「――記憶喪失?」
「ええ。ちゃんの様子見るに、どうもそれっぽいわ」
慌てて自分以外の全員を治療室から追い出し、二人きりでを診断した結果を参った様子で別の部屋で全員に話すのは、ロゼッタだった。
しかも。
「しかも、ちゃんから話を聞けばこの一年の記憶がすっかり抜けてるらしいのよ」
「は? この一年の記憶というと、がこの艇に来てから丁度一年だな。それじゃ今のは、僕達の事は全部忘れてるっていうのか」
「そう、ちゃんがユーステスの紹介でこの艇に来てから丁度、一年になるわね。孤児院の家族の事はしっかり覚えているのに、私達の事は全部忘れてるのよ」
「そんな……、そんな事があり得るのか」
「グラン……」
衝撃的な事実を聞いてグランは身震いし、それを感じ取ったルリアは彼を心配そうに見詰める。
「あの魔術書、本当に危険なものだったのかよ。それでどうすればは、元のに戻るんだ」
「わたし達、本当にとんでもないものに手を出したみたいですね。これは商売人としても、反省です……」
ビィは今になって魔術書の危険性に気が付き、シェロカルテも反省したように項垂れている。
ラカムはビィよりシェロカルテを気の毒に思ったか、イオの方を振り返って聞いた。
「がああなったのは、シェロカルテのせいじゃない。原因の魔術書を燃やせば元に戻るんじゃないのか? おいイオ、お前の強力な炎で魔術書を燃やしたらどうだ」
「何も準備していないこの艇でそれやるの危険よ。ロゼッタの言うよう、マナリア学院の研究施設かほかの魔術研究所借りないと。今すぐは無理ね」
「それじゃ今から、全速力でマナリア学院に向かうぞ! 全員、しっかり捕まっててくれ」
ラカムは張り切って船長室に向かい、グラン達はマナリア学院に連絡を入れてからそこに向かう事にしたのだった。
はその間に治療室で再び全員が集まりそこでロゼッタだけではなく、団長のグランから自分はこの騎空団の団員の一人として登録されていると聞かされ、驚いた様子だった。
「ええ、私があの有名なグランサイファーの団員として登録されてたんですか? そんなばかな。団長さん、私が武器も魔法扱えない、何も出来ない女であるの分かってます? 分かってるなら今すぐ私を除名した方が良いですよ、私なんか居ても全然役に立ちませんよぉ」
ははは。は最初、その事実を受け入れられずに笑うだけだったが、しかし。
「――は武器も魔法も扱えずとも私達の団員の一人で間違いありません! それには十分、私達の役に立ってくれていましたし、今ではもう私達に必要な人間です。私達はそのを除名する事はありませんし、もそんな悲しい事を言わないでください」
「……」
「ルリア……」
自分の手を握って真剣な眼差しでそう訴えてきたルリアに、はもちろん、グランもほかの仲間達も胸が詰まり言葉が出てこなかった。
おまけにルリアの「そんな悲しい事を言わないでくれ」というその言葉は、どこかで聞いた事があると思った。
「……ルリアちゃん、あの、前に私に同じ事を言った覚えないかな」
「同じ事ですか? 、私達について何か思い出したんですか?」
「いえ。ルリアちゃんの事はまだよく分からないけど、さっきの、そんな悲しい事を言わないでくれって、この中の誰かに言われたような、ないような……」
ルリアに期待を込めた目で見つめられるも、は最後は自信なさそうに言った。
「ええと、私は今の言葉、初めて言った気がしますけど……。ほかの皆さんはどうです?」
ルリアは全員の顔を見回して聞くも、ほかの仲間達は覚えがないようで首を横に振るか、黙るだけだった。
と。
「――グランサイファーの一員になってくれた仲間は、どんな人間であれ、この船の団長である僕が守る義務がある。僕は、この船の一員となってくれた仲間には誰一人も傷つかせたくない、泣かせたくないとは思う。それがたとえ力を持たない普通の人間であってもね」
