空からの手紙(03)

 翌朝。

 グラン達の中で白紙の魔術書は危険物であると判断されどうにかして処分しなければいけないと決まり、結局はマナリア学院に向かわなければいけないという事で、マナリア学院を目指す事になった――その道中。

「シェロカルテからちゃんがへんな魔術書のせいで記憶喪失だって聞いて、心配して来ちゃったー」
さん、大丈夫ですか?」

 ファスティバとジャミル。

「シェロカルテからちゃんがおかしな魔術書のせいで記憶喪失になったって聞いたんッスけど、大丈夫ッスか?」
「特に用はなかったけど、ちゃんが心配で来たぜ!」
ちゃんでマナリア学院に向かうなら、俺達も役に立つかも!」

 ローアイン、トモイ、エルセムの三人も特に用事はなかったがシェロカルテから話を聞いてを心配して、艇まで駆けつけてくれたのだった。

 グランからの記憶喪失の原因である白紙の魔術書についてその説明を聞かされたファスティバ達は、グラン達から離れて作戦会議を行った後、「一番、俺からいくっスよ。この俺であるなら、ちゃんに一発で思い出してもらう自信あるっスからね!」と、ローアインが張り切って一番に手をあげ、「あら、アタシも一発合格の自信あるわよー。どれだけちゃんと一緒に居ると思ってるの」と二番目にファスティバ、「俺はさんとは日が浅いですけど多分これでいけるんじゃないかってファスティバさんから助言もらったのでそれ試していいですか」と三番にジャミル、「俺もそこそこ自信あるぜ」と四番目にトモイ、「俺は最後でいいか……」と五人の中では少し自信なさそうなエルセムの順番で、の心に突き刺すような台詞を言い合ったのだった。

 結果。

「ええと、食堂でいつも一緒だったファスティバさんと後輩のジャミル君、カタリナさん命のローアインさんにユグドラシル命のエルセムさん、トモイさんは私の知らない帝国軍人の女の人が気になってるってとこまでは知ってます!」

 おお。は五人全員を思い出し、ローアイン当人達だけではなく、グラン達からも歓声と拍手があがる。

 は皆の中心で照れ臭そうに笑う。

 そのに呆れるは、ジャミルであった。

「全員一発合格、しかも、ファスティバさんの『この料理、さんに任せてもいいかしら』以外、ローアインさん達は三人揃って自己紹介の時の『これから、よろしく』って単純な言葉とは……」

「ジャミルはアタシが予想した通りに『さん、これから先、後輩としてよろしくお願いします』だもんねえ。でも、武器も魔法も扱えないちゃんにとって、アタシ達からそう言って受け入れてもらえたのがよほど嬉しかったんじゃないかしらねー」

「はい、さんのその気持ちは、俺も分かる気がしますね。それに俺も含めて全員さんに合格だったのは、ほっとしました」

 それに安心したジャミルはファスティバと笑いあい、それからは「ファスティバさん達の事を全部思い出したので本日から皆さんと食堂の手伝い、復帰させてもらいます!」と張り切った様子で、ファスティバ達と食堂の手伝いに復帰したのだった。


 そして、ついに。

「――シェロカルテからが大変な目にあっていると聞いたが、本当か!」

 ざっと。

 昼近くになって現れたのは――。

「意外と早かったな、イルザにバザラガ達」

 イルザを中心に、バザラガ、ゼタ、ベアトリクス、グウィン、アイザックにカシウス――そして。

 グランはその中でもある人物を見上げて、挑戦的に言った。

「――まだと冷戦中だと聞いていたから君まで来るとは思わなかったよ、ユーステス」

「――今回ばかりは来ないわけにはいかないだろう、団長。それに俺もくらいでそこまで器の小さい男とみられては、心外だ」

 彼――ユーステスもまたグランを挑戦的に見下ろし、ばちばちと両者の間の火花が散るのを見たルリアは「はわわ、はわわ」と二人の間でおろおろするばかりで、イルザを含めたほかの面々もそこから一歩引いて遠巻きに見守るしかなかったという――。



