十二月の一大イベントといえば、クリスマス。
クリスマスは子供達だけではなく、恋人達にとっても一大イベントであるにはどこの世界も変わりなく――、も恋人のユーステスとグランサイファーのクリスマスパーティーに初めて参加できると、一人で浮かれていた。
浮かれていたはず、だった。
「――すまない、その日は仕事でグランサイファーのクリスマスパーティーに参加できなくなった」
「は?」
グランサイファーのクリスマスパーティーまであと三日と迫ったその日。
組織の拠点でもグランサイファーでも、艇の飾りつけやご馳走の準備等、着々とクリスマスに向けての準備が始められていた。
「柱の上の飾りつけ、こんなもんか? おいイオ、位置はどうだ」
「良いんじゃない? あ、でもちょっとずれてるわ。もう少し左、あれ、今度は右!」
背の高いラカムは高い場所の飾りつけを担当、下でイオがそれに狂いがないかどうかを確認している。
「狩りで取ってきた鹿の頭、どこに飾るか……」
「ちょっとオイゲン、鹿の頭を持ってうろうろしないでちょうだい。空を監視してくれているユグドラシルが怖がってるじゃないの」
飾りつけの一つである鹿の頭を持ってうろうろするオイゲンに呆れるは、空の監視、それから、自分達の艇を見守ってくれているユグドラシルを思うロゼッタだった。
「ふんふんふん~♪ 皆さんで持ち寄ったプレゼントを交換するの、楽しみですね~」
「あれ、リボンの結び方、こうだったか? いや、こっちが正解? うわああ、何で絡まるんだ! ルリア、助けてくれ!」
子供達へのプレゼントの箱に鼻歌をうたいながら器用にリボンを結ぶルリアと、ルリアに助けを求める意外と不器用なカタリナと。
それぞれがクリスマスパーティーの準備に忙しく動き回っている中で。
ガラガラ。台車の音が聞こえて、全員、その音に注目する。
「おーい皆、シェロカルテから大きいモミの木、もらってきたぞー」
「艇の中央に飾るか。ラカム、オイゲン、手伝ってくれ」
「了解!」
「任せろ」
ビィと団長のグランは、シェロカルテから買い取った大きなモミの木を台車に乗せて現れ、その設置をラカムとオイゲンに頼む。
「よっと。ビィ、上から見てツリー置く位置はあってる?」
「上から見た感じだと、丁度良いんじゃねえの?」
「よし、これで完了だ。あとはこのツリーに飾り付けるだけだな」
「ふぅ。毎回の事だが、これがあると一気にクリスマスらしくなるな」
グランとビィ、ラカムとオイゲンの四人で、巨大なモミの木が艇の中央に飾られる。
「団の子供達がこのモミの木の飾りつけに来るのは夜からだったか?」
「その予定ね。ユグドラシルも子供達と飾り付けするの、楽しみにしてるわ」
カタリナ、ロゼッタの二人も浮かれた気分でモミの木の周囲に集まる。
カタリナの隣でロゼッタが空に向かって手を振れば、ユグドラシルも嬉しそうに手を振り返した。
「ルリア、イオ、団の子供達が来るまでツリーの管理、頼めるかい?」
「お任せください!」
「この日のために、ツリーに飾る飾りつけ、ルリアと作ってたんだよねー。夜には子供達も来て手伝ってくれるから、それまで、あたしとルリアでモミの木の手入れをしておきましょう」
グランに言われてルリアとイオも張り切って、モミの木の周りに集まる。
ところで。
「あらあ、モミの木、到着したのね!」
「ファスティバ」
艇にモミの木が設置されたと分かり、ファスティバが厨房から姿を見せた。
「ふふふ、いつも通り期待を裏切らない大きさね~。こんな立派なモミの木を用意できるなんて、さすがグランサイファー、さすがシェロカルテ、かしら」
「はい。この大きなモミの木こそ、このグランサイファーのクリスマスパーティーの名物として有名ですよね。俺もこの艇に来てから、この大きなツリーを見るのが楽しみになりました」
ファスティバ以外にジャミルも厨房から顔を出し、モミの木を見上げ、感心を寄せる。
そして。
「ウェーイ、クリスマスパーティー用のご馳走、今から作るの楽しみっスよ! 俺の料理で、女性達だけじゃなくて子供達もメロメロにしてやんよ」
