「ええ、ミュリンのお父さんが犯罪者で、現在、カレンの白夜城の牢獄に入ってるの?!」
「そう。彼女の父親、詐欺師で、おまけにけっこうな借金抱えてるの。先日、彼に騙された光霊達から、せめて、お金を返して欲しいって訴えがあって、それで白夜城の法廷に突き出されて、そこの裁判官のラインとティナの審判によって地下牢獄行きが決定したわけ。それによる判決はまだ出されていなくて、保留中だけれど」
「そんな、信じられない……」
「嘘でしょ……」
空の末裔はミュリンとアナトリアについて何か事情を知っている様子のカレンからそれを問い質すが、その内容がとんでもない話でバイスともども、驚きの声をあげた。
「で、その詐欺師の娘のミュリンね、彼の被害者達から攻撃の的にされそうだったの。白夜城の法廷の裁判官達はそれを考慮して、ミュリンを父親が捕まってる白夜城で保護するつもりだったんだけど。あ、言っておくけどミュリンに関しては牢獄じゃなくて、ちゃんとした施設に入ってもらうつもりだったんだけどね」
「あれ、でも、さっき、カレンは、ミュリンを僕のソラヴァンで保護してもらうつもりだったって言ってなかったっけ」
「それは建前。あの子、私を見て、父親と同じように自分も白夜城に捕まるんじゃないかって震えてたのが分かった。それでここで私が強く白夜城に戻りなさいと言っても聞かなかったと思うし、あのカナンの情報官も彼女を守るためなら私と戦うのもやむなしって感じだったから、穏便にすませるために必要な嘘吐いただけ」
「なるほど。それで、アナトリアとカレンが敵対してたのか。カレンがミュリンのそれを心配して僕の所に来たけど、それより前にカナンの情報官のアナトリアが彼女を保護してたわけ?」
「その通り。私もまさか、ここで彼女と遭遇するとは思わなかったけれど。でもまあ、白夜城と空の末裔のソラヴァン以外――、カナンの情報官の所なら彼女もそう酷い目にあわないと思うから、そこは安心してるわ」
「そうだね。アナトリアなら詐欺師の娘であっても、ほかの光霊より紳士的だから、そのへんの心配なさそうだ」
カレンと空の末裔は、アナトリアであれば犯罪者の娘であってもそう酷い扱いはしないと、彼の紳士的な態度を信頼している。
それから空の末裔は、肝心な話をカレンに聞いた。
「それはいいけどでも何で、その詐欺師の娘のミュリンと、カナンの情報官のアナトリアが一緒になってるの?」
「さあ。私では深い事情までは知らないけど、多分、父親がカナンで捕まった時に彼の尋問をアナトリアが引き受けたんでしょう。カナンの情報官はそこで、父親が居なければ一人きりになって、更には被害者達から攻撃の的にされそうな彼女を引き取った、こんな感じかしら?」
「カナンでミュリンのお父さんが捕まった時? あれ、でも、ミュリンのお父さんは現在はカレンの白夜城の牢獄に入ってるんだよね? アナトリアのそれ、いつの話?」
「彼女の父親、各地で女性を騙してその女性の所で住み着いてたらしいわ。月の始めにまとまったお金が手に入るから、それまでの間、一緒に居たいとかなんとか甘い言葉で女性を誘惑してね」
「うわ。月の始めにまとまったお金が入ってくるってそれ、完全に詐欺師の常套句じゃないか。それで各地の女性の所に転がり込んでたって、各地でそれぞれの女性達から告発されてたの?」
「そう。彼、各地で女性を騙してたうえにお金もせびっていて、それで、各地で裁判沙汰になってたのよ。白夜城の前にカナンで尋問受けてて、その前は影の街の傭兵団のルーク達に捕まって、その前はサメヤマのR・W、ヘールが居る自警団に捕まったって聞いてるわ」
「マジか。でも、影の街の傭兵団のルークも、R・Wの自警団のヘールも、並の光霊が相手にできるほど一筋縄じゃいかないくらい強いし、彼らに捕まれば半年くらいそこから出て来られないって聞いてるけど。ミュリンのお父さん、そこからすぐ出られたの? もしかして、実はミュリンのお父さんが女性相手の詐欺師ってのは女性達がそう言ってるだけで、冤罪だったとか?」
空の末裔は、影の街の傭兵団の団長であるルーク、そして、R・Wの自警団の一員のヘールの実力はよく知っている。
もし彼らに捕まれば、早いうちに簡単に出て来られないだろうとは思った。
それがどうしてミュリンの父親は彼らの包囲網から逃れ、白夜城まで行きつくまでになったのか。
