君は空色(02)

 翌日。

 朝になって無事にフェードラッヘに到着。

 グラン、ビィ、ルリア、カタリナの四人はさっそく白竜騎士団に向かい、その間にイオ、とロゼッタの二人は買い物へ、ラカムとオイゲンは艇で待機する事になった。


 白竜騎士団の詰め所にて。

「よう、団長、久し振りだな。元気にしてたか? 何か目的があって此処まで来たんだろうから、それについて説明を聞こうか」
「ふむふむ。団長に何か原因不明のストレスがたまっていてそれを発散させるために鍛錬したいんだって? それに俺達が選ばれたのは光栄だな! それじゃあさっそく、団長に相応しい鍛錬の相手を見付けてくるぜ!」

 白竜騎士団の詰め所にて顔を出せばランスロットに迎えられ、カタリナからグランがどうして白竜騎士団にやってきたかの説明を聞いたヴェインは、どこかへ行ってしまった。

 しばらくしてヴェインが呼びかけに応じた騎士達を連れて、戻ってきた。

「団長相手にしたいっていう奴ら、呼んできたぜ! お前ら、団長相手でも遠慮するなよ、反対にケガするぜ! ははは!」
「ふむ。ざっと熟練の騎士が十人以上か。団長は、白竜騎士団では訓練生達はもちろんだが、それ以外の熟練の騎士達にも人気あるからなー。団長を前にすれば、俺の威厳が霞むよ」

 背後に集まる騎士団の中でも熟練の騎士達をそうたきつけるヴェインと、グランを相手にしたいと呼びかけに応じてやってきた熟練の騎士達を見てここまで集めたグランに感心を寄せて苦笑するランスロットと。

「さあ、団長。俺かヴェインか、此処に集まってくれた熟練の騎士達か。誰を相手に鍛錬する? 無難に俺でいくか? 最近、平和過ぎて体がなまってるんだ。団長相手に丁度良い」
「ランスロットだけじゃなくて、俺も忘れるなよ! あ、いっそ、俺とランスロット両方相手にするか、なんてな!」

 ランスロットは腕を鳴らしながら、ヴェインは両手を広げてそれぞれ、グランにアピールする。

「グラン、どうするんだ?」
「私は無難にランスロットを選んだ方が良いと思うが……」
「でもお二人以外の騎士の皆さんも、自分を選んでくれないかなぁって、期待を込めた目でグランを見ていますね……」

「そうだな……」

 ビィ、カタリナ、ルリアの三人は、グランはこの中で誰を選ぶのかと、待っている。

 グランは目を閉じて、考える。

 そして――。


 昼。

 わあああ。白竜騎士団の詰め所から、歓声が聞こえる。

 街まで昼ごはんを買いにいって戻ってきたアーサーとモルドレッドは、近場にいた同じ訓練生の生徒を捕まえて、そのわけを聞いた。

「なんの騒ぎだ?」
「広場でグランサイファーの団長さんと、ランスロット団長達がやりあってるらしい! 皆、それを見学しにいってるんだ! 僕もそれを見学しにいく途中でね、君達も昼ご飯よりもそっちを優先した方が良いぜ! じゃあな!」

 捕まえた生徒はアーサーとモルドレッドにそう言い残して、さっさと詰め所に向かった。

 その話を聞いたアーサーは興奮気味に、モルドレッドに詰め寄る。

「ええ、港にグランサイファー停まってるの見てたから此処に団長さん来てるの知ってたけど、ランスロット団長を相手にやりあってるのは知らなかった。これは見にいく価値あるだろ!」
「いやでも、団長さんとランスロット団長『達』ってどういうわけだ?」
「団長さん、ランスロット団長だけではなくてヴェイン副団長も相手にしてるんじゃないか」
「あ、それだ。あの団長さんなら、ランスロット団長とヴェイン副団長の二人を相手にするくらいわけないよな」
「昼ご飯買ってる場合じゃなかった! 何で誰も教えてくれないんだよ!」
「だな。さっさと見学に行こうぜ!」

