空の色が変わる前に(01)

 それは、グランサイファーの食堂で遅めの昼ごはんを食べている時の話。

「ねえグウィン、吸血鬼に血を吸われるにはどうすればいいと思う?」
「は?」

 暇だったのでグランサイファーに遊びに来ていたグウィンは隣で真剣な眼差しでそう聞いてきたを見て、思わず手に持っていたグラスを落としそうになった。

 つまり。

「……つまり、グランサイファーのハロウィンパーティーで毎回、吸血鬼コスしてるユーステスさんに血を吸われるためにはどうすればいいかっていう話?」
「うん。同じく毎回グランサイファーのハロウィンパーティーに参加してるイオちゃんやルナールによれば、ユーステスの吸血鬼コス、それはもうカッコよくてヤバいんだって! 吸血鬼なのに血吸われたいくらいだって!」
「……多分最後のそれ、だけだと思うけど」
「えー。ルナールもユーステスの吸血鬼コスは鼻血モンだって話してたよ」
「それもルナールだけだろ」

 ははは。グウィンは笑顔を張り付け、グラスの水を一気に飲み干した。

「それで、団長さん達や組織の先輩達はハロウィンで何の仮装やるか聞いてるのか?」

 グウィンに話を切り替えるように問われたは指折り数え、彼女にハロウィンパーティーでのグラン達と組織の皆の様子を話した。

「ええと、団長さんとルリアちゃん達は魔法使い系で、組織の皆はゼタとバザラガは魔法使いとそのしもべ、ベアトリクスとイルザさんもそれにあわせるように魔法使い系のコスで参加だって」
「……、団長さん達とゼタ先輩達の魔法使いは分かるけど、バザラガさんのしもべって何だ?」
「さあ、何だろ?」

 はて? とグゥインの二人はバザラガの「しもべ」については何か分からず終わる。

 は言う。

「私、今回がグランサイファーのハロウィンパーティーに初参加だけどまだ何のコスにするか決めてないんだよねー。グウィンはどうするの?」
「そうだなぁ。私もと同じく今回が初参加だから、何のコスにするかはまだ決めてないな。多分、組織の先輩達にあわせて同じ魔法使い系にする方が無難だと思ってる」
「そうかー。それで同じく今回が初参加だと思うアイザックさんとカシウスはどうするって?」
「アイザックはそもそも、ハロウィンパーティーに乗り気じゃないみたい。当日は技術部の倉庫にこもってるってさ」
「はは、アイザックさん、この手のパーティー苦手そうなの分かるわ。それで、肝心のカシウスは?」
「カシウスはアイザックと違ってハロウィンに乗り気で、コス衣装もグランサイファーの誰かに頼んでるらしいよ。それで、ゼタ先輩達だけじゃなくて団長さんも含めて組織以外の団員達の調査も抜かりなくやってるとか……」
「うわ。カシウス、バレンタインの時もそうだったけど意外と女子力高いもんなー。女装とかやられたら凄い似合いそう、どうしよう」
「あー。カシウスに女装やられたら確かに、私達じゃ太刀打ちできないかも」

 カシウスは女装させたら似合い過ぎて、女としてへこむかもしれない。おまけに。

「おまけにカシウス、ユーステスの吸血鬼にあうように組織の皆と同じような魔女衣装で彼の隣に並ばれたらサイアクだわ。私じゃ女装魔女カシウスに対抗できない、うわああん!」
「……(一番面倒臭い時に一緒になったな)」

 わあ。は魔女で女装したカシウスと吸血鬼のユーステスが仲良く並んでいる場面を勝手に想像して、勝手に泣き出してしまった。そのを見て面倒臭いと思うグゥインだった。

 は椅子にもたれて、投げやりに言う。

「吸血鬼コスのユーステスに血を吸われるようなコス衣装、誰か考えてくれないかなー」
「あれ、いつものコルワさんにコス衣装、頼まないの?」
「コルワには、デザインが決まれば作ってくれる約束はしてる。その肝心のハロウィン用のコスデザインが決まらないんだよー」
「なるほど。ハロウィン用のコスデザインか……。はどういうのが良いんだ?」
「ユーステスの吸血鬼コスにあうのは魔女衣装と思うけど、同じく魔女衣装が決まってるゼタ達とかぶるのはどうかな、と……」
「何で、魔女衣装でゼタ先輩達とかぶるの嫌なんだ? ゼタ先輩達は、とかぶるのは別に気にしないと思うけど?」
「いや、前回のゼタ達の魔女衣装デザイン見せてもらったらいつもの露出多めのセクシー系で、私がそれと並んだらカシウスと同じく残念な結果になるのが目に見えてる!」
「ああ、露出多めでセクシー系の衣装が似合うゼタ先輩達と並ぶの嫌だってのは分かる気がするわ……」
「でしょ。おまけに、この時ばかりはカタリナさんとロゼッタさんも露出多めのセクシー系らしいよ! 二人ともいつも以上に色気ムンムンで、それ見たローアインさん達がヤバくなる日でもあるんだって! あ、これ、因みに参加者の男の人全員じゃなくて、ローアインさん達の種族――エルーンの男の人限定らしいよ。そんなの、適うわけないじゃない!」
「……最後のローアインさん達のその情報はいらんわ」

