「、か。武器も魔法も扱えず力を持たないはどうして僕達の団に入ってきたんだっけ。そうだ、ユーステスの紹介で彼が仕事で居ない間にうちで預かってくれないかと、それで僕達の艇に来たんだよな……」
ルリアを部屋から追い出したグランは、ベッドに横になった状態でユーステスの紹介でと初めて会った時の事を思い出していた。
昔の話だ。一年前の。
「――彼女は、という。一応、俺の恋人だ」
淡々とをそう紹介したユーステスに、自分はもちろん、ビィとルリアだけではなく、イオとロゼッタ、カタリナとオイゲンとラカムもとても驚いた様子だった。
それもそうだ。あの組織でも誰とも群れず一匹狼で冷徹非情のユーステスに彼女が居るというのに驚いたし、何よりも。
「彼女は武器も魔法も扱えなくて戦闘に関しては素人だが、それ以外の事はやれると張り切っている」
武器も魔法も扱えない普通の女を彼が相手にするとは、夢にも思わなかった話である。
「俺の居ない間には好きなように扱ってくれて構わない。それじゃあ」
ユーステスは言うだけ言って、を残して一人、さっさと艇を降りていってしまった。
武器も魔法も扱えない? それで、ユーステスの彼女になれるのか? 全員がいまだに狐につままれた気分でを見れば彼女はにこにこ笑って自分に向けて頭を下げた。
「あ、あの、ユーステスの紹介であったよう武器と魔法は扱えませんけど、料理や掃除は得意です! よろしくお願いします!」
料理と掃除に関してはファスティバとローアイン達、そして、メイド稼業のクラウディアとドロシーが居るので今のところ、の手は必要無い。
どうするか、と、彼女の扱いに頭を悩ませていると最初にカタリナから手があがった。「私の剣で彼女の実力を試したいのだが、いいか」。断る理由が無いので、カタリナの好きなようにしてもらった。
結果。
「おいおい。彼女は、本当に武器も魔法も扱えないそのへんに居る一般人と変わらない人間だったのか。いや、普通の人間はそれでいいと思うが、君、よくそれでユーステスの彼女になったな」
「いやあ、それほどでも」
えへへ。試験の結果はボロボロで、それに呆れるカタリナと違っては、ユーステスの彼女、と言われて、嬉しそうだった。
オイゲンからも「あの組織の連中は、戦術に長けているというが。もそれの勉強をしているというなら、その実力が見たい。俺の銃の弾がどこからくるか、それを予測するのできるか?」と注文があったので、彼にもの相手をしてもらったところ。
「俺は知らん。一抜け」
オイゲンはさっさとサジを投げてから離れて、自分の持ち場へ行ってしまった。
次にラカム、ロゼッタを見れば「用事を思い出した。後任せた」と言って、からあっさりと離れた。
一人残されたは、団長のグランに狙いを定めて懇願する。
「あ、あの、何か仕事ありませんか?」
「ユーステスはは武器も魔法も扱えないがそれ以外の事はできると話していたけど、何ができる?」
「え、えっと、家事全般――、掃除や料理は得意です!」
「……それじゃ、廊下の掃除でもするかい?」
「お任せを!」
グランは思ったより何もできないに参った様子でどうしようもなくてその仕事を与えたに過ぎなかったが、は張り切ってホウキとバケツを手にして意気揚々と掃除に取り掛かったのだった。
それから。
はグランに言われた仕事を守るよう、掃除に精を出していた。
真面目に掃除を続けているのが良かったのかそれでイオに注目され、イオからルリアを紹介され、掃除だけではなくルリアで星晶獣の勉強を頑張っているとカタリナ、ロゼッタから「ルリア相手によくやってるな」という評価を得られ、オイゲンからも「中々根性あるな」と、の仕事振りに感心した様子だった。
ただ一人を除いては。
「そうだ。艇長のラカムだけは、掃除しようが星晶獣の勉強を続けようが、何もできないのに変わりないに関して最後まで素っ気無かったな。ラカムだけじゃなくても、力を持たないをよく思わない団員は何人か居て、力を持つ人間達からすれば力を持たない役に立たないに素っ気無くなる彼らの気持ちは分かるから、僕はラカムと彼らとの関係はお互い歩み寄るまで、無関心で貫いていたけれど――」