「グラン?」
静かな空間の中ではっきりと、凛とした声で言い放つは、団長のグランだった。
全員がグランに注目する。
「だから、何もできない弱い自分を守る必要は無いなんて悲しい事は、僕の前で言わないでくれるか。それは、役立たずだから守る必要がないなんてその言葉は、僕を傷つけるものだ――確かに一年前のある日、がこの艇に来たばかりの頃に、僕はにそんな話をしたと思う」
グランがそれを言い終わると、しん、と、辺りは静まり返った。
その静寂をやぶったのは彼の相棒である、ビィだ。
「へえ。カッコイイなその台詞、団長らしいじゃねえか」
「ビィもその席に居たはずだけど。そこにはルリアも居て、ビィとルリアのほか、メグも同席してたかな」
「そうだったか?」
「そうです、そうです。あの時は確かにメグさんも一緒に居ましたよ。、それ覚てるんですかね」
ビィはグランの話に感心するもその時の様子は覚えていなかったが、ルリアはその時の様子を覚えていてグランに拍手を送る。
と。
「あれロゼッタさん、その魔術書光ってますよ。何かあったんですか?」
「え、あ、あら、どうしたのかしらこれ」
その間にシェロカルテは、ロゼッタの持っていた白紙の魔術書が光っているのに気が付いた。
「とりあえず、イオちゃんとルリアちゃんから先に此処から出た方が――」
「――団長さん?」
ロゼッタは慌ててイオを先頭にこの部屋から出るように避難をうながすが、それを止めたのは。
「私の目の前に居るのグランサイファーの団長さん、ですよね」
「、今ので僕を思い出してくれたのかい?」
グランは目を瞬きして、を見詰める。
はグランを見詰め返した後、ビィとルリアを見てそして――。
「グランサイファーの団長さんと、団長さんの相棒のビィと、団長さんと一心同体のルリアちゃん!」
「!」
わあ。が自分を思い出してくれたルリアは嬉しくなって、に抱き着く。
「良かったです、本当に良かったです!」
「オイラもここまで嬉しい話はないと思ったぜ。今夜は宴会だな!」
「ビィ、今から宴会はちょっと無理だって。明日にしないか」
ははは。の記憶が戻ってルリアとビィ、グランの間で盛り上がる。
「やれやれ、やっと一段落か。ラカムにマナリア学院に向かう必要なくなったって伝えて、ついでに茶も持ってくる」
その間にオイゲンは機関室に居るラカムの所へ向かうと言って、部屋を出ていく。
イオはこの時、が自分を思い出してくれたグランとビィ、ルリアを見て羨ましくなったのか、浮かれ気分でに近づく。
「、あたしの事も思い出してくれたの、なんて。あたしの事くらいとっくに覚えてるわよねー」
「誰?」
「え」
イオは、ルリアに抱き着かれた状態でそう言い放ったに、場が凍り付く。
しかしイオはすぐに気を取り直し、笑いながら言った。
「あはは、そんな冗談言える余裕あるんだー。今は冗談言ってる場合じゃないって、あたしの事は当然のように覚えてるわよね、ねえ?」
「いやだから、誰か覚えがないんだけど……」
「ええ、何それ、あたしだけ覚えてないなんてそんなのない、あたしだけからかっても面白くないと思うんだけど!」
「……ごめん、あなたの事、何も覚えがなくて」
「そんな……、の一番の友達のあたしだけ覚えてないなんて、酷い、酷いわ」
「イオちゃん……」
イオは泣きそうな顔でを揺さぶるも、はイオに覚えがないと首を振るばかりで、イオはの言う事は本当だと分かって本当に泣いてしまった。
「グラン、これはどういうわけでしょうか……」
「僕にもよく分からない……」
ルリアは泣いた顔を隠すのにうつむいたままのイオの背中をさすりながらグランに聞くも、グランは弱ったようにそう答えるのがせいいっぱいだった。
と。
「団長さん、皆、ちゃんの記憶はこの魔術書が原因みたい」
「え?」
