――真夜中。
日付が十二時を過ぎようとした頃。クリスマスパーティーはいったん終わってアニーとその三人の子供達は孤児院に帰り、ほかの子供達も保護者や大人達に連れられて帰り、も仕事終わりで寝るために部屋に戻り、艇にはもう、大人の酒飲みしか残っていない時間帯である。
ゆらり、と。一人の男がファスティバのバーに姿を見せた。
バーに残っている酒飲みの大人達は男の姿を見てざわつくが、男は気にせずファスティバの前に来る。
ファスティバも男を認めて、いつも通り、気さくに話しかける。
「あらー。お帰りなさい。この雪の中、大変だったでしょう」
「……これ、彼女に渡しておいてくれないか」
「それ、彼女へのプレゼント?」
「ああ。これ、朝になって彼女が来たら渡しておいてくれ。それじゃ」
「ち、ちょっと待ちなさい、此処まで来ておいて何で彼女に会ってあげないのよぉ!」
「彼女はもう寝てる時間だ。無理に起こすと不機嫌になる。それでなくても今日、不機嫌だったと思って……」
「そんな事、ないわよぉ。彼女、あなたが不在でもいつも通りに皆と元気にやってたし、あなたが帰ってきたら部屋に来て欲しいと伝えてって言ってたからまだ起きてると思うわよ」
「……」
「それにこのプレゼント、直接彼女に渡した方が喜ぶわよ、絶対」
「しかし……」
「迷ってる暇があるなら、さっさと彼女の所に行きなさい!」
「……」
男はファスティバに一喝され、渋々、彼女の部屋に向かったという。
男――ユーステスは、溜息を一つ吐いてから、の部屋の前まで来ていた。
「、居るか」
とん、とん。ノックをしても返事はない。
「開けるぞ」
一応断りを入れてから、ドアを開ける。
部屋は真っ暗で、ベッドにが寝ているのが分かった。
「」
「……」
返事はない。
もう一つ溜息を吐いて、部屋の明かりをつける。
「あからさまな狸寝入りは止めろ」
「あ、バレてた?」
むくり。は毛布をはいで起き上がり、ベッドを椅子代わりにして座る。
「全く。素人が無茶するな。俺じゃなかったら、強盗に襲われてたかもしれんぞ」
「組織内やほかの場所はともかく、この艇で強盗が入る隙、あるかな?」
「……」
ユーステスはに反論できなかった。
そして。
「……お前、なんていう格好でいるんだ」
「あ、これ、裏方専用のサンタコスだよー。私だけじゃなくて、裏で働いてたジャミル君やローアインさん達も同じ格好で動き回ってたんだよ。可愛い?」
ユーステスは部屋が明るくなって、が着ているものに注目してそれに呆れる。
は立ち上がって、ユーステスに今回のクリスマスパーティーで着ていたサンタ衣装を披露する。
しかも。
「サンタコスといっても男用のズボンじゃなくて、スカート……」
「ふふふ、それだけじゃなくてガーターベルト付きですよ、旦那様」
「!」
ひらり、と。はサンタの赤いスカートをめくって、ガーターベルトを装着しているのをユーステスに見せつける。
「お前、それ、俺以外の男に……」
「ユーステス以外の男に見せるわけないって。今夜、ユーステスが帰ってきた時だけ見せようと思ってたんだよ。それに黒いストッキングはいてるから、そこまで見られてないよ」
「それならいいが。……しかし、がそのサンタコスでクリスマスパーティーに参加してるとは聞いてなかった」
「これ、ローアインさん提案で裏方従業員だけで決めてたサプライズだったからね。当日にそれ知った団長さん達も驚いてたけど、皆から評判良かったよ」
「……」
「ねえ、私がこのサンタさんの格好するって分かったら、仕事よりこっち優先してくれた?」
「……」
ユーステスは答えないが、はその沈黙は彼が肯定したと理解する。
「それじゃ、サンタコス、ユーステスに事前に話してた方が良かったねー。残念」
「……」
