そして。
朝日が昇る夜明け前。
「、起きろ」
「……」
「」
「寒いよぉ、眠いよぉ、お休みぃ……」
はユーステスに体を揺さぶられるも、寒くて眠いので中々寝袋から出られなかった。
そのに呆れるのは、ユーステスである。
「お前、俺と二人でキャンプするんじゃなかったのか」
「……こんな夜中に、何処行くの?」
「この場所を使っていた組織の人間だけが分かる、とびきりの場所だ」
「え、組織の人間だけが分かるとびきりの場所? ……そこ、キャンプ慣れしてるっていう隣のドラフ一家も知らないの?」
「ああ。この地でアランドゥーズが使っていた研究施設は、昔から組織に参加している俺にとっても懐かしい場所でもあるんでね。その場所は、アランドゥーズが消えた今となっては古参の人間――俺とローナンとハイゼンベルク、イルザくらいしか知らないだろう。多分、同じ組織でもゼタやバザラガ達は知らない場所だ。お前がどうしても無理なら、俺一人で行ってくるが……」
「行く、行く! 私も行くからちょっと待って!」
昔、この場所を使っていた組織の人間だけが分かるがしかし、ゼタやバザラガ達は知らない、とびきりの場所。はユーステスからのその情報だけで、寝袋から出て飛び起きたのだった。
は身支度を整えた後、ユーステスと二人揃ってテントを出た。
テントを出る頃、外はまだ薄暗い状態だった。山の向こう側で陽が見えるが、全体が明るくなるのはもう少し先。
「山入るの? まだ暗いけど、大丈夫?」
「心配ない。道筋は頭に入っている。俺から、はぐれるなよ」
言ってユーステスはランタンを手に、前を進んでいく。はそのユーステスに追いつくのに必死だった。
十分後。
「まだ?」
「もう少し」
二十分後。
「テント出てから、三十分くらい歩いてない? ちょっと休憩しない?」
「時間がない。休憩する暇はない、急げ」
「えー。私もう駄目かも~……。こうなればもう、此処で待ってるから、ユーステスだけ先に行って良いよ」
は最初、山登りに不慣れな自分は大人しく此処で待っていようと思ったけれど。
「手」
「え?」
「お前の足じゃ間に合わん。俺の手に捕まれ。速度上げる。もう少しだ、頑張れ」
「……うん、頑張る」
ユーステスは自分を置き去りにせずに手を差し出してきたので、はその手を受け取ると、もう少し頑張ろうと思った。
それから二十分後、合計で五十分ほどは山道を歩いていたと思う。
その頃はヘトヘトで疲れていたが、しかし――。
「見ろ、山頂の日の出に間に合った」
「わあ……」
ユーステスがを連れてきた場所は山の頂上にある展望台だった。開けた山頂付近には組織が用意したと思われる古びたベンチと小屋があり、そこから見える風景といえば――。
「凄い、綺麗!」
生まれて初めて山の上から日の出の太陽を間近に見たは、ここまで胸がドキドキして感動した事はないと思った。
「山の頂上でここまで凄い太陽が拝めるとは思わなかった! ユーステスはどうして、この場所知ってたの?」
ユーステスはベンチに腰かけると、それだけで感動するに昔の話を聞かせる。
「あれは確か今より若い頃――イルザがまだ教官になる前の話だ、俺はアランドゥーズの研究施設での訓練の帰り、このベンチで同じく訓練帰りのイルザと酒盛りして帰るのが常だった。たまに此処でテントを張って、イルザと二人で朝日を拝んで帰る事もあった。此処はその当時、俺の一番好きな場所でもあった」
「そうか。私、組織の裏切り者だったっていうアランドゥーズさんに会った事もないし、この場所が今より若い頃のユーステスとイルザさんの思い出の場所だとも知らなかった。……ねえ、そのイルザさんとの思い出の場所にイルザさんの許可なく私を連れてきて良かったの?」
は、ユーステスとイルザにとって思い出深いこの場所は、いまだに組織に貢献できていない自分には立ち入っていいのだろうかと不安になったけれど――。
