空の贈り物(02)

 そして、クリスマスパーティー当日。

 ルリアとイオと、各地から集まってきた団の子供達の手で飾りつけされたツリーの周りに各国から大人達も集まってきて、盛大なパーティーになった。

 ルリアとイオを中心に女子供で結成された聖歌隊が歌をうたい、ラカムのバンドとサテュロスのバンドも何曲か披露し、タヴィーナを中心とする踊り子達も場を盛り上げる。

 その中で。

「わー、此処がお姉ちゃんの居るグランサイファー? 本当に強そうな騎士さんや魔法使いさん達がいっぱい、ええと、それからアニーさんと同じ星晶獣さん達もいっぱいだねー」
「大きなツリー、キラキラした飾りつけ、どこ見ても凄い、凄い」
「どの料理も美味しそう!! お姉ちゃんの料理も久し振りだから嬉しい。このご馳走、今夜は孤児院に残ってる、お母さん役の村長さんと、お父さん役の団長さんに持って帰れないかなー」

「団長様、お招きありがとうございます。これ、うちの孤児院の手作りのクッキーの詰め合わせです、どうぞ」

「あ、いや、そこまでしてもらわなくても良かったんだけど。でも、嬉しいよ、ありがとう」

 の招待状を受け取って艇までやってきた孤児院の三人の幼い子供達と、それに付き添うお手伝いのアニーも来てくれて、団長のグラン達も彼らを歓迎する。
 
 アニーと幼い兄弟達はの案内で物珍しそうに艇の中を見て回り、そこではサラとボレニア、シルヴァとククルとクムユの三姉妹、カリオストロとクラリス、メーテラとスーテラとコルワ、アンとグレアとオーウェン、アリーザとスタン、ルナールを中心とした『おこたみ』の仲間達、メグとまりっぺ、スツルムとドランク、それからユエル達といったいつもの面々だけではなく、白竜騎士団のランスロットとヴェインとそれについてきたアーサーとモルドレッドを中心とした見習い騎士達、十二神将のアニラやアンチラ達、十天衆のシエテ達も気にかけてくれて、彼女達だけではなくて、と同じ組織のイルザ、バザラガ、ゼタ、ベアトリクス、グウィン、アイザック、カシウスとも仲良くなって、最後の方では同じ世代の子供達――アレク、リリィ、ヤイア、フュンフらを中心としたほかの子供達と遊ぶ姿も目撃された。

「アニーさんとうちの兄弟達もグランサイファーのクリスマスパーティーに参加できて嬉しそうで、良かったです。あの子達、私の手から離れてもうすっかり団のほかの子達と仲良くなったみたいで。団長さん、ありがとうございます!」

「僕としては、これでユーステスで落ち込んでたが元のに戻って良かったと思う。それで君が最後までクリスマスを楽しんでくれると、僕も孤児院の子達を招待したかいがあったよ」

 はグランの優しさに泣きそうになりつつも「はい」、と、笑顔で返事をしたのだった。
 
 それから。
 
 アニーと幼い兄弟達はほかの皆と仲良くなってもう大丈夫だと分かってからは、裏でファスティバとジャミルの二人、それから、ローアイン、トモイ、エルセムの三人と一緒になって忙しく駆け回る。

 グランから「今日くらい働かず、楽しめばいいのに」と言われたがは、「自分もファスティバさんやローアインさん達と裏方に居る方が落ち着くので、使ってください」とそう、申し入れしたせいだった。

 その中で――。

「どうぞ」
「ありがとう」

 は笑顔で、イングウェイのテーブルにワインを運ぶ。

 裏方で忙しくやっていても思うのはユーステスの事ばかりで、やはりユーステスが不在であると分かればグランサイファーでも窮屈で、退屈だった。

 自分では今の笑顔は不自然じゃないよねと気にするも、イングヴェイとはあまり接点がなく話した事がなかったのでここは気にせず通り過ぎようと思った。

 それが。

、ちょっといいかな」
「え?」

 はイングヴェイの方から話しかけられ、立ち止まる。

 はここで、イングヴェイに話しかけられるとは思わず、戸惑う。

「何ですか?」

 イングヴェイは戸惑うに構わず、言う。

「君の母親のお手伝いさん、アニーだっけ?」
「はい。ええと、アニーさんがイングヴェイさんに何か失礼な事をしたんですか? そうなら、私の方から言っておきますけど……」

