それから数日後。
ハロウィンパーティー当日。
グランサイファーの艇はカボチャのランタンやカボチャの置物といったカボチャグッズで飾り付けをされ、テーブルにはカボチャを使ったご馳走と酒が並び、大人達には酒を、子供達や酒が飲めない人間達にも果実入りの美味しい飲み物が振舞われたのだった。
「グランサイファーのハロウィンパーティー、話には聞いてたけど、色々凄いなぁ。ざっと、百人以上は参加していて、そこにはフェードラッヘの白竜騎士団を中心に、ダルモア公国のガウェインさん達、シャルロッテさんのリュミエール騎士団、アルベールさんとマイムさん達のレヴィオン騎士団は当然のように参加、彼らと敵対していた帝国軍の兵士達まで同じ席で顔をあわせて杯を交わし、全空で最強と謡われる十天衆や星晶獣を使役する十賢者、果ては今まではおとぎ話だけの存在かと思っていた星晶獣や天司達も集い、この団の中だけは王族も貴族も庶民も種族も関係無く、身分や国さえも簡単に飛び越えられる、か……」
今回がグランサイファーのハロウィンパーティー初参加のグウィンは、この艇では高名な騎士や魔法使い達がこぞって参加し、此処では身分も国家も関係なくそれぞれのしこりは取り除かれ、つい最近まで敵同士だった人間でさえ顔を突き合わせて談笑し、同じ席で酒を交わす姿を見て、感心を寄せると同時に圧倒される。
その中ではしかし、グウィンの組織の面々はある理由から、ひときわ目立つ存在だった。
「かんぱい!!」
ゼタの音頭で、組織の面々はそれぞれのグラスをあわせる。
「ハッピーハロウィーン! っはー、ハロウィンはやっぱ、酒はかかせないよな!」
「うむ。グランサイファーは団長は未成年だが、ファスティバとシェロカルテのおかげで、各地から名酒が集まってくるからな。この時だけしか飲めない酒は格別だ」
いつもの露出多めのセクシー系で攻める魔女コスのゼタ、そして、カボチャのかぶりものをかぶってジャックランタンに扮しているバザラガは、目の前に出される酒を楽しんでいる。
「うひひ、定番のカボチャのパイにカボチャプリン、カボチャパフェ、カボチャクリームのシュークリーム、カボチャアイス、此処は天国か地獄かっていえば天国だよな!」
ゼタと同じく魔女コスのベアトリクスはカボチャづくしのデザートを前に、ご機嫌だった。
そして――。
グウィンは騒々しい組織の仲間達の中で、不参加を表明していた自身の兄――アイザックの姿を見付けてしまった。
アイザックはいつもの私服に黒いマントをはおって、シルクハットをかぶっただけのお手軽仮装だった。
「あれ、アイザック、技術部の倉庫にこもってるんじゃなかったのか?」
「いやいや。ここまで楽しくて色々凄いパーティーに参加しない方がバカだろって。それに同じ技術部ののためにも、うちの組織と友好的なほかの団体と親睦を深めるいい機会だし……」
「団のセクシー系の女性達を見て鼻の下が伸びっぱなしのアイザックさん、本音をどうぞ?」
「カタリナやナルメアをはじめとするセクシー系のお姉さん目当てに参加しました! 話には聞いていたけど、想像以上だ。この時ほど、グランサイファーの団員になって良かった事はないよ!」
「全く。それ目当てなのは別にいいけど、私とは他人の振りしてくれよ……」
はぁ。グウィンは深い溜息をついた後にセクシー系のドレスを着こなしている女性達を見て興奮気味のアイザックから離れて、今度はイルザとカシウスの居る方へ向かった。
カシウスの初めての仮装、それは――。
「カシウスは、意外にも魔法使いの黒いマントと、とんがり帽子だけ? カシウスはアイザックと違って最初からこのハロウィンパーティーに興味あって、積極的にどんな仮装が良いかと調査してるって聞いてたけど」
