優秀過ぎて、俺はケーキ作りとコーヒーいれるだけで良くなってな」
「は?」

「あ、じゃない」
「何だ。が手伝ってるなら、サンダルフォンが座ってるの納得かなー」

 その間、メドゥーサとサテュロスの二人がを発見した。

 ここでメドゥーサは興味深そうに一人のを見詰め、彼女に聞いた。

、アンタ、ユーステスとデートしてるんじゃなかったの?」
「ユーステスとのデートは夜からだよ。ユーステスはアウギュステでも顔見知りから誘われるのが多くて、それまで自由行動になった」
「ふうん? アタシ達、人間の男女関係はよく分かんないけど、ユーステスとせっかく此処まで来たのには彼と離れて平気なの?」
「私の場合はユーステスと離れて平気だけど、離れるのが平気じゃない人も居ると思うよ」
「へえ。はユーステスと離れて平気な方なんだ。それじゃ、アタシ達がと離れたユーステスを誘っても平気なわけ?」
「それは――」

 ニヤニヤと笑って何かを試しているメドゥーサと、答えに詰まると。

 と。

「こら、それ以上を困らせるんじゃない」
「痛ッ、サンダルフォン、何するのよ」

 メドゥーサの頭を遠慮なく叩いたのは、サンダルフォンである。

 サンダルフォンはメドゥーサに諭すよう、話した。

は、ユーステスや団長達と違って武器も魔法も扱えない普通の女だからな。星晶獣のお前らがそのを試すのは違うと思うぜ」
「むぅ。そうでも人間との力関係をハッキリさせるのは、アタシ達――星晶獣の特性なんだけどさ」

「ふむ、力関係か。俺もメドゥーサじゃないが、普通であるの力を試してみたい気はあった。いつもは団長達が睨みをきかせているのでそれが出来なかったが、団長達が不在の今がチャンスか。それなら、これはどうだ?」
「!」

 ビリビリ、と。メドゥーサの不満を聞いたナタクが天に向けて槍を伸ばした途端、彼らの空間の間だけに電流が走った。ナタクの力が分かるメドゥーサ、サテュロス、サンダルフォンの三人はそれだけで立ってはいられず地面に伏せた。

「ナタク、いきなりそれの力解放すんな!」
「いや~、せっかくセットした髪が跳ねちゃったじゃない!」
の力を試すのはいいけど、アタシ達まで巻き添え食らってどうすんのよ!」

「しかし肝心のは、俺の力を受けても何ともないようだが……」

「は?」
「嘘でしょ?」
「マジで?」

「? 今、何かやったんですか?」
「――」

 ナタクの力を受けても本当に何もなかったように平然と突っ立っていると、それが信じられないと目を見張るのはサンダルフォン、サテュロス、メドゥーサの三人だった。

 サンダルフォンは思い出す。

「俺、の組織のイルザから聞いてたわ。イルザが言うには、普通のがユーステスや団長達と平然と付き合えるのは、力を持たない代わりにその感覚が鈍いせいだって。あれ、本当の話だったのか……」

「ふむ。イルザのその話は、俺も納得できるな。そもそも、あのグランサイファーの中でもに対して友好的じゃない星晶獣の仲間は居るはずで、彼らも団長に構わずを試していたはずだが、いつも何事も無かったようにケロッと突っ立っていたのを思い出したわ、ははは」

 の普通の力を目の当たりにして参ったようにコーヒーを飲むのはサンダルフォンで、愉快そうに笑うのはナタクだった。

 しかしメドゥーサはナタクと違い、のそれには納得しないで憤慨する。

「何よ、その反則的な特殊能力! アタシはそれに納得できないんですけどぉ?!」
「メドゥちゃん、落ち着いて。メドゥちゃんは何でが気に入らないのさ?」
「何も出来ないって言うわりに、お店の手伝いでもそれ以外でも何でも器用にこなしてるからよ!」
「ああ、それは見方によっては嫌味になるかもね~」

 うん。サテュロスは、メドゥーサの言い分に一応は納得してる風だった。

 は言う。

「私はでも、あなた達のように団長さん達のそばで戦える方が羨ましいけど」
「……そういう所もなんか苦手」
「メドゥちゃん~」

 に言われるもそっぽを向くメドゥーサで、そのメドゥーサをたしなめるのはサテュロスだった。

「おい、こういう時、どうすればいいんだ」
「俺に聞くなよ」

 ひそひそ。女同士のいさかいに困ってナタクに助けを求めるのはサンダルフォンで、サンダルフォンに助けを求められても何もできずに肩を竦めるのはナタクである。

 と。

、サンダルフォン」
「団長」
「団長さん」

 丁度良く、グラン、ビィ、ルリアの三人が現れた。

 そして。

、僕達と交代だ。は、ユーステスとデートを続けたらどうかな」
「良いんですか?」
「ああ。僕達も暇ができたから、丁度良い。ユーステスも水鉄砲の修理、終わった頃じゃないかな」
「ありがとうございます。それならもう、ユーステスの所に行ってきます」

 はあっさりとエプロンを脱いで、それをサンダルフォンに返した。

「団長達が来てくれて助かった……」

 サンダルフォンは、店の手伝いとしても精神面でも、グラン達の登場に感謝する。

「団長とルリアにこれを」

「任せろ」
「お店の店員さんやるの、色々なお客さんが来るから、面白いですよね~」
「どんな奴らが来てくれるか楽しみだぜ」

 グランとルリアはサンダルフォンに渡されたエプロンを身に着け、ビィも手伝う気で張り切る。

「メドゥーサもいつまでも不機嫌になってないで、エプロンつけろ」
「はいはい」

 サンダルフォンにエプロンを手渡され、それを渋々受け取るメドゥーサだったが。

「メドゥーサ、言い忘れた事があった」
「え?」

 メドゥーサは出て行く時になって急にに声をかけられ、びくっと震える。

 そして。

「――私、いくら星晶獣でもあなたが私と離れている間に私の許可無くユーステスを誘ったら許さないから。それだけ覚えておいて。それじゃあね!」
「――」

 にそう言われれると思わなかったメドゥーサは自分が石化したよう、固まってしまう。

「あらら。メドゥちゃん、言われちゃったねえ」
を甘く見て油断していると反対に噛みつかれるってのも、イルザ達に聞いてたな……」
「なるほど、あれがの持ち味か。ただの人間があのメドゥーサに言い返せるとは、ははは、愉快、愉快」

 の反撃にサテュロスはメドゥーサに構わずくすくす笑い、サンダルフォンは苦笑するだけで、ナタクは愉快そうに笑っていた。