 イングヴェイの視線の先には、子供達を見守るアニーの姿があるのをも確認できた。

 は最初、アニーがイングヴェイに失礼な振る舞いをしたのではないかと、それを心配するが――。

「彼女、いいね」
「はい?」
「彼女、独身?」
「独身……、ですね、はい」
「彼女、付き合ってる相手とか居ないのかい?」
「多分……。ええと、もしかしてイングヴェイさん、アニーさん気に入ったんですか?」
「ああ。美人で、孤児院の職員なだけあって子供を見守るに徹する優しい眼差し。最高じゃないか」
「あの、アニーさん、人間ではなくて、星晶獣ですよ? それ、団長さんとルリアちゃん、此処に集まってる星晶獣の皆さんに聞いてもらえれば分かると思います」
「俺も団長から彼女についての説明を聞いてるし、ルリアの証言もあるならそうなんだろうというのは俺でも分かるさ」
「それじゃあ……」
「彼女が星晶獣でも構わん。星晶獣は強い人間に惹かれるというだろう。この艇の団長がいい例だ。俺が彼女の目に敵うかどうか。、俺が彼女にアタックしても?」
「あ、はい、アニーさんが良ければ良いと思います」
「了解。それじゃ、一つ、声かけてみるか」

 言ってイングヴェイは席を立つと、自信たっぷりにアニーの居る方へ向かった。
 
 は、イングヴェイの目的がアニー本人であると分かってそれに関してはほっとした――ところで。

「イングヴェイの奴、アニーのナンパに成功するかどうか。ファスティバの酒一杯、おごりでどうだ。俺は失敗するに一票」
「うむ。俺も失敗に一票。騎空士の中で希代のモテ男の奴でも星晶獣相手は難しいんじゃないか?」

 ラカムとオイゲンがの背後で、イングヴェイがアニーのナンパに成功するかどうかの賭けを始めた。
 
「俺はあいつの成功率を信じて、成功するに一票だな」
「拙者もイングヴェイ殿には、星晶獣相手でも成功して欲しいでござる。成功に一票でござるよ」

 ソリッズとジンもその賭けに参加。
 
 中には。
 
「自分は、半分半分かな。成功して欲しい気もするし、失敗して欲しい気もある。それというのもイングヴェイ殿にはまだ一人にしぼらないで欲しい願望もあるのだ」
「という事は、つまり?」
「ううん、つまり、失敗に一票、で、お願いするのだ」
「よし、デリフォードは失敗に一票、と」

 ラカムはデリフォードの票も集計する。

「あれ、デリフォードさんまで賭けに参加するんですか?」

 元帝国軍兵士で既婚者のデリフォードまでその賭けに参加してきたのを見て、はその意外性に驚く。

「デリフォードさんとイングヴェイさん、こういう団のイベントでよく親しく話してるの見ますけど、いつも二人で、何の話してるんですか?」

 は、今まで疑問だった事を思い切ってデリフォード本人に聞いてみた。団の人間関係のデータを更新するにも丁度良かった。

 デリフォードは、そのに快く応じる。

「そうだな。自分は主にイングヴェイ殿の女性関係の相談に乗ってるのだ」
「ええ、デリフォードさん、帝国に奥さんと子供達が居て家庭持ってますよね。イングヴェイさんは、そのデリフォードさんに女性関係の話してるんですか? まさかデリフォードさん、奥さんに内緒でイングヴェイさんに女性を紹介してもらって浮気しているのでは……」

 イングヴェイは陰で、既婚者で家族が居るデリフォードに女性をあっせんしているのでは――、は彼に浮気の疑いの眼差しを向ける。

「ち、違うのだ、それは誤解なのだ、自分は自分の妻一筋で変わりないのだ!」

 デリフォードはに浮気を疑われ、焦ってそれを全否定する。

「それじゃ何でイングヴェイさんの女性関係の相談に乗ってるんですか」
「それは、イングヴェイ殿は、自分が既婚者であるので、女性関係の相談相手に丁度良いらしいとか話していたのだ」
「何で、既婚者相手だとそれの相談相手に良いんですか?」
「イングヴェイ殿によれば独身同士だと、狙ってる女性を横から取られる危険性があるとか。それで悔しい思いをした事が何度かあるので既婚者相手だと安心して相談できるし、既婚者であるからこその女性の扱いも慣れてるので相談しやすいと聞いてるのだ」
「ああ、それで……」
「それだけじゃなくて、イングヴェイ殿は自分にも昔の騎空団の冒険譚を聞かせてくれるのだ。イングヴェイ殿の昔の冒険譚を聞いて、自分もそんな冒険をしてみたいと何度思った事か……」
「なるほど。それなら家庭持ちのデリフォードさんがイングヴェイさんと一緒に居るの、分かる気がします」
が分かってくれて良かったのだ。に誤解されたままだったら、どこでうちの妻にその誤解されたままの話が伝わるか分からないのだ」