「ふむ、なるほど。は差出人不明の白紙の魔術書のせいで記憶喪失になり、の心に残るような台詞でなければ自分達についても思い出してくれない、ときたか」

 グランとロゼッタを中心に白紙の魔術書についてとの現状の説明を聞いたイルザは、それを信じるよう、腕を組んで考え込む。

 そのそばでは。

「うわー、、本当に全部あたし達の事、忘れちゃってるのか。誰だ、そのへんな魔術書に送り付けた奴は! 団長、もしそれの犯人が見つかったら、あたしに連絡くれよ。そいつ、あたしの手で拷問してやらなきゃ気がすまない」

「なんだよそのおかしな魔術書、私のエムブラスクで燃やしていいか。エムブラスクも燃やす気マンマンだぜ。え、マナリアでの犯人捜しのためにまだ燃やさない方がいい? くそ、ゼタの拷問はまだなまぬるいからな、犯人見つけたらエムブラスクでボコボコにしてやる!」

「これ以上にキツイ話、ないっスよ……。私も犯人見つけたらベア先輩と同じく、ボコボコにしてやりたい気分です!」

 ゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人はが本当に自分達の事を忘れていると分かって、にその白紙の魔術書を送り付けた犯人捜しに躍起になる。

「ふむ。の様子とその魔術書を見るに、相当の腕の魔術師とみたが。候補としては錬金術師のカリオストロ、魔術師のマギサ、アルルメイヤ、レイ、個人以外では十二神将や天司、星晶獣あたりだがしかし、彼らがを使ってこのような実験をするとは思えん。ううむ、どういうわけか……」

 バザラガは独自に犯人の予想を立てるもしかし、どれもしっくりこずに首をひねるだけで終わる。

「その白紙の魔術書については、僕も興味あるな。僕はグウィンのように魔術は得意ではないが、科学的に別の視点でそれの謎を解き明かしたいと思った。ロゼッタの魔術と僕の科学を融合すれば、意外とあっさり犯人が見つかるかもしれない。君達が今からマナリア学院に行くなら、僕も一緒に同行したいんだが、どうだろう。やった、それじゃ僕もロゼッタについていくよ」

 アイザックは科学者として白紙の魔術書の方に興味を持ち、今からマナリア学院に向かうというグラン達に同行するのが決まった。

「団長、腹減った。いつものラーメン作ってくれ。の記憶喪失について? ああ、私は別ににはそこまで興味が無い、とだけ。何? の記憶が思い出さないと食堂が機能しないし、それのせいで私の好物のラーメンもいつものようにすぐに出て来ない? ふむ、そういうわけなら、に協力しよう」

 カシウスは最初はの記憶喪失については興味無さそうだったが、彼女が居なければ艇の食堂が回らないと聞いて、くるりと手のひらを返したのだった。

 そして。

 肝心のユーステスといえば――。

「……」

 の記憶喪失が判明しても腕を組んで黙ったままで、何も言う事が無かったという。


「よし、それじゃあさっそく、私達も団長達にならっての記憶を思い出させるような彼女の心に残っている台詞、言ってやろうじゃないか。何、私達はとは団長達より付き合い長いからな、全員一発合格でいけるだろう」

 イルザ達は白紙の魔術書の犯人捜しの前に、ファスティバ達と同じくに自分達を思い出させるような彼女の心に残る台詞を言い合う事になった。

 結果。

「無鉄砲のゼタに野生児のベアトリクス、組織で一番の友達のグウィン、いつも格好良くて姉的存在のイルザさんにその兵士さん達、強面だけど意外と優しいバザラガ、同じ技術部でグウィンのお兄さんのアイザックさんに月の民の末裔の一人でラーメン好きのカシウス!」