「うむ。私も最初、色々調査をしてこの団の人間達にどんな仮装が良いか聞いて回ったりもしたが、最終的には黒いマントととんがり帽子の魔法使いに落ち着いた次第だ」
「カシウスは、女装とかしなかったの?」
「それも候補には上がっていた」
「女装、候補に上がってたのかよ。それで何で女装止めたんだ? カシウスなら女装似合うと思ったけど」
「私も女装するのは嫌ではなかったが、団の女性達から苦情が入ったのでね」
「え、何の苦情?」
「私が女装すれば似合い過ぎて立場なくなるから止めてくれと」
「ああ、それで……」
「中でもロゼッタから女装は止めて欲しいと強く言われてしまった。この団の中心人物のロゼッタに言われたからには、初参加の人間は女装はしない方がいいだろうというアドバイスをほかの団員からもらったので、女装は無しになった」
「ロゼッタさん……」
自分自身と他人の美貌にうるさいロゼッタなら、カシウスの似合い過ぎる女装は嫌がるだろうなとは、グウィンも思った。
「私は、今回がこのハロウィンパーティーの初参加であるため、この団と組織の人間達にあわせて彼らと同じような魔法使いで落ち着いた次第だ」
「なるほど。カシウスも色々考えてそれなんだな……」
グウィンは、カシウスなりの妥協で魔法使いのマントで落ち着いたのが分かって感心を寄せる。
カシウスの次は、イルザに近付く。
「イルザ教官って組織の制服や水着で白のイメージ強かったんッスけど、さすがのスタイル、黒いドレスも似合いますねー」
「ふふ、ありがとう」
イルザは肩や背中をおしみなく露出した際どい黒いドレスで、肩には短めの紫のストールをかけてあった。
それをグウィンに褒められたイルザは、女性らしく微笑む。
……教官の時の厳しさを除けば本当、いい女なんだけどなー。グウィンは思うも、本人の前で言うのは控える。
「グウィンもそれ、猫娘だったか、中々似合ってるじゃないか」
「に便乗して、猫耳だけつけてみました。私はこれが精一杯です」
はは。イルザに頭の上につけてある猫耳を指差し言われたグウィンは、苦笑するだけで終わった。
グウィンの初めての仮装は、頭の上に猫耳のカチューシャをつけたものだけになったという。
そして。
「そして肝心のユーステスさんは――」
「……何だ、何が言いたい。初めて俺の吸血鬼の格好を見るお前からすれば、似合わないか?」
ユーステスの吸血鬼仮装を見て言葉を詰まらせるグウィンと、吸血鬼の仮装を初めて見るグウィンからすれば似合わないと思われたかと腕を組むユーステスと。
「や、ユーステスさんがそれでこの艇に現れた時にとルナール達が引くくらい絶賛していた通り、その吸血鬼コス、ユーステスさんによく似合ってると思いまして」
「そうか?」
「ええ。後ろの方でルナールがユーステスさんの吸血鬼コスで鼻血出して倒れるのが分かるくらいには」
「……」
ははは。グウィンの後ろではユーステスの吸血鬼コスを見て鼻血を出して倒れるルナールと、それを支えるミラオルとザーリリャオーのいつもの面々の姿があった。
因みにもユーステスの吸血鬼コスの姿を初めて見て「ユーステスの吸血鬼コス初めて見たけど、話しに聞いてた通りにめちゃくちゃカッコイイ!! カッコイイ!!」とそればかり叫んでいてユーステス本人も引くほどの興奮状態で、それをゼタとベアトリクスが二人がかりで捕まえて「落ち着け!」と、彼女の暴走を止める始末だったという。
それからユーステスは、落ち着きなく周囲を見回す。それもグウィンの組織が注目されている理由の一つだった。
「肝心のは、まだか? 俺達がこの艇に来てから自分も準備してくると言って裏に引っ込んだままだが……」
「そろそろじゃないですか。今のはルリアとイオ、コルワさん、おまけでクラウディアさんに着付けしてもらってるんです。それが終わればちゃんと出てきますよ」
