二日後。
朝。
「「――色々迷惑かけてすみませんでした」」
とユーステスは二人揃って、カタリナ達だけではなくて連絡を受けてイルザを中心とした組織の仲間がぞくぞくと集まる中、団長のグランに向けて深々と頭を下げたのだった。
「うん。僕もがユーステスとの記憶を取り戻しただけじゃなくて、以前のような恋人関係に戻ったのは良かったと思う。、ユーステス相手によくやったね」
「団長さん……」
グランは頭を下げるに向かっていつもの優しい笑みを浮かべていて、はそのグランに感謝しかない。
ここでイオはルリアと一緒にを挟み、好奇心だけでそれを聞いた。
「ねえねえ、はユーステスになんて言われてユーステスの記憶が戻ったの?」
「あ、それは私も知りたいですね。は、ユーステスさんに何て言われて記憶が戻ったんですか?」
「ええとそれは――」
「――」
「二人だけの秘密、で」
がイオとルリアにそれを教えようとした所、ユーステスが間に入り睨まれ、それができなかった。
イオはルリアと一緒に、に追及する。
「えー、何それ、あたし達にも教えてくれても良いじゃないの。団長とファスティバ達だけじゃなくて、あたしとルリアだって倒れたをとても心配してたんだから!」
「そうですよ。私もイオちゃんもとユーステスさんとの関係、とても心配してたんですからね、それくらいこっそり教えてくれても良いんじゃないですか」
「私も教えたいには教えたいけど、大人向けとしか……」
「大人向け? 何それどういう意味?」
「何ですかね?」
頭をかいて照れ臭そうに言うと、それの意味が分からずお互いに首を傾げるイオとルリアだった。
と。
「なあ、白紙の魔術書でユーステスの兄ちゃんの項目を確認すれば良いんじゃないか?」
「あ、ビィ、頭良いじゃない!」
「その手がありましたね。ロゼッタさん、の白紙の魔術書見せてください!」
ビィの提案を聞いてイオとルリアはさっそく、白紙の魔術書を持っているロゼッタに注目する。
「それが……」
ロゼッタは困った様子で、イオとルリアに手元にある白紙の魔術書を見せた。
「実は、ちゃんの白紙の魔術書、全部燃えちゃったのよ」
ロゼッタの手にあったのは、白紙の魔術書の一部の燃えた残骸だけだった。
「ええ? それ、とユーステスの関係が戻ったからそれに安心して、あたし達に無断でロゼッタが燃やしたの?」
「いえ。今から二日前――丁度、ちゃんとユーステスの関係が戻った時だったかしら、魔術書が光った、ユーステスの登録が上手くいったのね、彼はちゃんにどんな言葉使ったのかしら~と、私も浮かれ気分でこれ見たら、急に燃えちゃって、気づけば表紙の一部分しか残ってない状態だったのよ。それで私もちゃんへのユーステスの言葉は、分からないままなの」
「何だ、ロゼッタさんもへのユーステスさんの言葉、気にしてたんですね。でもそれロゼッタさんが確認する前に燃えたのは、どういう意味があるんでしょうか?」
「不思議だよね」
ルリアとイオの興味は、ユーステスの言葉から、白紙の魔術書へと移る。
グランは言う。
「白紙の魔術書が燃えたのは、の記憶が完全に戻った証拠じゃないか? 、まだ白紙の魔術書に登録していなかったシエテの十天衆やマキラを除いた十二神将の人間達、思い出した?」
「はい。まだ白紙の魔術書に登録していなかったシエテさんを中心とした十天衆やマキラちゃん以外の十二神将の子達、それ以外の団員達もこの二日の間に全員、思い出しましたよ! その証拠に彼らの名前、全員言えます」
はグラン達にその証拠を見せるべく、団の名簿にある十天衆と十二神将の名前をすらすらと答えたのだった。
「おー。今度こそ本当に、いつものに戻ったんだな。良かったぜ」
