君は空色(05)

 それからナタリはユーステスをかばうよう、イオ達に向けて補足するように話した。

「いやでも実際、ユーステスの指摘通りに太ってきてたんだよね。それ、グランサイファーに乗ってからで、色々考えると、このグランサイファー、ファスティバさんとローアインさん達から出される料理が美味し過ぎてつい食べ過ぎちゃうんだよ。それが分かってからはダイエットしようと思って、最近、この艇に乗らなかったんだ」

「それでは艇に乗らない間、どうしてたんだ? の場合、ほかの皆と違ってユーステスの兄ちゃんが仕事人間であいつが居ない間は寂しいからってこの艇に乗ってきてたんじゃないのか」

「それはイルザ教官とバザラガさんの言う通り、私が協力してたの」

 ビィの疑問に手をあげて答えるのはではなく、グウィンである。

 グウィンは言う。

「私がそこのアイザックと協力して、に良さそうなダイエットメニュー考えてね。はその間、組織が用意してくれた宿泊施設に私と一緒に暮らしてたんだ」

「へえ。しかしグウィンは組織で自分の仕事があるだろうに、それ放っての個人的なものに協力して良かったのか?」
「ああ、の体重管理もイルザ教官から与えられた組織の仕事のうちだから、そこ気にしなくていいよ」

「何での体重管理が組織の仕事のうちなんだ? は組織でも技術部であるが、それはグウィンやゼタの盗伐部隊とは別物って聞いてるが」

「ええと、どこから説明すればいいかな……」

 グウィンは少し考えて、ビィに説明する。

「イルザ教官からの体重管理は、組織のイルザ教官についてる兵士達の健康管理にも繋がるからそれデータ化して兵士達にも活用できるようにしてくれっていうのが、私に与えられた仕事内容だった。イルザ教官から私がその仕事を受ければ組織としてきちんと給料も出すって言われたし、何より――」
「何より?」

「何よりから直接、協力お願いします、協力してくれなかったら死ぬしかないって大袈裟に泣きながら頭下げられちゃ、それに協力しないわけにはいかないでしょ」

「なるほど。グウィンは相変わらずに甘いイルザの姉ちゃんと、お得意の泣きの必殺技で口説き落とされた感じかー」

 グウィンはその時の必死の形相のを思い出したのかくすくす笑い、ビィもそれには納得した様子だった。

 因みにビィは、は力を持たないまでもここぞという時に人にものを頼むのは上手いと見抜いていて、それを専用の「必殺技」とみなしていた。

「まあ、だけじゃなくてイルザ教官の言う事も一理あって、イルザ教官についてる兵士達の健康管理をデータ化するにはの体重管理も役に立つと思ってその仕事、引き受けたんだよ。それから、アイザックも私とに協力してくれたんだよ」

 そしてグウィンは、アイザックの方を振り返り彼もその任務に協力していたと続ける。

「私がアイザック考案のダイエットメニューをに伝えて、がそれを本当にやってくれるかどうか、私がそれの監視してたってわけ。ユーステスさんからも自分が不在の間でも私がに一緒についてるのは安心だって言ってくれて、それで」

「ああ、グウィンの言う通りだ。僕もグウィンと協力して、の体重を管理していたんだ。僕からしてみれば人間の体重を管理するのは今回が初めてで、最初は組織の中で単純な仕事を与えられて張り切るグウィンのために協力していたに過ぎないが、いやはや、のおかげで中々興味深いデータが取れた。を見れば女性は意中の男に気に入られるように色々頑張ってるのかとそれも分かってね、けっこう面白かったよ。それからの体重管理のデータは確かにイルザの兵士達の健康管理にも活用できるから、グウィンがこの仕事を引き受けて良かったと思うよ」

 グウィンに続いてアイザックもの体重管理について、そう評価する。

「へえ、そういうわけがあったのか。オイラはでも人間のそういうのにはあまり分かんねえけど、ダイエットならグウィンよりは、教官やってるおっかないイルザの姉ちゃんに頼めばすぐ効果ありそうじゃないか?」

