――この一年の間に彼を忘れたいと思った事は、何度思っただろうか。
これは、が遺跡で迷っていた所をユーステスに助けられて組織にやって来て一か月、ユーステスの紹介でグランサイファーに来て一か月、色々あってグランサイファーの団員になってようやく組織の一員と認められて彼と正式に恋人として付き合うようになって、それから丁度一年目が過ぎようとした頃の話。
「ユーステスのばか、もう知らない!」
はユーステスと喧嘩をして、彼の家を飛び出したという。
がユーステスの家を飛び出しても行くあてはなく、最初は実家の孤児院か、ジュリエットのキャピュレットに行こうと思ったが、丁度、近場の島にグランサイファーの艇が停泊していると分かって、グランサイファーに拾ってもらったのだった。
その喧嘩の原因、というのが。
「ユーステスの組織での仕事内容です……。ユーステスは組織内の仕事で星晶獣の盗伐以外では潜入捜査もやってて、そこまではいつもの話で限界くる事なかったんですけど、そこで組織の女性使って夫婦役でとある場所に潜入したって聞いてそれで……」
グラン達がからその原因を聞けば単純なものだった。
ユーステスは組織の仕事で普段は単独で潜入捜査を行うが、今回は潜入する先では女性同伴が必要で、それにより組織の女性をあてがったという。
からすればそれはその組織の仕事が全て片付いた後になって、しかもユーステス本人ではなく、ほかの組織の兵士達から初めて聞かされた話で、まさしく寝耳に水だった。
「私も技術部として組織の一員なんだから、相手に女性が必要であれば自分を使ってくれれば良かったのに」とユーステスに愚痴ったが、ユーステスは「武器も魔法も扱えないお前じゃ一緒に組むのは無理だろ、組織の女達はグウィンやベアトリクスのような特別な武器――封印武器は扱えずとも普通に訓練は受けた身だからな、それ以外の武器と魔法は簡単に扱えるんだよ。それで何も使えないお前より使えるし、女が必要な潜入捜査でも俺の相手として十分な成果を得られて個人的には満足している」と言い返され、「それじゃあこれから先、仕事で何かあれば私より組織の女使うの?」と睨めば、ユーステスから「当然だ。組織の女の方が何もできないお前よりは使い勝手はある」と言われ、それにとうとう我慢の限度がきて言い合いになって、家を飛び出したのだった。
「そりゃあ、武器も魔法も扱えないお荷物の私より、訓練受けて武器も魔法もバリバリ扱える組織の女の方が役立つのは分かりますよ。そうでも、その女との仕事が終わった後になって私にそれ報告すら無いのってどうなのとか、おまけにそれがユーステス本人からじゃなくてイルザさんの兵士さんから『あいつばっかり羨ましい仕事してるな』って、噂でそれ聞かされた私の立場って何とか。その噂聞いてグウィンと一緒にイルザさんの所に確認にいけば、イルザさんてば弱った様子で女使ってのその仕事内容は事実だってそれ認めたんですよ! 私が普段は組織の拠点に居なくて何も知らないのをいい事に、女絡みの仕事引き受けるユーステスもユーステスだと思いません?」
「……」
がユーステスの自分が分からなければそのまま黙ったままのやり方に腹が立つのはグランとビィ、イオだけではなく、オイゲンとラカム、ロゼッタも分かるので、この時はに何も言えなかった。
ふと。イオはのそれを聞いて思い出した事があり、遠慮がちに手をあげて彼女に聞いた。
「ねえ、ユーステスは前からベアトリクスと組んで二人でよく仕事してるんじゃなかった? それはいいの?」
「ああ、それは大丈夫。ベアトリクスはユーステスをただの上司としか見ていなくてそれ目当てじゃないの分かってるし、ユーステスもベアトリクスをただの部下としか見ていないって私も分かってるし、ベアトリクスからも私の事は応援してるって言ってくれてるからね。それ以外で二人で組んで仕事する時は男女関係とかじゃなくて、指導者としてだから、ベアトリクスについてはそこまで気にする必要無いかな。今回の仕事相手もベアトリクスだったらここまでならなかった」