「いつものルリアとイオとコルワの三人は分かるが、何故、クラウディアも一緒なんだ?」
「それは今回ののコスを見れば分かりますよ」
「?」
ユーステスは、の衣装選びにルリアとイオとコルワのいつもの三人が選ばれているのは分かるが、今回、クラウディアが追加で入っているその理由は分からなかった。
ざわざわ。急に、会場の雰囲気が変わって参加者がざわつき始めた。
会場がざわつく理由は、グウィンもユーステスも分かっていた。
「あ、、出てきたみたいですよ」
「……」
今回のハロウィンパーティーの目玉の一つ――それは。
「皆、ちゅうもーっく! 今回初参加ののハロウィンコス、仕上がったよー!」
「中々の自信作ですよ!」
「ふふふ、の初ハロウィンコス見たユーステスやほかの男達の反応が楽しみね!」
参加者に向かって声を張り上げるイオと、胸を張るルリアと、ほくそ笑むコルワと。
そして――。
「ユーステス、お待たせ!」
「、お前、その衣装は――」
「師匠――クラウディアさんのメイド服をハロウィン仕様にアレンジしてみました!」
が考えて考えて考え抜いて決めたハロウィンの衣装は、クラウディアが着ているメイド服と同じものになった。しかしそこはハロウィン、カボチャの髪飾り、カボチャのアクセサリー、カボチャのポシェットを身に着けて、黒と紫の縞模様のタイツに黒いブーツと、一応、ハロウィン用のアレンジはしてあった。
そして、ユーステスのエルーンの黒い耳にあわせて、オオカミの黒い耳としっぽも忘れずにつけてある。
のそのメイド衣装は、ユーステスも、ほかの人間達も予想外だった。
ユーステスは溜息を一つ吐いて、ゼタ達のように攻めた衣装で来なかったは期待外れとは思った。
「お前、ゼタ達にあわせて、定番の魔女衣装にしなかったのか?」
「それも考えてはいたけど、どれもしっくりこなくて。で、最終的に決まったのが師匠のメイド衣装だったんだ。これも、ハロウィンで使われる同じ黒色だから丁度良いし、私みたいにメイド服で参加する人も居るって聞いたから。で、どう? 似合う?」
「……似合うは似合うが、ゼタ達と比べると、地味過ぎないか?」
「あ、やっぱり? 師匠からも組織のゼタ達と比べるとメイド衣装は地味だから止めた方が良いとは言われてたんだよねー」
「それでどうしてそれに決めたんだ?」
「ちょっとした設定があるからこれに決めたの」
「設定? その、オオカミの耳としっぽもその設定のうちだってのか?」
「そうそう。ユーステスにあわせてオオカミの耳としっぽもつけてるのもその設定のうちだよ。まだ設定あるけど、このオオカミの耳としっぽはどう? これ、シェロさんに無理言って、ユーステスのエルーンの黒い耳と同じになるように黒い耳と黒いしっぽを探してもらったんだー」
「……」
はユーステスの前で可愛く、頭につけたオオカミの黒い耳と黒いしっぽを振ってみせる。
ユーステスは、オオカミの黒い耳と黒いしっぽをつけたには素っ気ない振りを決め込むが――。
「……あいつ、顔ではどうでもいい振りしてるが、エルーンの耳がぴくぴく反応してるぞ。のメイド衣装は地味で期待外れだったようだがオオカミの黒い耳と黒いしっぽは、つけて良かったんじゃないか」
「うむ。クラウディアの話しているようハロウィンではメイド衣装は地味ではあるが、ユーステスのエルーンの耳がぴくぴく反応しているってとこは、オオカミの耳としっぽはポイント高いんじゃないか。あいつは、あともう一押しすれば簡単に落ちそうだが、さて、ほかに何の設定を用意しているのか……」
ひそひそ。地味なりにユーステスの趣味にあうようオオカミの耳としっぽをつけたのは良かったのではないかと、イルザとバザラガはを評価する。