「当日はローアインだけじゃなくて、俺もご馳走、というか、巨大なクリスマスケーキ作るからな。ケーキ目当てに集まってくる子供達のために、今から腕が鳴るぜ」
「俺はその日は、接客で忙しくなりそうだ。今から体力作りしておかないと……」
ローアインとトモイは当日のご馳走を何にするか張り切り、エルセムは接客業で忙しくなりそうだと腕を鳴らす。
「皆、クリスマスが近付くと、ルリアとイオの子供はまだ分かるが、大人のカタリナ達も浮かれるの何なんだろうな」
「無理もない。僕もいくつになってもクリスマスは楽しみだ。でも」
ルリアとイオだけではなく、大人のカタリナ達もクリスマスだというだけで子供以上に浮かれる様子を見てビィは呆れるも、グランはそれに理解を示したよう笑う。
でも――。
「でも、彼女――だけが今回のクリスマスを楽しめないのはなんだかなと思って」
「ああ……。、まだ顔出さないな。大丈夫か」
グランは、モミの木が届いてもいつまでも厨房から顔を出さない『彼女』を心配そうに見詰め、ビィもそれが分かって同じく心配そうに厨房を見詰める。
グランはファスティバに遠慮がちに聞いた。
「ファスティバ、まだ、ユーステスがクリスマスパーティーに不参加の件で落ち込んでるのかい?」
「ええ。自分に何があってもいつも明るく振舞ってたのに、今は何も手がつけられない放心状態で、アタシ達もあんな風に落ち込んでるちゃん、初めて見るわ……」
「無理もないですよ。今回のクリスマスパーティー、ユーステスさんが仕事で来られないって言われたら……」
ファスティバもグランと同じようにいつまでも厨房から出て来ないを心配そうに見るだけで、ジャミルはどうしてが出て来ないのかその理由を知っている。
「そうでなくてもユーステス、最近、仕事ばかりで忙しそうにやってたわね」
「そうだな。ユーステスの不在でをうちに預ける回数がいつもより多くなっていたし、それで自然とをよその国に預ける回数も多くて、預かり先の連中――キャピュレットのジュリエットやフェードラッヘの白竜騎士団、リュミエール騎士団のシャルロッテ、アルスター島のヘルエス達もとユーステスの関係を心配そうにしてたな……」
ロゼッタは今回だけではなく忙しそうにしているユーステスを見ていて、それのせいか、カタリナもこの団と預かり先に預ける回数が多くなっているとユーステスの関係を心配する。
「演劇や小説で私と仕事、どっちが大事なの? っていう恋愛モノよくあるっスけど、ユーステスさんの場合、仕事し過ぎじゃねえの。ユーステスさんが仕事人間と分かっていてもそれに付き合うちゃん、キツくなってるんじゃね?」
「そうだな。ローアインの言うようにちゃん、仕事人間と分かっていてもそのユーステスさんに限界きてんじゃないか? ユーステスさんもちゃんを思うなら、クリスマスの日くらい仕事入れず、一緒に過ごしてあげればいいのにさ」
「仕事人間のユーステスさんより、ちゃんが心配だよね……」
今回ばかりはローアイン、トモイ、エルセムの三人も、仕事し過ぎのユーステスには呆れるばかりで、に同情する。
「ねえ、ユーステスって普段、何の仕事してるの? ユーステスと同じ組織のイルザ達とかはそこまで仕事してる風には見えないんだけど」
「あ、それ、私も以前から疑問だったんですよ。同じ組織のイルザさん達はユーステスさんほど忙しそうにはしていませんよね? 今回のクリスマスパーティーも、イルザさん達は参加できると話していました。グラン、イルザさん達からユーステスさんのお仕事について何か聞いてませんか?」
イオとルリアはそもそも、ユーステスは何の仕事をして忙しいのかそれが疑問で、同じ組織のイルザから聞いてるだろうグランにたずねる。
グランは少し考えて、ルリアとイオにイルザから聞いたユーステスの仕事内容を説明する。
「イルザからユーステスは、組織以外ではスツルムとドランクのような傭兵稼業やってるって聞いたな」