ベアトリクスとユーステスはもともと上司と部下の関係で、イオの言うように組織内でユーステスはベアトリクスと組んで仕事をする事もあるが、がユーステス目当てに組織に来てからベアトリクスは「私は自分の力でここまで来たを応援している、がユーステスと何かあれば遠慮なく私に言ってくれ、私からあいつに伝えてやれるからさ」とも言ってくれたので、ベアトリクスについてはそこまで気にする必要は無いとみている。
続ける。
「それよりも以前からある事に疑問あって、ユーステスはその手の女と仕事に乗じて大人の関係持ったりしてるのかとか。それイルザさんに聞けばイルザさんてばもごもごするだけではっきりしなくて、ああ、仕事で女と関係持つ事あるのかーとイルザさんでそれ確信しました。そりゃ、あの組織に居ればそれくらい想像してましたよ、ええ、仕事で女と関係持つ事くらい覚悟のうちです。過去の話は今持ってくる事はないのは分かります、理解します。でも、私と付き合い始めてというか、私とも関係持ってからはそんな仕事引き受けないかと思った私もバカですよね……」
は最後、がっくりと項垂れて、それは、グランもほかの仲間達も何と声をかけて良いか分からなかったという。
「まあ、ユーステスの言い分も分からんわけではないし、ユーステスが組織の仕事やそれ以外でもとは別の女と関係もあるというのは私でも分かるし、この私でもその仕事については理解できる事だ」
最初にそう切り出したのは、仲間達の中で一番大人のカタリナだった。
カタリナは言う。
「しかしユーステスもを思ってるなら女絡みの仕事は事後でも自分の口で彼女のに報告するべきだとは思った、ユーステスにも悪い部分はある。それ踏まえて何日か経てばお互い冷静になれると思うから、その時に二人で話し合えば良いんじゃないか」
一息。
「ユーステスはそれがなくても何日か経てばいつものよう、を迎えに来てくれるさ」
「そうですよ。ユーステスさんは、お仕事でとは別の女の人? と居るとしても、何日か経てばきっと、いつものよう、を迎えに来てくれますよ! その時にもユーステスさんとお話しすれば解決できると思います!」
の話を聞いた大人のカタリナはユーステス側の意見に立つも彼にも悪い部分はあるとを励ますように言って、ルリアはのいう組織の仕事での女の関係はよく分かっていない風だったがカタリナと一緒にを励ます。
そして。
「そうだな。カタリナの言うよう、はユーステスとお互いに冷静に話し合える時がくればこの艇で話し合えばいい。にとっては組織の嫌な仕事でもユーステスとお互いにルールを決めれば、折り合いつくだろう。その時がくるまでは、いつものよう、この艇に居るといいよ」
「団長さん、ありがとう……」
はグランの優しさを感じて泣きそうになるのを堪え、しばらく艇に居る事になった。
そしてがユーステスと喧嘩して家を飛び出してグランの艇に世話になっているという話は、団員達の間であっという間に広まった。
これにはジュリエットをはじめ、サラにボレミア、メーテラ、スーテラ、コルワの三人、カリオストロにクラリス、ソーンにシルヴァ、エッセルにカトル、アンにグレア、ユエルにソシエ、メグにまりっぺ、おこたみのルナール達に十二神将の人間達と何人か心配して駆けつけてくれたが、「ユーステスが自分を迎えに来てくれて説明してくれるまで彼の所に帰る気ないし、それまで話し合いもする気無い」との意志は固いようで、彼女達でもお手上げで、それ以上の進展は得られなかったという。
そのさなかの出来事。
「団長さん、お手紙です」
「ありがとう」
どん、と。が団長のグランの前に持ってきたのは、各地に散らばる団員達から届けられる大量の手紙だった。手紙は単純にグランへの感謝の気持ちをつづったものから、騎空団の仕事の依頼もあったりするので、一通一通、グランが責任を持って目を通さなければいけなかった。
「それからシェロさんも来てるんで、シェロさんからついでに今までたまってた荷物の確認もして欲しいので集荷場まで来て欲しいと言ってましたよ」
「はいはい。一週間に一度の荷物整理だな。今から行くよ。ビィも手伝ってくれ」
「はいよー」
グランはにせかされ重い腰をあげ、ビィもそれに続く。
一週間の荷物整理で、が艇に来てからも三日は経過していてその間、ユーステスからの連絡はいっさい無かった。
それからは、艇の仲間達に荷物が届いているのを知らせに走る。