は言う。
「地味なりにとっておきの秘策、用意してるんだよねー。これなら、ユーステスも気に入るんじゃないかと思って!」
「もったいぶってないで、その秘策とやらをさっさと教えろ」
ユーステスは、が地味なメイド衣装でも自信たっぷりに話しているのを、不思議そうに見詰める。
とん、とん。はブーツを鳴らし、スカートの裾をつまんで、そして――。
「――私は旦那様の眷属で忠実なしもべでございます、この使い魔にどうぞご命令を」
「――」
しん、と。
のメイド式の挨拶と芝居じみたセリフを聞いて、ユーステスだけではなく、会場全体が静まり返った。
――それでこの吸血鬼式の挨拶すれば、ユーステスは分かんないけど普通の男ならイチコロでしょ! は、吸血鬼のヴァンピィに言われた秘策を実行したに過ぎなかった。
ユーステスは吸血鬼、それにあわせてのしもべで使い魔設定でくれば彼は、自分を抱き締めてくれるはず! はそれを期待したが、肝心のユーステスの反応は違った。
「」
「わ、な、何?」
ユーステスはいつもと変わらず愛想の無い顔ではあったがしかし、の手首を掴んで離さなかった。
ユーステスはと向き合い、あくまでも冷静に彼女に聞いている。
「……、今の、俺の眷属で忠実なしもべで使い魔というのは、どういう設定だ?」
「え、ええと、最初はユーステスの吸血鬼が私の血を吸いやすいようにゼタ達みたいな肌を出すような衣装で攻めたかったけどあまりの恥ずかしさに駄目になって、本場の吸血鬼のお姫様のヴァンピィちゃんに相談すれば肌の露出が嫌なら最初から吸血鬼に血を吸われた状態――眷属でしもべである使い魔設定でいけばよくないって言われてそれで」
「お前が俺に血を吸われた状態の眷属でしもべである使い魔……」
「このユーステスと同じ黒い耳としっぽでユーステスの使い魔だって誰でも分かるし、それから、メイドの旦那様呼びも使い魔というか主従としてこれ以上最高のものはないって、ヴァンピィちゃんだけじゃなくて、本物のメイドやってる師匠にもお墨付きもらったの! メイドの仕草とか言葉遣いも、師匠から教えてもらったんだよ」
「……」
「や、やっぱ無理あった? これ駄目なら駄目って言ってよ、今からでもほかの衣装借りてくるから――」
うわああ。やっぱメイド衣装は地味で、使い魔設定も無理あったかー。はメイド衣装、そして、自信あった設定を披露するもユーステスの反応はなく落ち込んでその場から逃げ出したい気分だったがしかし。
「待て、その衣装とその設定を変える必要はない」
「ふぇ?」
ぎゅっと。ユーステスはその場から逃げようとするの腕を掴んで離さず、はユーステスから逃げられなかった。
ユーステスは言う。
「お前、本当に俺の忠実なしもべの使い魔で、主人である俺の命令を聞くんだろうな」
「え、あ、うん、私は今夜はユーステスの忠実なしもべの使い魔で間違いないよ!」
「……名前じゃなくて、さっきの使ってくれるか」
「え、名前じゃなくてさっきのって、旦那様?」
「ああ。それからあともう一回、俺の前でさっきのセリフ言ってくれるか」
「え、えっと、旦那様! 私は、旦那様の眷属で忠実なしもべです、この使い魔にどうぞご命令を!」
「旦那様、か。いいなそれ……」
「!」
は、ユーステスは相変わらず無表情でその感情は分かりづらかったがその一言で、使い魔として旦那様と呼ぶ設定を受け入れられて気に入られたのが分かった。
「ユーステス、トリックオアトリート!」
ばっと。
はその勢いで両手をユーステスに差し出して、ハロウィンの魔法の言葉を口にする。
しかし。
「……」
「ねえ、ここは、この使い魔にお菓子与えないで悪戯されたいを選ぶ場面じゃない?」
無反応なユーステスと、それに不満を持つだったけれども。
