それは、ある昼下がりの出来事。
「ふんふんふん~♪」
その時のはユーステスの隠れ家にて、キッチンでパン生地をこねて機嫌よく鼻歌をうたっている最中だった。
「」
「何――」
はパン生地を手でこねている最中、突然に、ユーステスに後ろから抱き締められてしまった。
ユーステスの仕事がなく彼の休みの日はは、拠点ではなく、彼の隠れ家に厄介になっている。イルザの計らいでユーステスの見習いに落ち着いてからは、組織の拠点とユーステスの隠れ家とグランサイファーの三か所を行き来する日々だった。
その中で。
「……」
「……」
はユーステスと恋人関係になってから今日だけではなく、彼の都合のいい時になればこうやって何の前触れもなく抱き締められる事が何度かあった。
ユーステスによれば「戦場から帰ってきた時に普通になんの邪念もないを見ると落ち着く」と言って、簡単に抱き着かれる。
ユーステスは昨日まで組織の仕事だけではなく、組織外では傭兵としてもあちこちの戦場を駆け回っていたと話していたので、自分を使って甘えたい時があるかもしれない。
からすればユーステスのその行為は嬉しい事に変わりなく、ユーステスの気分が落ち着くまで彼のなすがままである。
しかし今回はの方が都合が悪かった。それというのも。
「ねえ、手、洗ってからじゃ駄目? パンの生地の粉で手がベタベタなんだけど」
は自分の両手はパン生地の粉まみれでふさがっていて、せっかく抱き着いてくれたユーステスに自分からは触れられず悲しかった。
ユーステスはの粉まみれの手と台の上にあるまだ焼ける前のパンを見比べ、彼女に聞いた。
「それ、明日、団長とルリア達に配るぶんか?」
「うん。明日、グランサイファーの艇に乗る予定あるからこのパンは、団長さんとルリアちゃん達に配る用だよ。ユーステスが休み取れたの一日だけだから、その間に作っておこおうと思って」
せっかく休みが取れたのに一日だけ、二人きりで過ごせるのも一日だけ。
それは仕事人間のユーステスらしいといえばらしいが、からすればもう少し休み取っても良いのにと思うも、それは彼の前では口に出さないように心掛けている。
はなるべく自分のワガママを表に出さないよう、ユーステスの前では明るく振舞う。
「あ、ユーステスのぶんも取ってあるから明日の朝は焼き立て食べられるよー。明日、仕事行く前にパン、食べていってね」
「分かってる。明日の朝が楽しみだな」
「うん。その前に手を洗いたいんだけど。このままだとユーステスにも粉、ついちゃうよ」
「……」
ユーステスはしかしの話は聞かず、彼女を抱き締める腕に力を込める。
「あれ、仕事でなんかあったの? 珍しく甘えてくるね?」
「……」
何か仕事で嫌な事でもあったのだろうか。戦場で仲間が傷ついたとか、自分が相手を傷つけたとか。
……。
普段のユーステスであれば自分の言う事を聞いてすぐに解放してくれるものだが、今回はいつもと違って解放せずに更に力を込めてくるその腕には「久し振りに誘われるかも?」と、焦りと期待を隠せずにドキドキした。
ユーステスの腕は、の腹回りにある。
そして。
「……、一ついいか?」
「な、何?」
ユーステスはに顔を近付け、彼女の耳元でささやく。
「お前、最近――」
ユーステスのその一言は、を震え上がらせるに十分な威力を持っていたという――。
グランが率いるグランサイファーは、今日も元気に青い空を飛び回っている。
そんな中、ビィはふと、ある事が気になってそれをとうとう口にした。
「なあ、最近、見ないな。どうしてんのかな」
「そういえば、ここ最近、見ていないですね。確か、前に来た時から三日以上は経ってますね。どうしたんでしょうか……」
「……」
最近、が艇に乗って来なくなった。
前にを見かけて、三日以上は経過している。
ユーステスは封印武器がなくても狙撃手として組織の中では重宝されているので、組織では休みは殆どない状態だった。ユーステスは仕事で一週間のうちに二日か三日休みが取れればいい方で、はそれに不満を持っていたが、ユーステスからグランサイファーを紹介されてからは、彼が不在の間でも嬉しそうにこの艇に乗ってきたものだ。