 生徒からそれを聞いたアーサーとモルドレッドは、全力疾走でその現場まで向かった。


 アーサーとモルドレッドが騎士団の広場に来た時はもうたくさんの人が集まっていて、後ろの方で踏み台を使って前の広場の様子を見ていたトネリロとクロスの二人を見付けた。

「トネリロ、クロス!」

「あ、アーサーにモルドレッド。やっと来たか」
「俺達も今、来た所だよ。立ち見用の踏み台、使うかい?」

「ありがとう。この人だかりじゃ、前まで行くのは難しそうだ。遠慮なく使わせてもらうよ」
「同じく」

 アーサーとモルドレッドはクロスから立ち見用の踏み台を受け取ると、自分達も彼らにならって踏み台を使ってそれに乗って立ち上がり、前の広場を覗き見る。

 アーサーが目を凝らして広場の中心地を見れば、団長のグランはランスロットとヴェインではなく、普通の熟練の騎士を相手にして、ちょうど、その相手を叩きのめしていた所だった。二人の間に立ってグランと騎士の勝負を判定する審判役はヴェインが務めて、ランスロットは腕を組んでそれらを見守っているだけ。

「何だ、団長さんの相手、ランスロット団長やヴェイン副団長じゃないのか。団長さんもこれじゃすぐ勝負ついて、つまらなそうだ」
「そう思うだろ? 実はそうじゃないんだな、これが」

 アーサーの感想を聞いてニヤリと笑うのは、トネリロである。

 反対にトネリロに応じるのは、モルドレッドである。

「そういや、団長さんの相手がランスロット団長やヴェイン副団長ではなくて、何で普通の騎士相手でこんな人だかりが出来てるんだ。そうなら皆も此処まで集まらないと思うけど」
「モルドレッド。団長さんの足元に転がってるの、何だと思う?」
「え、ああ、あれ、うちの先輩の熟練騎士達じゃあ――まさか?」
「そう、そのまさかだよ。団長さん、今まで、うちの先輩騎士達相手に立ちまわってたんだ。今ので、十人目だって聞いてる」
「十人目?! 一人で十人も相手にしてんの?! はは、トネリロも俺相手に冗談言うようになったか。あ、あそこにカタリナさんとルリアが居るぞ、カタリナさんも団長さんと一緒になって交互に相手してるんじゃないのか」
「いや。冗談で言ったわけではないし、カタリナさんは一度も手を出していないよ」
「本当に?」
「ああ。あ、でも、ルリアさんの回復補助を使ってもいいっていう条件付きだって」
「それでも一人で十人相手はさすがにきついと思うが。マジかよ」

 モルドレッドはトネリロの話を聞いた後に、改めて広場の中央で騎士を相手に戦うグランを息を飲んで見詰める。アーサーも同じよう、手に汗握って広場を見詰めている。

「はあっ!」
「ま、参った!」

「どうだ!」
「勘弁してください!」

「これで、終わりだ!」
「ぐはっ!」

 グランは、白竜騎士団の騎士相手に容赦なく剣を振るい、あっさりと倒していく。

 周りの騎士達からは「騎空士相手に騎士として情けない!」「もっと頑張れ!」「白竜騎士団の誇りを騎空団の連中にに見せつけろ!」とグランを相手にする騎士達に向けての声援が殆どだったが、たまに「日頃の恨みを団長さんの手で晴らしてくれ!」「団長さんカッコイイ! 団長さんの騎空団に入りたい!」「団長さん、うちの騎士団に入る気ないかな!」と、グランに向けた声援も聞こえてくる。

 と――。

「それまで!」
「何だ、もう終わりか」

 十人以上某十三人目に到達したところで、ヴェインの白旗が上がった。
 グランの相手になる騎士はもう残っていない。
 グランはしかし、何か物足りず、当初の目的だった「イライラを解消する」にはまだ達していないと思った。

