君は空色(04)

 結果。

 翌朝になってグランはビィとルリア、いつものメンバーを率いて、を騙した詐欺集団の騎空団の住処をの証言をもとに発見し、から預かっていた彼女に接触したメンバーの似顔絵を頼りに討伐に成功、彼らをモニカとリーシャの秩序の騎空団に引き渡す事に成功したのであった。

 そして。

 夜になってグランは自分の騎空艇に帰還し、そこではいつもの仲間達――ビィ、ルリア、イオ、カタリナ、ロゼッタ、ラカム、オイゲンも集う。
 
 昼の間は問題が片付くまで組織の拠点に帰るわけにもいかないので近くの島にあるとある街の店でぶらついて、夜になって掲示板に「討伐成功」との書き込みがあったのでは、グランサイファーが停まってある港まで急いだ。

 彼らの帰りを待っていたにグランは、一枚の封筒を差し出した。

、これ、君があいつらに奪われていたお金。その金額を見るには無力なのを狙われたのか、やはり相場の倍――いや、それ以上の金額を吹っ掛けられていたようだ。これには秩序の騎空団のモニカとリーシャもに同情的だった。僕達であいつらからそのぶんを取り返しておいたから確認してくれるか」

「わあ。ありがとうございます! さすがグランサイファーですね!」

 はグラン達で自分のお金が取り返せた事に、素直に喜ぶ。

 それからは封筒の中身を確認、しかし――。

「あれ、でも、この金額、多いです。私、ここまで彼らに払った覚えありません。これ、誰かのと間違えてませんか」
「それね、モニカとリーシャの秩序の騎空団からのお礼も入ってるんだ。はその額を受け取って問題ない」

「ええ? 私、秩序の騎空団にお礼もらうような事は全然していませんよ!」
「これは、君のぶんだ。受け取ってくれ」

 は秩序の騎空団からのお礼も含まれていると聞いて及び腰になるも、グランは強引に彼女に封筒を押し付ける。

「秩序の騎空団のモニカが言うには、があいつらに騙されていなければ僕達の団の協力を得られず、今まで素人相手に詐欺を繰り返していた詐欺集団の騎空団を捕まえられなかった、感謝する、その分、色をつけておいたってさ。おまけに僕達も、のおかげでモニカ達から思ってないほどの額の報酬を得られて久し振りにご馳走が食べられるほど潤って、満足してるんだ」

 一息ついて続ける。

「それからモニカが力を持たないまでも犯人の顔を忘れない記憶力とわずかな時間で彼らの人間関係を把握していた観察力は感心した、おかげで今まで分からなかったリーダーが誰か早めに分かってそいつを逃がさず捕まえる事ができた、何かあればまたを使いたいとも話していたな、どうする?」
「い、いや、力を持たない私なんかが秩序の騎空団に協力できるわけないですし、そう言われてもここまでのもの、受け取れない――あ」

「――その色がついたぶんは、今後も見据えて、受け取っておいた方が良い」
「そうだな。はこれで秩序の騎空団とも縁ができたんだ、それを受け取って損はないと思う」

 ひょい、と、の手からその封筒を引き抜いたのは。

「ユ、ユーステス、うわ、それから、イルザさんも!」

 いつの間にか背後にユーステスが居て彼はの手から簡単に封筒を受け取り、彼だけではなくイルザの存在もあり、イルザの登場には驚いてのけ反り、情けなくもルリアとイオの陰に隠れる。

 イルザは、ルリアとイオの背後に隠れるに容赦しなかった。

、無駄な抵抗はやめておけ。が詐欺集団の騎空団に騙された話は、私とユーステスは全て聞いている」
「うう……」

 イルザに強く言われたは観念して、イルザの前に出る。

 イルザは腰に手をあて呆れた様子で言った。

「全く。詐欺集団の騎空団に騙されるなんざ、見習いとはいえ、うちの組織の人間では今までなかった事で、これは組織にとっても前代未聞の失態だ。これには組織のトップであるローナンも呆れていたな」