 デリフォードは、がイングヴェイと一緒に居る理由を理解してもらえて、胸を撫でおろした。

 でもにはデリフォードに関してまだ分からない部分があったので、遠慮なく聞いてみた。

「あの、デリフォードさんは帝国軍にいかず、団長さんやイングヴェイさんのような騎空団を作るの、考えなかったんですか?」
「自分は帝国軍現役時代でも騎空団に憧れはあったが、家の跡継ぎと兄上の問題があってそれを断念したのだ」
「あ、すみません……」
「いや、が謝る必要はないのだ。それで今はもう守るべき家族が居るし、此処の団長のおかげで自分の妻もこの艇に乗るのを許してくれてるのだ」
「そうだったんですか……」
「自分はイングヴェイ殿のような冒険はできず、空の旅も此処の団長に頼るしかできなくなってしまったが、それでも、自分の人生に後悔はないと思うのだ。今も団長のおかげで旅はできているし、此処でイングヴェイ殿の冒険譚も聞けるのでこれはこれで良かったのだ」
「それは、良かったです」

 は色々な人生があるものだなと、デリフォードとイングヴェイの交流に感心する。

 しかし同時に、家に残っているというデリフォードの奥さんが心配になった。

「でもデリフォードさん、このクリスマスに家に帰らなくて良かったんですか? 奥さんと子供達は、家に残って寂しくないんですかね?」
「ああ。夜にはきちんと家に帰る約束はしていて妻と二人の時間を作るようにはしてあるし、子供達への贈り物もちゃんと用意しているのだ。今回、このクリスマスイベントに参加したのは騎空団に興味を持ち始めた子供達にグランサイファーのクリスマスパーティーがどういうものだったかを聞かせるためと、こういうイベントごとでしかこの団に集まらない仲間達の情報収集を目的としているのだ」
「へえ。そうだったんですか。デリフォードさんにそこまで思われてる奥さんは、幸せ者ですね」
「……」

 は、自分はユーステスに置き去りにされている件を重ねて、力なく笑うしかない。

 そのを見てデリフォードは。


「何ですか?」

 デリフォードは言う。

「今はユーステスが不在で寂しくとも、時間がそれを埋めてくれると思うのだ。こういう時でも、彼を諦めない気持ちが肝心なのだ。こうやって、自分を好きにさせてくれている妻のようにね」
「あ……」
「それでもがユーステスが不在で寂しければ、自分の組織の仲間や団長達に遠慮なく頼ればいいのだ。はそれができると思うし、それをやっていいと思うのだ。自分は個人的に、とユーステスを応援してるのだ」
「デリフォードさん、ありがとう……」

 はデリフォードにそう励まされるとは思わず、泣きそうになるのを堪える。

 と。

 デリフォードの話を聞いている間に、イングヴェイが席に戻ってきた。

「お、イングヴェイの奴が戻ってきたぞ」
「結果はどうなんだ、結果は!」

 オイゲンとソリッズがイングヴェイに詰め寄る。

「これを」

 イングヴェイは得意げに、一枚の紙きれを集まる全員に掲げるように見せた。

「アニー殿の連絡先でござるか!!」
「やるじゃねえか! さすが! 賭けに負けても清々しい気分だぜ!」

 それを見たジンは興奮気味に、ラカムも賭けに負けても最高だぜとはしゃぐ。

、確認、お願いできるかな?」
「はい、お任せを!」

 も少し興奮した様子で、イングヴェイからのメモを受け取る。

 の確認に、男達から注目が集まる。

 しかし――。

「あ、これ、孤児院じゃなくて、うちのお父さんの騎空団の連絡先ですよ」
「え」

「おいおい、冗談だろ?」

「アニーさん、うちの騎空団団長のお父さんと勝負して勝ってその許可もらわないとあなたと付き合う気ないって、連絡先の下に小さな字で書いてますよ。ほら。これ、読まなかったんですか?」