「無理、無理! 確かにイルザさんの訓練であれば一日で効果ありそうだけど、武器も魔法も扱えない私がイルザさんのめちゃくちゃ厳しい訓練についていけるわけないじゃん! 数分も持たないって!」

 ビィの提案を聞いたは、慌てて首を横に振る。

 ビィは少し考えて、周りに居るほかの組織の女達の顔を見回しながら、に聞いた。

「ゼタとベアトリクスは? あいつらは、イルザの姉ちゃんよりマシだと思うが」
「ゼタはユーステスと同じようにバザラガと忙しそうに各地を飛び回ってるから、私になんか構ってる暇ないよ。ベアトリクスもゼタと同じで忙しいからね。でも、ベアトリクスは最初、私のダイエットの話を聞いて面白そうだから協力するって言ってくれたんだけど、私の方からそれ断った」
「何でベアトリクスの協力断ったんだ? ベアトリクスでも良さそうな気するが」
「ダイエットするのに、ベアトリクスの甘党にはついていけない」
「ああ……。そりゃ納得だな」

「何でビィまでそれに納得してるんだよー。確か前に雑誌で一品だけ食べていると痩せるっていう特集記事読んだ事があって、それをに紹介して甘いものだけで痩せられるかどうかそれの実験として試してみようと思っただけだってのにさ」

 もぐもぐ。ベアトリクスは、ほかの肉料理や魚料理には目もくれず、ローアインに出されたクリームたっぷりのケーキを美味しそうに頬張りながら、ビィとに向かって抗議の声を上げる。

「今のベアトリクス見ればは、ベアトリクスと組まなくて正解だったな……」
「でしょ」

 甘いものだけ食べ続けるうえに間違ったダイエット方法を紹介するベアトリクスの様子を見て呆れるビィと、うなずくと。

「私の場合、私と同じ普通の感覚持ってるグウィンで丁度良かったわけ」

 はそれから自分の腹をつまんで、嬉しそうにビィに言った。

「グウィンと、それから、アイザックさんの協力もあってか、この数日でやっと体重減ってきたというか、元の数値に戻ってきたんだよね」

「お、それじゃあ、もうこの艇に乗ってきてくれるのか?」

「うーん、どうしようかなぁ。この艇に乗るのはいいけど、ファスティバさんとローアインさん達の美味しい料理のせいでまた太っちゃうから……」

 は、再び艇に乗るべきかどうか、迷っているようだった。

 そのを艇に乗るように背中を押すのは、ルリアの役目である。

は全然、太ってる風には見えませんよ! ユーステスさんのお仕事が入れば、またこの艇に乗ってきても良いんじゃないですか!」
「そうそう。あたしもルリアと同じ意見だよ。でもさ、あたしだってと同じようにこの艇でいっぱいファスティバ達の美味しいご飯食べてるはずなのに全然太らないよ。ルリアも同じじゃない。何で?」

「それは多分、魔力の消費が激しいせいじゃないか? ルリアとイオが全然太らないのはおそらく、星晶獣を呼び出したり、激しく強力な魔法を使うさいにそのカロリーが消費できてるんだと思う。この艇の仲間でルリアとイオの二人と同じように強い魔法を使う人間に聞いてみれば、同じ返事がくると思う、なあ?」

 イオの純粋な疑問に答えるのは、カタリナである。カタリナの話を聞いた魔法勢の面々もうなずいている。

 そしてルリアはふと、その疑問を答えたカタリナの体形をまじまじと見詰めて、不思議そうに聞いた。

「でも、私やイオちゃんみたいに強い魔法をあまり使わないカタリナも私達と同じように食べてますけど、全然体型変わりませんよね?」

「私の場合は普通に、常に剣の訓練に励んでいて日常的に体も鍛えているせいだと思うが……」

「ふふふ。お姉さまの場合、厳しい訓練でも周囲に気遣うように厳しくない風にやってのけ汗一つかかずに見せていますからね、それでその美しさを保っていられるのです。さすがお姉さま!」
「ッス。先輩は、厳しい訓練もさわやかな笑顔でこなしていくその姿がカッコイイっスからね。あたしでもその先輩には適わないっスよ」