「お前もここは旦那様、使えよ」
「あ、そうだった」
はユーステスに指摘され、それに気が付いた。
そして。
「旦那様、トリックオアトリート、です。この使い魔に悪戯されたければお菓子を与えない事ですよ?」
ユーステスは慌ててそちらに言い換えたを引き寄せ、彼女に耳打ちする。
「上出来。最後までその設定で通せたらその褒美に、主の俺の方から使い魔のお前に悪戯してやるよ。それまで大人しくしとけ」
「旦那様、旦那様の仰せの通りに!!」
わあ。はユーステスに吸血鬼らしくそう誘われ、周囲の目も気にせず嬉しそうに彼に抱き着いて、ユーステスもなんだかんだでの頭のオオカミの耳やしっぽを遠慮なく触ったりして彼女を受け入れている。
とユーステス、二人のいちゃつきようを見てほかの団員達はそこから目を逸らしたり子供達の目を隠したりの健闘に拍手を送ったり、反応はさまざま。
その中で。
「全く。相変わらず、ゲロ甘ねえ。見てるだけで胸やけしそう。ベスちゃん、ヴァンピィちゃん達はとユーステスの二人から離れた方が――て、え、何、ベスちゃんはのそばにいたいって? から離れたいならヴァンピィちゃんだけ離れたらって? ……。ま、まあ、ベスちゃんがそう言うなら仕方ないわね、ヴァンピィちゃんとベスちゃんで、とユーステスのそばにいましょう」
「……、はあの部屋でヴァンピィ達だけではなく竜の子のベスまで手懐けましたか。同じ組織のイルザが話していたよう、力を持たないまでも周囲を取り込む力はあなどれませんね。のその力はいつか、我が主で魔王様――コンスタンツィア様の役に立つかもしれないので利用する価値はある、それを話せばドロシーはを利用するのは反対しましたが、彼女を私の弟子として迎え入れたのは正解だったようですね……ふふふ」
ふむ。クラウディアはそばでとユーステスのイチャイチャぶりに呆れるもベスちゃんの言う事を聞くようにそこから離れない様子のヴァンピィを見て、自分の主であるコンスタンツィアのためにを利用するのに彼女を弟子にしたのは間違いではなかったとその確信を得てほくそ笑むのだった。
それから。
「、そのメイド衣装、良いじゃんか。私、昔はメイドのそのドレスに憧れてたんだよなー。おまけにオオカミの耳としっぽ、カボチャポシェットもめっちゃ良いなー。うわ、質感もオオカミの毛並みそのものじゃないか、シェロカルテもそれよく見つけてきたな」
「ベアの言うように、メイド衣装、女の子の憧れの一つってのは分かるし、その主従設定も憧れるやつだ。あたしとベアじゃそんなデザインと主従関係の設定は思いつかなかったし、そういうの、あのヴァンピィに突撃していけて普段から『おこたみ』の一員でそこでルナールとシェロカルテと親しくてメイドのクラウディアを師匠とするだからこそ出来る技だよなー」
がユーステスの指示で落ち着いて大人しくなってからメイド衣装とカボチャの小物とオオカミの耳としっぽ、主従関係の設定はベアトリクスからは羨ましそうに見詰められ、ゼタからも好評だった。
「ユーステスだけずるいぞ! 私もメイドにスカートつまんで『お帰りなさいませ、お姉さま』とやって欲しい!!」
「イルザの場合、お姉さまなんて柄じゃないだろ……。姉でも違う方の姐さんの方がしっくりくるんじゃないか? しかし、メイドで使い魔というその主従設定は男にとってみればこれ以上のものはないな、ユーステスもこれは一撃だったか……」
のユーステスだけの旦那様呼びに悔しがるイルザと、横で冷静に応じてその設定できたに感心を寄せるバザラガと。
「何故、ユーステスはのメイドと主従設定で喜んでるんだ? 私にはそれがよく分からないんだが……」