「ラカムさんとオイゲンさんも、週一の荷物の確認の時間ですよー」
「やれやれ。団長だけじゃなくて、オレにも届いてるか。週一の荷物整理ほど、面倒な仕事はねえな」
「そう言うなよ。荷物の中にはシルヴァの工房の設計図やらシロウのとこの設計図、最新の銃のカタログやら、色々なもんが来てるからな。それの確認を怠ると狙撃手としても、痛い目見るぜ」
ラカムは荷物の集荷場に行く事を面倒臭そうに言うが、同じく狙撃手のオイゲンの方は荷物の中身が楽しみだと集荷場へ急ぐ。
「カタリナさんにはヴィーラさんとファラを中心としたファンの方達からのお手紙や贈り物、ロゼッタさんには何冊か書籍が届いてます」
「うむ。皆、元気にやってるかな。実は、一週間に一度くるヴィーラとファラ達からの手紙は毎回楽しみなんだ」
「ふふ。今回はどんな魔術書が届いてるかしら~。団長さんの依頼の中で各地で集めてきた魔術書を吟味するの、週一の楽しみね」
カタリナはヴィーラとファラを中心としたファンの子達からの手紙が大量に届いていて、ロゼッタは旅の途中で取り寄せていた魔術書が届くのを楽しみにしている。
「ルリアちゃんには各地に居る団員達からお菓子が詰められた箱、イオちゃんにはバルツ公国のザカ大公から色々届いてるよー」
「わあ。皆さんからのお菓子の詰め合わせ、今から開けるの楽しみです!」
「ししょーてば、あたしにとってはいらないものばかり――余所行きのドレスとかキラキラしたバッグとか化粧品とか送ってくるから、それにうんざりするんだよねえ。あ、でも、以前にあったウサギのぬいぐるみは可愛かったし、アクセサリーは評判良かったから、今回もそういうのだと良いなぁ」
ルリアはお菓子の詰め合わせを楽しみに、イオはザカ大公からいらないものばかり届くというが内心ではそれがどんなものでもとても楽しみにしているのがでも分かって、微笑ましく思う。
そして。
――自分には何も届いてないから、掃除に戻るかー。は週一の荷物整理に自分は関係無いので掃除に戻るかといつものよう、掃除道具のホウキとチリトリを持ってきた時、だった。
「、は居るかい?」
「団長さん?」
は、自分の所まで息をきらして走ってきたグランと遭遇する。
「どうしたんですか? 団長さんあての荷物の整理、手伝って欲しいというなら手伝いますけど」
は最初、グランは一日はかかるだろう大量の荷物の整理を頼みに来たのかと思った。
「あての荷物、届いてた。それを渡しに来たんだ」
「え、私あての荷物ですか? いつもの孤児院のお母さんからですか?」
たまに、孤児院の母親から「元気にやってるか」という手紙と、孤児院の畑で作った野菜が送られてくる。は母親からのそれはとても助かっているので、特に文句無く受け取っている。
しかし今回、グランから受け取った荷物は、野菜が入った段ボール箱ではなく、A4サイズの茶封筒で、中に一冊の本が入ってるほどの分厚さがあった。
「でも、今回の荷物、野菜が入った段ボール箱じゃなくて普通の封書ですか。本っぽいですね。何ですかこれ」
「さあ。僕にはよく分からないし、それ見るにいつもの孤児院の母親からじゃないようだ。それ届けてきたシェロカルテから説明がある、それ開ける前に彼女からの説明を聞いた方がいい」
「え、シェロさんから説明ですか?」
と。
「それ、いつものさんの孤児院のお母さんからじゃありませんよ~」
「シェロさんまで来るとは、何ですかこれ」
は、グランと一緒にシェロカルテもついて来た事に驚いた。
シェロカルテは言う。
「さんあての荷物ですけどそれ、差出人が不明なんですよ」
「差出人が不明? あ、ほんとだ、どこにも差出人の名前書いてないですね……」
シェロカルテの言うよう、表と裏にも差出人の名前はどこにも書いていない。
「それだからそれ、慎重に開けた方が良いと思いましてね。それでわたし、団長さんと一緒にさんを見守りに来たんですよ」
「そうだったんですか。確かに差出人不明であるなら、団長さんとシェロさんが一緒の方が良いし、開けるにも慎重になった方が良いですね」
うん。はシェロカルテの説明に納得したよう、うなずいた。
シェロカルテは続ける。