「うわ、今回の件でユーステスの保護者のローナンさんの印象まで悪くしたんですか? どうしよう……」

 この時はまだ、組織内にローナンとハイゼンベルクも健在だった。

 からすればユーステスの保護者代わりのローナンには自分には良い印象を持ってもらいたかったが、今回の件でそのローナンの評価が落ちたのはさすがに堪えて、落ち込む。

 しかし。

 イルザは言う。

「いや、ローナンはの失態に呆れてはいたが、がそこまで落ち込むまでの評価は下げていないように思った」

「ええ、本当ですか?」

「ああ。後で私と同じその場でローナンの様子を見ていたユーステスに聞いてみるといい、なあ?」

「……」

 はそう言ってくれるイルザを疑うも彼女はユーステスの方を見て、何故か笑っていた。ユーステスはその時のローナンの様子を思い出してか、腕を組み、それに関しては何も言わずに黙ったままだった。

 組織の拠点内でイルザからの失態の報告を聞いた時にローナンは、目の前に居るユーステスとイルザから顔を逸らし「まさか、見習いではあるが一応は私の組織の人間である彼女が詐欺集団の騎空団ごときに騙されるとは夢にも思わない事で、私の組織ではこの件は前代未聞ではあるが、彼女で今まで動かなかった団長達が動き、おかげで犯人逮捕に繋がったというここまで面白い話はほかにないな。彼女はどこまで私を楽しませてくれるんだ」と、肩を震わせ笑いを堪えている風であるのはイルザだけではなくユーステスでも分かった。

 組織内ではイルザからも恐れられるほどのローナンすら別の意味で手玉に取れるの仕業に、ユーステスは顔を引きつらせるしかなかったのである。

 因みに隣でローナンと同じようにその報告を聞いていたハイゼンベルクは表向きは素知らぬ顔で冷静に構えていたが、紅茶が注がれたカップを持つ手が震えていたという――。

「まあ、はローナンの評価は今は気にする必要はない。は組織の拠点に帰ればローナン行きではなく、反省室行きだからな」
「うええ、あのゼタが震えるほどの反省室行きですか……」

 はイルザはグランほど優しくなく容赦しないと分かっていたが、あのゼタも震えるという反省室行きとは思わずそれは恐怖でしかなく。

 しかしはここで、ある疑問をイルザにぶつける。

「で、でも、私の指導者のユーステスは分かりますけど、この件でイルザさんまで来てくれるとは思いませんでした。イルザさんは、団長さんに言われて来たんですか?」

「団長ではない。実は、私と秩序の騎空団のモニカとは、旧知の仲でね。今回のの騙された話は、そのモニカから直接事の経緯を聞いていて、団長達で全てが終わってから此処まで駆けつけたんだよ」
「ええ、そうだったんですか? 私はここで、イルザさんと秩序の騎空団のモニカさんが知り合いとは初めて知りましたよ」

 はゼタ達からイルザの交友関係は幅広いと聞いていたが、秩序の騎空団のモニカとまで懇意の間柄とは、初耳だった。

 イルザは溜息を一つ吐いた後、言った。

「しかし団長が話していたようにそのモニカから力を持たずともわずかな時間で詐欺集団の犯人達の特徴とその役割を見抜き、それのおかげで迅速に犯人逮捕に繋がった、そのは称賛に価するという評価を得られたのは、我々組織としても胸を張っていい内容だ」
「それじゃあ……」