――それがいけなかったのか、が勝手に艇から外に出て行ってちょっとした騒ぎになった事を思い出した。
これも昔の話の一つだ。
「あの、グラン。さん、見ませんでした?」
ルリアが不安そうな顔で声をかけてきたのは、昼ご飯が終わった昼過ぎの話だった。
「そういえば、昼から見ていないな。ルリアは、と何か約束でもしてたの?」
「はい。午後からは、さんと星晶獣の勉強会をやる予定があったんです。さん、いつもは私との勉強会に張り切って出席していたのに、今日に限って姿が見えないんですよ。どうしたんですかね、心配です……」
「は朝は、僕が与えた仕事の掃除をやってたのを見かけたけど。分かった。僕もを探してみるよ」
「ありがとうございます。ほかの皆さんにもさんを見なかったかって、声をかけておきます……」
ルリアは本当に残念そうに肩を落とし、ほかの団員達にを見なかったかと声をかけにいった。
因みにこの当時のルリアはに「さん」をつけて、少し距離をとって彼女と付き合っている。
自分もほかの団員達に「を見なかったか」と声をかけるも誰も「見ていない」と首を横に振るばかりで、中には「この団が耐え切れなくなって逃げたんじゃないの?」と物騒な事を口にする団員も居たが、それは無視して捜索を続ける。
夜になっての居場所が判明した。
それの情報を持ってきたのは、ロゼッタだった。
「え、、昼に勝手に外に出て今まで帰って来ないって?」
「ええ。空を監視していたユグドラシルによればちゃん、どうもお昼頃に勝手に外に出て行って、それから艇に帰って来ないみたいなの」
ルリアと同じく心配そうにそう報告したのは、普段は声を発しないユグドラシルの声が聞こえるロゼッタである。
「何では勝手に外に出て行ったんだ。まさか、力を持たないゆえに本当にこの団に居るのが嫌になって外に飛び出していったのか? そうなら、私は悲しい……」
「ふーむ、ユーステスの女というだけあって、けっこう骨のある奴だと思ってたんだがなあ」
カタリナとオイゲンは、力を持たないがグランの団に耐え切れなくなって外に飛び出したものとみて、本当に残念そうだった。
グランも「力を持たないに無理させてたのかな……」と、自分の行いを反省するしかなく肩を落としていたが、その時に声をあげたのは。
「そ、そんな事はありません!」
「ルリア」
ルリアは仲間達に向けて、自分の思いをぶつける。
「さんは、私との星晶獣の勉強を本気でやっていましたし、グランが与えたお掃除のお仕事も真面目にやっていました! それだからユーステスさんが自分を迎えに来てくれるまで艇を降りる気ないとも、笑っていたんです。そのさんが勝手に外に出て艇を降りるなんて、考えられません!」
「ルリア……」
ぜえぜえと息をきらして倒れそうになってもその主張を続けるルリアを支えるのは、カタリナだった。
「……そうね、あたしもルリアの意見に賛成だわ」
「イオ」
ルリアの次に手をあげたのは、イオである。
「あたしもルリアと同じで、この団を紹介してくれたユーステスの顔に泥を塗りたくないから、ユーステスが迎えに来るまでは艇を降りる気ないって、から聞いてたのよ。そのが勝手に艇を降りるなんて考えられないわ。外に出て行ったのも、何か事情があると思うんだけど」
「……そうね。ルリアちゃんとイオちゃんの言う通りで、艇の上空をただよっていたユグドラシルによればちゃん、普通に近くの港から艇を降りていったって話してたわ。多分、団を抜けるとかじゃなくて、誰かに誘われて艇を降りたんじゃないかしら」
イオに続いてロゼッタも艇の上空をただよっていたユグドラシルの証言で、は勝手に団を抜けるつもりで艇を降りたわけではないと、グランに向けて伝える。
「誰かに誘われて普通に艇を降りていったというユグドラシルの証言を信じるなら、単純に近くの島まで買い物に出かけたとか? それでも、夜には帰ってくると思うけど……」
「なあ、普通にを港で降ろしたのであれば、艇長のラカムが何か知ってるんじゃないか。そういえば、ラカムはどうした? さっきから姿が見えないが、誰かラカムにの事情を聴いてるか?」
グランのの推察を聞いてビィはふとラカムの姿が見えない事に気が付き、あたりを見回す。