「……、君の父親と勝負してまで彼女を手に入れる気はない、かな」

 はは。イングヴェイは参ったよう、席に深く座った。

「ありゃ、アニーの方が一枚上手だったか」
「うむ。星晶獣相手でもしつこく迫るイングヴェイには、一回、それ渡した方が効果的だと思ったんだろうな。大人しそうな見た目と違って一筋縄でいかない部分は、と同じってか」

 ラカムとオイゲンはアニーの方が一枚上手であると分かって、イングヴェイに遠慮なく笑った。

 しかし。

「フ、しかし、これで諦める俺じゃない」

「お、まだいけるでござるか」
「それでこそ、モテ男、イングヴェイ、だな」

「うん、イングヴェイ殿はやはりイングヴェイ殿で変わりないのだ」

 ジンとソリッズ、デリフォードはアニーに断られても諦めないイングヴェイを称える。

「え、まだアニーさんにアタックする気ですか? アニーさんは本当に、私のお父さんの許可を取るまでイングヴェイさんと付き合う気ないと思いますけど……」

 まだアニーを諦めないというイングヴェイには、そう、申し訳なさそうに話すが。

「いや、俺は次は、アニー以外の女を狙うつもりだ。この艇には、アニー以外にも俺好みの美女がたくさん乗ってるだろ? クリスマスまでに誰か一人捕まえれば、それで満足だ」
「でも、クリスマス、もう少しで終わりますよ。それまでに捕まえられるんですか?」
「はは、は、肝心な事を忘れてるな」
「え?」

 肝心な事? はイングヴェイの言う意味が分からず、首をかしげる。

 イングヴェイは自身たっぷりに言う、言ってやった。

「――今夜だけがクリスマスじゃないって事をさ」
「!」

 それは。

を含めて此処に集まってる恋人連中はこの日を――二十四日のイブを重視してるようだが、実際のクリスマスは明日、二十五日だ。明日こそ、クリスマスを祝うのが正常ではないか?」

「確かに、クリスマスは今夜だけじゃないし、本番は明日の二十五日……」

 はそれに気が付いて、衝撃を受けた気分だった。

「何、今日が無理なら、明日、クリスマスの本番で女と過ごすのも悪くない。まだ女とクリスマスを楽しめる時間は残っている。それだから俺は、明日まで諦めないつもりだ」

「イングヴェイさんがモテるの、分かる気がする……」

 はぁー。は、イングヴェイの話を感心したよう聞き入っている。それは後ろに集うラカム達も同じだったようで「さすがだな」と、感心していた。

 はイングヴェイは中々面白い人だなと思って、次の相手に期待する。

「そ、それで、イングヴェイさんは次は誰を狙ってるんですか?」

「そうだな。次は、いつも一人で寂しい思いをしているタヴィーナあたりかな」

「あ……」

 は思い出す。自分だけではなく、タヴィーナもいつも一人で寂しい思いをしているのを。

 そのタヴィーナは自分の踊り子としての役目が終わると仲間達の輪から外れて、隅の方で一人で飲んでいる。

「ちょっと、タヴィーナの所に行ってくるわ」

 言ってイングヴェイは、一人で飲んでいるタヴィーナに向かっていく。

 その様子を見ていたオイゲンは、に向けて耳打ちする。

。あいつ、いつも一人のタヴィーナに声かけてるんだぜ」
「……そうなんですか?」
「ああ。タヴィーナはあいつに声かけられるのをうっとうしそうにしているが、一人で居る所を狙いすましたように声をかけてその緊張感をほぐしてくれる部分はけっこう感謝してると、タヴィーナ本人が話してたな。それからもタヴィーナと同じだっての忘れるなよ」
「え?」
「イングヴェイは今回はユーステスが不在で一人でつまらなそうにしているの事も気にかけて、お前に話しかけてくれたんだ」
「あ……」
「それ、イングヴェイに感謝しとけよ」
「そうだったんですか……。私もこれくらいで沈んでいたらタヴィーナさんにも申し訳なかったですし、私の事も気にかけてくれたイングヴェイさんにも感謝しなくてはいけませんね」

 うん。オイゲンに言われても、いつも一人で彼を待ち続けているタヴィーナを見習わなくてはいけないし、一人でいる自分を気にかけてくれたイングヴェイにも感謝しなくてはいけないと思った。

 ところで。

は居るか!!」
「な、何ですか?」

 大きな声を上げてタヴィーナを連れての所に来たのは、そのイングヴェイである。

 何だと、クリスマスを楽しんでいたグラン達もイングヴェイの集まりに注目する。

「何だ。イングヴェイ、とうとう、タヴィーナのナンパに成功したのか? こりゃ、ファスティバの酒一杯じゃ賭けになんねえぞ」
「拙者はアーテファ殿一筋のタヴィーナ殿がイングヴェイ殿のナンパに応じるとは思わないでござるよ! タヴィーナ殿、気は確かでござるか!」