「うむ。それ考慮して反省室行きはまた次回、今回は反省文、それから、この団のルリアで得たという星晶獣の知識に関するレポートの提出で手を打とう」

「わあ、モニカさん、ありがとう!」

 はゼタすらも震え上がるという反省室行きがモニカの評価のおかげでなくなって、この場には居ないモニカに向けてお礼を言って、嬉しそうに跳ねる。

 と。

。お前、秩序の騎空団のモニカからその評価が得られたくらいで、調子に乗るな」
「ユーステス」

 嬉しそうに跳ねるの腕を捕まえて自分の方へ引き寄せるは、今まで黙って彼らの話を聞いていたユーステスだった。

「今回、が詐欺集団の騎空団に騙された件は、組織内の指導が行き届いていなかった俺の責任でもある。組織の拠点に帰れば再教育だ、その間はグランサイファーに乗れないからな、覚悟しとけよ」
「ええ、イルザさんは反省文と星晶獣のレポートで十分だって言ってるよ! 再教育なんて、そこまでしなくても良いんじゃないかな」
「イルザと俺は別口だ。これ以上に俺の見習いであるお前の失態が続けば、お前の指導者である俺の評判も下がるからな」
「ねえねえ、ひょっとしてその再教育の間、私、私の指導者のユーステスと二人きりで居られるの? それなら、再教育も悪くないかも~」
「さあな。一応、の指導者は基本的は俺だが、俺に仕事が入ればグウィンかゼタに代わるかもしれん」
「えー。私の再教育の指導者、グウィンかゼタよりユーステスが良いよ! ローナンさんもその間くらい、私にユーステス貸してくれても良いんじゃないかな」
「お前、再教育の意味分かってるのか……」
「分かってるけど、再教育の指導者の希望を言うくらいは許されるんじゃないの?」

 それからはイルザの方を振り返り、彼女に向けて懇願する。

「イルザさん、私の再教育の指導者にユーステスつけて欲しいって、イルザさんでローナンさんに頼めませんか!」
「……そうだな。が反省文とルリアに教わった星晶獣のレポートをちゃんと仕上げたうえで、その出来が良ければ、私からローナンにの再教育の指導者としてユーステスをつけてやってくれないかと、進言してやってもいいが」

「やります、やります! ユーステスと再教育できるなら、それくらい、やってやりますよ!」

 はイルザから反省文と星晶獣のレポートによってはユーステス付きの再教育も考えると言われ、張り切る。

「全く。秩序の騎空団のモニカに力を持たないまでもあそこまで面白い女中々居ない、うちにもを紹介して欲しいと言われたが、モニカはユーステスのためなら私やローナン相手でも物怖じしないを見れば絶対気に入るからな、そのモニカにを紹介するのはまだ早いな……」

 イルザは自分の前やローナン相手でもユーステスのためならとその調子を崩さないを見て、モニカにを紹介すれば彼女はオモチャのように可愛がられ、リーシャからも自分と同じように妹扱いして可愛がられて、秩序の騎空団から組織に戻って来ない危険性があるのでを秩序の騎空団に紹介するのはまだ当分無理そうだと、内心、苦笑する。

 そうやってイルザがを引き受けている隙を見て、ユーステスは団長のグランに近付き、申し訳なさそうに頭を下げた。

「団長、うちのが色々迷惑かけてすまなかったな。今後はこのような事がないよう、彼女を徹底的に再教育してから出直すつもりでいる。もし、団長が今回の件で懲りて力を持たないはもうこの艇に乗らなくていいと言うなら、そうするが……」

「いや、その力を持たないのおかげで僕達も詐欺集団相手に暴れてすっきりできておまけに臨時収入が得られて満足しているから、そこは気にするな。それからはこの艇でも掃除に料理にとよく働いてくれているし、居るだけで団が明るくなるから、次も彼女をうちに預けてくれて構わない」

「そうか……」

 ユーステスに申し訳なさそうに言われるもグランは、次はいつが艇に乗ってきてくれるかと、彼女が乗ってきてくれるのを楽しみにしていると彼に伝え、ユーステスの方はグランの思ってない反応に少し考え込んでいる。