「そうだな。私もビィ君と同じく、がユーステスの関係だけではなく、ほかの皆も思い出してくれたのは嬉しい」
ビィはこの時ばかりはカタリナの周りを嬉しそうに飛び回り、カタリナもビィと一緒になってが元に戻った事をお互いに喜び合う。
「これでの記憶とユーステスの関係も全部元に戻ったのは良かったが、結局、に白紙の魔術書を送り付けた犯人、誰だったんだ」
「の記憶もユーステスとの関係も全部戻ってもそこだけなんか、すっきりしねえな」
カタリナは素直に喜ぶが、オイゲンとラカムの二人は全てが元通りになっても未だに白紙の魔術書の犯人が分からない件だけが、すっきししなかった。
と。
「みなさーん、お集りですかー」
「シェロカルテ」
皆が集まる艇に現れたのは、シェロカルテである。
シェロカルテを見るなり近付くは、ユーステスである。
「シェロカルテ、あいつらの住処、見つかったのか」
「ふふふ、シェロちゃんの情報網を甘く見ないでください~。ユーステスさんと組織の皆さんの集めた情報をもとに彼らの居場所はすでに発見してあって、彼らにユーステスさんのお話を伝えれば、組織の皆さんだけではなく、此処の団長さん達と一緒に来てくださいとの事でしたよ。あ、そのメンバーに力を持たないさんは除外で良いとも話してましたね」
「そうか。それで、例の注文したアイテム揃ってるか?」
「もちろん、彼らとの戦闘に備えての組織の皆さん向けの強化用と回復アイテムも揃えてますよー。わたしも今回のさんの件に関しては、組織の皆さんに全面的に協力させてもらいます、なんなりとお申し付けください~」
「すまない、助かる」
ユーステスはシェロカルテから、いくつかの強化用と回復用のアイテムが詰まった袋を受け取る。
グランはシェロカルテとユーステスのやり取りを見てユーステスではなく、の方を振り返り彼女に聞いた。
「、ユーステスとシェロカルテの様子を見るに、君に白紙の魔術書を送り付けた犯人、分かってるのか?」
「はい。私は今まで何も知らなかったんですけど、裏でユーステスの方でそれの犯人特定できたみたいです。シェロさんもユーステスの情報をもとに彼らの居場所を特定できていて、それで、今から彼らと交渉しにいくとは聞いてます」
「その犯人と交渉するのに、ユーステス一人で行く気か?」
「いえ。ユーステスは今回ばかりは、組織のイルザさんとバザラガ、ゼタ達も連れて行くと話していました。私も彼らの正体知って、彼ら相手ではユーステス一人じゃ交渉無理だって思ったのでイルザさん達もついてきた方が安心します」
「に白紙の魔術書を送り付けた犯人、ユーステス一人だけでは交渉が無理で、組織総出でいかないといけない相手か。そうならやっぱり僕の予想通り、彼らの仕業だったか」
の話を聞いてユーステスとシェロカルテのやり取りに納得しているのは、グラン一人だった。
そのグランに詰め寄るのは、ビィである。
「なんだグラン、の白紙の魔術書の犯人、やっぱり分かってたのかよ」
「だいたいは」
「何でそれ、オイラ達に黙ってたんだよ」
「その時の僕は彼らの仕業かどうかはまだ半信半疑だったんだ。もし僕の予想が外れて彼らを間違った犯人にしてしまったら、それこそ皆が大変な目にあうからね、ここは慎重な態度を取らなくてはいけなかった」
ビィは犯人を黙っていた事にグランに不満を持つも、グランからすれば疑いを持つも彼らが犯人ではなかった場合に仲間達が大変な目にあうと分かっていて、ビィだけではなくルリア達をそれに巻き込みたくはないという思いがあったので黙っていただけである。
「それでもユーステスがから離れている間に裏で独自にその犯人を調べていたとは、僕からすれば予想外だったけどね」