それが。
がグランサイファーに来てから三日以上も空けるというのは、グランとビィ、ルリアも、今までにない経験だった。
ビィは軽い調子で言う。
「まあ、は組織の技術部で忙しくしてるかもしんねえな」
「そうでしょうか……。が組織の技術部で忙しいといっても、同じ技術部のアイザックさんがそこまでを使うとは思わないですよ……」
ルリアはビィのそれは否定的だった。
「それもそうか。それじゃ何では艇に乗って来ないんだ? 各港に設置しているグランサイファーの連絡用の掲示板には、組織の連中やから何も無かったよな?」
「はい。各港に設置してあるグランサイファーの団員用の掲示板には、組織の皆さんやから何も書き込みありませんでしたね、それも心配です。グランはどう思います? グラン?」
それに関して気楽に構えるビィと、のいう組織の技術部の仕事は人間関係や星晶獣のデータ入力だけと聞いているので、アイザックがそこまでを酷使しているとは思わなかった。
その中で各港に設置されている連絡用の掲示板には、組織からも、本人からも何も連絡は無く、ルリアもビィもを心配する。
ルリアはさっきから自分とビィの会話を聞いているだろうが黙ったままのグランの方を振り返り彼にもについて聞いてみるが、何も返事はなく――。
「グラン?」
「……」
「グラン!」
「うわ、な、何だ、ルリアか。どうした?」
「どうした、じゃないです! さっきからグランを呼んでるのに、返事ないから、心配してたんです!」
「あ、ああ、そうだったの、で、何?」
「グラン……」
にっこり。グランはいつものお人よしの笑みを浮かべるもルリアは、それがいつものグランの笑みではない気がしてこれ以上何も言えなかった。
と。
「団長、ビィ、ルリア。暇なら来てくれって、依頼が来てるぞ。行くか?」
「おう。行く、行く。行くに決まってんだろ!」
「はい。すぐに行きます!」
「……」
ビィとルリアは依頼を持ってきたオイゲンの呼び出しに応じるように駆けるも、グランはその場から動く気配がなかった。
「団長!」
「った、何する、て、あ」
ばしんっ。オイゲンは遠慮なく動かないグランの頭を叩き、グランはそれに抗議の声を上げるもそこでビィとルリアが心配そうに自分を見ているのが分かって声をあげるのをやめた。
はぁー。オイゲンは遠慮なく大きなため息を吐いて、グランに呆れた様子で言った。
「団長。調子悪いなら、依頼を諦めるか。その調子でいっても、依頼主に失礼になる」
「いや、大丈夫だ。問題ない。行こう」
グランは、オイゲンの忠告を無視するかのよう、いつもの武器を装備して出かける準備を始める。
「おい、団長は本当に大丈夫か」
「さあ? グランが大丈夫だと言うからには、大丈夫なんじゃないか」
「……」
ルリアとビィにグランの調子を聞くオイゲンと、オイゲンに軽く返事をするビィと少し心配そうにグランを見つめるルリアと。
結果的にはオイゲンの持ってきた依頼はいつものよう成功して、その報酬を受け取る事ができた。
オイゲンの依頼は「とある島のとある森の中にある洞窟までの道のり、いつもより多く魔物達がウロウロしていて面倒な事になっている」という、グランサイファーの面々にとっては簡単な依頼だったが、しかし――。
依頼のあった洞窟までの道のり、確かに、普段より多くの魔物がうろついていて、熟練した冒険者でなければ中々その洞窟までたどり着けなかっただろう、というのは、グランとルリアの仲間以外でも理解できるものではあったが、あったのだが。
「はあっ!」
グランは向かってくる魔物相手に一心不乱に、剣を振り回す。
そのせいかグランの足元には、グランの手で斬られた魔物の死骸が積まれる。
「グラン!」
「まだ、いける!」
「グラン!」
「くそ!」
「グラン!!」
「ああもう、さっきから何だ!」
「ひッ!」
「!」
次々と襲いかかる魔物を相手にしていれば、さっきからルリアが何度も自分の肩をたたいてくるのでそれがうるさいと思って怒鳴れば、ルリア本人はそれに震えてカタリナの後ろに逃げてしまった。
