06

 南君のお陰で今朝は吉原君と話す事が出来たのだ。ある意味、南君に感謝しないといけない。
「うん、聞けたよ」
「マジで? その子について、何か知ってた?」
 席についた私に南君が身を乗り出して聞いて来る。
「私の知り合いは、その子について何も知らないみたいだった」
「マジか」
「えー、茜、つまんない」
 茜の期待に添えなくて悪いが、私は色々収穫があって満足している。
「これで振り出しかー」
「南君、ミス研なんだから、何か推理してその子について調べればいいじゃん」
「無茶言うな」
 茜の無茶な注文に南君が、呆れている。
「有坂の成宮の知り合いが何か知ってれば、俺も打つ手はあるんだけどな。無理なら仕方が無い」
「諦め早いよ南君。もっと茜を楽しませてよ」
「……」
 茜さん、あんたは何処かの女王様ですか。
「うーん、茜が面白いと思うかどうか分からないけど今、ミス研で緑原の歴史について調べてるんだけど」
「歴史? 何でまた」
 茜ではなく私が南君の話に食いつく。
 私は茜と南君のように、緑原の住人では無い。南君は生まれた時からずっと緑原に住んでいると、聞いている。
「ほら、最近、緑原でおかしな事が起きてるじゃないか」
「何、それ」
 初耳なんですけど。
「有坂は知らないか。緑原っても、緑原山に関する話なんだけど」
 緑原にある山は緑原山として、団地の皆さんから親しまれているらしい。
「緑原山に化け物が潜んでいる話とか、UFOの話とか色々」
「あー。UFOの話でしょ。それなら茜も知ってるよ」
「UFOの話? 化け物の話は知っているけど……」
 茜は知っていても私は知らない話だった。
 しかもUFOと来たか。
 因みに化け物の話は、緑原山には幾つか素性の知れない会社の研究所があり、その中で化け物を作っているのではないかと言う、噂が流れた事があった。しかしそれは、地元の人があれはちゃんとした製薬会社の研究所だと証言したので、その噂は直ぐに収まったらしい。
「UFOの話を知らないカナの為に、話をしてあげてよ、南君」
「元からそのつもりだ」
 茜に促されるまでも無いと、南君は白い歯を剥き出しにして私に向けて笑った。
 南君から聞かされたそのUFOの話は、私は信じ難いものがあった。
 元々、緑原山は月の名所なんだそうだ。緑原山は月を眺めるには絶好の場所で、月見客が多く足を運ぶ場所でもあった。
 所がある時期から、月に訳の分からない浮遊物体が浮かんでいるのを目撃する人が何人か相次いだ。不思議に思った地元の研究員が、皆と同じように山頂から月を眺めていたら、噂通りの現象が起こってしまった。
「普通なら都市伝説みたいな感じなんだろうけど、話はこれで終わらなかった」
 南君が続きを私に話した。
 同時刻、緑原山から離れた場所で研究員の仲間が月を観察していた。その日の天気は何処も晴れていて、緑原山と同じ天気だった。研究員と、その仲間は場所は違っていても同じ月を見ていた。
 それなら、研究員の仲間も研究員と同じ浮遊物体を見ていた筈だ。
「それが違っていた」
「違っていた、とは?」
「研究員の仲間は、何も見ていなかった」
 ……。
 此処で南君の話は終わった。
 散々引っ張っておいて、最後は何も見ていませんでした、と?
「……何処が不思議なの」
 私は思っていた事を南君に口にする。
「考えてもみろよ。場所は違っても、同時刻に、同じ月を見ているんだ。研究員が見ていたものが、その仲間にも見えている筈だろう?」
 ああ、なるほど、そういう事か。
「確かに、不思議だね」
「だろ? この話は最近聞いたものなんだけどさ」
 南君は少し興奮しているように、私は感じた。
 それはまるで何か宝物を見付けた子供のように。
「ほかにも色々、緑原山周辺で変な事が起きているんだよ」
「茜達が小学生の頃からそういう話、伝わってるよね」
 南君に茜が同調する。
「で、俺達ミス研がその謎を解明しよう、て、近所の年寄りから色々話聞いて回ってるんだ。その中でも興味深いのが緑原の歴史でね」
 あ、此処で最初の話に戻るのか。
「団地の商店街に、ちょっとした神社があるんだ。その神社だけ、妙に古めかしくてさ。築百年以上ありそうな感じなんだ」
「百年? 緑原団地が出来たのって……」
「そう、せいぜい二十年だな」
 そうしたら神社と団地の計算が合わないのではないか。
 私が言うより先に、南君が既にそれを指摘していたようだ。
「逆算しても計算が合わないだろう。俺の父親も団地が出来る前、ここら一帯は本当に山だけだったって、証言しているから」
「山の中に今では使われていない小学校があるって、噂もあるしねー」
 南君に続いて茜が笑いながら私に話した。茜はハナからその話を信じていないのだろう。
 それではまるで。
「……団地が出来る前に、村でもあったみたいじゃない」
 私は半ば冗談で言ったつもりだったが。
「そう、そこだよ」
 南君が人差し指を私に突き刺す。
「俺達が来る前に、村があったんじゃないかって、ミス研の皆で話していた所だ」
「そうかもしれないけど、それだったら」
「そう、それだったら前に居た村人達は何処に行ったのか? 調べた所では、緑原山には村があったという記録は残っていなかった。緑原山は元々、私有地だったらしい。それから、神社は何の為にそのまま残されたのか? 俺達にその謎を解かせる為か、とか色々あるんだよ」
「緑原には色々、変な事が昔から起こっているらしいからねー」
 茜が南君に補足する。
 なるほど、ね。
 南君はその話を信じているのだろうか。いや、聞くまでも無いだろう。南君の性格からして、分かり切った事を聞くのは、野暮だ。
「茜も面白いだろ、この話は」
「うーん、イマイチ、信憑性が無いから、茜はどうでもいいかな」
 あらら。
 此処まで話しておいて、茜に否定されては南君も形無しだ。
「そうか……、まあ、有坂もネタとしては面白いだろ」
「そうだね」
 私は南君に同情して頷いてしまった。


 月か。
 放課後、帰りの市街地行きのバスをベンチに座って待っている間、私は日が落ちた空を仰ぐ。
 闇に浮かぶは白い月。今日は満月から少し欠けた状態だった。
 こういう月を、何と言うのだろうか。
 月を見て私は吉原君を思い浮かべる。