 反対にルリアに水を向けられたカタリナは困った風に肩を竦めるも、そばでやりとりを聞いていたヴィーラとファラが揃ってカタリナをそう称える。

 そして。

「私の場合、カタリナさんのよう武器を使うために肉体を鍛えていないし、動かない時は全然動かないからさ。魔法でカロリー消費できるルリアちゃんとイオちゃんが普通に羨ましいわ」
……」
「……」

 ははは。自虐的に笑い項垂れるについて、ルリアとイオは何も言えなかった。

 と。

「はいはい。ちゃんのその事情を聞けばアタシもそれ用のメニューを考えてあげてたわよぉ。何で真っ先にアタシに相談してくれなかったのかしらねー」
「ファスティバさん?」

 とん。の目の前に美味しそうな料理――クリームソースのかかったパスタが盛られた皿が置かれて何だと顔を上げれば、笑顔のファスティバが立っていた。

 ファスティバはウィンクして、に言った。

ちゃん、これを食べてごらんなさい」

「これ、クリームパスタですよね。パスタ、しかもクリームソースはダイエットの敵! 今は我慢しないと……」
「これ、ただのクリームパスタじゃないわよぉ。食べてもダイエットの影響受けないから、安心して食べてちょうだい」
「本当ですか?」
「さあ、さあ」
「……」

 はファスティバにうながされて、仕方なく、クリームパスタを口にする。

「美味しいけど、なんかいつものパスタとちょっと違う気がする。何ですかこれ」
「これ、パスタじゃなくてパスタの代わりにコンニャク使ってるのよ。これなら、パスタよりはカロリー抑えられるわよ。クリームソースもいつもの生クリームやバター使わず、お豆腐でヘルシーに作ってみたの。こんな具合に、麺だけじゃなくて肉や魚でもほかのヘルシーな素材で代替がきくのよね。どうかしら?」
「ええ、これ、コンニャクとお豆腐でできてるんですか! 信じられない! でも、美味しい! ファスティバさん、神!」

「これもどうかしら~。ちゃん、これも食べてくれるわよね、もちろん」

 更にファスティバが差し出したのは、ハンバーグである。

「これは、眩しいハンバーグ! ダイエットで何日もお肉食べてないのにここにきてお肉はちょっと……」
「ふふ、これの正体はお肉じゃなくて、これまたお豆腐でできてるのよ!」
「え、このハンバーグ、お豆腐でできてるんですか、本当に?」
「アタシ、自分が作る料理に関して嘘はつかないわ。一口だけでも食べてみて~」
「あ、ほんとだ、これお肉じゃない、でも美味しい。お豆腐でハンバーグできるなんて、こんな調理法あったんですか……」

 はぁー。は、ファスティバの出される料理に感動すら覚えている。

 ファスティバはに自信をもって言う。

「ふふふ。高カロリー食材を使うにしろ、代替食材を使うにしろ、味が全てよ。これが気に入ったら、ちゃん専用のダイエットメニュー考えてあげるわよぉ。アタシがやってる格闘技でも試合出るのにダイエット必須なんだから、これくらい大したことないわ~」
「いやでも、それは嬉しいんですけど、力を持たない私なんかがファスティバさんにダイエット専用料理を注文していいものかどうか……」
「そこ、遠慮しなくていいわよ。団長さんとルリアちゃん達がちゃんを団の仲間だって認めてるんだからアタシもそれに従うだけだし、ちゃんも普段からアタシ達を裏で手伝ってくれるぶん、アタシ達が楽できてるもの。それだからちゃん、ダイエット中でもユーステスが仕事で居ない間はこの艇に乗ってた方が良いわよぉ」
「ファスティバさん……」