 グウィンはのそれには共感するも、最後のローアイン達のその情報は余計だと思ったけれど。

「いやいや、ローアインさん達の情報で彼らと同じエルーンのユーステスもヤバくなる日だっての、これで分かったからその情報も重要だよ。それで私以外の女に目移りしないか、心配~」
「……(同じエルーンでもローアインさん達と違ってユーステスさんの場合、というか、を可愛がってるイルザ教官達の監視がある中でそこまで別の女に目移りしないと思うけどねえ)」
「何?」
「いや、何でも?」

 の心配をよそにグウィンはそう思うが、彼女にそれを明かすのは何となく面白くないし面倒臭いので黙っていた。

 そして。

「この団の人間、カタリナさんとロゼッタさんを筆頭に、ソーンとシルヴァさん、ナルメアとエッセル、レヴィオン騎士団の三姉妹、ヘルエスさんにジャンヌ、あのジュリエットとクラリスでさえ、セクシー系な衣装が似合う人多くて、嫌になるわ。それから意外とイオちゃんも大胆なんだよねー。組織のイルザさんとゼタ達もそれ系だから、その中で地味な私なんか埋もれて目立たず、ユーステスの相手にもならない……」
……」

 ――確かに、セクシー系のお姉さんが多いこの団では何を着ても惨めになるだけだよなぁ。この時ばかりはグウィンも、に同情してしまった。

 ふと。

 グウィンはに同情する中で、とても良いアイディアを思い付いたと思った。

「あ、そうだ、団の本場の吸血鬼の仲間に聞けばどういうデザインが良いか考えてくれるんじゃない?」
「この団で本場の吸血鬼仲間というと……」


 真っ先に思い付いたのは。

「――吸血鬼でお姫様のヴァンピィちゃんに力を貸して欲しい? ふうん、それでヴァンピィちゃんの所にとグウィンで二人揃って来たんだー」

 とグウィンは、吸血鬼のお姫様である、ヴァンピィの部屋までやってきた。
 ヴァンピィの部屋は薄暗い地下にあって、そこはあまり団長のグランさえ近付かない場所と聞いている。
 ヴァンピィの部屋ではヴァイトの姿もあった。

 この時にグウィンは自分で「団の吸血鬼仲間に聞いてみたら?」と提案しておいてなんだがそこまで行く気はなく最初は断るも「ヴァンピィちゃんは私一人じゃ大変だし、薄暗い地下室苦手だからグウィン、ついてきてー」とに泣いて懇願されて、渋々、ついてきた次第である。

 因みに地下室に行く時にはグウィンがついてきてくれるから大丈夫と団長のグランに断りを入れていて、グランはについていくというグウィンをジッと見詰めて「頼んだよ」と言った後に「気を付けて」とだけ言い残して、意気揚々と地下室に行くとグウィンの二人を見送った次第である。

 ――団長さんもイルザ教官と同じで、に甘いからなぁ。もしヴァンピィを怒らせてに何かあれば私がそれの責任取らされるのか? ……。その時はその時だし、技術部で組織だけではなくてこの団の人間関係も把握しているなら大丈夫だろ、多分。

 グウィンは、グランに自分に「頼んだよ」の一言の中に「何が何でもヴァンピィからを守れよ」と圧力をかけてきた事を悟って、「気を付けて」と言うのもに向けたものだろうと思って、顔を引きつらせつつも、ヴァンピィと対峙するを見守る。
 
 地下室まで来たとグウィンを見たヴァンピィは、胸を張って言う。

「そこのグウィンはイルザの所の兵士だからその実力は分かるけど、力を持たないアンタが、団長抜きでヴァンピィちゃんに力を借りたいなんてねえ。で、どういう要件で来たの? 団長に気に入られてるでも場合によっちゃ、怪我だけじゃすまないかもよー?」

 ふふん。いつもは子供っぽく見られるのとその言動のせいで団の中では格下に見られるのが多いが、力を持たないに対しては話が別で、ここぞとばかりに胸を張るヴァンピィだった。