 「っしゃ、一発合格! あたしとの関係を甘く見るなよ!」「ひひ、私も一発合格だぜ」「当然っスよねー」、ゼタ、ベアトリクス、グウィンの三人は考える事もなく当然の一発合格で胸を張り、「ふふ、私の『はもう私の家族の一人だ』という言葉で、私だけではなく私の部下達も思い出させる事に成功したぞ」、イルザは自分だけではなく自分の兵士達までに思い出させる事に成功して得意げになって、「最初はイルザ達と違って思いつかず少し焦ったがローアイン達のような単純な自己紹介で思い出してくれて良かったとは思う」、「はは、グウィンと違って冷や冷やしたけど僕も僕と技術部を一発で思い出してくれて良かったよ」、バザラガとアイザックの二人は内心では一発合格は無理だと焦ったが実際は一発合格でほっとして、「ラーメンのためなら仕方ない、団長、私の言葉を考えてくれ。ふむ、そんな単純な言葉でいけるか? 『美味いラーメン頼む』、自分もラカム式でいけたのは良かった」、カシウスは団長のグランに考えてもらったラカム式の台詞を言ってなんとか合格できたのだった。

 そして。

 グランは最後まで沈黙を貫いているユーステスを見上げる。

「肝心のユーステス、君は、にどんな言葉を使う気だい?」

「あ、それ、あたしも興味あるわ。俺の彼女になれとか、お前はもう俺の女とかかな!」
「ふふ、黙ってを抱き締めるだけで思い出すのもありではないでしょうか!」

 きゃー。イオとルリアの二人は、ユーステスの言葉を勝手に想像して花を散らすよう、盛り上がる。

「……」

 ユーステスはしかし、中々答えない。その間。

「ええ、このエルーンの男の人が私の恋人だったんですか? ははは、それこそ冗談でしょう」

「冗談じゃないって。は、ユーステスを追いかけてうちの組織まで来たんだぞ。あたしはそののユーステスに対する情熱、一年経っても冷めないのは凄いと思ってたんだけど」
「そうそう。ユーステスが居なかったら私達もと一緒になってないし、私もユーステスで頑張るを見るのは好きだったんだ」

、肝心のユーステスさんの事も忘れちゃったのかよ。それじゃあは、自分が今までユーステスさんのために頑張ってた事も忘れてるのか……」

 はゼタとベアトリクスに自分と目の前に居るエルーンの男――ユーステスと恋人関係であると説明されてもそれが信じられずに一歩引いていて、グウィンは今までのの努力は全てユーステスによるものであると分かっているのでそれが無くなってしまった彼女を気の毒そうに見詰める。

 イルザもの様子を見て、問いかける。

「何では、ユーステスが自分の男であると、信じられないんだ?」

「いやだって、武器も魔法も扱えない普通のヒューマンの私なんかが、こんな強そうないかにも戦闘狂なエルーンの男の人と付き合えるわけないじゃないですか」
「普通はそうだが、は武器も魔法も扱えずとも、ユーステスのために今まで私達の組織で頑張っていてくれていたし、ユーステスもそのに引っ張られるよう付き合っていたんだ。その努力は、私も、此処に居る組織の人間達も高く評価している。そうだ、それよりも以前にが私達を思い出したというなら、はどうして私の組織にの名前が登録されているのかその理由を思い出していないのか?」

「私がイルザさんの組織に居るの、グランサイファーの団長さんに言われて星晶獣の勉強のためと思ってましたけど……」

「何、そうだったのか?」

 改めて記憶を思い出したのに自分の組織に居る理由をいまひとつ理解していないに聞いたイルザは、慌ててグランの方を振り返る。

 グランは言う。

「僕は今まで――今日になってイルザ達が来るまで、記憶喪失のに組織に居る理由は聞いていなかった。僕もはイルザ達と同じく、ユーステスのために組織に居られるよう星晶獣の勉強を頑張ってると見ていたんだけど。ルリアも僕と同じだよな?」