「そうそう、ちゃん以外のほかの女の子達も体重が気になったら遠慮せずにアタシに言ってくれれば、それ専用のメニューで出してあげるから、よろしくね!」

 ぱちぱち。ファスティバの話を聞いて、と同じように密かに体重を気にしていた女性陣から拍手が送られた。

 そして。

「ウェーイ、俺もファスティバに負けずと体重を気にする女性陣のためにダイエットメニュー考えたぜ! ちゃん、味見ヨロ!」
「此処でのローアインさんの担当ってデザートですよね。それでダイエットメニューって……」

 この団でローアインは主にデザート担当では――は不安になる。

「見よ、デザートのケーキセット、召喚!」
「いやいや、ケーキこそダイエットの敵では?」

 悪い予感的中! ローアインがの前に差し出したのは、いくつかのケーキとプリンが乗ったプレートだった。

「ケーキだけじゃなくてプリンまで! 耐えられない!」

 ローアインはがそのケーキの皿から目を逸らすのを見て、笑って説明する。

「これは、野菜の人参使って作ったもので、砂糖も不使用のヘルシーケーキっスよ」
「え、このケーキ、人参使って砂糖不使用なんですか? 本当に?」
「ケーキの色見れば分かるっしょ、人参色じゃね?」
「あ、確かに色は人参色ですね……。でも、人参以外も入ってるっぽい? 何ですかこの中に入ってるツブツブみたいなの」
「それね。人参だけじゃなくて、甘味出すのに色んな野菜を刻んで練り込んだんっスよ。これくらいなら多分、体重に影響ないんじゃないっスかね?」

「人参色以外にチーズケーキらしきものもありますが」
「ふふふ、これはチーズと見せかけてヨーグルトのケーキッスよ。ヨーグルトは水切りすればチーズの代わりになるの知らないんっスか?」

「そ、それじゃ、このいかにも色あざやかなプリンやムースみたいなのは!」
「カボチャプリンにほうれん草プリン、豆腐プリン、おまけにヨーグルトケーキ作った時にあまった材料で作ったヨーグルトムース。殆ど原材料野菜中心っス。泣けるくらいヘルシー!」

「ふおお、ローアインさんも神!」

「っしゃ、ちゃんから神認定いただき! ファスティバと並んだッスね!」

 ローアインは、からファスティバと同じ「神」認定され、嬉しそうだった。

 それというのも。

「グウィンとアイザックさんじゃ味気の無い乾物とスープばかりで正直、飽きがきてたんだよね。まさか、ファスティバさんとローアインさんからここまでのものが出されるとは思わなかった!」

「何だよー。私もアイザックものためにのデータに基づいたダイエットメニュー考えたのに。でも、確かに毎日、味気の無い乾物とスープだけってのは見ていて可哀想だったし、これなら無理なく続けられるかもね。はダイエット中でも、この艇に乗ってた方が良いんじゃない?」
「それは僕も同感だね。この艇でこのダイエット料理を食べて適度な運動を続けていれば、ユーステスにそれを指摘される事もないと思うよ?」

 はグウィンとアイザックに言われて、何かを期待するような目で隣に座るユーステスの顔を見上げる。

「ユーステス」
「これに関してはが決める事だ。が好きな道を選べ」

 今までとビィ達のやり取りを静かに聞いていたユーステスは、に判断を任せると静かに答えるだけで。

「そうだね……」

 はユーステスの返事を聞いて、目を閉じて考える。


「どうするの?」

 ルリアとイオも、目を閉じて考えるの返事を期待を込めた目で待つ。

 そして。

 は目を開けると、ルリアとイオの前で言い放った。

「決めた。私、ダイエット中でもこの艇に乗る!」

「はい、私も、を歓迎しますよ!」
「おう。オイラもが戻ってきてくれて、良かったと思うぜ」
「あたしもルリアとビィと同じ気持ちだよ。またよろしくね!」

 わあ。ルリアとビィとイオはの決断を聞いて、嬉しそうに彼女を取り囲む。

「本当、ちゃんが艇に戻ってくれて良かったわ。これで一段落かしら~」
「だな。これで団も落ち着くか」
「しかし何の事件性もなくて安心したがの奴、ダイエットのためにこの艇に乗って来なかったとはなぁ。これはオレも意外だったぜ」