 ヴァンピィと、二人の様子を見て頭を抱える少年一人。それは。

「ああ、力加減を知らないヴァンピィがに怪我させたのが団長達に知られたらまずい、僕はお邪魔のようだからこれで失礼――ッ?!」
「――多分、同じ吸血鬼仲間のアンタが居る方が円滑に進む気がするわ、そこに居てくれるか」

 ヴァンピィとが対峙する隅でこっそり逃げようとしたヴァイトの首ねっこを捕まえて逃がさなかったのは、グウィンである。

 ヴァイトは自分を逃さなかったグウィンを睨みつける。

「お前、と同じ組織の人間だろ、それで何でを止めないんだよ。団長抜きで交渉なんて、ヴァンピィに間違った態度取れば、でも本当に怪我だけじゃすまないぞ!」
「ああ、は団長さん抜きでもそのへん心配いらないよ。が此処まで来た話の内容聞いてれば、そこまで大変じゃないって分かるからさ」
「え?」

 グウィンの指さした方向をヴァイトが振り返れば、ヴァンピィとのおかしな会話が続いていた。

「は? いつものハロウィンパーティーで吸血鬼コスやってるユーステスに血を吸われるようなハロウィンコスを教えて欲しい?」
「うん。どんなハロウィンコスが人間の血を吸いたくなるか、本場の吸血鬼さんに聞いてみたくて。えへへ」
「……それだけの要求で、ヴァンピィちゃんの所に来たの?」
「うん。それだけの要求で此処まで来たんだよ」
「……、ヴァンピィちゃん達の力を狙ってきた人間達はたくさん居るけど、アンタみたいなのは初めてだわ」

 のこれには本場の吸血鬼も呆れて力が抜ける始末であった。

 は呆れるヴァンピィに構わず、彼女に詰め寄る。

「それで、吸血鬼の生態よく知らないんだけどどういう衣装だったら血を吸いたくなるの?」
「何で、力を持たないアンタにそれ教えなくちゃいけないの」
「あ、そうだ、ただで教わるとは思わないよ」
「何? 力を持たないアンタが団長抜きでどうやってヴァンピィちゃん達と交渉するって――」

 バサバサ。

「!」

 の持っている紙袋からキャンディーがいっぱい出てきたのを見て、ヴァンピィの目の色が変わった。

 はお菓子を見せただけでヴァンピィの目の色が変わったのを見逃さなかった。

「ヴァンピィちゃんが喜びそうなお菓子、いっぱい持ってきたんだけどなー?」
「ふ、ふん、これならアンタと交渉に応じてあげてもいいわよ!」

「ヴァンピィ……」

 のお菓子に食いつくヴァンピィと、それを見て呆れるヴァイトと。

 と。

 はこの部屋に来た時から、あるものが気になって仕方なかった。それは。

「ね、ねえ、前からヴァンピィちゃんの友達のベスちゃん触りたかったんだけど、触って良いかな?」
「……、人間のアンタが此処まで来たなら仕方ないわね、この部屋であればベスちゃんくらい貸してあげるわ」

「ありがとう!」

 ヴァンピィは単純に、この薄暗い地下室にある自分達の部屋まで来たを追い返すわけにもいかず、更には期待を込めた目で見詰められてはそれを拒否できず、渋々、ベスちゃんを貸したのだった。

 ベスちゃんを貸したはいいが――。

「きゃー、一回、ベスちゃんを撫でてみたかったんだよねー。ベスちゃん、思った通りにめちゃくちゃ可愛い!!」

 は以前からヴァンピィの友達である竜の子供、ベスちゃんを触ってみたくても「団長達と違って力を持たない人間にベスちゃんは触らせない」とヴァンピィに睨まれてそれが叶わず悲しかったが、今回、ようやくにしてベスちゃんを触る事が許されてその勢いはヴァンピィも引くほどだった。

「ちょっと、ベスちゃんはヴァンピィちゃん以外の人間に触られるのが苦手だからほどほどに――て、あれ、ベスちゃんがヴァンピィちゃん以外の人間に触られても怖がらない……。何、ベスちゃん、の触り方、気持ち良いから構わないって? ……、アンタ、何か力使ってる?」
「力を持たない私が力使うわけないじゃない」
「それじゃどうして力を持たないアンタが、ベスちゃんを気持ち良くさせてるのよ。絶対、おかしな術使ってるんじゃないの?」
「ふふふ、単純な話、ここにきてユーステスのエルーンの耳に触ってきた技術が役立ってるってだけだよー。ユーステスも私にエルーンの耳を触られるのは嫌じゃないって言ってくれてるからね~」
「エルーンは、自分のエルーンの耳を他人に触られるのは嫌がるのが多いと聞いてるけど、あのユーステスはに自分のエルーンの耳を触られても一つも動じなかったのを何度か見てるわ。それでか……」