「今回、このキャンプ地の場所を選んだのはローナンからアランドゥーズの研究施設が残ってないかどうかの任務を受けたのと、それから」
「それから?」
「それから俺の好きだった場所に、お前を連れていきたいと思ったんだ」
「……どうして私をユーステスの好きだった場所に連れて来たいと思ったの?」
「は、騎空団の父親を持っていても武器も魔法も扱えないせいで、上の兄弟達と違ってあちこち連れて行ってもらえなかったと聞いたせいもある」
「あ……」
「それだから仕事以外での話になるが、家を出るまで温室育ちで箱入り娘状態だったお前が行きたい場所があれば、俺に遠慮なく言え。できるだけ俺の手でお前をあちこち連れていってやるよ」
「……本当?」
「ああ。それだけじゃなくて俺は、今回、アランドゥーズの研究施設があってもなくても普通のキャンプ場であそこまで喜ぶを見ていたら、これから先も今まで仕事で行った場所でお前に見せたい景色が色々あったのを思い出してな。さえよければ此処だけじゃなく、色々連れて行ってやりたいとも思った。それだけの話で、此処までお前を連れてきたんだ」
「ユーステス……」
はユーステスの気持ちを聞いて、胸がいっぱいになる。
「ついでに言えば、お前が此処に来るのにイルザの許可は必要ないだろ。むしろ、イルザは俺に構わず嬉々としてお前を昔の懐かしい場所を案内しそうだから、あいつに遠慮はいらん」
「……うん、イルザさんなら遠慮しない方が良いね」
ユーステスの気持ちを知ったは彼と同じくベンチに座って、それから。
ちゅ。
「」
「えへへ。いつも引きこもってた私を此処まで連れてきてくれた、お礼!」
は、自分を置き去りにせずに此処まで連れてきてくれたユーステスには感謝しかなく、そのお礼という名目で彼の頬に口づけしただけ。
「……」
「……」
沈黙が怖い!
は軽い気持ちでユーステスの頬にキスをしたがいいが、ユーステスの方は何か考え込んで黙ったまま。
は焦って、持ってきた水筒を差し出した。
「え、ええと、山の上だから寒いと思って晩御飯の残りのスープ持ってきたけど、どう――」
その先が言えず、スープも渡せなかった。
「ん」
ユーステスに腕を強く引っ張られたかと思えば彼の腕の中に納まり、何事かと思って顔を上げた途端に素早く唇を奪われてしまった。
「ん、んぅ……」
はユーステスに抱き締められた状態で、唇を味わうように何回か口づけを繰り返される。
「っは」
口づけから解放された時、お互いの息は上がってそれに落ち着くまでしばらく抱き合う。
はユーステスの腕の中で彼を見上げて、言った。
「……ユーステスって普段は素っ気ないけど、団長さんの艇でも組織の拠点でも階段の踊り場だったり廊下だったり、なんか知らないけど今みたいに急にスイッチ入って積極的になる時あるね。何か法則でもある?」
「知るか。お前が俺を誘うからだろうが」
「えー。私、誘ったつもりないけど」
「嫌なら俺から離れろ。力入れてないから、すぐに逃げられるだろ」
「嫌じゃないよ。むしろ嬉しい。まだ離れたくない」
「……それが誘ってるって言うんだ」
「えー?」
お互いに顔をあわせて笑った後、もう一度、自然と口づけした。
そして、それから。
楽しかったキャンプは、あっという間に終わってしまった。
「ただいま!」
「帰った……」
昼過ぎ。はユーステスと二人揃って無事、予定通りの時間にグランサイファーに帰還したのだった。
「、お帰り!」
「お帰りなさい!」
はすぐ、帰りを待ち構えていたイオとルリアに囲まれる。
「二人とも、お帰り。の様子を見るに、ユーステスと何事もなく無事に帰ってきたようで、良かったよ」
「そうだな。二人とも無事で何よりだぜ」
グランとビィも、の前に現れた。
それから帰ってきたに興味深そうに聞くのは、ビィである。
「、ユーステスの兄ちゃんとのキャンプ、どうだったんだ?」
「とても楽しかったよ。今回は一日ぶんの食糧しか持ってきてなかったけど、足りてたらもう一日やりたいくらいだった」