「私はアーテファ一筋で変わりなく、イングヴェイのナンパに応じる気はいっさいないわよ」

 ソリッズとジンに詰め寄られたタヴィーナはそれを否定する。

 そして。

、ごめんなさい。先に謝っておくわ」
「え?」

 はて? はタヴィーナに何を謝られるのだろうかとその心当たりはなく、首をかしげる。

 からすれば踊り子で大人の色気あふれるタヴィーナは高嶺の花で、今まであまり接点はなく、団のイベントごとに現れる踊り子の彼女は団長のグランと一緒でなければ中々話しかけられない相手ではあった。

 しかしその理由はすぐに分かった。

 イングヴェイは興奮した様子で、に言う。

。君の姉さんの中に、タヴィーナと同じ踊り子が居ると聞いたが、本当か?」

「え? ああ、兄弟全体では四番目で女の中では二番目のお姉ちゃんの事ですか? その二番目のお姉ちゃんが踊り子なのは、本当ですよ。あれ、というか、うちの二番目のお姉ちゃんとタヴィーナさん、知り合いだったんですか?」

 タヴィーナはにうなずいて、話を続ける。

「私とのいう踊り子の二番目のお姉さんとは何度か仕事で一緒になって、一緒に踊った事もあるの。月の事件があってから家族の話を聞いてもしやと思えば、彼女で間違いなかったわけ」
「へえ。それは私も知らなかった事です、凄い偶然ですねー。そういえばうちの二番目のお姉ちゃん、踊り子なんで同じ踊り子のタヴィーナさんとどこかで一緒になってもおかしくなかったですね。て、もしかして、うちの二番目のお姉ちゃんの話、イングヴェイさんにしたんですか?」
「そう、それで、に先に謝っておこうと思ったの。彼、今日に限って私にしつこく迫ってきて、それの理由が最初にの孤児院のアニーで失敗したせいだっていうじゃない。それで仕方なくの二番目のお姉さんの名前、出しちゃったのよ」

 と、ここではイングヴェイに聞こえないよう、タヴィーナに小声で耳打ちする。

「タヴィーナさん、うちの二番目のお姉ちゃんの男の趣味とその扱い分かったうえで、イングヴェイさんに紹介したんですか?」
「ええ。彼女の男の趣味は聞いてるし、どういう風に彼らの相手をしているのかも分かってるわ」
「そうですか、それなら、構いませんよ」

 に申し訳なさそうではなく、くすくす笑って答えるタヴィーナと、それに安心しておまけに同じ踊り子として二番目の姉の知り合いだったというタヴィーナとすぐに打ち解けて笑うと。

 二人のやり取りを知らないイングヴェイは鼻息荒く、に迫る。

よ。君の二番目の姉さん、俺に紹介してくれないか。ぜひ、紹介して欲しいんだが。明日までに!」
「え、ええと、あの、タヴィーナさんから二番目のお姉ちゃんについての話を聞いたならその通りで、彼女、アニーさんやタヴィーナさんと違って男関係はだらしがなくてフラフラしてますし、イングヴェイさんの相手になるかどうか……」
「構わん。俺も人の事言えんし、そういう女の方が意外と献身的ではある。彼女がタヴィーナと一緒に仕事ができる踊り子というだけで、もう俺好みの美女であると確信を持った。彼女の連絡先はタヴィーナにすでに聞いているので、彼女にの名前を使って紹介状を出しても構わんかね?」
「はぁ。それなら私の名前使って紹介状出して良いですけど、二番目のお姉ちゃんとどうなったのかその結果は教えてください」
「了解。のおかげで、明日が楽しみになったよ」

 ははは。イングヴェイは本当に気分良さそうに、豪快に酒をあおる。

 そのそばで――。

の二番目の姉ちゃんも、やアニーと同じで、一筋縄じゃいかなそうだが。どうするよ? 俺は失敗に一票、賭けの内容はワイン一本、どうだ?」
「うむ。賭けの内容に対してのその賞品は悪くないな。俺は失敗するに一票」