 ふむ。ヴァンピィは、ベスちゃんが力を持たないに撫でられても気持ち良さそうにしているのは、ユーステスのエルーンの耳に触ってきた技術力のせいというのは、納得した。

 納得したはいいがヴァンピィは、力を持たないの手で気持ち良くなっているベスちゃんを見るのは面白くなかった。

「ベスちゃん、から離れる! ももう、ベスちゃんから離れなさい!」
「えー。ベスちゃん、私にもっと撫でてもらいたがってるよ!」
「いいから、もう終わり!」
「えー」

 ヴァンピィはベスちゃんとを無理やり引き離し、は残念そうに思うも、当のベスちゃんはヴァンピィの腕の中で落ち着いた様子で、その様子がとても可愛かったのでこれ以上ベスちゃんに触れるのは止めておいた。

 それからヴァンピィはからもらったクッキーを食べ、同時にそれをベスちゃんにも与えながら、彼女に言った。

「全く。ベスちゃんで話がそれちゃったけど、まあ、アンタのいう吸血鬼が血を吸いたくなるような衣装考えてくれっていうのは面白そうだから、それの話に乗っても良いわ」

「ありがとう。それじゃさっそく、それについての話を始めよう」

 はヴァンピィの了解が得られて、嬉しそうだった。


「これが噂の力を持たないの交渉術か。話には聞いていたけど、これなら力を持たないでも団長抜きでいけるもんだな……」

 ヴァイトは、の力を持たないなりの交渉術に感心を寄せる。

 そして。

 グウィンはニヤリと笑って、ヴァイトに向けて話した。

は力を持たないぶん、私より――違うか、団長よりこの団の人間関係とその扱いに詳しいんだ。はうちでもそれで技術部入ってるからな!」
「……(それ自慢げに言う話か?)」

 ヴァイトでは、グウィンがどうしてを自慢そうに語るのかは分からなかった。

 グウィンは言う。

「まあ、ヴァンピィとに何かあれば私が責任もってを逃がす準備はしてあるからそこは安心してくれ。アンタはその時、ヴァンピィの方を止めてくれよ」
「……分かった、僕もこの場では力を持たないと違って怪力のお前の言う事を聞いて動くよ」

 ふぅ。ヴァイトはとグウィンに参ったよう、ソファに深く座った。

 そのグウィンは、興味深そうに本が詰まった書棚を見詰める。

「それにしてもアンタ達の部屋に初めて来たけどさすが人間より長生きと言われる吸血鬼、見た事ない書物がいっぱいあるね。一冊借りても?」
「……、お前は力を持たないと違って怪力だから、本くらい貸してやるよ。一冊といわず好きなだけ持ってけ」
「ありがと。多分、についてこなかったら私、この部屋に来られなかったと思うし、同じ団に居てもアンタとも会話すらしなかったと思う。この団でも組織でもと一緒に居ると、普段は出会えないような人と会えるから、そこはに感謝してるんだ」
「そうか……。力を持たないでも役立つ事あるんだな」

 グウィンとヴァイト。とヴァンピィと違った交流が生まれていたという。

 その間にも、ヴァンピィとの話は続く。

「やっぱり、ユーステスの吸血鬼にあわせるとあれば同じ組織のゼタ達みたいな魔女衣装の方が良いんじゃない?」
「えー。吸血鬼のヴァンピィちゃんでもそう思う?」
「ゼタ達の露出多い魔女衣装は、吸血鬼からすれば理にかなってんのよ」
「何で?」
「首出してた方が、血が吸いやすいからじゃない」
「あ、やっぱり? でも私、人前でというかユーステスの前でゼタ達みたいに首とかお腹を出すの恥ずかしいんだけどなー」
「ねえ、普段からユーステスとよろしくやっておいて、今更そこ恥じらうの?」
「それとこれとは話が別だよ、ヴァンピィちゃん!」
「ヴァンピィちゃんからすれば人間のその感情の方がわけわかんないー」

 あははー。

 ぱくぱく、むしゃむしゃ、ごくん。

 出会って数分もしないうち、ヴァンピィとはお菓子を囲んでお茶を楽しむ仲になったという。

 そして。

「あ。そうだ、ゼタ達みたいな魔女衣装は無理っていうならヴァンピィちゃんみたいに女吸血鬼になるってのはどう?」
「女吸血鬼?」
「ヴァンピィちゃんと同じ、このコウモリのツノつければ、お手軽吸血鬼の出来上がり。がそれつけても可愛いんじゃない?」
「あ、良いかも。でもなあ」
「何、何か不満あるの?」
「私、吸血鬼のユーステスに血を吸われたいってだけで、自分でほかの人の血を吸う気ないし、ユーステス以外の男の人に血を吸われる気もないから。それだと共食いになっちゃう。それだから女吸血鬼は却下で」
「共食い……」