「ふふ、なんだかんだ、ユーステスもちゃんを気にして、裏で彼女のために動いてたのねえ」
「……」
ビィに問われたグランは肩を竦めて笑うだけで、ロゼッタにくすくす笑いながらそれを指摘されたユーステスは、への思いを隠すようにそこから視線をそらした。
「団長、に白紙の魔術書を送り付けた犯人、誰なんだ?」
「それ分かってるなら、オレ達にも教えてくれ」
オイゲンとラカムもそれを気にして、グランに詰め寄る。
「実は……」
そしてグランは、その犯人を場に集まる仲間達に教える。
「おいおい、マジかよ。そりゃ、俺らから見ても大物じゃねえか」
「あいつらの仕業なら全部納得いくが、さすがにマナリアのジル教授も、第三の何かがあいつらだって分からないよな」
グランの告白にオイゲンとラカムだけではなく、一同、ざわつく。
「しかし、何で彼らが私達と違って力を持たないに目をつけたんだ?」
「そうそう。、あいつらに何もしてないというか、何もできないじゃねえかよ」
カタリナとビィは、どうして何もできないが彼らに目をつけられたのか、不思議そうだった。
グランは、ユーステスの方を振り返り、彼に真相を訪ねる。
「それは僕も彼らから説明を聞かないと何とも。しかし、ユーステスはよく彼らの仕業だと見抜いたね、どんな手を使ったんだ?」
「……、あの白紙の魔術書を作るにはカリオストロやマギサのような腕の立つ魔術師でも不可能であると最初の段階で分かったからな、それなら、バザラガの予想通りに星晶獣をあたってみて、次にカシウスの関わる月の民の末裔達、次に天司――、色々な可能性をあさりそれを一つずつ潰していって、最終的にあいつらにたどり着いたわけだ」
「そう。だけど星晶獣や月の民の末裔達はまだしも、天司達にたどり着くまでに君も色々酷い目にあってるんじゃないのかい? おまけに彼らと話をするにはユーステス単独では、不可能と思うけれど」
「今回ばかりは俺一人ではなく、シェロカルテ、そして、イルザを介して十天衆の奴らにも協力してもらった。十天衆の人間達はシェロカルテからの白紙の魔術書の話を聞いていて、俺がイルザと一緒に頼みに行くよりも先に組織の拠点まで来てのためなら協力すると申し出てくれてな。途中で話を聞きつけた十二神将の奴らものためなら協力するとそれに加わってくれて、おかげで比較的早い段階であいつらにたどり着いた次第だ」
「ああ、なるほど。それで、十天衆のエッセルとカトル、ソーン達に連絡を取ってものためでも今すぐ来られないって話してたのか。実際は彼らも裏でのために動いていたわけだ。おまけにそれに十二神将達も参戦とは、これは僕も予想外だった。同じ十二神将でも艇に来てくれなかった彼女達の事情は分からないの一点張りで様子がおかしかったマキラは、それの連絡係で団に居座ってたのか。真相が分かればこれ以上に単純で、しかし、面白い話はないな」
「ユーステスさんを含めて十天衆や十二神将の皆さん、のために裏で動いてたんですねー。力を持たずとも十天衆や十二神将の皆さんを動かせるとは、さすがです!」
「それ分かれば、力を持たなくても皆を動かしてるの凄さが分かるってもんよね」
ユーステスの話を聞いてグランはのために裏で動いていた十天衆と十二神将達のやり方に感心し、ルリアとイオもを自慢そうに語る。
そして。
「わたしが用意できた強化用と回復アイテムはこれで以上です。ご武運を~」
「十分だ」
シェロカルテからアイテムを受け取ったユーステスは、イルザ、バザラガ、ゼタ、ベアトリクス、グウィンの順番にそれぞれの顔を見回し言った。
「イルザ、バザラガ、ゼタ、ベアトリクス、グウィン。此処に来る前に話していた通りだ、その封印武器の威力を思う存分にぶつけられる相手を見つけてやった。あいつらに遠慮いらん、思い切りやってやれ」
