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「市内まで出るのは久し振りだわね」
「制服のまま行くのも、新鮮だなあ」

 緑原高校から四十分余りバスに揺られながら、私達は市街地まで到着し、茜と南君はそれぞれ感想を漏らす。
 時間は午後五時三十分を回った所で、外もすっかり暗くなっている。
「それじゃ、行くか」
「うん」
 南君を先頭に、私と茜は市街地を歩き始めた。
 茜の言う服の店に入り、色々見て回った。服の店はピンクハウスのような、フリルがいっぱいついたドレスを扱う専門店だったので南君は場違いな気がしたが、結局は茜の鶴の一声で店の中に居る羽目になった。同じようにフリルのドレスを着た客も何人か居た。その中で、南君はさぞかし浮いているだろう。可哀想に。そう思うが私も茜には逆らえない立場である。茜の服選びは私と南君を巻き込んで、かなり時間を使ってしまった。
 腕時計を見れば午後六時三十分を回っている。
「あー、俺、疲れた」
 店を出る頃には南君は地べたに座り込んでしまった。南君の両手は、茜が買った買い物袋で塞がっている。
「あれくらいで情けないわね」
「茜、仕方無いよ。今回はこれくらいにしてあげたら」
 私は南君に同情して茜をたしなめる。
「次は俺の言う所に……」
「次は新しく出来たお店ね!」
 南君の言葉を遮るように茜が声を出す。
「……有坂」
「……行こうか」
 私に助けを求める南君。しかし私はそんな南君から、顔を背けた。ごめんよ。後で茜に何の仕返しされるのか分からないので怖いからね、私も。
 その反面、茜と居るのは楽しかった。今までの出来事を忘れさせてくれるくらいに、茜は私を楽しませてくれるから。
 だから私は今回も茜の無茶な話に、乗ってしまった。
 一人で悩んでいても仕方が無いという、思いもあった。
 茜が言う新しいお店は、可愛い小物を外国から取り寄せ売っているという、輸入雑貨店である。確かに日本では珍しい人形や小物入れが並んでいる。
「ね、これ可愛いでしょ。雑誌にあったんだよ、この店」
「うんうん」
 今度も南君にしてみれば場違いな場所ではあったが、先刻の洋服屋よりはまだマシだ、と茜の陰で私に耳打ちする南君に、私は笑ってしまった。そんなに嫌だったのか、あの店がと聞けば、南君は真剣に頷くので私は更に笑った。
「俺にしてみればあそこは魔物が住んでいる所だな」
「魔物と来ましたか」
「そう、茜と同じような魔物がうじゃうじゃと」
「誰が魔物ですって?」
「ひっ」
 何時の間にか南君の背後に茜の姿が。
「あんた、私を置いてカナと随分楽しそうにしてるわね? そんなに私と居るのが嫌だったの?」
「め、滅相もございません」
「そう、それならまだ付き合ってもらいたい所があるから、覚悟しなさいよ?」
「……」
 帰るまでに、南君の精神が保てばいいけれど。

「次、何処行くー? カナは何処か行きたい所、ある?」
「俺の意見は全く無視ですか、そうですか」
 茜に無視されてもまだ抵抗する力はある、南君。 
 雑貨店を出た頃には、時間は午後七時を過ぎている。
 南君ではないが、そろそろ私も疲れて来た。
「ひとまず休憩しない? コンビニでも寄ってさ」
「賛成!」
 私の提案に南君がすかさず手を挙げる。
「カナが言うならそうしようか。コンビニでお茶でも買おう」
 南君の意見は無視して、笑顔で私に応じる茜は流石だと思った。

「いらっしゃいませー」

 コンビニに入った私達は、まずお茶のコーナーに向かった。
 私が暮らしている阿坂区内には、コンビニがあり、私も日常的に利用している。しかし、茜や南君は事情が違った。
「見ない間に、色んな種類が出てるなー。お、これオマケついてる!」
「どれにしようかなー。あ、これCMでやってたやつだー」
 緑原にはコンビニが無く、日常的に利用する機会も無いので、南君と茜はお茶一本選ぶだけでも時間を要している。
 私はその間に、惣菜パンのコーナーへ足を運ぶ。
 と。
 何やら見慣れた背の高い男の子が、レジの前に立っているのが見えた。