 ヴァンピィは一瞬怪訝な顔をするも、それは一瞬ですぐに気を取り直して次の提案を出した。

「むむ、それじゃ、ヴァンピィちゃんのベスちゃんみたいにマスコットキャラでいくってのは?」
「マスコットキャラ?」
「ほら、魔女とかヴァンピィちゃんみたいな可愛い吸血鬼には、ベスちゃんやヴァイトみたいな使い魔を従えてるって設定あるじゃない。まあ、ベスちゃんは正確にはヴァンピィちゃんの使い魔じゃないんだけどねー」

「ふおおお、吸血鬼や魔女に従える使い魔! それ良いかも!」

「おい、僕は使い魔じゃないぞ!」

はもう、吸血鬼のユーステスに血を吸われちゃって彼の眷属になった設定にすればいいんじゃないの。吸血鬼ユーステスとが一緒に居る理由としては、それもありでしょ」
「あり、あり! 私じゃ吸血鬼ユーステスにとっくに血を吸われて眷属になってその使い魔になるの思いつかなかった、ヴァンピィちゃんに聞いて良かった!」

 ヴァイトは抗議するも、とヴァンピィの勢いは止まらない。

 ずずず。は持参したドリンクを飲みながら、ヴァンピィと話を続ける。

「でも、使い魔っていうとヴァンピィちゃんのベスちゃんじゃなくても色々種類あるんでしょ?」
「そうね。使い魔といえば犬や猫、オオカミといった獣系が定番かな。それ以外ではコウモリや鳩といった鳥類なんかもあるわ。珍しい所では、幽霊とか」
「ゆ、幽霊! そういえば、ハロウィンのコスで幽霊コスやってるの見かけた事ある。それも使い魔だったの?」
「ああ、言っておくけどヴァンピィちゃんの話してる幽霊の使い魔と、アンタが思い描いてるハロウィンの幽霊コスのそれとは全然種類違うんだけどね」
「えー、ハロウィンコスの幽霊と使い魔の幽霊の違い分かんないよ」
「そうだ、アンタの組織に居る鎧男、あれ、なんてったっけ?」
「バザラガ?」
「そうそう、そのバザラガのカボチャのお化けの仮装――ジャックランタンっていうだけど、あれも魔女の使い魔の一種だね」
「バザラガのカボチャのお化け、ジャックランタンっていうんだ。あれ、前から不思議だったんだよ。吸血鬼じゃなくて魔女の使い魔って何で?」
「それね、夜しか出歩かない魔女に近付いてくるよくないものから守るため、カボチャのお化けがその明かりで魔女を守ってるっていう説があるのよ。実際、ヴァンピィちゃんの知り合いの魔女もカボチャじゃなくても、ほかの野菜や果物、果てはぬいぐるみや人形とかの無機物を魔術で動かしてその使い魔にランプ持たせてるから、安心して夜に出歩いてるってさ」

「へえ。それでバザラガの仮装見せてもらった時にゼタは、あたしのしもべって自慢そうに話してたんだ」

「なるほど……」

 ようやくバザラガのジャックランタンの仮装の謎が解けた。ヴァンピィのこれにはだけではなく、グウィンも興味深そうに聞き入っている。

 使い魔については理解するも、また悩みが増えた。それは。

「ヴァンピィちゃんの使い魔設定とても良いんだけど、動物に幽霊に無機物に種類多過ぎて選べないー」
「ユーステスの趣味にあわせて犬――オオカミ系の着ぐるみ着るのってのどう? ほら、この団でも何人か獣系の着ぐるみ着てるの居るじゃない」
「着ぐるみかー。確かに着ぐるみならゼタやバザラガ達と差別化できて、良いかも。でも着ぐるみってどうかなー」
「いいじゃん、レニーについてるウーフとか見ればオオカミ系の着ぐるみ可愛いじゃない」
「レニーのウーフが可愛いのは認めるけど、そういう着ぐるみがあうのはサラやアンチラちゃんといった可愛い子供か、マキラちゃんやルナールのハーヴィン系だけだと思うよ。ヒューマンの私がオオカミの着ぐるみ着るとただの痛い女だよー」

「……(今でも十分痛い女だと思うけどね)」

 ヴァンピィは思うが、の前では黙っていた。

「それじゃ、それこそエルーンみたいに頭にオオカミ系の耳やしっぽをつけるのだけで良いんじゃないの?」
「採用!」

 ぱちぱち。はヴァンピィの案はとても良いと思って、彼女を称える拍手を送る。

「いやー、最初はどうしようかと迷ったけど、ヴァンピィちゃんの所に来て良かったよ。ここまで話が進むとは思わなかった」
「そう。にそう言ってもらえて、ヴァンピィちゃんも誇らしいわ」