本当に残念そうなを見て、ユーステスは。
「……その、今日、このクリスマスの日に一緒に過ごせなかったのは、すまないと思ってるんだ本当に」
「いいよ、別に。ユーステスは、こういう日でも依頼がくるほどの腕前だって分かるし、その仕事が大変なのも分かってるから」
「今回の件でイルザから、ローナンを復帰させて組織だけじゃなく組織外の仕事の管理も昔のように彼に任せた方が良いんじゃないかと、散々言われた。イルザだけじゃなくて、ゼタとベアトリクスとグウィンも同じ意見で、イルザ以外でこの三人はまだ分かるがどういうわけかバザラガからも色々言われた」
「そう。真面目で仕事断れないユーステスは、イルザさんの言うよう、昔のようにローナンさんの管理下の方が良いかもね。ローナンさんも、ユーステスがもう一度自分に頼ってくれるのは嬉しいんじゃない?」
「……そうか。それ検討する時期がきたか、のためにも」
ユーステスは参ったよう、天井をあおぐ。
それから次にユーステスはの向かい側に椅子を持ってきてそれに座ると、改めてサンタコスのを見詰めて彼女に聞いた。
「お前の方は今夜のクリスマスパーティー、どうだったんだ? その、俺が不在なせいでこのイベントで嫌な思いはしなかったか」
「全然。むしろ、ユーステスが不在のおかげか、普段話せないような人達と話せて楽しかった。これで技術部のデータ更新やれるよ」
「普段話せないような人というのは?」
「ユーステスの代わりに孤児院のアニーさんと子供達が来てくれたおかげで、アニーさんと同じ星晶獣――グリームニルさんやシヴァさん、アフロディーテさんとか、それから、あと」
「あと?」
「踊り子のタヴィーナさんとか、元帝国軍のデリフォードさんとか、元騎空士のイングヴェイさんとか」
「おい、タヴィーナとデリフォードは相手が居るからまだいいが、イングヴェイに何か――あいつに不必要にベタベタ触られてないだろうな」
「大丈夫。イングヴェイさん、ユーステスが不在で寂しそうにしてる私に一番に声かけてくれてその緊張感をほぐしてくれた良い人だよー」
「そうか、それなら良いが。あのイングヴェイがをね……」
ユーステスは、一人で寂しそうにしているに一番に声をかけるとはさすが女の扱い上手いなと、イングヴェイに感心を寄せる。
「あと、これ、ベッドの中、見て」
「!」
ばっと。は毛布をはいで、ベッドの上に何体か飾られている犬のぬいぐるみを見せた。
「お前、それ、どうしたんだ」
「えへへー。これ、ユーステスが居ない時でも寂しくないようにって、白竜騎士団のアーサー君をはじめとした子供達や、おこたみのルナール達から犬のぬいぐるみ何体かプレゼントでもらっちゃったー。中でもお気に入りはこれ、ぬいぐるみ作りが得意のアンナからもらった黒い犬のぬいぐるみだよ」
「……ひょっとしてその黒い犬の頭についてる毛糸、俺の銀色の髪と同じにしてるのか」
「うん。アンナ、黒い犬の頭にある毛糸、ユーステスの銀色の髪と同じに作ってくれたの。凝ってるよねー」
「……」
はそれから、黒い犬のぬいぐるみを胸に抱いてその犬の銀色の毛糸の頭を撫でる。
「今日もお仕事、大変だったねー。よしよし、お疲れさまー」
「……お前、俺の代わりにその犬のぬいぐるみを撫でるの止めろ。へんな気分になる」
「えー、どういう気分? まさかユーステスもこの子と同じように撫でて欲しいとか?」
「……」
ニヤニヤ笑うと、それから顔をそらすユーステスと。
はベッドの高さを使ってユーステスと同じ目線になると、遠慮なく彼の頭を撫でてやった。
「この寒い中、お仕事大変だったでしょ、お疲れさまー」
「……」
「エルーンの耳、触っていい?」
「ああ」
「やっぱ、ユーステスのエルーンの耳、触り心地良いね。犬のぬいぐるみの耳だけじゃ、満足できなかった」