「さんであればそれが孤児院の兄弟達からかそうでないかくらい、分かると思いまして~。どうです? 見た目だけで誰からのものか、分かりません?」
「どうですかね。本といえばシロウさんの所で研究員やってる二番目のお兄ちゃんか、バルツで塾やってる一番目のお姉ちゃんのような気もするけど、二人であればちゃんと差出人の名前を書いてくると思います」
「それ以外の兄弟か、さんのお父さんの騎空団の誰かが悪戯で送ったという可能性はないですか?」
「ほかの兄弟達も差出人の名前を忘れる、なんて、悪戯はしないですね。お父さんの騎空団とその仲間の皆さんも、そこまでするような人間じゃないですよ」
孤児院と父親の騎空団の仲間からの悪戯の可能性は、これで潰された。
それ以外の可能性があるとすれば。
「それでは孤児院やさんのお父さんの騎空団からではないとすれば、イルザさんの組織の兵士の皆さんはどうです? イルザさんについてる組織の兵士の皆さんであればさんに悪戯仕掛けるのなんて、簡単にできそうですけど」
「んー。組織のイルザさんの兵士さん達も私にそんな興味無いですし、私に余計な事をすればあとでイルザさんから何か言われると思えばそんな面倒な悪戯しないですよ」
「ふふ、それもそうですね。さんに何かすればイルザさん達が黙ってないのは、組織の兵士の皆さんも分かってますか」
「だな。に余計な手を出せばユーステスだけじゃなくてイルザ達にも目をつけられ、組織での居場所がなくなるくらいだからな、それ思えばそこまでの悪戯をする勇気はないだろう」
はは。だけではなくてシェロカルテもグランも、に余計な手を出してそれのせいでイルザに目をつけられれば組織を追い出されかねないと、組織の兵士達は分かっているのにとても納得して、笑いあう。
「ほかにさんに悪戯を仕掛けそうな候補者をあげるとすれば錬金術師のカリオストロさんか、悪戯好きのメーテラさんあたりどうですか」
「ああ。カリオストロとメーテラあたりなら、私に悪戯を仕掛けそうな気もしますねえ。これ開けた途端に煙が出てきて何かに変身するとか」
シェロカルテから「カリオストロ」と「メーテラ」の名前があがり、もそれには納得した。
それ以外の可能性があるとすれば。シェロカルテはの感情を見極めたうえで、にその名前を出してみた。
「それ以外では――ユーステスさん本人から、とか」
「ええ、これ、ユーステスから?」
はシェロカルテにユーステスの名前を出され、荷物をまじまじと見詰める。
「そうだ。それ、ユーステスのに向けたお詫びの品とかじゃないかな。あの時の喧嘩でにお詫びしたいけど、それが自分からだと分かれば拒絶されそうだから無記名で送ってきたとか……」
シェロカルテの意見に乗るのは、グランである。
シェロカルテだけではなくグランの意見も聞いては、改めて考える。
「それもありだと思いますけどでも、これがユーステスからだとして、私のお詫びで本を送るのってどうなんですかね。普通は手紙かアクセサリー類では?」
「それで改めて組織について勉強してくれとか?」
「組織の勉強用の本ならもう何冊か持ってますけど……。まあ、ユーステスが厳選した組織の教材というなら開ける価値ありますし、これがお詫びの品であるならユーステスと連絡取っても良いですね」
「そうそう、その調子、その調子。はユーステスの事になれば調子よくなるね」
グランは、ユーステスの事で今まで沈んでいたがユーステスからというだけで気を持ち直したのを見て、嬉しくなった。
「さんその封筒の中身、此処で確認してくれませんか? ユーステスさんからだとしても何かあった時のため、団長さんの目の前で開けた方が良いと思いますよー」
「そうだな。に何かあった時のため、僕達の方が対処しやすい。シェロカルテの言うよう、此処で開封した方が良いと思う」
「そうですね。私も団長さんの前でというのは、安心感あります。では……」
はグランとシェロカルテの前で、封筒を開ける。
封筒に入っていたのは一冊の古びた本、だった。
その古びた本はでは見覚えがなかった。
「何ですかこれ、見た限りでは組織向けの教材じゃないっぽいですよ?」
「ああ。多分それ、ロゼッタが注文した魔術書が紛れ込んだとかじゃないか? 本来はロゼッタにくるはずが、単純に宛名を間違えたとか」