 ――ようやく話がまとまって、お開きか。グウィンは薄暗い部屋からようやく解放されると思って背伸びをしながらソファから立ち上がり、ヴァイトも肩をならしながらヴァンピィとベスちゃんが食い散らかしたお菓子の片付けに入る――が。

「で、オオカミ系の耳としっぽつけた使い魔にあう衣装って何か知らない?」
「そうねえ、やっぱりゴシック系の黒いドレスとかじゃない?」
「ゴシック系の黒いドレスかー。でもいつも明るめの色選んでる私にそういうの、あうかな? それからゴシック系の黒いドレスは団の中心人物の一人、ロゼッタさんが着こなしてるの見た事あるから、新入りはそれとかぶらない方が良いかも~」
「そこまで知らないわよ。いつものコルワに頼めばアンタに丁度良くデザインしてくれるんじゃない?」
「そうだけどゴシック系の黒いドレス、どうもしっくりこないんだよねえ。ほかに何かない?」
「ええと、それじゃ魔女の漆黒のローブとかは?」
「それもイマイチだなぁ」

 うーん。はお茶を飲みながら、ヴァンピィもお菓子をつまんで、今度はの使い魔にあうドレスを考える。

 ――まだ続くのかよ! グウィンとヴァイトは今度はドレスの話を続けるに、うんざりしていた。

 その時、ぞくり、と。

「ねえ、寒気がしない?」
「え? 寒気? グウィン、具合悪い?」

 グウィンからそう申告があり、は彼女を心配そうに見詰める。

「あ、それ多分、此処に長居し過ぎたせいで僕達の魔力にあてられたとかじゃないか」

 グウィンの調子を見てヴァイトからそう返事があった。

 はしかしそれが分からず、不思議そうにヴァイトとグウィンを見比べる。

「ヴァイト達の魔力にあてられたせいでグウィンの調子悪いの? 何で?」

「……話には聞いていたけど、アンタ、力を持たないぶん本当に魔力に疎いのね。グウィンのよう、吸血鬼であるヴァンピィちゃん達の強力な魔力に慣れていない人間は、時に毒になる事もあるのよ」

 自分達の強力な魔力をあてられても平然としているに呆れるのは、ヴァンピィである。

「ちょっと気分悪いかも……」

 力を持たないせいで魔力に疎いはヴァンピィ達の強力な魔力は感じなかったが、グウィンはそれを感じ取って震えている。

「魔力に疎いと団長はルリアがついているぶん平気だが、グウィン、お前の場合はそろそろこの部屋から退散した方がいい」
「そうした方がいいわね。もグウィンを思うなら、此処を出た方がいいわよ」

 ヴァイトとヴァンピィは、グウィンとに部屋を出るよう、うながす。

「うん。私、ヴァンピィちゃん達に言われなくてもグウィンの方が心配だからもう此処を出ていくよ。グウィン、大丈夫? 私に捕まる?」
「ありがとう。に捕まるほどじゃないからまだ大丈夫――」

 は調子悪そうなグウィンを心配して手を差し伸べる。

 グウィンはに捕まらずともまだ自力で歩けるのでそこまでじゃないと彼女に心配するなと言って部屋を出て行こうとした時――。

、グウィン、居る?」
とグウィンさん、居ますかー?」

「あれ、イオちゃんとルリアちゃん。どうしたの?」

 遠慮がちにドアを開けるも部屋には入らずに内部の様子をうかがうのは、ルリアとイオだった。

 しかもその二人だけではなく。

「お先に失礼しますね」

「あ、師匠じゃないですか!」

 中々部屋に入らないルリアとイオより先に入ってきたのは、メイドのクラウディアである。

「え、クラウディアがの師匠? ヴァンピィちゃんのそれ初耳なんだけど。、クラウディアから何か術的なもの学んでたわけ?」
「……クラウディアがの師匠、これは僕も初耳だ。今までのの交渉術は、クラウディアから学んだものだったのか?」

 ヴァンピィとヴァイトは、クラウディアを「師匠」と呼ぶは初めてで、その疑問
をぶつける。

 はヴァンピィとヴァイトに、クラウディアが自分の師匠である理由を説明する。

「いや、そっちの師匠じゃなくて、クラウディアさん、私にグランサイファーの掃除の仕方を教えてくれた一人で、それでクラウディアさんを師匠って呼んでるんだよ」

「はぁ、クラウディアがにこの艇の掃除を教えてくれた? それだけでクラウディアを師匠って呼んでるの?」

 ヴァンピィは最初、のそれは理解不能だったが。

「床や窓、柱はまだいいけど、部屋の貴重な壺や絵画の掃除は素人がやると大変だったんだよー。メイドで完璧主義者のクラウディアさん居なかったら、私じゃそのへんの貴重な絵画とか壺を壊して大惨事になってたし、団長さん達が冒険で持ち帰った貴重な武器の掃除方法もクラウディアさんから学んだから師匠って呼んでる」