「はい。私もはユーステスさんのために星晶獣の勉強を頑張ってると聞いていましたよ。は武器も魔法も扱えなくても、星晶獣の知識があればユーステスさんの役に立つとも話していました」

 グランはのそれを否定し、ルリアもそうだとしっかりうなずいてみせた。

「えー。私がイルザさんの組織で星晶獣の勉強をしていたの、グランサイファーの団長さんのためと思ってましたけど……。それが目の前のユーステスさんのためとは、まだ信じられません」

「おい、ひょっとして白紙の魔術書のせいでは、うちの団とイルザの組織の間での記憶が改ざんされてるのか?」
「……ええ、そうみたいね。白紙の魔術書がちゃんにこれほど影響を与えるものとは思わなかったわ。これ、早いうちに処分した方が良いわね」

 ひそひそ。の様子を見てそれに気が付いたのはオイゲンで、ロゼッタも白紙の魔術書の扱いに慎重になる。

「ユーステスさん、か。は本当にユーステスの事、何も覚えていないのね……」
「白紙の魔術書のせいとはいえ、二人の関係が壊れているのを見るのは私も堪えるな……」

「オレもイオとカタリナと同じ気分だ。その白紙の魔術書のせいでここまで酷い話になるとは思わなかったぜ」

 は白紙の魔術書のせいでユーステスの呼び方も「さん」づけで余所他所しくなっているのにイオは気が付き、イオだけではなく、カタリナ、そして、ラカムも気落ちした様子だった。

「しかし、団長達がそう悲観する事もない。ユーステスも俺達と同じくの心に残るような言葉を見付ければ、白紙の魔術書とやらをどうにかしなくても、今まで通りの関係に戻れるんじゃないか」
「そうそう。ユーステスもが覚えてるような言葉、さっさと言っちゃえよ。そうすれば今までの関係に元通りだよ」

 バザラガとアイザックは本人というよりは、二人の壊れた関係に悲しい気持ちになる周りの人間達が沈むのを見てやりきれなくなって、未だにその言葉を使わないユーステスの背中を押す。

 しかし。

「――その必要は無い」

「え、その必要は無いって、今のがユーステスの兄ちゃんのへの言葉か? ロゼッタ、それで白紙の魔術書の内容に変更あったか?」
「いえ、白紙の魔術書には何の反応も無くて、白紙のページにも変化無いわね……」

 ビィは期待してロゼッタを見るも、ロゼッタはビィに違うと首を振る。

 グランはたまらず、ユーステスに詰め寄る。

「ユーステス、その必要は無いって、どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。俺はとの関係を元に戻す必要は感じられないと思った、それだけだ」
「は? と元の関係に戻る気無いって、白紙の魔術書に自分の言葉をのせる気も無いってわけか?」
「その通りだ。俺はとは、今ままでの関係――恋人に戻る気はない。白紙の魔術書――これをきっかけに、その関係を改めたいとも思った」

「な――」

 ユーステスのこれにはグラン達だけではなく、組織のイルザ達も騒然となる。

 ユーステスは場の空気に構わず、自分の主張を続ける。

「そもそも、武器も魔法も扱えない何もできないヒューマンのが、エルーンの俺についていくというのが、おかしな話だった。団長達の協力があったとはいえ、よく一年も持ったなと自分でも信じられないでいるくらいだ」

 ここでグランだけではなく、イルザもユーステスに詰め寄る。

「貴様、仕事でと喧嘩してる最中だったな、これでそこから逃げようとしているのか?」

「逃げるとは違う、お互いのためだ」

「お互いのため?」

「喧嘩中ではなくてももこれで俺について忘れられるというなら、お互い、その方が良いんじゃないかと思った。俺は今まで、何もできないに負担をかけ過ぎたように思ったせいもある。今回の件も、が武器や魔法が扱えればそこまで問題にならなかったし、俺の女絡みの仕事も理解できただろう」