 いやー、こんな事もあるんだな。ロゼッタとオイゲンとラカムの三人は、これまでの心労からようやく解放されると思って、がこの艇に戻る事をルリア達と違う意味で喜んでいたが。

「あれ? 私、この艇に乗らない理由、何日か前にドランクさんに伝えたつもりだったんですけど。ラカムさん達、ドランクさんからそれ聞いてなかったんですか?」
「は?」
「何だって?」

 不思議そうに首を傾げると、それに驚くラカムとオイゲンと。

 はラカム達にそれを説明する。

「いや、何日か前に私とグウィンが居る宿泊施設に突然にドランクさんがやってきましてね。団長さんの艇に乗らないで何やってるのかってドランクさんに聞かれたんで、そこで艇に乗らない理由をダイエットやってるせいだってちゃんと説明したんですよ。それ聞いたドランクさんは納得した様子で、『それ、ボクから団長さん達に伝えておくよ、君は安心してダイエットを続けるといい』と言ってくれたんで、私はそのままにしておいたんですけど……」

 の説明を聞いたラカムとオイゲンは、席から立ち上がってコソコソと逃げようとしたドランクを素早く捕まえ、それぞれ手りゅう弾と愛用の銃を片手に笑顔で詰め寄る。

「ド・ラ・ン・ク?」
「覚悟、できてるんだろうなぁ?」

「いやあ、ボクはちゃんのダイエットの件、君達に黙っていた方が面白い展開になるかもってそれ期待してただけで、でも後から団長さんの様子が本当におかしいって分かってそれ反省して君達にちゃんの地図持ってきたんだからそれは考慮してくれると嬉しいかな、なんて、あ、やっぱ駄目? いや止めて、本当、ここでそれ勘弁して、うわああっ」

 ラカムとオイゲンはドランクの首を捕まえた状態で別室に連れて行き、その部屋でドランクの情けない悲鳴と銃声と爆発音が鳴り響いた。

「全く。何やってるんだか。あ、この肉、美味しいな……」

 そばでドランクの悲劇を見ていたスツルムは彼を助けず、出された肉料理に豪快にかぶりついていた。

 と。

「ところで団長さんの具合、どうなんですか? 皆さんが此処に集まったの、団長さんのそれ気にしての事ですよね。私も団長さんの調子、気になってたんですよ」
「うわあ、、それ、自分から振るかな?」

「え?」

 は本当にグランの調子を気にして言ったつもりが、イオからそう困った風に反対に言われてしまった。

「あれ、あれ、力を持たない私がそこ気にしちゃいけなかった?」

「いや、力持ってても、ねえ?」
「イオちゃん、それこっちに振らないでくれるかしらぁ……」

 力を持たないのにグランの調子を気にしてそこに踏み入ってはいけなかっただろうかとそれを心配して慌てると、それにどう返事をして良いか困った風にロゼッタに助けを求めるイオと、イオに助けを求められてもどうにもできないと首を横に振るロゼッタと。

 ところで――。

「――は」
「は?」

「あはは、そうきたか、ははは、そうくるとは思わなかったよ!」
「だ、団長さん?」

 今まで黙っての話を聞いていたグランは突然に腹を抱えて笑い出し、はそのグランに戸惑う。

「グ、グラン?」
「腹でも壊したか?」

「団長、どうしちゃったの?」

 だけではなくルリアとビィ、イオ達もグランのそれには呆気に取られる。

 グランは戸惑うに遠慮せず、笑ったまま言う。

「いや、がこの数日の間、僕達の艇に乗って来ないの、僕もおかしいと思ってたんだ。いつものであれば、仕事人間のユーステスにあわせて二日置きくらいに乗ってきたのに、今回は三日以上も空けていたから、何か事件に――またユーステスと喧嘩して家出したのかとか、何か組織の事件に巻き込まれてるのかなとか、色々最悪な想像して、中々艇に乗って来ないを心配してたけどその真相がダイエットやってるせいって、こんな笑える話、今までないって」