「そうか……」
は久し振りに、ユーステスのエルーンの耳の感触を楽しむ。
このタイミングでユーステスは隠していた紙袋をに差し出した。
「、これを」
「え、何、それ私にくれるの?」
「ああ。お前にクリスマスプレゼントだ」
「やったー。ユーステスからクリスマスプレゼントもらえるとは思わなかった。開けて良い?」
「ああ」
は紙袋を開けて、そして。
「わあ、花のヘアピン、花の中に宝石付いてる。綺麗! どうしたの、これ。ユーステス、こんなの得意じゃないよね」
「仕事が終わった直後にイルザに連絡した。手ぶらで帰るわけにもいかんので、お前にどういうのを選べば喜ぶか聞いたんだ。イルザからアクセサリー、定番の指輪はどうかと提案があったが、俺ではお前の指のサイズ分からんし、お前の好みもあるんじゃないかと思って今回は見送った」
一息。
「それなら普段使いできるヘアピンとかリボンといった髪飾りで良いんじゃないかと、そのイルザとの通信をそばで聞いていたゼタとベアトリクスからも提案があった。それを花にしたのは、白竜騎士団のアーサー達からもらった花のブレスレットとあわせたら良いんじゃないかと、同じくそれを聞いていたグウィンにそう言われて、確かに髪を飾るものであれば花のブレスレットにあわせた方が良いなと思ってそれで」
「えー。私、今夜のクリスマスパーティーに参加してたイルザさんとゼタ達とも話したけど、ユーステスとそんな話してたなんて、全然聞いてなかったよ」
「それは俺が仕事が終わった後――多分、お前も仕事終わりで部屋に戻った頃だったから、聞こえなかったんだろう」
「そうか。でも、その頃になってわざわざこれ買いに行ってくれたの、嬉しい。ありがとう。それからアーサー君達からもらった花のブレスレットと同じ花にしたらとユーステスにアドバイスするなんて、さすがグウィンだわ。花のヘアピン、さっそくつけてみるね、どう?」
「良いんじゃないか。グウィンの言うよう、花のブレスレットとあってる」
「嬉しい」
は本当に嬉しそうに、ユーステスに抱き着く。
「あ、私からもユーステスにプレゼントあったの思い出した」
「何だ?」
「ちょっと待って。えーと、あ、あった、これだ。どうぞ!」
はユーステスから離れると棚の上にあった紙袋を発見し、それをユーステスに手渡した。
ユーステスは紙袋を開けて、驚いた。
「黒い毛糸で編まれた銀の星模様入りのマフラー……。これ、手編みか?」
「うん。一応、手編みなんだけど……」
「何で自信なさそうにしている?」
「ええとね、キャピュレットのジュリエットを先生にして同じく手編みのマフラーを団長さんにプレゼントするって張り切ってたルリアちゃん、ルリアちゃんだけじゃなくて、アリーザとか、アルメイダとか、ヨウちゃんとか、シャトラとか、ソーンとか、ヴィーラさんとか、エルセムさんとか、彼氏持ちや片思いの相手が居る数人の子達とこの日のために編み物コツコツやってたんだよね。自分が編んだの、その子達と比べるとどうかなって出来だったから」
「そんな事はないと思うが。よく出来てるじゃないか」
「ありがとう」
は、ユーステスにマフラーをそう評価してもらえて、満足そうに笑う。
というかそれより以前に気になる点がいくつか。
「というか、さっき、ソーンとかヴィーラとかエルセムとか聞こえたが、あいつらも達に混ざって編んでたのか?」
「うん。私とルリアちゃんが艇で編み物やってると物珍しそうにやってきて、ジュリエットが手本なら自分達も編み物やってみたいってやり始めたの。ソーンはシルヴァさんに、ヴィーラさんはカタリナさんに、エルセムさんはユグドラシルに手編みをプレゼントするって。彼ら以外にもジュリエットが先生やってくれるなら編み物やりたいってほかの子達も集まって仲間も増えて、団でちょっとした編み物ブームになってたんだよ」