 と。

「ユーステス、。迎えの艇が来る時間だ。そろそろ組織の拠点に帰るぞ」

「それじゃ、次があればまた世話になる」

 イルザから声がかかり現実に戻されたユーステスは、グランに手を振ってから彼から離れる。

もさっさと俺達について来い、帰るぞ」
「はい、はい」

 はユーステスに引っ張られる形で、嬉しそうに彼についていく。

「あ、組織の拠点に帰る前にちょっと待って」
「何だ、まだ何かあるのか」

 はユーステスから離れると真っ直ぐに事態を見守っていたグランに駆け寄り、そして――。

「団長さん、詐欺集団に置き去りにされた私を助けにきてくれただけじゃなくて、詐欺集団からお金を取り返してくれて、ありがとう! 組織での再教育が終われば、また団長さんの艇にお世話になりたいと思ってるから」
「!」

 ぎゅうっと。は周囲の目も気にせずグランを強く抱き締めて、お礼を言ってから、すぐに彼から離れた。

「本当にありがとう、それじゃあまたね!」

 はルリア達に向けて大きく手を振って、ユーステスとイルザと共にグランの艇を出て行ったのだった。


「やれやれ。嵐が過ぎ去った後か。彼女が居ないだけでこの艇もしばらくの間は静かになると思うが、それはそれで寂しいものがあるな……」
「ふふ、またが来てくれるの、楽しみですね」

 が立ち去ったのはいいが組織での再教育でしばらくは艇に来られないと分かったカタリナは彼女が立ち去った後の静けさを寂しく思い、ルリアは次にが来てくれるのをとても楽しみにしている。

「あたし、今回ではユーステスだけじゃなくて、あのイルザ相手でもいつもの調子と変わらない面白い子だって再認識できたの、良かったと思うわ。次来た時はもっと、と話したいなぁ」
「そうねえ。ユグドラシルもルーマシー群島に置き去りにされても島のものを何も傷つけなかったちゃんをを気に入ってるみたいだから、今度はちゃんとちゃんにユグドラシルを紹介したいわね」

 今回の件でイオはイルザ相手でも変わらないに好感を持ち次から本当の友達になって、ロゼッタは次に来た時はルーマシー群島で置き去りにされても島のものを傷つけなかったを気に入ったユグドラシルをちゃんと紹介しようと思った。

「全く。武器も魔法も扱えずそれで詐欺集団に騙されようが組織の再教育を受けようがまたこの艇に乗りたいなんて思うところは、根性あるぜ。さすがあのユーステスの女になっただけはある、か」
「だな。俺ものそこは再評価していいと思うがしかし――」

 ラカムはこれがきっかけでのその根性に今までの彼女に対する考えを改めるようになった。

 オイゲンはラカムと同じでを再評価していいと思ったがしかし、一つ気がかりな点があった。それは。

「グラン、グラン。グラン、さっきから動かないが大丈夫か」
「……」

 ビィは、に強く抱き締められたせいかさっきから身動きせずにが出て行った方を見詰めるだけのグランを心配する。

 グランはビィに心配かけまいと、一言、呟くように言った。

「ビィ、女の子ってやわらかかったんだな……」
「は? 何言ってんだ? の力が思ったより強かったのか?」

「……」

 ビィに心配かけまいと言った一言は反対に心配されてしまったようだが、グランはその時ののやわらかい感触はまだ忘れていなかった。

「……、の奴、あれだけで純朴だった少年を覚醒させるとは、中々やりおるわ。団長もあれだけで男付きの女が気に入るなんざ、先が思いやられるわな」

 ははは。なんの気も無いに抱き締められただけで彼女に傾倒したグランを見抜いたオイゲンは、力無く笑うしかなかったという――。



 そして時は現在へと。

「……そうだ、あの詐欺事件があって怖い思いをしてもはあっけらかんとした顔でまた僕の艇に乗って来て、そのさいにイオとルリアとも本当の友達になって、団の仲間達もの扱いを改めるようになって本当の仲間入りを果たしたんだった。これがあった後に最後まで素っ気なかったラカムも、にコーヒーを注文してくれるようになったんだっけ」