「……」

「イルザ、お前も何もできないに無茶をさせてきた自覚、あるんじゃないのか? お前はに星晶獣の勉強を続けていれば自分の部下の一人になれると説いてきたがしかし、は一年経ってもお前の部下にはなれずに技術部で止まっているじゃないか」

「それはそうだが、しかし……」

「戦場ではなくても、組織の現場で使えるような人間でなければ、俺の相手は無理な話だった。何もできないも戦場でしか生きられない俺と離れて、新しい人生を歩めばいい。これがにとっても、お前の組織にとっても、いい機会だと思うが?」

「……」

 イルザはとうとう、ユーステスに反論できなくなった。

 ここでグランが一歩、前に出る。

「これがいい機会って、ユーステスはこれに乗じてと別れる気か」
「ああ。そのつもりだ」
「……君と別れたはどうする気だ」
は、この団で預かったままでいいんじゃないか。ああ、団長も今まで俺でを預かってくれていたが、俺から離れた何もできないが扱いづらいというなら実家の孤児院に戻すか、組織の方でにあう新しい職場を見つけていい――ッ?!」

 一振り。グランのたった一振りだけで、ユーステスは一歩、そこから飛びのいた。

 グランのそれは、ビィとルリアだけではなく、イルザ達も止められないほどの気迫だった。

 グランは剣を構えた状態でユーステスを睨みつけ、言った。

「――僕は今、本気でユーステスを叩きのめしたい気分だよ」
「……、ようやく本性をあらわしたか、団長」

 ユーステスも銃を構えグランを見据え、彼と相対する。

 グランとユーステスの睨み合いで、団と組織の間で緊張感が走る。

 と。

「ち、ちょっと待って!」


 慌ててグランとユーステスの間に入ってきたのは、当事者のだった。

 そしてはユーステスではなく、グランと向き合う。

「団長さん、落ち着いてください。こんな人のために自分を犠牲にする事、ないと思います!」
「こんな人って……、はユーステスの事を思い出したのかい?」
「いえ。この人の事は、全然思い出せません。でも、今までのやり取りで色々酷い人であるというのは分かりました!」
「酷い人って」
「そうでしょう。この人が私の恋人だったか何か知りませんけど、私を何もできない女、何もできない女って言い過ぎじゃないですか。私、武器も魔法も扱えずともそこまで何もできない女じゃないですよ、ね、ね?」
「……そうだな。はユーステスが思うほど、何もできない女じゃないと思うよ」

 グランはの必死の主張に記憶が無くても今までの彼女と変わらないと気が付いて気が抜けるのと同時に笑って、剣の構えを解除する。

 グランが剣の構えを解除したのを確認してからは今度は、ユーステスと向き合う。

「そっちの人もね、私をそこまで何もできない女というなら、あなたは何でこの何もできない私と付き合ってたの?」
「それは……」
「それ答えられないなら、私の前ではその物騒なものしまった方が良いと思うよ!」
「……」

 ユーステスはのそれに反論できず、代わりに溜息を一つ吐いて、銃の構えをを解除したのだった。

 そして。

 は自分の腰に両手をあて、ユーステスに向けて言った。

「何もできない女の私がどうしていかにも戦闘狂のあなたと付き合ってたのか分からないけど、でも私もあなたにそこまで言われるままに新しい職場か実家の孤児院に引き下がるのはなんか嫌だと思ったし、あなたに関する記憶を取り戻してなくて恋人関係じゃないのに一方的に別れを切り出されるのも違うと思ったんだけど」
「しかし、何もできないお前が、俺抜きでこの団に居られるのか?」
「いやだから、その何もできない女っていうの訂正してちょうだいよ」
「お前が武器も魔法も扱えない、何もできない女であるのは事実だろう」
「むむ、それはそうだけどでも、聞けば私は一年もこの空では誰でも知ってる有名な騎空団、グランサイファーに在籍してたっていうじゃない。武器も魔法も扱えずとも何かでこの団に役に立ってたと思うんだけど。あなたもそれ知ってるんじゃない?」
「……」