「それね。聞く話によれば彼、数多くの女性を騙しているだけあって、口が上手いんですって」
「女性を騙すほど口が上手いのと、すぐに出られるのと、どういう関係が?」
「R・Wでは最初は自警団のヘールや彼を囲んでる子供達に各国の珍しいお菓子を与えて仲良くなって、ヘールだけじゃなくてほかの大人達――ロイとアズール達とお酒の力を使ってすぐに飲み仲間になって、最終的にはリーダーのサメヤマともお酒の力で仲良くなって、翌日にはすぐに出られたらしいわ」
「ええ、それ本当?」
「次の影の街では、団長のルークの知らない間に先に彼の配下の兵士達と仲良くなって、最後の最後で団長のルーク相手に自分にはまだ幼い子供が残ってる、残してきた幼い子供が心配だとかなんとかで、その配下の兵士の仲間も彼と一緒になってルークにそう泣きながら訴えて、あっさり出られたようね」
「自分が捕まれば幼い子供が残るのが心配ってのは分かるけど、ミュリンは僕とそう年齢変わらないよね?」
「ルークは女子供に弱いっていうの、その配下の兵士から聞き出してたみたい。ミュリンの父親はミュリンの年齢を誤魔化して、ルークにはその手を使って同情を買い、翌日にはあっさり牢屋から出られたんですって」
「うわ。ルークのそれ、影の街の統領のイスタバンさん、知ってるの?」
「影の街の統領のイスタバンは、あのルークを騙すほどの光霊かって感心して、最後は豪快に笑ってたとかなんとか……」
「……」
笑えない、それ、笑えないでしょ! 空の末裔は、カレンからイスタバンすら感心させるミュリンの父親のやり方を知って、顔を引きつらせる。
一息ついてバイスは指折り数え、カレンの今までの話をまとめるように言った。
「R・Wではお酒の力を使ってロイさんやサメヤマ達と仲良くなって、影の街ではルークさんより下の兵士達を利用……。カナンでは真面目で規律に厳しい情報官で通ってるアナトリアさんもそれに引っかかったってわけ?」
「そうなるわね。あのカナンの情報官、影の街のルークと同じ手で一人残される子供が心配とかいう話を出されてそれに同情したんでしょ。私もまさか、情報官が実際にミュリンを引き取るとは思わず、更に彼女と空の末裔を引き合わせるとは思わなかったけれど」
「あれ、でも、それだとまだおかしい部分があるよね?」
と、ここで、バイスではなく、空の末裔がそれの矛盾に気が付いた。
「アナトリアがルークと同じように子供を使って同情したっていうなら、その時のアナトリアはルークと同じくミュリンは幼い女の子だって思い込んでたんだよね。でも実際のミュリンは、僕やバイスとそう年齢が変わらない大人の女性で、おまけにアナトリアと恋人として付き合ってるって言ってた。これ、どういうわけ?」
「さあ。情報官とミュリンのそのへんの深い事情は、私もよく知らない。私はカナンの情報官とミュリンが一緒のアパートに暮らしてるとも思わなくて、今日になって初めてその情報を知ったくらいだから」
「そうだったのか……」
空の末裔は、カレンの話を信じるよう、うなずく。
カレンは言う。
「ここからは私の予想だけどカナンの情報官、真面目な性格が仇になってあの父親だけではなくて、娘のミュリンにも騙されてるんじゃないかしら? ミュリンもあの見た目で口が上手くて男を相手にするのはわけなく、それで情報官の所に転がり込めたとか」
「ええ、それじゃ、アナトリアとミュリンが恋人関係っていうのも、ミュリン側からすれば嘘だったの?」
「その可能性はあるわね。それも情報官がミュリンに対してではなく、ミュリンが情報官に対して何らかの嘘を吐いてる確率が高いと思う」
「そんな……。僕は、孤独のアナトリアにようやく家族が出来たと思って喜んだのに」
「ナビゲーター……」
はぁ。カレンの「アナトリアかミュリン、どちらかが嘘を吐いている」という説をくつがえせなかった空の末裔は、参ったよう天井をあおぐ。
一方のバイスは、空の末裔の最後の言葉がアナトリアに対する本当の想いでそれも彼の優しさの一つと伝わり、彼の肩を抱いて宥める。
アナトリアは十七年前――空の末裔の一族だけではなく、アストラの大陸全土で暗鬼によって光霊達が襲撃されたさい、同じくその戦場でカナンの兵士として出兵していた両親をいっぺんに亡くし、それ以来、孤独な一人きりの生活を送っていた。