「スツルムさんとドランクさんのような傭兵稼業、ですか? それ、どういうお仕事なんですか?」
「うん。傭兵ってのは、国や軍隊とかに属するわけじゃなくて、個人で動いていて、依頼人に呼ばれたら単独で戦場まで駆けつけるみたいな仕事だよ。まさしく、スツルムとドランクみたいな仕事だ。イルザ達も同じように組織以外で暇な時は傭兵やってるけどユーステスみたいにそこまで依頼は来ないし、組織以外の仕事はほどほどに受け付けてるからユーステスほどそう忙しくはないって話してたな」
「それではユーステスさんは、イルザさんの組織以外で個人で戦場に呼ばれる事、多いんですか?」
「そうみたいだね。イルザによればユーステスは組織の中でも単独で行動出来る売れっ子だったけど、それ以外――組織の外でも傭兵や技術屋として単独行動できるので人気あるってさ」
「あれ、ユーステスさん、傭兵さんだけじゃなくて、技術屋さんもやってるんですか? 傭兵さんでも狙撃手として呼ばれるとかではないんですか?」
「それね。ユーステスは狙撃手としてだけではなくて、組織で月の民の末裔達が残した機械類を扱う技術やそれの修繕方法を習得していて、それで銃器だけじゃなくてあらゆる機械兵器を扱える技術屋としての腕前がよくて、それはどこも欲しがる逸材だとか」
「なるほど。ユーステスさん、狙撃手としてだけじゃなくて、月の民の末裔達が残した機械類を扱えるので技術屋さんとしての腕も良いの、分かります。そのユーステスさんを組織以外でもどこも欲しがるのは納得です」
「うん。それでもローナンが組織に居る間は彼がユーステスを縛っているおかげでその仕事を制御できていたらしい。だけど月の事件でユーステスがローナンの縛りから外れたのを知られてからは、傭兵や技術屋として数々の戦場に呼ばれる回数が多くなっていったとか……」
ルリアと一緒にグランの説明を聞いてたイオは、呆れた様子で言う。
「何それ。今までローナンがユーステスを縛っていたから傭兵や技術屋としてあまり動けなかったけど、ローナンから外れたせいで組織外から呼ばれる回数が多くなった? それじゃ、昔のよう、ユーステスにはローナンがついてた方が良かったってわけ?」
「ああ。ユーステスはどうか分からないけどにとっては、ローナンでユーステスを制御できてた方が良かったみたいだね。そうでなくてもユーステスは仕事を依頼されると断れない真面目な性分で、クリスマスでも仕事を受け付ける彼の真面目さが今回のアダになったって、イルザも嘆いていた。ほら、前のアウギュステの温泉の時も、子供達の水鉄砲の修理が終わっても、を放って別の武器の修理を依頼されるも、それ断れずにその仕事を引き受けていただろう」
「そういえばそうだったわね。アウギュステの温泉の時は、団長とビィとルリア、カリオストロ達がユーステスに置いて行かれた一人のを見てくれてたから良かったけど。ユーステスもカノジョが居るからクリスマスの日は依頼を受け付けないって断ればいいのに、それもできない情けない男だったとは……。も大変だわ」
イオは、アウギュステでの温泉の時にユーステスと離れて一人でうろついていたを目撃してその彼女を心配していて、後でグランとビィとルリア、カリオストロ達が一人のを見てくれていたと分かって安心していたのを思い出し、クリスマスでも同じ事が繰り返されるとは思わず、顔を引きつらせる。
「団長の話を聞くにユーステスには、ローナンじゃなくても、自分の仕事を管理してくれる人間が居る方が良いんじゃないか。あいつ、真面目に何でも引き受けていたら、いつか、体壊すぞ」
「うむ。それ以外にも組織内はもちろんだが、組織外でのユーステスの仕事のスケジュールや彼の人間関係くらいは把握していた方が良いと思うがね。……俺の失った妻のよう、悲惨な目にあいたくなけりゃな」
ラカムもイオと同じように仕事を断れないユーステスに呆れていて、オイゲンは自分もユーステスと同じく仕事人間であったせいで家庭を疎かにしていた事を思い出し、自分の失った妻とを重ねるようにに同情を寄せる。