「へえ。それは良かった。ところで……」
ビィと一緒にの感想を聞いていたグランは、よりも出かけるよりも帰った時に大きな荷物――背丈ほどある大きな皮の袋を抱えているユーステスに注目する。
「ところでユーステス、君が抱えてるその大きな袋、なんだい? と出かける時はそんな大きな袋、持ってなかったように思ったけど」
「まさか、アランドゥーズの研究施設で残されていたものか?」
グランに続いてイルザも現れ、ユーステスのその大きな荷物に注目する。
その荷物を降ろしている間にユーステスは、イルザと向き合う。
「イルザ、のキャンプが終われば報告のために同じ組織の人間を呼ぶつもりだったが、お前がすでにこの団に来ているとは思わなかった。どうした?」
「ああ、まあ、アランドゥーズの研究施設の件で、が心配でな」
「そうか。しかし、ローナンの話していた通りにアランドゥーズの研究施設は取り壊されて更地になって地下にも何も残っていないというのは、確認できた。それだからもう、イルザがそこまで心配する必要はない」
「……そうか。しかしお前、どうしてとのキャンプをそのキャンプ地にしたんだ? ほかにも安全なキャンプ地の候補はあったと思うが」
イルザは、ユーステスに改めてその疑問をぶつける。
ユーステスは淡々とイルザに答える。
「イルザ、あそこにアランドゥーズの研究施設があった時代、お前と訓練帰りに酒盛りしていた山の展望台、覚えてるか?」
「ああ。そういえばそんな事もあったな。それであの展望台、まだ残ってたのか?」
「あそこの山から見える日の出は、絶景だったからな。ローナンもあそこだけは取り壊さずに残してあると話していて、その通り、そこのベンチと小屋だけは残っていた」
「うむ。確かにあの山の展望台から拝める日の出は絶景でローナンもそこだけは残していたのは分かる――て、お前、もしかしてその展望台にを連れて行ったのか?」
「そうだ。夜明け前になってそこの展望台にを連れて行って、あの絶景を見せてやった」
「……お前、アランドゥーズの研究施設があった場所をのキャンプ地に選んだのは、単純に自分の女を自分の好きだった場所に連れて行きたかっただけか?」
「ああ。その通りだ。それ以外に何がある?」
「団長の予想通り、単純な理由でそこ選んだだけか。心配して損したわ」
はぁ。イルザは、ユーステスはグランの予想通りに単純な理由でその場所を選んだのが分かって、拍子抜けしたのだった。
次にユーステスは、まだイルザのに関する心配事が残っているのを悟って彼女にそれを聞き出した。
「イルザはほかにの何を心配してたんだ。お前がこの団に来たの、それだけじゃないだろ」
「……そうだな。白状すればお前は私達に黙って、をアランドゥーズの残した研究の実験台にするんじゃないかと思ってそれで」
「は? 何で俺がをアランドゥーズの残した研究の実験台にするんだ? 俺がをそんな危険なものに参加させるわけないだろ」
「お前、組織ではローナンの指示は絶対だったじゃないか。ローナンからをアランドゥーズが残した研究施設の実験台にしろと指示があればお前は、すらためらわず使うと思ったんだが」
「ああ。俺がもしローナンからその指示を聞けばとは別の女を用意させるか、それができなければと別れて組織と縁を切らせるしかない。それだからそうなった時は、初めからとそこのキャンプ地まで行ってない」
「それはそれは……。これまた団長の話していた通りだったか」
イルザはこれまたグランの話していた通り、ユーステスはそれの回避策を用意していてそれでだけ甘いというのが分かって苦笑するしかなかったという。
そして。
「最初からお前のそれが分かっていれば私もに昔の思い出の場所を案内したかったし、その思い出の場所でと一緒にキャンプもしたかった! 何で最初からそれ私に打ち明けなかったんだ、クソが!」
「……」
ユーステスのへの思いを今になって知ってそれに悔しそうに地団太を踏むイルザと、イルザに最初から自分の胸の内を明かさなくて良かったと思ったユーステスと。