「……なるほど。クラウディアのメイドの技術がなければ一人であるならそのへんの貴重な壺や絵画を駄目にするってのは分かる気がするし、団長達が持ち帰った武器も一人では扱えないのは分かるな」

 ふむ。ヴァイトはの説明を聞いて、クラウディアがの掃除の師匠であるのに納得した様子だった。

 しかしまだ納得いかない部分はあったので、ヴァンピィは素直にそれをに聞いた。

「クラウディアと一緒の仕事してるドロシーは来てないみたいだけど、ドロシーはアンタの師匠じゃないの?」
「ああ。クラウディアさんと一緒に仕事してるドロシーさんにも私の師匠になってくれって頼んだけど、大雑把な自分では私の面倒見切れない、そういうのは完璧主義のクラウディアさんの方が向いてるって断られちゃった」

「そう。ドロシーは、賢明な判断だわね……」

 ヴァンピィは今までののやり取りで彼女の相手は根気が無いと疲れるだろうなと思ったので、ドロシーのその判断は正解だと思った次第である。

 クラウディアはその間に目視だけでヴァンピィとヴァイトの部屋を見回し、危険なものはないかと確認した後。

「ささ、ルリアにイオ、安全は確認できましたので、どうぞの所へ」

「ありがとうございます!」
「ありがとう!」

 メイドのクラウディアが先に入って安全を確認した後、ルリアとイオを手招きしての座るソファへと導き、ルリアとイオはの座るソファに遠慮なく飛びついてきた。

 ここでグウィンは、はルリアとイオに挟まれる形になり、それを見たクラウディアが「羨ましい……」と恨み言のように呟くのを聞いてしまって思わず彼女の方を振り返るも、クラウディアは素知らぬ振りでグウィンから視線を逸らしたので、グウィンはヴァンピィ達の魔力とはまた違う寒気を感じてしまったという。

 その間には、イオとルリアが此処まで来た理由を聞いた。

「イオちゃんとルリアちゃんはどうして此処まで?」

「ええとね、団長からが地下室でグウィンとヴァンピィの三人でハロウィンパーティーの作戦会議してるって聞いて、面白そうだから来ちゃった!」
「はい。私もグランからがグウィンさんとヴァンピィさんのお二人とハロウィンパーティーについて話していると聞いて、何か力になれないかと思ってイオちゃんと来たんですよー」

 イオとルリアはそれぞれ、この部屋まで来た理由を明かした。

「ありがとう! 今までのヴァンピィちゃんの提案、イオちゃんとルリアちゃんの意見も聞きたいと思ってたところなんだよ」

「……(絶対、団長さんが寄越した監視役だろ)」
「……(団長に言われての監視役だろうなぁ)」

 はイオとルリアの登場に素直に喜ぶも、グウィンとヴァイトはイオとルリアが来たのは、ヴァンピィが思ったより長い間居座ってるに何かしていないかどうか心配したグランの差し金だと確信を得る。

「それで、師匠はどうして此処に?」

 は、イオとルリアの登場は歓迎するも、クラウディアが此処まで来た理由はいまひとつ分からず不思議だった。

 イオはドアを開けても薄暗い廊下を見て、にそのわけを話した。

「この地下室、吸血鬼のヴァンピィ達だけじゃなくて、ゼヘクとかリッチとかアザゼルとか、普段から暗いの好む人達が居座るのが分かるってほど、薄暗くて不気味じゃない。あたしとルリアの二人では中々通れなかったから、此処までクラウディアについてきてもらったのよ」
「はい。クラウディアさんのおかげで私とイオちゃんでもこの薄暗い地下室、通れたんですよ」

「ああ、それで。分かる、分かる。此処の地下室、誰かと一緒じゃないと一人じゃ無理だよねー。私もグウィンがついて来てくれなかったら、此処まで来られなかったよ」

 イオとルリアの話を聞いてもそれに納得したよう、うなずいている。

 そして。

「それだけじゃなくて、魔力に疎いは感じないかもだけど、グウィンがそろそろヴァンピィ達の強力な魔力にあてられてしんどいだろうと思ってね。グウィン、あたしとクラウディアでこの部屋に結界張ったからもうしばらくは大丈夫よ!」