しまった、と、グランが思っても遅い。
カタリナはグランから逃げてきたルリアを匿いながら彼を睨みつけ、呆れた調子で言った。
「団長。この辺一帯を仕切っていたボスを討伐した時点で、依頼のあった魔物退治は終了した。この辺で魔物が多くなったのは、そのボスが暴れているのが原因だったのは、私達の目から見ても明らかである。それでこれ以上に魔物を狩る必要はないと、ルリア含めて私達が判断した。それをルリアがいつまでも魔物を斬る君に伝えにいったのに、君はそれを無視して、害の無い魔物も惨殺している。倒す必要の無い無害な魔物をやったと分かれば下手をすればこの地区の人間の怒りを買って裁判沙汰になり、最悪、騎空士、並びに、団長の称号もはく奪されるぞ。それを分かっているのか」
「……そうだったな。これに関しては、僕が悪かった。すまない」
「私ではなく、ルリアに向けて謝罪を」
カタリナは自分の後ろで震えるルリアを指さし、グランはそれにうなずいた後に本当に申し訳なくルリアに頭を下げた。
「ルリア、怖がらせて悪かった。ごめん」
「……はい。カタリナのおかげでグランが落ち着いたなら、良かったです」
ルリアは、カタリナのおかげで元に戻ったグランを歓迎する。
と。
「団長は、ルリアだけじゃなくて、あたしにも謝って!」
「ええ、何で、イオまで謝る必要があるんだ」
「あたしも団長の変わりようを見て、ルリアと同じように怖かったんだからー」
「それで?」
「むむ、あたしもこう見えて繊細なんだからね。あたしと契約してるロゼッタがあたしの事、一番分かってるよね!」
「まあ、そうね。私も団長さんの変わりようにルリアちゃんだけじゃなくて、イオちゃんも影で震えてたの見てたわ。団長さん、ルリアちゃんだけじゃなくて、イオちゃんにも謝った方が良いわよ?」
イオは途中でロゼッタに期待を込めた目で見つめて、ロゼッタはそれに呆れつつもイオの言う通りであると認める。
グランはロゼッタの言う事を信じて、イオにも素直に謝った。
「そうか、イオと契約したロゼッタが言うなら本当だろう。イオ、怖がらせて、悪かった。ごめんよ」
「うん。あたしもルリアと同じよう、カタリナのおかげでいつもの団長に戻ったなら安心だよ。でも、いつも温厚で敵対している人間相手でも手加減するような団長があそこまで変わるの珍しいね。なんかストレスたまってたの?」
「さあ、どうだろう。ストレスでやってたかどうかは、分からない」
「そうなの? でも、ストレス以外で何かそれの原因があるならそれを早いうちに取り除いた方が良いと思うよ。あたしとルリアだけならまだいいけど、団長の変わりようをほかの小さい仲間――ヤイアちゃんとかサラとかリリィとかが見たら、泣いて怖がると思うからさ」
「……そうだな。でもその三人に関してはその子達よりもその保護者がうるさそうだから、早いうちに原因を取り除いた方が良いかもしれないなぁ」
「うん。あたしも団長のそれには協力するよ。また何かあったら、あたしに遠慮なく相談してくれると嬉しい」
「ありがとう。何かあればイオに相談するよ」
「グラン、イオのおかげで、元に戻ったみたいだな」
「はい。良かったです」
――良かった、いつも通りのグランだ。ルリアはグランとイオとのやり取りをそばで聞いていて、ビィと一緒になって安心する。
「やれやれ、やっと一息つけるな」
カタリナもルリアが落ち着いたのを見て、胸を撫でおろした。
しかし。
カタリナ以外の――オイゲン、ラカム、ロゼッタの大人三人は、グランが豹変した理由を分かっていて、三人、顔をつきあわせてヒソヒソ、言い合う。
「なあ。団長のあの変わりよう、やっぱ、が最近、艇に乗ってこないのが原因か?」
「オレもそう思う。ロゼッタはどうだ?」
「ええ。私も団長さんが落ち着きないの、ちゃんが私達の艇に乗って来ないのが原因だと思うわ」
オイゲン、ラカム、ロゼッタの三人は、グランが調子悪い原因が何か確信を得て、参ったよう溜息を一つ。