「ああ、それはすみません。団長さん達に連絡入れようにも外の誘惑に負けてはいけないと思って半ば監禁に近い状況でグウィンとダイエット頑張ってたもので……、でも、そこまで笑う話ですか?」

 むぅ。からすればダイエットは真剣な話だったので、グランにそこまで笑われるとは思わず不服そうな顔をする。

「ごめん。ごめん。ダイエットはからすれば確かに真剣な話には違いないけど、僕からすれば僕とでは世界観が違い過ぎるというか、は本当に普通の一般人と生活変わりないんだなって思ってそれで」

「それはそうです。団長さん達の生活の方が一般人とかけ離れて異常だっての、今になって気が付いたんですか」

「ああ。今になって僕達の方が普通じゃないって気が付いた。でもおかげで、僕の調子も戻ってきた、こっちからに礼を言わなくてはいけない、ありがとう」

「ええ、私で調子戻ったんですか?」
「ああ、ほら、この通り」

 グランはそれが事実であると、の前で剣を持たず素振りをしてみせる。

「それはそれで良かったですけど……」

 は本当にグランの調子が戻っていると分かったのでそれに安心すると同時に、その疑問をグランにぶつける。

「そもそも団長さん、何で調子悪かったんですか? それ、まだ聞いてませんよ」

「さっきも言ったよう僕は、が艇に乗って来ないのを心配して調子悪かったんだよ。此処に集まってる皆にも同じ事が言えるけど、僕の団に登録してくれている団員に何かあれば心配するのは団長の務めだろう」

「……そうですけどでも、この団で唯一力を持ってない私を心配する必要ありますかね?」

が力を持っていなくても何を言おうが君は、もうこの団の一員で間違いないんだよ。僕はが誰よりも働き者で、君が居るだけで団が明るくなるのを知ってるんだ。それだけで君がこの団に必要であるのは、団長の僕が一番よく分かっている」

「団長さん……」

「それだから、この艇の団員の君は、今回のよう、自分の身に何かあっても港に設置してある専用の掲示板か、此処に集まってる誰かでもいい、仲間達にその近況を僕達に報告する義務があるのを忘れないで欲しい。そうそう、これはが属している組織の都合は関係の無い話で、君の都合によるもの前提で話しているのを忘れるな」

「……」

「今回のよう、個人からの連絡が途絶えるだけで、団長の僕が余計な心配する。は組織としてはもちろんだけど、個人としての連絡も怠るなよ」

「……」

、返事は?」

「は、はい、分かりました。次からは、この団の団員になってる自分にも何かあればグランサイファーの専用掲示板か、ほかの団員達にちゃんと連絡します……」

 はグランの熱意に負けたよう、しっかりとうなずいた。

「うん。がそれ分かってくれれば十分だよ」
「――」

 にっこり。グランはの返事を聞いてそれに満足したよう、向けていつものお人よしな笑みを浮かべる。

 それだけで。

 それだけで――。

 グランは次にはもうに構わず、自分のために集まってくれた仲間達を見るために周りを見渡すように見た後に言った。

だけじゃない、僕のために此処に集まってくれたほかの皆もね、何かあれば団長の僕か、そばにいる団員達に遠慮なく報告してくれよ。この騎空団――グランサイファーの団長である僕は何があっても団員の君達を守る義務があって、それで君達に何かあれば僕のグランサイファーは優先的にすぐに君達の所へ飛んでいくのを約束するよ。そして今日は僕のために集まってくれてありがとう、僕はこの通りもう大丈夫だから、此処で好きに食べて飲んでほかの団員達と楽しんで帰ってくれると嬉しい」