「ヴィーラとソーンはともかく、エルセムのユグドラシル相手はマフラーは大変では……」
「それね。エルセムさんはマフラーじゃなくて、ユグドラシルが好きな花を入れられる毛糸の袋にしてるからそこまで大変じゃないと思うよ」
「ああ、なるほど。それなら別に大変でもないな」
「うん。ほかの皆もマフラーだけじゃなくて、手袋だったり帽子だったり、自分の編めそうなものか相手が好きそうなもの選んで手編みをプレゼントする、その相手は別にカップル同士じゃなくて家族だったり仲間だったりでね、皆、相手のために張り切ってたんだよ。これも愛だよねー」
「そうだな」
ユーステスもと同じように笑って、それから。
「どうだ?」
ユーステスはの手編みのマフラーを自分の首に巻いてみせた。
もそれを見て、満足そうに言った。
「似合ってる。長さも丁度良くて良かった。これで仕事先でもあったかいよね」
「……」
それからユーステスはの手を取って、自分の方に引き寄せる。も大人しく、ユーステスに従うように応じる。
「、こんな時間まで待たせてすまなかったな」
「いいよ。ユーステスは、こうやって無事に私の前に帰ってきてくれたんだから。それだけでも十分だし、イングヴェイさんから良い話聞いちゃったからそこまで悪く思わなくていいよ」
「イングヴェイから良い話、というのは?」
「実は……」
はここでイングヴェイから、明日の本番にクリスマスを楽しめばいいという話をユーステスに聞かせた。
ユーステスはラカム達と同じよう、イングヴェイのその話には感心した様子だった。
「なるほど。確かに明日――時間を見ればもうすぐ二十五日になるが、明日の二十五日、クリスマスを楽しむのも悪くないな。さすがモテ男、イングヴェイ、か」
「でしょ。私もイングヴェイさんのその話で、二十四日にこだわらないで、クリスマス、明日の二十五日もできるじゃないって思い出して、ユーステスに今日のご馳走とケーキ、取っておいたんだ。明日、一緒に食べようよ」
「……そうだな。明日、と改めてクリスマスやるか」
「うん」
はユーステスの返事を聞いて嬉しそうに笑う。それだけで。
それだけで――。
「、いい時でも時間作れないか」
「うん、いいけど、何?」
「いや。今回の仕事の依頼人――組織外の人間になるが、仕事終わりにそいつにの事を話したら、何で今までカノジョ持ちなの黙って自分にも紹介してくれなかった、それならクリスマスを考慮して独り身の連中だけで集めた部隊に入れなかったし、それも依頼人である自分に言えなかったっていうならカノジョのために昔のようにローナンの管理下に戻った方が良いんじゃないかって、イルザ達と同じ事を散々言われてな」
「あはは、そうだったんだ。それで、その組織外での仕事の依頼人、私にも紹介してくれるの?」
「ああ。今回の件があっても、俺の組織以外の人間関係くらい知っておくべきだと思って、それで」
「了解です。いい時にでもその人紹介してくれると嬉しい」
ぎゅうっと。はユーステスが組織外でも自分を認めてくれるのが分かって嬉しくなって、彼に力を込めて抱き着く。
ユーステスもそのに応えるよう、彼女の背中に腕を回してそれに力を込める。
時計は午前0時を過ぎ、二十四日はすでに終わっていたけれど。
「クリスマスはまだ始まったばかりだよ」
はイングヴェイの話を思い出してそう言って、ユーステスと甘い時間を過ごしたのだった。
余談。
「イングヴェイさん、二番目のお姉ちゃんとどうなったんですか?」
「……」
「イングヴェイさん?」
「あてだ」
「え?」
「の二番目の姉さんからの手紙、君に渡してくれと預かっていた」