 グランは天井に向けて手を伸ばす。

 で思い出すのは、誰の前でも普通に笑える所、誰の前でも普通に泣ける所、誰の前でもユーステスのためと、その姿勢を崩さない所――。

 思う事がある。それは。

「……そうか、僕は、この団でもほかでも、ユーステスのために頑張るを見るのが好きだったんだ。彼女のコロコロ変わる表情も行動も、全部、そのユーステスのためにあるものだ」

 気が付いて、おかしくなって、笑えて、そして。

 天井に向けた手を、自分の胸にあててみる。

「それでも僕はが居るだけで退屈しないし、彼女が居るだけで団の全体が明るくなるのを知ってる。僕は、力を持たないせいでほかの団員から疎まれようが、そのを手放したくなくて、彼女に会いたいと思ってる」

 今までモヤモヤしていた気分は、ユーステス関係なく、に会いたいと思ったせいだ。

 それが分かれば話は早い。

 グランは、ルリアが持っていたスツルムからもらったという地図を持ち、その宿泊場所を見詰める。

「明日になったら、皆でに会いに行こう」

 久し振りに今夜はぐっすり眠れそうだと思った。

 翌朝。

「グラン、グラン! 起きろ!」
「うわ、何だ?!」

 カン、カン! けたたましい音が聞こえて、飛び起きた。
 見ればビィがフライパンと棒を持って、棒でフライパンを叩いている音だった。

 グランはもうすぐ昼の十一時になる時計と、フライパンと棒を抱えるビィを見比べる。

「なんだビィ、今朝は何も予定無かったはずじゃなかったか」

 依頼の予定があってその約束の時間に間に合わない時は、ビィかルリアが同じようにフライパンで起こしてくれるが、今日は何も依頼が来ていなかったはずでは。

 ビィは言う。

「いや。ルリアがよぉ、この数日、不安定なお前が元気になれるようにって、暇な団員を艇の食事会に招待したんだ。昨日の夜の間にせっせと団全員が一丸となって招待状を作って招待状を出せば、思ったより多くの人間達が来てくれてな。入りきらない団員達は、シェロカルテが用意してくれた別のレストランで待機してもらってるほどだ」
「は?」

 ルリアが不安定だった自分を思って、暇な団員達を艇の食事会に招待した?

 そういえば、上の方が騒がしい。甲板の方から複数の足音も聞こえる。

「……団の食事会という事は、ファスティバとジャミル、ローアイン達も来てるのか?」

「ああ。ファスティバとジャミル、ローアイン達も元気のないグランを心配して、ルリアのそれに賛同するよう、急遽駆けつけてくれたぜ。あいつらが来てくれなかったら、どういうわけか姐さんが自分がお前のために料理するって言って聞かなくてなあ、その点はあいつらが来てくれて助かったぜ」

 ビィは、ファスティバとローアイン達が来てくれたおかげでカタリナの手料理を出さなくてすんだと、ほっとした様子だった。

 そして、ファスティバとローアイン達といえば。

「そ、それじゃあもそれに参加してるのか?」
「いや、はそれには参加してないぜ」

「そうか……」

 期待を込めた目でビィを見詰めれば、ビィからあっさりとそう返事があった。

「ファスティバとジャミル、ローアイン達で朝早くから食事会の料理を用意して招待客の団員達に振舞える所まできたが、肝心の主役がまだ寝てるんじゃ食事会はいつまでたっても始まらない。グラン、気分はどうだ? いつものよう、皆の前に出られる気分か?」
「ああ、もう大丈夫。皆の前に出られるよ」
「それは良かった。甲板で腹を空かせた大食い勢のルリアとコルル、ほか数名が待ってる、急いで準備しろ」
「了解」