「そのようですね。その真相が分かれば単純なものでしたか。それじゃあロゼッタさんに報告してきましょうか」
グランとシェロカルテは、最初はそれはロゼッタが注文していた魔術書の一冊で、とロゼッタの宛名を間違えたのではないかと、そう単純に思った。
はしかし、ここでどういうわけか、ロゼッタの魔術書が気になった。
「あの、私もロゼッタさんの魔術書ちょっと見ていいですかね? 以前から魔法扱えないけど組織でも扱ってる魔術書がどんなものか興味あって……」
に言われたグランはシェロカルテと顔を見合わせ、言った。
「それくらい良いんじゃないか? 最初に魔術書を開いたくらいではロゼッタも別に怒らないだろう」
「ですね。ロゼッタさんは、それくらいで怒るような方ではありませんよ。どうぞ、どうぞ」
「ありがとうございます。一回、ロゼッタさんに届く魔術書の中身、どんなものか興味あったんですよねー」
ロゼッタの魔術書と聞いて魔法が扱えないは興味深そうに、本を開いた。
しかし。
本はどこを開いても真っ白で、文章も絵も、何も記されていなかった。
「あれ、中身、全然何も書いてなくて真っ白で読めませんね。これがロゼッタさんの求める魔術書ですか? やっぱり魔法が扱えない私には扱えないもの――きゃああっ?!」
「?!」
「さん!」
がロゼッタの魔術書を開けた途端に本が光り、それにあてられた彼女はその場で倒れてしまった。
「――全く。素人が魔術書に手を出して良いものじゃないわよ。せめて、私かイオちゃんのような魔法使い同伴のうえで扱ってちょうだい。こうやって何が起きるか分からないのが魔術書の怖い所なんだから」
「すみません……」
「ごめんなさい……」
ロゼッタにぴしゃりと言われたグランとシェロカルテは、素直に謝った。
が倒れてから魔術書は反応しなくなり、騒ぎを聞きつけた仲間達が集まってきてカタリナの手でを医療室に運び、グランとシェロカルテから事情を聞いたロゼッタは呆れている。
「それで、の具合はどうなんだ? 中々目を覚まさないで倒れてからすっかり夜になっちまったが、大丈夫なのかよ」
「そうです。魔術書の光にあてられて倒れたというは大丈夫なんでしょうか……」
ビィとルリアは純粋に倒れたまま動かないを心配する。
今は昼間にが倒れてから、夜になっていた。
「ちゃんの方は、心配いらないと思うわ。見た感じ、ちゃんの身体に魔術反応無いし、じきに目を覚ますわよ」
「そうですか、それは良かったです」
「だな」
ロゼッタの診断にルリアとビィは、安心した様子だった。
の様子を見て、ロゼッタと同じ魔法使いのイオは言う。
「今回ばかりは、の魔力に疎い部分が助かった感じかもね。魔力に強い人間であれば多分、それの被害はだけではすまなくて、団長達がこれ以上に大変な目にあってたかも」
「何? 魔力に強い人間であれば、被害がだけではすまなかった? イオは、どうしてそう思ったんだ?」
イオの話に興味深そうに聞くは、と同じく魔力に疎いカタリナである。
「それね。あたしやロゼッタのよう、魔力に強い人間であれば、咄嗟の判断でそのおかしな魔術書を自己防衛のために何が何でも燃やそうとするからよ。その魔術書を燃やすにはそれ以上の強力な魔力というか炎が必要で、それで周りに多少なりとも影響を与えてしまうのは確実、そうなった場合、だけじゃなくて団長達、それから、この艇にも被害が及んでたかも~」
「おいおい、怖い事、言うなよ。それじゃ何か、じゃなくてお前が魔術書に触ってたらこの艇ごと燃やすつもりだったのか」
「そういや、たびたび魔法使いが強力な炎を放って街を燃やして騒動になってるが、あれ、魔術書絡みだったのか?」
イオはそれを何でもない風に解説するが、それを聞いて魔術書一冊で自分の艇を燃やされると思ったラカムは身震いし、各地で起きる魔法使いによる火事はそれが原因であると分かって関心を寄せるのはオイゲンだった。
「まあ、そうならないよう、私やイオちゃんのような熟練の魔法使いは魔術書を開く前に色々対処したうえで開いてるから、イオちゃんのような怖い話はこの艇では起きない事は断言できるわ。そこは安心して」
「そうか、それは良かった……」