 ラカムは再び賭けを再開し、オイゲンもそれに応じる。

「ワイン一本なら、確実さを狙うわ。俺は失敗するに一票に投じておいてくれ」
「拙者も今回は失敗して欲しいに一票でござる。デリフォード殿はどうか?」

 ソリッズとジンも賭けを続け、デリフォードにも参加するよううながす。

 デリフォードは腕を組んで、考える。

「むむ。これほど予想がつかないのは珍しいのだ。……ここはワイン一本につられて、失敗に一票、で」

「全員失敗に一票じゃ、賭けになんねーじゃねえか!」

 ははは。男達はイングヴェイの前でも構わず豪快に笑って、「どうぞー」と、エルセムが持ってきた料理を美味しそうに食べ始めた。

 食べて、飲んで、騒ぐ。ラカム達は、アニーやタヴィーナ以外でも、イングヴェイが次に狙いそうな女性――このクリスマスにあわせた魅惑的なドレスで来ている女性達についての話で盛り上がる。

 その男達の様子を見て呆れるは、タヴィーナである。

「全く、揃いも揃って女と酒の話ばっかりね。ほかにやる事ないのかしらね」
「でも、楽しそうですよ」
「そう、肝心なのはそこよね」
「タヴィーナさん?」

 くすくす笑うタヴィーナに、は怪訝な顔になる。

 タヴィーナはに微笑む。

「あの人達、こういうイベントの時に独り身でも皆と楽しめる方法を知ってるのよ。私もそれに何度か、救われてるわ」
「あ……」
「それにね」
「それに?」
「それにね、ユーステスもの事は忘れずにこの日を過ごしてると思うわ。私もこんなクリスマスに一人でもアーテファを忘れていないし、アーテファもどこかで私を忘れずに私を思ってくれている。それが分かるだけで十分じゃない?」
「タヴィーナさん……」

「お互い離れていてもお互い思いあっているのが分かれば、それでいいのよ。ね?」

「……そうですね。お互い離れていてもお互い思いあってるのが分かればそれで十分です。タヴィーナさん、それから、イングヴェイさんとデリフォードさん、ラカムさん達のおかげで気が楽になりました。ありがとうございます。私、皆さんのおかげでユーステスが居なくても、この団で一人でも皆とやっていけそうな気がしました」

 は笑顔でタヴィーナ達に、クリスマスでも一人でいい、この団で皆と自分のやるべき事に専念しようと思った――ところで。

「あ、タヴィーナさん、雪降ってきましたよ!」
「あら、本当。ホワイトクリスマスね」

 とタヴィーナは雪が舞うのに気が付いて、空を見上げる。

 ほかに集まってる人間達もそれに気が付いて――グラン達やラカム達だけではなく、アニーと子供達も、揃って空を見上げ、歓声を上げる。

「私、まだ中に居るファスティバさん達に雪が降ってきたの、知らせてきます!」
「そう、行ってらっしゃい」

 はいつもの調子を取り戻したように張り切ってファスティバ達が居るだろう厨房に向かい、タヴィーナはそのを優しい眼差しで見送る。

 そして。

「同じ席、良いかしら」

 それからタヴィーナは何を思ったか、イングヴェイ達と同じテーブルの席に座った。

「独身貴族でむさくるしい俺達の中にタヴィーナが混ざると、一気に華やぐな」
「うむ。まさしく一輪の花でござるな」

 タヴィーナの同席にラカムとジンからは拍手が送られ、ほか、

「花を愛でながら酒が飲めるのは、大人の特権だな」
「ああ。いつもより酒が美味いな」

「自分は奥さん一筋で変わりないが、タヴィーナ殿が居るのと居ないとでこの場の雰囲気が違うのは分かるのだ」

 オイゲン、ソリッズ、デリフォードからも歓迎される。

 その中でイングヴェイは目を細めて、タヴィーナを面白そうに見詰める。

「おや、お嬢さん。今夜は俺と一緒の席に座ってくれるのかい? いつものイベントでは、俺と同じ席にすら座ってくれなかったというのに、今回に限ってはどういう風の吹き回しかね?」

「あら、私が今回に限ってあなたと同じ席に座ったの分かってるくせに、それ言わせる気? これがアーテファだったら黙って私を見詰めていてくれたわよ?」

 タヴィーナは足を組み直し、イングヴェイを挑戦的に見詰める。

「フ、俺が君のアーテファになれないのは、承知しているさ。それでも俺にとっては君が俺と同じ席に座ってくれるだけで、最高のクリスマスプレゼントだな」

 はは。イングヴェイはタヴィーナが自分と同じ席に座ってくれるだけで、とても気分が良かった。