ロゼッタは、光っていた魔術書を開けてそれをグラン達に見せる。
「ほら。白紙のページだったのが、さっきの団長さんの台詞が浮かび上がってる。その下にご丁寧にこれの効果範囲はグラン、ビィ、ルリア、メグの四人って書いてるわ。ちゃんは多分、メグちゃんの事も思い出したんじゃないかしら?」
「はい、普通仲間のメグの事は思い出しました。今思い出したのは、団長さんとビィとルリアちゃん、メグの四人だけです」
はロゼッタにはっきりと答える。
「何だそれ。魔術書に浮かんでくる言葉で思い出す人間を制限されるって、ゲームか何かか」
ロゼッタの話に呆れるは、カタリナである。
カタリナにロゼッタはうなずき、言う。
「ゲーム……。そうね、これ、誰かが仕組んだゲームかもしれない。その予想のうちなんだけどイオちゃん、イオちゃんもさっきの団長さんみたいに、ちゃんの心に残ってるような台詞、何かない?」
「え、団長みたいなの心に残ってるような台詞? あたし、団長みたいなカッコイイ台詞、に言った覚えないんだけど」
イオはロゼッタに言われるも、そのような台詞には覚えがなく、困った様子だった。
「短い言葉とかでもいけるかも。この団でちゃんの一番最初に友達になったの、イオちゃんじゃない。ちゃんの友達になってとか、どう?」
「それならあるわ。『、あたしの友達にならない?』」
「あ」
再び、ロゼッタの魔術書が光ったと思えばすぐに消えて、ロゼッタは慌てて中身を確認する。
「私の予想通り、イオちゃんの今の台詞が魔術書に出てきたわ。、あたしの友達にならない?――、効果範囲はイオちゃんって書いてある!」
「イオちゃん? 目の前に居るの、この団で一番の友達のイオちゃん!」
「!」
きゃあっ。イオはが自分を思い出してくれたと分かって彼女に飛びつき、ルリア以上に喜んだのだった。
「それでイオを思い出したのはいいが、私とロゼッタ、シェロカルテについてはどうだ?」
「団長さんとイオちゃん達以外は、まだ思い出せませんね……」
「ふむ、なるほど。ロゼッタの言う通りで、これでその魔術書での思い出せる人間が決まるのが、はっきりしたな。しかし、これ以上、タチの悪いゲームないぞ」
そして再びカタリナがにその確認を取れば思い出したのは本に書いてある通り、グラン、ビィ、ルリア、イオ、メグの五人だった。
「カタリナさんの言う通りで、これ以上にタチの悪いゲームありませんよ。ロゼッタさんで、その魔術書をこの艇に送ってきた人間が誰か、分かりませんか? これがさん特定のものか、あるいは、この団の皆さんか分かりませんが、悪戯や試練にしては、度が過ぎてます。これにはシェロちゃんもプンプン、ですよー」
「これの犯人捜しは、マナリア学院についてからじゃないと無理ね。その間に、私達でもちゃんの心に残る台詞か言葉がないか探した方が早いかもしれないわ」
シェロカルテはを標的にしたその魔術書の持ち主に怒り心頭であるが、ロゼッタは冷静にそう提案したのだった。
「では、私からやってみよう」
最初に手をあげたのは、カタリナだった。
「にとって私に関して心に残る台詞といえば、そうだな……、『ルリアがの星晶獣の先生になりたいならなればいいし、がルリアを星晶獣の先生にしたいというならすればいい、任せた』、これはどうだ?」
「あ、光りましたね」
シェロカルテは魔術書が光るのを確認した、同時に。
「目の前に居るのは、ルリアちゃん一番のカタリナさん!」
「うむ。私の事を思い出してくれたか、良かった。団長みたいな長い台詞だけではなくても、イオや私のように、意外と単純な言葉で思い出すもんだな」
ふふふ。一発でが自分を思い出してくれた事に安心したのと同時に、なぜか胸を張るカタリナだった。
カタリナの次は、ロゼッタの番。