「うむ。このところ、体がなまっていたので丁度良い。私に無断で私の家族に手を出したらどうなるか、思い知らせてやるわ」
イルザは体を動かしながら自身の銃も確認を怠らない。
「ひひ、このあたしがに仕掛けたぶんをあいつらに、このアルベスの槍で返してやるさ、覚悟しとけよ!」
「私のエムブラスクもあいつら、やる気まんまんだぜ。どっからでもかかってこいってなもんよ」
ゼタはアルベスの槍を、ベアトリクスもエムブラスクを思い切り振り回す。
「グウィン、俺との今までの訓練の成果を見せつける時だ。ゼタ達に負けないよう、あいつらに向けて思い切りやってやれ」
「了解です! 一方的にやられたのぶんまで、これで叩きのめしてきますよ!」
指導者のバザラガに言われたグウィンも、自身が持つ武器である鞭の感触を確かめている。
ユーステスは、組織の面々の様子を見た後にグランの方を振り返る。
「団長、そういうわけだ。団長も俺達とあいつらとの戦いというか、その交渉に参加してもらえると、こちらも助かるのだが」
「了解。僕も彼らが力を持たないに手を出すとは思わなかったからな、それに納得できるだけの事情説明、それから、彼女に手を出せばどうなるかくらい思い知らせてやらないとこちらの気がすまないね」
「そうだな、あいつらに一発くらいお見舞いしないと気がすまねえ、オイラもグランとユーステスの兄ちゃん達についていくぜ」
ユーステスに頼まれずともグランは自身の剣を構え、ビィもそれについていくと張り切る。
「おいおい、お前らだけ盛り上がるなよ。複数の狩場なら、俺も必要だろう」
「オレも団長に言われずとも、そこについていくからな。あいつら相手するのに、オレの爆薬も必要だろ」
オイゲンとラカムも彼らにならうよう銃を構え、グランに申し出る。
「グランとユーステスさん達でに白紙の魔術書を送り付けた犯人の所に行くなら、私も皆さんと一緒に行きますよ!」
「当然よね。だけやられっぱなしなの、あたしも気分悪いし!」
「私の防御魔法は団長達はもちろん、ユーステス達にも役立つだろう。私も彼らについていくぞ」
ルリアとイオ、カタリナもいつも以上にやる気を見せる。
「皆がそれの犯人をやる気なのはいいけど、肝心のちゃんはどうするの? 艇長のラカムまでそこに行くとなれば、ちゃんを何処かに置いていく事になるけど……」
ロゼッタは、艇長のラカムまで離れるとなればはどうするか問題が出てそれを心配する。
「そこは心配無い。今回は技術部の倉庫でアイザックとカシウスで、を見てくれる手配になっている」
「ああ。今回はも当事者だからな、は技術部の倉庫で僕とカシウスと一緒に君達の戦いを見守る事になってるからそこは安心してくれ」
「私はに、そこでラーメンを作ってくれる約束を取り付けた。その間のの安全は保障しよう」
ユーステスに応じるよううなずくのはアイザックで、カシウスはラーメン目当てにを保護してくれると話している。
そしてグランはフラメクの調子を確かめているユーステスの方を振り返り、言った。
「さてそれじゃあ、全員で挑戦しにいくか。白紙の魔術書の犯人――、六竜の所まで」
六竜――ル・オー、フェディエル、ワムデュス、ウィルナス、ガレヲン、イーウィヤ達は、人の姿と猫一匹の姿を借りて、とある空間にてウィルナスが出した屋台に集う。
ル・オーはその中でいらだちを隠せないでいる、その理由は。
「――おい、お前のせいで大変な事になってるぞ、どうする気だ? フェディエル」
「あ? 何で、アタシのせいぞ。あの団の中で唯一、力を持たない無力の小娘の白紙の魔術書作ったのお前ではないか、ル・オー」