「ああ、のメイド姿と使い魔で旦那様の主従設定は、男のロマンというか男の夢をそのまま反映してるからな。多分これ、月の民のカシウスには分からん話だろうなぁ。これはボクでも説明が難しいな……」
カシウスに真顔でその疑問をされても、それについてどう教えたら良いか分からないアイザックだった。
「何だ。普段から誰とも群れずに一匹狼で格好良いと思ってたユーステスは、のこれは簡単に落ちないだろうと思ったけど、案外と簡単に落ちてガッカリだな……。見ろよ、だけじゃなくて協力したヴァンピィもいつも以上に得意げだ」
「はは、ユーステスさんも普通の男と変わりないって事だよ。それだけじゃなくてユーステスさんは、だからこそ簡単に落ちたってのもあるだろうけどね。これも、ユーステスさんに振り向いてもらうために何でもしてきたの努力の結果のうちだよな」
ヴァイトはのメイド衣装とその使い魔設定で簡単に落ちたユーステスを残念そうに思うも、グウィンはユーステスはでなければこれだけでは簡単に落ちなかっただろうなとは思ったし、ユーステスのためなら何でもしてきたの努力は単純に凄いとも思ったのだった。
それ以外にも。
「……ユーステス殿、あんな良い彼女がついて羨ましいでござるなぁ」
「うむ。今回のハロウィンでユーステスほど勝ち組、居ないわな」
ジンとソリッズはもちろん。
「くあー、何だよ、ユーステスだけあんな良い女持って羨ましいったらないぜ!」
「……俺も今回のユーステスほど羨ましいと思った事はないな」
ヴェインとランスロットですら、羨ましそうにユーステスを見詰めていた。
「俺ももう少し若ければのような彼女が欲しかったな……。いや、まだ俺でも探せばイケるか?」
「ハ、俺ならば小娘のような女を自分のものにするくらいわけない! 見てろよ、ユーステス以上の女を見つけてやる!」
ジークフリートとパーシヴァルの二人は、自分にものような女が見付からないかと辺りを探している。
「ふむ。おい、ニオ、サラーサ、エッセル、ソーン、フュンフ、お前らの中でこの頭目の俺の使い魔になりたい奴は居るか? え、俺の使い魔になるくらいなら十天衆抜ける? いや、本気じゃなくて設定だけでもさ、俺の使い魔になる気ない? 設定だけでも無理? むしろ俺がお前達の使い魔になれ? ええい、こうなれば男でも構わん、シス、カトル、オクトー、ウーノ、この中で俺の使い魔に――うわ、本気で俺にその武器向けるなって!」
十天衆の頭目であるシエテは十天衆の中で設定だけでも自分の使い魔になりたい人間は居るかと彼らの顔を見回すも、反対に彼らに武器を向けられて逃げる始末だったという。
「なるほど。メイド衣装の女を揃えて旦那様の主従設定でいけば、コーヒーの売り上げ期待できるか? いやでも、いつものメドゥーサとサテュロスの二人が素直にメイド衣装着てその設定使ってくれるとは思えんし、を使うもユーステスが睨んできそうだな……。ほかに良い人材居ないか今、この場で集まってるうちに探しておくか……」
サンダルフォンは自身のコーヒー店の売り上げのためにのメイド衣装を着てその設定を使ってくれる女は居ないか、このハロウィンパーティーで集まっている女達の中からその候補者を探すために動く決意を固めたのだった。
「ちゃんのメイドで使い魔の主従関係設定、良いアイディアだなぁ。ボクも吸血鬼スツルム殿に血を吸われてスツルム殿の眷属になって使い魔になりたいなーなんて、て、冗談です冗談、本気でその剣向けないで!」
「私が吸血鬼だったとしても、お前の汚らわしい血なぞ吸いたくもないわ!」
ドランクはスツルムと鬼ごっこを始めた。
「私、もう限界……。皆、あとは頼んだわ! ぐはっ」
「ルナール、ルナール、気をしっかり!」
「まだ倒れるには早いですよ!!」
鼻血を出して倒れるルナール、それを支えるのはミラオルとザーリリャオー。