 今日は皆でに会いに行こうと思ったが、ルリアが皆を招待したという話を聞けばそれに顔を出さないわけにはいかない。グランは今はより、ルリアを優先した方が良いと思った。

 グランはビィにせかされ、身支度を整えてから、団員達が集まっているという甲板に顔を出し、そして――。


「団長さん、出て来られるようになったんですか!」
「調子悪いって聞いてたけど、大丈夫?」

 十二神将のアニラを中心に、クピラ、アンチラ、マキラ、ヴァジラ、ピカラ、シャトラのいつもの面々がグランが調子が悪いと聞いて、集まったという。

「団長さん、調子悪いって聞いたけど、出てきて大丈夫かい?」

「いい薬あるんだけど、どうかな?」
「団長さん、姉さんの薬はあてにしない方がいいですよ」

 シエテを中心に、エッセル、カトル、ウーノ、ニオ、シス、ソーン、サラーサ、フュンフ、オクトーの十天衆が勢ぞろいしている。
 シエテによれば「十天衆の皆がここまで一同に集まるのは久し振りなんだよ。これも皆が調子の悪い団長さんを心配してくれたおかげだよ」と言って、上機嫌だった。

「団長。ルリアの招待状には訓練生のアーサー達だけではなくて、先日に団長の相手になってくれた熟練の騎士達の名前もあったが、艇に入りきらないと思って俺とヴェインの二人が代表で来たんだ。この人数を見れば、俺とヴェインだけで正解だったな」
「うむ。うちの熟練の騎士達だけではなくて訓練生のあいつらも、いつもと様子の違ってた団長を心配してたからなー。しかし、団長を心配してくれる人間が此処まで居るとは俺も思わなかった。団長の好感度って、凄かったんだな」

 先日、鍛錬の相手をしてくれたランスロットとヴェインも食事会に顔を出して、ランスロットはグランを心配してきてくれた仲間の人数を見て苦笑して、ヴェインもグランのために此処まで集まった仲間達を見て感心している。

「ふふ、お姉さまから直筆の招待状は貴重で家宝ものです。いつでもその美しい文字が見られるよう、ドレスの秘密の箇所にしのばせて肌身離さず持っておかなくては、ふふふ……」
「ヴィーラさん、それはさすがに変態じみてませんか。先輩の直筆の招待状は、宝箱に閉まって夜中に開けてニヤニヤするのが定番っスよ」

「どっちもどっちだと思うが……」

 夜にルリア達と手分けして招待状を作っていたカタリナの直筆の招待状が届いたヴィーラとファラはそれだけで満足そうに不敵な笑みを浮かべ、その二人の様子をユーリは呆れて見ていたという。

 ほかにもオイゲンが連れてきたというジンとソリッズ、オーキスとアポロも参加、それ以外ではサラとボレミア、ジュリエットとロミオ、アリーザとスタン、コルワとメーテラとスーテラの三人、アンとグレアとオーウェンの三人、ツバサとエルモート、ユエルとソシエ、コウ、ヨウの四人組、モニカとリーシャ、ムゲンにミュオン、メグにまりっぺ、カリオストロにクラリス、タヴィーナ、イングヴェイ、デリフォード、そしてルナールを中心としたおこたみメンバーといった馴染みの仲間達が居て、確認できるだけでも五十人以上は集まったようだ。

 この中には、グランに地図を持ってきたドランクとスツルムの姿もあった。

 テーブルを見ればファスティバとローアイン達が作ったと思われる、肉や魚、野菜をふんだんに使った美味しそうなご馳走が並んでいる。

 そして。

「よお、特異点。特異点でも調子が悪くなる時があるんだって? 俺のコーヒーでも飲めば調子戻るかもしれんぞ」
「ありがとう」

 ビィに案内される中で天司のサンダルフォンは、グランでも調子が悪くなる時があるのかと興味深そうに見詰められるも、グランは素直に彼から手渡されたコーヒーを受け取り、自分を待っているというルリアのもとへ急ぐ。

 食事会では人間だけではなく、天司のサンダルフォンをはじめとする天司達はもちろん、星晶獣のメドゥーサやサテュロス、ナタク、シヴァやアフロデーテ達も当然のように出席している。