 ユーステスはの鋭い指摘に答えられない。何も。

 はユーステスに構わず、続ける。

「ねえ、白紙の魔術書使って賭けするのどう?」
「白紙の魔術書使って賭け?」

「ロゼッタさんの持ってる白紙の魔術書、相手が私の心に残ってる言葉を言えば私の記憶を取り戻してくれるんだよね。あなたに何もできないと思われてる私がこの団で役に立つ人間だと証明されれば、あなたは私があなたを思い出すような言葉使って私と恋人関係に戻るっての、どう? その状態であなたが私に別れを切り出すなら、私も納得すると思う」
「……」

 ふん。腰に手をあて強気に出ると、彼女の話を聞いて腕を組んで考えるユーステスと。

 そして。

「……いいだろう、その賭けに乗ってやる。俺もお前が俺に関する記憶が無い状態で一方的に別れを切り出すのは、違うと思った。それで、賭けの内容――お前がこの団で役に立つという証明、どうやってするつもりだ?」
「それは、団長さん達か組織のイルザさん達の証言を参考にすれば良いんじゃない?」
「団長達からの証言は、お前の有利になってしまうのが明らかだろう。イルザの組織の人間達も俺ではなく側に立ってるのが分かるからな、これでは俺の方が不利で賭けにならないと思うが」
「それもそうか。それじゃどうやって私が団の役に立ってると認めさせれば、納得してくれるの?」

「そうだな。ロゼッタ、いいか」

「は、はい? 何かしら」

 ここでユーステスに水を向けられると思わなかったロゼッタは、慌てて応じる。

 ユーステスはロゼッタの持つ白紙の魔術書に注目する。

「その白紙の魔術書でが思い出した人数、今までで合計すると何人だ?」

「ええと……、団長さん達のほか、ファスティバにジャミル、ローアイン達、シェロカルテにメグちゃん、さっきのイルザの組織の人間達――あわせて二十二人ね」

「二十二か。このグランサイファーに登録してある人間はそれ以上――確か、二百人は超えてると思ったが」

「そうね。今現在、団長さんの名簿には、二百人以上の登録者で埋められてるわ」

「二百人以上か。改めてこの騎空団は、ほかより規模が大きいのを実感する」

 ロゼッタの話を聞いてからユーステスは、改めてと向き合う。

、自分がこの団の役に立っているというならその証明に、白紙の魔術書を使えばいい」
「それの証明に白紙の魔術書を使うってまさか、二百人以上居る団員全員、私が思い出せるようにしろと? それいくらなんでも武器も魔法も扱えない私じゃ無理でしょ!」
「ああ、武器も魔法も扱えないお前が二百人以上居る団員全員を思い出すのは無理だとは俺でも分かる。団員の中には、この空域に存在しない星晶獣や天司も居るからな。それの半分……、星晶獣と天司達を除いた人間限定の百人以上はどうだ?」
「星晶獣と天司さん達を除いた人間限定の百人以上ならいけるかも!」

 は、星晶獣と天司を除いた百人であるならいけるかもしれないと手ごたえを感じたその時、ユーステスから物言いがきた。

「ああ、そうだ、それから、団長達とシェロカルテとメグとローアインとファスティバ達、イルザの組織の人間の数――今まで登録してもらった二十二人も、その百人のうちから除外しろ」
「ええ、団長さん達を除いた百人? そこまでする?」

 は最初、今まで登録してくれた二十二人を省いたうえでの百人は無理だと思った。

 ユーステスはそのわけをに話した。

「団長達にシェロカルテにメグにローアインにファスティバ達、イルザの組織の人間達はもとからお前の事を買っているから、それで数が稼げては意味が無いだろう」
「ああ、そういうわけね。それなら団長さん達とシェロさんとメグとファスティバさん達、イルザさん達を省けというのは分かる気がする」

