翌日。
当然のように康一は晶の家に来る事は無かった。晶は安堵した分、情けなくもなった。それでも。
「行こう」
隣には聡史が居る。聡史が晶の手を取り、一緒に学校までの道を歩く。
晶はそれだけで幸せな気分になれた。
「おはよう」
「え」
連れ立って教室に入って来た晶と聡史に、先に奈々子と来ていた勇太は素直に驚きの声を上げる。場に居た生徒達も、晶と聡史に注目している。
「俺と晶、本気で付き合う事になったから」
聡史のその宣言は勇太と奈々子に向けたものだったが、周囲でわっと拍手が起こった。晶は予想外の騒ぎに、戸惑いを隠せなかった。
「おめでとう!」
「うわー、本当、良かったねえ」
「ほら、俺の言った通りじゃんか」
「ええ、でも、付き合うって今日からでしょ?」
「え、前からじゃないの? ええ?」
周囲からは祝福の声と混乱する声が混ざっている。
「そうかー、それは良かった。これで俺も肩の荷が下りたよ」
「あら、勇太の肩に何の荷が乗っていたのかしら」
「奈々子には見えないのか? 変だな。俺の肩には友情という重荷が乗ってたんだよ」
「私の目には見えないけれど? そうね、勇太はただ、肩が凝っていただけじゃないの」
「む。そう言う奈々子はどうなんだ。肩をならしているが、俺にはそれが何の意味を持つか分からないが」
「そうね、私の肩にはそれこそ、友情に加えてそれ以上の愛情が乗っていたわ」
「俺には奈々子の肩にそんなものが乗っていたとは、とうてい思えないけどな」
「まだ、私の肩には愛情が残っているかもしれないわね」
「……」
周りがざわついている中でも、勇太と奈々子は相変わらずだ。奈々子に一蹴された勇太は落ち込んでいるが、彼等の遣り取りを聞いていた晶は、心が和んだ。気落ちしている勇太には悪いけれど。
「それで、勇太に相談があるんだけど」
「おう、俺で良ければ何でも乗りたまえ」
聡史の話に、あっさりと気を取り戻した勇太が胸を張って応える。
「俺、晶と一緒に新聞に名前を載せる気でいるんだけど」
「うんうん」
聡史に勇太は腕を組んで頷いている。
「――、新聞部の部長さんの名前とクラスを教えてくれ」
何でも乗りたまえ、と言っておきながら聡史のその言葉に、勇太の動きが止まった。
「……どうして、俺がそれを知っていると? 張り出された学校新聞を見れば、記者の名前とクラスくらい分かるじゃないか」
「いちいち職員室まで戻るのも面倒臭くてね。それに、新聞を発行した奴の名前を覚えている奴がこの中に居るかどうか、知りたいね俺は」
顔を引き攣らせる勇太に、聡史は負けずに反撃する。
「……勇太、もう潮時では無いかしらね」
「奈々子ちゃん」
晶が奈々子を見る。
「晶。聡史君の言う事は、本当なの?」
「うん。本当」
奈々子に見据えられては、晶もそれに応じるしか無かった。
奈々子は晶に言われなくても、影で聡史が晶の手を取っているのに最初から、気付いている。それでも奈々子は晶の口から真実を聞くまで、黙っていようと思っていた。
「そう。晶が納得しているなら、私の方でも真実が話せるわ」
「奈々子」
「契約は成立してるじゃない。だから、大丈夫よ」
心配そうに奈々子を見る勇太に、奈々子は柔らかな物言いで応じる。
「契約? やっぱりお前らが噛んでいたのか」
「私達だけでは無いわ。今回の話は……」
ここで、授業開始の鐘が鳴った。あわただしくなる教室。
「続きは昼休憩に。……勇太、その間に部長さんに連絡しておいてね」
「了解ー」
晶に怪しく微笑む奈々子に、勇太が陽気に声を上げた。
晶と聡史は眉を寄せながらも、昼休憩に入るのを待った。