十分間の休憩時間では、長い間、真実を話す事が出来ない。
今回の件に関っている人間達を寄せ集めるには、昼休憩が最適だという奈々子の案に、聡史も晶も反対する事は無かった。
授業の合間の休憩では、いつも通り晶は奈々子と一緒に居たし、聡史も勇太と一緒に談笑している姿が見られた。晶の方は奈々子以外にも、ほかの女子生徒から聡史との経緯をあれこれ聞かれて大変な思いをしていた。
「ああ、もう。これで、新聞に名前が載った日にはどうなるか分からないわ」
昼休憩になる頃にはもう、晶は半ば疲れていた。
晶は奈々子と勇太を案内に、聡史と一緒に何故か美術室に向かっている。
奈々子が指定した場所が美術室だったからだ。美術室と聞いて、晶はいい思い出が無い。半ば不安になりながらも、聡史と手を繋いで美術室へ歩いている。
「俺の方は何も無かったけどなあ」
「男はそういうのにはあんまり、興味が無いからな」
晶に不思議そうに言うのは聡史で、聡史に同調するのは勇太である。
「でも、長峰さんの名前を職員室までわざわざ見に行ったのは、誰だったかしらね?」
「え、いや、それはだな、俺もあの女の輪が気になって! 決して、長峰さんにうつつを抜かしていた訳じゃない!」
「聡史君から全部聞いているから、言い訳は無用です」
「うっ」
「……あの時、聡史君の方に乗り換えた方が良かったかしら」
「笑えない冗談はよしてくれ、ハニー! 俺にはお前しか居ないっ!」
「公道で抱きつかないで頂戴、うっとうしいわ」
「ううっ」
「後で覚悟しておきなさいよ」
「……はい」
「二人とも、相変わらずだねえ」
美術室の戸が開いた。
何時の間にか晶達は美術室の前まで辿り着いていたらしい。
奈々子と勇太の遣り取りを中で聞いていたと思われる晶の見知らぬ男子生徒が、美術室の戸を開けた本人だった。
「松木部長」
勇太がその男を認めて、声を上げる。
男は眼鏡をかけていた。朝、起きてから何の手入れもしていなさそうなボサボサの頭と、百八十センチは超えているだろう、バスケット選手並の背丈に、晶と聡史は目を見張る。
「紹介するよ、松木拓海さん」
「新聞部の部長さんよ」
勇太と奈々子が男の正体を晶と聡史に明かした。
「二年生で、俺達より一つ上だ」
勇太が笑いながら呆けている晶と聡史に補足する。
「へえ、あれで俺達より一つしか変わらないのか」
「松木部長は何処居ても目立つからねえ、お陰で今回の件にはあまり話を突っ込んでいないからね」
拓海に感心を寄せる聡史。その拓海の背から、晶の聞き慣れた声がかかった。
「え、波多野さん?」
「え」
最初に気付いたのは晶ではなく、聡史の方だった。
「どうもー」
香織も晶と聡史を見て、気さくに手を振る。
晶は香織の様子が普段とは違う事に、驚いている。今の香織は眼鏡に三つ編みと、目立たない感じに見受けられる。地味だ。外見が地味だが、声はきちんと香織のものだった。
確か、晶が見た香織は髪を下ろしていて眼鏡はかけていなかった筈だ。
それが。
「雰囲気、変わりました?」
「ああ。これは聡史君と会っている時の私。目立たないバージョンね。白木さんと会っている時はちゃんと下ろして、眼鏡もコンタクトに変えてるけどね」
晶に香織がけらけらと笑う。
いや、笑い事じゃないんですけどと、聡史が香織に突っ込みを入れる。
「女は怖いから、気をつけるんだね」
また別の声が、拓海の後ろから聞こえた。
その聞き覚えのある声に、晶は冷や汗を流す。
晶は美術室に入るのに気が引けた。美術室の中に入れば、自分の想像以上の出来事が待っていそうで、怖かったからだ。
「晶」
大丈夫だと言う代わりに、聡史が晶の手を強く握り締める。晶もそれだけで、安定した気がするから不思議だと、自分で自分に疑問を抱いた。
「さあ、入って。普段は僕の教室で活動しているけどね、今回は特別に美術室を借り切ってるんだ」
拓海に促されて晶と聡史は決心して、美術室へと足を踏み入れる。
「こんにちは」
先刻の声の主が、やはりいつもと変わらぬ笑顔で晶を出迎えた。
「……吉岡君」
「覚えてるか、俺も居るよー」
唖然とする晶。その康一の前でへらへらと笑うのは、早坂であった。
「……参った、お前達まで絡んでいたとは、思わなかったよ」
康一を認めて晶の手を握ったまま、聡史は床に膝を落とした。