「それじゃ、次は私ね。私の場合はそうね……、『ちゃん、イオちゃんと友達になってくれてありがとう』、かしら?」
「イオちゃんと契約してる星晶獣のロゼッタさん!」
おー、と、ロゼッタも一発で思い出し、ほかの仲間達から歓声があがる。
そして残るは。
「いつもと一緒のあたし達は何とか一発で合格したけど、シェロカルテの場合は大変そう」
「そうだな。シェロカルテは今までとあまり接点無いように思ったが、大丈夫か?」
イオとカタリナは自分達と違って、シェロカルテは一発で上手くいくかどうか心配だった。
「わたし、ルナールさん達が立ち上げた、おこたみの一員ですからね。さんとはそこで色々話したりしていたので、皆さんと同じく一発合格の自信ありますよぉ」
「あ、そうだった。シェロカルテはとは、ルナール達と一緒のおこたみの一員だったな。それで、どういう台詞を使う気だ?」
シェロカルテは自信たっぷりに胸を叩き、グランは興味深そうにシェロカルテに注目する。
こほん。シェロカルテは咳払いを一つして、そして。
「――『さんだけ今回は特別に売ってさしあげますよぉ、さんも団長さん達と同じく、わたしのお得意様ですからねー』、ふふ、魔術書の様子、どうです?」
「あ、光った! 今のシェロカルテの台詞が本に浮かび上がったぞ」
おお。ぱちぱちと、拍手が鳴る。同時に。
「商売人のシェロさん!」
「うふふー。わたしでも一発合格できましたよ!」
シェロカルテもまた、に一発で思い出してもらえて、得意そうだった。
「さて、残るは……」
残るは。
「おい、皆に茶をいれてきてやったぞ」
「が記憶取り戻したんでマナリア学院に行く必要なくなったとオイゲンから聞いたが、本当か」
「オイゲンとラカムだけか」
オイゲンとラカムが全員分のお茶を持って仲間が集う部屋に現れ、それを見たグランはオイゲンとラカムの二人はシェロカルテより難しいかもしれないと頭を抱えたのだった。
治療室から食堂に移動した面々は、ルリアに届いたお菓子の箱とオイゲンがいれたお茶で、ラカムとオイゲンの二人にこれまでの話を聞かせる。
「は? そのへんな白紙の魔術書のせいでの心に突き刺さるような言葉じゃないと、が俺について思い出さないってのかい。これはまた、面倒な話になってきたな」
「何だそりゃ。の記憶が戻ったと聞いたが、その本に浮かび上がった名前限定かよ」
ルリアに届いたお菓子を頬張りながらグランからその説明を聞かされたオイゲンとラカムは、ではなくその魔術書の仕業に呆れるばかりだった。
「その白紙の魔術書にある通りで、は僕達は一発で思い出してくれたけど、オイゲンとラカムはどうかなと思って」
「そうだな。オイゲンとラカムはに突き刺さるような言葉、持ってるのかよ」
グランだけではなく、ビィも心配そうに、オイゲンとラカムを見る。
「失礼な。俺はこう見えて団長達と同じようにに接してきたつもりだからな、お前達と同じく一発合格の自信あるぜ。ラカムはどうか知らんが」
「オレもお前と同じで、一発合格の自信あるわ。そこまで言うなら、オイゲンから試したらどうだ」
グランとビィに腹を立てるはオイゲンとラカムで、ラカムにうながされたオイゲンは腕を組んで考える。
「ふむ、そうだな……」
この場に集まる人間達だけではなく、当人のもオイゲンに注目する。
一分、二分、三分――、オイゲンが五分以上かけて導き出した言葉は。
「『、いい時にでも、アポロに会ってくれないか。色々こじらせてるアポロには、お前の明るさは丁度良い。お前ならアポロだけではなくて、オーキスやオキニスとも気があうだろう』――これはどうだ」
「光った!」
「アポロのお父さんで皆のお父さんのオイゲンさん!」
の雰囲気で一発でオイゲンを思い出したと分かり、おお、と、仲間達から歓声があがる。
そして。
「見て、本に浮かび上がったオイゲンのその台詞の下にオイゲンだけじゃなくてアポロニア、オーキス、オキニスの名前もあるわ。ちゃん!」