両親の影響で自身もカナン城の兵士となるも、何もかも失った自分の人生はもうどうでもいいと自暴自棄になってた時期もあったという。しかし最近では空の末裔のおかげで落ち着いている様子だった。
空の末裔は、バイスとカレンはもちろん、ソラヴァンに来てくれる光霊達の過去の記録を覗き見出来たり、その心情を読む事ができる能力を持っている。その情報は巨象ではあるが生物のように意志を持つと言われるソラヴァンと共有してあった。
それは、カナン城の軍で両親を知らないまま英才教育を受けてきたバイスや、白夜城のお姫様として厳しい教育を受けてきたカレンも例外ではなく――。
空の末裔のその事情を知るカレンは溜息を一つ吐いて、彼を励ますように言った。
「カナンの情報官、ミュリンと空の末裔を引き合わせたのは多分、私達と同じく、被害者達からミュリンを守るには空の末裔の所が打ってつけって思ったから、あなたの所にミュリンを連れて来たんじゃないの」
「……そうなの?」
「きっと、そう。カナンの情報官はそこまで、空の末裔を信頼してるのよ。空の末裔もカナンの情報官のそれに素直に応じた方が良いんじゃない?」
「カレン、ありがとう。僕の方で、ミュリンの事も目をかけておくよ。それがアナトリアのためにもなるならね!」
ぱあっと。落ち込んでいた空の末裔は、カレンのおかげでいつもの空の末裔に戻った。それを見たバイスはカレンと顔を見合わせ、「単純」「ね」、と、目配せし、くすくす笑いあう。
と。
空の末裔はある一点を不思議に思い、それをカレンに向けて話した。
「そういえばさ、ミュリンのお父さんが最後に捕まったのがカレンの白夜城でまだ判決はまだ出ていないって言ってたけど、白夜城の法廷の裁判官のティナやラインは大丈夫かな? R・Wのサメヤマや、影の街のルークみたいにミュリンのお父さんの同情を買う話で反対に騙されたりとかは……」
「ハッ」
空の末裔はミュリンの父親が白夜城でも逃げられるのではないかとそれを心配するも、カレンは髪を払った後に鼻で笑ってあしらう。
「あら、あら。白夜城も甘く見られたものね。白夜城ほど、一度入って出られた犯罪者は存在しないわよ」
カレンは足を組みなおし、挑戦的に空の末裔を見詰める。
「ミュリンの父親がルークや情報官と同じ手を使ってティナやラインといった新入りの裁判官達を騙せても、その頂点に君臨する裁判長のイルンティは騙せない。イルンティを突破出来たとしても、白夜城の最強兵器と言われる四大天使の面々から逃げられるわけないし、そこを突破できても最終的に私のお父様が待ってるから、一介の光霊が白夜城から逃げ出すなんて無理に決まってるわ」
「はは、確かにカレンの言うように白夜城に捕まれば最後、ミュリンのお父さんが裁判長のイルンティさんを突破できたとしても、白夜城の最強兵器の四大天使はもちろん、カレンのお父さんであり城の主であるソラルドさんからは逃げられないな」
うん。空の末裔はカレンの話ほど説得力のあるものはない、と、思った。
カレンは言う。
「白夜城の法廷裁判で判決が出れば彼の詐欺師としての刑期は、約半年。真面目に反省した態度を示せば、それより短い期間で出られると思うわ」
「そう、それは、ミュリンにとって良かったのかな?」
「さあね。でも、あの父親に関してはまだ何かありそうだから、白夜城の法廷の基準に基づいた判決を出していいものかどうか、ティナとラインも悩んでる最中でね。それだから、空の末裔、あなたの力が必要になってくるの」
ひといきついて、そして。
「私はさっき、カナンの情報官にミュリンを保護して欲しいためにソラヴァンに来たと話したけどそれは、彼を相手に穏便にすませるために過ぎない。ここでカナンの情報官と揉めれば、何もかも台無しになってしまうせいでね」
「……カレン、君は何を言ってる?」
「今の私には、空の末裔、あなたの力が必要であると感じている」
「え、僕の力が必要って――」
ビシッと。カレンは人差し指を一本立て、それを空の末裔の顔に向けて、まくしたてるように言った。
「空の末裔、私は、私個人ではなく、白夜城の法廷からあなたに依頼があって私が此処まで遣わされてきたの。空の末裔の手でミュリンの父親、それから、その娘のミュリンの身辺を探ってちょうだい。それに関する報酬は弾むわ。そうそう、カナンの情報官がそれの協力を拒めば、白夜城の法のもと、彼を正当に処する事ができるとも伝えてくれる?」