「うわ。早々に倒れるルナール、初じゃない? いつもは、白竜騎士団のランスロットさん達をスケッチした後くらいだったのに。ルナールについてるミラオルとザーリリャオー、大丈夫かな?」
「はは、ボクからの事前情報で吸血鬼コスのユーステスさんとメイドで使い魔のさんの主従関係設定知ってそれを見て倒れる自信あるって分かってたみたいですからね、無理もないですよ。ミラオルさんとザーリリャオーさんはそのルナールさんの相手で、いつも以上に大変そうですけどね」
「まだハロウィンパーティーの序盤ですよ、ルナールにかかりきりのミラオルとザーリリャオーはこれから先が心配ですね……」
とユーステスで早々に倒れるルナールを見て彼女ではなく彼女についているミラオルとザーリリャオーを心配するのは、『おこたみ』メンバーのメリッサベル、シェロカルテ、マキラの三人だった。
「を見なさい。地味な衣装でもああやって男受けいい設定つければ、男はついてくるのよ」
「はい、勉強になります!!」
恋愛初心者のスーテラにそう教えるのは、何故かを得意げに自慢する姉のメーテラであった。
のメイドで使い魔の主従設定は彼ら以外でも中々評判はよく、次は私も同じメイドにしようかなと言ってくれる女の子達も何人か居て、はメイドと使い魔の主従設定をやって良かったと思ったのだった。
余談。
夜も深くなってきた頃。グランサイファーのハロウィンパーティーはまだ続いているが、ルリアとイオ、サラやアンチラ、ヤイアといった子供達は親や保護者に連れられて帰り、あとは酒をたしなむ大人達だけとなった会場での話。
厨房にて。
「ファスティバー、ちゃん、明日はユーステスさんの相手で使い物にならなくなるっスから、今のうちに代わりの人材確保しておいた方が良いっスよー」
「ああ、そうだったわね。明日、ユーステスちゃんの相手でちゃんが使い物にならなくなるのはこっちとしても痛いから、この夜のうちに何人か代わりになれる人間に声かけておくんだったわ。あ、ちゃん、もうユーステスちゃんと帰っちゃった?」
「っス。ちゃん、希望通りにユーステスさんにお持ち帰りされて喜んでたっスね」
「そう。それならもう交代できる人材探した方が良いわね~」
ローアインは、自分の希望通りにユーステスに誘われ、嬉しそうに彼と腕を組んで帰っていくを見ていて、それをファスティバに報告する。
ローアインの報告を聞いたファスティバは、グラスを磨いているジャミルの方を振り返る。
「ジャミル君、まだ会場で残ってる子達の中でちゃんの代わりになりそうな子に声かけておいてくれる? あの中だとそうね、ちゃんのお友達のグウィンちゃんとソーンちゃん、カリオストロちゃんとクラリスちゃん、ユエルちゃんとソシエちゃん、メーテラちゃんとスーテラちゃんあたりなら、ちゃんの代わりを引き受けてくれるかもしれないわ」
「あ、はい、分かりました」
ジャミルはグラスを片付けて、ファスティバの言うよう、まだ居残っているソーン達の所へ行こうとした時――ふと、それを聞いてみたくなって立ち止まった。
「……あの、一ついいですか」
「ジャミル君、何かしら?」
「どうしたんっスか?」
ス、と。遠慮がちに手をあげてたずねるジャミルに、ファスティバとローアインは軽い調子で応じる。
「その、ユーステスさんとさんは組織のイルザさん達も認める恋人関係で夜にそういう風になるのは分かりますけど、ユーステスさん、明日も仕事だって分かってるさんのために控えるとかできないんですかね?」
ジャミルの疑問を聞いてファスティバはローアインと顔を見合わせ、そして。
「……そうねえ。ジャミル君のヒューマンと十天衆のウーノちゃんみたいなハーヴィンの普通の男であれば明日、仕事の彼女を考慮して我慢くらいできるんでしょうけど……、エルーンの男の場合は違うんですってね?」