「イングヴェイさん、無事に二番目のお姉ちゃんと会えたは会えたんですね」
「ああ。の二番目の姉さんはタヴィーナと一緒に仕事をやっているだけあって、俺好みの美女ではあった」
「そうですか、それは良かったです。それで、二番目のお姉ちゃんとは?」
「しかしの二番目の姉さんは、俺に会ってる時は孤児院の事と、の事しか話さなかった」
「そうなんですか?」
「その手紙を読んでみれば分かる。俺はちゃんとに渡したからな」
「私あての手紙って、何だろう」
クリスマスも終わり何日か過ぎた頃には、イングヴェイがグランサイファーに姿を見せたので兄弟全体では四番目、女の中では二番目の姉とどうなったのか、それを聞くためにイングヴェイに近付いたが、当のイングヴェイは疲れた様子でに一枚の手紙を差し出し、はそれを受け取る。
今回はのそばにユーステスもついていて、その様子を見守る。
そののそばについているユーステスを見て、イングヴェイは。
「ユーステス」
「何だ」
「と付き合うはいいが、の孤児院の家族――特に姉さん達には気をつけろよ」
「は?」
「俺はちゃんとお前に忠告しておいたからな。俺はこの団に来ているほかの女達に癒されにいってくるわ……」
「?」
ユーステスはいつもの調子ではなくやつれた顔でフラフラした足取りで団の女性達に会いにいくというイングヴェイを怪訝な顔で見送ったあと、二番目の姉からの手紙を読んでいるに注目する。
と。
「ねえ、イングヴェイにあなたの二番目のお姉さんとどうなったのか、聞けた?」
タヴィーナもイングヴェイと二番目の姉との結果が気になる様子で、に話しかけてきた。
はニッと笑って、タヴィーナとユーステスに二番目の姉からきた手紙を見せる。
「タヴィーナさん、この手紙、見てください。あ、ユーステスも読んでいいよ」
「あら、あら」
「これは……」
手紙の内容――。
『に紹介してもらったイングヴェイ、彼、凄くいいわね! 踊り一つでめちゃくちゃおごってもらっちゃったー。伝説の騎空士というだけあってお金持ちで、食事代はもちろん、洋服代、化粧代、その他もろもろ、久し振りに潤っちゃったわー。、グランサイファーか組織にも彼みたいなイイ男、もっと居るならまた紹介してくれるとお姉ちゃん、嬉しいなー。そうそう、タヴィーナもそっちにいるんだって? タヴィーナ、これ読んでたら、また一緒に踊りたいわね、いい時にでも会わない? 連絡待ってるわ!
それからイングヴェイからの組織で噂の彼との事とそこでの技術部の話、グランサイファーでの仕事振りも聞けたから、もう満足だわ。それでもが組織で噂の彼とつらい時やグランサイファーで何かあれば、お兄ちゃん達だけじゃなくて、お姉ちゃんにも頼ってね。お姉ちゃん、のためならどこでも駆けつけるから。――二番目のお姉ちゃんより愛を込めて』
「イングヴェイ、の二番目のお姉さんにしぼられるだけしぼられて、それでげっそりしてたのね……。そうね、私もまた彼女と一緒に踊りたいわ、いい時にでも会えるように連絡しようかしら」
「さすがのイングヴェイさんもうちの二番目のお姉ちゃんには強く出れなかったみたいですね……。最後の文も二番目のお姉ちゃんらしいし、それでイングヴェイさんが自分より私の事ばかりって言ってたのも分かる気がする。あとで二番目のお姉ちゃんあてに返事書いておこう」
の二番目の姉の事情を知るタヴィーナはイングヴェイに同情し、も笑うしかない。
「……、一ついいか」
「何?」
と、ユーステスはかねてからの疑問をに聞いた。
「お前の二番目の姉の男の趣味というのは……」
「ああ。この手紙で分かる通り、うちの二番目のお姉ちゃんの男の趣味は、相手の男の人がお金持ちで自分にお金出してくれるかどうか、だよ。自分にお金出してくれる人しか興味持たないし、付き合う気もないって。おまけにイケメンなら文句無し。いつもイイ男探してるメーテラみたいな女性だっていえば分かる?」