一方。
「ええとね、ユーステスが持ってたこれはアランドゥーズさんの研究物じゃなくて、キャンプで一緒になったドラフ一家のお父さんから分けてもらったお肉と、今日になって私とユーステスが川で釣ってきた魚が詰まってる袋だよ」
ユーステスとイルザが話している間、彼の持っていた袋の中身をグラン達に説明するのは、だった。
「うわ、本当にお肉とお魚がいっぱい詰まってるわ!」
「あれ、このお肉とお魚、全部凍ってますけどユーステスさんの仕業ですか? でもユーステスさん、氷の魔法扱えましたっけ?」
イオは袋に詰まっていた肉と魚の量に驚き、ルリアはその肉と魚が全部カチコチに凍っているのに気づいて驚いている。
はそれについても説明する。
「それね。私とユーステスだけじゃそこまで魚釣れなかったんだけど、最後にドラフのお姉さんが強力な風の魔法で川の魚を一網打尽にしてくれちゃってね。そのお肉と魚持って帰るのに保存用にって、同じくドラフの弟君が氷の魔法で凍らせてくれたんだー」
「は? ドラフのお父さんに肉を分けてもらっただけじゃなくて、ドラフのお姉さんが風の魔法で川の魚を一網打尽にしてそれを保存用にドラフの弟が氷の魔法で凍らせてくれた?」
「何だそりゃ、話が全然見えてこねえな」
グランとビィはの説明を聞いてもピンとこないで、首を傾げるばかりだった。
「のキャンプであらゆる属性の魔法が扱えるドラフ一家と知り合いになってな」
「ユーステス」
に代わってグラン達に簡潔にそう説明するのは、イルザから解放されたユーステスである。
「彼らの魔法の腕は確かだ。そのドラフ一家、団長なら興味持つと思う」
「へえ。他人をあまり評価しないユーステスがそう評価するなんて、珍しい。確かに、この量の肉と魚を捕まえられるのと凍らせるのは、魔法の使い手としては相当の腕前だ。それでそのドラフ一家、僕達の団に紹介してくれるのかい?」
ユーステスとの予想通り、グランもそのドラフ一家に興味を持った。
ユーステスはと顔を見合わせた後、自信を持ってグランに向けて話した。
「ああ、そのつもりだ。しかしその前にがファスティバ達と、その肉と魚でご馳走を作ってくれるそうだ」
「ユーステスの話した通り、ファスティバさん達と今夜はこれでご馳走作るよ! そうだ、今夜の宴会に組織のゼタ達はもちろん、十二神将のマキラちゃん達と二十七歳メンバーのシエテさんとシルヴァさん達も呼ぼう! あ、それだけじゃなくてマナリア学院のアンとグレアとオーウェンさんの三人も個人的に招待したいんだけど、いいかな」
「いいけど、それだけの人数ぶん、足りるの? 普段の計画してやる宴会と違って急な招集だからこの袋のお肉と魚だけじゃ、その人数ぶん足りないんじゃない?」
イオは、ユーステスに続いて張り切ると違ってその不安を覚えるが――。
「大丈夫、大丈夫。この袋以外にもドラフ一家の皆に肉と魚をたくさん分けてもらったけど持ち運べないぶんはシェロさん経由でこの艇に送ってもらう手配にしたから、夜には残りの袋が全部届くと思うよ。それで多分、人数ぶんは足りるんじゃないかな」
「うへ、マジかよ」
「それは凄い。ますますドラフ一家に興味持ったよ」
の話を聞いて驚いてのけぞるのはビィで、グランもそれには笑うしかなかった。
そして。
「とユーステスさんが話しているドラフ一家の皆さん、一日のキャンプでこれだけのお肉とお魚取ってきたの、凄いですね! 、そのキャンプで知り合ったというドラフ一家の皆さんについて、それから、どうして個人的にマナリア学院のアンさんとグレアさん、オーウェンさんの三人を招待したいのかそれの理由、聞かせてくれますよね?」
「もちろん! 今回のキャンプで団長さんとルリアちゃん達にドラフ一家の皆だけじゃなくて話したい事、いっぱいあるんだ。聞いてくれる?」
ルリアにキラキラした目で期待するように言われたは、笑顔でそれに応じたのだった――。