 グランは剣を構えて、ランスロットとヴェインに向けて言った。

「ランスロット、ヴェイン。どっちが相手になってくれるんだ? どっちでも構わない、さあ、来い!」

「いや、もうこれでお開きだ」
「ああ。これ以上、やる必要はないな」

「何だって? ランスロットだけではなく、ヴェインも及び腰なのは珍しいな。調子でも悪いのか」

 いつも冷静なランスロットはまだ分かるが、ノリの良いヴェインまで自分に否定的に反応するのは、グランも予想外だった。

 ヴェインはさわやかな笑みを浮かべて背後を指さし、グランに向けて忠告した。

「団長、背後に気をつけろ」
「は? ――ぐはっ!」

 グランは背後からの一撃で、ひざをついた。何が起きたのかと振り返れば、怖い顔をしたカタリナが突っ立っていた。

「カタリナ、いきなり何する、ッ!」

 カタリナは容赦なくグランの襟ぐりを掴むと、顔を近付けて凄んできた。

「ルリアが! 君の回復役で頑張っていたルリアがもう立っていられないほど弱っている! 君はそれに気が付かないのか、ええ?」
「え、あ」

 グランは、ここでようやくルリアが誰かの支えがないと立っていられないほどになっている状態に気が付いた。ルリアはランスロットに支えられて、ふらついた状態であっても、自分よりもグランを心配そうに見詰めている。

 カタリナは大きな溜息を吐いてグランを解放した後、腰に手をあて、今までの経緯を説明する。

「君が十人目を相手にして以降はもう、ルリアの魔力の限界がきていた。私はルリアを思ってこれ以上はやらない方がいいと審判役のヴェインにそれを伝えるも、ヴェインは君の気がすむまでやらせて欲しいと反対に私に懇願してきてね。私はルリアを休ませたうえで、それを了解したわけだ」
「え、じゃあ僕、それ以降はルリアの回復補助受けてなかったのか?」
「呆れた。それも気が付かないで君は、ランスロットとヴェインを相手に意気込んでいたのか。ルリアの回復補助なくても彼らのような一般の騎士相手ならまだいいが、ランスロットとヴェインまで相手にすると君まで危なくなる。これには、さすがのヴェインもこれ以上は無理だと判断したんだよ」
「うーん、僕はルリアの回復補助がなくてもランスロットとヴェイン相手にまだいける気がするけどなぁ」
「止めとけ。君に何かあれば、ルリアに一番に影響を与えるからな。君のせいでルリアまで何かあったら、どう責任を取るつもりだ?」
「分かった、分かった。今日はもう、止めておくよ」
「うん。分かればそれでいい」

 カタリナはようやく分かってくれたグランを見て、微笑む。
 この時、グランは「ルリアに無茶させたけど、カタリナの機嫌が良さそうで良かった」と単純にそう思って、ほっと胸を撫で下ろしたが、しかし。

「ランスロット、交代だ」
「分かった」

 カタリナはランスロットからルリアを引き取り、ぐったりとした状態の彼女に向けて言った。

「ルリア、今日はもう、休んでくれ。そうだ夜は、ルリアの好きなフェードラッヘのレストランで食事をしようか。今回は、ルリアの好きなものをめいっぱい注文していいぞ」
「え、良いんですか! それ聞けば元気出てきました!」
「ははは。さすがルリアだな」
「でも、お代は……」
「もちろん、全部、団長のおごりだ! 今夜は団長の金でルリアの気のすむまで食べていいからな、そこは心配するな!」

「は? 僕、それに了解した覚えは――」
「ははは、ルリアに無茶させた君に何か反論できる権利があるとでも?」

「――おごらせていただきます、はい」

 にっこり。いつも以上にさわやかな笑みを浮かべてグランに反論を言わせないカタリナと、カタリナの笑顔の圧力に負けて反論できずにそれに応じるしかないグランと。

「グラン、ルリアに無茶させたら姐さんが黙っちゃいないからなー。そこ、気を付けた方がいいぜ」
「肝に銘じるよ……」

 ――ルリアに無茶させた件、やっぱり単純に終わらなかったか。

 ビィにも同情の眼差しを向けられたグランは、笑うしかなかった。

 ルリアを支えるカタリナと、ビィと言い合うグランと。


 四人の様子を遠巻きに見ていたトネリロは小さな声で、呟く。

「……この中で団長さんに唯一勝てるの、カタリナさんくらいか?」
「はは、そうみたいだね。そしてこの試合を見ていて分かったのは、先輩騎士達でも団長さん相手に健闘していたけど、訓練生の僕達が団長さんだけじゃなくて熟練の先輩騎士達を相手にできるのはまだまだ先が長いって事だけかな」