「なるほど。確かにメーテラを例に出せば分かりやすいな……」
「イングヴェイさん、伝説の騎空士としてお金持ちでイケメンでもあるから二番目のお姉ちゃんにあうと思ったけど、彼女と付き合うとなればやっぱり難しいかー」
「……」
うん。は、二番目の姉とイングヴェイとの結果にはとても納得した様子だった。
「この結果、同じようにどうなったか知りたがってたラカムさん達にも知らせてくるよ!」
言ってはタヴィーナとユーステスから離れて、ラカム達が待ってるだろうファスティバのバーへ向かった。
が行ったのを確認してからタヴィーナは、ユーステスに耳打ちする。
「ねえ、あなたはの孤児院の家族と兄弟達に会った事、あるの?」
「そういうタヴィーナはの孤児院の家族に会った事があるのか?」
「クリスマスであなたの代わりに来ていた、お手伝いのアニーには会ってるわよ」
「ああ、そうだったな。俺は一部の兄達はこの団の団長との紹介で会った事はあるが、皆、優しくて良い奴だった。村長で施設長の母親とその手伝いのアニー、ほかの姉達はまだ会った事はないが、手紙の内容を見るに孤児院の女達――アニーも、と同じよう、見かけと違うのか?」
「そうね。私は村長の母親と一番上のお姉さんとお兄さん達に会った事はないけど、クリスマスに来ていたお手伝いのアニーはと同じで、大人しそうな見た目と違って中身は強い人間に違いないわね」
「そうか……」
「更に言えばお手伝いのアニーだけじゃなくて、その二番目の踊り子のお姉さんとは昔の仕事仲間だったからよく知ってるの。二番目のお姉さんもと同じで大人しそうな見た目と違って強いし、イングヴェイの言うよう、の家族のお姉さん達の扱いには気を付けた方が良いのは同意ね。彼女を相手にするには、あり金を全部持っていかれる覚悟で挑まないといけないから」
「……」
イングヴェイだけではなくタヴィーナの忠告を聞いてユーステスは、身震いした。
タヴィーナはそれからそれに補足するよう話した。
「だけど彼女がそういうお金持ちの男しか興味持たなくなったのは自分が本当に孤児院育ちで苦労しているからで、それ以外に後から入ってくる子達のためにその孤児院を存続させたいためだってのが分かるし、彼女を相手にする男達もそれを聞いてるからこそ彼女に何でもしてあげたいと思っちゃうのよ」
「ああ、そういわけが……」
「イングヴェイも彼女から孤児院で苦労している話を聞いて、それで頑張ってる彼女に何でもしてあげたくなったんでしょう。イングヴェイに限らず彼女に関わった男達は皆、その彼女にあり金出したのに後悔はないって清々しい気分だったわ。実際、彼女は自分の踊りで稼いだお金はちゃんと孤児院に仕送りもしてるから、周りの人間はそれに関して何も言えないのよね」
「なるほど。それであのイングヴェイすら手玉に取るとは……、の二番目の姉は別の意味でイルザより強いかもしれんな」
ユーステスは、イングヴェイすら手玉に取って彼から金銭を巻き上げた二番目の姉の手腕に、感心を寄せる。
「それだけじゃなくてね」
タヴィーナは続ける。
「それだけじゃなくて、二番目のお姉さんもにとても甘いのよ。最後の文面でもあったけど、彼女もイルザ達と同じよう、をとても可愛がってるの。多分、一番上のお姉さんも二番目のお姉さんと変わらずに甘くて、お姉さん達に限らず、お兄さん達もそうだって聞いてるわ」
「それじゃあタヴィーナは、俺と付き合う前のの事も知ってたのか?」