 はユーステスから今までの二十二人を省く理由を聞かされ、一応は納得した。

「分かった。賭けでは、団長さん達とイルザさん達、それから、星晶獣と天司さん達を除外した百人以上で良いと思う」

「決まりだ。、この数日の間にお前が人間限定の百人以上の団員達の事を思い出す事ができれば、それだけでお前がこの団の役に立っているという証明になるだろう」

「それじゃあ……」

「それが達成できれば俺もお前と恋人関係に戻っていいし、お前がその時点で俺と別れてもいいと思えば別れていいし、今の何もできない女というのも撤回してやろう」

「その言葉、忘れないでよ! 私は自分でも白紙の魔術書を使えば団長さん達以外でも百人以上思い出せる自信あるから、そうなった時、あなたに今まで何もできない女だって言われたの撤回してもらうからね、覚悟して!」

「お手並み拝見、だな。それまでせいぜい、この団で頑張るといいさ」

 興奮状態のを軽くあしらうのは、それに慣れたユーステスだった。

「俺は、仕事に戻る。がそれの達成ができた時、連絡くれ。それじゃあ」

 話が決まればユーステスはさっさと艇から降りて、どこかへ行ってしまった。


 二人のやり取りが終わった後。

、ユーステスから元の関係に戻るように迫られたの凄いし、あいつ相手によくやったじゃん。やっぱと居ると退屈しねえな! がうちの組織から離れないよう、ユーステスの賭けにあたしも協力してやんよ!」

「うんうん。と一緒じゃないと、あそこまで弱ったユーステスの顔見られないし、これ以上に面白い話もないわ。とユーステスの関係が戻れば今までみたいにあいつのそれ以上に弱った顔が見られるし、それでこの賭けにが勝つ方が面白いからな、私もに協力する一択しかないよな!」

 ゼタとベアトリクスはの奮闘を見て彼女の背中をバンバン叩いてそれを称え、

「私も今までのの努力が報われるよう、その賭けに協力するよ。何かあれば、私に何でも言ってくれよ」

 グウィンもとユーステスの関係が戻るよう、張り切る。

「うむ、ユーステスに関する記憶が無いにも関わらず、初めて出会った時と変わらずあそこまであいつに言い返せるとは、さすが、私が認めた女だ! ここまできたら、白紙の魔術書に星晶獣と天司達を除いた人間限定で百人以上達成できるよう、私もに協力するぞ!」

「俺も、ユーステスとの勝負の結果が楽しみだな(ユーステスはがイルザ達を味方につけられた時点ですでに負けてるようだが、ここはどちらにもつかず黙ってるのが一番だな……)」

 イルザもゼタ達と同じくユーステスに言い返したを称え彼女に協力する気で、バザラガは口ではどちらにもつかないが内心ではイルザ達を味方につけたの方が有利であるとみている。

「いやはや。あれが武器も魔法も扱えずとも組織に居られたの強さか。これには僕も参ったね、この調子だと人間限定で百人以上というのも、あっさり達成しそうだ。ユーステスはに早いうちに降参した方が良いんじゃないかな」

「腹減った、ラーメン食べたい。団長かでラーメン作ってくれ」

 アイザックはユーステスはすでにに負けていると確信を持つも、カシウスの方はその賭けに興味を持たず腹をさすりながらグランとにそう訴える。


「グラン、面白い事になってきたじゃねえか。オイラ達もあいつらに負けずとが百人達成できるよう、に協力してやろうぜ」

「そうだね。僕もそのつもりだけどそれよりも前にマナリア学院に立ち寄ってに白紙の魔術書を送ってきた相手の特定をしなくてはいけないし、もうすぐお昼だからカシウスの注文通り、皆でラーメンでも食べてからそれの作戦を練ろう」

 ビィはの周りに集まってユーステスとの賭けで盛り上がる組織の面々を羨ましそうに見詰めながらグランに言って、グランもビィに応じるもそれよりも前にカシウスの要求で昼ご飯にラーメンが食べたい気分だった。