「はい、オイゲンさんだけじゃなくて、アポロ、オーキスちゃん、オキニスちゃんの事も思い出しました!」
魔術書には指定範囲の名前にオイゲンだけではなく、アポロ、オーキス、オキニスの名前もあり興奮した様子で聞けば、もオイゲン以外にアポロとオーキスとオキニスの三人も思い出したと報告があった。
の報告を聞いてイオは気が付いた事があった。それは。
「ねえロゼッタ、その白紙の魔術書、団長の時といい、オイゲンといい、短い台詞は一人限定だけど、長い台詞の時はその場に居合わせた人間か、そこに出てきた名前の人間もの思い出せる範囲に含まれるんじゃないの?」
「ええ、どうやらそれっぽいわ。この場に居なくても、台詞の内容で思い出せる人物の指定範囲ができるってわけね。この白紙の魔術書、よくできてるわね~、これの持ち主、ますます知りたくなったわ」
ロゼッタはイオにうなずくと同時に、魔術書の出来に感心を寄せる。
「ふふ、どうよ。俺も一発合格、しかも、アポロ、オーキス、オキニスの三人も思い出させたぞ。さて、ラカムはどうかね?」
「ぐぐ、オレも一発合格でいってやるし、ほかの仲間も道連れにできるような団長みたいなカッコイイ台詞でに思い出させてやるよ、見てろよ」
オイゲンに自慢そうに言われたラカムは、彼と同じよう腕を組み、考える。
一分、二分、五分、十分――。
「あ、オイゲンがいれてくれたお茶がカラになったな。今度は僕が皆にお茶を入れてくるよ」
そう言ってグランが席を立とうとした時、だった。
「――、武器も魔法も扱えずともお前はもうオレ達の仲間だ! これでどうだ」
ラカムが十分以上考えて導き出した答えがそれであるが、しかし。
「あれ、魔術書、光りませんねえ」
「ラカムのそれには無反応で魔術書にもその言葉が浮かび上がってきてないわ。ちゃん?」
シェロカルテとロゼッタが魔術書を確認すれば光らず無反応で言葉も浮かばず、最終手段でに確認を取る。
は首を横に振って、それに応じる。
「この人については、全然思い出せませんね」
「マジかよ。オレがそれ言った時にお前、嬉しそうだったじゃねえか!」
「そう言われても目の前のおじさんが誰かよく……」
「お、おじさん……」
に「おじさん」と言われてラカムは、ショックを受けて青ざめる。
「ラカム、それ以外の言葉での心に残るようなもの、何か思いつかないか?」
「それ以外の言葉での心に残るものなぁ……。……。……」
カタリナに言われるもラカムでは全然思いつかず、お手上げ状態だった。
「皆で、ラカムの台詞を考えようか」
「だな。さすがにオイラもラカムが可哀想になってきたわ」
グラン達はそのラカムが気の毒になったのか、仲間達でが突き刺さるような言葉を考える。
長考。一時間後。
「は皆の役に立ってる、空の旅はお前次第だ、お前に艇を操縦させてやろうか、お前は団長が留守の間もよくやってるよ、何か必要なものはないかオレがお前に届けてやるよ、爆発処理はオレに任せな、オレの操縦で怖い思いしたのかそれは悪かった、くそ、何でどれも反応しねえんだよ!!」
「ラカム……」
ガンッ。ラカムは皆が考えてくれた台詞はどれも無反応で、その苛立ちを隠せず、自分の座る椅子にやつあたりしてしまった。
「ね、ねえ、今日はもう遅いから、明日の朝になってほかの団員達が来てくれた時に皆と一緒に考えれば、ラカムの事も思い出してくれるんじゃない?」
「そうだな。今日はもう諦めて、明日にするか……。ルリアも眠たそうだし。皆、もう休むといい」
ラカムを気遣うようイオに言われたグランは、自分の隣で眠たそうにしているルリアを思い、今回はこれで終わりだと全員に告げる。
グランの指示を受けてそれぞれ、席を離れる。
その間。
「シェロカルテはどうする、今夜は艇に泊まっていくかい?」