そういえば、皆が集まる中でラカムの姿が見当たらないのに今になって気が付いた。
グラン達は不安を抱きつつ、ラカムが居るであろう艇長室に向かった。
「? ああ、はオレの判断で近くの港に降ろしたぜ。オレは、近くの島で降ろしてくれと、に頼まれたんだ。の行先を聞いてるか? もちろんそれ聞いて艇から降ろした。の行先は――」
ラカムはに頼まれて近くの港に彼女を降ろしたと、あっさりと白状したがしかし。
「はあ、何で力を持たないを星晶獣や魔物が巣食う島――ルーマシー群島に降ろしたんだ!」
「キラキラした目でそんな島があるなら見てみたいって頼まれては、それ断れるか! オレだって一応は無力で戦えない奴がそこ行くのは危険だから止めとけって忠告したが、ルーマシー群島の星晶獣を観察できれば組織の――ユーステスのためになるし一応は対策立ててるので大丈夫と張り切った様子で言われて止められるか!」
グランはラカムと喧嘩腰になって言い合いを続けながら、武装して島に降りる準備を始める。ほかの仲間達も同じだった。
その間。
「あ、あの、さんがルーマシー群島に興味持ったの、私のせいかもしれないです……。星晶獣の勉強会でもっと星晶獣を詳しく知られる場所知らないかって聞かれてそれで……」
「あたしもから、ユーステスのために何か知られてない星晶獣が居る場所知らないかって聞かれて、ルーマシー群島なら未知の星晶獣が居るかもって話した事あった。ルリアのせいじゃないよ」
がルーマシー群島に興味を持ったのは自分のせいだと申し訳なさそうに打ち明けるのはルリアで、ルリアと同じように彼女にルーマシー群島について教えたイオも落ち込んでいる様子だった。
「今は、誰かの責任を問う必要は無い。ルーマシー群島でを見つけるのが先決だ。に何かあれば、うちを信用して彼女を預けた組織のユーステスはもちろん、イルザに申し訳ない。急ごう」
グランは責任を感じるルリアとイオに向けてそう言って、一行は急いでルーマシー群島に向かった。
「ユグドラシル、ちゃんの居場所分かる?」
「――、――」
ロゼッタは、ルーマシー群島の出身であるユグドラシルを連れての捜索を開始する。
ユグドラシルの力のおかげで、はあっさり見つかった。
はルーマシー群島の港の近くにそびえる大樹の中にできた空洞の中で、うずくまっていた。
「!」
「!」
空洞の中で震えてうずくまっていた所を、カタリナの手で引っ張り出される。
そして――。
「君はバカか! 未だに学者達も知らない未知なる星晶獣が巣食うと言われるルーマシー群島は、星晶獣だけではなく魔物も多く出没するので有名な場所で、そこは熟練の騎空士達でも念入りの準備をしないと中々入れない島であるのを分かっていたのか! 力を持たない人間であるならそれらしく行動しろ! ルリアが勝手に外に出て行った君をどれだけ心配したと思う、ルリアだけじゃない、団長も力を持たない君の扱いに困ってる中でのこの行動は私も呆れるばかりだ、帰れば反省室行きであるし、この件は組織のユーステスとイルザ達にも隠さず報告するからな、覚悟しておけ!」
「カ、カタリナ、私はさんが無事に見つかれば十分ですよ。そこまでで――」
カタリナは今までたまっていた怒りをにぶつけ、その迫力にイオはロゼッタの影に隠れ、ルリアも慌てて彼女を止めに入るがしかし――。
「う、う、う……」
「え」
「うわああ、怖かった、誰も迎えに来てくれないと思うと怖かった、うわあああ」
目にいっぱい涙をためて泣き出してしまったを前に、カタリナは彼女を叱責する意欲が失せ、ルリアは「はわわ、はわわ」とオロオロするばかり、イオはロゼッタの陰に隠れたうえでそこから顔を出すもロゼッタの手を握って彼女と寄り添うだけで、ビィとオイゲンとラカムは泣きじゃくるをどう扱っていいか分からない中で――。
「――、君が無事で良かった。それだけで十分だ」
「団長さん……」
ぐすぐす。泣きすぎて鼻水をすするにハンカチを差し出し彼女の頭を優しく撫でるグランと、グランの優しさを感じて手で涙を拭うと。
「皆で一緒に帰ろう。話はそれからだ」
「はい!」
グランの優しさにだけではなく、ルリアもそれに触れていつもの調子を取り返したのだった。