 しん、と、静まり返ったあと。

 ぱちぱちと、大きな拍手と歓声がわきおこり、そのあとに団はいつものような騒々しさを取り返したのだった。

が艇に乗って来ない事情が分かって、やっと落ち着けるな……」

 グランはの艇に乗らない事情が分かってようやく、自分の心も体も落ち着いたのを確認できたのである。

 そして。

「グラン、さっきの、団長らしい良い演説だったぜ」
「はい。この騎空団の団長らしいとても良い演説でしたよ」

「うむ。私も君の調子が戻っただけでも嬉しいが、君からここまで素晴らしい演説を聞けるとは思わなかったよ」

 落ち着いて席に戻ったグランに嬉しそうに声をかけるのはビィとルリアで、カタリナも彼をそう称える。

「どんな種族も星晶獣も天司達も、団長の前では誰も敵わないよねえ」
「そうね。行方不明の団長さんのお父さんも、今の団長さんの立派な姿を見れば、泣くかもしれないわね~」

 ふふ。イオは参ったように笑って、ロゼッタもかつての仲間だったグランの父親の姿を思い出し微笑む。

「団長の成長を見届けるってのも、この団の大人達の義務だよな」
「うむ。その成長を間近で見られるのは、この団の父親役として嬉しい限りだ」

 ラカムとオイゲンは、大人として――父親役として、グランの成長を嬉しく思う。

 それぞれの意見を聞いた後にグランは、改めてファスティバとローアイン達の作ったご馳走を見て言った。

「改めて見るとの言うよう、食事会といっても出される食事の量、多くないか。力を持たないと違ってファスティバとローアイン達は火や水の魔法を使い分けて調理できるからほかより手際が良いの分かるけど、気を付けないと僕でも太りそうだな……」

「うんうん。団長さんもようやく私の言う事が分かってきましたか。団長さんも一応は私と同じヒューマンなんで、これだけの量を普通に食べてると普通に太りますよ、気を付けてくださいね!」

 も改めてそう言うグランに共感を得るも、そばでそのやり取りを聞いていたユーステスが口を挟んできた。

「団長の場合、カタリナと同じで常に剣の稽古に励んで肉体も鍛えてるからそこは特に心配する必要ないだろうさ。それより……」

 それより。ユーステスは、の前に置かれたファスティバとローアイン合作のダイエット料理と彼女を見比べ、遠慮なく言った。

「それより、お前、ファスティバとローアインのダイエットメニューとはいえそれだけの量を食べてるとまた太るぞ……」

「はっ、ダイエットメニューでも食べ過ぎはよくない!」

 はユーステスの言葉でそれに気が付き、さっと一部の皿をルリアのテーブルに置いた。

 コンニャクと豆腐のパスタ、豆腐のハンバーグ、デザートの人参ケーキを中心としたケーキセット――この中で泣く泣く切り捨てるものは。

「ルリアちゃん、この砂糖不使用のケーキセット食べて! お願い!」

「わあ、ありがとうございます! が食べきれないものは私にお任せください!」

 にケーキセットのプレートを差し出されたルリアは、嬉しそうにそれに食いつく。

「ルリアの底なしの胃袋を利用すればは、この団で食べ過ぎる事もないんじゃないか」
「はは、どうやらそうみたいだね。多分、僕もルリアのおかげで食べ過ぎないようにできてると思うし、本当、と一緒に居るとダイエットの話だけこれだけの騒動になるから退屈しないね」

 ルリアの食への勢いに圧倒されるのはビィで、グランもルリアの勢いに少し引きつつも久し振りに笑う事ができたのだった。

 と。

「ルリアだけずるいでごんす! 、わたしにもそれ分け与えた方がダイエットになるでやんすよ!」

「ルリアとコルルにも分け与えるなら、私にもそれ分けてくれ。前からヘルシー料理も興味あったんだ」

「うむ。ヘルシー料理には縁が無いと思っていたが、に出されるヘルシー料理を見れば興味わいてきたぞ。おじさんにもそれ分けてくれ」

 大食い勢のコルル、アーミラ、レッドラックの三人の魔の手がのヘルシー料理に伸びる!