「お前があの団で夫婦以外の番の観察をしたい、しかし、特異点やほかの団員達に睨まれず、バレた時に返り討ちにあわない範囲で観察するには力を持たない無力の小娘が丁度良い、無力の小娘を観察する用の魔術書作ってくれ――私にそう指示を出したのはお前だろうが、フェディエル」
「さあ、どうだったかなー。物覚え悪くてすまん!」
「フェディエル!」
舌を出しておどけるフェディエルと、それに怒りをあらわにするル・オーと。
「あはは……。無力なヒトの子とエルーンの男の番を観察するのに、無力なヒトの子は力を持たないから返り討ちにあわないだろうと思っていたら、反対に、特異点中心に総出で返り討ちきたね……」
「ふはは、あの団で一番力を持たない無力な女のせいで、お前らの企てが全て外れやがったか、これ以上に面白い話はねえなあ!」
ワムデュスは困ったよう、ウィルナスは愉快そうに、それぞれ別の意味で笑う。
「にゃー、にゃー。(だから言っただろうが、下手に無力なヒトの子に手を出せば面倒な話になると)」
「謝罪。(今から特異点達に謝って、許してもらえないでしょうか……)」
猫のイーウィヤ、ガレヲンは、普段からあの団に出入りして世話になっているのでの事情を把握し、無力でも彼女には手を出さない方がいいとフェディエルに忠告していたのだった。
ル・オーは深い溜息を吐いた後、自分の手元にあるまだ燃えていない状態のの白紙の魔術書の中身を見ながら言った。
「『――お前なら、俺の家族になってもいいと思った』、これがあのエルーンの男の無力な女に対する言葉か」
ル・オーは白紙の魔術書に浮かび上がったユーステスの項目を読み上げ、紅茶を一口飲んで続ける。
「しかし、あのエルーンの男、あの団でもそれなりに力を持つ戦士には違いないだろうが、それが力を持たない無力な小娘とよく番として付き合っていられるなと、私もかねてからあの二人に興味があったのは事実だ。それで、蒼き娘と同じよう、私もエルーンの男が無力な小娘にかける言葉が何であるか期待していたのだが、俺の家族になってもいいとは、何のひねりもなく単純な言葉だったな」
「上等。(あら、私はそれ素敵な言葉だと思いますよ)」
「にゃ! (オレ様もその言葉は気に入ってるぞ)」
ル・オーはユーステスのへの言葉は期待外れでつまらないと思うも、ガレヲンとイーウィヤからは分かると、評判は良かった。
ふと。ウィルナスはかねてからの疑問をフェディエルに聞いた。
「フェディエルとル・オーで無力な女とエルーンの男を観察するのはいいが、何でフェディエルの力で無力な女を記憶喪失にしやがったんだ? あれ、今思えば余計だったんじゃねえの?」
「ああ、それな。アタシが無力な小娘とエルーンの男を観察している時に二人の間で何回か喧嘩があって、その中でできるならエルーンの男を忘れたいっていう無力な小娘の思いを聞いたせいじゃな」
――力を持たない私では、やっぱりユーステスの相手無理なのかな。もし、ユーステスを忘れられたら楽になれるのかなぁ。
フェディエルは、とユーステスを観察する中、喧嘩の最中、のその思いを拾ってしまった。
フェディエルは屋台に置かれたグラスを傾けながら、言う。
「あの二人、喧嘩しては知らない間に仲直りして復活してるってのが何度かあっての。アタシではそれを繰り返す無力な小娘とエルーンの男の気持ちが分からんので、いっそ、本当に無力な小娘の中からエルーンの男の記憶消したらどうなるかのぉと思って実験的にやってみたんじゃ。結果、エルーンの男を忘れてもエルーンの男ばかりを見ておってなあ。あれにはアタシも理解不能で不思議だったわ」
「……、それは私も疑問に思っていた。無力な小娘とエルーンの男の二人は、喧嘩して何度か離れようと思っても、最終的には元に戻っている。無力な小娘は無力ゆえなのか、その感情は私も理解不能だ」