 しかし、天司達や星晶獣達のテーブル以上に、注目するテーブル席があった。

 それは。

「グラン、もう皆さんの前に出られるようになったんですね、良かったです!」

「ルリアが僕のためにここまで皆を集めてくれるとは思わなかった。ありがとう」
「いえ。皆さんも調子の悪いグランを思って、此処に集まってくれたんですよ。此処に集まってくれた皆さんに感謝、ですね」

 グランが皆の前に出られるようになって、ルリアも嬉しそうだった。

 ルリアだけではなく。

「あたしも良かったよ。最近、様子のおかしかった団長が皆の前に出て来られるようになって」
「うむ。皆、調子の悪い団長を思って此処まで集まってくれたからな。これも、君の皆に対する日頃の接し方が良いせいだろう」

 ルリアだけではなくイオとカタリナもグランが顔を出してくれた事は、嬉しそうだった。

 そして――。

「団長さん! 調子悪いって聞いたんですけど、大丈夫ですか?」
「!」

 ルリア達とは席は別であるが隣のテーブルに陣取っているのはグランの不調の張本人、だった。

 のテーブルにはほかにユーステスはもちろん、ゼタとバザラガ、イルザとベアトリクス、グウィンとアイザックとカシウスの三人まで、組織の仲間達が揃っている。彼らは自分達がほかの団員達から注目される理由をある一名を除いては全員が分かっていたが、素知らぬ振りを貫く。

 グランはが此処まで来た事を知って、しかし、その彼女から顔を逸らしてルリアに問う。

「……ルリアがに――組織の皆にも招待状出したの?」
「はい。それは否定しません」

 ルリアはグランに向けて、胸を張って答える。

「私も、招待状を出してもと組織の皆さんが揃って来てくれるとは思いませんでしたよ」

 ルリアの話を聞いてグランは、「は来ていない」と言ったビィを恨みがましく見詰める。

「でもビィから、はルリアの食事会に参加してないって聞いたけど?」
「ん? オイラは、は今回はいつものファスティバの手伝いとして艇に来ていないが、組織の一員として団の食事会に参加しに来たって言ったと思ったが、それ、伝わってなかったか?」

「ああ、そういうわけ……」

 全然伝わってない。

 ビィはグランを気にせず、組織のメンバーを見回しながら、軽い調子で続ける。

「まあ、オイラもルリアが組織の奴らに招待状を出してもとユーステスの兄ちゃん達は来なくて、組織でも暇なアイザックとカシウスとグウィンの三人だけが顔を出すかと思ったんだけどよ。イルザの姉ちゃん含めて全員揃って来るとは思わなかったぜ」

 ビィは組織の中でも暇してそうな三人組――、アイザックとカシウスとグウィンを見る。

 ビィに名指しされたアイザックは苦笑しつつ、反論する。

「おいおい、僕とカシウスとグウィンの三人が組織の中でも暇な人間だと思われていたのか、それは心外だな。僕もカシウスも技術部の一員として、月から持ち帰ったデータを整理してそれを組織の人間達にも使いやすいようにプログラムを組み替えたりだとかして、こう見えて色々忙しいんだぜ」
「うむ。私も組織の技術部ではアイザックの助手として月でのデータを提供しているのでね、そこまで暇ではないよ。しかしアイザックは一日それで研究室にこもっている事が多いが、こうしてお前達から招待があればその部屋から出ていくというのは良い傾向だと思う。ここで組織での仕事をしてなくて暇なのは、グウィン一人じゃないのか?」
「うぐっ。わ、私だって月の事件ではアイザックの協力者の一人として組織に貢献したし、それが認められて封印武器を与えられて組織のために働き始めたんだからね! それからアイザックの助手といってもアイザックの隣についてるだけで何もしなくて、甘いものかラーメンばかりを食べてばかりのカシウスと一緒にしないで欲しいかな!」