 トネリロの呟きに肩を竦めて苦笑するのは、クロスである。

 そして。

「そうだな。クロスの言うように俺達が団長さんだけではなくて熟練の先輩騎士達を相手にできるのは、まだ先だ。今日の試合でそれが分かっただけでも良かったじゃないか。試合見てたら腹減ったな、アーサー、遅くなったけど昼ご飯、食べにいくか」
「そうだ、モルドレッドと一緒に昼ご飯を買って食べる途中だったんだ。せっかくだから今の模擬試合の話をネタに、トネリロとクロスも俺達と一緒にご飯食べるか?」

「「賛成!」」

 トネリロとクロスの二人の話を横で聞いていたモルドレッドが腹をさすりながら言えばその事を思い出したアーサーがトネリロとクロスを誘い、二人同時にそう返事がきて、四人は連れ立って食堂へ向かった。

 その間にグラン達は相手にしてくれた熟練の騎士達に礼を言った後、詰め所を出て行った。広場に集まっていたほかの騎士達も散り散りになって、模擬試合は終了したのであった。


 同時刻。

 グラン達が白竜騎士団に出かけている間にラカムは、グランサイファーの甲板にてのんびりと本を読んでいた。オイゲンは何処かで鍛錬してくると言って、艇を出ている。グランサイファーにはラカム一人だけが残されていた。

 ところで。

 コツン。甲板の床の音が鳴ったので本から顔を上げれば、とある客が立っていた。

「やあ、こんにちは」
「おう、ドランクか」

 そこに突っ立っていたのは、お馴染みのドランクだった。
 しかしドランクの隣には、これまたお馴染みのスツルムの姿はなかった。

 ラカムは何の気もなしに、スツルムの件をドランクに聞いた。

「今日は、スツルムは一緒じゃないのか」
「スツルム殿はフェードラッヘの街で買い物してるよ。そこで団長さん達と巡り合えばスツルム殿がとある件を伝えてくれる役目を買って出てくれていてね」
「何だって? 団長に何か伝える事がある? なんか事件でもあったか?」
「ああ。ボクとスツルム殿は、団長さんにとても重要な事を伝えにきたんだ。団長さん達は何処に?」
「団長は、白竜騎士団の所でそこの騎士相手に鍛錬してるぜ。街中にはイオとロゼッタがうろついてると思うが」
「へえ。なるほど。今までのちゃんに関するストレスを解消するには、白竜騎士団相手に鍛錬がうってつけか」
「……、ドランク、何でお前、団長がストレス解消のために此処まで来てるって分かったんだ? しかもそれがが原因であるとも知ってるのか」
「はは、そう怖い顔でボクを睨まないでよ。それからちゃんとユーステスと団長さんの件は、ボク達以外でも知ってる連中は多いよ。三人とも、分かりやすいからねえ。知らぬは本人達だけってね。ラカムもそれ分かってるんじゃなかったのかい?」
「……」
「それはさておき僕は、団長さんにとっても、君達にとってもとても良い話を持ってるんだからさ。はい、これ、ラカムにあげるよ」

 ドランクは、ラカムに一枚の紙を手渡した。そこにはとある島の地図が描かれていて、その島のとある場所に×印がつけられてあった。

 ラカムは地図とドランクを見比べて、眉を寄せる。

「この地図にある島、オレ達にとって馴染みのあるポード・ブリーズ群島じゃないか。×印がつけられてあるこの施設は……、そこの宿泊所か。何も珍しくもない。此処がどうしたって?」
「その宿泊施設に、ちゃんが居たりして?」
「!」

 ガタンッ。ラカムは勢いよく椅子から立ち上がる。

 ドランクは胸を張ってラカムに言う。

「ボク達の情報網を甘く見ないでよねー。ラカムで、此処に行けばちゃんに会えるかもって、団長さんに伝えてくれる?」
「お前、何企んでるんだ」
「別に何も?」
「嘘つけ。地図の場所に行ってもが居なくて、此処まで来た団長をはめようとしてるんじゃないのか。お前の事だ、団長達を何かの事件に巻き込もうとしてるとか」
「いやいや、それはないって。本当にこの場所にちゃんが居るの、調査済みだから! それが嘘だった場合、皆の前で土下座でも、雑用係でも何でもするからさ! そこは信用して欲しいなぁ」
「この地図とその情報に関する報酬は? これでお前達が必要な報酬を求めているというなら、これを受け取るのは断るが」
「ああ、それについての報酬はいっさい要求しない。それ、ただであげるよ。受け取ってくれると嬉しい」
「……、お前達は今まで、世話になった団長でも報酬に見合った仕事しか請け負わないと、豪語してたじゃないか。ただでこの情報をオレ達に譲ってくれるなんざ、急にどうしたよ?」
「どうしたもこうしたもない」