「ええ。私も魔力に疎いについているグウィンが心配だったので、イオと一緒に部屋に強力な結界を張っておきました。グウィン、体の調子はどうですか?」

「あ、ほんとだ、さっきより少し楽になってるわ」

 イオだけではなくクラウディアに体の調子を問われたグウィンはここではじめて、自分の調子が元に戻っている事に気が付いた。

 イオは言う。

「団長が心配していた通り、ヴァンピィ達の部屋は吸血鬼の魔力に慣れてないグウィンには少し厳しかったみたいね」
「あれ、団長さん、私の事を心配してくれていたのか?」
「それはそう、団長はグウィンもうちの団の団員なんだから心配するでしょ」
「それじゃ最初、此処に行く時に団長さんが気を付けてって言ったのは、に向けたものじゃなかったのか……」

 最後の言葉はてっきりに向けたものだと思ったグウィンは、団長のグランの優しさを改めて知った気がした。

 グウィンは清々しい気分で、イオとクラウディアに向けて礼を言った。

「イオにクラウディアさん、来てくれてありがとう。二人のおかげで調子良くなったよ」

「そう、良かった」
「はい、良かったです」

 イオとクラウディアもグウィンの調子が良くなったと分かって、安心したようだった。

「グウィン、本当に大丈夫?」
「ああ。イオとクラウディアさんのおかげでこの通りだ。もう心配いらないよ」

 はグウィンを心配するも、グウィンは拳をあげて調子は良いとを安心させるように報告した。

「良かったー。グウィンが元気じゃないと、私も元気じゃなくなるから」

 は、イオとクラウディアのおかげでグウィンが元に戻ったと分かれば、自分の調子も元に戻ったのが分かってほっとした。

「ふふ、とグウィンさん、本当に仲良いですよね」
「グウィンは組織の中で一番の友達だからね!」

……」

 ルリアに言われて胸を張ってそう言い切ると、そのに少し泣きそうになるグウィンと。

 そして。

「私も、グウィンが落ち着いたようで良かったです」

 イオだけではなくクラウディアもヴァンピィ達の魔力にあてられて調子の悪いグウィンを心配していたので、これで落ち着いたと分かって安心している。

「それでは私はこれで失礼します」

 クラウディアは自分の役目は終わったと分かれば、部屋を出て行くと話した。

 ルリアとイオの二人も、此処まで同行してくれたクラウディアに礼を言う。

「クラウディアさん、ありがとうございます」
「ありがとねー」

「はい。私もルリアとイオのお役に立てて何よりです」

 美少女マニアでこの団ではルリアが一番お気に入りでイオも中々イケると考えるクラウディアは、ルリアとイオに礼を言われて彼女達には優しく微笑むその一方――。

「ああ、、それの作戦会議が終われば私の指示通り、各自の部屋の掃除をやってもらいますからね?」
「は、はい、師匠の言う通りにやらせていただきます!」

 ビシッと。はルリアとイオの二人と違ってクラウディアに厳しくそう言われて、背筋を伸ばして応じる。

「ね、クラウディアさん、意外とスパルタで変わった人?」
「はい。クラウディアさんはお掃除に関しては、イルザさんと同じように厳しい方ですよ。それから、変わった人といえば変わってますかね……」

「……もこの艇では色々大変そうだな」

 ひそひそ。グウィンはルリアに耳打ちでクラウディアの手腕を問えば、ルリアから困ったようにそう返事があって艇ではそのクラウディアについているというに少し同情してしまったという。

「では、皆さん、ごゆっくり……」

 クラウディアは、優雅にメイド服をひるがえしての前を通り過ぎる。

 ふと。

 ――オオカミの着ぐるみはどう?

 ――オオカミ系の耳としっぽにあうのは、ゴシック系の黒いドレスでしょ。

 ――それじゃ、魔女の漆黒のローブとか。

 の頭にふと、今までのヴァンピィのやり取りが再現された。

 ゴシック系の黒いドレス、漆黒のローブ、オオカミの着ぐるみ、どれもしっくりこなかったけれど――。

? どうしたんだ?」

 今度はグウィンの方が数秒固まったままのを心配する。

、どうしちゃったの?」
「あの、もしかしてグランの心配した通り、魔力に疎いでもグウィンさんと同じくヴァンピィさんの強力な魔力にあてられたのでは……」

 イオとルリアもを心配そうに見詰めている。

「お、おい、ヴァンピィ、に余計な事したんじゃないだろうな。もしに何かすれば団長が黙っていないぞ!」
「はぁ? ヴァンピィちゃんは別にに何もしてないわよ!」

 に何かあれば団長のグランに仕返しされるとそれに怯えるヴァイトと、に何もしていないと否定するヴァンピィと。

 と。

 は急に駆け出してグウィン、イオ、ルリアが止める間もなくヴァンピィの部屋を出ると、薄暗い廊下に向かって叫んだ。

「師匠、ちょっと待って! 私に希望の光を!」