ルーマシー群島から無事にグランサイファーの艇に戻り、グランはと二人きりで彼女と向き合い事情聴取を行う。
「ルーマシー群島に降りるのに、一応、港の掲示板で騎空団に属している騎空士募集した?」
「はい。ルーマシー群島は星晶獣だけではなくて魔物も多く出没する危険な場所であるというのは私でも分かっていたので、一応、私についてきてくれる騎空団に属している騎空士さん、港で募集したんですよぉ」
「それじゃ出発する前、のそれに応じてくれる騎空士、見つかったのかい?」
「はい。ルーマシー群島までついてきてくれるっていう騎空士さんというか騎空団が見つかって、それ信用して彼らに今まで貯め込んでたお金全部渡して、約束の日――今日になってラカムさんに頼んで港で降ろしてもらったんです。でも約束の時間になっても彼らは港に姿を見せず、現地集合になったのかな? って思って一人でルーマシー群島に行ったのに、夜になっても全然来てくれなかったんですよ。外では夜になるにつれて魔物も多くなってきて、私一人ではどうしようもなくて、それで……」
それで入り口付近の大樹の空洞に隠れて誰か助けにきてくれるのを待っていたと。
の説明を聞いてグランは、その騎空団に心当たりがあった。
「、君、その騎空団に騙されたんだ。最近、詐欺行為を繰り返す厄介な騎空団が居るから気をつけろとは、秩序の騎空団のモニカとリーシャから聞いてたんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。その騎空団、騎空団に属していない素人の人間を港で見つけては、彼らが騎空団について何も知らないのをいい事に、相場の倍の高額な依頼料を要求してくるとか。おまけに引き受けた依頼は実行せずに後は逃げて、お金だけ持ち逃げされるんだ。しかもその騎空団、メンバーがコロコロ変わって誰がリーダーか分かりづらくしていて、それで被害者の相談を受けて捕まえに行ってもすぐ逃げられるって、秩序の騎空団のモニカとリーシャが愚痴ってたのを聞いた事があった」
「ああ、大金はたいて依頼したのに、その詐欺集団の騎空団に騙されていたとは……。これではイルザさんどころか、ユーステスにも顔を合わせづらいです……」
はグランからその事実を聞いて、これではユーステスはもちろん、イルザにもあわせる顔がないと、がっくりと項垂れる。
グランは溜息を一つ吐いた後、言った。
「それ以前にはどうして、僕達を頼らなかったんだ? 未知なる星晶獣を見てみたいという君の話を聞いていれば僕達で、ルーマシー群島まで行っていたし、よその騎空団に騙されるなんて事もなかったのに」
「それは、その、力を持たずにグランサイファーの団員でもない私がこの団の力を借りるの気が引けまして……」
「僕は、僕が与えた掃除の仕事でもルリアの勉強でも、真面目に頑張っているを知っている。それだから誰が何を言おうがはもう、グランサイファーの団の一員だ。団の一員がこの団の力を借りなくてどうする」
「団長さん……」
「次からは団長の僕か、僕に言いづらければルリアかイオを通じて話をつけてくれるか」
「分かりました。次からはルリアちゃんかイオちゃんに相談してからにします……」
今回ばかりは堪えたのか、はグランの話をしっかり聞いて、うなずいている。
そして。
「、君と接触して君を騙した詐欺集団の騎空士の騎空団の名前かそれの特徴、覚えてるか?」
「覚えてますけど、無力な私では彼からお金取り戻すのは難しいです。このままじゃ本当、組織の拠点にも帰れません。どうしようかな……」
「は無理だろうけど、僕の団ならその詐欺集団の騎空団から奪われたお金くらいは取り返せると思う。それでお金を取り返せたら、イルザとユーステスも君の一度の失敗くらい、笑って許してくれるんじゃないかな?」
「え、えっと、私、団長さんに迷惑かけっぱなしなのにそこまでしてもらうのはどうかと……」
「気にするな。今回の件は、その詐欺集団の騎空団の話をにしていなかった団長の僕にも責任があると思うし、何より――」
「何より?」
グランは真っすぐを見据えて、言う、言ってやった。
「――何より、ルーマシー群島に行くのに僕の団を使ってくれなかったに、もっと僕達の事を知って欲しいと思った」