ル・オーは一息ついて、そして。
「エルーンの男もエルーンの男だな。無力な小娘に何もできない使えない女というわりに、裏では彼女のために星晶獣や天司達と根気良く交渉を続けていて、とうとう、私達までたどり着いた。このエルーンの男の執念と無力な小娘に対する感情はどういうわけだと思うと同時に、もっとあの二人の観察を続けたくなった」
「それはアタシも同じよの。特異点が許してくれるなら、無力な小娘とエルーンの男の関係の観察を続けたいと思う。あの団で夫婦以外で番であると内でも外でも認められているのは、あの無力な小娘とエルーンの男くらいだからの。そう思えばその白紙の魔術書で、無力な小娘の記憶が戻ったのは良かったのは良かったのか」
フェディエルはル・オーの話を聞いた後、ワムデュスの方を振り返り聞いた。
「アタシの術で記憶喪失になった無力の小娘であるが、彼女の心に残る言葉を登録できればその人物を思い出す――、その魔術書のルール作ったの、ル・オーじゃなくてワムデュスよな。アタシはそれのおかげで助かったようなもんだが、ワムデュスは無力な小娘に何でまたエルーンの男を思い出せるようにしたのじゃ?」
フェディエルに問われたワムデュスは、それが何でも無い風に言う。
「それこそ救済措置、といいたい所だけど、その方が面白いと思って。要するにゲームブックと変わりない。ゲームマスターのワムとしては、無力なヒトの子がここまでやるとは思わなかった。途中で特異点に泣きつくかと思ったけどそれもなく、自分の力だけでエルーンの男との関係を取り戻すなんてね。無力なヒトの子がエルーンの男相手に提案した賭けの内容も面白かったな。そうきたかーって。僕も力を持たずとも彼らについてる無力なヒトの子の存在は面白いと思うし、今度、また無力なヒトの子に何か――今度は存在自体を消してみるとか、特異点から彼女の記憶を消してみるとか、色々仕掛けてみたいんだけどいいかな?」
「中止。(特異点達と違って力を持たない無力なヒトの子をこれ以上に触れれば、我々――六竜の品格が落ちるかと)」
「だな。特異点のように力を持つ人間には己の力を示してそれを押さえつけるのはいいが、無力な女のような力を持たない人間に対してはそれ以上の事はしない方がいいと思うぜ」
「にゃにゃにゃ! (無力なヒトの子はオレ様を撫でて気持ち良くさせるのが上手いからな、お前のゲームで無力なヒトの子を消したらオレ様が許さんぞ)」
の存在に興味を持つワムデュスであったが、それを止めるはガレヲンとウィルナスで、ワムデュスのゲームでを消すのは許さないと言うのは猫のイーウィヤである。
と。
ウィルナスはある方向を向いて、ル・オー達に告げる。
「お、噂をすればあいつら、来やがったぜ。エルーンの男だけではなく、特異点も参戦であいつらと面白い戦いができるといいが」
「ふむ。私達と交渉するのにそれなりの覚悟を持って来たようだが、果たして」
「ここで特異点とエルーンの男に、無力な小娘との関係の観察続けていいかって、聞いてみるか。場合によっては、あやつらとの戦闘もやむなし、よの」
「にゃ、にゃ(そうなった時にオレ様は無力なヒトの子にもう一度撫でてもらいたいので、オレ様は特異点側につくぞ)」
「対話。(話し合いだけで終われば良いのですが……)」
「エルーンの男と無力なヒトの子を使えば特異点ともっと遊べそう、かな。楽しみ」
ウィルナス、ル・オー、フェディエル、イーウィヤ、ガレヲン、ワムデュス――六竜達は、肩をならし、それぞれの思いを抱えてユーステス、それから、彼らに特異点と呼ばれる団長のグランを出迎えたのだった。