「そうっスね。エルーンの男の場合、ケモノと一緒で目の前の据え膳があれば我慢できずにいっちゃうんっスよ。それこそ、オオカミと一緒って考えれば理解できるかもっス。それ、ファスティバのドラフも同じっしょ?」
「ふふふ。そうそう、アタシのドラフの男も目の前にエサを与えられればエルーンの男と同じで、我慢できずに考えなしにいっちゃうわねー。あ、これ、誤解与えないように言っておくけどローアインのエルーンの話も、アタシのドラフの話も相手の女性の同意を得たうえでの話よぉ、相手の女性の同意を得ないで我慢せずいくのはどの種族の男でもサイテイな行為ってのは変わらないからね」
「はい、僕もローアインさんとファスティバさんの話が相手の女性の同意を得たうえであるのは、分かってます。そのうえでエルーンとドラフの男の人って、そこまで我慢できないものなんですか? それ初めて知りました……」
ヒューマンのジャミルは、ローアインのエルーン、そして、ファスティバのドラフは違うように見えて同じ習性を持っているとここで初めて知ったのだった。
「ま、今回はちゃんの方からちゃんと、ユーステスちゃん次第で明日の仕事遅れるか休むかもって事前にアタシ達に申し出があったから、アタシ達も明日、ユーステスちゃんで仕事休むちゃんの事は黙認してるのよね」
ファスティバは、から事前に「明日、多分、ユーステス次第で仕事は遅れるか休むかもしれません」と照れ臭そうに申し出があったので、今回、が明日欠勤するのは大目に見ている次第である。
それからローアインは、自身で作った酒を飲みながら愉快そうにファスティバに向けて言った。
「俺は同じ男として事前申告あってもなくても種族関係なくユーステスさん、あのメイドで使い魔のちゃんで攻められたら彼女の仕事も気にせず、我慢できないの分かるっスよ。おまけに今夜はユーステスさん以外でもちゃんのあれ見て彼女に密かに気があるほかの男達はもちろん――団長さんも大変じゃねえの?」
「うふふ、そうね。ちゃん、あれで無自覚にユーステスちゃんに限らずほかの男も骨抜きにしちゃってるの見たし、それで団長さんも今夜は眠れないでしょうね。ちゃんって普段は同じ組織の派手でセクシー系が似合う分かりやすいゼタちゃん達と違って地味で目立たないけど、天然小悪魔系だから、こういう時の破壊力は抜群だわね~」
あははー。ファスティバもローアインの話には、困ったように笑うだけだった。
「……あの、もう一ついいですか?」
「何っスか?」
「何かしら?」
再び遠慮がちに手をあげるジャミルと、それに軽い調子で応じるローアインとファスティバだったが――。
「さんのメイドで使い魔で、ユーステスさん以外に団長さんも大変で眠れないってどうしてですか?」
「――」
ローアインは「しまった」という顔で、同じく「やっちゃった」という顔のファスティバと顔を見合わせた後。
「――ジャミル君、世の中には知らない方が良いって事もあるんっスよ。今の話は忘れた方が良いっス!!」
「ええ。ジャミル君、今の話は聞かなかった事にしてちょうだい。その方が身のためよ!」
がしっと。ジャミルの肩を掴んで念入りにそう言うローアインと、その背後でうんうんとうなずいてそれに同意しているファスティバと。
「いやそう言われても、団長さんのそれ気になるんですけど」
「ジャミル君、早く会場で声かけないとグウィンちゃん達、帰っちゃうわよぉー」
「そうそう。早く会場まで行かないと、ちゃんの代わり見つからなくなるっスよ!」
「何なんだいったい……」
ファスティバに背中を押されてローアインからも言われ、ジャミルは仕方なくの代わりを探すために厨房から会場の甲板に出ていったという――。