「やっぱそうかー。ラカムよ、最近のがどうなってんのか、分かってるのか。それ以前にイルザの組織から連絡きてるのか?」
「いや、さっぱり。オレもがどうしているのか、よく分からんのよ。港に設置されてある掲示板にもや組織の連中から何も無かったぜ」
「あの組織、どこでも狙われてるらしくて用心深いから、港に設置してある団員用の掲示板なんて使った事なくて、団長さんが持ってる特別な通信機で直に連絡入れないと繋がらないのよ。団長さん以外だと、組織に通じてる第三者の人間を介して連絡入れる方が確実だわ」
ロゼッタは、が属しているイルザ達の組織の人間は月の民の末裔達やそれ以外の組織からも狙われている身であるため、グランの持つ通信機以外では、彼らの組織に通じている第三者に連絡を入れる方が確実であるのを知っている。
「組織に通じてる第三者の人間というと……、アイザックかカシウスか? でもあいつらも月からこっちに戻ってきたはいいが、いまだに組織に管理されて組織の了解がなければ身動き取れない状態らしいからな、中々難しいもんだな」
オイゲンは参ったよう、空をあおぐ。
そのそばではラカムとロゼッタの会話は続いている。
「それよりも前に、オレ達で無理にを連れてきたとして、団長はいい顔すると思うか?」
「しないでしょうねえ。反対に今よりもこじれるんじゃないの。そして最悪な事に、ユーステスもそれに警戒してちゃんを艇に寄こさなくなったら、どうするのよ」
「うむ。俺も娘に――アポロによかれと思ってやった事が反対にアポロの怒りを買ってこじれるなんて、しょっちゅうだぜ。それで俺達が手を焼いた所で団長もに関してはどう出るか分からん怖さがあるからな、組織か団長から何かあるまで、俺達は二人については障らない方が良いんじゃないか?」
「よかれと思ってやった事が裏目に出るなんてそりゃ、アンタら親娘だけだと思うが」
ラカムはこの団で、娘との関係でこじれるのはオイゲンとアポロの親娘だけだと笑う。
それからラカムは急に真面目な顔つきになって言った。
「しかし、オイゲンの言う通りで、オレ達がお膳立てしてもに関して団長がどう出るか分からん怖さがあるってのは分かるぜ。今はオレ達も、二人の関係に下手に出ない方がいいだろうな」
「そうだな。それが一番いいか」
「私も二人に同感。今は団長さんを見守るだけにしておきましょうか」
ラカム、オイゲン、ロゼッタ、三人の意見は無難にまとまった。
ところで。
「おーい、ラカム達、何やってんだよー」
「早く艇まで戻ってきてください!」
「三人でまだ何かやり残した事でもあるのか?」
「悪い、すぐ行く!」
すでに艇に戻っていたビィ、ルリア、グランの三人から甲板の上で声をかけられたオイゲン達は、慌てて艇に戻っていった。
――この数日、イライラするのは、どういうわけだろう。夜もあまり眠れない状態が続いている。グランは自分が不安定だとは思うも、その原因も、それを取り除く方法も分からない状態だった。
それをルリアに悟られてしまったのかどうか。この夜に食堂にて、夕食が終わってそれぞれの休憩時間で、「ちょっといいか」と、カタリナが心配そうにグランに話しかけてきた。
因みにルリア、ビィ、イオの三人はグランとカタリナに気遣うよう、さっさと食堂を出ている。
食堂に残るのはグラン以外では、カタリナ、オイゲン、ラカム、ロゼッタの大人達だけ。
カタリナは単刀直入にグランに問う。
「団長。前回の依頼の時にイオの話でもあったが、最近、何かストレスがたまってる事でもあるんじゃないのか。それをそのままにしていると、団長だけではなくて、この艇に乗っている人間達にも悪影響を与えてしまう。君の場合、ルリアに一番に影響を与えるからな、それ、分かってるだろうな?」
――君だけならいいが、同化しているルリアにまで何かあったらどうしてくれようか。
そういうカタリナの目は、笑っていなかった。グランは自分ではなくルリアの事になると必死になるカタリナに逆らえない雰囲気に顔を引きつらせつつも、相談するには丁度良かったので自分の状態を彼女に打ち明けた。