「ええ。二番目のお姉さんから、私達と違って武器も魔法も扱えないけど皆のために頑張るめちゃくちゃ可愛い妹が居るってその自慢話、散々聞かされてたのよ。自分もその妹のためなら何でもできるし、何でも頑張れる、妹のためにも孤児院は存続させるべきだってね。私もその時は彼女のいう妹がだと分からなかったけど、あなたとあなたの組織の月の事件があってから孤児院の家族と兄弟の話を聞いてからやっと彼女のいう妹がだって分かったの」
「そうだったのか……」
「あの兄弟達に限らず騎空団団長の父親も同様にに激甘で、あの家族はに何かあれば相手を叩きのめすくらい簡単にやってのけるわ。それだから――」
タヴィーナはユーステスに顔を近付けて、そして。
「それだからあなたもあの兄弟達や父親から袋叩きにあいたくなければ、月の事件や今回のクリスマスの時のよう、これ以上にを泣かせちゃダメよ?」
「……言われずとも、これ以上、を悲しませたくはないと思っているさ」
タヴィーナに言われたユーステスは、本当にこれ以上、を泣かせないようにしなければと心に誓う。
と。
「タヴィーナさん!」
走ってきたのか、息をきらした状態のがタヴィーナとユーステスの前に戻ってきた。
「タヴィーナさん、夜までこの艇に居られますか?」
「夜まで艇に居られると思うけど、どうしたの?」
「ラカムさん達に二番目のお姉ちゃんの手紙を見せれば、二番目のお姉ちゃんにやられっぱなしのイングヴェイさんに同情して、夜になれば私の家族で失敗続きのイングヴェイさんを励ます会やろうって盛り上がったんですよー。それにタヴィーナさんも踊り子として参加してもらえないかと思いまして。ラカムさん達は今、その計画をファスティバさんのバーで練ってるんで、タヴィーナさんもそれに参加できるようならバーに来て欲しいとも話してました」
「ふむ、いいわよ、それくらい。私、イングヴェイにの二番目のお姉さんを紹介した責任、ちょっと感じてたの」
「良かったです。私もイングヴェイさんに二番目のお姉ちゃんの話あまりしてなかったの悪いと思ってたんで、その励ます会でイングヴェイさんの好きな料理をローアインさん達と一緒に作る事になったんです」
それからは、タヴィーナと一緒に居るユーステスの方へ視線を移す。
「ねえ、ユーステスも夜に仕事無くて暇なら、イングヴェイさんを励ます会に参加できるなら参加してよ」
「了解、イングヴェイには興味無いが、の料理が食べられるなら参加する」
「やった。あ、この話、団長さんとルリアちゃん達にも伝えてくるね!」
言っては、さっさと団長のグランが居る方へ走っていった。
そのを見てユーステスは、呟くように言った。
「全く。嵐みたいな奴だな。……会った事はないが姉達の性格、を見れば分かる気がする」
「ふふ、そうね。それで今のように力を持たずとも皆の中で頑張っているを見ていると、のお姉さん達だけじゃなくて、イルザ達みたいにを妹として可愛がりたい気持ちも、分かるんじゃない?」
「……そうだな。イルザ達のそれは、俺も分かる。俺はしかし、力を持たずとも皆の中で頑張るを見て、妹としてではなく、自分の女として最高だとは思った」
「あらあら。そう素直に返事がくるとは思わなかったわ。がそれ聞けば喜ぶんじゃない?」
タヴィーナはユーステスのへの素直な気持ちを聞いて、くすくす笑う。
「……、少し早いが、イングヴェイを励ます会の計画を練っているというラカム達が集う、ファスティバのバーに行ってみるか」
「待って、私も一緒に行くわ」
ユーステスはその照れ臭さを隠すためにタヴィーナから背を向ける方向に変えて、タヴィーナは慌ててそのユーステスを追いかける。
空の上では、ユーステス、タヴィーナ、三人の様子を見詰めていたユグドラシルは微笑むと、エルセムからもらった手編みの袋から花を取り出し、それを風に乗せて散らした。
グランサイファーに優しい風と花が舞う、それは、空からの贈り物――。