「いえ。まだ配達があるのでこれで失礼させてもらいます。あ、それから、さんの白紙の魔術書についてもほかの団員さん達にお話ししておきますし、独自で調べさせてもらいますよー」
「そうか、それはこちらも助かる。何かあれば団まで連絡してくれ」
「了解ですー。団長さんの方でも白紙の魔術書について何か分かれば、シェロちゃんまで連絡ください~。ではー」
シェロカルテはグランに手を振って、艇を離れようとした時、だった。
「ああくそ、何でオレだけ明日に持ち越しなんだ。イライラがおさまらんし、これじゃ寝付けん。、オレにいつもの超甘いコーヒー頼む!」
「だからラカム、今のちゃんは本調子じゃないから注文は控えた方が――あら、魔術書が光ってるわ!」
「え、本当に?」
「嘘だろ?」
部屋を出て行こうとした全員が、急に光ったロゼッタの魔術書に注目する。
「『、オレにいつもの超甘いコーヒー頼む』――ラカムってあるわ。ちゃん?」
「目の前に居るのは、この艇の艇長のラカムさん!」
「おいおい、何だそりゃ。オレに関しては、今の単純なので良くて、オレはそこまで単純な人間だと思われてたのかよ!」
ラカムはがコーヒーの注文で自分を思い出してくれたのは良かったが、自分だけ単純な台詞で顔を引きつらせる、が。
「今の、私の中ではそう単純なものではないですよ」
「え?」
「私がこの艇に乗ってきた頃、団長さん達と違って最後まで私に素気無かったラカムさんが、艇で手伝いを続けてきた私を認めてくれたのかちゃんと『いつもの超甘いコーヒー頼む』って、注文してくれたんです。多分、その時の感動が今の単純な台詞に含まれてるんですよ」
「……そうか。それなら今の単純な言葉がお前に突き刺さったのは、オレにも分かるぜ」
からそのわけを聞いたラカムは今までの苛立ちはすっかりおさまって、椅子に深く座り直した。
そして。
「ラカムさんには寝る前に、注文通りにいつもの超甘いコーヒーいれてきますよ。どうします?」
「頼む。オレにとってもお前のコーヒーは、今ではなくてはならないものになったからな」
お任せください! と、はいつもの明るさを取り戻したよう浮かれ気分で、今は主が不在のファスティバのバーへ向かった。
ほかの仲間達――カタリナ、ルリア、イオ、オイゲンの四人もこれには安心して、集まる部屋を出てそれぞれ自分の部屋へ向かう。
「は最後の最後でラカムも思い出してくれたか、本当に良かった」
「これで団の仲間全員か。順調だな。の記憶喪失は、マナリア学院で魔術書を燃やさなくても、ほかの団員達もこの調子で思い出していけば何とかなるんじゃないか」
グランはとラカムのやり取りを見て安心した様子で、ビィもこれならそこまで魔術書を危険視する必要はないかと楽観的だったが、しかし。
「ビィ、まだ厄介な仲間が残ってるわ。そこ安心しないで、マナリア学院でこの白紙の魔術書をどうにか処分できる方法を考えた方がいいと思うわよ」
「そうだな。僕達以上に厄介な仲間達がまだ残ってるから、彼らとどうにかなる前に、マナリア学院で白紙の魔術書をどうにかできないか頼んだ方がいいかもしれないね」
ほかの仲間達に聞こえないようグランとビィに小声でそうささやくのはロゼッタで、グランもロゼッタにうなずき慎重な態度で彼女の持っている白紙の魔術書に注目する。
「何だよ、オイラ達以外に厄介な団員って。でオイラ達以外に重要な仲間が――あ」
ビィは最初はグランとロゼッタのいう「厄介な仲間」が分からなかったが、自分で言って、最後、それに気が付いて青ざめる。
「うん。ビィの思ってるようにユーステス、それから、イルザを中心とした組織の仲間達には、記憶喪失のについてどう説明するべきか、今から頭が痛いよ」
グランは、それに気が付いたビィにそう肩を竦めて苦笑するだけで終わったという。