ロゼッタに言われたラカムは、心の底から胸を撫で下ろした。
そしてロゼッタは、が持っていた魔術書を手に取り、グランとシェロカルテに向けて言った。
「でもへんね。私、この白紙の魔術書、注文した覚えがないんだけど」
「え、そうなの?」
「そうなんですか? わたしと団長さんはてっきりそれ、ロゼッタさんのものだと思ってましたけど……」
「こんな危険な魔術書は、子供も多いこの団では注文しないわ。こういうのは、帝国軍にある実験用の施設か、マナリア学院にあるような研究施設でやるべきよ。それにこの白紙の魔術書がちゃんあてというのも気になるわね……」
ロゼッタは今は何も反応しない魔術書と、目を覚まさないを見比べる。
ロゼッタの疑問を受けてシェロカルテは、イオの方を振り返る。
「では、イオさんはどうです? イオさんもロゼッタさんのような魔術書を集めていたり、バルツのザカ大公がイオさん向けに魔術書を送ってくるというのは……」
「あたし、ロゼッタが集めてるような魔術書に興味無いのよ。バルツのししょーもそれ分かってるし、そもそも、そういう危険なものはこの団に送ってこないと思うわよ」
「そうだな。バルツのザカ大公であれば、イオにこんな危険な魔術書は送ってこないか。それじゃあいったい誰が――」
グランはイオの言い分に納得し、ではいったい誰がにこの魔術書を送ったのか考える――と。
「ふああ……、もう朝?」
「!」
グランはその間にが目を覚まして起き上がったのを見て、考えるのを止めた。
「此処は……」
「わあ、、目を覚ましたんですね。良かったです!」
「やれやれ、これでほっと一息つけるな。安心したら腹減ったな、ルリアに届いたお菓子、皆で食べようぜ」
が起きたのを見てルリアは両手をあげて喜び、ビイは自分のお腹をさすりながらそう言った。
「ビィ君がルリアに届いたお菓子が食べたいなら、私がお茶を入れてこよう。今の私はルリアと同じく機嫌が良いからな、ビィ君だけじゃなくて、皆にもお茶をいれてくるよ」
「あ、ええと、カタリナは無理せず、にやってもらった方が良いんじゃないかな!」
ビィの話を聞いてそれは自分の役目だと浮かれ気分で腰をあげるカタリナを慌てて止めるのは、イオだった。
イオは目が覚めてもまだぼんやりと部屋を見詰めるに向けて言った。
「ねえ、起きれるようになったっていうなら、皆にお茶いれてもらえない?」
「イオちゃん、ちゃんはまだ目が覚めたばかりだから、しばらく様子を見た方が良いんじゃないかしら」
をうながすイオをたしなめるは、ロゼッタである。
イオとロゼッタのやり取りを聞いて間に入るは、オイゲンだった。
「それじゃ俺が皆の茶いれてくるわ。ここは俺が適任だろうよ」
「あ、オレ、いつもの紅茶じゃなくてコーヒー頼むわ。甘いやつ、そうだな、砂糖は五個以上で……」
「おいおい、ここはいつもの紅茶限定だろうが。そこまで細かい注文聞けんぞ」
「なら、コーヒー一つでも熱いのか冷たいのか、甘いのか甘くないか、砂糖にするかミルクにするか、ほかに香料は必要かとか、細かい注文聞いてくれるぞ」
「俺とを一緒にすんなよ。ったく、こういう時、が使えないのが痛いわ……」
オイゲンに細かい注文をつけるのはラカムで、オイゲンはそのラカムに呆れるもこの時ばかりは、の何気ない気配りが実は凄かったというのを実感したのだった。
「さん、大丈夫ですかー? まだ目の焦点あわなくてぼんやりしてますけど……」
「皆と一緒にルリアに届いたお菓子を食べれば、いつものに戻るんじゃないかな」
シェロカルテはまだ目の焦点があわず呆然と部屋の天井を見つめるを心配するも、グランはこの時はまだをそう心配する必要はないと思った。
と。
「あの、一ついいですか」
す、と、手をあげて遠慮がちにグランに口を開いたのは、本人だった。
「何? も何か好みのお茶あるなら今のうちにオイゲンに言うといい。ロゼッタの言うよう、今回ばかりはは手伝わなくていいよ」
「そうじゃなくて――」
グランだけではなく、全員がに注目する。
は不安そうに落ち着きない様子で、言い放つ。
「そうじゃなくて此処、何処ですか? あなた達、何者?」
「――」
のその発言にグランだけではなく、この場に居る全員が何も言い返せず静まり返ったのだった。