「少しだけならいいよ」

 は最初、確かにルリアに分けたのであればコルル達にも分けた方が良いと思って気軽に彼女に差し出した――それがいけなかったのに気が付くのはすぐだった。

「ええ、コルル達で私のぶん、もうなくなった? まだ食べ足りなかったのに……」

 コルル達に少しだけでもと懇願されて豆腐ハンバーグとコンニャクパスタのヘルシー料理を分け与えれば、数秒で、皿はすっかり綺麗になって戻ってきたのだった。

 と。

さん、ご心配なく。コルル達の暴挙を予測して、ファスティバさんからの追加ありますよ」
「はいはい、ローアインからもそれの予測して追加入ってるよ~」

 コルル達に食い荒らされるのを予測していたジャミル、そして、エルセムがの前に同じものを再び持ってきた。

「わあ、ありがとう。それじゃさっそくもう一回――」

「――わたし、のおかげで完全にヘルシー料理にはまりそうでごんす!」
「これならいくら食べても私もと同じよう、太る心配ないからいいよな!」
「うむ。おじさんにもそれの効果あるといいが」

 が手をつける前に、コルル、アーミラ、レッドラックの手が伸び、再び、数秒で皿がカラになっての前に戻ってきた。

「……さん、追加注文いりますか? そうでもさん、コルル達に狙われたみたいなんで、三回目は別の場所で食べた方が良いですよ」
「ローアインもさすがにコルル達がここまでの勢いだと思わないだろ。ちゃん、コルル達を避けるなら三回目はいつもの厨房で食べてくか?」

 ジャミルからは同情的に、エルセムからは笑いながらそう言われたは。

「ユ、ユーステス」
「分かった、分かった。俺もと一緒に厨房までついていく」

 涙目で「ついてきて」と訴えるに溜息一つ吐いてユーステスは、彼女の言う事を聞くよう、を連れて、ジャミルとエルセム達と一緒に厨房へと行ってしまった。

 その中で。

「ねえ、ってさ、組織でもグランサイファーでも、私とアイザックより、ユーステスさんに直に体重管理してもらった方が良いんじゃないの?」

「はは、それは僕も同感だね。この中でを一番よく見て一番に思っているのはユーステスだし、ユーステスがずばりとそれ指摘する方がに一番効果的なの、本人同士が一番よく分かってないっていうね」

 ひそひそ。に頼まれて素直に彼女と厨房までついていくユーステスを見たグウィンはそうアイザックに耳打ちし、グウィンにそう耳打ちされたアイザックはそれに大いに納得したという――。


 風。

 艇に優しい風が通り過ぎる。

 彼を取り巻く世界は日に日に、めまぐるしく変わっていく。

 その中であっても変わらないものもある。

 それは。

 彼女――は、変わらぬ調子でグランサイファーの艇に降り立つ。

「団長さん、ユーステスが仕事の間、またお世話になります!!」
「いらっしゃい、歓迎するよ」

 彼――グランはいつものよう笑顔で、彼女を出迎えるのだった――。

グラブル、最終回は原点に戻って団長のグランメインの話になりました。
夢主がユーステスの紹介で団に来た当初、詐欺集団の騎空団に騙された話、ここで書けたので満足。
後半のダイエット話もいつかやりたかったので、これも満足ですわ。
惜しかったのは、グラブルでダイエットキャラの代名詞になりつつあるティコが出せなかった事か。あと同じく食べ歩きで太りやすいと言われるカシウスも絡めたかったのにあまり出せなかった。二人のネタやると更に長くなるので泣く泣く削りました。これも番外編とかで書けたら。

魔法でカロリー消費できるってのはスレイヤーズのリナ・インバースが元ネタで(ルリアがそれのせいで大食いであるという言及はゲーム内ではなかったはず)、彼女もそれで大食いだったし、それ以降のラノベの魔法キャラはだいたい大食い設定が流行ってたように思います。
自分もルリアやリナを見て魔法でカロリー消費できるの羨ましいと思った次第ですわ。(笑)
あと、ローアインの口調が意外と難しくないですか。最近あったトモイのイベントでもそれ使いこなしてた声優さん凄いわ。
これで一応、グラブル空シリーズ終わりです。
リクか公式で組織に関するネタ提供があれば新作は書くと思います。

更新履歴:2023年05月01日