「ふむ。何かイライラして夜も眠れない時があるが、そのイライラの原因が分からない、か。私も君がイライラする原因に何も心当たりがないな……」
「反対、ルリアの方に何か原因があったりしないかな? 僕がルリアのイライラを受け取っているせいで僕の調子悪いとか、僕の知らない間にどこかで星晶獣の毒にあてられたせいとか……」
「いや。私の目から見てもルリアはいつも通りで、変わった様子は見られない。そのルリアは君の方を心配していた。それからルリアから見れば、君は星晶獣の毒にやられてるわけでもないようだよ。やっぱり君自身に原因があると思うが」
「そうか。ルリアや星晶獣が原因ではないとすれば、それなら僕の方に原因があるか。うーんでも、僕もどうしてここまで自分がイライラしているのかよく分からないんだよなぁ」
「そうか……。それは、難儀な話だ」
うーん。グランはカタリナと一緒になって、イライラの原因が何であるか分からず、考え込む。
「……」
「……」
「……」
そばでカタリナとグランのやり取りを聞いていたオイゲン、ラカム、ロゼッタの三人は「そのイライラの原因の心当たり大有りなんですけど!」と、グランとカタリナに向かって言いたい気分だったが、ここはぐっと堪える。
と。
「なあ、オイゲン達は僕のイライラに何か心当たりは……」
「さ、さあな。俺は、お前さんのイライラの原因が何か、全然分からん、分からんので、こっちに話を振らんで欲しい」
「そ、そうだな。オレも分からん、オレに期待するなよ!」
「ええと、ルリアちゃんの言うように私も団長さんのそのイライラの原因、星晶獣のせいではないと断言できるけど、それ以外だと分からないわねえ」
急にグランにそう振られたオイゲンとラカムは体中に汗が噴き出すもそれを悟られないように彼から顔を背け、ロゼッタは冷静を装うも手にしている紅茶のカップがカタカタ揺れているのに気が付いていない。
カタリナは言う。
「そういう原因不明のイライラを発散したい時は、鍛錬が一番効くと思う。団長も何か発散したい事があるなら、私かヴィーラを相手に鍛錬するか?」
「鍛錬ねえ……。だけど僕相手でも厳しくて手を抜かないカタリナかヴィーラで、発散できるかな?」
なるほど、何か原因不明のイライラがたまってそれを発散させたい場合は鍛錬するのが丁度良いか。しかし、カタリナやヴィーラ相手だと厳し過ぎて反対に発散させるべきものがたまっていきそうな気がするし、ほかは自分に遠慮してか手加減してくるしなぁ。
カタリナ相手に鍛錬を渋っていると、カタリナは腰に手をあて呆れた様子で言った。
「私やヴィーラが厳し過ぎて駄目というなら、団長ならほかにいくらでも相手が居るだろう。そうだ、丁度、フェードラッヘの白竜騎士団の連中が暇を持て余していると聞いている。厳し過ぎず手加減もしない白竜騎士団であれば鍛錬にうってつけじゃないか。明日にでも、白竜騎士団を相手にしてきたらどうだ」
それだ。
フェードラッヘの白竜騎士団は最近、ひよこ班のアーサー達の後輩にあたる若手を補充して、積極的に訓練をやっているらしい。カタリナの言う通りで、白竜騎士団であれば厳し過ぎず、手加減もしてくれない、鍛錬には丁度良い相手かもしれない。
今後の方針が決まった。
グランはさっそく、そばに居るラカムに聞いた。
「ラカム。明日、白竜騎士団のあるフェードラッヘまで行ける?」
「おう、任せろ。今から出発すれば、朝にはフェードラッヘについてるぜ。団長は、フェードラッヘに連絡入れておいてくれ」
「分かった。皆もそのつもりでよろしく」
「了解」
この夜にラカムに行き先を伝えれば、明日の朝にはフェードラッヘについていると話した。
ここで解散、各々、好きな場所に移動する。
自室に戻ったグランは手持ちの通信機でフェードラッヘと白竜騎士団に問い合わせれば「歓迎する」と、すぐに返事があった。
ランスロット、ヴェインの二人と久し振りに会う。ひよこ班のアーサー達はどうしているだろうか。少し楽しみだ。
グランはそれを思うとこの夜はいつもよりぐっすり眠れた気がした。