グランは立派なモミの木を見上げて、言う。
「今夜の子供達との飾りつけ、にも参加させようと思ってるんだ。それがの気晴らしになるかもしれない。その時になればルリアとイオで、を引っ張ってきてくれるか」
「はい、それ良いですね。ユーステスさんのお仕事のお話がくるまではも、ツリーの飾りつけ作るのを手伝ってくれましたからね」
「うん。あたしもその時になったらを引っ張るの、手伝うわ」
グランに言われ、ルリアとイオも張り切る。
と。
「あのぅ、クリスマスツリーが届いたって聞いて……」
「!」
「ちゃん!」
遠慮がちに出てきたのは、当のだった。
「ふおおお、話には聞いてたけど、本当に大きなモミの木ですね! シェロさん、よくここまでのモミの木、見つけてきたなー」
は、シェロカルテが届けたというモミの木を見上げて、感動する。
グランとビィは顔を見合わせてから、見た目はいつもの調子のに近付く。
「、出てきて大丈夫なのか」
「みんな、出てこないを心配してたんだぜ」
「はい。私はもう大丈夫です。ユーステスも仕事なら仕方ないって、諦めつきましたから。それで、そのぅ……」
もじもじ。は言いたそうな事があるが言えない風で、グランはその彼女に優しく接する。
「何だい? 何か言いたい事があるなら、言った方がいい」
「……」
「」
グランにうながされ、は決心する。
「私、今回のグランサイファーのクリスマスパーティー、参加しないって決めました」
「な――」
のそれを聞いて、グラン達は絶句する。
は何も言えないグラン達に向かって、自分の思いを吐き出す。
「私、ユーステスのおかげでこの艇に乗れてたんです。そのユーステスが不在で不参加であるなら、私はそれに参加する資格ないと思いまして」
ははは。は笑うが、グランは違った。
「そんな事はない! ユーステスが不在でも、はこの艇に乗って良いし、君がそこまで遠慮する事はない」
「で、でも、ユーステスが不在なのに何も力を持たない私なんかが参加するのはどうかと……」
「それも間違いだ。はもう、ユーステスが不在でも僕達の団に必要な人間で変わりない。力を持たなくてもが掃除してくれるおかげでこの艇はいつも清潔に保たれているし君の作る料理も評判良いし、それだけじゃなくて、ほかの皆もが居るだけで落ち着くって言ってくれている。なあ?」
グランがルリア達の方を見れば、いつものルリア、イオ、ビィの三人だけではなく、カタリナ、ロゼッタ、オイゲン、ラカムの四人、ファスティバ、ジャミルの二人、ローアイン、トモイ、エルセムの三人も力強くうなずいている。
そして。
「ちゃん、空を見てちょうだい」
「空、ですか?」
はロゼッタに言われて、空を見上げる。
すると、優しくて暖かい風がにまとわりついた。
それは艇を空から見守るユグドラシルの仕業である、というのは、でもすぐに理解できた。
ロゼッタはにウィンクして、ユグドラシルの思いを彼女に伝える。
「ふふ。ユグドラシルも、ちゃんにクリスマスパーティーに参加して欲しいって言ってるわよ?」
「ユグドラシル……、ありがとう」
グランは言う。
「そうだ、、ユーステスが不参加でクリスマスパーティーに居づらいっていうなら、君の実家の孤児院に残ってるっていう幼い兄弟達をこのクリスマスパーティーに招待したらどうかな」
「え、良いんですか」
「ああ。それならもこの艇に乗っていられる理由になるんじゃないか」
「で、でも、孤児院でも後で皆で集まってクリスマス会やる予定あるので、本当にそこまでしてもらうのはどうかと……」
「だから、そこまで遠慮するなよ。、君はもうユーステス抜きでもこの団の一員で間違いないんだからさ」
「団長さん、ありがとう……。うちの孤児院に残ってる幼い兄弟達も憧れのグランサイファーのクリスマスパーティーに参加できると聞けば、喜ぶと思います」
それからはグランと皆の優しさに泣きそうになるのを堪えつつ、ユーステスが不在でもグランサイファーのクリスマスパーティーに参加する決心を固めたのだった。