 カシウスに言われたグウィンは、彼に負けずと反論する。

 そして。

「そういえばグウィンの最近の新しい仕事といえばの体調管理だったか。それ、上手くいったのか」

「え、も団長と同じように調子悪くてこの艇まで来られなかったのか?」
「それはオレ達も初耳だ。どういうわけだ?」

 それを思い出してグウィンを見るバザラガと、バザラガの話を聞いて驚きの声を上げるのはラカムとオイゲンだった。

「そうそう。あたし達も此処に集まってくれた仲間達と違っては、ユーステスが仕事の間だけ普段から気軽にこの艇に乗ってきてくれたのに、それが最近見ないから心配してたんだよ。は、バザラガの言う通り、調子悪くて艇まで乗って来なかったの?」
「私もイオちゃんと同じく、最近、艇に乗って来ないちゃんを気にかけてたのよね。ちゃん、バザラガの言うちゃんの体調管理ってどういうわけかしら?」

「ええと、その、私の場合は団長さんのように本当に体の不調で来られなくなったわけじゃなくて、その、あのぅ」

 はイオだけではなくロゼッタにもその理由を問い詰められて、しかし、弱った風に口ごもるだけだったが。

「――、ダイエットで今までこの艇に乗らなかったんだよ」
「ゼタ!」

 ヒヒヒ。ゼタが笑いながら、の事情を皆に打ち明け、途端にの顔が真っ赤に染まる。

「は?」
「ダイエットだって?」

 のこれには、ラカムもオイゲンも呆気に取られる。

 ゼタは笑って、の近況をルリア達に暴露する。

は今までグウィンと一緒になってダイエットに精を出してたから、この艇に乗らなかったんだ。今回の団長のための食事会だってルリアに招待されてもまた太ると思って直前まで行くの迷ってたんだよなー」
「うう、それでも団長さんが調子悪くて大変だってあれば誰でも心配するし、それでユーステスもイルザさんも組織としていつもお世話になってる団長さんのための食事会に参加すると聞けば、ダイエット中の私も組織の一員として参加しないわけにはいかないでしょ」

 はゼタに全てを明かされ彼女を恨みがましく見詰めつつ、補足するように話した。

「ダイエット、ですか? はそこまで太ってる風には見えませんが……」
「だよねえ。それで何でダイエットする必要あるの?」

 ルリアとイオは見た目では何も変わらない体型のを見て、不思議そうに見つめ合う。

 イルザは大きな溜息を吐いて、自分の隣に座るユーステスを小突いて言った。

がダイエットを始めたのは、このバカのせいだ」
「え、ユーステスさんのせいですか?」

 ルリアは、イルザに名指しされたユーステスに注目する。

 イルザは腕を組み、ユーステスを睨み付けながらその理由を暴露した。

「うむ。このバカがに向かって何の悪気もなく『最近、太った?』と言い放ってな。はそれにショックを受けてグウィンの協力を得て、ダイエットを始めたんだよ」

「うわー……」
「自分の彼女でも女の子に直にそれ告げるなんて、サイテーの行為じゃないかしら~」

「俺はに真実を告げたに過ぎないが……」

 イルザの説明を聞いたイオとロゼッタは、のそれを指摘したユーステスに引き気味で冷たい眼差しを向けるも、当のユーステスはに本当の事を伝えただけなのにどうして女達から冷たい目で見られるのかと、不服そうだった。

 そう。

 は先日、ユーステスの隠れ家にてパンを焼いている最中にユーステスに抱き締められて「誘われてるかも!」と期待したものの、彼から衝撃的な一言――「最近、太ったか?」と、お腹周りを触られてそれを指摘されてしまったのだった。

 それからはそのショックのあまり絶望し何も手がつかなくなり、グランサイファーに乗る予定を取りやめて組織の拠点に直行、焼き立てパンはグラン達ではなく組織の皆に配ってから組織でイルザとグウィンの二人に助けを求めたという――。