 ドランクは口角を上げて、ラカムに言い放つ。

「ボクもスツルム殿も、ちゃんで団長さんが苦しんでる姿をこれ以上見たくないってだけだよ。それから因みに僕もスツルム殿も、ユーステスよりは団長さんの味方だから、それを忘れないで欲しい」

 ラカムが艇でドランクと対峙している最中の話である。

 白竜騎士団を出た後にグラン達は、イオとロゼッタの二人を探してフェードラッヘの街をうろついていたその途中、スツルムと遭遇した。スツルムの隣にドランクの姿はない。スツルムはグランの顔を見るなり、一枚の地図を手渡してきた。それはポード・ブリーズ群島の地図で、ある一点に×印があり、そこはとある宿泊施設であると、スツルムが説明した。

 そして――。

「此処に、が居るから。に会いたいなら、会いに行ってみるといいよ」

 スツルムはグラン達に何も発言をするのを許さずにそれだけ言い残して、さっさとグランの前から消えた。


 その夜。

 コンコン。

「グラン。あの、今、良いですか?」
「良いよ、どうぞ」

 カタリナの言う通りにグランのおごりでフェードラッヘでのレストランの食事も終わって艇に戻って落ち着いた後になってルリアは遠慮がちに、グランの部屋に入った。

 グランは本を読んでいる所で、本を読みながらルリアを相手にする。

「……」
「……」

 部屋に入ってきたルリアはもじもじして、本を読むグランに何も言ってこない。

「何だ? ルリアは、僕に何か用事があって此処まで来たんじゃないのかい? 何かあるなら、遠慮せずどうぞ」

 グランはあくまでもいつもの優しい顔で、ルリアに接している。

 ルリアは決心して、口を開いた。

「あ、あの、スツルムさんとドランクさんにもらった地図の場所に本当に、が居ると思います!」
「……そうだな。ラカムによればスツルムだけじゃなくて、ドランクも同じ地図を持っていたようだと、艇に帰ってきてラカムからそれを聞かされた。そこにが居るのは本当だろう。それで?」
「そ、それでって……。グランは本当に、そこまでに会いに行かないんですか?」
「何で僕がに会いに行く必要があるんだ。はその場所で、ユーステスとのんびりしているかもしれないから、それを邪魔しに行くのはよくないよ。が何か困っているというなら、話は別だけど」
「そ、その、スツルムさん達が私達にの居場所を教えたのは、が何か困っているからじゃないですか? は、私達には言えないような事件に巻き込まれてるとか!」
「それだったら、の属しているイルザの組織に何らかの動きがあるはずだ。僕の手持ちの通信機では、組織から何の連絡もない。は今のところ、無事だ」
「でもっ」
「――いい加減にしてくれ」
「グ、グラン?」

 ガタン。グランは席を立つと本を棚に戻して、ドアを開けた。

 ルリアはグランの優しい顔から無表情に変わる様を見て、息を飲む。

 しかしルリアは何もできず、そこから自然とグランに部屋を追い出される形になる。

「皆がどうして艇に乗らなくなったを気にするのか分からない。で、そこでユーステスとゆっくり落ち着いているかもしれないのにさ」
「……」
「ルリアもを気にせずもう、ゆっくり休むといい。今日は僕がルリアを無茶させ過ぎたせいで、疲れているだろう」
「私はこの夜にフェードラッヘのレストランで食事をしているので、もうそこまで疲れていませんよ!」
「ははは。僕のおごりでも構わず自分の欲望のままに食べるルリアの食べっぷりは見ていて、気持ちがいい。僕もそんなルリアを見ていて、癒されたよ」
「グラン、それじゃあ……」
「カタリナもいつまでも部屋に戻らないルリアを心配していると思う。ルリアは今夜はもう休むといい。それじゃあ、お休み」

「お休みなさい……」

 バタン。ルリアの前で無情にもドアが閉まった。

「グラン……」

 ルリアはドアが閉じても部屋の前で、カタリナが呼びにくるまで彼をいつまでも心配していた。